【王都侵攻】狂える森の火
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月19日〜08月24日
リプレイ公開日:2005年08月27日
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●オープニング
そっと手が触れる。
目を薄くあけると、誰かがのぞき込んでいた。
女‥‥いや、男か。金色の細い髪がさらりと肩を流れ、自分の顔を撫でる。
「気がつかれましたか?」
彼は、ふ、と薄く差し込む朝日のような笑顔を差し向けると、窓に向かった。
開け放たれたカーテンから、陽光が降り注ぐ。
「あなたは、警戒中であった私の騎士団に発見されたのですよ‥‥土屋」
土屋三郎は、急にからだをベッドから起こすと、手を横にやった。刀はそこには無く、やや離れたテーブルの上に置かれていた。
が、ベッドから降りようとした土屋の体は、思うように動いてはくれなかった。
「まだ起きるのは無理でしょう。治癒はしておきましたが、ずいぶん疲れていたようでしたから」
「しかし‥‥っ」
腹部の傷を押さえ、土屋は体を無理に起こした。
ここはどこだ‥‥。
そして、仲間はどうなった。
男は、ゆっくりと振り返った。
その時ドアの外から声が掛けられ、開けられた。四十過ぎほどの年の騎士が一人、部屋に入って来る。土屋を鋭い視線で一瞥し、男の前に跪いた。
「レイモンド様、報告が入りました」
「はい、続けてください」
レイモンドは、騎士を見下ろして言った。土屋がちらりとレイモンドを見る。
そうか、この男が‥‥。
「カルロスとネルガル達悪魔の軍勢が、パリに向かって進行中です。騎士団からも、余力があればパリの救援に向かうようにとの要請が来ておりますが‥‥いかがしますか」
「‥‥聖櫃を騎士団が所用している事が、露見したのですね」
小さな声でレイモンドは言うと、土屋と騎士を静かに見た。
「それで、シャンティイ周辺に動きはありましたか?」
「それが‥‥例の霧の森で火事が発生しております。周辺住民の避難は完了しておらず、森から大量の大麻煙が発生しています。この騒ぎに乗じて、インプやズゥンビ数十体が霧の森周辺で暴れ回っており、いずれパリに向かうでしょう」
「囮ですね‥‥フゥの樹とて、聖櫃は欲しいはず。こんな所でズゥンビのような動きの遅い手勢を使うとは思えませんが」
「‥‥俺はパリに戻らせてもらう」
と刀を取った土屋の肩に、レイモンドがそっと触れた。
「まあお待ちなさい。‥‥デジェル、メテオール“騎士団”をすぐに招集しなさい。パリ救援に向かいます。それと、私の馬車も用意しておいてくださいね」
「レイモンド様、パリに向かわれるのですか! ‥‥霧の森に居る軍勢を駆逐出来ないまま、しかもフゥの樹の主力がどこから来るか分からないというのに‥‥無茶です」
デジェルが、声を荒げる。
「‥‥ヨシュアス様のお願いとあらば、聞き入れぬ訳にいきません」
にこりとレイモンドは笑顔を浮かべた。
「さて、それでは土屋。あなたには、霧の森に居るインプ達を引き留めておいてください。しばらく引き留めておいていただければ、クレルモンの騎士隊とリアンコート守備騎士隊が増援に来るはずです。‥‥マスカレード達も、無事パリに着いている頃ですよ」
●リプレイ本文
事は急を要する。
各自、セブンリーグブーツ、駿馬等の手段を確認すると、打ち合わせもそこそこに出立した。先行するのは、アレクシアス・フェザント(ea1565)やシルバー・ストーム(ea3651)等、ブーツで馬に併走する者。そして、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)など駿馬を使う者の二手だ。
「先に、リアンコートの守備隊がついているはずです」
ヒルダの覚えによれば、リアンコートの守備隊は皆、元々リアンコート領主に仕えていた騎士達だ。その後来るのは、クレルモンのサリサ直轄の騎士達だ。
アリス・コルレオーネ(ea4792)とヴェリタス・ディエクエス(ea4817)は、シルバーの馬を連れて一足遅れて街道を進む。
先に到着したリアンコート隊が、あらかじめ村人の撤退を指示していた。先行隊はその翌日到着。この時点ではリアンコート騎士の8名しか居ない。ズゥンビの応戦などとても出来る状態には無く、森近くにいたズゥンビ達は大分住宅地まで進出している。
煙は上空高くに上り、遙か遠い地域にまでずっと風に乗って伸びていた。
この煙には、大麻の成分が含まれている。騎士達やギルドから来た者は皆、顔を布で覆い隠すなどの処置をしていたが、村人達はそうではない。ましてや、この煙の先に居る村々には影響は大きかった。
「だが、煙がパリに向かう事は無いだろう。‥‥万が一パリに届く事があれば、向こうでの戦いは厳しいものになるだろう」
イルニアス・エルトファーム(ea1625)が、風の流れを見ながら言った。
「大丈夫、明日には本隊も付きます。今日は激戦になるでしょうが、皆さん引き続き任務に従事してください!」
ヒルダが、騎士達に向けて声をあげた。
本隊?
そんなものが居ただろうか、とサラが首をかしげた。明日来るのはクレルモンの騎士隊と、後続で到着するアリスにヴェリタス。それから、火事の消火の為にと一人別行動を取ったパミだけである。
アレクシアスは、オーラエリベイションを自分に付与しながら、ちらりとヒルダを見た。
「‥‥いいのか」
「いいんです。多少のはったりが無ければ、明日まで保ちません」
ヒルダはそう言うと、自分もオーラエリベイションを掛けた。
森周辺に居るズゥンビは動きが元々鈍い為、まだ動きは止められている。しかしインプはそうはいかない。空を飛び、インプ達は避難している住民を襲ったり、騎士達に攻撃を加えて来る。
「インプに襲われ、逃げ遅れた者も居るかもしれん」
「‥‥そちらは俺が探す。俺は森の様子を見てくる」
イルニアスはアレクシアスに言うと、シルバーとともに森の方へと向かった。
ズゥンビ達は、真っ直ぐ人を追ってじりじりと進行していた。
アレクシアスとヒルダが先頭に立って騎士達に声を掛けるも、ズゥンビ達の数はとにかく多かった。最初は馬に乗っていたヒルダも、数に負けて馬を下りた。
騎士を含めて、ヒルダもアレクシアスも重装備で臨んでいる。
ズゥンビ達に傷を付けられるような軽装ではないが、全ての死者達を掃討しきれない。
「土屋、あまり急くな。‥‥どの道俺達もパリに戻る。それからでも、遅くはあるまい」
土屋の横に居たズゥンビを鎮魂剣で切り裂くと、アレクシアスが剣を振って血肉を取った。土屋は日本刀を持って背を向けたまま、インプの攻撃を刀で受ける。
「心遣い感謝する‥‥」
低い声で言うと、土屋はアレクシアスから離れた。
一方イルニアスとシルバーは、火事の範囲と森の様子等を確認する為、隊から離れていた。
火災は木々を焼きながら、徐々に外へと広がっていく。また、飛び火して遠い村が焼けるなどの被害も出ているようだった。
飛行してきたインプを刀でなぎ払うと、イルニアスは腕の傷を見た。アレクシアス達と違い軽装で来たイルニアスは、インプやズゥンビの攻撃を装甲で受け止める事が出来ない。
「‥‥大丈夫ですか、イルニアスさん。一度戻りますか?」
シルバーが様子を心配して聞いたが、イルニアスは首を横に振った。まだ、気になる事があるからだ。
「避難していた村人は、昨夜この森から誰かが出てくるのを見た、と言っていた。それも十数人」
「この森に誰かが住んでいる‥‥とでも?」
シルバーはうっすらと苦笑を浮かべた。
この森の奥には大麻が生えており、常時このような大麻霧が発生している、と依頼報告書にはあった。とても誰かが住んでいるとは思えない。
「さあ‥‥それはわからんな」
火事が収まった頃にでも確認すればいいのだろうが、あのズゥンビの数では依頼期間中に掃討するので手一杯だろう。
また、火事の被害を出来るだけ押さえる事も、レイモンドからの依頼の一つだった。
シルバーは大麻霧にレジストプラントで押さえられる事と、プットアウトでの消火を確認したが‥‥常時レジストプラントを掛けておくのは、無理がある。
全力を使い切っても、小一時間が限界だろう。
イルニアスはぼんやりとする頭に手をやって、振った。
アレクシアスやヒルダたちの助言により、口元を布で覆ったが、それでもじわじわと頭が痺れてきた。
これが限界だ。
イルニアスはシルバーと顔を見合わせると、撤退しているはずの仲間の方へと目を向けた。
イルニアスから、霧の森から出てきたという不審者の話を聞いたサラフィル・ローズィット(ea3776)は、一足先に森近くの村まで撤退した。すでにこの村は避難が完了していたが、今夜は自分達はここで一夜を明かさなければならない。
進路にある村の住民達は、避難させていた。あとは順次様子を見ながら、騎士の何人かが知らせに走る事になっている。
避難途中の者や、傷を負って残っている村人の手当をしながら、サラは彼の話を聞いてみようと思っていた。
「ともかく、明日はクレルモンの騎士隊の方々と掃討戦に参加しなければならないのですから、皆さん早くお休みになってください」
サラは、疲れもみせずに笑顔で言った。
「しかし、お主も疲れているだろう。肝心のお主が疲れていては、後方に憂いが残る。お主こそ、早くに休むといい」
土屋は、サラに声をかけると、今度はシルバーの方にも視線をやった。
「お主もだ。休まねば、力は戻るまい」
「ええ‥‥。でも、私はいざとなれば、ソルフの実も大分持ってきていますから」
「森の火も消して、魔法攻撃も巻物で補う気か? どれだけ実があっても、キリがあるまいに」
むろん、通常より精神力を喰うスクロールによる攻撃では、数度打てばシルバーの精神力は枯渇する。それにインプはなかなか堅く、スクロールとサンダーボルトでは、何度打ってもいっこうに数が減らない。
「明日はアリスさんも到着しますし、術は交互で使う事にします」
「それがいい」
土屋はシルバーに答えた。
‥‥あれが、つちちーか?
土屋をじっと観察しながら、小さな声でイルニアスが言った。
はい、つっちー様ですわ。
笑顔でサラが答えた。
つっちーか‥‥ふ。アレクシアスが笑った。
「あ、つっちー様‥‥」
「つっちーでは無いというに!」
「つっちー様はお怪我はありませんか?」
「‥‥無い」
サラには、何度言っても聞いてもらえないようだ。土屋は諦めて、悲しそうな顔で頷いた。そして、ホリィに、ホリィからマスカレードにその呼称が伝わるのは‥‥パリに戻ってからの話である。
その頃アハメス・パミ(ea3641)は、一人別路を取っていた。
パミが向かったのは、以前依頼で行った村であった。近くの森にジュエリーキャットが住んでおり、その魔法で度々森で火事が起こるのである。
その村近くに安置された天使像には、水の力が宿った石が埋め込まれていて、それが幾度も村を助けていた。
パミは記憶を辿って村に到着すると、すぐに村長の下へ向かった。
「シャンティイ近くの森に火災が起こっています。石を貸していただけないでしょうか」
深夜にもかかわらず村長はパミを招き入れて話を聞いてくれたが、村の者達はパミの話を聞いて眉を寄せて相談し始めた。
もし村から石が離れている間、自分たちの村も火がつくような事があっては、自分たちが危険な目に会うからだ。
「‥‥あなた方の心配はわかります。ですが、火災が起こっているのは悪魔の活動が噂されている森なのです。アンデッドの群れも、パリに向けて進軍中です。どうか、石をお貸しください‥‥すぐにお返しに参りますから」
パミが頼み込むと、村長は深く息をついた。
「‥‥わかった、懸命に村を救ってくれたお主達の頼みだ。その上レイモンド卿の頼みとあらば、断る訳にいくまい」
村長は、石の持ち出し許可をパミに出すと、馬を一頭用意させた。
「その馬では、とても今から走って保たないだろう。使いなさい」
村人の気持ちを受け取ると、パミはすぐさま霧の森へと馬を走らせた。
翌日、アレクシアス達は動きの鈍いズゥンビ達と、出立したメテオールの間の街道に位置を取った。ここでズゥンビ達の進行を阻止しなければ、ズゥンビはともかくとしてインプはメテオールに追いついてしまうかもしれない。
「ズゥンビ達は、俺達の動きに気を取られて進路を変えている傾向がある。ズゥンビ達の前に出て、奴らを引きつけておく」
アレクシアスが言うと、ヒルダが言葉を返した。
「しかし、昨日のように無理して前に出ないようにお願いします。バラバラになれば、隙が出来ます」
「それに、後方から魔法で援護射撃をするのであれば、味方も的になる」
ヒルダと土屋に言われ、アレクシアスは味方の動きに合わせる事を了承した。
アンデッドスレイヤーを持つアレクシアスは、合流したクレルモン騎士隊とともに、ヒルダの平面制圧作戦の盾になる。
オ−ラアルファ−を持ち軽装備のイルニアスは、シルバーをフォローしながらインプの掃討にあたる事になった。
装甲の厚い騎士隊が進路にふさがり、前に立つズゥンビ達を片づけていく。後ろと横にズゥンビ達が立たないようにする事で、有利に戦いを運んでいく。
だがインプは、そう簡単にはいかなかった。
シルバーの術もあっという間に枯渇し、サラ達後方の隊の所に戻ってソルフの実で回復、それから術という繰り返しが続いた。ソルフの実は若干騎士達も所持していたが、だからといって無尽蔵にあるわけではない。
また、インプ達は姿を別のものに変え、味方の近くに接近してから正体を現し、攻撃するなどの手段も取っていた。
「私とイルニアスさんでは、手が足りませんね」
シルバーが空を見上げて息をついた。
その時、サラの声が聞こえてきた。
「シルバー様、アリス様が到着されました」
ふり返ると、アリスのアイスブリザードが空を駆けた。
アイスブリザードで、火災の煙が風に煽られていく。わずかだが、味方の上空の煙が晴れていく。
「インプと煙は私に任せろ! シルバー、私が交代する!」
「‥‥いえ、私もまだ平気ですよ」
シルバーはそう言うと、アリスに続いて雷を放った。
インプの掃討は、アリスが参加する事によって一気に進んだ。
ヴェリタスは馬を連れ、ゆっくりとサラの元に歩み寄る。彼女は忙しなく、騎士達の手当をしていた。
「手当を手伝おう。サラ殿一人では、手に余ろう」
サラが変えを上げると、ヴェリタスもリカバーの術を使って傷を回復していった。イルニアスがヴェリタスの手当を受け、再び戦地に戻っていく。
二人が参戦してしばらくして、パミも合流してきた。
パミはタリスマンを発動させ、ヴェリタス達の元に来ると、石を取りだしてみせた。
「これを使いましょう。ただし、皆さんには内緒で‥‥村の方に頼んでお借りしたものですから」
「では、パミ様がお使いください」
サラはそう言ったが、パミは首を振ってサラの手の中に押し込んだ。
「これは、神のご加護のたまもの‥‥あなたが使うべきです」
「‥‥サラ殿、回復は俺が引き受ける。消火に回ってやってくれ」
ヴェリタスにもそう言われ、サラは石を握りしめた。
パミが持ってきた石は、サラに水を操る力を与えた。術の効果は長時間経過しても消えるなかなか事が無く、サラは川水を操ると次々に森の上から降らせていった。
やがてズゥンビ達の掃討も有る程度終わり、ヴェリタス達が応援に駆けつけた。
「村の方にも手伝いを願い、火災の周辺の木々を切り倒そう」
「手分けをした方がいい、とにかく村の付近はアリス達に任せればいい」
ヴェリタスとアレクシアスは話すと、ズゥンビ警戒に残ったクレルモン隊を除く騎士達とともに、山間部の木々を倒していった。
昨日から術を行使しっぱなしで、ソルフの実を握って歩いているシルバーは、へとへとになりそうな体をアリスに引き起こされた。
「プットアウトで消しても、火が再燃しているようだ。‥‥シルバー、お前はウォーターコントロールで頼む。私は煙を遮断する」
「仰せの通りに‥‥やれやれ、あなたは人使いが荒いですねえ‥‥」
シルバーは立ち上がると、スクロールを抱え込んだ。
山火事の消火を手伝い、それから傷を負った騎士や村人の手当を行っていた、ヴェリタスは顔をあげてイルニアスを見返した。
森から、誰かが出てきたと言っている。イルニアスは、伝え聞いた話をヴェリタスにした。
「確かに、村人がそんな話をしていたな。しかし、手当の必要な者は皆、大麻煙による幻覚症状や錯乱が激しくてな‥‥どこまでが幻覚だったのか、判別が付かない」
「俺は、それが本当だったんじゃないかと考える。」
イルニアスは考え込むように、手を顎にあてた。
確かにヴェリタスも、ここは大麻の製造基地であったと聞いていた。火災を起こしたという事は、ここにもう用事は無くなったのだろうか‥‥。
「大麻の報告は、シャンティイ各地に散っている。燃やしたのであれば、確かにここに用は無いと考えるのが妥当だな」
腰に手をやって、アリスも答えた。
どうやら、もうレイモンドには追いつけそうにない。
ヒルダは、静かに南の空を見つめた。
せめて、あの方のお側に居る事が出れば‥‥。
そっと目を伏せ、ヒルダは騎士達の方へと引き返した。
(担当:立川司郎)