王都侵攻番外−メイの森にもインプが
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 87 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月25日〜08月31日
リプレイ公開日:2005年09月02日
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●オープニング
精霊達が騒いでいる。
森を守る為に侵入者を攻撃していた彼らも、その凶暴さと数におびえて姿を隠してしまった。
日の光に解けるような細い髪が、風に揺れる。その穏やかな表情で、彼は空を見上げた。木々の合間から、陽光が差し込んでいる。
ゆっくりと見回すと、豊かに湛えた泉の向こうに、何か樽のようなものが隠されているのが見えた。その脇には、誰かが寝起きしていたのか、毛布が見える。
「‥‥やはり、あのギルドの報告書通りのようですね」
彼は振り返ると、影を見返した。
陽光を遮る、黒い影が立っているその脇を、数体の悪魔が飛び抜けていく。
インプ達は影の視線の先へと、まっすぐに向かっていった。
「フリューゲル様、やはりここは‥‥」
「“あの方”がお戻りになる事‥‥それがフゥの樹“逆しまの樹”への道だ」
神父は低い声でそう言うと、すう‥‥と姿をかき消した。
ふ、と彼が微笑する。
さて。では、ここはひとまず引き上げるとしますか‥‥今はとりあえず。
何故だろう。
メイは、きょとんとした顔で母を見上げていた。父は、ドアの前でヴェントと話している。いつもはヴェントとお話しちゃ駄目だって言ってるのに、どうしてだろう。
メイは不思議そうに、こんどは窓の方を見た。
窓からシェリーが部屋に飛び込むと、ヴェントがすぐに窓をしめる。父は、せわしなく飛び回るシェリーに声を掛けた。
「シェリー、村の様子はどうだ」
「みんな家の中に隠れているわ。‥‥森も、精霊達の気配が無い」
そう‥‥シェリーもヴェントも、だから森から出てきた。
森に、悪魔の気配があるから。
父も母も、そしてヴェント達も知るよしもなかった。ここから離れた霧の森で悪魔達と騎士が対峙している事を。
「‥‥ねえ、もう逃げた方がいいんじゃないの?」
シェリーが叫ぶと、ヴェントがドアの前に立って気配を殺し、答えた。
「無理だ、村人全員を奴らから逃がすのは‥‥」
そう言うと、ヴェントがすうっと父を見た。
「俺はいざとなったら、メイだけ連れて逃げる。それでいいな?」
「なんで? どこに行くの?」
メイが父と母を見上げる。悲しそうに、母が見下ろしていた。
「そうね‥‥二人とも、メイをお願いね」
メイには何が起こっているのか、よく分からない。でも、父や母が悲しそうな顔をしていて、ヴェント達も苛ついているのは分かる。
たぶん‥‥何か怖いものが来るんだ。
メイはぎゅっと母に抱きついた。
何故こんな時に、こんな事件が起こるのだ。
ギルド員は、おろおろと歩き回った。
彼に、ティアの村の危機を告げた男は先ほど息を引き取った。断る訳にもいかず、放置出来ない。
「もう、このパリの危機に‥‥何だってまた、いろいろとややこしい話が飛び込むんだ」
「危機だからじゃない? 霧の森で暴れているフゥの樹の軍勢か、伯爵に呼応する悪魔が暴れているんじゃないかしら」
ギルド員は女性のギルド員にそう言われ、眉を寄せた。
●リプレイ本文
今回のメンバーは、屈強な戦士と知的なエルフのウィザードと、クレリックと‥‥という訳ではなかった。
何せ、半分が子供。そして二人がシフール。
後から来る予定の、ハーフエルフのラファエルはもう何度かこの村に来ているので、ある程度顔なじみであるが。そしてエルフとパラが2人ずつ。
まあようするに、人間が子供のデュクス1人しか居ないのである。
「‥‥大丈夫なのか?」
村長は、少し心配そうな口調でアフラム・ワーティー(ea9711)に聞いた。
アフラムは動揺する事なく、こくりと頷く。
「大丈夫です。何人かはこの村に来て事があるようですし、地理面でも不安は無いでしょう」
そう答えると、アフラムは村長に頼んで、一番大きい建物‥‥村長宅に住民を集めてもらうよう、頼んだ。
むろん、メイも一緒に避難してもらう。
デュクス・ディエクエス(ea4823)は、そんな二人を安心したように見ていた。あれからしばらくぶりだが、二人とも元気そうだった。ヴェントと同じく決して人当たりのいい方ではないデュクスだったが、二人の事は案じていた。
メイの側に付いていたヴェントは、彼女の手を離してデュクスの方へ足を踏み出した。するとメイがあわてたように、ぎゅっと手を握った。
ヴェントがふり返ると、メイは眉を寄せて泣きそうな顔で見上げていた。
「‥‥ヴェントは‥‥メイを頼む」
メイが寂しそうだ。
そうヴェントは言ったが、アフラムはヴェントとメイ‥‥そして村人を見返すと、小さく息をついた。
「メイ嬢を救いたいという気持ちは分かりますが、我々とてゴブリンや悪魔を放置するわけにはいきません。出来れば、共に戦って頂けませんか」
ヴェントは黙っていた。
メイを守ってやって欲しいというデュクスの思いは、アフラムとて分かる。
だが、村を守る事が彼女を守る事にも繋がるんじゃないのか、とアフラムがデュクスに諭すように言うと、デュクスも了承した。
ターニャ・ブローディア(ea3110)とデュクスがゴブリンの群れの進軍状況を確認に出ている間、アフラムは虎牙やシェリー、ヴェントに頼んで村人の避難を行っていた。
避難が終わる頃にはターニャ達も戻り、遅れていたギャブレット・シャローン(ea4180)とアルフィン・フォルセネル(eb2968)も到着した。
ビザンチン出身でゲルマン語の出来ないギャブレットは、ラテン語を介してしか話せない。だから、ラテン語の得意なアルフィンが付いて作戦を伝える事にしていた。
ギャブレットは言葉を通訳してもらうかわり、アルフィンを自分の馬に乗せて、セブンリーグブーツで併走していたのである。
「遅れてごめんなさい‥‥皆、避難は済んだの?」
アルフィンが周囲を見まわすと、村内は静まりかえっていた。
ヴェントが、村長の家の前に立っている。
「そっか‥‥やっぱり、分散していると守りにくいもんね」
「相手の戦力もそうね。分散していると、あたし達が守りにくいわ」
黄牙虎(ea4658)が、アルフィンに答えた。
「ラファエルさんは、もうちょっと掛かりそうだね。だから、それまで僕達が守ろう」
騎馬を持っていないラファエル・クアルト(ea8898)とメリル・エドワード(eb2879)は、馬車を乗り継いでこちらに向かっている。
「馬車じゃ、仕方ないわね。‥‥間に合ってくれるといいんだけど」
牙虎が少し繭を寄せ、言った。
森の奥が、にわかに騒がしくなる。ふわり、とターニャが牙虎の方に飛び込んできた。
ぽん、と牙虎にぶつかって、声をあげる。
「あ、来た! インプとか、ゴブリンとか一杯居たよ!」
パタパタとターニャが手を振りながら言うと、牙虎は軽くターニャの肩を叩いた。
「慌てないで、それじゃあ準備しようかしら」
「そうですね」
アフラムが、皆に視線を向ける。
ゴブリンと直接前に出て戦うのは、ヴェント、ギャブレット、アフラム、デュクス。
後ろからソニックブームでフォローするのが、牙虎。ターニャはゴブリンのボスを狙ってサンレーザーを撃ったり、相手の動きを見て仲間に教えたりする。
アフラムは自分を含めて四人にオーラパワーを、アルフィンはグットラックを皆に掛けていく。
「この数‥‥ちょっとキツいわね」
牙虎は呟くと、オーラソードを作り出した。
剣を両手で持ち、斜めに振り込む。剣圧がインプを切り裂くも、彼らはそれをものともしない。
目を見開くと、牙虎は舌打ちをした。
「やっぱりダメ‥‥?」
彼らの間をすり抜け、牙虎がターニャの方に声をかける。
「ターニャ、インプが三体‥‥あたしじゃ、ダメみたいだわ」
「分かった、サンレーザー撃ってみるよ」
インプを他の者に任せ、牙虎はターゲットをゴブリンに切り替えた。動きの鈍いゴブリン相手であれば、牙虎がその剣を体に受ける事はない。
彼らより牙虎の方が、動きが素早い。
オーラパワーを掛けたギャブレットは、アルフィンから村長の家を守るように指示され、ヴェントとともに立ちふさがっていた。
窓から飛び込もうとするインプを剣で牽制し、のたりと歩み迫るゴブリンに巨大な剣をたたき付ける。
その一撃で、ほとんどのゴブリンは動きを止めた。装備の厚いギャブレットの肌には、ゴブリンの剣がとどく事はない。
ギャブレットとデュクスはその威力の強い剣で、一体ずつ確実に動きを制していく。
だが、相手の数が圧倒的に多い以上、全てに手が回らない。
村長の家の扉の前にヴェントが立ちふさがっているが、木製の扉はすぐにも壊れてしまいそうだった。ギャブレットが、ちらりとそちらを見る。
いかに人狼といえど、あれほどの剣を受けて気分がいいはずはなかろう。
ギャブレットはヴェントを押し退けると、自分が代わった。
『ヴェント、いくらダメージを受けないっていっても、それじゃダメだ。おいらが代わるから、キミはインプを牽制してくれないか』
言葉は通じただろうか。
ヴェントはギャブレットと交代すると、扉に群がる三体を彼に任せてインプ達の相手に回った。
インプの一体はターニャを突いている。必死に避けようとするが、ターニャでは避けきれなかった。牙虎が彼女を庇ってオーラソードを振るが、彼女達より遙かに大きいインプは、倒すには大きすぎた。
「空飛んでるんだもの、メリルに任せなきゃムリよ」
牙虎に庇われ、ターニャがサンレーザーを放った。インプが悲鳴を上げ、飛行の体勢を崩す。落下しながらインプが体勢を立て直し、二階の村長の窓に真っ直ぐ激突‥‥いや体をたたき付けた。
がたがたと窓を揺すっている。
牙虎はオーラソードを片手で掴んだまま、後ろからインプにつかみかかった。
「退きなさいっ!」
「ギッギギ‥‥ミコ‥‥ノ‥‥ケットウ」
みこ‥‥の‥‥けっとう?
牙虎が手をゆるめた時、ターニャの術が炸裂した。
インプは力を失い、するりと窓枠から手を離して落下していった。ターニャは上空を、さらなるインプの攻撃を避けながら一回りして、アルフィンの所に戻ってきた。
「アルフィン、まだ森から五体。この建物の周りに五体居るよ。インプが二体残ってる!」
「‥‥僕一人じゃ、皆に治癒の魔法を掛けて回れないよ‥‥こう数が居たら‥‥」
「あ‥‥ちょっとまって!」
ターニャは、何に気づいたのか、森の方に向かっていった。
しばらくした時。
森から、稲妻が走った。
真っ直ぐ横に駆け抜けた光は、ゴブリンやインプを巻き込んで木々を切り裂く。
『あ‥‥もしかして‥‥。ギャブレットさん、メリルさん達が着いたようだよ!』
『よかった‥‥もう少しで窓を破られそうだったからね』
顔を上げると、ギャブレットは剣を構え直した。
ちょっと得意そうに手を腰にやって仁王立ちをしているメリルの頭を、ラファエルがこづいた。
「何してんの、さっさとフォロー頼むわよ」
斧を腰のベルトから抜き、ラファエルはアフラムに群がっていたうちの一体に、振りかぶった。ゴブリンに斧を全身で叩き込むと、続いて放たれたメリルの稲妻に巻き込まれたゴブリンを片づける。
「良かった!」
アルフィンが手を振ると、メリルもそれに答えて手をあげた。
「安心するのだ、アルフィン。私が来たからには、百人力だぞ」
「ラファエルさぁ〜ん、僕包囲されて困ってたんです。デュクスさんの所まで連れて行ってください!」
「なんだと、おぬし私がだなぁ‥‥」
メリルはぶちぶち言いながらも、一瞬で詠唱を済ませて雷を放った。
ちら、と空を見ると、まだインプが上空に羽ばたいているのが見える。ちら、とヴェントがメリルを見返す、くいと手を振ってインプを指した。
たのむ、とヴェントの口が動いた。
メリルの魔法のフォローもあって、ラファエル達が到着してしばらくしてインプとゴブリンは制圧された。
あちこち扉や窓が破壊されているが、住民に被害は無かったようだ。
村長は、住民に中に居るように言うと中から出てきた。
「ふむ‥‥子供ばかりと言うて、すまなかった。まさか、またこんなモンスターに襲われるとは、思いもしなかったからのう」
「うむ。悪逆非道な輩は、この超肉体派の私が成敗してやったぞ」
また、ラファエルがこつ、と頭を叩いた。
「何言ってんの、ナイフ一つまともに振れそうにない細い腕して」
とラファエルが腕を掴むと、メリルは頬をふくらませてふり返った。
「何を言うのだ、私が居たからインプ達が倒せたのではないか」
「はいはい、そうね。ありがと、メリル。‥‥まあ、私はメイの無事を見に来たわけだから。わかったわ、怪我が無くて」
奥に引っ込んでいたメイが、名前を呼ばれて、母の体の影からひょいと顔を覗かせた。
村長が奥に居た村人に、声を掛ける。
「さあ‥‥皆、もう大丈夫だ。‥‥やれやれ、村がモンスターの死体だらけじゃな」
「私も手伝うのだ、モンスターの遺体は‥‥まあ、ギャブレット達に任せて、窓枠の修理なら」
そんな事を言って、ちらりとギャブレットを見ると、アルフィンが一言二言、彼に何か話してくすくすと笑った。
「それにしても‥‥何故こんな所にまた、ゴブリンが現れたのかのう」
首を傾げながら村長が呟く。
皆、知っていた。パリで今、大変な騒ぎが起きている事を。
黙っている彼らにかわり、アフラムが口を開いた。
「今、パリに悪魔の軍勢が現れています。僕達もこれから、戻って戦わなければなりません」
「多分ここに来たインプ達って、今シャンティイの霧の森に現れているフゥの樹の一派から流れてきたんだと思うわ」
ラファエルが続いて答えると、村長は顔を強ばらせた。
「悪魔だと?」
「ええ」
「そんなもの、こんな村に何の用でゴブリンどもを差し向けたと言うんだ。‥‥そもそも、ここは何もない平和な村じゃった」
住民は、誰ともなしに視線を一人に向けた。
誰も考えた事は無かったが‥‥。今まで、何度こうしてギルドに人を遣わせただろうか。
こんな山奥の村に、何度モンスターが襲撃した?
何故この村に精霊や希少な妖精が集まっている?
コボルト、ゴブリン、凶暴な動物たち‥‥。
シェリーは元から住んでいたからまだいい。希少種である銀色の狼や、メイにまとわりつく、妖精達。そして、めったと見る事のないはずの、人狼‥‥。
全部、メイで繋がるのではないか?
全部、メイに集まっている?
デュクスは、黙っているヴェントに、向き直った。
「‥‥ヴェント‥‥ここに来る時、怪我してた。どうして‥‥何でここに来た」
彼は黙って視線を上げる。すると、ラファエルが手を頬にやって、口を開いた。
「あなた‥‥レイモンド様の所に行った時、何か言ったわよね。契約とか対象とか」
ふるふるとヴェントは首を振った。
「俺からは言えない。だが‥‥メイは悪くない」
「あのインプ、みこのけっとう‥‥って言ってたわ。みこのけっとう、巫女の血統」
鋭い視線で、牙虎がヴェントを見る。
「この子が居るから、モンスターが来たのか」
おそるおそる、メイの父が聞いた。
村人が聞く事が出来ない一言‥‥父親だから、ヴェントに聞いた。
ヴェントは答えない。
答えられない。
ターニャが、何だか難しい表情の皆の様子を見て、ふわりと飛び上がった。
「あの‥‥皆、せっかく助かったんだから‥‥さ」
「だって、今までのモンスターだって、誰かが差し向けて来たって感じじゃなかったわ。メイが居なかったら来なかったのか、って聞かれると‥‥来たかもしれないと思うもの」
ラファエルはターニャをちらりと見返した。
「さて、お片づけの手伝い、しましょうか?」
ターニャは、メリルと二人で、村人について片づけに向かった。
村長は、黙り込んでいるメイの両親の方を、何か言いたげにちらちらと視線をやっていた。
メイは‥‥悪くない。
一言だけ、ぽつりと言った。
(担当:立川司郎)