月明かりの中、探しに行こう

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 92 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月03日〜07月08日

リプレイ公開日:2005年07月11日

●オープニング

 依頼?
 さて、暇ならこんな話を聞いてみないかね。
 依頼を終え、酒場で一息ついていた冒険者達に、一人の年老いた男が語りかけた。

 ギルドに出すまでもないし。
 さりとて、盗られたものは取り返したい。
 パリからもほど近い森近くに、小さな村がある。村人達は森に住む様々な生物や精霊、妖精とうまくつきあってきていた。ところが、そんな村人達でも困った事が一つある。
 盗賊なら領主様に訴えればいい。
 オーク達が襲ってきたなら、ギルドに依頼すればいい。
 さて、これはどこに頼めばいいものやら。
 村人達は思案する。

 何に困っているかって?
 まあ、待て。
 この森にはいろんなものが住み着いている。
 精霊や妖精‥‥そう言っただろう? この妖精達が問題じゃ。

 精霊や妖精達は、普段人前に姿を現す事はない。だが、時折子ども達の前に姿を現したり、旅人にちょっかいを掛けたり。それでも、害がない悪戯ばかりである。
 彼らは昼間は森の奥に隠れ、夜は森の中の大きな廃木の周りに集まって、月明かりの中、歌や踊りに興じているという。
 そんな彼らのもう一つの楽しみが‥‥。ヒトの生活。
 ヒトが持っているもの、作っているもの、話している事。
 何でも興味を持つ。しかしヒトと直接接触する事を嫌がる精霊達は、なかなか堂々と出てきて話をする、という事はしない。しないが、興味はある。
 精霊達は、こっそり‥‥。
 こっそり夜中に村にやってきては、そうっと村人達のものを持っていった。果物から飾り物から服から、果ては農耕具や十字架まで。
 そんなある日、子ども達が大切にしていたものが無くなっていた。村のはずれにある大木の根元に穴を作り、そこを子ども達がたまり場にしていた。子ども達だけの、ちょっとした秘密基地。
 何でもないものを持ち寄って、そこにおいていた。
 それが、朝になって来てみると消えている。
 ははあ、妖精達が持っていってしまったんだな。大人達は諦めてしまったが、子どもは納得出来ない。
 取り返して来てよ、と大人に言ってみるが、大人が出かけていっても精霊達はなかなか出てこない。
 僕たちが大切に集めていたのに‥‥精霊達が持っていって、返してくれない。
 さて、どうしたものか。

 老人は顎に手をやって考え込んだ。
 さて、人に興味がある精霊‥‥。精霊達の中には、ヒトの話を聞くのが好きなものも居るというが、どうしたものか。
 月夜の晩に、行ってみるといい。老人は話した。
 元々珍しいもの、楽しい事、楽しい話を聞くのが好きな連中じゃ、もしかすると、むこうからやって来るかもしれんぞ。
 子ども達の大切な‥‥。
 ふ、と老人は苦笑した。
 大切に集めてきた、小石を取り返してやってくれ。小石といっても、ただの小石じゃあ無い。“綺麗な小石”だ。河原から子ども達が選びに選んで集めてきた、綺麗な小石じゃ。
 わしも子供の時分は、そんな思い出があったのう‥‥もしかすると、精霊達もそんな純粋な思いで、持って行ってしまったのかもしれんな。

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3270 ルシエラ・ドリス(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8742 レング・カルザス(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 子供達が森の中や河で見つけた、大切な物。決して高価なものではないが、子供達の思い出‥‥。
 ミケイト・ニシーネ(ea0508)は、心配そうに自分を見つめる子供達の手から小石を受け取ると、じいっと眺めた。
「これ‥‥この間見つけたものなの」
「ほとんど、とられちゃったの」
 子供達は、悲しそうな目でミケイトに訴えた。子供達の話が伝わり、ギルドから人が来てくれたのはいいが、子供達が常日頃話したり、寝物語に聞いている“とっても強そうで、とっても勇敢そう”な冒険者ではなかった。いや、強くない訳ではないが、たまたま今回話を聞いて村にやってきたのは、女性ばかりであった。
 パラで子供達と同じくらいの大きさの、頼りになるお姉さんミケイト、エルフでバード、元気のいいラテリカ・ラートベル(ea1641)と、同じく物静かでおっとりしたシュヴァーン・ツァーン(ea5506)。
 彼女たちに比べて口数は少ないが誰より真っ直ぐな意志を持った神聖騎士リア・アースグリム(ea3062)。子供達の話を同じ目線で笑顔で聞き入っているミレーヌ・ルミナール(ea1646)の腰には、アキテーヌ勲章が光っていた。ジプシーのルシエラ・ドリス(ea3270)の肩には小さな仲間、セルミィ・オーウェル(ea7866)が座っており、二人は大人達と何か話していた。
「本当は8人のはずだったのですが、事情があって来る事が出来ませんでした」
 ルシエラが、村長だという男で話すと、男は低姿勢で頷いた。
「いえ、本来このような些細な事で及びするのは気が引けたのですが‥‥」
「ささいな事じゃありませんっ! やっぱり精霊さん達も悪気が無いんだと思いますから、私達が精霊さんとお話して返して貰ってきます」
 セルミィが元気な声でそう言うと、村長が笑顔になった。大人達も、ほっと息をつく。
「そうですか‥‥ではよろしくお願いします」
「はい。‥‥それで今後の事ですが‥‥」
 ルシエラは、村長となにやら話し始めた。

 地面に座り込んでナイフを使っていたミケイトが、ふいと後ろを振り返った。
 つい先ほどまでその辺りを飛び回っていたセルミィの姿が見えない。
「あれ、セルミィどこに行った?」
「さあ‥‥河原では無いでしょうか」
 竪琴の調律をしているシュヴァーンが、ミケイトに答える。
 ミレーヌとセルミィは、どうやら河原に石を拾いに行っているようだ。今回の案を考えたのは、セルミィである。
 たき火をして、みんなで謡ったり踊ったりして精霊達を誘いだそうと言うと、セルミィはある事を考えついた。セルミィとミレーヌは、その為の小石を集めに行っているのだ。
「一杯拾って来ました!」
 小石を抱えて重そうに飛ぶセルミィの後ろから、ミレーヌが彼女の様子を苦笑まじりで見ながら付いて歩いて来た。セルミィは小石を、ラテリカに渡すと、彼女の手元をのぞき込んだ。
 ラテリカの使っているのは、あり合わせの自然素材で作った簡単な絵の具だ。高価なものは持っていないが、自然素材でも十分小石にペイントする位は出来る。それにリボンをつけると、できあがり。
 一方ミケイトは、木を削ってペンダントを作っていた。できあがったペンダントを、セルミィの方に掲げる。
「なあセルミィ、ちょい来てくれへんかな。大きさ、これ位でええか確かめたいねん」
「は〜い、もちろんです」
 セルミィは、ぱたぱたとミケイトの方に飛んでいった。通り過ぎるセルミィを、リアが視線で追う。その顔をぐい、とルシエラが手でこちらに向けた。
 リアの顔は、うっすら赤い。
「あの‥‥ちょっと派手ではないでしょうか」
 リアは、自分の格好を見下ろしながら小さな声で聞く。しかし、彼女の着付けをしているルシエラは平然としていた。ふいとシュヴァーンが竪琴を横に置き、顔を上げる。
「リア様、よくお似合いですよ。今宵は楽しみですね」
「い‥‥いえ‥‥私、体に古傷もありますし‥‥その、うまく踊れるかどうか」
 自分で言い出した事ながら、リアは今になって恥ずかしい思いで逃げ出したい位である。ルシエラはリアの服を着せてやると、今度は化粧品も鞄から取りだした。それから、リアの鞄から踊り子の使う装飾品を取り出す。
「あとは口紅と‥‥これとこれ、かな」
 ふふ、とルシエラは楽しそうに笑った。

 月明かりが森の木々の枝間から差し込む頃、森に竪琴の音色が響いた。
 シュヴァーンとセルミィの竪琴に合わせ、リアがぎこちない動きで踊る。澄んだ声音で歌うのはラテリカである。普段は無邪気で元気のいいラテリカだが、歌う時は別人のようである。
「リア、そない緊張せんかて、ええよ〜」
 ミケイトの声の方へリアが視線を向けると、ミレーヌとミケイトが拍手喝采していた。ますます、ぎこちない動きになるリア。
 もう、穴があったら入りたい気分だ。
「わ‥‥私一人で踊るんですか?」
 小さな声でリアが言うと、ラテリカがはたはたと手を振った。歌っているから返事は出来ないが、どうやら“ラテリカは歌っているから、踊れないです”と言いたいらしい。
 セルミィは羽を羽ばたかせながら、竪琴を奏でてリアの周囲を飛び回っている。シュヴァーンはにこりと笑って、ルシエラを見た。
「ルシエラさん、お相手が欲しいそうですよ」
 シュヴァーンに言われ、ルシエラは立ち上がるとすい、とリアの手を取った。ルシエラがリアの相手役として腰に手をやると、ますますリアが顔を赤くした。

 何だかわからないけど、綺麗な袋がある。
 綺麗に装飾がしてあって、包んである。何が入っているんだろう。
 ささやく声が、聞こえる気がする。ちらり、と少しだけミレーヌが振り返ると、木の向こうに何かの気配があった。
 しかし、ミレーヌが見ている事に気づいたのか、さっと影は姿を消した。
 こっそり合図を出すと、ラテリカがさらに声を高くした。ミケイトはつられて歌いながら、ミレーヌのカップにワインをついでやる。
「セルミィ‥‥」
 とミレーヌがセルミィに声をかけると、ふわりとセルミィはミレーヌの後ろに飛んでいった。
 妖精さん、精霊さん、一緒に踊りませんか?
 セルミィの呼びかけに、闇夜は静まりかえったまま‥‥。だが、息を殺して様子を伺っているのは分かった。
「妖精さん、とっても楽しいですよ」
「お話し、しませんか? ‥‥遠い国の物語なんですけど‥‥昔々ある所に、美しいお姫様と‥‥」
 ミレーヌの話に食いつくのは速かった。やはり、人間の話題には興味津々。妖精達はじりじりとこちらに忍び寄ってきた。
 しらん顔をして、リアとルシエラと踊り続ける。ミレーヌの側に、小さなエレメンタラーフェアリーが姿を現した。ミケイトがこれみよがしに、自分の作ったペンダントやらを取り出すと、次第にたき火の周囲に集まりはじめた。
 わあ、とラテリカが思わず声をあげる。
 月夜の明かりに、精霊達の羽が光って‥‥とても幻想的だ。
 やがて頃合いを見て、ラテリカが声をあげた。
 子ども達の大切な小石、
 きらきら光る綺麗な小石、宝物
 妖精さんが持っていっちゃった。

 すると、妖精達がきょとんとした様子で二人を見た。
 それが自分たちの事だと分かると、わーっと妖精達はまた隠れてしまった。リアとルシエラも動きを止め、見回す。
 ただ一つ、シュヴァーンの奏でる竪琴を除いて、皆口を閉ざした。
「妖精さん」
 ミレーヌが口を開いた。
「妖精さん、あなた達が持っていった小石‥‥子ども達にとって、とっても大切なものなの」
「黙ってとっていったら、あかんよ。皆、困ってはるんやわ」
 ミケイトも、そう言った。精霊達はしんとしている。すると、ルシエラが静かに息をついた。
「精霊達は、私たちとは感覚が違うんだ。盗んだとか、勝手に持っていったとか、そういう人間の言う事は分からないよ」
「でも、人間のものを持ってかれるのんは困る」
 ミケイトが答えると、ルシエラが森の方を見やった。
「人間の里にあるものは、人間が大切にしているものだ。むやみに森の中にものを持っていくとあなた方が困るように、人間達も困っている」
「人間の里から持っていったもの‥‥慎ましく暮らしている村の人にとっては高価なものなんです」
 ミレーヌが訴えかけると、精霊達がちらりと顔を覗かせた。
 くるり、と見回すと、セルミィがにっこりと笑う。
「‥‥分かりました。それじゃあ、私達が代わりに違う‥‥いいもの、あげます」
 いいもの?
 木の向こうから、ひょいと小さな子どもの顔が見えた。子どもの姿をした、森の精霊だ。そしてまた一つ。
「宝探しです!」
「そうですよ〜、ラテリカ達と宝探しするです」
 宝探しって何?
 小さな声が聞こえた。するとセルミィが答えた。
「森の中に、たくさんキラキラ綺麗な石を隠しておきました。一緒に、それを見つけるんです。見つけたら、見つけた方のものですよ」
「速くしないと、無くなっちゃうですよ〜!」
 ラテリカが駆け出すと、精霊達があわててわぁっと飛び出した。セルミィとミケイトも、森の中に散っていく。
 くす、と笑うと、シュヴァーンが手を止めた。
「‥‥あなた方は宝探しをしなくていいのですか?」
「私‥‥?」
 リアがとまどいつつ、シュヴァーンを見返した。とまどっているリアを置いて、すっくとミレーヌが立ち上がる。
「なんだか、子どもの頃を思い出しちゃった。‥‥ほら、行きましょう!」
 ミレーヌはリアの手を引いた。
 その横で、ラテリカは精霊達に混じって、茂みに顔をつっこんでいる。セルミィやミケイトも一緒になって、宝探しをしていた。
「たしかこの辺りにあった気がするですよ」
 ラテリカは、こちらにおしりだけ見えている。シュヴァーンはくすくすと笑った。
「石の位置は変えておきましたよ」
「ええ、そうなんですか? どうりで見つからないはずですよ〜一番お気に入りだったのに‥‥」
 と、どこかで“あった”という子どもの声が聞こえた。次々に声があがる。
「ラテリカ、まだ一個しか見つけて無いですよ〜」
「ほら早く見つけないと、ラテリカさんが最下位ですよ」
 綺麗な小石に、ミケイトお手製のペンダント。
 精霊達は、いつの間にかすっかり警戒心を解いて宝探しに熱中していた。
 やがて日が上ろうとする頃、森の奥から何かを抱えて、精霊達がおずおずと進み出た。腕の中一杯に、小石が抱えられていた。小石、そして村から持っていった村人の生活用品。
 ミレーヌがそれを受け取ると、シュヴァーンが精霊達を見つめた。
「あなた達が興味本意で持って行ってしまったのはわかりました。しかし、森と人と、よき隣人である為には、お互いの意志も尊重しあわなければなりません。これからは勝手に持っていってしまわないよう、お願いできますか?」
 こくり、とシュヴァーンの言葉に、精霊がうなずいた。

 村の人たちと子ども達に、奪われてしまった持ち物を返すと、子どもはさっそく小石を抱えてはしゃぎまわった。
 地面に座り込み、一つ一つ数えている子どもの頭を親がくしゃりとなでつける。
「こら、お礼を言いなさい」
 親にしかられ、子どもはちょこんと立ち上がって、皆ひな鳥のように揃って礼を言った。
「ありがとう、おねえちゃん!」
「いいえ。‥‥それで一つお願いがあるんだけど」
 ルシエラが、肩に座ったセルミィと顔を見合わせ、村人達に進み出た。
「実は精霊達との宝探し‥‥またあなた方で受け継いで、年に一度でもやってもらえないかな」
「精霊さん、とっても喜んでいました。お互い、仲良く共存出来るようになると思うんです。お願いできますか?」
 胸元に手をやり、じいっとセルミィが村人を見つめる。
 村人は顔を見合わせ、そして笑顔を浮かべた。
 もちろん、答えは決まっていた。
 来年、またこの村で宝探しが出来るように‥‥。

(担当:立川司郎)