格闘最前線〜今度はタッグ戦

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:7〜11lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月12日〜06月17日

リプレイ公開日:2005年06月17日

●オープニング

 カルヴァン・ハイシェル。シャンティイの騎士団メテオールで、この人ありと謳われた騎士である。その彼も四十を越え、老い衰え‥‥た、という事は無かった。
 彼の辞書に、落胆という言葉は無い。
 少しくらい、落ち込んでくれた方がちょうどいいんじゃ無かろうか。そう思うのは、彼のそばで見習いをしている少年レアンであった。
 朝起きて訓練して、汗をかいては晴れ晴れとした顔で満足そうに自分の体を眺め、飯を大量に食った後、食後の運動と言ってレアン少年や騎士を急かして城の周囲を走り周り、筋肉の付き具合が悪いと言っては剣の訓練を何時間もさせ‥‥以下略。
「何かいい任務はありませんか、レイモンド様」
 少年の訴えに、領主レイモンドは、窓から静かに彼の様子を眺めた。
 庭を走り回るカルヴァンの姿が目に映る。
「そうですねえ‥‥しかし、年配の騎士は城内任務と決まっていますから」
「‥‥じゃあ、何かすごく疲れて落ち込んだり悲しんだりする事は無いですか?」
「団員のフェールが死んだと聞いても、むしろもっと元気を出そうと励んだ彼に、どんな悲しい事があるんですか」
 それもそうだ。
 少年は、カーテンを握りしめ、そっと眉を寄せた。
 何か‥‥何かあるはずだ。
 しばし考え込んだ後、少年ははた、と何かを思いついた。ぱあっと顔を明るくすると、レイモンドを振り返る。
「‥‥いい事、思いつきました」
 少年は駆け出すと、カルヴァンの所に向かった。彼はまだ、走っていた。重い鎧と剣を持った状態で、よくあんなに走れるものだ。
 少年は息をきらせながらカルヴァンの前に駆け寄る。カルヴァンは、来るなり少年を一喝した。
「これしき走った程度で息を上げるとは‥‥」
「カルヴァン様、いい話です」
「‥‥なんだ、言ってみろ」
「この間、模擬戦をやったじゃないですか。ギルドに頼んで」
 熱い男の魂を感じたいと言ったカルヴァンは、ギルドに頼んで人を集めたのである。確かに、そんな事もあった。なつかしそうに、カルヴァンは目を細める。
「‥‥そうだ。やはり、対外試合は楽しいなあ‥‥」
「またやりましょうよ。ほ、ほら。ギルドには日頃、レイモンド様とかお世話になっているじゃないですか。いざ戦となったら、お世話になるのはギルドや傭兵ですよ。だから、冒険者の人たちを鍛えるのも‥‥いいんじゃないでしょうか」
 ひどい押しつけもあったもんだ。
 だが、少年は引きつった笑みを浮かべる。
「よし、呼ぶか。‥‥漢だ、漢の魂だ」
「‥‥いえ、せっかくだから女の人も呼んであげましょうよ。ムキムキの男ばっかりって気持ち悪‥‥いえいえ、女性だって冒険者の一員ですよ」
「むう。なるほど、言われてみればそうだ。‥‥それならば、今回は二人一組で戦うというのもおもしろいかもしれんな。さて、さっそく用意せねば」
 カルヴァンは、生き生きとした表情で思案をはじめた。


『この依頼は、冒険者同士で戦うものです。模擬戦なので、依頼後にダメージ回復くらいは面倒見ます』

ルール:
・対戦は二人一組で行う。一人を前衛、一人を後衛と定め、後衛は移動を禁止する(移動して前衛が攻撃出来ない。移動しない攻撃はOK。後衛浮遊不可)。
・どちらかのチームの前衛が瀕死ダメージを負った時点で終了。ただし、後衛への攻撃は禁止。
・戦闘に使う場所は城の庭にある訓練場です。プラントコントロールで届く木や蔦は生えて居ません。地面は石畳、天井無し、時間は昼、晴れ。
・ストーン、デス、アイスコフィンなどの即死系魔法、ファンタズムなど、敵の動きに瞬時に致命的な影響を与える魔法は禁止します。

AP消費:
・使用品は携帯品以外は使えない(スクロール含む)。
・武器、盾等を取り替える場合1AP消費。スクロール、矢含む。後方支援の所に行って戻る(剣など取りに)場合も1AP。
・スクロールの使用は、スクロールを広げて念じなければなりません。よって、別のスクロールに変える際は1APを消費します(要はウィザードより交換分1AP不利)。
・攻撃は、敏捷の早い順に交互に攻撃し、APが無くなるまでを一ターン。

行動修正:
・負傷すると判定に修正がつきます。
・その他、状況に応じて行動修正を掛けます。

・万が一参加者が奇数になった場合、誰かが二回参加してもかまわない。前衛が多すぎて後衛が複数参加した場合など、チームが奇数になった場合は、出来るだけチームを複数にするようにしてください。複数参加の場合の回復は、こちらで行います。

●今回の参加者

 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1583 エルド・ヴァンシュタイン(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7522 アルフェール・オルレイド(57歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

セフィール・ランスフィールド(eb0019

●リプレイ本文

 美しい河のほとりにある街、シャンティイ。
 多少緊張気味にパートナーと作戦の打ち合わせをしている彼らと離れ、ベイン・ヴァル(ea1987)は中庭の使用について騎士団と話しているカルヴァン・ハイシェルの元へ歩み寄った。
 何度かこの近辺には依頼で立ち寄ったが、シャンティィに来るのは初めてである。
「‥‥ハイシェル氏、少しよろしいですか」
 ベインが丁寧な口調で話しかけると、ハイシェルは振り返ってベインを見た。
「何だ。何、わしと戦いたいと! なるほど、お主の熱意は‥‥」
「いや、もういいですからハイシェル様」
 レアン少年はハイシェルの口を押さえると、ベインに苦笑まじりで答えた。
「あの‥‥何か?」
「いや。ギルドの仲間に聞いたんだが、フェール‥‥だったか。彼と、死臭アスターを追った父もメテオールに所属していたそうだな」
「ああ‥‥」
 レアンがハイシェルを振り返ると、ハイシェルはふいに表情を引き締めた。
「‥‥奴なら、あるいは死なぬかもしれんと思っていたのだが‥‥惜しい事よ。だが、フゥの樹を殲滅するまで、気は抜けぬ」
「レイモンド卿にもご挨拶が出来れば、と思っていたんだが」
「ああ、お主等ならばお会いなさるだろう。‥‥それはまあ、また後でな」
 どうやら、組み合わせが決定したようだ。
 ハイシェルとベインは、中庭へと戻った。パートナー決定は事前に道中、話し合って決めたが、組み合わせは完全に運に一任した。籤を引いた結果、以下のように決まった。

 リオン・ラーディナス(ea1458)&エルド・ヴァンシュタイン(ea1583)
 VS
 アルフェール・オルレイド(ea7522)&ジョセフ・ギールケ(ea2165)

 ベイン・ヴァル&淋麗(ea7509)
 VS
 スニア・ロランド(ea5929)&ジィ・ジ(ea3484)

 組み合わせを聞いて、リオンはほっと胸をなで下ろしていたし、何故かジョセフは歓喜の声を上げていた。
「エルド‥‥今日こそ決着を付けようじゃないか」
 何の事だと言いたげに肩をすくめるエルド。だがジョゼフは、相手がエルドだと知って、俄然やる気が出ていた。
 互いに距離を20m離し、対峙する。
「フランクがマウロントスの火のマギエル、エルド・ヴァンシュタインだ」
 開始を前にして、エルドが名乗った。続けて、エルドに対抗するようにジョゼフが名乗りをあげる。
「同じくフランクのジョゼフ・ギールケ。行くぞ、エルド!」
「俺はリオン・ラーディナス‥‥何、エルドの知り合い?」
 リオンがちらりとエルドを振り返ると、エルドは、さぁ‥‥と首を傾げた。ジョゼフの文句にため息しか出ないアルフェールは、最後に名乗った。
「わしはアルフェール・オルレイド。ジョゼフ、わしは突っ込む事しか出来んから、後は頼んだぞ」
「分かっています」
 ジョゼフは大きく頷く。
 開始の合図は、レアン少年が行った。互いに距離と位置を確認する。
「‥‥では、始め!」
 開始の合図を受けても、リオンは動かなかった。リオンの刀にエルドが手を添えたまま、魔法詠唱を呟く。
 ジョゼフは若干距離を縮めつつ、手にした手裏剣を放った。距離があったせいもあり、リオンは上半身を捻って手裏剣を回避する。元々投擲にそれほど自信があった訳ではないので、アルフェールはすぐさま気持ちを切り替えて、腰に差したシールドソードを取りだした。
 つ、とリオンの額に汗が流れる。
 とりあえず。あのオッサンがクレイモアとかで全力攻撃して当たったらかなりマズイという事は分かっている。シールドソードだっただけ良かったというべきか。
 そのとき、エルドの目が開かれ、刀が炎に包まれた。
 ぱっとリオンが足を踏み出した。アルフェールも、こちらに向けて駆けてくる。動きは自分より若干遅いが、思ったより素早い。距離を測るリオンに、ジョゼフが真空の刃を放った。
 刃はリオンの体を切り裂き、血が地面に散る。
「いける‥‥。あとは‥‥」
 ふ、とジョゼフが自分の腰に手をやる。
 あれ?
 あれほど確認したつもりだったのだが、サイコキネシスのスクロールだと思って持っていたのは、インフラビジョンだった。
「あれっ? ‥‥あれ?」
 ここに無いのであれば、鞄の中に違いない。
「忘れものか、ジョセフ“君”?」
 印を組みながら、エルドが苦笑する。
 一方リオンは、腰から鞭を取りだしざまにジョゼフに放った。だが慣れないやり方に手間取ったせいか、アルフェールは鞭を左手の盾で難なく防いだ。
「くっ‥‥これが防がれるのかよ‥‥」
「では行くぞ!」
 アルフェールの渾身の一撃が、リオンの体に振り込まれた。かろうじて身を引き、リオンがそれをかわす。
 かわせた‥‥!
 リオンは少し表情を和らげる。アルフェール相手には、攻撃を当てるのは困難だ。だったらエルドの魔法で‥‥。
 そのエルドはパイプの火をファイヤーコントロールで操ろうと詠唱を続けていた。
「熱っ‥‥あち‥‥」
 燃えさかる炎は、エルドの手も焦がそうとする。それを細く長く、アルフェールに向けてのばした。
 その間にもアルフェールの返す刃が、リオンの腕を切り裂く。動き回るアルフェールとリオンに阻害され、彼の足止めをするまでに至らない。
「くっ‥‥火の玉を打ち込んだらいいんだろうが‥‥下手したらジョゼフどころかリオンまで巻き込んでしまう‥‥」
 どうやってもこのエリア一帯を巻き込む火の玉は、打ち込んだら最後、おそらくこれでリオンは保たない。
 更に、ジョゼフの真空刃が傷を拡大させていた。
 やむなく、リオンは刀を投げ捨てた。
「‥‥こうすりゃ、軽くなる」
 だが時遅く。
 次のアルフェールの攻撃を避けきる事は出来なかった。
 倒れたリオンに、レアン少年が駆け寄って薬を飲ませる。レアンから薬を受け取ると、傷を回復させながらリオンが悔しそうに声をあげた。
「ちょっと〜、手加減してよ‥‥あんた、武闘大会の常連じゃないの」
「いや、すまなかったな。だがお主に最初の攻撃を避けられた時はひやっとした。大会とは違った雰囲気が味わえて、こちらも楽しませてもらった」
 アルフェールが手を差し出すと、リオンは握り返しながら立ち上がった。
「あんな炎でアルフェールさんを足止めしようとは、笑わせるなエルド」
「‥‥荷物の確認もしなかった奴に、言われたくない」
 アルフェールとリオンは、二人の言い合いを聞いて、互いに苦笑を浮かべた。

 そして、こちらは第二試合。
「こんなおばさんで申し訳ないですけど、よろしくお願いしますね」
 随分若くは見えるが、淋は齢178。人でいう59才である。だが、巧い文句の言えないベインは、何と答えていいか分からない。
「いや‥‥俺は戦えればそれでいい」
「それで、今回の作戦なんだけど‥‥」
 淋から話を聞くと、ベインは頷いた。
 何故か、周囲ではリオン達が応援している。特にリオンは、スニアの応援をしているようだが‥‥。
「女の応援しかしないのかお前は」
 エルドに言われ、リオンは手を腰にやって、きっぱりと言った。
「だって俺、スニアさんと戦いたくなかったし。女の子とは戦いたくないから」
 何だか、ハイシェルよりもむしろ、スニアから殺気から放たれているようだが。アルフェールは、旧知の仲である淋へ声を掛けていた。
「お主なら心配ないだろうが‥‥麗の術はきついからなあ」
「善戦したいと思います」
 淋は笑顔で答えた。
 レアン少年が、双方を見回す。
「では、あちらも名乗られたようですし、こちらも」
「ええ。‥‥私はイギリスから渡ってきた騎士、スニア・ロランド。今回の戦い、楽しみにしているわ」
 スニアが挨拶をすると、ベインが答えた。
「いや‥‥こちらも自分の戦いを振り返る、いい切っ掛けになった。ベイン・ヴァルだ」
「私は華国の僧で淋麗と申します。これも修行‥‥手加減なしでお願いしますね」
 柔らかに笑顔を浮かべて、淋が言った。
 最後に、最年長(淋を除けば、だが)のジィが口を開いた。
「炎の老格闘魔法使い、ジィ・ジと申します。そうそうたる御面々、わたくしでは荷が勝ちますゆえ、後方で頑張らせて頂きましょう」
「‥‥それでは始めます。定位置で」
 レアン少年は位置を確認すると、手を振り上げた。
 合図がかかっても、双方に動きは無かった。ベインは少しだけ動き、スニアの動きを見ている。一方スニアは、ジィの魔法発動を待って側に立っていた。やがてジィの魔法がスニアの刀を炎で包み込む。それが合図であったかのように、スニアが剣を抜きながら駆け寄った。ベインはシールドソードを構えている。
 何かある。
 スニアに緊張が走った時、ベインは剣を横薙ぎに振った。
 剣圧がスニアに襲いかかる。すう、とベインの体が前に傾くと同時に、後ろに立っていた淋の体が黒い光に包まれた。瞬間、リンの手がするりと伸びた。
 ジィは弓を手にし、ベインを後方から攻撃する構えである。
 高速詠唱‥‥。スニアは眉を寄せると、剣を振った。ベインのシールドソードが、スニアの剣を受け流す。伸びきったスニアの懐に、先ほど受けたベインのソードが入り込んだ。
脇腹を鋭い痛みが走る。
 立て続けに、やや斜め向こう側に見えるリンの手が黒く光るのが見えた。だが二度目の魔法は発動しない。
「あらら‥‥手の先からじゃ、やっぱりディストロイは発動しないのね。それじゃあ」
「くっ‥‥速い‥‥っ」
 何とか刀を構えつつ、スニアは一撃を繰り出した。しかしそれも、ベインの盾に防がれる。回避に特化したスニアの腕では、ベインの盾が越えられなかった。
 その間にも、ベインの刃が少しずつ体力を削っていく。
 更に、淋から黒い光が放たれ、スニアを襲う。スニアは、渾身の力でベインに刀を下から切り上げた。盾の構えを解いたばかりのベインは避けきれず、スニアの刃を腕に浴びた。
 後方のジィの弓から矢が放たれ、続けてベインの肩を突く。肩の矢に構わず、ベインは剣を真っ直ぐ突いた。
 二人の剣戟を割ったのは、淋の黒い光であった。
 治癒を受けて目を覚ましたスニアは、顔をのぞき込んでいたジィ、それから戦いを終えて仲間を振り返った。
「負けた‥‥のね」
「すみませんでした。やはり、瞬時に魔法を発動させる淋様の力‥‥あれには勝てません」
 ジィはそう言うと、淋を振り返った。にっこりと笑い、淋が首を振る。
「いいえ。実はディストロイの術、伸ばした腕からでも発動出来るとばかり思っていたんですけど、やっぱり体が付いていかないと発動しないみたいですね。だから黒のホーリーにきり替えたんです。ジィさんは弓も使うんですね。私は術しか使いませんから、とても勉強になりました」
「なに、それはこちらが言いたい事ですよ。これはよい経験に‥‥」
「これで終わったと思うな!」
 ハイシェルの声が掛けられた。
 くるりと見まわし、ハイシェルは声を張り上げた。
「たるんどる! ‥‥戦いはこれで終わりではない。まずリオンとアルフェール。‥‥リオン、まず最初に身を軽くしておかねば。相手の方が強いのであれば、正攻法では勝てぬぞ」
「うーん‥‥途中で刀捨てようと思ってたんだけどな」
 ぽりぽりとリオンが頭を掻く。
「そしてベインとスニア。お主ほど身が軽いのであれば、カウンターを狙うのがいいかもしれんな」
「身の軽さには自信があるもの。‥‥でも、私のような戦士は少ないのね」
「よい経験になっただろう?」
 ハイシェルはにいっと笑った。
「では、これからまた一戦だ」
 はぁ? と言いたげなレアン少年を制し、ハイシェルが胸を張る。
「今度はわしも参戦しよう。‥‥さあ、今日は日が暮れるまで、思う存分戦うぞ」
 嫌だと言う間もなく、皆再び戦いにかり出されたのであった。

(担当:立川司郎)