格闘最前線
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月24日〜01月29日
リプレイ公開日:2005年01月31日
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●オープニング
その話をお聞きになったレイモンド卿は、いつものにこやかな笑顔を浮かべたまま、ぱたん‥‥と扉をお閉めになったそうです。そうでしょうとも、卿の騎士団“メテオール”の誰もがその話に理解を示さなかったのですから‥‥理解出来る人がいるのかどうか。
パリからほど近い都市シャンティイのレイモンド卿麾下“メテオール”において、この人ありと謳われた騎士‥‥それがカルヴァン・シアンという男だ。剣を持たせると、誰もが前に立つのをためらう。しかしその男も、今は四十を越え、今は若き日の力が衰えていくのを悲しむ日々である。
そのカルヴァンが、ここ数日何やら嬉しそうにしていると思ったら‥‥。
「ん? フェールはどこに行ったのだ」
カルヴァンの問いかけに、騎士見習いの少年が答えた。
「フェール様は、レイモンド卿のご命令によりお出かけになっております」
「他の者は」
「‥‥どなたも、今は城においででは無いようです」
そうであろうとも。皆、カルヴァンに声を掛けられるのが嫌で居なくなったのだから。それを少年は知ってはいるが、答える事が出来ない。
「何だつまらぬ。‥‥せっかくのこの儂の素晴らしい発案に乗ってくれる男はおらんのか」
「‥‥」
少年は黙り込んだ。
さすがにカルヴァンも、この騎士見習いの少年では彼の欲求を満たす事が出来ないのは分かっている。城には騎士は居ない。
ではどうすればいいのか‥‥。うろうろと考え込みながら城を歩いていると、ふと誰かの姿が目にとまった。‥‥あれは確か、メテオールの騎士フェールの親が共に冒険をしていたとかいう、元冒険者の男ロイだ。
何の用なのだ、と考えるより早く、彼は声を掛けていた。
「ロイ殿、今日はどのような用で?」
ロイと振り返ると、カルヴァンをちらと見た。
「‥‥レイモンド卿のお呼びがかかりましてな」
「では、すぐにお済みになると?」
「‥‥」
何だか嫌な予感がしたのか、ロイはすぐには答えなかった。彼の視線が、熱く自分に注がれている。それはもう、嫌な汗が出そうな程に。
「頼みがあるのだ」
「‥‥どのような頼みかは存じませんが、私などに頼むよりパリのギルドにでも出してみては? 内容によっては引き受けてくれる者が居るかもしれません」
「なるほど、それはいい!」
カルヴァンは喜びいさんで、パリへと馬を駆けたのであった。
窓から、その様子を静かに見下ろすレイモンド卿。
‥‥無事に済めばいいのですが、と一言つぶやきながら。
は?
と聞き返すギルド員に、カルヴァンは熱く語った。語り尽くした。小一時間ほども語った。拳を握り、いかに情熱をかけているか。
そう、この素晴らしい鍛え上げた肉体と精神と魂に!
「剣だ。拳だ。この‥‥戦いにかける“漢”の魂を感じるか!? 共に戦おう、共に汗を流そう、そして夕日を背にして今日の戦いを振り返り、よき友を得た事に涙を流そう!」
「‥‥はあ。‥‥だから要するに、模擬戦の依頼ですね」
「模擬戦などとつまらぬ言い方をするな! これは漢の試練なのだ」
ムキムキの肉体をさらけ出し、汗を流し、戦おうと。
さすがのギルド員も、言葉が無かった。
●リプレイ本文
腕組みをしたまま、鬼のような強面で睨みつつけるカルヴァン・ハイシェルを、負けじとにらみ返す気丈な表情。片や、睨まれてもにこりと笑って返すしたたかさ。
「やっぱり、駄目なの?」
「‥‥」
こういう扱いは、いつもの事だ。エルフと人を両親に持つラファエル・クアルト(ea8898)は、やれやれといった表情で肩をすくめた。
「‥‥何とか言ってもらえないかしら」
「貴様!」
びく、とラファエルが肩を震わせる。突然大声を出されて、きょとんとした顔をしてカルヴァンを見返した。
「‥‥何だ、その言葉遣いは! 儂が性根を鍛えなおしてやる!」
‥‥言いたいのはそっちの方なのね。ラファエルはそうと分かると、言い返した。
「こういう話し方なんだから、しょうがないでしょう! 見た目通りじゃない事、証明してあげるわよ」
「よっしゃ、来い!」
‥‥嫌すぎる。
眼下の庭で繰り広げられるその光景をレイモンド卿と眺めながら、カルヴァンの見習い少年はふるふると首を振ったのだった。
そしてもう一人、カルヴァンが気にしたのは、他のメンバーよりはカルヴァンに歳近い‥‥女性。パトリアンナ・ケイジ(ea0353)である。
「‥‥むう。騎士は女に手を挙げぬ」
「あたしもね、どうしても駄目だったらセコンドにつこうと思ってたんだよ。でも、そいつが遅刻しちまったもんでね。‥‥こうなりゃ、あたしも後には引けないってもんだ」
「貴様は、何故ここに居る」
「‥‥そりゃ性別は女だけどね‥‥あたしも、あんた達の漢気に惚れたのさ。‥‥戦いたいって、血が沸いてしょうがない。あたしにも、戦わせてくれ!」
「それでこそ“漢”だ!」
「そうともさ!」
よかったな、パトリアンナ。戦おう、パトリアンナ。漢達は、がっしりと肩を組んで喜び合った。
‥‥暑苦しい‥‥。
その様子を見下ろしながら、見習い少年はぎゅう、とカーテンを握りしめた。
1人欠けている為、対戦はカルヴァンを含めた8名で行う事となった。くじ引きの結果、対戦カードは以下。
パトリアンナvsとれすいくす虎真(ea1322)
リュオン・リグナート(ea2203)vsラファエル
ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)vs源真霧矢(ea3674)
そして残る姚天羅(ea7210)がカルヴァンと対戦する。
皆が認める“漢”パトリアンナと対峙したのは、ちょっとかわった仮面をつけたジャパンの浪人。
「お願いします!」
虎真はぺこりとジャパン風に一礼した。
「‥‥いや、こっちこそ。‥‥所で何だい、そいつは」
思わず聞いたパトリアンナに、虎真は待ってましたとばかりに答えた。
「これが何だと‥‥? 火の男と書いてひょっとこと読む‥‥燃える笑者ひょっとこ仮面参上!」
「どんな相手だろうと、あたしにゃ関係ない。あたしのする事は、ただ一つさ」
先に動いたのは、パトリアンナだった。すかさず、虎真がレイピアでソニックブームを放つ。しかしパトリアンナは避けなかった。避けると、それだけ手間がかかる。
パトリアンナは虎真の懐に飛び込むと、服を掴もうと手を伸ばした。
「そうはさせませんよ‥‥っ」
虎真は構えていたレイピアで牽制し、何とかかわした。更に虎真に掴みかかるパトリアンナ。
「まさかまた‥‥」
「ふふ‥‥そうさ」
にやりとパトリアンナが笑った。
「この手は、相手を掴み引きずり倒す為についている。あたしはあんたの攻撃を避けない、ひたすら、投げの一手のみ!」
そう叫ぶなり、パトリアンナはがっしりと虎真の襟首を掴んだ。
「どりゃあああ!」
「ぐはっ‥‥うっ‥‥」
勢いよく地面に叩き付けられたと思うと、後ろからパトリアンナが虎真を羽交い締めにした。
「ほら、さっさとリタイアしな!」
「く‥‥じ、冗談じゃありませんよ‥‥」
虎真はかろうじて掴んでいたレイピアを、背中に向けた。パトリアンナがレイピアを避ける為に一瞬力を抜いた、その間に虎真は束縛から逃れた。
意識がもうろうとするが、何とか立ち上がる。
こちらに駆け込むパトリアンナにソニックブームで威嚇するが、パトリアンナはそんな事で怯みはしない。
あれ‥‥出来るかな‥‥。
虎真はすう、と背を向けた。
「逃げるのかい?」
追いかけるパトリアンナ。しかし背後に向けて虎真が背中越しにソニックブームを‥‥。
「くっ‥‥は、早っ‥‥」
放つよりも早く、パトリアンナが虎真に追いついていた。そのまま引き倒され、締められる虎真。
「甘いよ、虎真。あたしはあんたが一回攻撃する間に、2回地面に叩き付けてやる。分かったかい‥‥ん?」
‥‥どうやら気を失ってしまったようだ。
相手は素手か‥‥。
ラファエルはちらりとリュオンを見ると、手を差し出した。
「よろしくお願いしま〜す」
「あ、よろしくな」
けっこう優しそうな人だ。何故この依頼に参加したのか、少し気になる。
「どうして出ようと思ったの? パトリアンナとかロックフェラーとか、他の人は分かるけどさ」
「いや‥‥男の証明‥‥かな」
リュオンは苦笑を浮かべた。男の証明‥‥それこそ、ラファエルも望んでいる事。
「じゃ、益々負けられないわね。素手でも容赦ないわよ」
「望む所だ」
リュオンの返事と合図を待つと、ラファエルが動いた。まずは距離を詰める‥‥。駆け寄るラファエルに、リュオンは拳圧を叩き込んだ。
先ほどの対戦でもラファエルはその技を見ていたが、思ったように避けられない彼にはその技を見切る事が出来ない。しかし、この程度の傷だったらまだたいした事は無い。
続けてリュオンが、接近してきたラファエルに蹴りを繰り出す。低い位置への打撃にラファエルが足を引っかけられて体勢を崩した所に、更にリュオンが拳を叩き込む。
手数の多いリュオンは、ラファエルに隙なく乱撃を加えた。
受けていてはこっちの動きが取れないし、避けるとダメージを喰う。ラファエルは手斧を握りしめると、リュオンの手元へと投げつけた。
近距離からのラファエルの行動にリュオンは避けきれず、その切っ先がリュオンの腕を掠めた。
「くっ‥‥」
刃が掠めた右手を引いたリュオンに向け、ラファエルが蹴りつける。しかし、先ほどのリュオンの乱打で疲労していたラファエルの蹴りは勢いを無くしており、リュオンの体に当たる事なく抜けた。
「‥‥そんな‥‥っ」
「じゃ‥‥恨みっこ無しだよ」
リュオンはラファエルの足下に低い蹴りを当て、体勢を崩した。すう、と身がこちらに入る。
やられた、といった表情のラファエルの首筋に、リュオンの手刀が叩き込まれた。がくり、と意識を失い倒れるラファエルの体を受け止めると、地面に横たえた。
「ふう‥‥手数の勝利‥‥か」
ちらりと手の傷を見下ろし、呟いた。
ロックフェラーと源真の戦いは、重量戦となった。ロックフェラーがヘビーシールドを持っていたし、源真はトライデントを構えている。動きだけで言うと、今まで手数が多いリュオンやパトリアンナが勝っている為に、源真に利があるように思える。
長巻を構えたロックフェラー、ジャパンの源真は西洋の武器だ。
「結社“レジェンド”の一員、ロックフェラー・シュターゼンだ。‥‥全力を尽くそう」
「わいは源真。‥‥あんたが長巻で来るんやったら、わいも日本刀使うんやったな」
挨拶は交わすものの、ロックフェラーは相手の動きを伺うように構えたままだ。
リーチが相手と同じやったら、ちびちび削る事も出来へんのか‥‥。源真はしずかに相手の様子を見守っていたが、やがて思い切って踏み込んだ。
「やれるだけ、やるまでや!」
「‥‥望む所だ」
源真の振る槍を、ロックフェラーは盾で弾き返す。続いて二撃目、三撃目‥‥。
「くっ‥‥当たらへん‥‥」
「‥‥俺は避けるには適さない‥‥避けられないなら、受けるのみだ」
受け続ければ体勢を崩さず、ダメージも受けない。
「あかん‥‥」
ふ、とロックフェラーの盾の横から、長巻が覗いた。避け‥‥られない。勢いがある一撃、剣筋は見えているが、避けられなかった。
ロックフェラーの長巻が、源真の装甲を貫通する。
「くっ‥‥」
どうと倒れた源真の体から長巻を抜くと、ふっと表情をゆるめて源真の側に膝をついた。源真の傷は装甲から体を抜け、背中にまで達している。
「‥‥すまんな、手加減が出来なかった。‥‥手当を頼む」
振り返ると、既にこちらへクレリックが駆けてくるのが見えた。
源真が意識を取り戻すと、目の前で姚が両手に短刀を持って舞っていた。‥‥いや、舞っているのではない。舞うような動きなのだ。
「あ‥‥わい、気ぃ失った?」
「‥‥すまん」
ロックフェラーが申し訳なさそうに見下ろしている。源真の様子を見ていた虎真が、しれっとした口調で答える。
「死ぬ所でした」
「ほんまか?」
源真がロックフェラーを見上げる。
「もう少し手加減するべきだった。一撃にこだわりすぎて、お前の受ける傷の事を考えていなかった。まさか致命傷になるとは‥‥」
「いや〜、長巻振り込まれたらかなわんわ、わいも。まぁでも、本気の戦いに手加減は野暮やで」
「‥‥さて、最終戦を皆で見守りましょうよ」
虎真が見る先では、姚がカルヴァンに斬り掛かっている。しかしやはり、歴戦の騎士相手は手強いようだ。
盾をうまく使って攻撃を受け、合間に軽く攻撃を出している。様子を見ているようにも見えた。
「ふむ‥‥どこの流派だ」
「‥‥華国だ‥‥」
鋭い切っ先と動きで、相手を翻弄し懐に入って切り裂く。
しかし、その動きは読みとられ、盾で防がれていた。
「‥‥何故だ」
「何故と問うか‥‥」
カルヴァンは、盾を投げ出した。手に持ったショートソードを、姚に真っ直ぐ向ける。
「疾風のような動きで、相手を制する者がある。力を持って相手を制する者もある。お主には、どちらも足らぬ‥‥」
カルヴァンはきぃん、と音を立てて姚の短剣を受け止める、と、それを押し返した。
「それ!」
「‥‥っ!」
勢い付いた押し返しにより体勢を崩した所、カルヴァンの剣がのど元に飛び込んだ。ぴたりと姚ののど元を捕らえる。
「強くなれ、漢は身と心を鍛える事を喜びとするのだ」
がっしりと腰に手をあて、カルヴァンはきりりとした眼差しを姚に向けた。
両手を見下ろす姚の耳元に、パトリアンナの声が飛び込む。
「姚!」
バン、と背中を叩かれて咳き込む姚を、パトリアンナが助け起こす。
虎真が城の方に駆けてゆくのが見えた。
「虎真が、宴会の用意してるのよ。行くでしょ、もちろん」
「‥‥そうだな」
どこから持ってきたのか、ワインにベルモット、発泡酒などが揃っている。
リュオン達に手伝ってもらって料理をそろえると、ちょっとした宴会が始まった。
「城の庭で料理なんかして、大丈夫なわけ?」
ラファエルが聞くと、カルヴァンは豪快に笑った。
「なあに、問題ない。今日は儂が借り切ったのだからな。いやぁ、やっぱり汗をかいた後の酒はうまい!」
「さあ旦那、もう一杯‥‥それじゃ、旦那の武勇伝でも聞きましょう」
虎真がカルヴァンの杯に酒をつごうとすると、横合いから源真がグラスを差し出した。源真は、先ほどまで死にかけていたはずだが‥‥。姚が源真の腹に巻かれたさらしをちらりと見て、口を開いた。
「お前、傷口が繋がったばかりなのに‥‥大丈夫なのか?」
「なぁに、かまへんて」
「‥‥」
止めようとするロックフェラーの手を、そっと姚が制する。
大丈夫だと本人が言うなら、止める事はない。‥‥後でどうなろうと、自業自得だ。冷たい姚の言葉が、源真の身にしみるのは‥‥それからしばらく後の話である。
(担当:立川司郎)