大変、秘密の場所に‥‥。

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月14日〜07月20日

リプレイ公開日:2004年07月19日

●オープニング

 それは、とてもまがまがしい体色をしていて、美しかった泉の中にのうのうと生息し、メイと妖精さん・シェリーの大切な秘密の場所に大量発生していた。
 そればかりか、主ともいえる大きなカエルが‥‥。

 またしてもシェリーはギルドにやって来ると、手下募集、という偉そうな文句の紙を貼り付けた。あきらかにシフールより小さなシェリーは、ギルドの中で目立っている。
 しかしそれにも構わず、シェリーは堂々と目立つ位置に紙を貼り終えると、満足げに去っていった。
 シェリーキャンと呼ばれる妖精のシェリーは、メイという小さな少女の村の近くの森に住んでいる。メイとシェリーは大の友達で、少し前にメイはコボルト退治をギルドに依頼した事があった。
 コボルトはメイとシェリーの大切にしていた森の中のわき水が小さな泉を作っている秘密の場所にやってきて、メイを傷つけた。そのコボルトは追い払ったのだが、コボルト達が巣くっていた間に泉に変化が起きていたのだ。
「泉に、カエルが来るなんて! しかも、デカいのも居るわっ」
 食べられそうになったわよっ、と大きな声でシェリーは叫んだ。
「カエルさん‥‥どうしたらいいのかな。手で取って運ぶ?」
 メイはシェリーに聞いた。
「駄目よ、あいつはすっごい毒を持ってるんだから、メイは危険よ。大丈夫、あたしの部下がすぐにすっ飛んできてくれるわ」
「ほんとう? ‥‥お友達さんにお願いしてね」
 メイは部下とは何なのかよく分かっていないようだが‥‥。
 またしてもこんな感じで命令されてしまったのだけど、はたして助力してくれる親切な人は居るんでしょうか。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1596 フィーラ・ベネディクティン(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3090 リリアーヌ・ボワモルティエ(21歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3725 ジャン・ゼノホーフェン(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 蛙。それは、どこにでも居るイキモノである。特別何か異常がなければ、子供が捕まえて遊んだりするものだ。
 そう、特別な理由さえなければ。
「それって‥‥どんなカエルなの‥‥?」
 遙か後ろから聞こえた声に、シェリーが振り返った。シェリーはつい、と彼女の元に飛んでいくと、ぷりぷり怒った様子で手を腰にやった。
「もう、ちゃんと着いてきてる?」
 フィーラ・ベネディクティン(ea1596)は、荒い息をつきながらも毅然とした表情でシェリーを見返した。緩くウェーブのかかったブロンドヘアが、幼げな顔立ちの頬に張り付いている。
「大丈夫よ。‥‥それより、ラテリカを心配したらどう?」
 フィーラと同じエルフの、ラテリカ・ラートベル(ea1641)は地面にへたり込んでいた。フィーラとラテリカは、あまり体力に自信が無い。子供でも歩ける距離を挫折するのはなさけないが、二人とも長時間歩き回るのは得意では無かった。
「ねぇ親分〜、ここで休みましょうよ〜‥‥」
 もう一歩も歩きたくない、といった様子で、ラテリカが声をあげた。先方を平然と歩いていた長渡泰斗(ea1984)と風烈(ea1587)が、足を止める。
 実際、顔には出さないが、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)も疲れているようだった。エルフの女性3人に無言の要求を受け、長渡は風と顔を見合わせる。
「それじゃあ、ここで一休みするか」
「だったら、私は一足先に泉に行って、様子を見てこよう」
 長渡が言うと、ジャン・ゼノホーフェン(ea3725)がそう答えた。ジャンが行くと、これで当分休める、とラテリカが嬉しそうに笑顔を浮かべた。ガブリエルも、一息つこうと木に背中を預ける。
「‥‥こんな森の中をうろうろ歩き回るとは、思わなかったわ。‥‥ボケミカがあんな事言わなけりゃ‥‥」
「何、何か文句あるぅ?」
 シェリーに睨まれ、にっこりと笑顔を浮かべたガブリエル。
「いいえ、何も。‥‥それより、カエルってどんなのかしら」
「毒があるカエルよ」
 きっぱり。
 よく分からない解説に、ミレーヌ・ルミナール(ea1646)が聞き返した。
「極彩色をした、30センチくらいのカエルかしら?」
「そうそれ!」
 30センチもあるんですか‥‥と呟いたラテリカに、フィーラが視線を向ける。
「ヒキガエルの一種よ。毒性の消化液を飛ばして来るけど、けっこう遠くまで飛ぶから注意した方がいいわ」
「でも‥‥」
 リリアーヌ・ボワモルティエ(ea3090)が、か細い声を出した。
「何?」
 シェリーの大きな声に、リリアーヌが黙り込む。リリアーヌは、シェリーの勢いにすっかり飲まれていた。
「こらっ、そんな事じゃカエル退治は出来ないよっ!」
「まあまあ、そんな大声出さないで」
 ミレーヌがやんわりとシェリーに言うと、リリアーヌがようやく話を切りだした。
「あの‥‥あの、解毒剤が足りるでしょうか」
 リリアーヌは一つ、確認するとガブリエルとラテリカが一つずつ持っていた。
「マントか何かで防御した方がいいわね。攻撃性は高いようだし、石か何かでおびき寄せて捕まえたらどうかしら」
 幸い、そう言ったミレーヌも、他のメンバーも大抵マントを持っている。魔法を使えるラテリカやガブリエルは後ろから魔法で動きを止めればいい。
 そうしているうちに、ジャンが戻ってきた。
「言われた通り、大きいのが一匹居るようだな」
 それ以外は、ざっと見た所十匹前後。泉が澄んでいる為、中に居る生物はよく確認出来るようだ。ただし、隠れているものまでは分からないが‥‥。
 皆が話し込んでいる間に、ガブリエルが素早くシェリーを捕まえた。
 突然の事で声を出そうとするシェリーに、ガブリエルが顔を近づける。
「‥‥いい、よく聞きなさい」
 ‥‥ガブリエルが何事か言うと、シェリーはパタパタと飛び去った。

 花や草木、そして豊かに実のなった木々に囲まれた泉は、透き通るように澄んでいた。ミレーヌは低木の影からその光景を見つめ、息をのんだ。
「綺麗な所ね‥‥」
 じっと見つめるミレーヌは、ジャンが何かしているのに気づいて、はっ、と振り返った。ジャンが釣り道具の準備をしている横で、風が石を集めている。リリアーヌは、バックパックから毛布を出していた。
「用意は‥‥いいです」
 リリアーヌが言うと、ジャンはさっそく釣りをはじめた。泉には近づきすぎず、遠くから一匹ずつおびき出していく。長渡が、こちらに近づくように保存食を少し切り取って泉に放った。
「先に大きな方が釣れなければいいがな‥‥」
 という長渡の不安は的中する事なく、大きい方のカエルは泉の向こうの岩陰で日向ぼっこをしている。が、ミレーヌと風が石を投げると、ぼちゃん、という物音に驚いて大きなカエルが飛び跳ねた。
 こちらに気づいた毒蛙も、一斉に向かってくる。
 長渡は刀を抜くと、ジャンの方を振り返った。
「あっちの蛙は、俺が引き受ける。そっちは頼むぞ」
「待て、俺も行こう」
 風が長渡とともに、巨大蛙の方に駆けた。
「ええっ、二人が居なくなったら、ラテリカ達は誰が守ってくれるんですか?」
 毒々しい蛙が何匹も跳ねて来る様子に、ラテリカは既に半泣き。
 ガブリエルは、飛び込んできた蛙を靴のかかとで踏み、ラテリカに声を上げた。
「ラテリカ、手伝ってくれなきゃ困るわ」
 次々泉から出てこちらに向かって来る蛙を、フィーラがウォーターボムで、ガブリエルがシャドウバインディングで捕獲していく。
「ちょっと〜、ラテリカ! あんたも頑張るのよっ」
「わ、わかったです‥‥」
 シェリーの怒鳴り声で、ラテリカは詠唱をはじめた。
 捕らえきれないものは、ミレーヌとジャンがナイフで刺していく。
 とはいえ、一番前に立っているジャンは、カエルの毒液をなかなか避けきれずに浴びていた。毒液のほとんどは服でカバーされていたが、染みてくるのも時間の問題だ。
 毒は後で、リリアーヌに手当をしてもらえばいい。今はカエルを何とかするのが先だ。
「数が多すぎるな‥‥そこっ!」
 ジャンの投げたナイフが、ガブリエルの足下に刺さる。瞬間ガブリエルは、むっとした表情を浮かべ、すぐに表情を和らげた。毒液が染みてきている。解毒剤を出そうとしたガブリエルの足にそうっと触れたのは、リリアーヌだった。相変わらず口数多い方ではないが、リリアーヌは無言でガブリエルの靴を脱がせ、水袋を傾けた。
「来る時、清水を汲んできました。少しは‥‥保つと思います」
 丁寧に傷口を洗うと、リリアーヌは毒液が着いた箇所を布で縛った。
「ありがとう、リリアーヌ」
 ガブリエルはすうっと笑みをリリアーヌに向けた。肩をすくめるリリアーヌに、ガブリエルは手を腰にあてて言った。
「さあ、女の肌に毒を掛けたカエルを一掃しなきゃね」
 ガブリエルが振り返ると、あらかた毒蛙は片づいた所だった。フィーラが長渡達の元に駆けていく。
 長渡と風が対峙する蛙は、人ほどもある巨大なものだった。皮膚がしめっている為、風の鋭い攻撃がなかなか当たらない。おまけに、飛び跳ねると手がつけられない。
「大丈夫、二人とも!」
 フィーラが駆けつけると、風がちらりと振り返った。ラテリカが、フィーラに続いて女性に来るのが見える。ラテリカは、風と長渡へ向けて叫んだ。
「ラテリカが、テレパシーで話しかけてみます!」
「何言ってるの、カエルが話し合いに応じるとでも思っているの?」
 呆れてフィーラが言い返す。ラテリカは眉を寄せ、頬をふくらませた。
「大丈夫、ちゃんと出来ますっ!」
 ラテリカは詠唱を始めた。ラテリカを放置し、フィーラはウォーターボムの詠唱に入る。
 風と長渡は、双方素手でカエルに向かっていたが、なかなか捕まえられないばかりか、一打一打が倒すまでに至らない。
 その時、ちらりと風の視界に、詠唱の終わったラテリカが映った。
「カエルさん‥‥カエルさん、後ろにヘビさんが居ますよ‥‥でっかいヘビさんが!」
 ヘビ?
 驚いたのは、気づかなかった長渡。風もつい、カエルの後ろを見てしまった。そこに、フィーラのウォーターボムが炸裂する。フィーラはすかさず叫んだ。
「何してるの、動きを止めている間に攻撃して!」
「分かった。‥‥すまんな、無益な殺生は好まんが‥‥」
 風は低く呟くながら、怯んだ蛙に風に突っ込んだ。蛙に放った鳥爪撃も、決定打とはならない。
「素手じゃ、大きなダメージを与えられないようだな。‥‥だったら!」
 風は蛙の口元に飛び込むと、伸ばした舌に腕を差し出した。舌が風の腕に巻き付く。逃げないように、立て続けてフィーラが魔法を放った。
「‥‥今よ、長渡君」
 フィーラの声にこたえるように、長渡が刀を抜き、横薙ぎに斬りつけた。二撃目に、風の腕を掴んでいた舌を切り落とす。
 体液を散らしながら、カエルはぴくぴくと痙攣し、やがて動きを止めた。

 毛布にくるまれて焼けていくカエルと、内蔵を散らして絶命した、巨大カエル‥‥。
 思う所があるのか、じいっとその様子をジャンが見ていた。
「ヒキガエルは食べられないわよ」
 ジャンにフィーラが言うと、ジャンはせっかくこんがりと焼けた蛙を残念そうに見おろした。
「‥‥そうなのか?」
「食えない事も無いが、味は保証しない」
 と横合いから風が付け加える。
「毒があるカエルを食べたいと言うなら、どうぞあなた達だけで食べて」
 焼けたヒキガエルを前に、ガブリエルが言った。ガブリエルは、体内のどこに毒があるか分からない‥‥しかもカエルを食べたくないらしい。ほとんどの者が食べたくは無いだろうが‥‥。
 仕方なく、ジャンは巨大カエルに目を向けた。
「お前、まさかあれを喰うのか!」
 驚いて聞く長渡に、けろっとした様子でジャンが答えた。
「そうだな、あっちは食えるかもしれんな。毒も無い事であるし。‥‥貴殿等の国では、喰わないのか? 東洋ではカエルを喰うと聞いたが」
「風殿の国では知らんが、ジャパンでは肉は喰わない! 俺もカエルを食するのは断る」
「ラテリカもいらない‥‥」
 気持ち悪そうに、焼けこげたカエルを横目に見るラテリカ。本来カエルは嫌いではないが、大量の極彩色カエルに追いかけられた記憶は、当分残りそうである。
 ジャンの方を見ないようにしながら、ラテリカは何やら考え込んでいるフィーラのちらりと見上げ、そうっと近づいた。考え込むフィーラは、容姿とは裏腹に年相応大人びて見える。フィーラはふと視線をシェリーに向ける。
「ねえシェリー。‥‥このカエル、ここの近くに多く居るものなの?」
「カエル? ‥‥ううん、居ないけど‥‥この間コボルトが襲ってきたから、その時ついてきたか‥‥それともすみかに何かあったのかな」
「泉が綺麗だから、遊びに来たとか」
 ラテリカの一言に、フィーラが首をふるふると振る。
「遊びに来たって‥‥ねえ‥‥」
「まあいいじゃないか。‥‥何かあれば、またギルドに来てくれればいい。俺達も、他の用がなければまた手伝おう」
 長渡が、ふと微笑して言った。
「ともかく‥‥ここが平和になって、良かったな」
 シェリーは、くるりと長渡達に背を向ける。その視線の先に、ガブリエルが映った。ガブリエルは笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「何か言う事が無いかしら?」
 ガブリエルの言葉に、シェリーはすい、と振り返った。
 いつになく、元気の無い声でもじもじと指を弄んでいる。
「あの‥‥」
 ちら、とガブリエルを振り返ると、彼女はもうシェリーの方を見ては居なかった。
「あの‥‥ありがと」
 小さく、しかしはっきりとシェリーは礼を言った。

 泉の側に生えた花々や草は、先のコボルト戦に加えてカエル、そして今回の戦いで踏み荒らされていた。リリアーヌは、その花をじっと見おろしている。
 ミレーヌは彼女の後ろに歩み寄ると、静かに声をかけた。
「‥‥どうしたの?」
 リリアーヌは、驚いたように振り返る。
黙って視線を落とし、また花へと目を向けた。
「‥‥」
 ミレーヌは彼女の側に腰を下ろすと、花に手をさしのべた。
「また‥‥きっと咲くわよ」
「そう‥‥ですよね」
 小さな声で、リリアーヌが答えた。リリアーヌは立ち上がると、ミレーヌを振り返った。
「あの‥‥まだ‥‥帰りませんよね?」
 彼女が何をしようとしているのか、ミレーヌにも分かった。カエルの体液で汚れ、踏み荒らされた大切な場所。ミレーヌは袖をたくし上げると、にっこりと笑った。
「片づけましょうか。‥‥大切な場所ですものね」
 いつの間にか、風もカエルの残骸を片づけ始めていた。
 シェリーとメイの大切な場所を、血で汚してしまったな。風は苦笑まじりに言った。本当ならば、泉に生きているものを殺して片づけてしまいたくはなかったが‥‥。
「ここは、他の生物にとっても大切な水源のようだからな」
「そうね‥‥」
 ミレーヌは風に答えると、花をちらりと見おろした。
 昔‥‥まだメイ位幼かった頃、ミレーヌにもあった。大切な場所、秘密の場所。
 美しい花畑で遊んだ記憶が。
 そう言うと、リリアーヌも小さく頷いた。

(担当:立川司郎)