【クレルモン総力戦】対シシリー迎撃
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月11日〜12月16日
リプレイ公開日:2005年12月18日
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●オープニング
クレルモンをオリオンが包囲して一ヶ月。
パリでの騒動もあり、レイモンドは王都が沈静化するまではシャンティイ騎士団を動かす事に消極的であった。本来パリにも兵を差し向けるはずであったのだが、自己領の問題が片づかないまま騎士を領地から出すのは、フゥの樹に隙を見せるようなもの。
レイモンドはひらり、と手紙をデスクに投げ出した。
ふ、と笑みをもらす。
「‥‥余計なお世話です。あなた様は、ご自分の御伴侶の心配でもなさい、と返しておいてください」
「本当によろしいのですか?」
メテオール隊長デジェルが、レイモンドに聞く。くすりとレイモンドが笑った。
それは、陛下に失礼な文面だからですか、それとも騎士を派兵していただけるという申し出を断ったからですか。
彼が聞くと、デジェルはどちらも、と言い返した。
願ってもない申し出‥‥だが、ここは我が地。自分の手の内の者は、私自身が守ります。
レイモンドは言うと、地図をデスクに開いた。
クレルモン城を占拠したフゥの樹は、死者の群れを召還して黒騎士団アルジャンエールとともに防衛を固めている。城内にはイングリート、そしてフリューゲル神父と呼ばれる悪魔が居ると思われる。
オリオン傭兵隊は全兵に招集を掛け、攻撃開始まで城の西側を包囲。メテオールはオリオンの攻撃開始とともに街道を北上、鉄の爪を引きつけるとともに撃破を試みる。
ガスパーら、各地に居る少数の騎士は東側の街道を封鎖にあたる事になった。
「レイモンド様、北側の街道が空きますが」
デジェルが、クレルモン北側を指して言った。
こくり、と頷く。
「この他にギルドからも人を集めます。一隊は対シシリー、一隊はオリオンに合流してもらい、もう一隊は‥‥城内に潜入してもらいます。おそらくここが最も危険な任務となるでしょう」
いえ、危険なのはどこも同じ‥‥ですか。
レイモンドは呟くと、作戦の説明をはじめた。
「作戦などという良い案のものはありません。‥‥まず城内で破滅の魔法陣が作られているか確認し、作られているならそれを止めなければなりません」
「セレスティン様の報告では、無かったそうですが」
「それは先月の話。シシリーはアンジュコートで、一人神官の女性を拉致しています。砦での神父の言葉からしても、彼らが生け贄を探しているのは確かです」
魔法陣を止める鍵が何なのか、何も分からない。ならば、神父を倒すのみ。
そうレイモンドが言うと、呆れたような声をデジェルが発した。
「そうは簡単に言いますが‥‥」
「すみません」
レイモンドは一言言うと、地図を見た。
クレルモン城内に潜伏しているフゥの樹の兵およそ六十名程、加えて死者の群れが三十。対してオリオンが四十三名、メテオールが三十名、東側の街道封鎖に配置された騎士十名と街道警備隊十数名。南側にも同じく騎士十名と警備隊。こちらは街道封鎖に手一杯で、鉄の爪にまで手が回らない。
いずれも厳しい戦いとなる。
シシリー迎撃。それは、今回の作戦において重要な任務の一つである。
メイという名の少女をフゥの樹が拉致しようとしていたのは、数々の報告書からも明かだが、その他にもシシリーはアンジュコートにおいて神官の少女を拉致している。
「‥‥それだけではありません。この一ヶ月、クレルモン周辺において神官の少女が襲われる事件が多発しています。どうやら彼は‥‥」
と言いかけ、レイモンドは表情を曇らせた。かわって、ガスパーが口をひらく。どうやら調査していたのは、彼のようだ。
「奴さんはどうも、生け贄にする為の乙女を探しているらしいねぇ。高潔な魂を持った、身の清らかな女性をね。生き残って発見された女性の話じゃ、銀色の髪の男に襲われて“身が清らか”かどうか、強引に確認されたって言ってたからな」
「何処までも卑劣な男だ」
デジェルは、怒りを露わに言い捨てる。ガスパーも肩をすくめると、言葉を続けた。
「奴が魔法陣の生け贄を選抜しているなら、近いウチに必ずクレルモンに合流する」
「そこで、クレルモン北側の街道で待ち伏せしてもらいます」
レイモンドが、地図の一点を差した。
現在、クレルモン・シャンティイ間の街道はメテオールが封鎖中だ。この街道には鉄の爪が潜伏していると見られ、メテオールが突破を計っている。東側の街道は警備隊が封鎖中で、西側はオリオンが展開している為、ここを抜けて城に入る事は不可能と思われる。
ここでレイモンドが北側をあえて開けておいた事には、理由があった。
「今までのシシリーの行動は、ギルドから配置された手勢をあえて誘い込み、戦いを仕掛ける傾向にあります。それはシシリーが戦いと殺しを好むからに他ならない。たとえ、彼が大事な生け贄を連れていようとも」
レイモンドは、静かに目を閉じて椅子にかけた。
「今回は失敗は許されません。‥‥今回見逃すと、シャンティイに強大な悪魔が誕生する事になります」
罠を張りなさい。
極上の生け贄と、強力な罠を用意するのです。
作戦1日目
オリオン:住民避難、東側街道封鎖、城東・南側展開。
メテオール:移動開始。
対シシリー:街道待機
作戦2日目
オリオン:攻城戦開始。
メテオール:鉄の爪と抗戦。
対神父:オリオンの攻撃後、潜入。
地図
■:市街地 城:クレルモン城
=:街道
その他:鉄/鉄の爪 ○/オリオン配置
******=*****
*****■=*****
***■○城=■****
====○======×
*****○■■=***
********=***
*******鉄=鉄**
>シャンティィ方面
兵員
死者:ズゥンビ、悪魔(インプ含む)混成七十前後。
城内:アルジャンエール&フゥの樹:五十前後?
オリオン:43名(PC、フェール含む)
メテオール:40名
●リプレイ本文
最後の確認。これで絶対に最後にする、そういう意気込みが彼らにはあった。
思えばクレルモンで、エグゼ・クエーサー(ea7191)がグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)やベイン・ヴァル(ea1987)とともに、ヒスとシシリーという二人の殺人鬼を追い始めて半年以上が経過した。
剣で生き続けるベインや、レイモンド卿への輿入れを控えたヒルダと違い、エグゼは剣を置いてもまだ料理人という別の人生がある。
いつ、この戦いが終わるのか。
いつケリがつけられるのか?
一つの敵を追い続けねばならない、その心の鎖。
ヒルダが御者台に乗った馬車がベインとエグゼの前に停まると、続けて後ろから来た荷馬車がその更に後ろに停止した。御者台に乗っていたのは、ヴェリタス・ディエクエス(ea4817)である。
荷台にいたカレン・マクファはひょいと降りると、ヴェリタスと何か話し始めた。
ヴェリタスは特に今回の戦いにおいて、カレンの方を気にしていた。ヒルダはちらりとその様子を見ながら、ベイン達を呼んだ。
武器の手入れをしていたバルディッシュ・ドゴール(ea5243)も、足を向ける。
「どうやら、御者は私はヴェリタスさんの二人になりそうですね。作戦は道中話した通りで‥‥よろしいですか?」
「ヒルダ、無理をするな。お前に怪我をさせては、卿に会わせる顔がない」
ベインが言うと、ふとヒルダが笑った。
「ご心配なく。それを言うなら、エグゼさんにも仰ってください。レイモンド様は、式には陛下もお呼びしなければならないから、エグゼさんに料理を頼むと言っていましたよ」
えええええ、とエグゼが声をあげた。陛下と卿にお出しする料理‥‥。考えただけで汗が出る。
「大丈夫、まだ遠い先の話です。それより‥‥」
きりりと表情を引き締め、彼女は打ち合わせをはじめた。
先頭の馬車にはヒルダとエグゼ、バルディッシュ、カレン・シュタット(ea4426)、そして吟遊詩人の格好をしたサーラ・カトレア(ea4078)。サーラが吟遊詩人の格好をしているのか、ヒルダの指示である。ジプシーである事を隠す為であった。
後ろに続く荷馬車は、ヴェリタスの御者でベイン、割波戸・黒兵衛(ea4778)、そしてレイモンド卿から遣われたカレン・マクファ。シュタットは虫に変化したシシリーを追撃するムーンアローを使う為、何としても傷つけられる訳にいかない。馬車には、荷物の中に姿を隠した黒兵衛がいた。
今回彼らは、クレルモンに支援に向かうという名目でパリを発った。レイモンド卿の婚約者であるヒルダを立て、黒兵衛はそれとなく道中で噂を流してまわった。
そしてもう一つ。サーラには、ベインから聖遺物を入れる為に作られたとされる箱を渡されていた。
支援の名目で、実は重要物資を運んでいる‥‥という二重の罠を張ったのである。
それでもシシリーの動きを読む事は難しい。ヒルダ達は、最初に誰かがシシリーの牙にかかるのは仕方ないと考える。
その上で誰が犠牲になるか? ヒルダは、サーラに聖遺物の箱を渡した。
彼女は、今回の作戦を正確に把握していないように思える。それは、ヒルダだけでなくバルディッシュ達も分かっていた。
「シシリーに傷を負わせているベインとエグゼ、それから魔法を使うカレンとサーラは、シシリーに狙われやすいと思われる」
バルディッシュが言うと、皆が口を閉ざした。ヒルダが静かに答える。
「マクファ嬢とカレン嬢以外の人にあれを渡しておけば、少なくともムーンアローを持っているカレン嬢と回復の要であるマクファ嬢が瞬殺される事はありません」
ようするに、サーラは真っ先に一撃で殺されるかもしれない‥‥その役目を担ってもらうという訳だ。彼女がそれを作戦上で理解していれば、もう少し警戒していたかもしれないが。
「誰が犠牲になろうと、攻撃の手はゆるめない‥‥それでかまわないな」
バルディッシュは皆に確認するように言った。
シシリーに攻撃を仕掛ける、ベインやエグゼ、バルディッシュ、黒兵衛。魔法の要であるカレン・マクファとカレン・シュタットの防衛に徹する、ヒルダとヴェリタス。後方から魔法で援護するサーラ。
役目はきっちりと、分担してある。
緊迫した様子で馬車に乗り込む彼らを見ながら、カレン・マクファは十字を握った。彼女の様子を見て、ヴェリタスがそっと近寄る。
「カレン、こんなものは気休めかもしれんが」
ヴェリタスは、何かをそっとマクファの手に握らせた。ひとつは、修道女などがよく被るウィンプル。もう一つは、プロテクションリングであった。
「必ず、シシリーから君を守ろう」
「はい‥‥それじゃあ、お願いします。無理はしないでくださいね」
にっこり笑って、カレンは答えた。
そうしてシシリーを待ち受け、倒す為に動き始めた馬車。
しかし彼らは気づいていない。数日前南の都市で仕留め損なった銀色の小さな狐が、クレルモンに向かっていた事を。
それは、思いも掛けない大きな刃となって、彼らを襲う‥‥。
クレルモン周辺は、どこも自警団が警戒を強めていた。シャンティイ等の駐在騎士が配置され、戦闘に備えている。
ヒルダ達は東側の道を通ってクレルモン北まで移動、そこから南に下ってクレルモンに入るルートを取った。
後ろの荷馬車は、少し離れて続く。遅れるかのように、じわじわと距離がつく。
馬車の中にいたバルディッシュは、後ろの荷馬車に居るヴェリタスをちらりと見る。周囲には、誰も居ない‥‥ように見える。
すると、突然馬車が停まった。ヴェリタスもそれに気づき、馬車を停める。
「どうした、ヒルダ君」
エグゼが前を見る。サーラは、周囲を見まわしてエグゼとともに御者台へ顔を出した。
「何かありましたか?」
すう、とヒルダが指を前にさしだす。サーラの視線の先に、一台の荷馬車が止まっていた。
道の真ん中に、堂々と。
ヒルダは車を降りると、ゆっくりとそちらに向けて歩き出した。手には剣を握っている。彼女に続き、エグゼが降りた。早足で彼女のあとに続きながら、声をかける。
「ヒルダ君、これを持っていろ」
エグゼが渡したのは、身代わり人形だった。
「ベインの言うとおりだ。君は卿の婚約者なんだから、こんな危険な所に出向くなんて無茶もいいところだ」
「そうですか?」
ふ、とヒルダが笑う。
荷馬車に居るヴェリタス達は、馬車から降りて様子を伺っていた。馬車に残っていたのは、サーラとシュタット、バルディッシュ。
後ろの荷馬車にいたヴェリタスとベインは、いつでも突入出来る準備が整っていた。荷台に隠れていた黒兵衛は馬車後方を睨み、シシリーの接近に警戒する。
そう用意された、隙だった。
二つに分けた馬車、シシリーを誘う為の罠。
静かに馬車の中で、シュタットが雷の罠を張る。
影が林から飛び出した。
馬車の手前で、雷が影を包み込む。しかしそれに怯まず、馬車に突っ込んだ。
一瞬動きが遅れたバルディッシュの脇をかすめ、剣がサーラを一突きにする。勢いよく柄まで体を貫いた剣が引き抜かれると同時に、目を見開いたサーラが崩れる。
鮮血が、シシリーの顔を赤く染めた。
ぐらりと意識を失ったサーラは、床に昏倒した。ある程度は回避出来るとサーラは見込んでいたが、彼女では全く避ける事が出来なかった。
剣をシシリーの喉元に向けたまま、バルディッシュが後ろにシュタットを庇う。
「カレン、下がれ!」
彼女を下がらせつつ、バルディッシュは積極的に攻撃しないままじりじりと間をあける。
エグゼ達から、彼のカウンターの怖さは聞いていた。
ともかくも、シシリーが虫に姿を変えた時、彼を倒すにはカレンの力が必要になる。
自分が盾になってでも、カレンは守らねばならない。
「はっ‥‥そこそこ出来るヤツを集めてきたか‥‥いいな、殺し合おうぜ」
シシリーがにやりと嗤った。
直刀を構えたエグゼが、怒号をあげて駆け抜ける。
「シシリーっっっ!!!」
シシリーの左腕から血が散る。同時にシシリーの右腕が、剣をエグゼの肩を突いていた。半身が血に染まる。
「な‥‥っ」
叩き付けられたカウンターの一撃は、エグゼを深く抉る。
一歩、後ろに下がりながらエグゼが懐を叩いた。最初で最後の身代わり人形‥‥。
「シシリー、お前の相手はこちらだ!」
その間、エグゼの隙を埋めるようにバルディッシュが剣を叩き込んだ。渾身の一撃のわずかな隙を読み、シシリーが剣で受け止める。
乾いた音が響き、二者が顔を合わせた。
「お前を倒して‥‥旨い酒を飲ませてもらう」
「そいつはどうかねえ‥‥」
弾かれる剣。
両者の間を、風が割る。ちらりとシシリーが視線を背けると、やや離れた所でベインが剣を振り下ろしていた。ベインの剣圧は、シシリーの肩を切り裂く。
赤く、染まるシシリーの体。すかさず腰から瓶を出し、口にくわえたままバルディッシュの方へ剣を向ける。再びバルディッシュとシシリーの剣が打ち合った。
瓶をはき出し、シシリーが身を引く。シシリーの血はとまっていた。
更にエグゼの剣がシシリーを襲うが、致命傷を与えられない。しかし確実にシシリーは弱っている‥‥シシリーのカウンター攻撃を、エグゼは受け止めていた。
「くっ‥‥てめぇから死ね!」
シシリーが手首を捻り、バルディッシュの肩へ食い込ませた。
ちらりとシシリーが、荷馬車の方を見やる。黒兵衛が地を這うように駈け寄ってきていたのはわかっていたが、防ぐには手が及ばなかった。
懐に入り込んだ黒兵衛の短刀は、シシリーの体を差した。なおもシシリーは血まみれの体で、突っ込んできたエグゼを剣で貫く。
地面は、両者の血で赤く染まっていた。
剣に力を込めて叩き付けるバルディッシュと、何の技も使わずただ一閃一閃地道にシシリーを追うエグゼ。
ベインは、間をおいたまま、シシリーを追撃するべく無言で剣を構えた。
シシリーは舌打ちすると、目を閉じる。
ふう、と姿が消える。振り下ろされた剣は、空を切った。
「消えた!」
バルディッシュが周囲を見まわす。しかし接近していた黒兵衛は、その姿を一瞬捕らえていた。
小さな虫が、停車してあった荷馬車の方へと向かう。
「荷馬車の方に向かうぞ、カレン仕留めるのだ!」
「はいっ‥‥受けなさい、ランズ・シシリーっ!」
黒兵衛が指さす方を見つつ、シュタットはムーンアローを放った。
月の矢が、一点を捕らえる。
「ぐはっ‥‥」
闇の中に、再びシシリーの姿が現れる。
姿を現したシシリーは血を吐き、膝をついた。
ゆっくりとベインが剣圧を放つべく、剣を構える。
その時だった。
シシリーが停めていた馬車から、二本の矢が放たれた。鋭く線を描き、それは二つとも、構えていたベインを貫いた。
暗闇の中、細い影が立っている。
更に寄せ付けぬように、矢が飛び交う。シシリーはぐい、と馬の手綱を引くと飛び乗った。荷台は切り離されている。
荷台に立っていた銀色の髪の少女は2本、シュタットに叩き込むとシシリーの後ろに飛び乗った。
シシリーの残した荷馬車を見たシュタットは、眉を寄せた。黒兵衛が口を閉ざす。
「ここはいい、後はわしがしよう」
「‥‥酷い‥‥」
口元に手をやり、シュタットは背を向けた。荷馬車にいた人質は、全て殺されていた。
荷馬車に乗り、黒兵衛が遺体の様子を見る。おそらく、さきほどの少女の仕業であろう。
「もしかすると、シャンティイで蘇生できるかもしれん。このまま連れて戻ろう」
「‥‥そうですね」
シュタットは頷いた。
一方マクファは、真っ先に剣を浴びたサーラを抱えていた。
「生きてはいますが、私では手の施しようがありません‥‥シャンティィに戻りましょう。‥‥ヴェリタスさん、馬車に乗せてあげてください」
マクファの手から、ヴェリタスがサーラを受け取る。
すう、とマクファはエグゼの腕を取った。静かに詠唱の言葉を口にする。
エグゼもバルディッシュも、そしてベインも血に染まっていた。
「‥‥どういう事だ‥‥」
膝を崩すエグゼ。砂を掴み、呆然と地を見つめていた。
自分の矢傷を布で縛りながら、ベインは首を振った。ヒルダがすうっと空をみあげる。
「一つだけ考えられます」
ヒルダが腰に手をやった。全員の視線が集中する。
「まだ報告書は目にしていませんが‥‥リアンコートの貧民街に居た銀狐を、別班が仕留め損なったと考えられます。あれはおそらく、銀狐‥‥例のアサシンガールでしょう」
ヒルダの言葉に、それ以上、誰も口を利く事が出来なかった。
(担当:立川司郎)