京三郎の面〜翁落涙

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月12日〜01月18日

リプレイ公開日:2005年01月20日

●オープニング

 からから‥‥からりと乾いた音が、手の中で転がり続ける。澄んだ瞳が、じっとそれを見つめていた。白い指に包まれているのは、鳥の姿をした、小さな土の塊。
 ちら、と視線を上げると彼は口を開いた。
「‥‥これはジャパン製の、土で出来た鈴だそうです」
 いつも口を開くと、どんな意地の悪い事を企んでいるか分かったもんじゃないアッシュが、今日は神妙な面もちだった。いつものようにギルドの青年が、アッシュにシャンティイの外れくんだりまで呼び出されてやって来ると、アッシュは鈴を差し出してみせた。
 たしかに手にとってみると、いい音色が聞こえる。
 いったいこれがどうしたというのですか。
 彼が聞くと、アッシュはふ、と微笑した。
「これは、レイモンドの収集物の一つですよ」
 ははあ、シャンティイの領主レイモンド卿の‥‥。
「数年前‥‥この辺りに、ジャパンから来たという舞師が居たそうです。京三郎といい、ジャパンでは仲間とともに各地を回っていたそうです」
 それが、何故ノルマンまでやって来る事になったのかは分からない。いつしか彼は一人で、ノルマンを点々としていた。ジャパンの不思議な踊りは、ノルマンの人々の興味を引き、あちこちの領主や富豪に呼ばれて舞う事も、しばしばあったという。
 ところが運命とは皮肉なもの。
 彼は旅の途中、盗賊に襲われて‥‥それっきり。
 なるほど、その鈴は京三郎という男の持ち物なんですね。青年が聞くと、アッシュは頷いた。
 と、すうと冷たい視線で青年を見やった。
「‥‥話はまだ終わっていませんよ」
 な、ナンですか‥‥怖い目で見て。
「京三郎の持っていたものは、珍しいジャパンの舞楽のアイテムです。‥‥それが盗賊の手によって持ち去られるのは、想像に難くないでしょう。貴重な面、衣装、楽器‥‥。発見された時、京三郎は薄着一つだったそうです」
 何とまあ、不憫な‥‥。
「遠い異国の地で、無惨な死を遂げた京三郎‥‥この鈴には、そんな彼の思いがこもっているのですよ」
 とアッシュは薄く笑った。
 お、脅かさないでくださいよアッシュさん。青年が声を上げる。
「脅かしてなど居ません。‥‥実はとある噂が流れていましてね。‥‥もうずいぶん前からなんですけど‥‥呪われた面がある、という話を‥‥聞いた事がありませんか?」
 ジャパンから伝わるという不思議な面。それは人から人に渡り続け、今ではクレルモンに住む富豪が所有しているという。しかしその富豪は数年前、妻と子を病で亡くし、今では屋敷に数人の使用人とともに細々と暮らしているという。その富豪も、病に伏している有様‥‥。
「不幸というものは続くものでね、ここ数日、盗賊が屋敷の宝石を狙って侵入して来るというのです」
 3日前から、一つ二つと盗まれていく。一度に持っていく数が少ない為、人数はそう多くは無いと思われる。
「前にもそういう事がね、あったんですよ。だから分かるんです。‥‥彼らは、その面を探しているんですよ。なにせ高価で売れますから」
 くす、とアッシュが笑う。
「何が‥‥あったって? そうです、その面ですよ。京三郎の呪いが、彼のかつての所有物に掛かっているというのです。その面も、そのうちの一つと思われます。‥‥ここに50Gあります。これでその富豪を説得して、面を買収して来てください。ついでに盗賊を退治すると、その富豪も気を良くしてくれるでしょうね」
 呪い‥‥?
 そんなものが、本当にあるというのだろうか。

●今回の参加者

 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1944 ふぉれすとろーど ななん(29歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea6707 聯 柳雅(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

 パリから馬車でしばらく揺られると、森の中にその都市は開けていた。この辺一帯ではシャンティイは比較的活気づいた都市だが、アッシュから教えられたその富豪の屋敷はそれから更に北に向かった小都市クレルモンにあった。
 大きな屋敷の割に、門から覗くと庭は荒れている。手入れをする者が、あまり来ないのかもしれない。
「屋敷で働いている方は、もう二名しかいらっしゃらないんだそうです。皆さん、呪いの噂が立ってから辞めていってしまったと聞きました」
 皇荊姫(ea1685)が、屋敷をちらと見上げながら話した。彼女が聞いた所によると、一人は屋敷で家事を担当している六〇代の女性。もう一人は、彼女の夫で主人の財産管理や雑務をしている。二人とも、若い頃から仕えてきて、屋敷に寝泊まりしているらしい。
「呪い‥‥」
 と、おずおずとした様子で口を開いたアイリス・ビントゥ(ea7378)に続き、間髪入れずふぉれすとろーど ななん(ea1944)が声をあげた。
「本当に呪いのせいなのかなぁ、あのアッシュさんの事だから、何か他にもあるんじゃないの?」
「そうですね。‥‥次々に不幸が訪れるなんて、作為的です」
「皇さん‥‥さ、作為的なものなんですか、これって」
 アイリスが、驚いて皇に聞き返した。本当に作為的なものなのかどうか、今の段階では皇もななんも分からない。まあ、しかしななんや、リア・アースグリム(ea3062)といった依頼者を以前から知っている者からすれば‥‥。
「アッシュは、本当に関わっていないのでしょうか。もし関わっているなら、許しません」
 と強い口調でリアは言った。二人が今一番疑っているのは‥‥そう、アッシュである。
「そのアッシュ殿とは、そんなに怪しいのか」
 聯柳雅(ea6707)が聞くと、ユリア・ミフィーラル(ea6337)がこくこくと頷いた。
「この間なんて、猿とか巨大キノコとか食べさせられたんだよ」
「以前このシャンティイで行われた模擬戦で、吟遊詩人のマレーアとこの話を立ち上げたのはアッシュです」
「何考えてんのか、ちょっと分からない所があるよね」
 ユリア、リア、ななんが口をそろえて言った。総計すると、アッシュが何か手引きをしているか、それとも何か秘密があるのではないか‥‥。そう女性陣は思っているわけで。

 この広い屋敷で、彼は孤独な生活にやつれている様子が見えた。住んでいるのは、二人の老夫婦とこの五十過ぎの病にふせった男のみ。たまに庭師や屋敷の掃除に一人二人やって来るが、常時この屋敷には居ない。
 難しそうな顔つきの男を見て、他の者は早々に交渉を皇とユリアに任せて、居なくなってしまった。この屋敷の中では、知らない者が横行していても、とがめる者は居ない。
「‥‥また面を売ってくれ、と言う輩か」
 かすれた声を出し、男がじろりと皇を見た。若い女性が二人だ。一人は、どうやらジャパンの僧侶のようだ。
「私は皇と言います。その面を買い取らせて頂けないかと思いまして、お伺いしました」
「これは売らん。‥‥何と言われようと、売る気は無い。帰ってくれ!」
 取り付く島もない男の言いように、皇も一瞬困ったような表情をした。すると、ユリアが代わって話しを続けた。
「呪いがある‥‥って聞いたんだけど、あたしはそう思わないんだ。でもさ、何度も盗賊に入られたり‥‥こういうおかしな事が何度もあったんでしょう? この面を持っているから、狙われたんじゃないの?」
「むろん、奴らは面を狙っている。だからといって、面を売る気はないぞ! これはわしが手に入れたものだ!」
 皇は静かに息をつくと、ゆっくりとした口調で続けた。
「差し出がましい話ですが、奥様とお子様がお亡くなりになったのは、どのような経緯なのかお話いただけませんか? それももし人為的なものであったら‥‥その面のせいで大切な家族を亡くしてしまった事になるのですよ」
「‥‥病死と事故死だ。関係無い」
 低い声で、男が答えた。

 貴重な面の下は、ぽかぽかと窓から日差しが当たっていた。暖かくて、気持ちいい。すうすうと寝息をたてていたリーニャ・アトルシャン(ea4159)は、ぴくりと深紅の髪を揺らして顔を上げた。
「‥‥ん?」
 リアは、じっと彼女を見下ろしている。するとリーニャはぴょんと立ち上がると、リアと面を交互に見た。
「‥‥ここ、あったかい」
 部屋は、主の部屋から続いている。主の部屋から入れるが、他の部屋から入れないように出来ていた。狭い部屋に、貴重な鎧や武器、絵画などが飾られている。
「こんな所で寝ていては、風邪をひきますよ」
 リアがふ、と微笑して言った。リーニャはこくりと頷く。そして、再び面を見た。
「リアも、面を見に来たのか」
「はい。‥‥どのようなものなのかと興味をそそられまして」
 とリアは、壁に飾られた面を見た。くしゃくしゃした顔で、お世辞にも美しいとは言い難い。
「変な顔‥‥」
「リーニャさん」
「リアも思っている」
 貴重なはずの面なんだが‥‥ジャパンの人は、この面が美しいと思っているのだろうか。リーニャでなくとも、少し疑問に思ったリアだった。

 話し続ける皇の声を遮ったのは、ドアのきしむ音だった。ドアからするりと入ってきたのは、銀色の髪の女性だ。つづけて、白髪のエルフの少女が入る。
「柳雅さん‥‥」
「どうだ、売ってもらえる事になったか?」
 ふるふると皇は首を横に振る。柳雅は、足をベッドに起きあがっている主の前へと向けた。ベッドの前に立ち、自分と後ろのアヴィルカの名前を告げる。
「失礼とは思ったが、一通り屋敷の中を回らせて頂いた。ここには、常時二人の使用人が居られるそうだな」
「ああ、わしが幼少の頃から仕えている者だ。‥‥呪いだなんだ、と噂が立ったり強盗に押し入られたりした時も、恐れずに屋敷に残ってくれた」
「彼らは、あなたの身を案じておられた。‥‥出来れば、面は売った方がいいとも仰った。それは、あなたが早く病気を治されて元気な姿を取り戻される事を願っておられるからではないか? ‥‥幼い頃から見てきた主なら、なおさら大切だ」
 主は、黙って視線を落とした。
「聞けば、あなたの長男は、森を散策中に馬から落馬したとか。いつもは暴れない馬が突然暴れ出した‥‥とその方は言っていた。奥方が亡くなったのは、子が無くなった事による精神的なショックで病に伏したせいだとも聞いた。そもそも、落馬したのはあなたの面を狙った者による行動だとすればどうだ。呪いがかかったと思えば、手放すかもしれぬ」
「盗賊が襲うのも、面を狙っている為‥‥とすれば、すべてその貴重な翁面が原因だと考えられます」
「そうだ、皇の言う通り‥‥全て作為的なものではないのか? 親代わりのあの方達を、あまり心配させるものではない。その面、レイモンド卿に譲ってもらえぬか」
 レイモンド卿‥‥。主は顔をあげた。
「面を欲しているのは、卿であったか」
「あたし達は、レイモンドさんから直接頼まれた訳じゃないんだけど、アッシュっていう人が“レイモンドがほしがっているものでね”とか言うもんだから」
「なるほど‥‥卿ほどの人物が所持するなら‥‥この面、手放しても構わぬ。‥‥どの道わしには、もう何も残されてはおらん」
「そんな事は‥‥無い」
 アヴィルカが、主へと口を開いた。
「面を離した‥‥それは、あなたの選択。‥‥生きるという選択。いつか‥‥また幸せを得たいと願っている‥‥絆を求めている証」
「そうかもしれんな」
 珍しく多弁なアヴィルカの言葉に、柳雅は静かに視線を送っていた。

 いつもは活動的な格好をしているが、たまにはこんな格好をするのもいいかもしれない。使用人の老人から、使われていないメイド服を借りたななんは、スカートの端をひらひらと揺らしながら、廊下を駆けていた。
 アヴィルカや柳雅、皇とユリアの四人は、まだあの主と話をしている。柳雅によれば、話はまとまったらしい。盗賊を退治すれば、50Gで面は譲ってくれると言う話だ。
「今夜は一晩お世話になるのですから、ご主人のお食事などは私達で用意しましょう」
 と皇が言うから、ななんはメイド服でさっそく食事にとりかかる事にした。
 ななんの視線が止まる。ななんより先に、しかも自前の服ですっかりメイド化している人がいる。彼女は実に自然に、せっせと屋敷内の掃除や片づけをしていた。
 くるりと、振り返ったのはアイリスだった。話すのがあくまで得意ではないアイリスは、しどろもどろになりながら答えた。
「あの‥‥私、汚れている所とか片づいていないものを見ると手が伸びてしまって‥‥すみません」
 つい、という割に素早い。この広い屋敷を、あっという間に片づけていた。その技術たるや、まさに達人級。
「ううん、いいの。あ‥‥ねえ、アイリスさん。もしかして、アイリスさんって料理も得意だったりする?」
「得意‥‥という程ではありませんが、それなりに」
「そうなんだ! じゃ、手伝ってもらえる? あの人に料理を作らないか、って皇さんが言うんだけど‥‥やっぱり私だけじゃ不安で」
「インドゥーラ料理以外はあまり得意とは言えませんけど‥‥それでもよろしければ」
 得意とは言い切れないアイリスの料理は、主が絶賛し、誰もが旨いと口を揃えた。アイリス、スゴイ。さすが。
 ‥‥ななんも手伝ったんですけど‥‥。
 ななんも料理はうまいのだが、アイリスの料理の腕にすっかりかすんでしまったのだった。おとなしい口調で‥‥アイリス、おそるべし。

 白い月が、窓の外をゆっくりと移動していく。あかりが窓から差し込み、青白く室内を照らした。廊下の窓から月影は伸び、廊下を這っている。
 突如、敵だよ、という声が廊下に響き渡った。ついうとうとしていた皇は、はっと起きてドアを開けた。どうやら、一緒に居たななんも、眠ってしまっていたようだ。ななんは皇の前に立つと、廊下を見渡した。
 廊下の端を、誰かが駆けている。影は二つ‥‥。
 最初に発見したのは、ユリアだった。あらかじめ進入経路である裏口の側で見張っていたのだが、いつの間にか眠りに誘われていた。しかし人が忍び込む物音に目を覚まし、盗賊が入っていったのを確認して声を上げた。
「敵だよ!」
 ユリアが声をあげると、驚いて影は屋敷の奥へと駆けだした。侵入者は二人。一人は、くるりと身を返してユリアを見据えた。さすがにユリアも、ナイフを持った相手と対峙しては勝てない。
「えっ? え?」
 慌てて詠唱にかかった所、視界に小さな影がとまった。影は、こちらに駆け寄る人影の後ろに忍び寄ると、すうと首筋にナイフを押し当てた。ぴたり、とその男が動きを止める。
「‥‥動くな」
「リーニャさん、ありがとう!」
 ユリアはほっとして肩の力を抜き、それから二階の方に視線をやった。まだあと一人、居るはずだ。
 その逃げた一人は、階段を駆け上がった所でアイリスとばったり出くわした。目を覚ましていた柳雅が同じく起きていたアイリスに、声が聞こえた方向を即座に伝えたのである。柳雅は、主のベッドの側に待機していた。
「‥‥すぐに済むだろう」
 柳雅は、目を覚ました主に短くそう伝えた。
「お、おとなしくしてください‥‥」
「退け!」
「あっ‥‥え、えいっ!」
 何だか冴えないかけ声で、剣を抜いたアイリスは男に斬りかかる。ナイフ一本しか持っていない男は、アイリスの剣を払って接近しようとするが、廊下は広くは無い。ナイフで剣を受けると、剣は勢い余って男の腕を斬りつけた。
 剣を横に払い、男が後ろに飛び退く。その時、壁から何かが飛び出してきたかのように、男が衝撃をうけて反対側に体勢を崩した。その隙を見逃さず、アイリスが剣を振りかぶる。
 ぴたりと剣をのど元に当てたアイリスに、そうっと開けたドアの向こうからななんが覗き、にこりと笑顔を向けた。

 無事面を買い取った事を報告すると、アッシュは面を嬉しそうに受け取った。
「ご苦労様でした。喜びますよ、レイモンドも」
「‥‥変な顔。何で欲しい‥‥」
 ずっと疑問に思っていたらしい。リーニャが、アッシュに聞いた。リーニャは、あんまり気になったので、盗賊にも聞いた。
「盗賊‥‥高く売れるって言った‥‥」
 翁面は老人の顔なのだと皇が言うと、リーニャはようやく納得した。
「だから‥‥変な顔?」
「リーニャさん、変な顔の話はもういいです。それよりアッシュ、あなたは今回の件‥‥どこまで知っていたのですか」
 きつい表情で、リアが聞いた。
「色々皆で調べましたが、今回の件は盗賊達が狙っていた為に起こった不幸だと判明しました。‥‥盗品でも闇市では高値で取引されているそうですね。盗賊達は、それを知って面を狙っていたそうです。ジャパンの能面は貴重で、しかも呪われているというふれこみですから」
「私が闇市で高値を出しているとでも?」
 こくりと頷く一同。
「そうですね、私が貴重なものを高値で買うのは否定しませんよ。まあ、レイモンドに頼まれて、そういう手を使う事もあるでしょう。しかしですね‥‥レイモンドのものを買うというのに、闇市で買ったりするようなヘマはしませんよ。正当な方法で手に入れなければ、意味が無いじゃないですか」
「アッシュ、はっきり答えてください」
 リアが、アッシュに声を荒げた。
「その面の事は、本当に知りません‥‥やれやれ、私は信用が無いですねえ。でも私は、悪質な方法で欲しいものを手に入れるより、正当だけど嫌な手を使って手に入れる方が好みですから、あしからず」
 何か納得がいかないが、アッシュが今回の件に関わっていないのは本当のようだ。では、何故レイモンドやアッシュは、呪われているという物を持っていて平気なのか。
 アヴィルカの問いに、アッシュがふふ、と笑いながら答えた。
「そうでしょうか? 私の家から物が勝手に持ち出されたり、誰かが押し込み強盗を働いた事は一度もありませんけど‥‥騎士団が常時詰めているレイモンドの城から盗んでいく者は、なおさら居ませんよ」
「では‥‥呪いは存在しないと‥‥」
「悪い事が現在進行しているからこそ、呪われたアイテムだと言われるのです。悪い事が起こらなくなったら、そんな噂は消えてしまいます。人の口にも上らないし、高値で買うものも居なくなるでしょう。そんなものを、命をかけて狙うものがどこに居ましょう」
 彼から報酬を受け取ると、彼女達は彼の家を振り返りつつ、あの面を思い浮かべていた。
「‥‥いつか、京三郎さんのお墓に行ってみたいなぁ」
 ななんが、ぼつりと言った。お墓がどこにあるのか、どうやらアッシュも知らないようだ。ひっそりと、どこかに眠っているのかもしれない。

(担当:立川司郎)