【クレルモン総力戦】オリオン総攻撃

■ショートシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:10〜16lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 81 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:12月11日〜12月16日

リプレイ公開日:2005年12月21日

●オープニング

 クレルモンをオリオンが包囲して一ヶ月。
 パリでの騒動もあり、レイモンドは王都が沈静化するまではシャンティイ騎士団を動かす事に消極的であった。本来パリにも兵を差し向けるはずであったのだが、自己領の問題が片づかないまま騎士を領地から出すのは、フゥの樹に隙を見せるようなもの。
 レイモンドはひらり、と手紙をデスクに投げ出した。
 ふ、と笑みをもらす。
「‥‥余計なお世話です。あなた様は、ご自分の御伴侶の心配でもなさい、と返しておいてください」
「本当によろしいのですか?」
 メテオール隊長デジェルが、レイモンドに聞く。くすりとレイモンドが笑った。
 それは、陛下に失礼な文面だからですか、それとも騎士を派兵していただけるという申し出を断ったからですか。
 彼が聞くと、デジェルはどちらも、と言い返した。
 願ってもない申し出‥‥だが、ここは我が地。自分の手の内の者は、私自身が守ります。
 レイモンドは言うと、地図をデスクに開いた。
 クレルモン城を占拠したフゥの樹は、死者の群れを召還して黒騎士団アルジャンエールとともに防衛を固めている。城内にはイングリート、そしてフリューゲル神父と呼ばれる悪魔が居ると思われる。
 オリオン傭兵隊は全兵に招集を掛け、攻撃開始まで城の西側を包囲。メテオールはオリオンの攻撃開始とともに街道を北上、鉄の爪を引きつけるとともに撃破を試みる。
 ガスパーら、各地に居る少数の騎士は東側の街道を封鎖にあたる事になった。
「レイモンド様、北側の街道が空きますが」
 デジェルが、クレルモン北側を指して言った。
 こくり、と頷く。
「この他にギルドからも人を集めます。一隊は対シシリー、一隊はオリオンに合流してもらい、もう一隊は‥‥城内に潜入してもらいます。おそらくここが最も危険な任務となるでしょう」
 いえ、危険なのはどこも同じ‥‥ですか。
 レイモンドは呟くと、作戦の説明をはじめた。
「作戦などという良い案のものはありません。‥‥まず城内で破滅の魔法陣が作られているか確認し、作られているならそれを止めなければなりません」
「セレスティン様の報告では、無かったそうですが」
「それは先月の話。シシリーはアンジュコートで、一人神官の女性を拉致しています。砦での神父の言葉からしても、彼らが生け贄を探しているのは確かです」
 魔法陣を止める鍵が何なのか、何も分からない。ならば、神父を倒すのみ。
 そうレイモンドが言うと、呆れたような声をデジェルが発した。
「そうは簡単に言いますが‥‥」
「すみません」
 レイモンドは一言言うと、地図を見た。
 クレルモン城内に潜伏しているフゥの樹の兵およそ六十名程、加えて死者の群れが三十。対してオリオンが四十三名、メテオールが三十名、東側の街道封鎖に配置された騎士十名と街道警備隊十数名。南側にも同じく騎士十名と警備隊。こちらは街道封鎖に手一杯で、鉄の爪にまで手が回らない。
 いずれも厳しい戦いとなる。

 息を飲む仲間達を見ると、ロイは地図を開いた。クレルモン城下の地図である。
 まず城外に居る死者の群れだけで六十以上。その中に、更にアルジャンエールとフゥの樹の兵が詰めていた。
「‥‥無茶言いますね、その兵力につっこめなんざ」
「鉄の爪がシャンティイ城下で、火を付けやがってな‥‥メテオールは奴らを追い回している。クレルモンに向かっているのは、四十名ばかりだ。奴らが来るまでに城門をこじ開けとかなきゃならん」
 ロイは仲間を見まわした。
「二日目夕方には到着するって言うんだ、それまで死ぬ気でやってくれ。白派の神官は頼んでおいたから、死にかけたら地獄から連れ戻してやる。突っ込む、回復、突っ込む、回復。簡単だろうが」
 いやいやいや、簡単というか。
「待てないんですか、メテオールが来るまで。鉄の爪を挟撃した後で、メテオールと合流して城攻めすればいいんじゃないですか?」
「駄目だ、破滅の魔法陣がどこまで進行しているかわからん。稼働したら、クレルモンが一日で全滅しちまう。メテオールが来たら、魔法陣停止班がすぐにも潜入出来るように城内に総攻撃をかけるんだ。‥‥それまでに、城外の連中は片づけなきゃならん」
 ロイは鋭い視線で、声を張り上げた。
「立ち止まるな、腕を休めるな、敵の方が多いんだ。頭が働かなくなってでも叩き斬れ! 簡単な話だ、一人で三体ずつ斬ればいい。そうしたら門は開く」
 無茶いいますな、隊長は。全員前に出て戦う訳じゃありませんぜ。
 誰かが呟いた。

作戦1日目
 オリオン:住民避難、東側街道封鎖、城東・南側展開。
 メテオール:移動開始。
 対シシリー:街道待機
作戦2日目
 オリオン:攻城戦開始。
 メテオール:鉄の爪と抗戦。
 対神父:オリオンの攻撃後、潜入。

地図
■:市街地 城:クレルモン城
=:街道
その他:鉄/鉄の爪 ○/オリオン配置
******=*****
*****■=*****
***■○城=■****
====○======×
*****○■■=***
********=***
*******鉄=鉄**
 >シャンティィ方面

兵員
死者:ズゥンビ、悪魔(インプ含む)混成七十前後。
城内:アルジャンエール&フゥの樹:五十前後?
オリオン:43名(PC、フェール含む)
メテオール:40名

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4822 ユーディクス・ディエクエス(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●サポート参加者

ガッポ・リカセーグ(ea1252)/ フランシア・ド・フルール(ea3047)/ 源真 霧矢(ea3674)/ メディクス・ディエクエス(ea4820)/ ジョン・ストライカー(ea6153)/ リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)/ リュカ・エルバジェ(eb3124

●リプレイ本文

 戦争?
 レイ・ファラン(ea5225)をじっと見上げる小さな瞳が、聞いた。町の人々は、これから怒る戦いに不安を感じながらも、それを押し殺しているようだった。
 子供すら、それを察している。
 何と声をかけていいか分からずに居るレイにかわり、セレスティンが口を開いた。
「そうよ。じきにここは戦場になるの‥‥しばらくの間、郊外まで避難してちょうだい」
 セレスティンやウリエル・セグンド(ea1662)達の説得に応じ、町から一人‥‥また一人と、残っていた人々が避難していく。自身も巧みに馬を操りながら、セレスは町に人が残っていないか確認に、駆け回った。
「ウリエル、レイ。あなたは隊に戻りなさい。あとはわたくし達が見てまわるから」
「あんたはどうするんだ」
 レイが聞くと、セレスは自分の後ろに従う数騎の騎士をふり返った。そのうちの一人の女性が、ちらりとこちらを見る。
「わたくしには、まだクレルモンの騎士が付いていてくれる。‥‥それも、たった五人になっちゃったけどね」
 クレルモンに悪魔が襲撃した夜死んだ者、助かった者、そして地方を旅していて帰国した騎士‥‥それら差し引き、五名。それ以外に、騎士見習いが一〇名居る。
 セレスティンは空を静かに見上げた。
「日が暮れるまえに、防護壁を作り上げなければ‥‥さあ、行きなさい」
「‥‥あなたも‥‥気を付けて」
 ウリエルが、セレスティンをふり返りつつ馬を城の方へと向けた。

 以前のクレルモン戦同様、城の周囲には馬車と盾を使って防護壁が作られた。敵の魔法攻撃を受ける盾としては弱いかもしれないが、無いよりはまだマシだ。
 オリオン傭兵隊はロイとフェール、そしてウリエルにユーディを含めると43名。
 そのほとんどが熟年剣士であるオリオンの中で、フェールやユーディは若い方である。
「‥‥あいつ‥‥」
 レイの視線の先には、馬車の荷台に腰掛けたフェールが居た。サラフィル・ローズィット(ea3776)が彼の額に手をやり、何か話している。アレクシアス・フェザント(ea1565)はレイの声に反応して、そちらに視線をやる。
「フゥの樹に捕らわれていた男か」
「ああ‥‥元気になったようだな」
 レイは、ふっと息をつくと視線を外した。彼なりに、フェールの事は気にしていたのである。レイもウリエル達同様、あの‥‥フェールが消えた依頼に関わっていたからである。
 アレクシアスがフェールとサラの方に向かうと、サラがこちらに気づいてフェールから手を離した。
「フェール‥‥狂った狼ではないお前に会うのは、初めてだな」
 フェールは少し考え、アレクシアスの顔をじっと見た。萌えるような赤い髪には、見覚えがあるはずだ。
「ああ、確かヒスの公開処刑の時に、逃がしてくれた‥‥」
「アレクシアスだ」
 名を名乗ると、サラが微笑を浮かべた。
「あれから、幻覚も起こらないそうです。自己精神制御が出来ているのだと思いますわ。ほんとうに良かった‥‥皆さん、心配して居ましたから」
「そうか。此度の戦い、共に道を切り開くとしよう‥‥フェール」
 頷いたフェールの腰には、狼の紋章の入った剣が下げられていた。

 日が暮れたクレルモン。
 オリオンは領民の避難した市街地で、宿屋を宿舎として借りていた。
 ランプを壁に掛けているユーディクス・ディエクエス(ea4822)の横のドアが開き、するりと細い影が部屋に入った。
 ゆっくりと室内を見まわす。
「レーヴェさんで最後です」
「そうか‥‥すまないな」
 レーヴェ・ツァーン(ea1807)はユーディに答えると、テーブルの前に進み出た。灯りに照られたテーブルに、ロイが大きな紙を広げる。
「揃ったな。‥‥レーヴェ、何か報告があったのか?」
「ああ‥‥つい先ほど知らせが来た。別班がシシリーを取り逃がした‥‥銀狐が撤退を手伝ったそうだ」
 街道封鎖の手伝いをしていたレーヴェが、シシリー班と会ったのは先ほどの事。一人が意識を失い、他の者も皆血まみれで疲労しきっていた。
 シシリーの名前に、フェールが拳を握る。ちらりとユーディはその様子を横目に見る。
 フェールは視線を地図に落としたまま、口を開いた。
「シシリーは悪魔契約を最終段階目前まで進めている。恐らく今逃がしたら‥‥次はヒトでは無いだろう。俺は‥‥残念だが悪魔になったシシリーを倒す自信は無い」
「悪魔との戦いは長期戦だ。‥‥今は、クレルモンを取り返す事に専念すればいい」
 低い声で、ロイが言った。
「今回は敵の方が圧倒的に数が多い‥‥上に攻城戦だ。城門突破までが辛いが、突破さえすれば狭い城内での戦いはこちらに有利だ。とにかく斬って斬ってきりまくれ」
「いいね、その心意気! オッサン、そうこなくっちゃ」
 アレクの肩に座っていたティアラ・クライス(ea6147)が、声をあげた。
 だが、誰も同意を示さない。
 しーんと静まりかえった室内を、ティアラが見まわした。
「どうした、元気無いよ? ほら、一人三体倒せばいい、ってオッサンも言ったじゃない」
「そうは言うが、夕刻までに城門を開けなければ魔法陣班の突入が遅れる‥‥最悪魔法陣が発動するかもしれないんだぞ」
 お前は気楽そうだな、とレイがぽつりと言った。

 ‥‥運命の一戦、間近‥‥。

 翌朝、日が頭上に上る頃を待って攻撃が開始された。
 オリオンはウリエルとユーディ、隊長であるロイを除いた40名を8名5隊に分けた。
 そのうち1隊は後方支援としてロイの元に待機している。その内に、サラも居た。シフールで体の小さなティアラはアレクの肩に乗って行ったが、サラでは前線に出ても身を守る事が難しい。
 城門を突破しようと押し寄せたオリオンに、城外に溢れた死者の群れが阻害する。更に、城内から魔法隊が炎と雷を降り注ぐ。
 詠唱の間を埋めるように2組に分かれたウイザード数人が、交互に次々打ち込む魔法は、盾にしていた馬車と盾ごと振り飛ばした。
 後方にいたロイは崩壊した馬車の破片を避けながら、声をあげる。
「1班2班、城門まで壁を作れ! 3班‥‥6班、その隙に突破だ」
 ロイの声がかかる。便宜上、アレクシアス達は6班という事になっている。3班はフェールが率いていた。
 数十ものズゥンビ達を、アレクの肩で手をかざして見るティアラ。
「壮観だな‥‥よし、今回は派手に行くよ!」
 壊してもいいもんね、とティアラが呟く。
「‥‥誰もそんな事、言っとりゃせんが‥‥」
 ファットマン・グレート(ea3587)が眉を寄せる。かまわずティアラは、にやりと笑って声をあげた。ティアラの手から放たれた炎の弾が、城門の近くに炸裂した。
 すさまじい爆発が起こり、周囲に居たズゥンビがなぎ倒される。敵の魔法とティアラの魔法で、城門前は土埃が舞い上がる。
「行くぞ!」
 アレクが声をあげ、駆けた。先頭を、ファットマンがクレイモアを振りかざしながら突っ切る。ティアラの魔法で弱ったズゥンビが、ファットマンのクレイモアで崩れていく。
 だがズゥンビの数はファットマンの手に余る程‥‥腐った爪が、ファットマンを引き裂いた。
「死人どもの攻撃など、かすりもせんわ」
 装甲に覆われたファットマンの皮膚にまで、ズゥンビの攻撃が達する事は無い。
 レーヴェは、彼をフォローするように後ろのユーディ達に声をかけた。
「離れるなよ! 動きさえ封じれば、ズゥンビは戦闘能力が落ちる!」
 ティアラが城を見上げる。隙を見て、アレクの肩から飛び上がった。
 ここに来るまでに、セレスに言われていた事を思いかえしていた。
 インビジブルを使って上空に上がり、ウォールホールで城に穴を開けて、ファイヤーボムを打ち込む作戦をティアラは考えていた。
 しかしセレスは出来るだけ壊さないで欲しい、とティアラに言った。
 それは欲かもしれない。
「城が壊れたのを見ると、領民の気持ちが落ち込むわ。わたくしたちはまだこれから悪魔と戦わなきゃならない‥‥だから、出来るだけ城は壊さないで欲しいの。領民の気持ちが落ちると、悪魔に付け入られる隙が出来るもの」
 確かに崩壊した城を見るのは、気持ちのいいものではないかもしれない。
 しかし勝たねば意味は無い。
「分かったわ、それじゃあこれは最後の手段って事でいい?」
「ええ、そうね」
 セレスは頷いた。
 最後の手段‥‥。ティアラの眼前をかすめて、雷が地面を嘗める。彼らフゥの樹が盾にする死者の群れをも巻き込み、正面の3、6班を真っ二つに割いた。
 このメンバーでは、いずれも魔法抵抗が弱い。
 サラの魔法支援やオーラの補助を受けてなお、彼らの体力は削られ続けていた。
 倒れた隊員に、サラが一人ずつ手を掛けては高速で回復させていく。精神力はあっという間に尽きてしまう。
 視線をあげると、6班の仲間も魔法攻撃の直撃をうけていた。駈け寄ろうとするサラの腕を、誰かが掴む。ふり返ると、セレスが居た。
「駄目よ。‥‥あなたはここに居なきゃ駄目」
「セレスティン様‥‥」
 心配そうに、サラは土煙の向こうを見やる。
 よろり、とウリエルが立ち上がる。撃たれても起きあがる‥‥日頃のオリオンのしごきによる条件反射かもしれない‥‥オリオンの仲間の声が聞こえた。
「おい若いの立て、城門まで突っ切れ!」
「あ‥‥ユーディ、起きろ‥‥」
 剣を構えると、ウリエルは後ろに視線をやった。ウリエルに続き、素早くレーヴェが後に続く。レーヴェは仲間を助け起こしながら、声をあげる。
「3班と6班で鏃型に陣を組むのだ。魔法攻撃を避けるには、城門まで突破するしかない!」
 ユーディはやや遅れて立ち上がると、直刀を引きずってウリエルの後を追った。
 ウリエルの横に、フェールが居た。狼の紋章の入った剣を振りかぶる。死者の群れを押し退け、斬りつけながら進む。
 その様子を見ながら、ティアラは城門の中に視線を落とした。
 城門内では、アルジャンエールが整列して待ちかまえていた。開門と同時に魔法攻撃をしかけるつもりだろう。
 ここから撃てば、仲間もまき込む‥‥。

 その頃、メテオールは街道沿いに迷いの森の魔法と魔法で進軍を阻止する鉄の爪を突破しようとしていた。
 両脇の森を進めば迷いの森の術にかかる‥‥しかし正面から突破すれば、まともに魔法を受ける事になる。
 レイモンドはオリオンの状況を聞くと、一気突破する事を決意した。
「あまり時間はかけられません‥‥ここからクレルモンの城まで数刻かかります。あまりオリオンを待たせると、兵を消耗させてしまいます。かまいません、一気に突破しましょう」
 鉄の爪は元々盗賊‥‥突撃には弱いはず。
 レイモンドは騎士隊長のデジェルに命じると、騎馬隊を突入させた。長レンジの雷魔法が騎馬や装甲を弾き、レイモンドもまた馬車を破壊されて騎馬での移動を余儀なくされていた。
 そして日暮れ‥‥。
 メテオールがクレルモンに到着する。
 メテオールは鉄の爪との戦いで傷ついていたが、オリオンに合わせてクレルモン城に突撃した。
 半日でオリオンは、城内からの波状魔法攻撃や死者の群れで、かなりの痛手を受けている。しかし一旦引き下がった後、ティアラの魔法で一気に城門を破壊したオリオンは突撃命令を下す。
 既に死者の群れはあらかた片づけている。
「1班2班、城の裏手に回って包囲、4・5班はここに残れ。3班6班、城内に突入‥‥メテオールを支援してアルジャンエールを片づけろ!」
 ロイの指示を受け、メテオール“騎士団”とフェール、アレクシアス達が状中に突入した。城門から打ち込まれる魔法が、明るく照らす。
 フェールは城門へと目を凝らすと、一方を指した。
「あれだ! ‥‥アルジャンエール隊長のラッシャ‥‥逃がすな」
 後方で指示をしている男が、ちらりとフェールの方を見た。
 ふ、と手を振るとラッシャの動きにあわせて上空からインプの群れが襲いかかった。レイは素早く腰からシルバーナイフを抜き、上空を睨み付ける。
「インプは俺たちが片づける‥‥レーヴェ、あんたは通常武器しかないんだろう。ラッシャを頼む」
「すまんな」
 レーヴェは声をかけると、ファットマンをふり返った。腰からワイナーズ・ティールを下げているが、抜く事もないかもしれない。
 そのままクレイモアを、前方に向けた。
 ファットマンがアルジャンエールの一人に叩き付けると、アレクが彼の脇に滑り込み、脇の敵を片づける。
「狂った狼‥‥残念だフェール、君はいい悪魔になれたのに‥‥」
 ラッシャが呟き、剣を抜く。
 フェールはもう、ラッシャを見ていない。レーヴェの日本刀を盾で受けたラッシャに、横合いからアレクが剣を突いた。
 脇をかすめ、かろうじてラッシャが避ける。
 返す刃でラッシャが、剣を突いた。ファットマンの装甲の合間に刃が食い込む。だがそれと同時に、ファットマンのクレイモアが風を斬っていた。
 声が挙がる‥‥指揮系統を乱されたアルジャンエールは、城内に追い込まれていた。
 脇腹に手をやるファットマンを、レーヴェがふり返る。
「一旦戻るか」
「‥‥なあに、まだ大丈夫だ」
 手を下ろすと、ファットマンはクレイモアを握りなおした。

 この日、クレルモンの城門は血に染まった。
 いくつもの死者の残骸が城内城外を埋め、また元々生者であった者達もそこに身を横たえていた。
 月が見下ろす城門に、影が落ちる。
 剣を納め、レイが町の方に視線をやる。ふらふらとした足取りで、ユーディが城内から出てくる。
「隊長‥‥城内にはもう残っていません‥‥」
 声をあげながら、ユーディが頬についた血を拭う。アレクは周囲を見まわし、仲間の数を数えた。ファットマンは他の隊員に肩を貸している。
 ウリエルは、ぼんやりと城の方を見ていた。魔法陣に突入したひとの事が気になるのかもしれない。
 レーヴェは、めずらしく微笑していた。セレスがゆっくりとした足取りでこちらに来ている。彼女の後ろを、サラが歩いていた。
 サラはファットマンの側に向かい、彼が支えていた隊員に手をかざした。会釈をして、ユーディの手に触れる。
 そこにふわり、と彼女の肩にティアラが座った。
「これからが大変だな‥‥セレスティン」
「ありがとう」
 セレスは、レーヴェをじっと見返した。
 彼女の服は血に汚れ、美しかった髪も埃と土に汚れている。だがその目には、しっかりと光が宿っていた。

(担当:立川司郎)