対アルジャンエール攻城戦
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 81 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月20日〜10月25日
リプレイ公開日:2005年10月29日
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●オープニング
シャンティイ領地にある、砦の明け渡しを要求する。
レイモンドからの書状を、アルジャンエール隊長のラッシャはすう、と蝋燭へと近づけた。燃えていく手紙を薄く笑いながら見つめるラッシャを、横から無表情のままフェールが見ている。
「いよいよメテオールのお出でか。これだけの人数で砦を占拠すれば、いずれレイモンドが出てくるとは思っていたけど‥‥意外に早かったね」
「‥‥作戦は‥‥」
フェールが聞くと、ラッシャはふり返った。
既に、イングリートの指示により兵は増員されている。メテオールが現在動かせる兵員を考えれば、まずこちらが有利に運ぶであろう。
「クレルモンでの戴冠式を控え、レイモンドは戦地に赴く事が出来ない。領地の警備も考えると、動かせるのはメテオールを含めて3割だ」
おまけに、クレルモン騎士の参加数に限りがある。クレイユは騎士を抱えていない‥‥となると益々負ける要素は無い。
フェールの顔にそっと手をやる、ラッシャ。
「期待しているよ‥‥」
君が完全に自分を失う時‥‥悪魔の媚薬から解放され、君は本当の意味で悪魔の使徒になるのだから。
シャンティイ城内には、既に人が集結していた。
今回の作戦にあたって、メテオール及び各騎士は隊長であるデジェル・マッシュが指揮をとる事になっている。別働隊が二隊、ギルドの依頼で派遣される。
うち一隊は、ガスパー指揮下だ。
今回は砦攻めにもかかわらず、既に兵の数で劣っていた。
レイモンドは地図を出して、静かな口調で説明をはじめる。
「周囲は森に囲まれています。入り口は南北一つずつ、ただし砦は占拠したばかりで、まだ住める状態にはありません。砦に籠もって籠城戦をする事は、まず無いでしょう」
相手は。
「作戦はまた詰めていきましょう」
「何か策でも?」
「そうですね‥‥たとえ勝っても、こちらの兵力を減らされれば、今後大きく戦力を削がれる事になります。一つは、相手を砦に押し込めて一気に殲滅する方法。もう一つは‥‥追い出してから殲滅する方法ですね」
レイモンドが語る作戦のうちの一つは、砦の耐久度に目をつけたものだった。
「長い間手が加えられず、オークの巣になっていた砦です。耐久度は低くなっているでしょう。相手を押し込めておいて壁を崩せば、投石と同様の効果が得られます」
それだけの魔法を使う魔法使いが居る事が前提だが。レイモンドは、一つため息をついて視線をあげた。
「‥‥この作戦には、それだけの魔法を使う者が居る事が前提ですが‥‥最悪、あれを呼ぶしか無いですねえ‥‥」
「アッシュですか」
「あまり彼を公務で利用したくは無いのですがね。‥‥もう一つの作戦は、森に火を放つ方法です。風上から火を放ち、砦から彼らを追い出します。風下に騎士団を配置し、火を放つ任務と逃走路での挟撃はギルドの隊に任せます」
それ以外に良い案があれば、それを使いましょう。
レイモンドは背筋を伸ばして、皆を見まわす。
「私は参戦出来ませんが‥‥デジェル、信用してますよ」
「かしこまりました」
デジェル・マッシュはガスパー達が退出した後、改めてアッシュを呼び出した。
あまり気が向かない様子のアッシュを、デジェルが一睨みする。しかしアッシュはどこか上の空。
「アッシュ、あなたも大変だと思いますが‥‥もしギルドで魔法使いが補充出来なかった場合、あなたにお願い出来ませんか」
「‥‥もちろん、戦争とあらばいつでも。レイモンド、あなたの頼みを私が断った事がありますか?」
アッシュはそう答えたが、レイモンドは目を閉じて首を振った。
「それで、ギルドの者には何をさせるつもりですか」
「先の案の通りです。ギルドから十人、加えてクレルモン隊の十人を率いて、別働隊としてアルジャンエールの殲滅にあたってもらいます」
それともう一つ。
レイモンドは、アッシュをじっと見上げた。
「ガスパーが、フェールを救出したがっています。彼らが入る隙を作る為、作戦成功時に本隊のフェールに向かう為のサポートをして欲しいのです」
具体的には、作戦が成功して彼らが撤退しはじめた時、別隊のガスパー達がフェールを確保する為にアルジャンエールを引きつけておく役割だ。
「了解しました。‥‥状況次第で、私も彼らに同行しましょう」
アッシュは、自分の手をぎゅっと握りしめる。
「長い間魔法なんて使いませんでしたからね‥‥忘れたかもしれませんが」
●リプレイ本文
ギルドから支援に到着した10名は、配置に付いているシャンティイ騎士団長デジェル・マッシュ、そしてアッシュに迎えられた。
アッシュがどことなく落ち着かない様子であるのは、この中の誰もその理由を察する事が出来ない。デジェルとて、である。
レイモンドをクレルモンまで送り届けたばかりのメテオールは、彼が戴冠式のためにクレルモン城に到着するのを見届けると、即座に砦へと向かった。
メテオールが五十名、その他騎士隊が二十名。加えて、この班十名。別隊として、ガスパーが8名を率いてフェール奪還に向かう事になっていた。
「ガスパー班は、こちらの動きに連動しています。ですから、こちらはラッシャとフェールを逃がし、後を殲滅する‥‥それだけ考えていればいいでしょう」
アッシュが言うと、シルバー・ストーム(ea3651)が帽子に手をやった。視線がつばで隠れる。
「出来るだけやってみましょう‥‥むろん、フェールを助けられるかどうかは、あちら次第ですが。ですが、連絡はどうします」
「それは‥‥俺が」
のんびりとした口調で、ウリエル・セグンド(ea1662)が答えた。ウリエルは、むこうの班のマリーと知り合いである。シャンティイの依頼で、何度か顔を合わせていた。作戦のあらましを向こうに知らせておき、作戦が決行され次第その報告を持ってガスパー隊に向かう手はずだ。
「幸いここは森の中‥‥迷いの森のスクロールを使えば、足止めは出来るでしょう」
「なるほど、そういう手があったんか‥‥迷いの森のスクロールっちゅうのは、あんまり使う機会が無いように思うてたんやけど」
ミケイト・ニシーネ(ea0508)は腕を組んで笑顔を浮かべた。
シルバーの作戦を決行する為、ミケイトはクオン・レイウイング(ea0714)、護衛としてセシリア・カータ(ea1643)に付き添ってもらって砦周辺の状況確認へと向かった。
ミケイトとクオンは双方、レンジャーで森の中の活動に慣れている上、隠密行動は得意である。セシリアが身を隠す事に慣れては居ないものの、クオンとミケイトはその分周囲に気を配っていた。
先の報告通り砦の南北に門があり、街道が走っている。森を張るのであれば、北側か南側を封鎖する必要があった。
「南側が風下やな‥‥北側の街道を封鎖せなあかんね」
空を見上げ、ミケイトが呟く。
街道の封鎖は、岬芳紀(ea2022)が、レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)と氷雨絃也(ea4481)の3名が向かう。プラントスレイヤーを使って木を切り、道を封鎖する茂みにしていく岬を、何だかちょっと複雑な気持ちで見つめるのは、レオンスート‥‥リョーカである。
アレキサンドロ・マシュウの武器を、倒木に使うなんて‥‥と言いたげである。
「確かによく切れるだろうな」
とぽつりと言って、次々ロープで組上げていく氷雨に続きながら、リョーカはため息をついた。
「作った本人の意図とは違っているでしょうけどね‥‥」
貴重な武器を岬が倒木に使用している頃、ミケイトはレイ・ファラン(ea5225)と南側に罠を設置した。これは、迷いの森を作り出した際に役立つものである。
どこに罠を仕掛けたのか、そして騎士団やガスパー班がどこを移動すればいいのか、よく覚えておかなければならない。
罠を設置しながらも、レイとミケイトは位置をしっかりと確認していった。
炎であぶり出す方がいい。
これは、ミケイト含めてほぼ全員の意見である。
「あんたの力は、本当に必要な時だけでええ。‥‥それに、無理に使わせんのもヤバそうやしなぁ‥‥」
そもそも挙動がアヤシイから、とミケイトが付け加えると、アッシュはふと笑った。
「おや、そういう心配は無用です。問題は、呪文が思い出せるかどうかでしてね。種類が多いと、覚えるのが大変ですから」
「じゃあ、楽しみにしてようかしら」
ふっ、とリョーカが意地悪く笑う。
「やっぱり、“ただの”変な人が“もの凄い”変な人だったって言う、この差は大きいものねえ?」
「では、私は追い立てる側‥‥引火をする方に同行させて頂きましょうか」
さて、アッシュのお手並み拝見??
デジェル含め騎士団と顔を合わせると、改めてシルバーは作戦を話した。
まず、現在北側を封鎖している。北側からミケイトとクオン達が火を放ち、追い立てる。騎士団は南側に陣取り、機会が来るまではアルジャンエールを食い止め続けてもらう。
そして十分火が回って彼らが南下してきたら、シルバーが迷いの森を2つ設置する。
「この位置は既に確認して来ました。2つの円を、中心部と外側が接するように重複して設置します。これにより、迷いの森が薄い部分を無くします」
その後、自分達は迷いの森を抜けてくるアルジャンエールを殲滅する為に、森の範囲外で待ち受ける。
弓使いを配置する北側の班は狙撃を、南側の班はメテオールから数人借り受けてこの位置で各個撃破。
ウリエルと岬、シフールのセルミィ・オーウェル(ea7866)はガスパー班の連絡役だ。
セルミィは、ウリエルの肩を借りてちょこんと座ったまま、手を挙げた。
「テレパシーが使えますから、何かあったら連絡しますね。‥‥じゃあ、アッシュ様も無理なさらないで」
「これを持っていけ。役に立つであろう」
岬は、持ってきた鉢巻きを皆に手渡した。乱戦ともなれば、仲間の見分けはすぐには出来ないであろう。その為に、岬が用意したのは青い鉢巻きだった。
皆、岬の鉢巻きを受け取る。
ウリエルが一つ手に取ると、セルミィがじいっと鉢巻きを見下ろした。岬が少し狼狽した様子で、口を開く。
「いや‥‥セルミィ殿は‥‥」
「セルミィ‥‥俺と‥‥居る?」
ウリエルが聞くと、セルミィは頷いた。セルミィには、この鉢巻きはちょっと大きすぎるようだ。
メテオール本隊の攻撃が、ついに始まった。
こちら側が七十名に対し、アルジャンエール百名。砦の南側、メテオールに向けて騎士を配置し、砦の中と騎士の後ろから魔法隊が雷と真空刃をメテオールに向け、寄せ付けない。
騎馬で一気に間を詰めると、とたんに乱戦状態となった。
クオンは油の染みこませた布を巻いた矢をいくつも背に抱え、先導して走る。その後ろをレイとセシリアが。そしてアッシュとミケイトが続く。
砦には、まだアルジャンエール本隊が多く残っているようだった。
彼らに気づかれないように、迂回して北側に向かう。やがて矢を取りだし、すう、と空に手をかざす。
「‥‥よし。じゃあミケイト、手分けして火を放とう。セシリアとレイ、頼む」
「ああ」
レイはミケイトが作ってきた、投擲用の短槍を受け取り、火を付けた。枯れ草が貯まる、燃えやすい場所を選んでクオンとミケイトが火を放つ。
遠く、矢が森を抜けて行く。
じっとそれを見ていたアッシュが、ふ、と笑った。
「じゃあ、少しくらいお手伝いしましょうか」
アッシュは、火矢の炎がある方へと手をかざすと小さく何か詠唱を繰り返した。
勢いよく炎が燃え出し、周囲に燃え広がっていく。炎を見つめながら、レイがちらりと東の方へと視線を向ける。
「‥‥無事フェールを見つけられるといいが‥‥ガスパー」
彼が呟いた言葉は、クオンには聞こえなかったようだ。
森の向こうに、何かが見える。しっかりとしがみついていたセルミィが、声をあげた。
マリーの姿を見つけ、ウリエルは馬から飛び降りた。岬は韋駄天の草履で、ウリエルの肩に捕まっていたセルミィは、ふわりと羽を広げて飛ぶ。
「もう火が回って来ています。あちらにアッシュ様がいらしていて、火を広げるのを手伝ってくれているんですよ」
「南側に森を二つ配置している。途中には罠を設置し、その端で青い鉢巻きをした仲間が戦ってる。目印にしてくれ」
岬が伝えると、ウリエルがガスパーをすう、と見た。
「フェールさんは‥‥頼む」
ひょいとガスパーは手を挙げ、答える。
それから、静かに自分の剣を見つめた。
ガスパーのその仕草に、ウリエルが気を取られる。ガスパーの事、アッシュの事。それだけではなく、セルミィはもう一つ気になる事があった。
仲間の元へと急ぎ戻りつつ、セルミィがウリエルの耳元で話した。
「それにしても‥‥動員された人達は、統率が取れていました。寄せ集めじゃなくて、待機していたような‥‥気のせいでしょうか」
「相手も訓練された兵ならば、当然統率はとれていようが」
岬の答えに、セルミィは首をかしげた。
燃え広がった火は、風に乗って北側から南方向へと移っていく。更に、西側を封鎖するように火を放っていく。
このまま西側と北側を封鎖し、ラッシャとフェールを東側へ、あとの本隊を南側で待ち受けて迎撃する。
「デジェル、これ位で十分ですか?」
本隊に戻ってきたアッシュが、メテオールのデジェルに聞いた。顔にはうっすら微笑が混じっている。デジェルはいつものようにむっつりした顔で、ちらりと前方を見る。
「‥‥悪魔め、少しはレイモンド様の恩義に答えたらどうだ」
「私は悪魔ほど純粋ではありませんから‥‥終わった頃、火を消しに戻ってきますから。それでは失礼」
背を向けたアッシュの後ろに燃え広がる炎。じりじりと広がり、全てを飲み込んでいく。
砦を盾にして戦っていたアルジャンエールも、それに飲まれつつあった。むろん、砦内部に居たラッシャとフェールも‥‥。
南側で待機していたシルバーは炎が砦を覆う頃、一個目の森を設置した。そこから次のポイントに向かい、二つが重なるように森を設置する。
森の設置を逃れた騎士が、次々と木々の合間を駆けるのが見えた。数騎の騎馬を確認し、リョーカと氷雨がそれぞれ刀を抜いた。
燃えさかる炎の勢いは、留まらない
「‥‥これもアッシュという男の仕業か?」
呟く氷雨の横で、リョーカが馬の足を避けて斬りつけた。鎧の隙間に刀が食い込む。
シルバーは弓を抱えたまま、リョーカと氷雨、メテオールに任せている。時折、雷が地を這うのが見えた。
それが敵のものなのか、それともガスパー班のものなのかは分からない。
リョーカは肩で息をしながら、森の方へと視線を向けた。ゆっくりとシルバーが指さす。
「あちらに五名ほど‥‥あと十名ほど、森の奥で彷徨っています。それとは別に何名か、東に向かっています」
「どうする、追うか」
氷雨が聞くと、シルバーは首を振った。
おそらく、動きからしてあれがラッシャという男のはず。
火を避けながら、クオンやセシリア達も追撃に向かった。一旦分散したクオンとミケイトも、合流して火を迂回する。
アッシュが居ない事に気づき、レイがセシリアに目を向けた。
「あの男はどうした」
「アッシュさんは、一旦メテオールに報告に戻りました。また戻ってくるそうですよ」
煽るだけ煽っておいて、居なくなったのか。レイが少し眉を寄せると、セシリアは剣を右手に握ったまま、砦の方へと向いた。
「作戦はうまくいったようですけれど、いかがしますか?」
私はこのまま作戦に加わってもかまいませんけれど。セシリアが聞くと、クオンとミケイトも頷いた。
「俺はこっちが本職だからな。火を避けながら敵をねらい打ちしていく。作戦がうまくいったとしても、人数差があるのは確かだからな」
炎に巻かれて待避するアルジャンエールは、そのほとんどが南側のメテオールに突撃した。迷いの森を通った者は氷雨とリョーカ達が、それを避けた本隊はメテオールが迎撃する。
クオン達は西側を迂回すると、依然として後方から強力な魔法攻撃を繰り出すアルジャンエール魔法兵を叩く為、矢を放った。
足音を消して接近するクオンとミケイトは、木に身を隠しつつ矢を放つ。
騎士を彼らに任せ、クオンとミケイトは一矢一矢に意識を集中していた。
雷鳴とともに木の横を、稲光がかすめて引き裂いた。迫るアルジャンエール騎士にレイピアを突き刺し、セシリアが立ちはだかる。
煙を避けて口元を布で覆い、レイがセシリアの横にすう、と立ち、小太刀を構えた。
シルバー達が迷いの森で敵兵を分散させた事により、アルジャンエールは統率した行動を取れずにいた。
その分散した兵力を叩く為、氷雨やリョーカを含めた騎士数名で待ちかまえる。
西側に迂回したクオンは、混乱に乗じて横合いから弓で敵リーダーと思われる騎馬兵を打ち落とす事を、提案。忍び歩きが出来るミケイトとともに、西側から矢を放った。
しかし、迷いの森の効果を受けなかった兵を中心として、兵力の薄いシルバー達へと騎馬二十機ばかりが差し向けられた。
森を抜ける気配を、ブレスセンサーでシルバーが感じ取っている。
「後ろから叩くか」
氷雨が聞くと、シルバーがちら、と視線を東に向けた。伝令に向かっていたウリエル達が戻ってきたようである。
「セルミィ、二十騎ばかりこっちに向かっているはずなの」
「はい、ちょっと確認して来ますね」
リョーカがセルミィに言うと、セルミィは空に舞い上がっていった。
迫っているのは、シルバーの確認通り二十名。
「残存兵力はどれ程だ」
「‥‥これで終い位さ」
氷雨は岬に答えると、刀を構えた。
わずかに残ったアルジャンエールが撤退していく頃、火は沈静化していた。
プットアウトで消火していくシルバーの視界に、アッシュの姿が映る。次々と火を消していくアッシュの足下には、いくつもの遺体がある。
気が付くと、森は焼け、いくつもの遺体で埋められていた。
「‥‥焼き討ちか‥‥昔を思い出す。皮肉なもんだ」
シルバーの後ろで、氷雨が言った。
(担当:立川司郎)