死守せよ、小さな命

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月07日〜06月12日

リプレイ公開日:2005年06月13日

●オープニング

 彼らの行いは、無謀だったかもしれない。しかし、彼らは彼らなりに、仲間と家族を守ろうとして行った事だった。
 剣を使うのが上手い14歳のジゼル、動きが素早い弓使いのウルスラ、そしてのんびりとした性格の少女カルーナ。彼らは、いつものように森へと見回りに行った。
 この家には、彼らのように子供が十人ばかり生活している。親が死んだ者、家出して来た子、家族が殺された子供。様々な理由で、彼らは故郷を出て‥‥ここにたどり着いた。
 十五歳を過ぎると、皆出稼ぎに行ってしまう。そのまま戻らない者も居る。いつだってここに残っているのは、母親がわりの三十四歳の女性エレナだけ。そう、要するに男手が無いわけだ。
 大きな子達は、皆を守る為、生きていく為、狩りをしたり家をモンスターから守ったりする。
 ジゼルやウルスラも‥‥ただ家族を守ろうとしただけだった。

 パリのギルドのカウンターを、少年がうろうろと歩き回っていた。困ったように、眉を寄せて口を閉ざしている。とにかくギルドはいつもあわただしく、子供にかまっている暇は無い。
 少年はしばらくそうしていたが、やがて思い切ってカウンターの中に声をかけた。
「あの〜‥‥」
 誰も聞いていない。
 少年は、もう一度声を上げた。
「すみません!」
 ふ、と通りがかった男がこちらを見た。何か羊皮紙を手にしている。あれが報告書、というものだろうか。少年は、カウンターに両手を乗せてのぞき込んだ。
「あの〜」
「ここはお金が無いと依頼出来ないよ」
 冷たい一言。少年は、ええ、とがっかりしたように言った。すると、横に居た女性が思いきり肩をたたいた。
「ちょっと、子供相手に大人げないわよ。‥‥で、どうかした?」
「‥‥あの‥‥僕たち‥‥」
 どこから話したらいいんだろう。
 とにかく少年は名乗った。
 僕、ウルスラと言います。ここから馬で一日ほどの所にある家に住んでいて‥‥。
 ウルスラの依頼は、ただ一つ。トロルから家を守る事。
 そして、もう一つ。ある場所からトロルの子を連れて、自分達の家に戻ってきて、トロルの群れに戻してやって欲しいと。

 何故そんな事になったのか‥‥ウルスラにも、もう混乱しきっている頭では分からない。
 森の中でトロルの子に会って。
 驚いてジゼルが声を張り上げたら、攻撃して来て。そして、戦闘になった。トロルの子とはいえ、彼らの手で倒すには困難で、ジゼルはけがをしてしまった。
 そのトロルの子は生きていたが、近くの村の青年達が連れて行ったという。
 ところが問題なのはその後で。
 トロルの群れが、怒り狂って森をうろついているという。じきに、自分たちの家が見つかるだろう。トロルの群れは、自分たちが子供を倒したと分かっているのだ。
「‥‥困ったわね、トロルを四体も倒すのは困難だわ。かといって、放っておく訳にもいかないし」
 女性がふう、とため息をつく。するとギルドの男は、しばし考え込んで答えた。
「あの子が言うように、子供を返したら帰って行くんじゃないかな。殺したと思っているから怒ってるんだろう? どのみち、トロルを殲滅出来るだけの戦力は、今は不足しているから。子供を運んでくるまでの間、家を守りきれば」
「‥‥それしか無いかしら」
 ちらり、と二人は不安そうに見返すウルスラに視線をやった。

●今回の参加者

 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4442 レイ・コルレオーネ(46歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4567 サラ・コーウィン(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6128 五十嵐 ふう(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

 家の中を駆け回る小さな子供が四人。木板に書かれた文字を並べて大人しく勉強している八才前後の子供が二人。まだ幼さの残る年齢であるにもかかわらず、その体には大きすぎるショートソードの手入れをしている十才の少年。そして一番年輩組のウルスラ、ジゼル、カルーナの三人。
 椅子に掛けた女性、エレナは落ち着いた雰囲気の女性であった。
 ここには人間ばかり。ただ一人エルフであるサラフィル・ローズィット(ea3776)は、あっという間に子供達に囲まれた。勉強していた子も、じいっとこちらを見ている。
 静かに笑みをたたえたまま、サラは子供達の頭に手を載せる。すると子供は、きらきらとした目で見上げた。
 サラは腰を下ろすと、視線を子供達に真っ直ぐ向けた。
「わたくし達、みんなを護る為に来たんですの。少し怖いでしょうけど、しばらく我慢してくださいね」
「トロルが来るの?」
「トロルってなぁに?」
 子供達が口々に話していると、ドン、とテーブルから何かを置く音が聞こえた。視線をそちらに向けると、椅子に掛けた本多桂(ea5840)が、酒瓶を掴んだままこちらを見据えていた。
「大人しくしてないと、ご褒美は無いよ」
「ご褒美? ご褒美ってどんなの」
「しぃっ、お酒よ」
 子供が小さな声で言うと、すうっと桂は笑った。
「そうよ、お酒。でもあなた達はまだ駄目ね。こいつはあたしの命の水なんだから」
「桂さん、そんなに飲んでトロルとの戦いは大丈夫ですか?」
 ジゼルの傷を見ていたサラ・コーウィン(ea4567)が、眉をちょっと寄せて振り返った。そっと目を閉じて、桂が唇の端をつり上げる。
「なあに、あたしにとっては気付けみたいなものだから」
「‥‥本当に大丈夫なのか、あんた達」
 ジゼルが、厳しい表情でコーウィンを見つめる。コーウィンは、大きな目をじっとジゼルに向け、にっこりと笑い返した。
「大丈夫です! ここは私達が護りますから‥‥でも、念のために皆さんは逃げておいた方がよろしいと思います」
「そいつはどうかねえ」
 ぽつり、とドアの前で壁にもたれかかっていた五十嵐ふう(ea6128)が呟く。ふうは半分あけた窓から外を見ながら、言った。
「ここは森の中の一軒家だ。子供を連れて、今から村まで移動するのはちょいと危険だし、目の届く範囲に居てくれた方が護りやすい」
「十人も居る上に、けが人も居るしね」
 桂もふうに同意する。サラは静かにコーウィンの側に寄ると、ジゼルの怪我に手を触れる。深い傷だ。サラでも、気を少し集中して治癒の術を掛けなければ回復しないだろう。
「こんなの平気だ。カルーナも居る」
 ジゼルが、カルーナを見る。サラがカルーナを振り返ると、彼女の胸元に小さな銀の十字架が光っているのが分かった。
「では、ここはお任せします」
「あの‥‥」
 椅子を蹴って、カルーナが立ち上がった。
「怪我治すの、私も手伝うから」
「ありがとう」
 にっこりとサラは笑った。

 家から目の届く木々の間。そして、そこから更に入った所。
 フェイト・オラシオン(ea8527)は、小柄な体を森の中に忍ばせて作業を続けた。ロープを茂みの間に這わせ、木板を取り付ける。これでトロルが接近すれば、引っかかって音を立ててくれるだろう。
 フェイトの側で、レイ・コルレオーネ(ea4442)がスクロールを広げて音を拾っている。トロルが接近する足音は聞こえなかったのか、レイが目を開けて息をつく。
「すぐ近くには居ないようだけど、警戒はしておいた方がいいね」
「さっき一回りして来たけど、まだ迫っている気配すら無いわね。しばらく猶予があると思う‥‥でも、穴を掘ったりしている時間は多分無い」
 淡々とした口調でフェイトが言った。
 トロルの子を引き取りに行った本多風露(ea8650)と飛天龍(eb0010)が戻って来るまで半日、ここで護りきらなければならない。
 半日、ここで家から離してトロルを引きつけておくつもりだった。しかし、本当に半日もずっと、トロルと追いかけっこが出来るものだろうか? 武器を所持した状態で、メンバーによっては鎧も身につけて、走り回っていられるだろうか?

 一方、トロルの子を引き取りに向かった風露と飛は村に到着していた。風露が、簡単に事の経緯と自分たちがギルドから来た事を話す。
 異国出身の風露や飛が珍しいのか、村の子供達や人々が、村長と話している風露達を遠巻きに見ている。
「もしあちらの家が襲われて子供が居ないと分かれば、ここにも来る可能性が高いだろう。子を返した上での交渉は、俺たちに任せてもらえないか?」
 飛が話すと村長は二人をじっと見つめ、頷いた。
「いいだろう」
「ありがとうございます。それでぶしつけなお願いなのですが、馬車をお借りできませんか? トロルの子を運ぶには馬に乗せる訳にもいきませんし、帰り際にお返しに参りますので」
 風露が頼むと、村長が村人に頼んで馬車の用意を命じてくれた。彼に付いて馬車の方へと向かっていった風露を見送り、飛が村長のあとを付いて飛びながら問いかけた。
「こんなにすんなり返して頂けるとは思わなかった。‥‥よろしければ、事情をお聞かせ願えないか」
「はは‥‥事情なんてものは無いよ。村の子供達が可哀想だと言うもんだからな」
 村長は苦笑まじりに言った。
 最初は殺すつもりだったらしいが、悲しげに叫き続けるトロルの子を見て、村の子供達が可哀想だと言い始めた。
「成長しきっていれば、ただ凶暴な所しか見えやしませんがね。まだ子供だ‥‥殺すには可哀想になりまして」
 いずれ成長すれば、人に害を為すかもしれない。
 が、子供は殺さないというのは、森の掟でもある。飛は深く頷いた。視線を上げると、馬の手綱を引いた風露の姿が見えた。風露は、自分の連れていた馬を馬車に繋いで荷台を引かせている。
「私の馬を連れていかなければならないものですから‥‥相談したら、出来るだけ大人しくて、仲間に合わせて走行する馬を選んでくださいました。さあ、行きましょうか」
 風露は、馬車に乗り込むと飛を見上げた。ちらり、と飛が荷台の中を見ると、か細い声でトロルの子が鳴いているのが聞こえてきた。

 遠くで聞こえる鳴子の音が、合図だった。
 フェイトが体を起こすと、一同に緊張が走る。エレナは、子供達をぎゅうっと抱きしめた。
「来やがったか‥‥上等だ、相手をしてやる!」
 ふうが真っ先に飛び出していった。酒瓶を置き、荷物を護っていてくれるように頼むと、続いて桂が家を出ていく。コーウィンは子供達をじいっと見まわすと、にっこり笑った。
「いい? 危なくなったら逃げるんですよ?」
 まるで小さな子に教える先生のように言うと、子供達が口々に返事をした。満足そうに頷き、コーウィンが刀を取る。
 四体のトロル達は、地響きをたてながらこちらに歩いてきていた。
 扉の前で五人がサラの体に手を触れると、サラは静かに目を閉じた。
「聖なる母よ、我らに慈悲と祝福を」
 サラの言葉が終わると、彼女の体が淡い光に包まれた。目を開き、フェイトが音もなく地を走る。ふうは小太刀を抜くと、にやりと笑った。
 ふう、レイ、桂、そしてサラがそれぞれ別の方向に散っていく。フェイトは彼らの動きを見ながら、群れから離れた。
「わたくし達、あなた方の子を返そうと思っているだけなんです」
 そう訴えるサラに、容赦なくトロルは迫り来る。接近するより早く、レイがサラの前に立って手をかざした。スクロールを広げ、思念をトロルへと繋げた。
「やあ、こんにちわ」
 猛然と降りかかってくるトロルからサラと二人して逃げつつ、問いかける。挨拶をしている場合では無いようだが‥‥むろん、トロルもお構いなしだ。
 体力の無いサラは、すでに息切れを起こしている。
「 私は“鬼火”。黄泉の使者だ」
 トロルは一瞬手を止めたが、訳が分からんといった様子で、再び迫ってきた。
 本人は真面目に挨拶をしたつもりなんだが、どうやら誰にも通じなかったようである。
 サラはついに走る事が出来ず、足を止めた。
 どの道逃げ続ける事など、よっぽど持久力のある者以外無理なわけで。
「私の使いが主等の子供を見つけたと知らせがあった。じきに連れて来るので、待っていて貰えまいか?」
 分かった。と言って聞いてもらえるならいいのだが。やむなくレイは高速詠唱で、炎の罠を目の前に作り出した。
 罠はトロルが足を踏み入れると同時に発動し、炎で包み込んだ。しかしトロルは、その炎をかき消す勢いで歩み寄ってくる。
 ちらりとトロルの背後に、レイが視線をやる。
 すると、レイとサラに気を取られていたトロルの背後にフェイトが迫り、剣圧で攻撃を仕掛けた。それでもトロルの皮一枚を斬った程度。フェイトは、つ、と少し眉を寄せた。
「‥‥ダメね」
 フェイトの持っているダガーでは、トロルの気を引く事すら出来ない。家まで戻ればロングソードがバックパックに入っているが‥‥。そうしているうちにトロルの棍棒がレイを地面にたたきつけた。
 振り返しでサラの体を巻き込む。トロルから受ける衝撃で、サラの意識が薄れていった。

 気がつくと、サラは家の中に運び込まれていた。
 起きあがると、部屋の隅でレイとふうがカルーナに治癒を受けているのが見えた。皆、あまり深く傷は受けていなかったようだが、トロルの攻撃を受ける事もよける事も出来なかった桂と、何度か攻撃をくったレイは薬で自らの傷を癒した後でカルーナの術を受けなければならなかった。
「トロルはどうしました?」
 サラが聞くと、桂が外をちらりと指した。
「フェイトが見張っているわ」
 あの後、レイはとっさにトロルの足を引っかけて転ばせると、すぐにサラを支えて引き下がり、高速詠唱で罠を発動させた。トロルの一体は怪我を負い、外を彷徨いている。時々ドアを叩いて破壊しようとしている音が聞こえて来る。
「どうする、逃がす?」
 桂が、意見を聞くように皆を見た。外の物音を伺っていたフェイトが、首を振る。
「たぶん追いつかれるわ。結構足が速かったもの。子供は速く走れないだろうしね」
「ああもう‥‥本多さん、速く帰って来て〜!!」
 頭を抱えて、コーウィンが叫んだ。
 すると、今まで黙っていた女性、エレナが口を開いた。
「‥‥あなた方の荷物を拝見させて頂きました。まず、炎の罠とスクロール、そして荷物を使ってうまく足止めをするんです。こちらが動いてばかりなのは得策ではありません」
「でも、炎の罠で防げるのは精々一、二体だぜ」
 ふうが言うと、エレナは頷いた。
「ええ。‥‥そこでふうさん。トロルは炎に弱いようですから、松明か何かで目つぶしをしてください。ふうさんと桂さんはそれで一体ずつ。コーウィンさん、あなたは持久力がありそうですから、トロルを森の方へと誘導してください。最後にフェイトさん」
 フェイトが視線をこちらに向ける。
「誰か投網を持っていましたよね。あなたは後ろからトロルに接近し、投網で動きを束縛して下さい。レイさんが炎の罠とクエイクのスクロールで家への接近を阻止し続け、目つぶしなどの攪乱が長引けば、トロルは気が長くありませんから焦れて一端引き下がります。傷ついた目はそう簡単に治りませんし、トロルは炎を嫌いますから。他にも、重力反転を使ったり迷いの森、幻を作り出す方法もありますが‥‥あなた方の中には有効な魔法も手段も持っている方が居なさそうですから」
「‥‥あなたは、こういう事に慣れているように見える」
 フェイトが聞くと、エレナは微笑した。
「大人は私だけですから」
 細い体をしているが、もしかすると彼女も昔はギルドに出入りしていたのかもしれない。
 エレナの作戦に従い、再び一同はトロルと対峙した。彼らが森の方に気を取られている隙に家を飛び出すと、ふうと桂が一体ずつトロルに向かった。レイは家に向かおうとしていたトロルの前にクエイクの術を発動させ、阻害している。近づく事が出来なかったトロルは引き返して来た。
「ほら、どこ見てんだ!」
 ふうが怒鳴りつけ、手招きをする。すると二体がふうの方へと足を向けた。桂はそれを逃さず、後方から背中に松明を押しつけた。
 トロルが声を上げ、振り返る。そこに桂が飛び込み、顔へと松明を更に押し当てた。反射的にトロルが桂の体を殴りつける。ふうは炎の付いたたいまつを武器代わりにし、トロルの腕を焼いた。棍棒がふうの肩をかすめたが、それと同時に胸元に飛び込み、たいまつを顔に突きつけた。
 二体のトロルは、顔を火傷して再生する事も出来ず、やたら滅法に腕を振るい続ける。フェイトが投網を覆い被せ、最後にレイが立て続けにトロルの足下へ高速詠唱で炎の罠を設置、発動させていった。
 吹き上がる炎に、トロル達が怯む。炎は皮膚を焦がし、やがて暫くすると彼らは森へと逃げていった。

 三度目の襲撃をしのいだ所で、空に小さな影が見えた。
 先に戻ってきたのは、飛だった。飛は話を聞くと、半日の戦闘で疲労しているフェイトに代わってトロルの様子を見に行った。
 子の気配を察したのか‥‥トロルが迫った頃、風露も側まで戻っていた。
「来たぞ!」
「え? 帰って来たの?」
 飛の声にコーウィンが駆けだし、桂が椅子から立ち上がる。コーウィンはきょろきょろと見回す。森の向こうに、馬車の影が見えた。大きく手を振るコーウィンに、風露が笑顔を返す。
 しかし、トロルもそこまで来ている。飛はすう、と森の方に視線を向けると、フェイトと視線を交わした。
「俺達が引きつけているから、そちらでトロルの子を解放してくれ」
 トロルの子は、長旅と拘束で疲れたのか、檻の中でじっとしている。風露は幌を上げると、心配そうにしているサラを中に入れてやった。
「この子、ずっと泣いていました。お母さんが恋しいのですね」
 風露はふう、そして桂とコーウィンの四人で檻を抱えると、地面に降ろした。ふたたび、トロルの子が声を上げ始める。サラは静かに檻を開けると、手を差し出した。強力な拳がサラの腕を叩くが、サラはかまわずにトロルを抱えて出してやった。
「さあ‥‥もう大丈夫。怪我をしているんですね」
 サラは静かに目を閉じ、トロルの子に付いた剣の傷を治癒していく。
 治癒を受けた子を解放してレイが語りかけると、トロル達はじきに大人しくなり、森の奥へと戻っていった。
 ようやく半日にも及ぶ格闘が終わり、ふうはぺたりと座り込んでしまった。ふ、と苦笑する桂。家の子供達も、そろりと外へ出て来た。
 コーウィンは振り返ると、子供達‥‥弓を持ったウルスラとカルーナ、ジゼルにすう、と近寄った。
 両手を腰に当て、見つめる。
「またずっと、この家を守っていってあげてね。約束よ」
 コーウィンが言うと、ウルスラが気恥ずかしそうにうなずいた。

(担当:立川司郎)