金貸しクロウ〜フクロウ、ちょっと捕まえて

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月20日〜07月25日

リプレイ公開日:2005年07月26日

●オープニング

 依頼人‥‥というものは、そもそももう少し遠慮がちなものである。
 どのような人物であれ、何か理由があったここに来ざるをえなかったのだから。だがどうだろう。
 ギルド員の男は、ため息をついた。彼はよくよく、こういう質の悪い男に会う運命であるらしい。
 色黒で黒髪、年は三十過ぎだろうか。椅子に浅めに腰掛け、カウンターにどっかりと足をあげた。
「‥‥そこは足を置く所じゃありません」
 ギルド員が言うと、彼は煙草に火をつけながら笑った。
「まあまあ、そう堅い事言いなさんな。ちょっとねえ、頼みがあるんだ」
「おまえさんみたいな金貸しが、何の用じゃ」
 ギルド員の後ろから、年配のギルド員が声をあげた。報告書の管理室の前に椅子を置いて、年配のギルド員が聞く。すると、金貸しと言われた男はにやりと笑った。
「まあね、俺もいろいろあるわけよ」
「金貸しなんですか?」
 ギルド員が聞くと、年配の男がうなずいた。
 こいつはちょいと名の知れた金貸し‥‥クロウじゃ。

 貸すと言ったら、主婦だろうが領主だろうが、神父だろうがこそドロだろうが、悪魔だろうが天使だろうが金を貸す。貸すと言ったら1cだろうが1万Gだろうが貸す。それがクロウという男だ。
「その代わり、金は絶対取りっぱぐれないから。金利は十日で三割増えるからな」
 クロウはいつものように念を押した。
 相手は、シャンティイの東。センリスの下町を仕切っている男だ。仕切っているとはいっても、要は質の悪い組織だ。
 男は、うむ、と答えると金を受け取った。100G‥‥おまえさん、100Gも用立て出来ないのか。あんたの親分、ちったあ金持ってるだろう。
 クロウがそう聞くと、男は黙りこくった。
「‥‥いえね。金が入り用なのは親分でして」
 ちょいと小太りで、人相は厳つい。さすがにセンリスの裏を取り仕切っているだけあって、盗みだろうが殺しだろうが何でもする男だ。
 しかし、惚れた女にはてんで弱い。
「最近のお気に入りが、酒場リトルローズの店員でして。その女の為に、毎日通ってるって訳ですわ」
「で、その金を用立てる為に100Gが必要なのか?」
「いえ‥‥女がね。何処かから聞いてきたらしいんですよ」
 大梟の話を。
 それはもう、人より大きい梟でして。人だってモンスターだって喰ってしまうんですよ。それを見て、女が‥‥
「かーわーいーいーっ! 欲しーい!」
 男が、両手を胸の前で握って甲高い声を上げた。ぽろり、とクロウの口からタバコが落ちる。
「て言ったもんだから‥‥。何だかんだ、女に使わされてですね。その金に当てるんですわ」
 はあ、と男はため息をついた。そうして男が帰っていって1ヶ月。
 女に貢いだ装飾品や宝石。親分は、借金が増えてからハタと気づいた。しかしその時にはもう遅い。女はいつの間にか酒場を辞めて姿を消し、残されたのは借金と大ふくろう。
 クロウは戻ってこない借金の取り立てに、男の所へと向かった。
「おい、借りた金は返すってのが道理だろうが? さっさと返さねぇと、体で払ってもらうぞ」
 椅子を蹴りつけながらクロウが低い声で言うと、男は低姿勢で頭をさげた。どうやら、親分はここには居ないらしい。話を聞けば、女に振られたショックで寝込んでいるらしい。
「いや‥‥でも金が用立て出来なくてですね」
「それなら体で‥‥いや、待てよ」
 クロウは屋敷の裏手に回っていった。庭先には、巨大な檻が設置されていた。中には、巨大なフクロウが‥‥。
「決めた」
 クロウは振り返ると、にんまりと笑った。
 こいつを借金のカタにもらっていく。

●今回の参加者

 ea4816 遊士 燠巫(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7401 アム・ネリア(29歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 eb0420 キュイス・デズィール(54歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb2321 ジェラルディン・ブラウン(27歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 クロウは、うーん、と唸ると、黙り込んでしまった。
 無理も無い。梟を捕まえるつもりが、今日来たのは‥‥。
「あんたがクロウか? ちょいと手違いがあって一人足りないが‥‥まあ、居ない方が危険が無いから、良いよな?」
 何の危険が‥‥とはあえて言わなかったが、彼は満面の笑みでクロウの肩を叩いた。
 長身に褐色の肌。姿からすると、ジャパン人のようである。遊士燠巫(ea4816)と名乗った彼は、両脇を見やって嬉しそうに笑った。
 それもそのはず。今日来られたのは、彼を除いて‥‥二人。それも、双方女性だった。
 一人はシフールで、もう一人はエルフ。どちらも聖職に就く者である。
 シフールの女性が、元気のいい声で手をあげた。碧の髪に碧の羽を持つ彼女が、アム・ネリア(ea7401)。
 そして、上品そうなおっとりした女性のこちらが、ジェラルディン・ブラウン(eb2321)だ。
 ブラウンはアムと燠巫、そしてクロウを一人ずつじっと見ると、手を胸元で合わせてにっこりと笑った。
「今日は梟を捕まえるのよね? どんな梟かしら」
 ふふ、と笑ったブラウン。
 楽しみにしている余裕などない、この状況。クロウはため息をついて頭を振った。
 この状況からすると、捕まえられるのは燠巫だけ‥‥という事は、自分が手助けに回らなければならない。ここの連中を使ったりすれば、貸した金からその分の労働料をさっ引かれるのは間違いないだろう。
「だったら‥‥俺とあんたで捕まえるしか無いな」
「‥‥」
 クロウは顔を上げて燠巫を見た。
「だってさ、お嬢さん方を危険にさらす訳にいかないだろう? ほら、こういう事は男の仕事だ!」
「さっすが〜、燠巫さん頼りになりますね〜」
 わいわいとはしゃぎながら、アムが飛び回った。

 問題となっている梟‥‥それは、元々親分が酒場の女に飼ってやったものだ。親分の屋敷の庭で飼っており、親分はわざわざ巨大な檻を作ってそこで飼っていた。
 5mもの大梟を飼うのだから、高さも広さもハンパじゃない。
「こんなん、どうやって捕まえろと‥‥」
 呆然と見上げ、燠巫は思わず呟いた。
 アムは、その巨大な姿に、思わずブラウンの後ろに隠れて服を握りしめる。
「こんなおっきな梟さんだったら〜、私なんてぱくっ、と食べられちゃいますよ〜」
「そうねぇ‥‥でも、何だか可愛いわ」
 ブラウンは笑みを浮かべて、檻に近寄った。梟は枝に捕まって、こちらを見下ろしている。
 その鋭い視線と、かぎ爪。
 一歩、二歩と思わず燠巫が後ろにあとずさりした。息子に連れて返ってやったら喜ぶだろうと一瞬思った‥‥だが、コレは危険だ。
 どうかすれば、ウチの子がぱくりと喰われてしまう。
「何だ、こんなものを連れて行くんですか〜? 梟さんは凶暴ですよ〜」
 とアムが、ブラウンの背中からクロウの背中に移り、ひょいと見上げた。眉を寄せて心配そうなアムの様子に、思わずクロウも苦笑した。
「まあ‥‥売れるから」
「売るんですか?」
「当たり前じゃねえか、俺は借金を取り立てに来たんだ。そしてこいつは借金を返さなかった。だから、その借金の代わりに、こいつの梟を連れて行く。そして、売り飛ばす。どうだ、簡単だろう?」
 簡単‥‥というより、親分とクロウの関係自体が単純である。
 借り主と、貸し主。
 ぱん、とアムは手を打った。
「なるほど、そうだったんですか〜。だったら、許容範囲ですよね〜」
「‥‥許容範囲?」
 どこのどの辺りが許容範囲だったのか、燠巫が考えながら眉を寄せた。
 しかし、更に驚く事にブラウンもゆっくり頷いて同意を示した。
「そうね、よほどの物好きしか飼わないと思うけど‥‥本当にクロウさんがお売りになるなら、それもいいわね。少なくとも、他意は無いんでしょう?」
「まあ、肉にしちまったら値が下がるからな」
「それなら安心したわ。だって、この子、可愛いもの」
 この場に彼が居ない事を、燠巫は少し後悔した。この、ちょっとズレた会話をしている、可愛らしい女性方に突っ込みをする者が居ないからである。
 そして、自分がこの女性方に突っ込み出来る性格じゃない事も後悔した。
「そ‥‥それもそうだな! お嬢さん方の為にも、俺とクロウが頑張るとしますか!」
 否応なく、燠巫はクロウを巻き込むと檻を見上げた。
 こいつはちょいと、手強い。

 まずは、餌だ。
 腹が減っていれば、餌に食いつくだろう。その隙に、上から網を被せる。
「羊かなんかを連れてくれば‥‥」
「羊一頭買う気か? 高すぎて手なんか出るか、農民の生活の糧だぞ?」
 クロウにそう反論され、代わりの物を探す事にした。
 選択肢はわずかだ。
 1.生肉を手に入れてくる。
 2.保存食で釣ってみる。
 3.自分が‥‥。
「えっ、燠巫さん達囮になるんですか〜? すご〜い!」
「だったら、安心して。怪我をしても、私達二人で手当をするわ」
 笑顔で送り出され、燠巫はクロウと視線を交わした。
 こうなったら、後に引けない。
「‥‥あんたが依頼主だよな?」
「いやいや、ここは勇敢な冒険者殿に任せるべきかと」
 引きつった表情でクロウが首を振ると、にいっと燠巫が笑った。
「じゃあ、あんたが檻に上って投網してくれるんだな?」
「‥‥」
 囮、決定。
 外で網を掴んでじいっと見守っているアムの前に立ち、ブラウンは扉の所に立って中を見まわした。
 檻を上り始めた燠巫の行動は、この限られた空間の中の出来事‥‥どうやっても、梟に気づかれてしまう。
 すると、ええい! と声を上げてクロウが飛び出した。
 何で俺がこんな事しなきゃならん。それもこれも、やはり人が集まらなかったせいで‥‥。
 クロウは愚痴りながら、梟の前に飛び出した。
「ほら、こっちに来な!」
 くるりと、梟の目がブラウンに向けられる。笑顔でブラウンは、檻の外に向けて、一歩あとずさりをした。
 ぱたん‥‥。閉じられた、檻の扉。
「大丈夫、術の効果範囲には入ってるみたいよ」
「はい〜、しっかり頑張ってくださいね〜」
 アムがパタパタと手を振った。
 大きな羽を広げ、すさまじい勢いで梟が舞い降りた。クロウが恐怖に引きつった顔で見上げる。
「‥‥しくじったら一生恨んでやるぞ、覚えてろよ、てめぇら!」
 かぎ爪が、クロウを掴もうとした時、上から網がふわりと落ちた。
 ‥‥が。
 ふわりと広がった網を、梟はするりとすり抜けて上空へと舞い上がったではないか。これに驚いたのは、燠巫だ。
「梟さんって、意外に速いんですね〜」
 ぽつりとアム。
 今度かぎ爪が向けられたのは、燠巫の方だ。あわてた燠巫の手が檻から剥がれ、体がぐらりと後ろに向いた。左手で檻を掴むが、汗でずる、と滑っていく。
 あっ、とブラウンとアムが声を上げた。
「あっ、燠巫さん危ない!」
 アムが手を前にかざす。とっさにアムは、術を詠唱。見事なコンビプレイで、ブラウンは中に飛び込むと、どん、とブラウンはそこにいたクロウを突き飛ばした。強制的に燠巫の真下に追いやられたクロウが顔を上げる。
 そこにアムの術がかかり、クロウは動きを封じられた。
 硬直したクロウの上に、燠巫が落下する。
 腰は打ったが、地面にたたき付けられるよりはマシだ。地面に転がった燠巫が、腰に手をやりながら起きあがる。
「あたた‥‥アンタ、無茶するなぁ‥‥」
 ぼやきながら、クロウが体を起こした。アムが申し訳なさそうに、ブラウンの影にかくれる。。
「ごめんなさい〜‥‥だって、燠巫さんが落ちちゃったから‥‥」
「アムさんが術を掛けるのが分かったものだから‥‥落下位置に居てもらわなければ困るでしょ?」
 頬に手をやり、ブラウンは苦笑した。

 日は昇り、頭上からさんさんと照りつけている。
 アムは頭上を見上げて、口を開いた。
「そろそろ、梟さんは眠る時間だと思います〜。梟さん、夜行性なのです〜」
「では、今が術で拘束するチャンスね!」
 いや、二人は檻の外に居るからいいが、中に入るのは二人なのだ。
 さきほどの怪我は二人に回復してもらったが、精神的な疲れは取れない。
「‥‥仕方ない、残る手は春花の術か‥‥」
 春花の術とは、眠りを誘う香を作り出す忍法である。しかしその為には、梟の近くに接近する必要があった。
「大丈夫です〜失敗しても、アムが外からコアギュレイトかけてみます〜。二段作戦ですよ〜」
「期待してるぜ」
 燠巫は一つ大きく深呼吸をすると、そろりと忍び足で檻に入った。梟が眠っているかどうか観察しながら、ゆっくりと近づいていく。
 そうっと燠巫は手をかざした。

 燠巫とクロウで、巨体を引きずって、馬車の荷台に梟を詰め込もうと格闘している頃、アムとブラウンはお屋敷で寝込んでいるという親分の見舞いに訪れていた。
 ちょっと体が横に大きな親分は、もそ、と頭を動かして、ふかふかのベッドから視線を上げた。
 ちいちゃな人形のようなシフールの女性と、美しいエルフの女性が自分を見つめている。
 ブラウンは、静かな口調で親分に話しかけた。
「具合はいかが?」
 親分が黙って二人を交互に見る。
 それから、ああ‥‥と声を発した。
「クロウが雇った者か」
「はい。‥‥親分さん、梟は連れて行くわね」
 ブラウンが言うと、親分は眉を寄せた。悲しそうな顔で、ブラウンを見返す。
「‥‥わしは梟が欲しかったんじゃない、どこへなりと連れて行け」
 体を起こし、ブラウンは苦笑した。
 アムと目を合わせる。
 ブラウンは、静かに首を振った。
「親分さん、人を愛するのは素晴らしい事だけど‥‥お金で気を引こうというのは、良くないわ」
「そうですよ〜親分さん。ほら‥‥悪銭は身に付かないと言うじゃないですか〜」
 悪銭と言い切ったアムのはっきりとした態度に、親分が笑みを浮かべた。
「はは‥‥まあ、そうか?」
「そうですよ〜。親分さん、この機会に色々考え直した方がいいですよ。‥‥最近じゃ、悪魔がどうの‥‥大麻がどうのという悪い噂が流れてますよ〜。そうなったら、親分さんなんて‥‥梟さんに会ったシフールみたいに、ぱくりと食べられちゃいますよ」
 両手を広げて、アムがおどろおどろしい声で言った。そのアムの身振りに、親分が声をたてる。
「はは‥‥お前達はおかしな奴等じゃな」
「そう? ‥‥ふふ、褒め言葉だと思っておくわ」
 ブラウンは笑顔を浮かべ、静かに手を出した。両手で、親分の手を包み込む。親分の手は暖かかった。
「‥‥ほら、親分さんは素敵な人だもの。いつかきっと、良い女性が目の前に現れるわ」
「‥‥お前さん、いい子じゃのう」
 うるうると潤んだ目で親分が見つめ返す。ブラウンはちょっと身を引いた。
「ありがとう。‥‥エルフじゃない良い子が見つかるといいわね」
 一言、ブラウンはそう付け加えて手を引いた。

 二人が親分の屋敷で紅茶を頂いて一息ついて戻って来た頃には、荷台の狭い檻に梟はすっかり収まっていた。じいっと檻の中でうずくまっている梟を見つめ、ブラウンが荷物から何かを出した。
 それは、ブラウンの持っていた保存食であった。
「お腹がすいていたら、気が立つものね」
 差し出した肉を、ぱくりと梟が食べ、嬉しそうに甲高い鳴き声をあげた。

(担当:立川司郎)