メイと紅血の一族
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月25日〜10月30日
リプレイ公開日:2005年11月03日
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●オープニング
一人の少女が、森を歩いていた。前を飛行しているのは、シフールより一回り小さな妖精と、一人の少年。
「だから待ってなさいと言ったのに‥‥メイ」
妖精が言うと、メイは嫌、と甲高い声で叫ぶと、つたない足取りで駆けだした。
森にバンパイアが出た。
そういう話を聞いたのは、ようやくインプ事件による騒ぎが落ち着き、メイの両親がほっとしていた時だった。
赤い目と牙で、人々を襲う。彼らは近隣の村を襲い、旅人を殺すと言われている。バンパイアにかまれた者はバンパイアと化す‥‥それを恐れ、犠牲者が出るとひっそりと村人によって殺され、埋葬されるようだった。
再びティアの村は、メイに視線が向けられる。
メイが居るから、モンスターが吸い寄せられる‥‥巫女の話はヴェントが黙っていたが、村人や村長は何かおかしいと思い始めている。
前回の悪魔はこっそり退けたが、今回は既に噂に上ってしまっている。
加えて、森に再びオーガと悪魔が出没していた。泉はバンパイア達に占領され、モンスター達は川を下って村に迫っている。
「泉のバンパイアは数人。いずれも手慣れた連中だ。川を下っているオーガは十体、インプが五体ほど付いている。オーガ達をけしかけて、様子を見ている感じだった」
ヴェントは村長と村人達の前で、見てきた状況を話した。シェリーキャンの妖精シェリーも、テーブルに座って、神妙な面持ちで話す。
「しかも、川沿いにもう数人、バンパネーラが居たわ。時々オーガを攻撃して牽制していたのを見たわよ」
「‥‥それは本当にバンパイアなのか」
村長が恐る恐る聞くと、ヴェントがしばらく考えて答えた。
「川に姿が映らなかった。目が赤く、鋭い牙があり噛みつく‥‥間違いないだろう」
しかし、そうなれば疑問が発生する。村人と顔を見合わせて、首をかしげた。
「しかし、なんでバンパイアがオーガを攻撃するんだ。泉に居るのと仲間じゃないのか?」
「仲間割れか?」
「しかし‥‥バンパイアはバンパイアだ」
そう。バンパイアは、決してヒトと馴れ合う事は無い。人々を食い物にする、恐ろしい闇の使者だ。たとえ今はオーガを襲っているとしても、それに飽きれば今度は自分達を襲うに違いない。
「今は、そのバンパイア達と精霊が足止めをしているが‥‥じきにここにたどり着く。‥‥その件でレイモンド卿から、使者が来たらしいが?」
ヴェントが聞くと、村長がうなずいた。
「ああ、今回はレイモンド様がギルドに依頼してくださったそうだ。ヴァンパイアの事は心配しないように、ギルドの者にはオーガとインプを退治させますと仰った」
胸の前で手を合わせ、村長は感謝の意を表した。
ただ、平穏に暮らす‥‥それだけが望みだ。この村も決して裕福ではなく、今はシェリーが作っている酒を売ったりして小銭を稼ぎ、依頼を出したりしているが‥‥それもこう度重なると、ギルドに依頼すら出せなくなる。
そもそもギルドは、慈善事業ではない。たまに依頼金はいいという冒険者も居るが、金と引き替えに依頼を受けるのがギルドというものだ。
メイが居なくなれば、平和になる‥‥。
村人達は、またその事を考えていた。しかし、お腹の大きなメイの母親や、幼いメイをどうすればいいのか、村人達には結局よい案が思いつかないのであった。
●リプレイ本文
一体‥‥二体。
足音を忍ばせ、気配を殺して彼らの様子を探る。
闇に隠れ、その同行を出来るだけ遅らせる‥‥もうじき、ギルドの人間が来るという。そうすれば、自分たちが出るまでもなく彼らが始末してくれるだろう。
「‥‥むしろ、俺達が倒した方がいいんじゃないか。そうすれば、もう森には来なくなる。俺たちがここに‥‥」
「何言ってんだ、この森には住めないって長も言っただろうが。‥‥ここには巫女が‥‥」
「しっ!」
インプ達が気配を察したのか、周囲を飛び回りはじめる。
彼らはゆっくりとその場を離れた。
この村を訪れた別班の者が村を離れてしばらく後‥‥遅れて、ギルドから八名が到着した。彼らは、オーク退治の為に村が雇った者達である。
何度目かの来訪になる、騎士のアフラム・ワーティー(ea9711)や、まだ幼いアルフィン・フォルセネル(eb2968)。ハーフエルフのラファエル・クアルト(ea8898)は、相変わらず村人から敬遠されているが、彼自身は気にする様子はない。
それから、メイやヴェントの事を気にしているデュクス・ディエクエス(ea4823)。
「メイ、元気だった?」
まだ片言ながら、小柄な鎧姿の青年がメイに声を掛けた。背の高さはデュクスとさほど差は無い。メイはちゃんと、彼の事を覚えていただろうか?
「えっと‥‥遠いお国から来たお兄ちゃん?」
「そう! メイが危ないって聞いて、助けに来たよ」
ギャブレット・シャローン(ea4180)は、にこにこ笑いながら答えた。前の時は、アルフィンに通訳してもらっていたのに、今回はちゃんと自分で話せているようだ。
ちょっとアルフィンも感心。
今回がオーガ退治と聞いたリア・アースグリム(ea3062)もメイに会うのは久しぶりだけど、少し何か思い詰めた様子だ。侍の滋藤柾鷹(ea0858)は、メイが無事だと知って安心したようだが、やはりオーク退治に早く向かいたい様子。
「あら、私だけが初めまして、なのね」
フェリシア・ティール(ea4284)はちょっと首をかしげてメイを見た。
デュクスがすうっとフェリシアをふり返り、メイを差す。
「メイ‥‥それからこっちがヴェント」
幼い少女と、銀色の髪の少年を紹介する。
彼らの事は道中皆に聞いただけしか知らないが、どうやらこの少年は人狼であるらしい。こんな山の中の小さな村の事、やはりヴェントも村人にはあまり受け入れられて居ないようだ。
「よろしくね。オークの事は任せておいて、私たちがちゃんと退治してあげる。それで‥‥えっと、確かもう一人‥‥」
フェリシアがきょろきょろと見まわした。
「そういえば‥‥シェリー、居ない」
ヴェントがぽつりと呟く。すると、ヴェントが答えた。
「シェリーは、パンパイア退治の連中に付いていった。彼らは北側から泉に回り込むらしい‥‥あまり泉に近づかない方がいいな」
「オーガとインプは‥‥どうだった?」
「連中は、バンパイアが何体か相手にしていた。なんであいつ等が足止めしているのか分からないが‥‥連中にとってヒトは食い物にしか過ぎない。気が済むまでオークを嬲ったら、さっさと撤収してもらった方がいい」
淡々とした口調で、ヴェントが言った。
顎に手をやり、アフラムが考え込む。
「そうですか‥‥泉に向かった人達の邪魔になる訳にもいきませんし、泉と村の中間地点で待ち受けるべきでしょうか。あまり村に近づきすぎても、危険が生じますから」
「アフラム。オーガを退治すれば、インプは居なくなるんじゃない?」
「どういう事です?」
アフラムが、ギャブレットに聞き返した。
彼の言語能力では旨く説明しきれないが、オーガが主力である以上、インプはそのサポートであるのだから、主力のオーガが居なくなったら撤退するのではないかと言いたいらしい。
「オーガは、回避能力はそれほど高くはありませんけど‥‥大勢を相手にするには、少々堅い相手です。自身が回避に自身があれば、一人でも相手を出来るとは思いますけれど」
ちょっと考えて、リアが言った。それからそっと目を閉じ、息をつく。
「私は‥‥何とかなるかもしれないけど、出来るだけ皆で協力して一体ずつ倒していきたいわね」
頭を掻いてラファエルが、アフラムやリアを見返す。
ラファエルやフェリシアは、ある程度囲まれても平気そうだが、ギャブレットやデュクス、アフラムは、攻撃には自信があるものの、囲まれると避けるのは難しいようだ。
「何か、他には特徴はありませんか?」
アフラムがリアに聞くと、彼女は目を伏せて考え込んだ。
「‥‥あまり知能は高くありません。交渉は不可能だと思った方がいいでしょう。本能的に動くモンスターですから‥‥」
「そうですか‥‥では、とにかくオーガの頭数を減らしていく事を最優先としましょう。インプは魔法武器かオーラが使える方が分担するとして、まず川沿いにオーガを探して出発しましょうか」
アフラムは皆にそう言うと、村をふり返った。メイを胸元に抱え込み、彼女の両親や村長がこちらの様子を伺っている。
ヴェントがすう、とメイの方へと向かう。じっと彼女を見下ろすと、頭に手をやって撫でた。
「メイ‥‥ヴェントと一緒に、ここで留守番‥‥出来るか?」
「‥‥」
眉を寄せて、メイがヴェントを見上げる。
「もし‥‥オークをやっつけたら‥‥またみんなで、キャンプに行こう。‥‥そして、俺に‥‥狼の銀ちゃん、紹介してくれるか?」
「うん。わかった‥‥メイ、ここで待ってるね」
ぎゅ、とメイはヴェントの服を掴むと頷いた。
さらさらと流れていく川の水音に混じり、何かが木や枝を折る音が聞こえる。
ラファエルは川の上流に視線を向けて、手をかざす。皆の動きが止まり、ラファエルは耳をすました。
少しずつ、彼らの気配が近づいて来るのが分かる。
相手はオーガとインプ。オーガが十体と、インプが五体だ。
「オーラを使えるのが、僕と滋藤君‥‥それからフェリシア君ですね」
アフラムが、小声で滋藤とフェリシアに聞いた。デュクスは魔法武器を所持しているので、残るはギャブレットとリア、ラファエルだ。
「分かりました、僕たちで一人ずつにエリベイションとオーラパワーを掛けましょう」
「アフラム兄さま‥‥俺、その間にオーガ達を‥‥引きつける」
魔剣アルマスを背の鞘から抜き、ゆっくりとデュクスが降ろす。
「一人では危険‥‥」
「来たわよ!」
ラファエルが斧を構える。オーガの姿が木々の合間に見え、インプがこちらの姿を確認して真っ直ぐに向かってきた。
即座にアフラムが詠唱にかかる。デュクス一人では、手に負えまい。
ところが、彼らの後ろから数体の人影が現れ、あっという間にオーガを追い抜いた。
目を見張る程の速度で、彼等はインプに接近する。飛空するインプの攻撃を軽い身のこなしで避け、両手に一つずつ持ったナイフを叩き付けた。
後ろから大振りな動きで追いかけるオーガなどの動きは、彼らの動きからすれば児戯に等しい。
「‥‥な、何という戦闘能力だ‥‥」
呆然とする滋藤と背を合わせるようにして斧を構えたラファエルすら、その動きには驚きが隠せなかった。
ハーフエルフのそれを越えている‥‥。
その能力が人を越えるとされる自分達より、彼らの方が身のこなしが速い。
「‥‥滋藤、ちょっとオーラを私にも掛けて! はやくっ」
「あ、ああ‥‥」
滋藤は慌ててラファエルに向けて、詠唱をはじめた。
だが‥‥。ちらりと滋藤は彼らを見た。バンパイアだと聞いていたが、彼らの目は赤くはなかった。口元にも、牙は見えない。
パンパイアという存在自体に対する知識がここに居る誰も持って無い為、彼らの生体等は詳しく分からない。だが、あの様子‥‥どこか違和感がある。
「もう一斑の人達かな‥‥?」
気づかずきょとんとするアルフィンは、全く警戒する様子もなくフォローに掛かった。術を掛けている滋藤やアフラムにかわってオーガの気を引きつけ、デュクスとともにその進路を塞いでいる。
二人がオーガを、一人がインプを引きつけていた。
が、さすがに十体ものオーガを相手にするのは難しく、オーガの持った棍棒が肩に叩き付けられた。
接触すればリカバーが掛けられる‥‥。近づこうとしたアルフィンの目に、彼らの姿がはっきりと映った。
かあっ、と燃えるように彼らの目が赤く変化していく。その口元に牙が覗いた。
「あ‥‥あっ、あれ‥‥」
「アルフィン、下がっておれ!」
滋藤がアルフィンを後ろに押し退けると、オーラパワーを付与した刀を構えた。
アルフィンはよろりと後ろに下がる。
「でも‥‥あれ、バンパ‥‥」
とても恐い存在。姉から聞いた話は、その冷酷で残忍な‥‥深い深い闇の話。完全なる、闇の眷属だと‥‥。
「手助け感謝する」
滋藤は手短にそう言うと、左手のスピアを空を飛ぶインプに突きつけた。
ちら、とギャブレットが彼らをふり返る。バンパイアと戦うのはあまり嬉しく無いが、陣形乱さず戦うには、彼らにインプを相手にしていてもらうのが一番だ。
オーガに向き直ると、ギャブレットは巨大な剣をオーガの体へと叩き込んだ。小柄なギャブレットの体ほどもある大きさの剣は、彼の体の重量ごとオーガに食い込む。
オーガは、仲間に魔剣で切り裂いたデュクスを腕の一振りでふっ飛ばし、アフラムの盾に棍棒の音を響かせた。びりびりと痺れる腕に、呻き声を上げて何とか耐えるアフラム。
彼らの動きを皮一枚でかわしたリアは、ぎりっと歯をかみしめた。
「ここは通さない! ‥‥絶対に‥‥!」
「リア殿、待て!」
滋藤の制止もきかずに、リアはオーガに向かっていった。
彼らの太い腕で殴られた額から血が滲む。リアは構わず刀をオーガの胸元深く切り込む。
深手を負わせるには至らないが。
リアはよろりと後ろに下がると、二手目を避けた。リアの横に、ぴたりとギャブレットが張り付く。
「いい? おいらが突っ込む‥‥リアはフォローする。分かる?」
「‥‥分かりました」
こくりとうなずくと、ギャブレットが巨剣を振った。強力な一撃がオークを襲う。その間、リアは周囲に群がるオークの攻撃を剣で受け、身を挺して庇う。
フェリシアはオーガの動きをかわしつつ、その隙を付いた攻撃を繰り返して仕留めていく。ラファエルもまた、オーガの攻撃を軽々と避けて数体を相手にしていた。
アルフィンは傷を負ったリアが、荒く息を吐きながら後ろに後退すると、彼女の傷に手をかざした。
詠唱して傷を癒しながら、ちらりとインプの方へと視線をやる。彼らは丁度、インプを五体仕留めた所だった。
三人とも、少し傷を負っている。
「‥‥リアお姉ちゃん、僕‥‥」
アルフィンの視線の先へとリアが目を向ける‥‥その時、すう、と彼らの一人がオーガに近づいた。その牙がオーガに食い込み、血が伝う。
ぐい、と口元の血を拭うと、彼は怪我が無かったかのように背筋を伸ばし、オーガの攻撃を逃れた。
「血を吸った‥‥?」
アルフィンが小さく呟く。
彼らは恐ろしい、闇の眷属‥‥。
姉の言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
バンパイアがインプを倒してくれた‥‥。
その言葉は、結局伝える事は出来なかった。バンパイアの事はむこうの班が対処するという事もあり、アフラム達も特には何も考えていなかった。
滋藤は何か気になる所があったようだが、不安を増幅させる事も無いだろうと、結局村には黙っておいた。
彼らの襲撃はひとまず終わった‥‥。だが、村内に晴れやかな空気はない。
フェリシアは、今までこの村に関わっていない。だが、彼らの様子を見て口を開いた。
「あの‥‥余計な事を言うようでごめんなさいね。でも、気になるものだから」
フェリシアはふ、と薄く笑ってメイを見た。メイは皆が帰ってきた事を、本当に喜んでいるようだった。ヴェントと二人で、皆の帰りを待ちわびていたようだ。
あちこち怪我をしているデュクスやラファエル達の腕を掴むと、引っ張った。
「怪我をした時はね、お母さんが薬を塗ってくれるのよ」
「そう‥‥なのか」
じゃあ、と言いかけたデュクスより先に、ラファエルが答える。
「じゃあ、メイに塗ってもらおうかしら」
「‥‥」
不満そうにラファエルを見る、デュクス。
その様子を笑顔で見つめ、フェリシアは村長へ話を続けた。
「ここは、小さな子と親が住む‥‥っていう雰囲気じゃないわね。あなた達の気持ちも分かるの‥‥平和に暮らしたいっていうのは当然だもの」
「じきに子供が生まれるメイの母親には悪いが‥‥もうこうして何度も村を襲われると、ここの財政も破綻してしまうんだ」
困惑の色を浮かべて、村長が切々と話す。
フェリシアは頷いて、彼の話に耳を傾けた。彼らの意見ももっともだ。しかし、さてどうすればいいのか。
滋藤が彼らの話を聞きながら、デュクスやラファエルをふり返った。
まだメイに引っ張られている‥‥が、話が分かりそうなのは他にはデュクスや、最近よく此処に来ているアフラムやラファエルだろう。
「ラファエル、お主は何か良い案は無いのか。‥‥いや、言いにくいのだが」
「分かってるわ。‥‥でもまあ、良い案ってのは思いつかないわねえ」
ラファエルは腰に手をやり、村長や周囲で見守っている村人達を見まわした。
「まあ、私はともかくとして‥‥メイは嫌わないであげて欲しいわね。困惑する事が覆いと思うけど、それを悪意に変えないで」
「領主様に頼る事は出来ないのかしら。‥‥異端とされて処分される‥‥という可能性もあるかもしれないけど」
フェリシアが聞き返す。
「領主? ‥‥レイモンド様ね。卿なら大丈夫よ、そんな事は無いから。そうね、卿にも何か機会があったらお話しするわ」
ずっと共に育った、仲間達、そして子供達。‥‥メイや両親に対して、決して憎しみだけを持っている訳ではない。
それは、彼らの様子からも分かる。
リアは最後に、村人達をしっかりと見据えながら言った。
「誰かを犠牲にした平和を得ても、罪悪感しか残りません。‥‥心配しないでください、この村は絶対に守ります‥‥今までも、これからも」
「‥‥ああ」
デュクスが頷いた。
(担当:立川司郎)