盗賊の蒼い宝石

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月11日

リプレイ公開日:2004年07月11日

●オープニング

 酒の満たされたグラス越しに、蒼い宝石が輝いていた。これほどの大きさのものは、そうそうあるまい。彼女は満足げに、宝石を見つめる。
「‥‥“鉄の爪”のリィゼか」
 男の声に、リィゼはちらりと視線を向ける。一人、二人。リィゼはついと唇の端をつり上げてわらうと、口を開いた。
「そうだけど‥‥何か用かい?」
「その宝石、返してもらうぞ!」
 と言うがはやいか、男は剣を抜いた。大きな剣を抜き、振りかぶった‥‥と思うと、既にそこに彼女の姿は無かった。残っていたのは、陽炎のように映える赤く長い髪だけである。
 いつのまにか、男の喉元にナイフが突きつけられていた。
「動くな!」
 リィゼは、後方で詠唱しかけていた男に怒鳴りつけた。男は驚いて詠唱をやめる。どうしていいのか分からず、男とリィゼの間、視線を泳がせていた。
「酒を邪魔されるのは、一番嫌いなんだ。‥‥慰謝料払ってもらわなきゃねぇ」
 と言うなり、彼女はナイフを下まで一気に引き下ろした。レザージャケットごと、服がまっぷたつに裂かれ、体が露わとなる。酒場に居た女性給仕や客が悲鳴を上げた。
 男はあわてて股間を押さえ、よろよろと下がった。
 その隙にリィゼはグラスを一気にあおり、からからと笑った。
「アハハ、隠すまでもないモン隠すなって。‥‥あんた、腕であたしにゃ勝てないよ。やめときな」
 リィゼは悠々と酒場を後にした。

 鉄の爪。この辺りを荒らし回っている、盗賊団の名前だ。
 リィゼは、その美貌だけでなく、ナイフを使わせれば騎士でも歯が立たないと言われており、部下十人ばかりを連れて時々商隊を襲っていた。
 彼女が持っていた宝石もそのうちの一つ、パリのとある宝石商が市内に搬入途中、盗まれたものであった。
 盗まれたスターサファイアを、取り返して欲しい。
 ただ‥‥。
「リィゼ? ああ、今この町に泊まっているよ。‥‥止めときな、今のあんた達じゃリィゼにゃかなわねぇ。それに、リィゼが泊まっている宿には今、部下が3人見張りに付いてる。まずリィゼに会うには、そいつを何とかしなきゃね」
 果たして、リィゼからスターサファイアを取り戻す事が出来るのだろうか。

●今回の参加者

 ea1603 ヒール・アンドン(26歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3477 ダギル・ブロウ(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・フランク王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4159 リーニャ・アトルシャン(27歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea4297 ベルナルド・シーカー(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・フランク王国)

●リプレイ本文

 町はずれにある、意外にこざっぱりとした宿が、目的の宿であった。
 ヒール・アンドン(ea1603)は一人、宿の前をうろうろと2、3回行き来した後、酒場で待っている仲間の所へと戻っていった。
 仲間を見回したヒールは、あれ、と声をあげる。
「‥‥あの‥‥ガブリエルさんはどうなさったんでしょうか?」
 確かもう一人、バードのガブリエル・プリメーラ(ea1671)が居たはずだ。ヒールが少し様子を見に行っている間に、彼女の姿は無くなっていた。
 リア・アースグリム(ea3062)と並んでこのメンバー最年少のファイター、リーニャ・アトルシャン(ea4159)は酒場で出されたワインのグラスから口を離すと、ちらりとヒールを見上げた。
「ガブリエルは‥‥先に宿」
「偵察に行くって言ってたにゅ。‥‥途中で会わなかった?」
 パロム・ペン(ea2705)がヒールに聞く。ガブリエルの姿は途中見かけなかったと思うが、もしかすると自分が見落としていただけかもしれない。
「すみません‥‥もう一回行ってきましょうか?」
「いい、おいらが行くにゅ」
 と言うなり、パロムは立ち上がってさっさと駆け出していった。止める間もなく、ヒールの制止しようとする手が空を泳ぐ。
 このよくわからない状況を説明すべく、リアが口を開いた。
「ガブリエルさんは、件の盗賊の部下、一人くらいなら何とか出来るかもしれない、と仰っていました。パロムさんはリィゼさんに会いに行ったんだと思います。私たちも出発しましょう」
「そうですね‥‥はいっ」
 ヒールは頷くと、踵を返した。

 宿の中には殺気は感じられない。少なくとも、殺気を放っているものは居ない。
 二階にリィゼが居るのは確かなようだが、盗賊がどこに居るのかまでは、中に入らなければ分からないだろう。
「どうしましょうか‥‥?」
 と、首を少しかしげたシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)に、リーニャが言い返す。
「盗賊‥‥悪い人。人の物を盗るのは駄目だって‥‥教えてもらった」
「何言ってんだ、どのみち手下が前に立ちはだかるんだ。倒さなきゃ先にすすめやしないさ」
 ダギル・ブロウ(ea3477)は大きな声で答えた。そうですね、とどこか暢気な答えを返すシャルロッテ。
「シャルロッテ‥‥戦いたく無い‥‥?」
 シャルロッテはリーニャの方をくるりと向く。
「単に振るうだけの力は、わたくしは欲していません。そんなものは、あの盗賊と同じじゃないですか」
「まぁ、ええから来ぃや、嬢ちゃん。行く、戦う、説得する、これしか無いんやて、今は」
「わかっています‥‥手を離してください」
 ベルナルド・シーカー(ea4297)に強引に捕まれ、シャルロッテは店内へと入っていった。

 酒場の中には、二、三人の客が居た。うち一人は、女性。もう二人が、例の鉄の爪とい盗賊と思われる。ダギルはすたすたと中に入ってゆくと、男の前に立った。
「お前達が、鉄の爪の連中か」
 盗賊達は、鋭い目つきでこちらを睨む。怯まず、ダギルは見返した。
「アタリか」
 剣を抜くダギルに続き、ヒールとベルナルドも剣を抜く。
 シャルロッテは、三人を静かに見回した。
「どうしたものでしょう‥‥」
 シャルロッテが剣を抜くべきか考えている間に、戦いは始まった。
 左側に居た盗賊の抜きざまの一撃を盾で受けつつ、右側に居た男の剣はかわした。剣は肩をかすめたが、その時には既に腰の剣を抜いていた。
 間に割って入ったヒールが、左側の男に突っ込む。二撃目を後ろに身を引いてかわし、ソードを突く。ヒールを挟んで男の後ろ側にはリーニャが立ちふさがっていたが、リーニャのダガーは男にかわされてしまった。
 リーニャは軽く後ろに下がり、今度はもう一本ダガーを出して構えた。
 ヒールが相手の気をひいているうち、リーニャがダガーを振る。先に薙いだ右手のダガーをかわすも、続けて出した左手のダガーは相手の右肩を裂いた。
 ヒールのソードでとどめを受け、昏倒した男をリーニャが見おろす。
 ヒールが視線をもう一人へ向けると、ダギルとベルナルドが倒した後であった。
「さて、片づいた」
 ダギルが、ベルナルドに視線を向ける。
 ふと見ると、リーニャが盗賊の懐に手を入れ、金品をせしめていた。ダギルがそれを見て、声を掛ける。
「おい、お前さっき人の物を盗るのは悪い人だって言ってたんじゃないのか」
「悪い人からは‥‥盗ってもいい」
 どういう理屈だ、それは。ダギルは呆れてリーニャを見た。
 不愉快そうな顔をしたのは、リアとシャルロッテだった。
「盗られた宝石をとりかえすのが任務であるはずなのに、こちらが盗ってはリィゼに何も言い返せないじゃないですか」
「そう‥‥?」
 とリーニャがダギルを見返す。ダギルはふるふると首を振った。
「俺に振るな」
 リアはくるりと背を向け、階段をすたすたと上がっていった。それを追っていくシャルロッテと、彼女と入れ違いに降りてきたガブリエル。
 ガブリエルはさらりと前髪をかきあげながら、ダギル達に目を向けた。
「‥‥何かあったのかしら」
「あの姉ちゃんを、どうやってご機嫌取りするかっちゅう話や。何かあるか?」
 ベルナルドが一同を見回す。ダギルは最初から、ここで見張りをすると言っていた。
「俺はリィゼのご機嫌を取る方法が無いのでな。後は任せた」
 ベルナルドは、困ったように天井をあおぐ。
「とは言うてもなぁ、メシ喰わせるくらいしか思いつかへんしなぁ。何かあるか?」
 ベルナルドがヒール達を見る。
「な、無いです」
 ヒールは真っ赤な顔で、ふるふると首を振った。リーニャは何も答えないし‥‥。
 ベルナルドの視線を受け、ガブリエルがくす、と笑った。
「歌や楽器しか芸が無いけど、それでもいいかしら。でも、まだ私も修行中だから、期待するような腕前じゃないのよ。あの二人が何か芸を持っていればいいけど」
 と、ガブリエルは言うと、階段の方へと向かっていった。
 あの二人といえば、リアとシャルロッテの事だろう。
 きまじめなリアとお嬢様育ちのシャルロッテに、何か芸があればいいが‥‥。

 窓の中には、たしかに誰かいるようだった。屋根から窓枠へとロープで下りてきたパロムは、中の様子をうかがおうと窓に近づく。
 すると気配に気づいたのか、パロムが見上げると窓からリィゼがこちらを見返していた。パロムは一瞬どうしようかと迷ったが、おずおずと手を挙げて挨拶をしてみた。
「あ‥‥姉ちゃんが‥‥鉄の爪のリィゼにゅ?」
「そうよ、何の用かしら。子供に用は無いわよ」
 とリィゼはすうっと笑うと、手を差し出した。今掴まれたら、落ちてしまう。おたおたとパロムは手を振った。
「お、おいらはこう見えても34歳にゅ! 子供じゃないにゅ。‥‥サ‥‥サインもらいに来たにゅ」
「サイン?」
 リィゼは手を下ろし、一歩後ろに下がった。どうやら入れてくれるらしい。
 部屋の中は、ベッドと丸テーブル、椅子が二脚。椅子に腰掛けると、リィゼはテーブルに肘をついた。
「で、下が騒がしいのは、あんた達の仕業?」
「(バレてる‥‥)」
 パロムは頭を掻いた。丁度、ドアをノックする音が響き、中にリアとシャルロッテが入ってきた。リアは、とても芸をする様子ではなさそうである。どうやって宝石を取り返すつもりなのだろうか。
 リアはリィゼの前に立つと、口を開いた。
「何故あなたは、そんなに堂々とした態度なのですか? あなたは、追われる身のはずですが‥‥リィゼさん」
「あたしはいつも、追われる身さ。びくびくして生きるなら、最初からしなきゃいい」
 とくす、とリィゼは笑った。
「リィゼさん、スターサファイアを返していただけませんか」
「嫌だね。これはあたしが盗ったもんだ。盗賊ものが欲しければ、自力で取りかえす。それが筋ってもんさ」
「なんていけしゃあしゃあと‥‥。それは元々、あなたものではありませんわ。あなた程の使い手が、人を困らせるような事をして、恥ずかしいと思わないんですか?」
 シャルロッテが強い口調で言うと、リィゼはからからと笑った。
「全く思わないね。あたしは盗賊だからさ」
「あなたにとって、その宝石はどれほど大事だというのですか」
 リアの問いかけに、リィゼはしばし考え込んだ。
「そうねえ‥‥その質問を盗賊にするかい。盗賊ってのは興味があるから盗る。欲しいから奪う。やりたいからする。そういうもんさ」
「欲しければ、正しく買い取ればいいのです。そんな事を言っていては、世の中が乱れる一方です」
 と言うシャルロッテに、リィゼは頷いた。
「そうだろうね。だけど、あたしにゃ知った事じゃない」
「‥‥まあ、盗られる方も悪いにゅ」
「パロムさん?」
 じろりとリアがパロムを睨む。パロムが口を閉ざすと、シャルロッテが再びリィゼに聞いた。
「力というものは、守る為にのみ振るわれるものです」
「おや、それじゃあ欲しい為に振るわれないって言うのかい。平和とか土地とかも、欲しいもののうちに入らないのかねえ。知ってるかい、そうやって国が作られていったんだよ。‥‥この国もね」
「それは‥‥」
 長くなりそうな話にパロムがいつ間に入ろうかと考えていた時、ドアが開いた。いい香りが部屋に流れ込む。
「すまんなぁ、待たせて。出前持って来たで〜」
 ベルナルドは景気のいい声を放ちながら部屋に入ると、ガブリエルとともに部屋に料理を次々と持ち込んだ。最後に自分の肩に大きな樽をかつぎ、部屋にどん、と置く。
「ま、酒でも飲んでメシでも喰って、話しましょうや」
「酒ねえ」
 リィゼはゆっくりと樽に近づく。樽の前に立ったリィゼの気配に気づいたベルナルドは、彼女と樽の前に立ちふさがった。
「新しいの持ってくるから、まあかんにんしたってや。‥‥ほらリーニャ、はよ出っ!」
 と言うと、樽から仕方なく出てくるリーニャを置いてベルナルドは部屋を飛び出した。
 酒が持ち込まれたリィゼは、もう殺気を放ってはいなかった。
 いつの間にかワインを飲んで寝てしまったリーニャと、酒が入ってやや饒舌になったシャルロッテ。リアは、リィゼのペースに巻き込まれて酔っぱらってしまっていた。
 歌を披露したガブリエルは、リィゼに付き合って酒を飲んでいる。
 時間が過ぎていく。
「(あかん‥‥援軍が帰ってくる時間や)」
 ベルナルドは、窓の月を見ながら眉を寄せて苦笑した。ベルナルドに足を突かれ、パロムがはっ、とそれに気づく。
「(わし、下の様子見て来る。‥‥お前は取り返しとき)」
「(ええ〜?)」
 ベルナルドが出ていき、パロムは仕方なくりぃぜの側にすり寄った。
「ね、ねえちゃんもういい加減返して欲しいにゅ。‥‥このままじゃ、騎士団が出てくるにゅ。それは姉ちゃんも嫌だろ?」
「‥‥いつも追われているさ、騎士団が怖くて返しちゃ、鉄の爪の名折れだ」
「さすがにゅ。‥‥サ、サイン欲しいにゅ」
 と手帳を差し出しかけたパロムに、リアが剣を差し向けた。
「パロム、今は宝石を取りかえすのが先ではないのですか」
「そ、そんな事言っても‥‥」
 パロムも、冒険者とはいえ盗賊の端くれだ。ぜひプロからサインを頂きたい‥‥とは、彼女の前では口が裂けても言えないに違いない。
 リィゼがゆっくりとグラスに手をやった、その時三度ドアは開けられた。しかし今度入ってきたのは、ダギルとヒール、そしてさきほど出ていったベルナルドだった。
 ヒールは床に投げ出され、ダギルとベルナルドは二人に肩を担がれ、中に押し込められる。
「す‥‥すまん、やられてしもた。力やったら負けてへんから、わい一人でも勝てると思うたんやけど‥‥なかなか攻撃避けられへんし、こいつら戦い慣れてるし‥‥」
 その上、圧倒的な人数差と経験差。決着はあっという間に着いた。
 リィゼから表情が消えた。
「‥‥あたしは酒を邪魔されるのが一番嫌いなんだよ」
「すみません姉さん。‥‥こいつらが掛かってきたもんで」
 と盗賊一人が言い訳をする。その男の懐にあっというまに飛び込み、リィゼが腕一つで払い倒した。
 それから部屋の中を一瞥。
「やれやれ、そろいもそろって‥‥」
「待ってください、私たちは本当は戦いに来たのではありません」
 そうリィゼに語りかけたのは、リアであった。リアは伸されてしまった三人を見、それからリィゼをじっと見つめ返した。
「仲間が手荒な事をしたのは謝ります。‥‥ですから、それは返してください。望むなら私がその代金分、ここにいてあなたに使えましょう。ただ、人を傷付けるような事には協力出来ませんし、自分の命を絶つような真似も出来ません。いかがでしょう」
 パロムがリアに続き、二人に割って入った。
「宝石は‥‥また盗めばいいにゅ。おいら達の任務は、取りかえす事にゅ。また盗まれた事は、知ったこっちゃ無いにゅ〜」
「それは‥‥」
 とシャルロッテが言い返そうとしたのを、パロムが止めた。
「それしか方法が無いにゅ。‥‥これ以外何か方法があるにゅ?」
 シャルロッテが黙り込むと、リィゼは椅子に座った。
「まぁ、今日は上手い酒と料理と、気のいいお姉さんの歌にあんたのおかしな踊り、それに免じて返すよ」
 リィゼは懐から宝石を取り出すと、パロムに渡した。
「ああ、酔いがさめちまった。‥‥もう少しあんた達はつきあいな。‥‥ほら、お前達はそいつをたたき出しな」
 リィゼに言われ、盗賊達がヒール達を抱えた。

 夜も明け切った翌日、ほろ酔い気分で歩くガブリエルと、その後ろをリアに肩を貸しながら歩くシャルロッテをパロム達が迎えた。
 じいっと見上げるリーニャの後ろで、ダギルが声を掛けた。
「すまなかったな」
「いいのよ。取りかえしたんだから」
 ひらひらと手をあげ、ガブリエルは歩いていく。
「やっぱメシが上手かったからやろか」
 ベルナルドは、うーん、と考え込んだ。

(担当:立川司郎)