さるさる☆パニック

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月06日

リプレイ公開日:2005年06月06日

●オープニング

 記憶に新しいはずのパリ近郊シュヴァルツ城での激しい攻防戦、禍々しいそれを忘れようとするかのように、パリの住民は記憶に塵を積み始めていた。
 首謀者であるはずのカルロス伯爵は逃亡中、彼の窮状を救った上位デビル・アンドラスもその姿を闇に沈めている──故に、パリの冒険者ギルドも月道や王城他の重要な施設と同様に警備を厚くしていた。ギルドを束ね指揮を執るという重責を担うギルドマスターの執務室も当然厳重な警備が敷かれている。
 しかし、世に『完璧』というものは殆ど無く──今日もまた、厳重なはずの警備を物ともせず、ギルドマスターの執務室へ侵入を果たした者がいた。
 怪盗ファンタスティック・マスカレード、その人である。
「また何か、人手の必要な事態でも起きたのかしら?」
「麗しき御仁へ愛を囁きに‥‥と言って欲しかったかね?」
「前回のような厄介事よりは断るという選択肢がある分だけ、まだ嬉しいわね」
 招かれざる客ですまんね、と肩を竦める仮面の怪盗。招かざる客であり決して認めることはないが、ギルドの一歩、二歩、いや三歩は先を行くその的確な情報はフロランスにとって貴重な判断材料であることは否めなかった。
「伯爵が取り寄せた婚約指輪に興味があるようだね」
「──まさか」
 ギルドでも上層部しか知らないが、一連の騒ぎに関連し、伯爵から出された依頼郡の調査を行っている。護衛までつけて取り寄せた『婚約指輪』は今回の騒動に措いて重要な存在である可能性が指摘されているところだ。報告書では湖に沈んだと記載があり、先達て回収を指示したところである。
 怪盗と仲間たちの実力は報告書の僅かな記述でも充分に示されているが、人数にすれば僅か4名。相手が何者だろうとも、集団ならば殲滅には時間がかかる。
「群れはあらかた退治し追い詰めたのだがね、残念ながら数匹のインプが擬態して逃げたのだよ」
 デビルが擬態でき得るのは生物のみであり、インプは姿を隠すことができない。そしてデビルの姿で行動し冒険者に発見されるリスク──全てを鑑みた時、少しでも無事に伯爵の下へ辿り着こうとしたならば動物に擬態するしかない。
「動物に関係する依頼は注視しましょう。指輪は発見次第回収させます。詳細はその後に」
 重要なアイテムを有益に使いたいのは怪盗一味もギルドも同じ。諍いの種には覆いを被せ、再び懐疑と打算を孕んだ一時協定が秘密裏に締結された。

 足の踏み場もない部屋にそろりと侵入すると、男はゆっくりと周囲を見まわした。積み上げられた箱や木簡の類、書物、そして何が入っているのかわからない壺。
「‥‥あ、それは踏まないでください。発動したら命が無いですよ」
 向こうの部屋から声が聞こえた。銀色の髪に、透けるような白い肌。服装はしわだらけで、薄汚れている。ただ、その端正な顔からは年齢が読めなかった。
 今下ろそうとしていた足の下に小さな箱があるのに気づき、男は足の先でそれを避けて歩いた。
「‥‥あんたがアッシュという男か」
「そうですけど‥‥どちら様でしょう」
 アッシュは、片手に刀を下げた男をまじまじと見つめた。
「俺は土屋三郎。この森に白猿が出るだろう?」
「そういえば、そんな事もありましたねえ」
 しかも、冒険者に食べさせたりしたが。アッシュは土屋の体のあちこちにひっかき傷があるのに気づき、ふ、と笑った。
「おや、あの猿を捕まえようとしたんですか? それはご苦労様。私以外に、あの猿が食べたいと考える者が居るとは知りませんでしたが」
「食べるのではない! あいつが‥‥いや‥‥それはいい。ギルドで、この森に関する依頼は大抵あんたが引き受けていると聞いたが」
 アッシュは、静かに土屋の話を聞いている。。
 黙って聞いた後、ふう、と息をついた。
「なるほど、あの騒動の中にインプが指輪を持って逃げた‥‥その指輪を持ったインプは、どうやら白い生き物に変化して、逃げ回っているらしい‥‥と」
「この周辺にも悪魔の活動が見られると聞いた。だとすれば、ここにたどり着いてもおかしくあるまい」
「確かにそうですね。ですが、生け捕りというのは何故ですか」
 そう。インプであろうとなかろうと、必ず一体生け捕りにしなければならない。土屋はそう言ったが‥‥。

 そもそも、何故自分があんな馬鹿な話に付き合わせなければならないのか、全く分からない。しかし、それとは別にして‥‥インプがどこかに逃げているというならば、捕まえねばなるまい。
 もし白猿の中にインプが居なければ‥‥その時もまた白猿を捕まえて帰らなければならないのだろう‥‥きっと。
 そして、得をするのは奴‥‥マスカレードだけなのだが。

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4658 黄 牙虎(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5180 シャルロッテ・ブルームハルト(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 普段は人の立ち入らない、静かな森。ミケイト・ニシーネ(ea0508)は、半年ぶりにこの森を訪れていた。
 あの時の事が、昨日のように思い出される。
 まぁ、いい事と悪い事と両方。
 アッシュの家で土屋三郎と合流すると、ミケイトは白猿が出没するという大体の位置を聞き出し、罠もアッシュに借り出して出立した。
 その際にアッシュはやけににこにこと笑っていたが、大抵何を期待していたのか、分かっているから黙っておく。
「何だか、やけに機嫌がいい人ですね」
 事情を知らないエルリック・キスリング(ea2037)は、振り返りつつミケイトに聞いた。ミケイトや、シフールのセルミィ・オーウェル(ea7866)はアッシュと何度か会った事がある。ミケイトは“色々喰わされてん”という依頼で、セルミィは“大きな蛇さんと森の精霊さんがいらっしゃいましたよ”という依頼で。
「何に期待しとるか、見え見えやけどな」
 ぽつりとミケイトは言うと、ラファエル・クアルト(ea8898)とローサ・アルヴィート(ea5766)を呼んで立ち止まった。
 主に罠の設置と探索は、こういった作業に向いた彼らが主だって行う手はずになっている。パラのマントを使って野営はミケイト、パラのミケイトは力仕事に向いていないので、そのあたりはラファエルに。雑多に浅く広く知識を持っているローサは、罠の設置から誘導まで、全般フォロー。
 クレリックであるサラフィル・ローズィット(ea3776)は、皆が怪我をした時の手当や、白猿が悪魔かどうかの判定を行う。シフールのセルミィと黄牙虎(ea4658)は、体が小さい事を生かして潜伏や、攻撃を。
「一人足らへんのとちゃう?」
 ミケイトが、仲間の数を数える。そういえば‥‥。
「ええと‥‥わたくしの他にもクレリックの方がいらっしゃったはずですが」
 サラが言うと、ああ、とローサが声をあげた。
「そういえば見あたらない!」
 居ない。居ないものは居ない。打ち合わせには居たから、居なくなったとすれば道中しかない。
「まあ、仕方ないじゃない。子供じゃないんだから、一人で帰れるわよ。それで、どこに猿が居るの」
 ラファエルはけろりとした様子で言い、ミケイトと土屋に視線を向ける。土屋は、ミケイトを見た。
「俺が見かけたのは、このさらに奥‥‥獣道の途中だ」
「うちもそうやな。前は餌でおびき出して罠掛けたんやけど、今回も同じでええ?」
「いいんじゃないかしら。あたし達、出来る事が限られるから‥‥て、重い‥‥」
 牙虎は、やたらと重そうなバックパックを抱えてパタパタと飛んでいる。それを見たキスリングは、一つ疑問に思って鞄に手を伸ばした。
「一体何が入っているんですか?」
「‥‥ひ、必要なもの‥‥かな」
 必要なもの、と言って中から出てきたのは、大量のワインと保存食。一方、保存食は持って無いセルミィと、ほとんど無いに等しいラファエル。
「アッシュは保存食出してくれるって聞いてたわよ」
「そうですね、前の時も食事は賄って頂けましたし」
 まあ、それはそうだろうとミケイトも思っていたが、念には念を入れるというのがレンジャーなわけで。しかも今回は罠を仕掛ける訳で。
「罠に仕掛ける餌は、保存食使うって事でええかな。‥‥まあ、ラファエルはんが持ってへんでも皆持ってるみたいやし」
 一抹の不安を残しつつ、一行はミケイトを先頭に森に分け入った。
「でも、指輪ってのはどういう経緯なの?」
 黄はキスリングの肩を借りて一休みしながら聞いた。セルミィは土屋の肩に座っている。
「うーん‥‥それはねぇ」
 ローサが、苦笑まじりに話した。まあ、詳しい経緯はローサも把握していないのだが、インプが奪った指輪は、確かに湖に落ちた。
「‥‥まあ、事故みたいなもんかな。だってそんなもの持ってるなんて、そもそも見えなかったんだし‥‥あ、あたしが落としたんじゃないからね」
 ローサはふるふると首を振ると、それを否定した。
「ほら、行こうよ。早くしないと、日が暮れちゃうよ」
 元気よく歩き出すローサの後ろで、ラファエルとミケイトは顔を見合わせ、歩き出した。

 罠の設置に選んだのは、前回にミケイトが狙いを付けて置いたポイントの一つであった。前回に白猿を捕まえた際、ミケイトは森を歩きながらその痕跡を見ていた。おそらく、活動区域はそう変わってはいるまい。
 キスリングとサラは持ってきた野菜や果物を出し、それをローサが罠に設置していく。ミケイトは、網を周辺に仕掛けていた。
「あ、ラファエルはん、このもうちょっと上に頼むで。‥‥きちっと草と葉っぱでフォローしといてや」
 樹上に上ったラファエルに、下からミケイトが細かく指示をしていく。確かに女ばかりのこのメンバーで力仕事をしそうなのは、ラファエルと土屋だけだが‥‥。
 セルミィはやる気はあるようだが、力仕事が全く出来ないので実際は飛び回るだけしか無いし、そのうち牙虎が何か作っているのに気づいて、その手伝いを始めた。
「ちょっと、あんた達手伝ってよ!」
 ラファエルが声を上げると、牙虎はちらりと振り返った。
「だって、あたし達手伝える事が無いもの」
「へー、そういう事言うわけね」
 ラファエルは文句を言いながら、網の設置を続けた。
 一方、キスリングとサラ、ローサは餌について考えていた。果物や保存食は一通り用意している。
「それに、インプが来た場合の事も考えなければなりませんね」
 サラがどうすべきか首を傾げると、キスリングが答えた。
「罠に掛かって、それからデティクトアンデットを掛けるといいでしょう」
「誓いの指輪を仕掛けてはいかがですか? これ銀製品ですけども」
 サラが、持っていた指輪を取り出す。しかしキスリングは首を振った。
「銀の武器を嫌がるというのは、噂にしか過ぎないようだから、それほど効果があるとは思えませんね」
「確かに銀製品は悪魔にも傷を与えられるが、触れただけでダメージを与えられるものではない。あれは民間に伝わる迷信だ」
 土屋がキスリングに続いて言った。
 特に手だてが無いのであれば、捕まえた後で考えるしか無い。餌を仕掛けると、キスリングは樹上を見上げた。ラファエルも、そろそろ作業が終わる頃らしい。
 ふい、とサラが視線を動かした。
 どこかから、いいにおいがする。振り返ったキスリングは、ふ、と微笑した。
「何を作っているんですか?」
「みんな疲れてるだろうと思って、保存食で料理を作ってみました! ‥‥どう?」
 セルミィと牙虎にとって、体の大きさの違うこのメンバーの分まで料理を作るのは大変な作業だ。セルミィは疲れ果てて、木の根本に座り込んでいた。
「じゃ、野営の場所まで運んでね」
 牙虎はにっこり笑って、手を打った。

 その日は、昼間ずっとラファエルとミケイトが張り付いていた。しかし、白猿は近くに来ては居るものの、罠の餌に手を付ける様子が無い。
 結局夜になり、その日は森の出口付近まで戻ってきた。
「みんな、美味しいものを食べて気分転換して」
 牙虎の作った料理を食べながら、ミケイト達は明日の事について考えた。
 前回は確かに罠に掛かった。
「やっぱり前にも捕まえてるし‥‥警戒してんのかもしれんなぁ」
 ミケイトが呟くと、自分の料理の味を再確認しつつ、牙虎が答えた。
「今度はあたしも近くに潜伏するわ。セルミィ、来る?」
 牙虎がちらりとセルミィを見返すと、セルミィはハイ、と大きく頷いた。
 相変わらず口数少なく、むっつりしている土屋を見て、ラファエルが肩をばしばしと叩いた。土屋は突然叩かれ、持っていたスプーンをぽろりと落として咳き込んだ。
「何むすっとしてんのよ、つっちー! そんな顔してるから猿に馬鹿にされんのよ」
「な‥‥なんだ、そのつ‥‥つっ」
「可愛いでしょ? セルミィが考えてくれたのよ〜。絶対お似合いね」
 顔を真っ赤にして口をパクパクさせている土屋を見て、ローサがにんまりと笑った。
「つっちー、猿に引っかかれた“名誉の負傷”を、サラに治癒してもらっておいた方がいいんじゃない〜? つっちー! ほら、傷口が腐ったりしたらいけないし。ねぇ、つっちー!」
 連呼するローサに続き、セルミィがあぐらを組んでいる土屋の膝にちょこんと座り、潤んだ瞳で見上げた。
「つっちー様、私たちと一緒じゃつまらないですか?」
 だからつっちーはヤメレと言うのに‥‥。
「だいたい、なんで生け捕りなんですか? つっちーさん」
 キスリングが、平然とした顔で土屋を見る。ミケイトは神妙な顔で、考え込んでいる。
「うーん‥‥やっぱり、喰うんちゃうの?」
「つっちー一人で食べるの? ちょっと多いんじゃない?」
 と、牙虎。
 みんながつっちーと連呼するので、サラはどうしたものかと困惑した様子で、土屋を見返した。
「あの‥‥あの〜‥‥土屋様はつっちー様と呼ばれるの、お嫌ですか?」
「嫌じゃないわよねぇ、つっちー」
 ラファエルは有無を言わさぬ強い口調で言った。
 むしろ、土屋が恐れているのは、この呼称がどこかに漏れてしまう事で。誰かに漏れでもしたら、その誰かさんはきっとしばらくずっと“つっちー”と呼ぶだろう。
 大体、奴がまた例によってくだらん話を真に受けたりするから、こういう事になるのだ。
 そもそもクラリッサ嬢もクラリッサ嬢だ。
「‥‥クラリッサ嬢がどうしたんですか?」
 キスリングが、まじまじとこちらを見ていた。土屋ははっと正気に戻り、口を閉ざす。牙虎はくす、と笑って土屋にワインを注いだ。
「まあま、一杯飲んで。少し落ち着いたら?」
 落ち着いたら、もっと口が滑るかも。牙虎が、大量に持っていたワインを土屋に飲ませていく。ラファエルやローサが煽り、サラは止めようとするがキスリングはにこにこ笑って止めようともしないし。
 飲み過ぎて眠りについた土屋の横で、キスリングは腕を組んだ。
「‥‥で、話をまとめると、クラリッサ嬢の呟いた一言が原因で、白い動物を捕まえなければならない、と」
 絵のモデルにする為に、白い動物を探している、と言ったクラリッサの願いを叶える為、マスカレードは白い動物を集める事にした。
「本当にインプは白い動物に化けてるの? それって、怪盗の都合じゃないの」
「いや、でも指輪が落ちたのは本当だよ」
 牙虎が言うと、ローサが答えた。
 ともかく。まあ、どうしても土屋が怪盗の為に白い猿を捕まえるというなら、止めはしないが。一同は、ぐっすり眠っている土屋を見下ろした。

 2日目は、罠を仕掛けた場所の近くの樹上へ、セルミィと牙虎が隠れて待ち伏せをする事になった。セルミィはスリープで、牙虎はソニックブームで攻撃する事になっている。
「それじゃ、つっちーの捕り物劇を堪能しようか」
 その最後の一言に顔をしかめて、土屋は鞘に手をやって待機をした。
 昨日は逃がしたが、今日も逃がす訳にはいかない。ミケイト達以外現場から離れると、彼らの合図を待った。
 日が昇り、天空高くに上がる。
 そして昼を過ぎた頃、牙虎は何かに気づいた。セルミィも、牙虎が見た方向に視線をやる。木の上を移動しながら、白いモノが3つ‥‥。
「お、おっきいです‥‥私たち一飲みです、牙虎様」
「大丈夫よ、その前に倒せばいいのよ」
 と牙虎は言ったが、さすがに白猿、ヒトほども大きさがある。
 猿は餌を見つけると、しばらく警戒するように周囲を回った。やはり、ミケイト達が気づかれているのだろうか。それとも、臭いがついているからなのか?
 接近しなければ術が掛けられないサラは、静かにキスリングを見上げる。キスリングは、ミケイト達が動き出さないのを見て、静かに手をかざして制した。
 やがて3体が罠の近くに来た時‥‥。
 ミケイトは、パラのマントから飛び出して罠を作動させた。一体が、網に包まれて動きを止められる。残る二体に向けて、牙虎がソニックブームを放った。
「逃がさないわよ! ローサ、つっちー!」
「了解っ」
「つっちーじゃない、と言うに‥‥!」
 ローサと土屋は、ラファエルに続いて猿を追いかけ始めた。しかしこの猿、なかなか素早い為に、捕まえるどころか追いつかない。
 いいように遊ばれながら、ローサが舌打ちした。
「くっ、この猿‥‥大人しく捕まれ!」
「猿だって‥‥食べられるのが嫌なのよ」
「あたしは食べないの!」
 ゆっくりと後から、サラとキスリングが現れる。
 サラは三体にデティクトアンデットを掛けると、にこりと笑った。
「悪魔は居ないようですね。この近くにも、気配は感じられません」
「だそうですよ、ミケイトさん」
 網に掛かった猿を縛り上げようと奮闘しているミケイトは、軽くうんうんと頷くと、ロープをしっかりと掴みなおした。
 こっちも、当分かかりそうである。
 一方、残る一体は逃げようとして牙虎の方へと全力疾走していた。樹上に上がると、牙虎が目隠しに置いていたワインの瓶に突撃する。
 セルミィが悲鳴を上げると、牙虎は彼女を庇うように立って、更にソニックブームを放った。くるくると周りながら落ちたセルミィは、羽を羽ばたかせて空中で体勢を整え、詠唱に入った。
「‥‥お猿さん、げっちゅです!」
 セルミィの体が銀色の光に包まれたと思うと、猿の足下がふらふらと蹌踉けた。くらりと体が揺れ、地面に落ちていく。
 猿は激しく地面にたたき付けられると、衝撃で目を覚ました。
「つっちー様、猿が行きました!」
「‥‥つっちーじゃないと‥‥」
 土屋は落下した猿に気づくと、刀を抜きざまに振った。

 激しく声を上げている猿の横で、仲間の猿をさばくミケイトとラファエル。
 サラはその光景を見てちょっと可哀想かも‥‥と思っていたが、“食える時に喰って力つけんとあかんで”というミケイトの意見や、捕ったら食べる、といラファエルの意見に従って、食べてみる事にした。
 一方、死んでも食べる気が無いのはローサと、意外にも牙虎。
 楽しそうに料理をしているラファエルを、複雑な面持ちで牙虎は見ていた。
「‥‥本当に食べるの?」
「当たり前じゃない。ミケイト、美味しいって言ってたし」
 ラファエルが答えると、セルミィは待ちきれないようにそわそわと飛び回った。
「つっちー様食べますよね? ね?」
「‥‥猿か。猿は体に良く、薬食だと聞く」
 ぽつりと土屋が言うと、サラが意外そうな顔をした。
「そうなんですか?」
「ジャパンでは大抵、肉は薬として用いる」
「そや。肉は体にええで〜。さ、食べよか」
 くるりとミケイトが振り返ると、ローサが反対側を向いた。牙虎は猿の様子を見てくる、と言って飛び去る。
 やって来たアッシュは、にんまりと笑った。
「おや、依頼主が食べるというのに食べないんですか? 依頼報酬が減ってもいいと‥‥」
「やな人間ね、あなた」
 牙虎はむっとした顔でアッシュを振り返った。
(担当:立川司郎)