大切な教会を守ってください

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2005年03月09日

●オープニング

 その依頼を持ってきたのは、じいさんだった。
 何故わざわざじいさんを強調してしまうのかと言うと、その依頼内容があまりにじいさんにそぐわなかったからである。いや、別にじいさんが“そう”だろうとかまわない。
 ただ、ギルド員はちょいとそこを強調せずには居られなかった。
「‥‥お話を聞いてもよろしいですか」
 視線を上げず、ギルド員はテーブルに向かったままで聞いた。老人は、アヴィという街から来たという。ここは、クレイユの東側にある街だが、シャンティイ領主の領地にあたる。シャンティイの外れにある街、というわけだ。
 このシャンティイのはしっこにある街のそれまた外れに、小さな教会がある。今は使われておらず、誰も居ない。教会は崩れかけ、天井は穴が開いていた。
「この教会に、ここ最近グリムリーが4、5体ばかり住み着いたんです。教会の中を荒らしたり、天井の穴を広げたり、そりゃあもう、やりたい放題です。どうにか退治してもらえませんかねえ」
「‥‥何か被害が出ているんですか?」
 教会だけなのか、人にも被害が出るのか。そう聞こうとすると、老人は顔を上げて声をあげた。
「被害! たくさん出ますよ。ええ‥‥あの教会が無ければ‥‥」
「‥‥」
 ギルド員が黙り込んで老人をじっと見つめると、老人は椅子にかけ直し、口を開いた。
 実は‥‥。
「実はこの教会、アヴィの辺りじゃちょっと有名なんです。何がって‥‥ええ‥‥その、ちょいとした噂がありまして。そのせいで人が集まるんですよ。おかげで街は潤っているもんで、あの教会は壊したくないんです。それにグリムリーが出るとなると、カップルが来なくな‥‥」
「カップルって‥‥カップが二つじゃなくて、カップルぅぅぅ?」
 強調しなくともよろしい。
「何なんですか、その噂って!」
「‥‥何だか急にやる気になったもんじゃのう‥‥。まあいいですわい。この教会、ブリッグル(月の精霊)が出るという噂がありまして、恋人同士や、恋をする者が訪れて教会の天使像の前で祈ると願いが叶うと言われております」
「本当に出るんですか、ブリッグル」
「さあ‥‥それはわしにもわかりません。出るとか出ないとか、噂だとかデマカセだとか‥‥」
「はっきりしてください、それを」
「‥‥今回頼みたいのは、ブリッグルを確かめる事ではなく、グリムリーなんじゃが」
「わかりました、グレムリーが居てはブリッグルも来なくなり、ひいてはそのありがたい天使像の効果も無くなってしまうかもしれませんもんね。そういう事なら任せてください」
「くれぐれも言うが‥‥」
 ‥‥多くは語るまい。じいさんは、ため息をついた。

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea4817 ヴェリタス・ディエクエス(39歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●リプレイ本文

 一人は三十才前後程の男。その男の側を、寄り添うようにやや年上の女が歩いている。木々にとけ込む茶色の髪が肩で緩やかに揺れ、彼の話を笑顔で聞き入っていた。
 幾分か離れて後ろを、二人の少女が歩いている。銀色の髪が背中に舞う、黒服のクレリック。そして、まだ幼いツインテールの少女だった。
「ねえねえ、なんだか本当にちょっといい雰囲気じゃない?」
 人のことは、見ていて楽しい。人の恋話をするのも、楽しい。ティズ・ティン(ea7694)は隣を歩いているクレリック、アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)の服を掴んでつんつんと引っ張った。
 アンジェリーヌは、そうですね、とのんびりと答えて、ゆっくりと歩き続ける。歩調はやや、彼らから遅れがちで、ティズはそのたびにアンジェリーヌを少しだけ急かした。
「何話してるのかな」
「そうですね‥‥どうやってグリムリーを捕まえようか、ではありませんか」
 ええ〜? と、ティズが聞き返す。きっと、恋の話をしているのに違いない。
 ティズがそう考えている、その当の本人達は、恋人を演じようと必死だった。
 ヴェリタス・ディエクエス(ea4817)は、そもそも子供や兄弟の面倒を見るのは得意であっても、女性の相手をするのは得意ではない。むしろ、苦手な方だ。それが分かってか、サトリィン・オーナス(ea7814)は年上らしく、姉さん女房といった風でヴェリタスをリードしている。
 やや早足で歩きすぎるヴェリタスの腕を取り、サトリィンがゆるく引いて手元に呼んだ。ようやくヴェリタスはサトリィンを置き去りにして歩いている事に気づき、歩を止める。
「すまない、こういう事はどうも苦手だから‥‥」
「ふふ‥‥でも、苦手でも人を好きになった事くらい、あるんでしょう?」
 サトリィンが聞くと、ヴェリタスは狼狽した。
「それも聞いちゃ駄目なのかしら? ‥‥私はあるわ。恋をした事が‥‥あるわ」
 サトリィンは、ずっと道の先、古い教会の方へと視線を向けた。何かを思い出すように、口を閉ざす。が、すぐに笑顔を取り戻し、ヴェリタスに向けた。
「でも、もうこの世の人ではないけれど。だからもう、二度と取り返せない恋なの」
「それは‥‥何と言っていいか‥‥残念だったな」
 ヴェリタスの精一杯の一言に、サトリィンが首を振った。
「いいのよ」
「死んだ者は帰らない‥‥また、誰かと出会う。今度は‥‥幸せになれる、きっと」
 そう言うとヴェリタスは、急に顔色を赤くして、また眉を寄せてしかめ面をした。サトリィンは、そんなヴェリタスを不思議そうに見ていた。

 月明かりが、天を覆っている木々の枝間から差し込む。マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)は静かに空を見上げ、刻限を読んだ。日が暮れてから、もうずいぶん経つ。
「そろそろ、ヴェリタス様が教会に到着する頃ですね。グリムリーも出てくるでしょうか」
 マリの肩にちょん、と座ったシフールのセルミィ・オーウェル(ea7866)は、マリと同じく月を見上げて呟いた。そう。そろそろグリムリーが出るという時間帯だ。
 背後から近づく気配に、マリはちらりと顔を後ろに向ける。小柄な男の後ろを、長身の男が歩いて来る。長身の男は、やや申し訳なさそうな顔でついて歩いていた。
「どうしたの、何かあった?」
 クライフ・デニーロ(ea2606)の顔色をうかがって、マリが聞いた。クライフとパロム・ペン(ea2705)は、先行して教会の様子を見に行っていたはずだ。クライフが何をするのか、特に詳しくは聞いてなかったが、グリムリーの逃走経路を確保するとか‥‥。
「すみません、一度グリムリーに見つかってしまいました。もしかすると、今晩警戒して出てこないかもしれません」
「何ですって? ちょっとどういう事よ」
 確かパロムは、隠密行動が得意だと言ってなかっただろうか。するとパロムはオーバーアクションで、両手を振って否定した。
「いや、おいらは見つかって無いにゅ! 見つかると思ったから、近づかないようにしてたにゅ」
「まさか昼間も近くに居ると思わなかったものですから、教会の退路を断って落とし穴でも掘っておこうかと思いまして‥‥」
「‥‥」
 マリは何も言えず、ため息をついた。
 こうなれば、あの二人に釣られてまた出てくるのを期待するしかない。困ったようなマリの様子に、セルミィがフォローするようにぱたぱたと飛び回る。
「あの‥‥今ヴェリタス様とサトリィン様がペアで囮になっています。その後ろを、アンジェリーヌ様とティズ様が離れて歩いているんです。あの方達が囮になってくれていますから、きっとグリムリーも出てきますよ!」
 マリ達の位置からは、はっきり確認出来ない。マリやパロム、クライフは退路を断つ為に配置についているから、教会正面あたりは見えない。
 セルミィは、ふわりと上空に飛んだ。
「私、ちょっと見てきます」
「じゃ、おいらは配置につくにゅ」
 身軽なパロムは、教会の屋根に上がって穴を見張る事になっている。セルミィについて、パロムは教会の方へと駆けだした。

 古びた教会の扉は、朽ちて落ちていた。扉を見下ろし、ヴェリタスは教会の前に立った。そのやや後ろに、サトリィンが居る。
 一歩、ヴェリタスが中に足を踏み入れる。
 と、はっとしてサトリィンが叫んだ。
「そこ!」
 ドアの空間の影から、小柄な影が飛び出した。影の突進を受けて、ヴェリタスが転ぶ。いつもならば、弾かれたように起きあがって攻撃する所だ。
 しかし、ヴェリタスは相手の様子を見ながら、自分の役目を全うしようとしていた。
「な、何だお前は‥‥」
 小柄な影‥‥頭に角が生えた小さなオークのような影が、2体飛び跳ねている。一体は教会から飛び出し、サトリィンをじろじろと見上げている。
「何の用だ、人間の女!」
「きひひ、こんな所で逢い引きか? 夜中は誰も来ないもんな」
「愛する彼と結ばれますように‥‥って祈るのか?」
「黙れ!」
 ヴェリタスが、側にあった木の枝を拾い、振った。サトリィンはここで、ヴェリタスを庇うつもりだった。‥‥つもりだった。小鬼達は、サトリィン達に畳みかけるように悪態をつく。
「まあ、心配しなくとも、みんなここから帰ったら結ばれてるさ、お腹かかえて結ばれる事になるのさ」
「ま‥‥な、何て事言うの」
 何と言っていいものか‥‥。サトリィンは、目の前がクラクラしてきた。どっぷり、どんよりした気分に浸かって一杯一杯な気分だ。最初は余裕ある素振りで受け流そうと思っていたのに、何なんだろうこの突然の心境の変化は?
「しっかりしてください、サトリィン様! どうしてしまったんですか?」
 上空から飛び出したセルミィが、サトリィンの周囲をぐるぐると飛び回りながら声をかける。サトリィンは笑顔を浮かべようとするが、うまくいかない。
「そ‥‥そうなの。分かっているんだけど‥‥」
「ギャハハハ、ちっこいのが来たぞ」
 グリムリーの嘲笑が、セルミィに向けられる。むっとしてセルミィが、グリムリーを睨み付ける。
「逃がしませんよっ、いいですか!」
「追いつけるもんなら、追いついて見ろちっこいの! 追いついたら、羽むしって食ってやるぞ」
「‥‥ち、ちっこいのって連呼しないでください。私だって‥‥」
 何だろう、セルミィまでどんよりした気分になってきた。セルミィはサトリィンの肩に座って、ため息をついた。今まで、こんな鬱々とした気分にさせられた事は無い。
 ヴェリタスは背筋を伸ばすと、腰から剣を抜きはなった。
 抜きざまに、小鬼に一撃をくらわせる。その鋭い剣先が、小鬼の肩に突き刺さる。小鬼は、次の一撃を避けると後方に飛び退く。
「きたねーぞ、それでも男か。だましたな」
「それがどうした。教会を荒らす不届きものは、剣の錆になるがいい」
 後ろから、アンジェリーヌとティズが駆け寄ってくるのが見える。だが、セルミィとサトリィンが全く攻撃をする様子が無いのに気づき、アンジェリーヌは歩をゆるめた。このままだと、相手の攻撃範囲内に入らなければコアギュレイトは唱えられない。
 しかし二人の様子は明らかに変だ。
「ティズさん、どうも様子がおかしいと思いません?」
「‥‥分かってる。アンジェリーヌ、私に合わせて。私が一体を転ばせるから、コアギュレイトよ」
「分かりました」
 アンジェリーヌが頷くと、ティズは駆けだした。ロングソードを抜き放ち、風のようにグリムリーに駆け寄る。グリムリーは、ティズを見つけて何事か叫んだ。
 確か、白いのとか、まだ子供の女だとかいう下品な言葉使いだったような気がする。が、そんな事は百も承知。ティズはかまわず、突撃した。
 びっくりして逃げ出そうとするグリムリーに、立ち止まったティズが声をあげた。
「待ちなさい!」
 ちらり、とこちらを振り返ったグリムリーの目に、華麗にダンスを踊るティズの姿が映っていた。こんな所で踊り‥‥と言いかけたグリムリーに向け、ティズの言葉が発せられた。
「転んで。お・ね・が・い」
 魔法少女の言う事は、聞かなければならないのである。すっ転んだグリムリーに、アンジェリーヌが駆け寄る。今度はアンジェリーヌが、魔法をかける番だった。
「‥‥ティズさん、お願いします」
「了解! ‥‥ここは恋する人たちが集まる大切な場所なんだからね! ‥‥あんた達みたいなの、お断りなの!」
 今度こそ本当に、グリムリーは動きを止めた。
 どうやら、ヴェリタスの方も片づけたようだ。アンジェリーヌは、まだ放心状態のセルミィとサトリィンに近寄った。
「お二人とも、怪我はありませんか」
「‥‥は、はい。ごめんなさい、力になれなくて‥‥私‥‥」
 うるうると、セルミィが目を潤ませる。アンジェリーヌは、笑顔でセルミィに顔を寄せる。
「気にしないでください。‥‥きっと、グリムリーが何か仕掛けたんですね。大丈夫ですよ、しばらくすれば気が楽になりますから」
「そ、そうですね。‥‥でも、その頃には戦いは終わっちゃってるかも‥‥」
 とセルミィが教会の方に視線を向けると、クライフの姿が目に映った。
 どうやら、そちらも終わったようだ。
 ヴェリタス達が小鬼に遭遇して戦闘になると、小鬼達のうち一体は影の抜け穴から裏手に逃げ出そうとしていた。もう一体は、教会の崩れた壁や天井の木材などを伝って、器用に屋根に上がっていく。
「そっちに行ったぞ!」
 クライフは、小鬼の動きに気づいて屋根のパロムへ伝えた。パロムは気づいたのか?
 マリがグリムリーに向けてムーンアローを放った事に気づくと、クライフは手に凍り付いた円盤を作り出した。ムーンアローを受けたグリムリーが、マリに向けてぎゃあぎゃあと叫ぶ。
 マリをののしるグリムリーの酷い口調に、マリの手がひるんだ。まさかグリムリーの悪態でひるむとは、マリ自身も思ってはいなかった。
「‥‥ちょっと許せない‥‥かも‥‥」
「任せてください」
 ふるふると身震いをするマリの前に立ち、クライフがチャクラムを放った。放ったチャクラムが、グリムリーの体へ食らいつく。グリムリーはクライフに悪態をついたが、クライフは怯まずチャクラムを手に戻す。
「昼間の汚名返上、しなければなりませんからね」
 ふ、とクライフは微笑すると、逃げ出すグリムリーにチャクラムを放った。

 屋根からパロムが降りて来ると、マリとサトリィンは扉の前に座り込んでいた。二人と、サトリィンの肩に座ったセルミィは元気が無い。
「大丈夫にょ、三人とも」
「大丈夫さ、奴らの悪態でびっくりしただけだ」
 クライフはちらりと二人を振り返り、答える。ヴェリタスとアンジェリーヌ、そしてティズは中に入って天使像を見ているらしい。
「さて、あのグリムリーの死体をいつまでも放っておく訳にはいきませんし、僕はちょっと遺体を処理しに行きますが‥‥三人とも、そこに居ますか?」
 ふい、とサトリィンが顔をあげる。
「私‥‥ここの片づけをしようと思っていたんだったわ。私も手伝う」
 サトリィンは立ち上がると、きりりと表情を引き締めた。
「いつまでもこうしていたって、仕方ないものね。‥‥グリムリーの言う事でくよくよしてたら、月の精霊も逃げてしまうわ」
「そう‥‥ね。そうだわ、あたし天使像を見るつもりだったのよ」
「まってください、私も行きます!」
 弾かれたように立ち上がり教会内に向かったマリの後を、セルミィが追いかけた。

 静かに、天使像の前で祈りを捧げる人影。
 天使像を真剣に見上げるヴェリタスの横に、いつの間にかマリが居た。マリが、静かに口を開く。
「‥‥どことなく‥‥似ているわ」
 ヴェリタスがマリを見返すと、マリが言葉を続けた。
「以前、同じような天使像を見た事があるの、その天使像は、宝石が付いていて、魔法の効果があったんだけど‥‥どうやら付いてないようね」
「‥‥それは‥‥いや、違うな」
 ヴェリタスは首を振る。彼女の石は、故郷に持ち帰られたはずだ。マリの知るものとは、違うであろう。
 片膝をついて祈りをささげるヴェリタスの横で、アンジェリーヌも目を閉じて祈りを捧げていた。つん、とその背中に指があたる。振り返ると、にこにことした笑顔でティズが立っていた。
「何祈ったの?」
「え‥‥教会の‥‥繁栄を」
「朽ちている教会の?」
 ティズが何か言いたげに言う。アンジェリーヌは、口を閉ざしてしまった。月の精霊が現れるという、恋のお祈り‥‥この教会で願う事は、みな一つだ。パロムだって、何か言いたげに天使像を見つめている。
 クライフはどうやら恋のお願いは無いようだったが、その他それぞれみんな、これからの出会いと、月の精霊を待ちこがれているようだった。
セルミィが、天使像の周囲を飛びながらじいっと見つめている。
「これが天使様の像ですか‥‥」
「セルミィさん、何かお願いしたんですか」
 アンジェリーヌが、話題を変えるようにセルミィに聞いた。
「私がお願いしたのは、故郷の家族に会えるように、ですよ」
「‥‥恋はまだまだだよね」
 ふう、とティズがため息をついた。
 すると、壁を挟んだ向こう側、外でクライフの声が聞こえた。
「‥‥今の光、何ですか」
「光? ‥‥」
 サトリィンの声だ。
「今、何か足下を小さな光が通り過ぎたでしょう。‥‥ぼんやりとした光でしたよ」
「それ、月の精霊です!」
 セルミィ、叫ぶなり猛ダッシュ。壁の隙間を越えて、飛び出した。いつの間にか、側にいたパロムも居なくなっている。
「どこ? どこですか、月の精霊様!」
「どこに居るにゅ、月の精霊! はぅ、精霊様お願いがあるにゅ! シャーリィちゃーん!」
 ‥‥ティズとアンジェリーヌはきょとんとして顔を見合わせ、笑い出した。
(担当:立川司郎)