【クレルモン総力戦】破滅の魔法陣
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■ショートシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:10〜16lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 81 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2005年12月21日
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●オープニング
クレルモンをオリオンが包囲して一ヶ月。
パリでの騒動もあり、レイモンドは王都が沈静化するまではシャンティイ騎士団を動かす事に消極的であった。本来パリにも兵を差し向けるはずであったのだが、自己領の問題が片づかないまま騎士を領地から出すのは、フゥの樹に隙を見せるようなもの。
レイモンドはひらり、と手紙をデスクに投げ出した。
ふ、と笑みをもらす。
「‥‥余計なお世話です。あなた様は、ご自分の御伴侶の心配でもなさい、と返しておいてください」
「本当によろしいのですか?」
メテオール隊長デジェルが、レイモンドに聞く。くすりとレイモンドが笑った。
それは、陛下に失礼な文面だからですか、それとも騎士を派兵していただけるという申し出を断ったからですか。
彼が聞くと、デジェルはどちらも、と言い返した。
願ってもない申し出‥‥だが、ここは我が地。自分の手の内の者は、私自身が守ります。
レイモンドは言うと、地図をデスクに開いた。
クレルモン城を占拠したフゥの樹は、死者の群れを召還して黒騎士団アルジャンエールとともに防衛を固めている。城内にはイングリート、そしてフリューゲル神父と呼ばれる悪魔が居ると思われる。
オリオン傭兵隊は全兵に招集を掛け、攻撃開始まで城の西側を包囲。メテオールはオリオンの攻撃開始とともに街道を北上、鉄の爪を引きつけるとともに撃破を試みる。
ガスパーら、各地に居る少数の騎士は東側の街道を封鎖にあたる事になった。
「レイモンド様、北側の街道が空きますが」
デジェルが、クレルモン北側を指して言った。
こくり、と頷く。
「この他にギルドからも人を集めます。一隊は対シシリー、一隊はオリオンに合流してもらい、もう一隊は‥‥城内に潜入してもらいます。おそらくここが最も危険な任務となるでしょう」
いえ、危険なのはどこも同じ‥‥ですか。
レイモンドは呟くと、作戦の説明をはじめた。
「作戦などという良い案のものはありません。‥‥まず城内で破滅の魔法陣が作られているか確認し、作られているならそれを止めなければなりません」
「セレスティン様の報告では、無かったそうですが」
「それは先月の話。シシリーはアンジュコートで、一人神官の女性を拉致しています。砦での神父の言葉からしても、彼らが生け贄を探しているのは確かです」
魔法陣を止める鍵が何なのか、何も分からない。ならば、神父を倒すのみ。
そうレイモンドが言うと、呆れたような声をデジェルが発した。
「そうは簡単に言いますが‥‥」
「すみません」
レイモンドは一言言うと、地図を見た。
クレルモン城内に潜伏しているフゥの樹の兵およそ六十名百名弱程、加えて死者の群れが三十。対してオリオンが四十三名、メテオールが三十名、東側の街道封鎖に配置された騎士十名と街道警備隊十数名。南側にも同じく騎士十名と警備隊。こちらは街道封鎖に手一杯で、鉄の爪にまで手が回らない。
いずれも厳しい戦いとなる。
一枚の窓、それは容易に越えられない壁であり、レイモンドの最後の砦。
シャンティイ城の自室、窓辺に置いたベンチに掛けたレイモンドは、ランプの明かりの下でカシェ正本に目を通していた。
そして、窓の向こうに落ちる影。
「‥‥写本が七つ、正本一つ。私は最後の二つがどうしても分かりませんでした」
「分かったかね?」
「元から二つ、必要無かったのです。一つが“籠”、一つは完成されたモノ。一つの樹という図を作る上で、用意されるべきモノが置かれる場所が空欄であるのは当然。あなたは最初から、その事を知っていたのですね」
名を、聞きましょうか。レイモンドが問うと、影は薄く笑った。
「私はクーロン(王冠)ではない。‥‥既に私は、ソレを捨てた。そう、古き名は‥‥フリューゲル=カーティス。逆しまの樹をうち立てるもの」
「そう‥‥あなたも巫女の肉体を食したのですね。そうして何くわぬ顔で悪魔を倒し、仲間を犠牲にし、計画も何もかも全て我が手にしようとした‥‥」
「レイモンド‥‥お前を見ていると、かつての私を見るようだ。引き裂きたくなる」
ぽたり、と神父の手から血が零れた。
そっと開いた神父の手から、残骸がテラスの床に落ちる。小さな羽が生えた、レイモンドの可愛らしい使者の残骸‥‥。
「狼も裏切り者も‥‥皆ヒトを食らいしモノ。お前には鮮血こそ相応しい」
「去りなさい悪魔!」
甲高い声が響く。
きらりと月光に十字架が輝いた。
影がすうっ、と消えていく。靴音を響かせ、彼女はレイモンドの前に跪いた。彼の額に、一筋汗が伝う。
「レイモンド様‥‥時間がありません。嫌な感じがするのです、クレルモンから。奴めは、それをわざわざあなたに知らせる為に来たのです」
「分かっています‥‥ラスカ、パリに人をやってください。彼は必ず‥‥今回で仕留めます」
ラスカが退出すると、レイモンドはそっと窓を開け、息の途切れたシフールの少女を拾い上げた。
●リプレイ本文
オリオンの総攻撃が開始されて半日‥‥夕刻になり、ようやくメテオールが到着した。メテオールは鉄の爪との戦いで傷ついていたが、オリオンに合わせてクレルモン城に突撃した。
半日でオリオンは、城内からの波状魔法攻撃や死者の群れで、かなりの痛手を受けている。しかし魔法陣停止の隙を作る為、兵士に攻撃命令を出した。
この日、クレルモンの城門は血に染まった。
城門での総力戦に回っているのか、城内に残っている者はほとんど居ない。
隠し通路から一階に抜け出た彼らは、廊下に居た兵士を片づけると地図を広げた。イルニアス・エルトファーム(ea1625)が持っている地図に、オレノウ・タオキケー(ea4251)が視線を落とす。
この中で城内を把握しているのは、彼だけだった。
「魔法陣の手がかりは、残念ながら得られませんでした。あなたの記憶に頼る他ありません」
ここに来るまでに、フランシア・ド・フルール(ea3047)はクレルモンでフゥの樹に通じていたアガートに、魔法陣の場所を聞きだそうとしていた。
しかし魔法陣の発動はアガートも知らない事だったのか、彼女からの何の手がかりも得られなかった。やけに強制感のあるフランシアの命を聞き、オレノウはため息をついた。
「やれやれ‥‥ここまではいいが、魔法陣はどこかな‥‥と」
出来れば行きたくないんだが、と小さな声で呟くオレノウを、シクル・ザーン(ea2350)が睨む。
「オレノウさん! ‥‥破滅の魔法陣も悪魔も、他人事ではありません。お覚悟を」
「覚悟‥‥したくないなあ」
どうやらそれが本心のようである。
「大体、神父って相当強いのだろう」
「そういえば、どんなヤツなんだ。お前達が教えてくれるのだろう?」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)がひょいと聞いた。肩にかついだ十字型のハンマーは、彼の身長の2/3ほどもある。
何も言わず、イルニアスが皆をふり返った。するとふ、と笑みをうかべてオレノウが前に進み出た。
「まあ、悪魔とイングリート‥‥誰が誰かを知らせるのも私の役目だろう」
「‥‥そうでした?」
マリーが首をかしげる。神父が出没した依頼は、彼女の記憶する限り‥‥オレノウは居なかった気が。オレノウは、ちらりとガブリエル・プリメーラ(ea1671)を見た。
「え? 私? ‥‥ちょっともう、いい加減なんだから。大体ヴラド、“教えてくれるだろう”って何なのよ‥‥。神父は私も見た事ないわ。直接会った事のある人の方が少ないと思うけど‥‥どう、マリー?」
この中では、一番マリー・アマリリス(ea4526)がシャンティイの依頼と縁が深い。
マリーはこくりと頷いた。
「はい。リアンコートの依頼で見ました。神官服を着た、痩せた男の人です。力を発揮した所は見た事がありませんが‥‥フゥの樹の要ともいえる悪魔です」
ラスカは、黙って通路の奥を見ていた。今回彼女は、ここに来るまでに魔法は一切使っていない。
私の魔法は最後の手段、とラスカは言っていた。今回、この参加メンバーはほとんど作戦らしいものはたてる事が出来なかった。
それは、ヴラドなどがぽつりと言っていた所でもあるが‥‥そのヴラドも、“出来るだけ敵と戦わずに”魔法陣までたどり着こうとしていたイルニアスと違い、サクサク攻撃に回っていたのだから‥‥言うまでもないだろう。
とにかく、攻撃。それしか頭には無かった。
トールの十字架を、目の前に居る者全てに叩き付けるヴラドのやや後ろから、ラスカを守るようにしてキサラ・ブレンファード(ea5796)が続く。
とにかく突っ込むヴラドや、装甲の厚そうな源真霧矢(ea3674)に盾役を任せつつ素早く倒していく。
「霧矢、捕まえて!」
「分かっとる」
後ろから届いたガブリエルの声を聞き、霧矢は1人の腕を掴むと、引き倒して剣を首に当てた。にいっと笑いながら、上からのぞき込む。
「さて、おたくには聞きたい事があるんやわ。‥‥もう分かってるやろ?」
魔法陣や、と霧矢が問いかけた。
胸の前で腕を組み、ガブリエルが口を開く。
「他の魔法陣も地下にあったようだし、地下が一番可能性が高いわね」
「城内見取り図では、地下は倉庫と‥‥」
「後は、教会の地下墓地ですが」
イルニアスに続き、マリーが答える。だが、教会は城からはやや離れた場所にある。
「城内で地下っていうと、その倉庫か‥‥後は武器庫があった気がするな」
オレノウが地図を確認しながら呟く。
「‥‥そろそろこちらの動きに、気づいたようだ‥‥急いだ方がいい」
通路の向こうを確認していたキサラが、声を放った。
くすりとガブリエルが笑う。霧矢が捕まえた兵士に、手をかざす。
「それじゃあ‥‥どこに魔法陣があるのか、直接記憶に聞こうかしら」
城の北東に位置する狭い階段を、ヴラドとセシリア・カータ(ea1643)、霧矢を前面にして進む。階段である事を利用してヴラドが上から十字架を叩き込むと、フゥの樹の兵士達は転がり落ちた。
回避した一人が、ヴラドに剣を突きつける。
剣は彼の足に食い込み、肉を割いた。
「く‥‥っ」
「下がれ、ヴラド! お前じゃ捌ききれない」
イルニアスが、ヴラドを突いた剣士にレイピアを突き返す。
悪魔の所にたどり着くまでに怪我をしては、とうてい戦う事など出来ない。傷を握って止血すると、ヴラドは笑った。もう片方の手にタリスマンを握っている。
「わかっている。‥‥行くぞ!」
イルニアスはため息をつくと、彼に続いた。
蝋燭の明かりがもれてくる。ヴラドはそこで、足を止めた。
血のように赤い‥‥魔法陣。
いや、本当に血で描かれているのかもしれない。強烈な血のにおいが立ちこめている。
その中央に、一人の男が立っていた。痩せた青白い顔の男だった。
「‥‥あれです‥‥フリューゲル神父」
マリーが、小さな声で言う。
「さて‥‥余はこんな所で死ぬわけにはいかぬ。‥‥魔法陣は発動させる訳にいかんな」
ヴラドはタリスマンを握りしめると、掲げた。
力がその場に広がる。タリスマンの力が、部屋に結界を創り出していく。セシリアやイルニアスは、即座にオーラの力を発動させる。
神父は‥‥待っていた。
ただ、こちらの動きを伺うかのように。
「その隙‥‥余裕ですか?」
セシリアがレイピアを構え、駆けだした。すう、と神父が手をあげる。
一言、口が動いたと思うと再び手を下ろした。タリスマンの結界が、たわんだように感じられた。
セシリアのレイピア、立て続けにイルニアスのレイピアを受ける。セシリアの剣は深々と刺さったが、イルニアスのレイピアは手応えが無かった。
「‥‥やはり!」
「気を付けろ、同じ武器は通じない!」
キサラが叫ぶ。渾身の力を込め、ヴラドが十字架を叩き込む。しかし、ヴラド、そしてシクルの攻撃は毛ほども傷を与える事は出来なかった。
「無駄だ‥‥」
地の底から響くような、神父の声。
それでも十字架を振るうヴラドの後ろで、霧矢はスピアと聖剣を構えた。
その殺気‥‥恐怖という感覚を越えている。
「やらなあかん‥‥助けてくれて、頼まれたんやからなぁ!」
両手の武器を、渾身の力を込めて突く霧矢。
スピアはその身に刺されど、聖剣は神父の体をかすめたに過ぎなかった。ゆるりとした動きで剣をかわし、立つ。
「神父‥‥って動きじゃないわ‥‥」
「ガブリエル殿、魔法で援護を‥‥私は悪魔の守りを解除致します」
「わかったわ」
頷くと、ガブリエルは詠唱をはじめた。
影縛り、幻影‥‥何れも効果がない。そればかりか、フランシアの解除魔法にさえ抵抗を示す。いくつかの魔法を自身に掛けているのか、どれが効果を発揮したのかさえ分からなかった。
キサラはフランシアとラスカをちらりとふり返った。
「‥‥これが最後の手だ‥‥」
キサラ神父の元に飛び込むと、抜く手も見せずに斬りつけた。
鞘に収まった刀が抜き放たれると同時に、神父を割く。
確かな手応えがあった。
「‥‥なんだと‥‥っ」
キサラの一撃はたしかに、神父に致命傷を与えたはず。しかし神父はまだ立っている。
「これでも死なないというのか‥‥っ」
彼らのような強力な悪魔が、武器に対する強い抵抗力を持っている事は分かっている。二度目はない。
瞬間、神父はセシリアを掴むと、彼女と霧矢に付けられた傷をみるみる回復させた。力を吸い取られたヴラドが、ふらふらとへたり込む。
ふう、と神父が笑う。
「さて‥‥餌になりたいのは誰だ」
「な‥‥何なのだこいつは‥‥」
「なるほど‥‥お前は己の技と力を弁えている‥‥それは褒め讃えよう」
神父はキサラに言うと、傷口を押さえた。ゆっくりと手を伸ばす神父。
キサラが振った一撃は、彼にはもう効かなかった。ヴラドの攻撃も、セシリアの攻撃も‥‥。そしてフランシアが放ったブラックホーリーは、ヴラドの攻撃と同じようにほとんど傷を与える事が出来なかった。
「踊れ、悪魔の手のうちで‥‥」
デビルハンドの力に抵抗出来なかったキサラ、そしてセシリア、霧矢が次々と操られる。フランシアは即座に、自分達の周囲にホーリーフィールドを張った。
「あ‥‥あか‥‥ん」
剣を握る手から血からが抜ける。霧矢は必死に意識を取り戻そうとするが、全ては闇の向こうに消えていく。額に手をやり、キサラが頭をふる。
フランシアがこちらを見ていた。
「フランシア、解除を。結界は私が張ります」
「はい‥‥ラスカ様」
キサラ、霧矢と解除を掛けていく。
しずかに立ちつくしたまま、その間神父は手をイルニアスに向ける。彼の手が光ったと思うと、イルニアスは硬直して動けなくなっていた。
「何が‥‥起こっているというのですか、ラスカ様」
フランシアは、目の前の光景に呆然としている。
黒派の術、そして白の術‥‥? それを高速で唱えるあの悪魔は‥‥。
「高位の術者は、自らの術の効果を反転させる者が居ます‥‥彼は黒の術を高速で詠唱しながら反転させているのです」
その間に、神父は易々と彼らから精神力を吸収していく。すう、と彼は自分の傷を見下ろした。
「‥‥やはりコレだけは癒えぬ‥‥か」
それは、キサラが与えた渾身の一撃。ラスカが静かに顔を上げる。
「悪魔、退きなさい。いざとなれば私が‥‥命に代えてもあなたを滅します」
「ふふ‥‥ルワヨームの子孫は手強い‥‥」
やがて神父はふ、と笑みを浮かべると闇に姿をかき消した。
あの‥‥悪魔が去っていく。
気が付くと、キサラは血まみれの刀を手にして、ラスカと向き合っていた。彼女はキサラが正気に戻ると、彼女の足下に膝をついた。
ぐったりとしたイルニアスを抱え上げ、手をかざす。
「う‥‥ぐっ。すまない‥‥ラスカ」
「いえ、いいのです。マリー、手伝ってください。他の方は、魔法陣を」
仲間の血で濡れた魔法陣が、キサラの足下にあった。彼女の側に背を向けたまま立っているセシリアは、手に握った剣を捨てる事も出来ず、肩を振るわせていた。
「これは‥‥私達が‥‥」
「悪魔の仕業なのです、あなたは自分を責めてはなりません、セシリア」
ラスカは、ふるふると首を振った。
フランシアが魔法陣の中央に靴音を向ける。ふらりと立ち上がり、顔についた自らの血を拭ってシクルが彼女の前に立つ。
静かにシクルは、中央に置かれた壺に触れた。それは、両手で抱えられる程の大きさの土壺だった。蓋をあけると、生臭さが鼻についた。眉を寄せるシクル。
「‥‥酷い‥‥」
まだ血が乾かぬ、いくつもの心臓。
「以前私があった魔法陣は、宝珠を媒体にしていました。‥‥恐らく、これが媒体であると思われます」
それは、集められた贄‥‥乙女のものである事は間違いない。
部屋の隅の扉を開いた霧矢は、扉の前に立ったままこちらに声を掛けた。
「‥‥間違いない。そいつが生け贄や」
ぱたん、と霧矢は扉を閉める。
拳を握りしめ、彼女は壺を見下ろした。
「こんな‥‥こんなものに命を奪われるなんて‥‥」
そっとシクルはガブリエルの肩に手をやると、膝をついて壺を手にとった。大切そうにそれを、聖遺物箱に収める。
「神よ‥‥犠牲となった乙女らを天へと導きたまえ‥‥」
箱が閉じられると、ゆっくりと魔法陣が光りを失っていった。
(担当:立川司郎)