【怪盗と花嫁】孤軍奮闘
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:7〜11lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月05日〜04月10日
リプレイ公開日:2005年04月13日
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●オープニング
静かに、そして確実にそれらは近づいていた。マント領から近づく、死者の群れ。遠く離れた村に住む人々にとっては、一体何故それらが現れたのか、見当もつかない。しかしモンスターの群れは確実に‥‥パリへと向かっていた。
足音は人の声に乗って、村々に届けられていく‥‥。
その一つは、とあるパリ近郊の山間にある村にも届いていた。
60人足らずの集落‥‥いつもは畑仕事をする老人や幼い子供達の声が響く、のどかな村だ。しかし、その足音は彼らを恐怖に陥れていた。
「皆さん、落ち着いて‥‥もうじき助けが来てくれますから」
少女は、必死に声をあげて励ます。しかし、かえって来るのは希望ではなく、絶望。
「‥‥そんな事を言っておるが、奴らはパリに向かっておるそうじゃないか。パリの連中も、わざわざ儂らのような小さい村には人をやってくれんだろうて」
「そうだな‥‥あんたも早くここを出るといい。巻き込まれたくは無いだろう。ズゥンビどもは、すぐそこに迫っているそうじゃないか」
老人達の言葉に、彼女は声を大にして言い返した。
「いいえ‥‥私は諦めません。‥‥だったら、私がパリに行って助けを呼んできます。大丈夫、馬を走らせればズゥンビがここに到達する前に戻ってこられます!」
彼女はそう言い放つと、農作業に使用していた馬を借りてパリへと向かった。
きっと、彼女も戻ってこない。
彼らは、全く彼女に期待していなかった。しかし‥‥。
息をきらせながらも、彼女は声を張り上げた。
「‥‥誰か、助けに来てください! ズゥンビの群れが来ているんです」
パリに向かうズゥンビの進路上にある、小さな集落。周囲は険しい山に囲まれている為、死者の群れが村を通るのは確実だ。しかし問題は、そこに住んでいる人々の事だ。
「若い人はパリに出稼ぎにきているから、村にはお年寄りや小さな子供やお母さん達だけなんです。山に登るのは難しいから、逃げ切る事が出来ません。‥‥お願いです、誰か来て守って頂けませんか」
お金なら、ここに‥‥と、彼女は出した袋をひっくり返し、その全てをギルド員に差し出す。
パリに来ているっていうのに、わざわざ遠い村で行く奴なんか居るものか。そういう声が聞こえた気がした。すると、横からすうっと手が伸びた。ちらりと彼女が顔を上げると、日本刀を持った若い男が、金を差し出していた。
「‥‥場所はどこだ」
「あの‥‥」
「どこだと聞いている」
低い男の声に、彼女は反射的に答えた。
「ここから馬で半日ほどの所です!」
「死者の群れの勢力は」
「ズゥンビが30体‥‥そしてインプが十体ほどです。ズゥンビはあまり遠くまで追ってこないでしょうけど、インプは飛べますから村から離れても追ってくるかも‥‥」
男はすう、と周囲に目を走らせた。
「‥‥誰も居ないなら、俺が一人で引き受ける」
「私‥‥名前をカレン・マクファと言います。パリの教会に用事があって来たんですけど‥‥」
「話は後で聞く。俺は土屋三郎だ」
カレンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
●リプレイ本文
■【怪盗と花嫁】孤軍奮闘
カウンターに置いた土屋三郎の手が、手元に戻されようとしていたその時、彼を呼ぶ軽やかな声が聞こえた。さきほどのカレンのひと騒動に加え、土屋は怪盗騒ぎによりギルドでは少しは顔が知られている。
土屋が振り返ると、そこにはつい先日見たばかりの女性の姿があった。確か、マスカレードを救出する際に偽怪盗に変装していた、クレリックのサラフィル・ローズィット(ea3776)である。
「先日は大変お世話になりました。‥‥噂に聞いております、伯爵の件でおいでになったんです?」
「‥‥ああ。だが急用が出来た」
土屋の視線がカレンに向けられる。すると、ふいと横合いから手が伸び、白い指がカレンの手を取った。何時の間に現れたのか、黒服に銀髪の青年がカレンの前に立っている。
「お話は伺いました。‥‥マドモアゼル、お顔を上げてください」
「え? あ、あの‥‥」
マドモアゼルなどと呼ばれ、カレンはおろおろと視線を泳がせた。やんわりとした笑みを浮かべたマリウス・ドゥースウィント(ea1681)が、彼をたしなめるように口を開いた。
「ムーンリーズさん、そんな事をしている場合ではありませんよ。カレンさん、お急ぎなのですね。馬はどうなっています?」
「馬は、外に繋いでありますが疲れているようです。村はここから北に向かった所にあります。場所は‥‥」
と、カレンはギルドにあった地図を指した。この辺りに村は少ない為、道なりに進めば分かるという。後ろで腕を組んで話を聞いていた女性、セシリア・カータ(ea1643)は荷物を確認すると、振り返った。
「私は先に行きます。ガブリエさん、あなたも行くのですね?」
セシリアの背後に居たジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)は、既に愛馬をギルドの前まで引っ張り出してきていた。装備のうち重いものは、もう一頭の方に積み替えてある。
「俺も先に行かせてもらう。俺の方が先に到着するはずだが、土屋‥‥あんたは馬をつれているのか?」
「その馬ほど速くは無いだろうがな」
「じゃ、問題は無いな」
ジラは馬に飛び乗ると、パリの街に駆けだした。
カレンの話によると、あの農耕馬でカレンが駆けてギリギリ。だとすると、駿馬で先に出たジラがまず到着するはずだ。しばらく遅れてセシリアと土屋。マリウスがギルドに掛け合ってくれたおかげで、帰路のカレンの馬は確保出来た。
彼ら3人からはやや遅れたが、村人達はジラに避難誘導を頼んであり、村人達に被害が出る前には村に到着出来るはずだ。
馬を休ませながら、一直線に村を目指す。
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は馬を急かしながらも、十分に休息を取って馬にリカバーポーションも飲ませ、優しく首を撫でてやった。
「もう少しです‥‥耐えてくださいね」
レディは放っておけないものですから‥‥後で怒られなければいいのですが。小さくムーンリーズは呟くと、顔を上げた。
「皆さんはもうよろしいですか?」
と、ちらりとムーンリーズが、オラース・カノーヴァ(ea3486)と目が合った。先ほどから思っていたが、オラース‥‥あの重そうなバックパックが無くとも、既に馬は本人だけで十分に重そうであるが。
「どうやら、リカバーポーションはあなたの馬にこそ必要だったようですね。遅れるなら、置いていきますから」
「ああ、置いていくなら置いていけよ。すぐに追いついてやるさ。‥‥ん? 回復してくれるのか?」
そっと、オラースの馬に手をやっているカレン。やがて目を開くと、微笑して頷いた。
「これで少しは楽になったと思います」
「そいつはどうも。でも、馬で力を使い果たしちゃ、本末転倒だぜ」
にやりと笑い、オラースは手綱を取った。
ジラの目に村が映った時、まだズゥンビ達が襲撃している様子は無かった。直ぐさまジルは村を駆け抜け、一番大きな建物に飛び込む。屋外に人の気配は無かった。
「説明は後だ。どこか村人全員が集まれる建物は無いか」
見知らぬ青年に突然言われ、村長は何と答えていいものやら戸惑っているようだ。しかしジルはそんな事を説明する暇など無い。
「俺達はギルドから来た。時間が無い、指示に従え!」
「ああ…そ、それなら、わしの家に来るとええ。狭いが、ひとまず入れるじゃろう」
それを聞くと、ジラは外に向かった。家の数もそう多くは無く、声をかけながら村人を村長の家へ集まるように誘導する。
あんたは誰だ、とか何をするんだとかわいわい言う村人に、ジラが声を上げる。
「俺が誰かなんてどうでもいい! さっさと集まれ、ズゥンビはもうじき来るぞ」
手早く指示すると、ジラは村から松明を集めはじめた。次に馬を使い、村の出入り口‥‥とはいえ、柵で覆ってあるわけでもない寒村である為、街道から村へ入る道がそれらしきものになるが‥‥に篝を灯していく。
道の双方に灯した所で、後続のセシリアと土屋が到着した。
セシリアは馬から下りながら、村の向こう側に視線をやる。道のはるか向こうに、かすかに何か動いているものがある気がする。
「ジラルティーデさん、後から来る人はみんな、騎乗に慣れない人がほとんどだからもう少し遅れます。その間に出来る事はしましょう。‥‥村人はどうしました?」
「あの村長の屋敷にいる。‥‥来たか」
ズゥンビ達に先だって、インプ達が空から次々と襲いかかってきた。その何体かは、窓からこちらの様子を伺っていた村人達の方へと向かっていった。ぴしゃり、と閉じられた窓にインプ達がぶつかっていく。
セシリアは剣を抜くと、後続のズゥンビをしっかと見据えた。
「インプは通常の武器は効きません」
セシリアは、インプを払いながらオーラを発動させた。土屋もすらりと刀を抜き、インプに一刀を食らわせる。刀はインプの体に吸い込まれるように食いつき、羽を切り落とした。
「土屋、村長の家に村人を集めて置いた。インプから暫く守っていてくれ。後続がすぐに来るから、サーラと交代したらズゥンビ殲滅に戻って欲しい。‥‥行くぞ、セシリア」
ジラは土屋に言うと、自身も刀を抜いた。
ゆっくりとした足取りで、こちらにじりじりと這い寄るズゥンビの群れに、ジラとセシリアが突っ込む。
相手は三十体。セシリアは盾でズゥンビの爪を受けたが、二体、三体となると避けきれない。ズゥンビの爪は鋭くも、オーラと厚い防具に阻まれたセシリアに致命傷を与えるに至らない。
一撃で体をなぎ払い、二撃目で体を切り裂く。
ジラも鋭い突き下ろしでズゥンビを屠っていくが、セシリアに比べて装備が薄い為、避けきれなかったズゥンビの爪が否応無しに体を傷つけていく。
まずい‥‥。ジラがよろりと体をふらつかせる。するとセシリアが彼の前に立ち、盾となった。
「ズゥンビと思って甘く見てはなりません。‥‥この数です、何度も受ければ致命傷となります」
セシリアはオーラパワーを付与した剣を振り、ジラが相手をしていたズゥンビを一撃で払う。その間にもズゥンビ達はセシリアを切り裂こうと迫るが、装備に阻まれたセシリアに効果が無い。
このままでは先にジラが倒れてしまう。と、ジラの目に影が映った。真っ直ぐ、彼らはズゥンビの群れに駆けてくる。
まずレイ・コルレオーネ(ea4442)をフォローするべく同行していた女性が、アイスブリザードでズゥンビの群れを狙った。そこに向けて、レイが馬からジャンプして飛び込む。
「だぁぁぁっ!」
思わず避けるセシリアとジラ。
ズゥンビに跳び蹴りをかますと、レイは大声で名乗りを上げた。
「魔法戦士・見習い、レイ・コルレオーネ…ただいま見参!」
しーん‥‥。セシリアは気にもせず、ヒール・アンドン(ea1603)に声をかける。
「ヒールさん、ジラルティーデさんの傷を見てあげて下さい」
「は、はい」
「‥‥すまんな。サラ、あの家を守っている土屋と交代してくれ。レイとムーンリーズはインプを頼む」
ジラの指示に従い、サラが土屋の元へと駆けていく。せっかく名乗りをあげたレイは、誰も反応が無い(というか暇が無い)のでインプ殲滅に向かう。
「あ、皆さん」
治療をしていたヒールを、レイとムーンリーズが振り返る。少し心配そうな顔をしているヒール。
「あの‥‥皆さん。インプの能力は“インプ”ットされてますか」
しーん‥‥。これはギャグなんだろうか。ヒールがあんな真顔で言うもんなんだろうか。どう対処していいか分からないジラは、とりあえず無視して話を続けた。
「カレン、お前はここで治療を頼む」
「‥‥じゃ、私はズゥンビのお相手をしますね」
少し顔を赤らめ、ヒールは剣を抜いた。
自分も名乗りをあげようと思っていたムーンリーズは、凍り付いた雰囲気を前にして黙って彼に続くしか無いのであった。
インプによる攻撃は、空から自在に攻撃してくるだけあって当て難い。しかし動きは素早く無い為、攻撃は避ける事がたやすい。土屋はインプの攻撃を避けながら、近づいて来たインプだけを相手に刀で切り落としていた。
「土屋さん、ズゥンビを先にお相手願います。ここはわたくしが‥‥」
「分かった」
言葉短く行こうとする土屋の腕を、サラが掴む。傷を負っていた。黙って治療を施すと、サラは微笑を返した。
「どうぞ、お気を付けて‥‥」
最後にグッドラックの魔法を掛けたサラに、土屋は無言で少しだけ笑みを口元に浮かべ、ズゥンビの方へと足を速めた。
「‥‥サラ。サーラさーん?」
「は、はい?」
びくっと肩をすくめ、サラが振り返る。
レイが家に侵入しようとするインプをはね除けながら、サラの反応を待っている。ムーンリーズは、ライトニングサンダーボルトを空のインプへと放ち、まとめて薙ぎ払っていた。
雷に打たれて動けなくなったインプが、地に落ちてくる。サラははっと正気に戻り、ムーンリーズとレイにもグッドラックを掛ける。
「すみません。‥‥あの、中の方は窓を開けたりなさらないで下さいね。ここはわたくし達が守りますから」
「大丈夫、インプが来ているのに窓を開けるお馬鹿さんは居ないと思いますよ、マドモアゼル・サラ」
爽やかな口調で言い返したムーンリーズの言葉に、サラは更に困って顔を赤くした。
談笑している場合ではなく、レイは方々に散るインプをかき集める為にレビテーションで空に浮き上がった。空中で静止し、上空からインプの残数を数える。
「あと6体か‥‥土屋が1、2体削ってくれていたようだね。じゃ、気合い入れて片づけるとしようか」
フレイムエリベイションと、武器にバーニングソードを付与してインプを見据えるレイ。迫ってくるインプを、片端から斬りつけていった。
水辺方向に移動出来ればもっとインプを片づけ易い所なのだが、レビテーションは垂直移動する術。残ったインプは、ムーンリーズとサラに任せられる。
軽度のホーリーでは、インプを傷つける事は出来ないのですね‥‥。サラは唇を噛むと、攻撃を止めてフォローに専念する事にした。
総勢30体。ひとまとめで、なおかつ一度に相手にするのは、分散した30体のズゥンビを倒すのとは訳がちがう。
「さあて、一人4匹ずつ倒せばいいんだな? 楽勝じゃん」
鉄弓を握り見据えるオラース‥‥なんだが、マリウスの突っ込みが入る。
「確かにレイさんのサポートの方を含めて7人ですから、計算ではおおよそ4人ですが‥‥」
と、口を閉ざしてマリウスが槍を突く。左方から襲いかかったズゥンビをオーラシールドで防ぎ、更に突いた。4人とは言うが、1人で4人を相手にするという事は、1度に4体の攻撃を受ける事でもある。
盾を装備しているとはいえ、回避する事が難しいマリウスはジラの二の舞であった。
結局、多勢のズゥンビ相手に立ち回っているのは重装備のセシリアと、体格の割に身の軽いオラース。そして土屋だけだ。
ヒールも、攻撃するより仲間の回復をする時間の方が多くなっていた。マリウスとジラ、そして自分。その上、ヒールにはある程度までの傷しか回復出来ない。
致命傷を受ければ、それ以上戦うのは困難になる。
「村の人を守る為には、負けられません。‥‥でもどうすれば‥‥」
ヒールは、すうっと手にはめられた指輪を触れる。
その時土屋がすう、とレイのサポートのウイザードを振り返ると、声をかけた。
「片端から、ズゥンビの体力を削っていく。弱った所をまとめて魔法で殲滅しろ」
「‥‥それしか無いようですね。数を減らさなければ、こちらが手数に負けてしまう」
槍を握りなおすと、後方でヒールに回復を受けたばかりのマリウスが立ち上がった。
オラースはズゥンビの動きを軽くかわしつつ、スマッシュで次々とズゥンビを切り刻んでいく。
斬った端から、魔法でまとめて片づける。
インプを片づけ終わったレイ達が戻ってくると、マリウス達もほとんどズゥンビを片づけ終わった所であった。まだ蠢くズゥンビを確認し、一体ずつオラースが倒していく。
傷だらけのマリウスやジラは、自分も傷をうけているヒールに目にみえる分の傷を回復され、オラースに視線を向けた。
何か、見つけたのかオラースがしゃがみ込む。マリウスは立ち上がると、彼に歩み寄った。ズゥンビの死肉の中に手を入れ、オラースの手が何かを拾い上げた。
「‥‥何だ、こりゃあ?」
それは、金属製のプレート板であった。151、と彫ってある。それは、あちこちに転がっていた。
「人の手によって作られたものである事は、間違いないようですが」
マリウスもそれを手にして、じっと見つめる。
人の手によって作られた金属片。その正体が何なのか、今ここでは何も分からない。もしかすると、その影の正体はほんの少し離れた所にあるのかもしれない‥‥。
「‥‥皆さん、今回はありがとうございました」
元気な声にマリウスとオラースが振り返ると、カレンが疲れも見せずに会釈をした。
(担当:立川司郎)