猫の悪戯

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月08日

●オープニング

 これで5度目だ。
 森に火がつき、村人総出で消して回ったのは、もう五度目だった。森に火がつくのは、珍しくない。何故なら、この付近の森にはジュエリーキャットが住みついているからだ。
 ジュエリーキャットは、額に宝石がついた猫の姿をした生物で、それぞれ額に持つ宝石に応じた魔法を使う。村の近くに住むジュエリーキャットの多くは、ルビー‥‥すなわち火の魔法を使う為、しばしば森に火がつく。
 だからといってジュエリーキャットに悪意があるわけではなく、たまに何かに驚いた時やうっかり魔法を使った時、火をつけてしまう事があるだけだ。その中でも、森に広がるのは年に一、二度。村人で手分けをして消して回るか、水の魔法を使うジュエリーキャットが自分たちで消して回る。
「‥‥何かがあったんじゃろうか‥‥」
「この間、山向こうの村にゴブリンの群れが出たと聞く。‥‥もしや、ここにも来たのかもしれんぞ」
 森にモンスターの群れがやってきて、そのせいでジュエリーキャットたちが騒いでいるのかもしれない。
 火は、2日たっても消える気配が無かった。
「仕方ない、人を雇ってゴブリンの群れを追い払うんじゃ」
「長老、では火は‥‥」
 聞いた事がある。森の真ん中にある古い小さな廃寺院に、言い伝えがある事を。
 寺院に置かれた天使の石像に祈りを捧げると、たちまち火を消してくれるという。
 天使の石像は、今でもこの森を守ってくれているのだろうか?

●今回の参加者

 ea1558 ノリア・カサンドラ(34歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1603 ヒール・アンドン(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea2058 劉 深川(30歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea3158 ハイラル・サーネルド(35歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3725 ジャン・ゼノホーフェン(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 村の周囲は、深い森に覆われていた。森の中、細い野道を歩いてゆくとその村が森に埋まるようにしてあった。来る途中でも焦げた匂いは風に乗って流れて来たが、近くに寄ると煙と熱が体を包む。
 一足先に火事とモンスターの様子を確認して来るのは、レンジャーであるジャン・ゼノホーフェン(ea3725)と風のウィザード、ラシュディア・バルトン(ea4107)の役目だ。
 ジャンはモンスターの知識もある程度あるし、モンスターに気付かれずに近づく事が出来る。また、ラシュディアのブレスセンサーで遠くから相手の数を確認出来る。
 ジャンはじっとりと首筋を流れる汗を拭きながら、村で待つ仲間の元へと報告に戻った。
「火はそれ程広がっては居ないが、あちこちに飛び火していて、全部消すのは大変だろうな。件のジュエリーキャットを怖がらせているというモンスターも確認して来た」
「やはりゴブリンでしたか?」
 劉 深川(ea2058)が静かな口調で聞くと、ラシュディアが頷いて答えた。
「ゴブリンが四体。残念ながらジュエリーキャットの姿は確認出来なかったけど、あちこちで火を消しているだろう様子はうかがえたな」
 まずはゴブリン退治、それから森の火を消す。おおむね、仲間は皆そういう行動で居たが、神聖騎士のヒール・アンドン(ea1603)と風のウィザード、ラシュディアだけは廃寺院の事が気になっていた。
「もしかすると、火を消すのに役立つかもしれん。俺はヒールと、寺院の方に行ってみるが、構わないか?」
「ああ、こっちは6人いれば手は足りる」
 ハイラル・サーネルド(ea3158)がラシュディアに言った。
 ラシュディアとヒールはここで一端別れ、寺院の調査へと向かっていった。残ったハイラル達は、ゴブリン退治の打ち合わせをする事にした。
「正面組と、退路を断つ者とに分かれよう。背後に回るメンバーは、隠密行動が出来る者の方がいい。俺はこっちに回るが」
「じゃあ私は、ハイラル殿のフォローに回るとしよう」
「お供しましょう、ジャンさん」
 劉が言うと、ジャンはふ、と笑った。
 残るノリア・カサンドラ(ea1558)、アハメス・パミ(ea3641)、シャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)が正面でゴブリンと対峙する。
「猫も出て来てくれるといいですね」
 期待満々で劉が言った。劉はジュエリーキャットに会いたいようだ。猫より寺院の方が見たいジャンは、劉や同じく期待しているシャル程期待はしていない。
「村の人に聞いた所によると、火の魔法を使う猫はルビーの宝石を額に宿しているそうです。だとすると、水はアクアマリンでしょうか」
「そうですね‥‥単にブルーであるなら、ブルートパーズやブルーダイヤもありますわ」
 シャルが劉と一緒に、水魔法を使う猫について考え込んだ。ジャンは、タイミングを見て、二人に答えてやった。
「水はサファイアだ。‥‥で、エメラルドが地魔法。ダイヤが風だな」
「エメラルドにサファイア‥‥是非一度撫でてみたいですわね」
 そっと目を閉じ、シャルは考えに耽った。

 森の中に潜む気配と臭いに最初に気づいたのは、シャルだった。風の吹く方向に目を向け、足を止めた。その手が腰に向けられる。
「どうやら、現れたようです」
 シャルが後ろから来るノリアに告げると、ノリアはメイスをしっかりと握りしめた。
 ノリアの目にも、ゴブリンの影は朧げに見えていた。
「よし、じゃああたしが一番乗り!!」
 と、ノリアはメイスを振り上げて突入した。クレリックだというから回復役だと誰もが思っていたが、まさか先陣切るとは‥‥。ため息をついて、パミがシャルに声を掛けた。
「騎士の貴殿は、突撃しなくてもいいのですか?」
「い‥‥行きますわよ!」
 レイピアを構え、シャルもノリアの後に続いた。
 ノリアが先陣を切った事に驚いたのは、ハイラルとジャンも同じなわけで。ノリアとシャルがゴブリン達に突っ込むのを、後ろから静かに見ていた。
 しばらく様子を見てはどうだろう、と笑いながらいうジャンに、ハイラルは肩をすくめてみせた。
 メイスは打撃武器であるから、基本的にノリアの戦闘は殴る事に限られる。シャルはノリアの戦っているゴブリンではなく、もう一体の背後に居た方へとレイピアを突いた。
 踊るようにしなやかで優雅なシャルの剣技で、ゴブリンの喉元にレイピアが突きつけられる。
「一体はお願いしますわ、パミさん」
「分かりました」
 パミはシャルに答えると、抜きざまに剣を振りかぶり、残る一体に斬りつけた。
 体勢を崩したゴブリンに、続けて一撃をたたき込む。
 パミはゴブリンが渾身で繰り出した剣を受け流し、剣を横薙に斬りつけた。
 ちら、と見るとまだノリアが叩いている。そちらにカバーに回ろうとしたパミの目に、横からレイピアを突いたシャルが映った。
 ノリアはちょっと不服そうである。
「‥‥余計でしたかしら?」
「別に」
 釈然としない様子で、ノリアは周囲を見回した。
「もう一体居ない」
 そのもう一体は、待ち伏せしていたハイラルが待ち受けていた。
 ハイラルはゴブリンの突きつける剣にも構わず、剣を繰り出した。ゴブリンの二撃目をかわしつつ剣を下から切り上げる。よろよろと下がったゴブリンに、背後から気配を消して近づいていた劉の剣が食い込んだ。
「これで終わりですか?」
 劉はノリア達を見つけると、にっこり笑って言った。
 ハイラル(おそらく、他のメンバーもだろうが)はメイスを持っていて、なおかつ魔法を全く使わなかったノリアの事が気になって仕方なかった。
「ああ、あたし黒だから」
 さらっと言い返すノリア。
「いや、黒だとかではなくて」
「どうも魔法唱えているより、こっちの方が手早くて‥‥」
 ハイラルは呆れて口を閉ざした。
 魔術が一つも使えない、クレリックって‥‥。
「そんな事より、火を消さなきゃ!」
 ノリアのあげた声で、ハイラルが顔を村の方に向けた。
「そうだな」
「じゃあ、寺院の方には私が伝えに行こう。‥‥火を消す事が出来るものが、見つかるといいな」
 ジャンの言葉に、何故かパミが何か言いたげに見ていた。

 寺院は天井が崩れ落ち、壁石が床に散乱していた。苔むし、草があちこちから生えている。ヒールは足下に気を付けながら入っていくと、正面に鎮座する天使像を見上げた。
 天使像は多少汚れていたが、大きな破損もないようだ。
「綺麗な‥‥像ですね」
 ヒールは、静かに天使像の前に立つ。ラシュディアは像の周辺を探りながら、ヒールに答えた。
「もう長い間、ここにあるそうだ。村人も、どういういきさつがあったここにあるのか、詳しく知らないらしいな。ただ、先の隣村のゴブリン事件の時の天使像と関係があるらしい、とは分かっている」
 ラシュディアは像に手を掛け、ちらりとヒールを見た。仕方なくヒールも手を貸し、天使像を抱え上げた。重いが、何とか持ち上がる。
 しかし頑張って持ち上げたのに、台座には何も無かった。
「この台座も持ち上げてみよう」
「え? ‥‥これもですか?」
 嫌そうにヒールが呟く。ラシュディアはヒールを急かすと、台座に向かった。
 汗だくになったというのに、結局何も見つからなかった。
 疲れて座り込んでいるラシュディアの元に、周囲を探索して来たヒールが戻ってきた。
「何かあったか?」
「何も無いですね」
 ヒールは改めて、像を見上げる。うす汚れた像にヒールは手をやり、そっと埃を払った。
「何か言い伝えで、祈りの言葉とか無かったんですか?」
「そういうものは無い‥‥というか、みんな忘れちまっているみたいなんだ。古い話だからなぁ。‥‥おいヒール!」
 聞いているのか、とラシュディアがヒールを見ると、ヒールは手を伸ばして天使像の顔に手をやっていた。天使像は台座の上にある為、あの位置では小柄なラシュディアは届かない。
「何だ、それ」
 ヒールは天使像から、何かを抜き取った。抜き取ったというよりは、像が痛んでいた為に簡単に取れたという方が正しいが。
 ヒールの手の中に輝いているのは、蒼い宝石だった。
 日の光に、きらきらと輝いている。
「勝手に持っていっていいのか、ヒール」
 笑いながら聞くラシュディアを、ヒールは真っ赤な顔で見返した。
「そ、そんな事しません! でも‥‥何か関係があるかもしれませんよ? ‥‥ほら、ジュエリーキャットって額に宝石があるって言いますし」
「ジュエリーキャットの宝石を奪ったら、魔法が使えるって思ってるのか?」
 声が聞こえた、背後を振り返ると寺院の入り口にジャンが立っていた。ラシュディアは立ち上がると、ジャンの方に歩み寄っていく。
「その調子だと、そっちは片づいたのか?」
「まぁね」
「それより‥‥ジュエリーキャットの宝石って、魔法が使えたりする‥‥んじゃないんですか?」
 ヒールがジャンに聞くと、ジャンははは、と笑った。
「あの宝石は、本物じゃないのだよ。だから取り外すと、崩壊してしまう」
 ジャンの話に、ヒールは怖そうに蒼い顔をした。

 火は、消す先から出ているようだった。
 とにかく森を駆け回るだけでも大変な重労働で、いかに体を鍛えているハイラルやパミとはいえ、こう長時間水場との往復、水桶のリレーは体に堪える。
 ハイラルが試したオーラアルファーは周囲にダメージを与えるが、火を消せる類のものではないし、こうなれば鎮火を待つしかない。
 その時、劉が森の置くへと顔を向けた。ハイラルも、そちらに目を向ける。
「‥‥何か音が聞こえるな」
「水の臭いがします」
 劉は、そちらに向けて駆け出した。
「あ‥‥ちょっと待って!」
 劉の後をノリアが追い、ハイラル達も続いた。
 森の奥から漂う、水のにおい。
 それは、水を次々と消して回っていた。
「まさか‥‥ジュエリーキャットですか?」
 期待した様子で、シャルが聞く。しかしそうではない事は、劉は気づいている。
 おそらくこれは‥‥。
 劉達が立ち止まると、視線の先には何かを掲げたラシュディアが立っていた。
 側にいたヒールが、こちらに気づく。ジャンは軽く手を振って、皆を呼び寄せた。
 ラシュディアの手にあったのは、蒼い宝石だった。

 村に戻ったのは、翌日の朝だった。くたくたになって一眠りした後、改めて一行は森に入って、モンスターが居ないか確認して回った。
 森の中は静まりかえっており、ゴブリンの気配はもうしない。
「‥‥村の守り神‥‥ですか」
 ヒールが宝石を見つめながら呟くと、ノリアがにんまり笑った。
「天使の奇跡‥‥じゃないのかな。これも、天使像を守ってくれー、って言う神のお告げと試練かもしれないよ」
「おや?」
 劉の視線の先に、ノリアも目を向けた。森の奥、少し離れた木の上から、猫が数匹じっとこちらを見ていた。近づこうとするシャルの手を、劉が掴んで止める。
 シャルは声をあげず、ジュエリーキャットを見つめた。
「あれがジュエリーキャットですか‥‥パリの貴族達の間でも、ジュエリーキャットは珍重されているそうです。とても賢くて美しいですから」
「でも、やはり野山にあってこそ、その生き生きとした美しさを目に出来るものだと思います」
「そうですね‥‥本当に」
 シャルは劉に、そうこたえた。

 寺院の周囲は、火事に巻き込まれてはいなかった。廃寺院に来ようといったのは、パミである。ノリアは一応来たが、天使像の掃除には協力出来ない、と入り口に座り込んでみていた。
 掃除を手伝いながら、シャルがちらりとパミを見る。
「あなたも天使を信仰していらっしゃるの?」
 パミは少し手を止め、顔をシャルに向けた。
「私はエジプトから来ました。むろん、宗教や習慣の違いはありますが‥‥おかしいでしょうか?」
「パミ殿、おぬしは何故あんな事を言ったんだ」
 ハイラルがパミに聞いた。
 村人にパミが言った言葉。
 宝石の事を、あまり触れ回らないように、と。それは長老達だけが知っていればいい事で、みんなが知る必要はない。
 パミは、少し表情を和らげた。
「あんな事、とは心外ですね。‥‥当然の事です」
 ちらり、とパミはノリアを見た。きょとんとした顔でノリアが見返す。
「奇跡とは、本来人が起こすものです。あの宝石に力があったとしても、森や村を守るのは村人自身‥‥そう思っていて欲しいのです」
 そっと手を挙げ、パミは蒼い宝石を天使像へと戻した。
「パミは、神を信じていないの?」
 ノリアの問いかけに、ヒールやシャルもパミを見る。ヒールとシャルは神聖騎士だし、ノリアはクレリックだ。神を信じないラシュディアならまだしも、と言うノリアに、パミは首を横に振った。
「私には私の神がある」
 何故そうしたのか。それはパミがジュエリーキャットに見せた熱意の籠もった視線に意味があるのかも、しれない。

(担当:立川司郎)