セレスティンとジェラール

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月05日〜06月09日

リプレイ公開日:2005年06月09日

●オープニング

 じっとりとかいた汗をぬぐうと、静かにベッドから足を下ろした。
 眼下の街は眠りについているが、窓を開けてベランダに出ると、側に灯りがついているのが見えた。街は眠れども、ここ‥‥城内は眠らない。
 あれから数日‥‥セレスティンは眠れずに居た。
 このリアンコートの街に殺人鬼が現れてからというものの、ギルドの冒険者達とともに街の平穏の為に密かに活動して来た。しかし、最後の最後で力及ばず、殺人鬼シシリーを逃がしてしまったのである。
 ほっとしているのは、城内の者‥‥。一応リアンコートの次期領主候補ではあるが、所詮十二才の娘。領主として立てる器ではないのだ。
 そういう声が聞こえた。
 カチャ‥‥という乾いた音が聞こえ、ふとセレスティンは視線を動かした。隣の部屋の窓が開き、誰かが姿を現した。辺りをうかがうようにしてベランダに出てきたのは、一人の少年だった。
 十四、五才ほどのほっそりとした体躯の少年は、ベランダに出るとこちら側の枠に手をかけた。
「‥‥どうするの‥‥止めなさい、ジェラール!」
 セレスティンが小声で制止したが、ジェラールは聞き入れずに窓枠を越えた。壁に足場を見つけ、ゆっくりと体を移動させる。
「落ちたらどうするの、ここ三階よ」
「だいじょう‥‥ぶ。‥‥あっ」
 ずる、と足が滑り、体が落ちる。しかし間一髪枠を掴み、セレスティンに引き上げられた。
「何やってんのよもう‥‥わたくしが殺したって思われるでしょ?」
「ごめん」
 くったくのない笑顔を浮かべると、ジェラールはすとん、とベランダに降りた。セレスティンは喋りつづける。
「大体、鈍くさいくせにベランダなんて越えようとするなんて、無茶無謀すぎるのよ。‥‥それでいつ帰ってきたのよ」
「今日さ。そういえばお父さん達が、セレスが殺人鬼に襲われたって言ってたけど、何かあったの?」
 きょとんとしているジェラールに、セレスティンは小声で話しをした。殺人鬼を追いかけていた事や、そのうちの一人‥‥クリストファを捕まえた事。それが、騎士団の功績になってしまっている事。
「えっと‥‥そういえば、殺人鬼が出たって聞いた‥‥気がするかな。でも、それとセレスの後継者問題と‥‥何か関係があるの?」
 セレスは、また小一時間あまり話を続けた。
「‥‥ん、なんとなく分かった気がする。でも、それと僕の後継者問題と、どう関係が‥‥」
「ああもう、面倒くさいわね! 馬鹿なんだからもう、馬鹿! いいわよもう。‥‥何の用事だったの?」
「ああ‥‥そうだった」
 ぽん、とジェラールは手を叩くと、にこりと笑った。
「あのさ、パリ見物に行かない?」
「‥‥パリ? ‥‥今から?」
 セレスティンは、驚いて声をあげた。

 ギルドのお兄さんに届いた手紙には、こう書かれていた。
“というわけで、二日後にパリに行きます。誰か案内して頂ける方を探しています。ギルドとか、パリの有名なお店とか、行ってみたいと思っています。ただ、お忍びなので、あんまり目立たず‥‥。追伸。ジェラールは、美味しいものが食べたいそうです”
 詳しい事は、あんまり考えないで。
 ただわたくしは、小都市の次期後継者候補で、ジェラールも次期後継者候補。で、後継者争いが城内で勃発しているから、お城に堂々と迎えに来られたり、ジェラールとわたくしが二人で堂々と出かけたり出来ないの。
 それは分かってくれて?
 でもパリなら大丈夫。
 ジェラールはお馬鹿さんだから、親の言いなりに騎士の道を邁進して、城内で殺伐とした殺しあいが続いている事なんて、ちっとも気づいて無いの。
 まぁ、そんなジェラールにもパリでノンビリしてもらうのもいいかもと思って。
 よろしく頼むわね。
 セレスティンより。

●今回の参加者

 ea1560 キャル・パル(24歳・♀・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3677 グリュンヒルダ・ウィンダム(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6707 聯 柳雅(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 ギルドの前に足を止め、彼は視線を上げた。いつもの仲間はもう、集まっているようだ。
 彼らの招集理由は、ギルドにあった依頼にあった。ベイン・ヴァル(ea1987)は、参加メンバーの顔を見る。あのセレスティンの名前を見て集まったのは、自分の他に騎士のグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)、ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)、そしてエグゼ・クエーサー(ea7191)の3名だった。
 もう一人、エグゼの側に一人の少女が付き従っているが、彼女、聯柳雅(ea6707)はおそらく彼が連れてきたのであろう。
「これで全員か?」
「待って〜」
 ギルドの中から声が聞こえたと思うと、小さな影がベインの肩にぶつかった。怯むことのないベインの体に弾かれ、くるくるとそれは空中で回転。羽を広げて体勢を整えた。
 落ちそうになった帽子をしっかり押さえ、碧色の羽を振るわせる。
「良かった、間に合ったんだ」
 ベイン、そしてジラが彼女を見つめる。それから視線を、街道へと向けた。
 人混みの中を、馬を牽いた小さな影が二つ、歩いてくる。一つは白い騎馬。もう一つは、栗毛だった。牽いているのは、淡い金色の髪をした少年である。腰に短めの剣を下げており、身なりは遠目からでも良いものであると分かる。
 対してその横の少女は、上からマントを羽織っていて、その下に見え隠れする長いプラチナブロンドを隠していた。あちこちを見まわして忙しない少年に比べ、少女は真っ直ぐにこちらを見ていた。ヒルダが、彼女に向けて歩き出す。
 すると、あ、という声とともに、足下をするりと小さな猫が駆け抜けた。ヒルダの視線が追うと、更に後ろから違う猫が追いかけていく。こうなるともう、アレでコレなわけで。
 ジラの横で大人しくしていた犬が、更に猫を追いかけていった。かろうじて、エグゼは自分が連れていた犬は引き留める事に成功した。
「わぁっ‥‥な、何これ」
 少年が、駆け回る猫や犬を見下ろした。少女は黙って、ヒルダを見つめる。
「みんな、元気そうで何よりね」
「はい。セレスティン様も」
 セレスは、ジェラールが足下を彷徨かれて困らされている犬と猫を、見つめる。
「パリって、犬や猫が多かったかしら」
「すまんな、これは預かりものだ」
 ジラはボーダーコリーと猫をジェラールの足下から引き離すと、自分の元に呼び戻した。どうやら、もう一匹の猫はキャル・パル(ea1560)の猫だったらしい。
 シフールのキャルでは、猫を引き留める事は出来まい。
「こら、ニャル! 駄目っ、戻っておいで!」
 ぎゅう、とキャルはニャルの首輪を引っ張る。でも効果無し。ニャルは、すっかり動揺しきったジェラールをからかうのが楽しいようだ。キャルはニャルを掴んだまま、セレスに片手を上げてにっこりと笑った。
「しふしふ〜! セレスティンさん、ジェラールさん初めまして。キャルだよ」
「‥‥しふ?」
 ジェラールはきょとんとしている。
「あ、これはパリのシフールさんの間で広まっている挨拶なの。覚えてると、すぐにシフールさん達と仲良くなれるよ」
 セレスはまじまじとキャルを見つめた。それから視線をヒルダ達に向ける。
「彼らがあの依頼を受けてくれた人達よ」
 セレスが、ジェラールに話しかける。ジェラールははたと気づき、口を開いた。
「僕はジェラール。よろしく」
「お初にお目にかかります。‥‥ウィンダム家オーギュの娘、グリュンヒルダと申します」
 ヒルダは、最初にセレスにしたのと同じように、跪いて丁寧に挨拶をした。ギルドの前は人通りが多いので、彼女の様子は当然目立つ。が、相変わらずお構いなしである。
 セレスは、静かに視線をキャルと柳雅に向ける。エグゼはすかさず、柳雅の背中に手をやって前にやった。
「柳雅と会うのは初めてだな。まぁ‥‥彼女は俺の婚約者だ」
「ほう、それは初耳ですね。そんな若い奥方をお迎えになるとは、隅に置けない」
 びくっ、とエグゼがヒルダを見る。ヒルダはしれっとした様子で、続けた。
「と、姉だったら言ったでしょう」
「本当にヒルダ君だよね?」
 疑惑が尽きないエグゼだった。

 北の門から入ると、右手に見えるのが闘技場である。毎週、闘技場では死力を尽くした戦いが繰り広げられていた。
「俺も何度か出たが、ランキング上位を維持するのは難しい」
「へえ‥‥すごいなぁ。僕も訓練は受けているけど、いつかこんな風になれるのかなあ〜」
 ジェラールは、暢気にそう言って眺めている。セレスはため息をついて、肩をすくめた。
 闘技場からは月道のある塔を横切り、左手にコンコルド城が目に映る。
 じっと見つめるセレスに、ヒルダがそっと近寄って話しかけた。
「ウィリアム3世は、まだとてもお若い国王です。しかし国を発展させる事に尽力しており、執政は国民に広く受け入れられています」
 ヒルダに解説を聞いているうちに、一行は市場に到着した。あちこちで売られている野菜や果物、衣類や装飾品を見て、キャルが目を輝かせた。セレスのマントをキャルが、そして反対側から柳雅が手を握って引いた。
「セレスさん、市場面白そうだよ〜! 行って見ようよ」
「庶民の食事を見るのも、悪く無いと思うぞ。セレス殿、遠慮は無用だ」
 ぐい、と柳雅は手を引いて歩き出す。キャルははぐれないように、セレスの肩にちょこんと座った。はしゃいでいる柳雅やキャル達にとまどいぎみのセレスをジェラールが追いかけようとしたが、ジラに引き留められた。
 冷たい視線で見つめるジラ。
「お前はこっちだ。食材の荷物持ちをしろ」
「じゃ、荷物はジェラール君に頼んだよ」
 エグゼはそう言うと、市場を見まわした。すう、と横から出てきたのは、ベインとヒルダである。まるで示し合わせたようにベインが話しかける。
「今日はどれがオススメだい?」
「うん? そうさなぁ〜‥‥今日はこの、鶏かな」
「へえ、よく締まっていて旨そうだ」
 実によく話しているベインを見て、エグゼはぽかんとした。そうか。ベインは本当はよく喋る人だったのか。そう呟くエグゼ。するとベインはヒルダに交代した。
 待っていたかのようにヒルダが、口を開く。しかもオーラエリベイション使用。
「でも少し血のにおいがキツイですね。これでは肉にも臭いがついて、臭みをとるのが大変そう。昨日来た時は、もっと綺麗でしたよ?」
 呆然とするエグゼを、ヒルダ振り返る。
「まだまだ、これからですよ」
 ヒルダはにっこり笑って、言った。

 市場で買い物をした後、一行はエグゼと柳雅の案内でイリス通りにあるエグゼの店までやって来た。お城では肉や魚料理がメインだと言うセレスやジェラールには、野菜を中心にしたメニューを出す事にする。
「そうだな。フルーツを使ったサラダとショートブレッド。キノコとエンドウ豆の煮物と、シャンゼリゼ“酒場”名物のシチュー・エグゼ風味。それから‥‥」
 エグゼは考えながら、厨房に入っていった。
 エグゼ屋とっておきの銀の皿とナイフで(武器には出来ない)料理を出すと、思わずキャルが身を乗り出した。
 こっそりジラが、ジェラールに“見習いのうちは給仕もするものだ”と言ったのでジェラールが立ち上がろうとしたが、柳雅がそれを制する。
「いや、今日は私達がもてなす。だからみんなは座っていてくれ」
 エグゼを手伝う柳雅は、生き生きとした表情でそう言った。

 気が付くと、ヒルダが居なくなっていた。
 すっかりエグゼ屋で料理を堪能したセレスは、エグゼ屋を出てからそれを聞いた。
「ヒルダは用事があってな。さて、これから俺はジェラールに用があるんだが、二手に分かれるか?」
 ジラの提案に、ジェラールは少し不安そうな顔をした。
「よ、用って‥‥?」
 ジェラールがジラを見上げる。さて、それは後で話してやる。ジラが言うと、ジェラールは更に不安そうな顔をした。するとキャルがジェラールの周囲を飛び回り、それからジラの頬をぺちぺちと叩いた。
「大丈夫だって! この人、こう見えて怖くないから。それにキャルも付いていくから、安心だよ」
「ありがとう」
 シフールのキャルに安心させられるジェラール‥‥。ジラは、そんなジェラールの様子を見て先行きが不安になるのだった。キャルはそんな事お構いなしに、ジェラールの服を引っ張る。
「さあ、パリ見物に出発だよ〜!」
 ちょん、とジェラールの頭に座ると、キャルは指を真っ直ぐ差し出した。
 ジラがまず案内したのは、街の中心部だった。エチゴヤの前まで来ると、そこでヒルダが待っていた。
「どうだった」
 ジラが聞くと、ヒルダは首を横に振った。どうやら、収穫は無かったようである。
 合流した後ジラとヒルダ、そしてキャルはジェラールを連れて、パリにある衣装店に連れて行った。書品より少し高い地位の者が出入りするような店である。
 騎士であるヒルダやジラはともかくとして、キャルは出入りする機会などめったに無い。はしゃいだ様子でキャルは、あれこれと服を引っ張って来た。
「これなんてどうかな? ほらっ、ひらひらして綺麗〜」
 白いシャツをジェラールに持たせると、今時はキャルは置いてあった金属製のベルトを握った。しかし重すぎて、上がらない。
「‥‥こ、これとかどう?」
「でも、こんなの普段したことないよ‥‥僕、まだ騎士見習いだし」
「でも、いずれ騎士となるのでしょう? だったら、社交界の準備をしなければ。あなたが素敵な騎士になれば、きっとセレスも見直しますよ」
 ヒルダがやんわりとした口調で言った。キャルも、こくりと頷く。キャルはすっかり、服に埋もれてしまっているが‥‥。
 ヒルダははっ、と何かに気づいたように、表情を変える。
「そうだ。‥‥ジェラール様、宝石をお探しになりませんか? セレス様がギルドに依頼をするのに売ってしまった宝石があるのですが、既に所在地は不明なのです。それをお渡しになったら、セレス様はお喜びになりますよ」
 必死な様子で考えながら、少し顔を赤らめているジェラールに、ヒルダが細い声で言う。
「同じ領主候補ですもの、何れお二人がご婚約という事があるのではないでしょうか?」
 ジラは、ヒルダの語りを黙って聞いていた。キャルが再び洋服選びに没頭すると、ヒルダの手を引く。
「あいつは確かにもっとしっかりした方がいい。だが、お前の魂胆は何だ?」
 ジラの問いかけに、ヒルダはくす、と笑った。
 さあ‥‥しいて言えば、障害を減らす作業‥‥でしょうか。

 対してセレスと同行する3人はあまりルートを考えていなかった。柳雅は買い物をしようと思っていたし、エグゼは外出用の庶民の服を選んでやろうと考えていた位だ。
 だがセレスには、隠し事をしても察してしまう訳で。
 市場を前にして、セレスは振り返った。
「何か話があるんじゃなくて?」
「ああ」
 ベインが短く答える。柳雅は、どことなく落ち着いてそれを聞いていた。
「‥‥正直に聞く。お前はジェラールの事をどう思っている」
 ジェラールは政敵だが、もしセレスが領主となれなかった場合‥‥担ぐ御輿は軽い方が良いと言う者も居るのではないか。ベインは、そう率直に聞いた。
「わたくしもそう思うわ」
 ああ、やっぱり。柳雅はため息をつくと、セレスに問いかけた。
「質問を変えさせてくれ。あなたにとって彼は大切な存在なのか」
「そうね‥‥ジェラールは良き友人であり、頼りない兄でもある。でも恋とか愛などというものは感じていないわ」
 セレスがベインとエグゼを見る。
「わたくしは母が死んでから今まで、ひとときも気が休まった事は無いわ。それはジェラールにも同じ。執政や騙し合いに慣れないジェラールには、わたくしを支える事は出来ない。誰かが命をねらっているのを察知する事も、それからわたくしを守る事も、わたくしの不安を察する事も、慰める事も‥‥何一つ満足に出来ないジェラールに、安らぎが感じられると思って?」
「でも‥‥愛とはそれだけでは無い。何も出来なくとも、側に居る事は出来るのではないか。それだけで‥‥安らぐ事は出来ないか」
 柳雅は、声を上げていた。セレスは、静かに目を伏せる。
「わたくし‥‥愛とか恋などは期待してないの。ただ」
 セレスは目を開き、毅然とした表情で言った。
「機が熟せば、ジェラールとの結婚は政略の一つとして、考えるわ」
「それでいいのか? それじゃあ‥‥ジェラール君も、君自身も傷つけているじゃないか!」
「傷つくのは怖くないわ。勝利を得る為だもの」
「俺は‥‥俺は怖いよ」
 エグゼは、ちらりと柳雅と視線を合わせると、深く息をついた。
「この間のシシリーとの戦い‥‥俺は、死ぬのが怖いと思った。奴に負けて、本当に申し訳なく思ってる」
 ベインは、沈み込んだエグゼの様子を見て一言言おうとしたが、セレスが真剣なまなざしでエグゼを見ているのに気づいた柳雅が、そっと押さえた。
 セレスは、静かに声を出した。
「負けた? わたくしは負けてなんて無いわ。わたくしにとっての負けとは、死んだ時だけよ」
 エグゼが顔を上げると、セレスは続けた。
「死ぬのは誰でも怖いわ。でも、わたくしはこの道を選んだ。‥‥あなたもそうじゃなくて? ギルドに居ると、常に死と隣り合わせで生きている。もし死ぬ事や負ける事が嫌なら、冒険者にならなければいい。エグゼ、あなたは何の為にギルドの戸を叩いたの」
 最初にギルドの戸をくぐった瞬間。それは、エグゼはもちろん、ベインや柳雅にもある。何故、どういう状況で冒険者となる道を選んだのか。
「‥‥でも、あなたが戦いたくないというなら仕方ないわ、わたくしは一人でもシシリーを追いかける。あなたは次からは置いていくから、好きなだけ悩んでいてちょうだい」
 セレスは酷な程の言葉を投げかけると、歩き出した。
 ベインがセレスの後を追って歩き出し、その場に柳雅とエグゼが残された。
「俺‥‥ジェラール君とセレス君はデートかなんかか、と思ってて‥‥柳雅と一緒に依頼を受けるのも久しぶりだったから、少し嬉しかった」
 柳雅は、静かに言葉を待っている。
「でも‥‥そんな甘いもんじゃないんだ。シシリーとの戦いも、セレス君の戦いも‥‥。それでも嬉しかった」
「ああ。私も、エグゼ殿と一緒で嬉しい。セレスもああは言っているが、ジェラール殿の事は大切だと思っている。私には分かるよ」
 エグゼの頬に手をやると、柳雅は笑った。
「私も女だ、セレスの事はエグゼ殿よりよく分かるぞ。エグゼ殿の事はもちろん‥‥私がよく分かっている」
 エグゼをぎゅっと柳雅が抱きしめた。

 夜はパリ郊外でキャンプを張り、ひととき冒険者の気持ちを味わってもらうと、翌日セレスとジェラールは帰っていった。
 いつまでも手を振るキャル、そして複雑な表情のエグゼに、少し笑顔を見せようと努力している様子のベインと、セレスの背を見送るベインにヒルダ。
 ‥‥事件が起こるのは、その数日後であった。
(担当:立川司郎)