【怪盗と花嫁】ご城下で大騒動
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月23日〜03月29日
リプレイ公開日:2005年03月30日
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●オープニング
人目を忍ぶようにひっそりと訪れ、彼は一言二言、話をした。
窓辺にたたずむ女性の、窓ごしの向こう側‥‥庭に彼は立っている。手には、杖があった。
「‥‥それで、ギルドにどうして欲しいのかしら‥‥土屋さん」
黒髪の女性は、彼にそう問いかけた。土屋は、言葉を続ける。
「奴を助ける手助けをして欲しい」
「‥‥」
ギルドマスターは、小さく首を振った。しばらくの間、沈黙が流れる。やがてギルドマスターは、顔を上げた。
「先の護衛任務で、悪魔らしき姿が目撃されたと聞きました。イギリスでのマスカレードの、悪魔に関する発言‥‥そして今回の件。ノルマンでも、悪魔に関する活動報告が増えています。それと何か、関係があるというの?」
「それは、俺から言う事ではない」
「否、ではないと取っていいのね。そう‥‥」
ギルドマスターは椅子から立ち上がり、窓枠に手をかけた。
「わかったわ、あなた達に協力しましょう。‥‥怪盗マスカレードを助ける為に、人手を割く事にします」
「すまんな」
短く土屋は礼を言うと、足早に彼女の元を去っていった。
集まった面々を順に見ると、まだ若い係員はテーブルの上にやった手を頬にあてた。
「あなた達には、マント領に行ってもらいます。‥‥目的は、怪盗ファンタスティックマスカレードを救い出す、別の人たちのフォローをする事」
マスカレードを助ける? 誰かが聞き返す。
「そう。怪盗マスカレードは、今後の私たちの活動に大きく影響する情報を持っている可能性があるわ。検討した結果、見過ごす事は出来ないとの判断から、この依頼が入りました。だからあなた達には、その支援をして欲しいの」
黙ったまま係員の言葉を聞く彼らに、彼女は言葉を続ける。
「怪盗マスカレードは、現在マント領のヴァン・カルロス卿の城に捕らえられているそうなの。ただし、怪盗の救出は、先ほども言ったように別の者が行います。‥‥あなた達は、彼らが城内で活動しやすいように、城内外の警備等を引きつけておいてもらうわ」
方法は問わない。捕まったりしなければ、どういう方法を取ってもかまわないが、あまり手荒な方法をするのは好ましくない。
「戦うのは勧めません。戦う必要はないの、引きつける事さえ出来れば。もとより数人で何倍もの人間を相手にしなければならないのだから‥‥ね」
係員は微笑を浮かべると、椅子の下に遊んでいた足をゆるりと組み直した。
●リプレイ本文
怪盗? なんで今怪盗からの予告状が届くんだ。
さあ‥‥。とりあえず上に知らせておいた方がいいんじゃないか?
首をかしげて顔を見合わせ、城に入っていく二人の騎士の側を、小柄な女性が歩いていく。闇中の月光に照らされた水面のような蒼白い髪を揺らし、ゆっくりとした足取りで歩を進める。
ふい、と誰かが駆け抜けていく。同じくらいの背丈の、青年だった。
太陽は雲の向こうにあるが、時折薄くなる雲の隙間に弱々しい姿を覗かせる。彼女は空を見上げ、時刻を測った。
「‥‥そろそろですね」
街の所どころに潜んで時を待つ仲間を思い、サラフィル・ローズィット(ea3776)は街の雑踏へと消えていった。
何故、と問われてもそれは彼らにもさっぱり分からない。
現れたのだ。
何がって、大きなカエルがだ。人の1.5倍位ありそうなカエルが、街の中を徘徊していた。まあ普通、こんな所をうろうろしているものではない。
大抵、街の中に入ってくるまでに自警団やら騎士に見つかって、始末されてしまうものだ。だから、街の人たちの驚きたるやもう‥‥。
「ぎゃーっっ」
という悲鳴を上げ、一人の青年が巨大カエルの前を駆けていた。どうやらカエルは、彼に標的を定めたようである。ちらりと振り返り、彼は助けを求めるように街の中心部、人の多い所へと突っ込んでいく。
「く、喰われるぞ!」
その男はわめきながら、時折後ろを振り返って追い払おうとした。しかし武器も何も持っていない為、追い払いようがない。
‥‥ラシュディア、お前早すぎ。もっと遅く走ってよ。
カエルをぶっちぎりそうな勢いのラシュディア・バルトン(ea4107)の後ろを走るカエルの、更に後ろから夜黒妖(ea0351)は、カエルとラシュディアの鬼ごっこを静観しながら追跡していた。
やがて、人混みの中でふいとカエルの姿が消えた。
夜の大ガマの術では、あまり長い間カエルを出しておく事が出来ない。黒妖は再び術をかけ直し、今度は別の場所にカエルを出現させた。
「‥‥じゃ、ギュー。もう少し頑張ってよ」
今度現れたカエルのギューは、ラシュディアから周囲の人々へと標的を変えた。遠巻きに見守っていた人々が、悲鳴を上げて逃げ出す。その混乱の隙に、ラシュディアは雑踏を抜けて城の方へと歩いていった。
「あの‥‥だから、向こうの方でカエルが‥‥」
「はぁ、カエル? 何でこんな所にカエルが居るんだ」
エルフの青年は、緊張で顔を少し赤くしながら、説明を繰り返す。門から覗く城の中は、静まりかえっている。ヒール・アンドン(ea1603)は、必死に説明を繰り返した。
「だから‥‥あの、街の中に大きなカエルが居て、人を襲っているんです。すぐに行ってみてください‥‥」
騎士達はしょうがない、といった様子でお互いに役目を譲り合い、一悶着した末に長身の騎士の方がヒールの指さす方へと歩き‥‥。
「おい、でっかいカエルが居るぞ!」
街の方から、何人かが駆けていくのが騎士達に見えた。大きく声を上げながら周囲に知らせて回るラシュディアと、ヒールの目が合った。
ラシュディアが視線をそらすと、ヒールは声をあげた。
「だから言ったじゃないですか! ‥‥人が襲われているんですっ。すごく大きなカエルでした」
騎士が一人、二人‥‥。
そうこうしている間にもラシュディアとヒールが町中を駆け回り、騒ぎはどんどん大きくなっていった。カエルを見てみたい一般市民と、逃げる市民。カエルを取り押さえようと人混みを押し退ける警備員や騎士達。
ヒールはすうっと騒ぎを抜け、黒夜とラシュディアの所に駆け寄った。
「夜さん、術は大丈夫なんですか?」
「ああ、今度はもう少し離れた所で出すよ。‥‥一人はぐれちゃったから、その分俺が頑張るから、そっちも頼むよ」
黒妖はフードで顔を深く覆い、軽く手をあげた。雑踏の中でマントとフードを深く覆っていても、人に気づかれずに歩く術を知っている黒妖はさほど警戒されない。
おい、カエルが居るってよ。でっかいカエル?
人々の話し声に、黒妖が聞き耳を立てる。
‥‥カエルじゃなくて、大ガマのギュスターヴなんだけど‥‥。そう言いたい気持ちを抑え、黒妖は城から更に離れた町の中心部へと向かっていった。
今回の怪盗・クラリッサ救出、城内捜査の各班は、全てこの陽動作戦に乗っかっている。すなわち、陽動が重要な役割を担っているのだ。
黒妖は依然として街中でカエルを出し続け、ラシュディアとヒールは各自で黒妖をフォローするように、市民に声を掛けて回っている。
だが、これでもまだ城内の人々を駆り立てるには足りない。大ガマの騒ぎの中心にいたラシュディアは、後の事をヒールに任せてその場を離れていた。
「俺、サラのフォローに行くから、ここ頼むな」
「はい。でもここは十分街の皆さんが煽ってくれていますから、私も手が空きましたらサラさんの方もお手伝いさせて頂きますね」
ヒールはそう答えると、ラシュディアを送り出した。
彼が大ガマの騒ぎから抜け出している頃、城の西側にはある人物が現れていた。静かにこちら側を見つめる、仮面の男‥‥。それに気づいたのは、城内の者だった。
怪盗が居る!
そこに居るはずのない怪盗の姿を確認した者が居ると聞き、慌ただしくなった。
「‥‥セルミィ、様子はどうだ」
少し飛び上がって城の様子を伺っていたセルミィ・オーウェル(ea7866)は、再び聯柳雅(ea6707)の肩へと戻ってきた。シフールのセルミィは、あまり長い間跳び続ける事に慣れていない。だから、術を行使する間、こうして柳雅の肩を借りて休んでいる。
柳雅はセルミィが術で怪盗の幻影を出している間、周囲を警戒して、いつでも撤退出来るように構えていた。
先ほど様子を見に来たラシュディアによれば、街はまだ大ガマ騒ぎの最中らしい。黒妖の術が長い間保たないおかげで、大ガマが捕まる事なくあちこちに出現し、混乱させる事に成功していた。
「しかし‥‥気になる事を言っていたな」
ラシュディアが、城の近くで“怪盗の仲間を見た”という話を聞いたらしいのだ。確かに怪盗騒ぎは、もう一カ所‥‥サラが怪盗の格好をして城近くで誘っているはず。しかし、怪盗の仲間は居るはずがない。
「本多様じゃないでしょうか?」
「本多‥‥」
柳雅は、本多風露(ea8650)の事を思いかえした。そういえば作戦が急だった事もあり、本多にはあまり作戦の打ち合わせを出来ずに居た。
「‥‥捕まったりしていなければいいが‥‥」
柳雅が呟いた時、その視線が何かを捕らえた。セルミィもそれに気づき、柳雅の体にしがみつく。
「見つかったか‥‥」
セルミィの幻覚がふい、と消え、柳雅は駆けだした。城を挟んで反対側の影に、誰かが見える。
「こっちだ!」
怪盗‥‥ではない。サラはセルミィと柳雅を誘うと、後ろに迫る剣士達の数を数えながら二人を先導した。追ってくる敵の数は3人。
次第に敵に距離を縮められていく。元々クレリックのサラでは、剣士達から逃げ切る事は出来ない。かといって、柳雅だけで逃げるわけにもいかない。
「‥‥仕方ない、少し相手にするか‥‥」
柳雅が拳を握りしめた‥‥と、剣士が悲鳴を上げた。柳雅の目が見開かれる。
‥‥まさか。
柳雅とセルミィが怪盗の幻覚を出していた頃。風露は、一人城の周囲に居た。今回の作戦が陽動だとは聞いていた為、服装は目立たないように街の人々と同じようなものを着ている。
しかし、今回の作戦に臨んでは全員、各自の役目と目的をしっかり持って確認しあっていた。皆の作戦に従おうと思っていたが、その作戦自体に風露が入る隙が無かったのである。
このままでは、何もしないまま終わってしまう。ただでさえ、一人はぐれてしまって来られなかったというのに‥‥。
幸い、途中で怪盗の格好をしていたサラに遭遇したが、彼女は逃げるのに必死で声を掛ける暇などなかった。
一体、どうしたら‥‥。
風露が歯がゆい思いで、それでもサラの追っ手を引きつける事くらいならと、追いかけようとしていた、その視界に誰かが映った。彼はちらり、とこちらを振り返る。
「あ‥‥」
迷わず、風露は彼を追った。
「皆を頼って何も出来ぬよりは‥‥自らの思うままに進む方がよい」
「‥‥」
風露は、彼の言葉にこくりと頷いた。その視線の先に、サラと追っ手がようやく見えてきた。風露と男が、刀に手をやる。
彼の一刀が、追っ手の背中を捕らえた。
怪盗の姿をしたサラ、そして彼女とともに居た柳雅が驚いたようにこちらを見つめる。
もう一人、敵は剣に手をかけて振り返った。さらに一人は、既に抜刀姿でサラと彼の間で構えている。
「貴様‥‥」
と声をかけた剣士に、風露がハリセンを思い切り振りかぶる。続けて柳雅が、拳を叩き込んだ。
ふう、と柳雅が息をつき、彼女の肩にいたセルミィが、ぎゅっと襟を掴んだまま見上げる。サラが一歩、前に出た。
「‥‥あの‥‥もしかして‥‥」
「行くぞ」
土屋は、怪盗の姿のサラへ、静かに言った。
怪盗と仲間が出たぞ!
何だかよく分からないが、ヒールはそう叫びながら城の周囲を駆け回った。
怪盗が城の近くに居る。そう聞いて、城の中から怪盗を捕まえるべく騎士や兵は城の周囲を右往左往していた。
一人は、柳雅と共に居るセルミィが出した怪盗。
「サラ様の怪盗、とっても素敵で似合ってました〜」
駆け抜ける柳雅の肩に座ったセルミィは、すれ違いざまにヒールへそう声を掛けて行った。セルミィの怪盗は、セルミィの移動にあわせてあちこちに現れる。
ただし、セルミィの怪盗は幻覚である為、動かない。
サラの怪盗は、近くで見ると背や体つきで分かってしまう。城へ移動してきた黒妖とラシュディアは、その話を聞いて混乱してきた。
「何なんだ、だから怪盗は何人で仲間が何人?」
黒妖が怒鳴ると、風露が3人を見つけてゆっくりと近づいてきた。
「風露、何なの一体。どういう事? ‥‥ええと‥‥増えた?」
「いいえ。幻覚の怪盗はセルミィさんが出していますから、予定通り柳雅さんが側についています。お二人とも、顔も見られていませんし、予定通りです。そしてサラさんが変装した怪盗には、先ほどまで私ともう一人同行していたのですが‥‥」
「サラには今、誰が付いているんだ」
ラシュディアの質問に、風露が城の方をすうっと振り返った。
「‥‥本物の土屋さんが」
「土屋って、誰が化けてるの?」
「いや、化けてないから、夜。本物だって」
「ええ?」
ラシュディアの突っ込みを受けて、黒妖ははじめて驚いたように声を出した。
本物って、あの怪しい仮面をつけた変た‥‥もとい、素敵な怪盗の仲間だという土屋?
「あれ‥‥じゃないですか?」
ヒールが眉を寄せ、城の方を指さした先に、かなり息が苦しそうなサラと彼女をフォローするように刀で追っ手の相手をしている男が居た。
深くローブで体を覆ったサラと土屋が、黒妖達に合流したのは日が暮れた後であった。
ローブを剥いだサラは、すっかり怪盗衣装が汗で濡れてしまっている。
「はあ‥‥土屋さんが居なければ、わたくしは捕まってしまっていました。‥‥どうもありがとうございました」
ぺこり、とサラが頭を下げる。
土屋は口数少なく、ああ‥‥と言って頷く。土屋は何も語らず、何を求めるでもなく街の中へと消えていった。
「‥‥ところで」
セルミィが、まじまじとサラを見つめる。ラシュディアは何やら含み笑いをしていた。
びく、とサラが一歩下がる。
「な、何ですか」
「サラ様、もう少し怪盗の格好で居ましょうよ。‥‥ね?」
「神に仕える身であるお前が、怪盗に化けるとはな」
二人に言われて、サラは慌てて手を振った。
「な、わたくしはそんな‥‥」
帰る道すがら、言われ続けたサラだった。
(担当:立川司郎)