【ジャパン大戦】戦禍の一息〜節会〜<陽>
|
■イベントシナリオ
担当:高石英務
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 15 C
参加人数:46人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月08日〜01月08日
リプレイ公開日:2010年01月19日
|
●オープニング
神聖暦1004年末。長くに続いた関東の乱が、一端の終わりを見せようとしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一つ、
源徳宗家に対する朝敵指定の解除。これに伴い、源徳宗家は神皇親征に関わる出兵、あるいは物資・資金の供出を行うこと。
一つ、
源徳宗家本領である三河・遠江の所領安堵。その他の所領、ならびに戦にて発生した所領主の混乱は、和議ののち、神皇家の裁定を仰ぎながら確たるものとする。
一つ、
江戸の源徳宗家への返還。正式な明け渡しは約定の最後の取り決めの際、改めて決めることとする。
一つ、
鎌倉の中立化。此度の戦乱に伴い生じた陣営の、どちらにも関わりの無い地として、改めての承認を神皇より得る。その後、これならびにこの後の和議に関しての調整を行う賽の交渉の場の一つとする。
以上を持って、伊達家と源徳宗家の間での和議とする。
なお和議の締結は年明けてのち、白馬節会の翌日、一月八日をもって、最後の結びを取り交わすこととする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こうして、伊達家と源徳宗家の間で和議が結ばれようとしていた。
混乱の残る北武蔵やその他関東の領主たちも、様子を見つつ、しかしてこれに乗るべきかとの思案を残していた。
もちろんこれは二家だけの問題であり、関東の乱に関わった平織・藤豊・武田・上杉・新田……その他の各家が全てを認めるものではなかった。
だがしかし、何はともあれ、乱が収まるための第一歩は進められたのである。
「ついに和議がなるようだ」
「そうだな……」
小田原で交渉の結果を聞きながら、土方歳三の問いかけに、近藤勇は生返事のようにつぶやいた。その心中を同じくするのか、和議がなるとの言葉を語る土方の声も、明るいものではない。
まずは、新撰組の身の振り方だ。鎌倉と江戸の交換を行いつつ、各地の領主を納得させるのであれば、この小田原も手放さざるを得ないだろう。
「せっかく、得た城だってのにな。残念だな」
「仕方ない。それが、士分というものだ」
小田原が元の領主の元に戻ることは、隊士たちの声を聞いていることもあり、特に気にはしていない……まあ、お大尽としての暮らしは惜しいところもあるが、士道に背くまじが新撰組だ。
だがそれよりも、士分として主家……源徳宗家の行く末には不安もあった。
「結局、家康様は蘇らんだろう。さすれば誰が家督を継ぐのか、ということになる」
和議を結び後顧の憂いを断ったとしても、結局源徳宗家をまとめる人物が現れなければ意味はない。
今のところ、家康公のお子では秀康殿が一番。だが源徳宗家ではなく、源氏の義経殿はどうかという声もちらほらあり、同じ大きさで奥州の手先を宗家にするとは何事か、と反対する声もある。
「まだまだ、寒い風は吹きそうだな、歳」
近藤の言葉に、土方もしょうがなくも、うなずくよりほかはなかった。
それはともかくとして、年賀である。
和議の約定が正式に取り交わされる一月八日の前日、七日は、白馬の節会となる。
宮中ではこの日、白馬を見ることで年中の邪気をはらう儀礼と宴が催されるゆえ、それにあやかって邪気を払いし後の、約定の締結が吉であろうとの日取りであった。
無論、年賀の宴、松の内も含めると早急には動きがたいということもあるだろう。
江戸ではこの和議を祝い、伊達家が諸将を呼んでの年賀を行いたい旨の話も持ち上がっている。
……もちろん、それはただの年賀ではないだろう。
まだ和議に賛同していない諸将に対して、政治的な決着を喧伝し各陣営に取り込まんとするものだということは存分に予想できる。
こうした年賀とともに行われる宴の席は、京の都でも当然開かれ、そして噂では平織虎長も岐阜の城にて催さんとしているとの話が持ち上がっていた。
年賀の宴に隠れしは、人の野望か策謀か。はたまた真に心安からんための、幸福を祝うものなのだろうか……。
●勢力状況
・源徳宗家
江戸返還後、小田原から江戸へ。兵力は和議締結まで小田原および各地に常駐。
・伊達
江戸詰め。一部兵力は神皇親征のための征西準備。
・関東(新田・里見・北武蔵含む)
征西に向けての準備、および伊達・源徳和議への交渉中。
里見勢は主力は西に到着。
●リプレイ本文
夜空の元、からっ風の吹く小田原。その空のもとで、近藤勇に明王院未楡(eb2404)は静かに礼をする。
「先日は、失礼いたしました。救援物資の受け入れに報告なく、便宜を図りましたこと、お詫びいたします」
「そこまで、恐縮しなくてもいい」
戦禍にあえぐ民たちに向けて、義捐の志で物資を贈る。そのような動きが冒険者の間から始まったらしい。そして明王院は、源徳派を名乗る凶賊が現われそれらを襲撃していたことを聞き、上司に告げず独断で物資を運ぶ手伝いをしていたと告げる。
それを後ほど聞いた近藤は、しかしてそれは咎めなしと述べた。
「そう行動した君の気持ちもわかる。組織たるものは自らの意志だけで、すべての行動を行うわけにはいかんことを理解していれば、な‥‥特に、我々は民を守るべき立場の者だ」
「はい」
「その辺で終わりにしときましょう。今日は息抜きと結束を固める集まりやさかいに、深刻な話はまたでもええでしょう」
「そう、だな‥‥。この話はこれで終わりとしよう」
二人の会話に将門司(eb3393)が声を挟み、それに近藤は応じる。見ればいつのまにか、将門が自ら腕をふるった料理が小田原の城の広間に並べ始められていた。
主家たる源徳宗家の行く末、あわせて自らの先のことが分からず、悶々としているだけであった新撰組の面々に、将門は、労をねぎらい息抜きをしてはと宴を提案し、金子の面も合わせて準備を進めていた。
「お、準備できてるようだな」
明王院の提言だけではなく、確かに治安の維持は大切であった。その点から小田原領内の見回りに出ていた鷲尾天斗(ea2445)と隊士たちが戻って来ると、運ばれてくる料理と始まる宴に一同、心躍らせる。
「ところで鷲尾君。領内の様子はどうかね」
「思ったよりは大丈夫ですかね‥‥実際、戦が止まってから丸一カ月ですから」
「そうか。それは、なによりだ」
「それにしても、局長たちは大変ですね」
運ばれてくるのは、寿司に天麩羅、そして蕎麦。江戸風の料理が座に並べられるのを見ながら、鷲尾は近藤に返事する。
「我々は局長についていくと決めておりますから、この情勢でもまだしも」
「そうは言わんでほしい」
ある種、鷲尾のちょっとした言葉に、宴の前とは思えないような神妙な雰囲気で、近藤は応えた。
「もし、俺や歳さんに何かあれば、君は一番隊組長代理だ。皆を引っ張っていかねばならん立場の一人なのだぞ」
「はい、料理がそろいましたで」
張り詰めたような雰囲気の中、料理の皿を並べ終えた将門が、続けて徳利をいくつか座に並べると、一同から期待の声が上がる。
「さっきも言いましたでしょう。今日は難しい話は置いて、美味しいもん食って楽しみましょうや‥‥但し酒はほどほどに。鬼が睨んでますさかいに」
「そうだな、すまん‥‥諸君。昨年はいろいろあったが、よく、ついてきてくれた。これからどうなるかは正直、俺にもわからん。だが」
近藤の言葉に合わせて周りの皆の杯にも酒が注がれ、そして行き渡ったのを見て近藤は言葉を閉じた。
「何があっても誠の旗の下、士道に背くまじ‥‥それを忘れぬよう」
澄んだ冬の空気が包む年初、江戸の町はおおむね平和であった。
「こりゃ、思いすごしかねぃ」
「気は抜くなよ」
哉生孤丈(eb1067)の生あくびとつぶやきに、ともに江戸市中を見回る静守宗風(eb2585)は静かに告げた。
時期は年明け松の内を間もなく過ぎるころ。年賀と合わせての、江戸での和平交渉が始まる時である。
孤丈や静守、所所楽柊(eb2919)といった新撰組の面々は、源徳宗家の使者の護衛として江戸を訪れ、イザという時に向けて市中の敬語をも申し出ていた。だが想像したような、和平を望まぬ主戦派の攻勢や凶賊の攻撃はなく、つい生あくびの一つも出るくらいである。
確かに停戦直後の昨年末は、源徳や伊達を騙る凶賊が度々現れたものの、その時から絶えずに伊達の影、黒脛巾の一人とされる磯城弥魁厳(eb5249)や実力ある陰陽師の宿奈芳純(eb5475)、仕官しておらぬ者の中でも関ヶ原で勇名を馳せた山王牙(ea1774)、あるいは異界の地アトランティスで名を轟かせるという老兵七刻双武(ea3866)など、名だたる武士が警護を務めている状況であれば、下手な手出しは火傷となると、馬鹿でも理解するだろう。
「そちらの様子はどうだった?」
「別に何も。まあ、そっちの暇さとおんなじ感じ、かな」
「どういうことかねぃ」
合流した柊の言葉に孤丈が肩をすくめて返す。
そんな軽口を叩く余裕があるのも、一時とはいえ、平和が訪れているからだろう。そう思いつつ新撰組の面々は市中の警備から年賀の会場となる江戸城内へと移動する。
途中、マロース・フィリオネル(ec3138)やクァイ・エーフォメンス(eb7692)が個人で作った、復興支援のための小屋を見かけた。京で手配されているという義捐とかいう活動ほどではないにしろ、資材や食糧を買い、あるいはマロースのように奇跡の業を供出して戦災に対応しているものは多い。
もちろん個人での活動だけではなく、先の戦で不利な立場に追い込まれたもの‥‥里見をはじめとする、四公側に下った関東の諸将‥‥の中にも、例えばメグレズ・ファウンテン(eb5451)のように主家の名の元、復興を手伝っているという情勢である。
「あれは?」
「‥‥お初に、お目にかかります」
江戸城下の商店の前で食料の買い付けをしていたのは、小鳥遊郭之丞(eb9508)という女性。鎌倉側の付き添いとして、浦部椿(ea2011)とともに江戸へとやってきたと聞き及ぶ。
「お急ぎですか」
「ええ。和睦が成ったのを見届けたら、すぐにでも鎌倉に戻らねばなりませんので」
「‥‥すまぬ事を、いたしました」
「それは‥‥言わぬ方がよいでしょう」
戦の勝敗は兵家の常とはいえ、鎌倉に戦火の刃を向けたのは、他ならぬ新撰組の主家‥‥源徳家康である。約条が結ばれたことで鎌倉は今落ち着きを取り戻しつつあるものの、現地の民から見れば、簡単に詮無きこととはすまないだろう。
「個人で謝罪するというのであればいいかもしれない。ですが、私も貴殿も立場があります。一つ言いだせば、全ては解決しないでしょう」
和睦の席では過去を問うまいとの意見を基に、朝廷の威信も以って和議は結ばれた。朝廷がまとめるのであればもっと早くにすべきとの声も大きかったが、だが政という化け物は、正義と悪をたやすく分け、たやすく止めてはくれない。
「‥‥これから、どうなるんだろう」
小鳥遊は鎌倉の労苦を少しでも減らすべく、江戸にて物資を買い集めていた。また残りの金子は鎌倉の主、細谷一康と八幡神社に奉納するらしい。手に入れた食料を馬に引かせ去る女を見送りながら、柊はつぶやいていた。
「争いが、止まればいいがな」
「今こそ、誠を取り戻すべき時かもねぇ。そのためにはぜひとも、人同士の争いは止めないといけないんだねぃ」
愛する女性の言葉に静守は答え、そして空を見上げつつ、哉生は気のないように言葉を漏らした。
年賀の宴が始まる前、年が明けるか明けぬかのうちより、綿密なる調整が伊達と源徳の間では行われていた。先だっての和睦においていったんの留保とされた詳細について、いくつかの提案が伊達、源徳の双方から行われていたためである。
「されば、いったんはこの内容にて」
アルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)は本多正信とともに、伊勢誠一(eb9659)より提示された約条を確認し、そう返す。
源徳宗家の領有地は三河と遠江、そして江戸。その他の領地‥‥いわゆる、源徳本家以外の庶子や親戚の領地である‥‥については、家督が決まりしのちのこと、との案で収まった。
イリアス・ラミュウズ(eb4890)が伊勢とともに出した懸案の中では、源徳家の力を削ぐためか、八王子や宇都宮の領有についての懸念が出されるものの、家督の決まらぬうちはどこまでが宗家かとの線引きができぬとの帰結ゆえである。
「あと、下総については、伊達殿の方でも御縁を探しておられる様子。さすれば、岩槻については宇都宮で相違ありませぬな」
「‥‥ええ。この席では左様にて」
下総を伊達が落とした故の動きであれば、岩槻は落とした秀康のもと。理屈は、通る。
その言葉に下総の千葉氏に手配をしている伊勢が、アルスダルトの言葉に慌てた様子もなくうなずいた。
今度の戦で帰属が変わった地域には、かねてより問題となっていた上杉と新田の沼田や、北条が欲するというが元々の藩主大久保家が絡む小田原、武田と平織の間にある南信濃の状況など、様々に糸が絡み合っており、一朝一夕には解決しようはない。
ここに至るにたどった顛末をふまえ、グレイン・バストライド(eb4407)をはじめとする多くの冒険者から、臣下の者や傭兵たる冒険者たちが独自の判断で動くは危険にすぎる、との声もあがっていた。故に、八城兵衛(eb2196)なるものをはじめとする多くの者の提案を受け、最終的な各領の帰属は領主の合議を尊重した上で、皇藩制を束ねる朝廷の裁可による任免が下されることとの内約が取り付けられていた。
‥‥時を重ね、合議の席でひっくり返せば何も問題はない、というところが各人の心情か。
「我らは‥‥不幸な行き違いがあった。そう、思わぬか?」
「さようで、ございますな」
伊達政宗は、静かに切り出すと、本多正信もそれには冷静に受ける。
「我らは今、敵ではなく、これから共に発展すべき輩なのだ。仲良く、せねばならぬ」
「‥‥伊達さまのお心、しかとこちらも心に留め置きまする」
うわべ、本心ではない。両者のやり取りを聞いた一同は皆、そう思ったことだろう。
「ところで」
伊勢は政宗の様子を確認すると、その意図が変わらぬことを理解し、話を切りだした。
「両家が共に手を取り合うという形に、我が伊達の縁者と秀忠さまのご婚姻をと、政宗様はお考えになられているのですが」
「ほう。確かにそれは良きことですな」
正信はその意見にうなずくが、されど目は笑ってはいない。
「突然のことでありますし、秀忠さまのご意思もありますゆえ、今ここでの返事はできませぬが‥‥伊達さまのご意思であれば、うれしき限りでございます」
家督に干渉しようというのは見て取れる。御多々良岩鉄斎(eb4598)が今行っている、先手を打っての源徳秀康の捕虜解放に対するために‥‥というところだろう。
秀康の捕虜解放はこの戦乱の中、武門としての礼をわきまえた行為として、またそれを苦もなく受けた政宗の声望と合わせて高まっているという。
「さて、最後でござるが‥‥城の明け渡しは13日でよろしうござるかな」
「それは早かろう。せめて1週、15日まではいただこう」
結城友矩(ea2046)が昵懇とする八王子に絡み、江戸の地下にて問題が起こっているのはわかる。それゆえの要求であろうが、江戸を落とすほどの軍勢がそれだけ早くに退くことは能わない。猪武者といえどそれも道理ということで、渋々引き下がる。
「されば、退く前となり申すが‥‥八王子勢にて、江戸地下に潜む魔の輩を、打ち倒し申す。長千代さまのご意思のもと‥‥それはお認めを」
一方江戸の地下、やまとと称される遺跡へ到る道において、レベッカ・カリン(eb9927)は暗闇の中、魔物がいないかどうかを探していた。
かつてこの地下より持ち出されたという草薙剣。それが持ち出されたが故、この遺跡にあった霊的加護が減少し、以後の怪異発生の原因となったと予測した彼女は、秀吉を通じ、草薙剣を返還しようと動いていた。
だが草薙剣は今は五条宮の手にあり京にはない。また雷王剣も関東にある以上、神皇家を守る神剣が京都になくなるような事態が起こるのは困る、貸すことはできぬとひとまずかわされていた。
剣なくば、本来の目的は果たせないため地下へと至るべきではないだろうが、源徳宗家へと江戸返還がなされた後では、これまでのように自由に出入りすることは難しいかもしれない。そう考えたレベッカは今、イレイズ・アーレイノース(ea5934)、レイムス・ドレイク(eb2277)、ミラ・ダイモス(eb2064)といった冒険者の協力を得て、遺跡の探索を進めていた。
「天目一箇神と会わなければよいのですが‥‥剣がないわけですし」
「でも、早く協力をしてもらわないとね」
レベッカの隣を並んで飛ぶシフールのリリアナ・シャーウッド(eb5520)も、彼女の言葉に同意のうなずきを見せる。
「武器を鍛える神様ということは、イザナミやマンモンを倒せるような武器を持っているのかもしれないし。かつて、日本武尊もここに来たというから、何かすごいものがあるかも」
八王子勢より伝えられるやまとの遺跡、そこに眠るかもしれない神話の遺物、力ある魔器。それらの力が必要なこと、その意味では黙示録の戦いを経験したように、人はまだ神代より巣立ち人世を歩むには至っていない。
「来るわよ!」
その魔の手の者だろうか、本来は現れるはずのない魔物の群れを感じたミラの叫びに、一同は緊張を高めた。
「これで、よろしいでしょうか」
「協力、感謝するよ」
鎌倉藩主としての最後の書状の筆を置き、ジークリンデ・ケリン(eb3225)はそれをシルフィリア・ユピオーク(eb3525)に渡すと、女は一礼して返す。
その内容は鎌倉藩主として、鎌倉での義捐の活動を認めるとの一筆であった。形ばかりとは言え、後々の問題がなきようにとの配慮である。
一方で彼女は、私財を使い各国を回って個人的に買い付けた食料を、鎌倉の地に給与していた。その量は、換算すれば米俵50表ほど‥‥1000人が半月は食いつなげるほどである。
魔法戦団を名乗りこの鎌倉にともに来ていたフィーネ・オレアリス(eb3529)とシェリル・オレアリス(eb4803)、アレーナ・オレアリス(eb3532)たちは、その魔法の腕と供出された物資を生かして救護と復旧の手伝いを行っていた。また停戦直後に現れていた凶賊も、護衛につくアンリ・フィルス(eb4667)の名も手伝い、鎌倉の復興に伴って現れるようなことはなくなっている。
「‥‥これで、鎌倉の懸念はなくなりました。皆様が健やかに暮されることを望みます」
彼女は思いを胸に秘め、一礼すると席を辞した。シルフィリアも今小田原で交渉している仲間の状況を早くに聞きたいと、早々に館を後にする。
残るは小田原。鎌倉が元に戻るのであれば、やはり元々の統治者である大久保家に返すのがよい。そう考え姉のフレイア・ケリン(eb2258)とフォックス・ブリッド(eb5375)に、大久保家の遺児徳姫と若君の捜索を続けさせているが、現状、良い報告は上がっていなかった。
「ジーク‥‥今、本多様から書状が」
そのことを物憂げに考えながら、自室で荷物を整理しようと心落ち着けた瞬間、ヴェニー・ブリッド(eb5868)が一通の書状をもって飛び込んできた。
伝えられた手紙の差出人の名にジークリンデは人払いを確認し、それを受けとって目を通す。
「なんですって?」
「‥‥かねてよりの件が成したそうよ。私を本多の養女にと。そして、秀康さまへの輿入れを考えているとのこと」
最後の胸のつかえ。それはついてきてくれた仲間や臣下の者たちの身の振り方であった。本多正信の養女になれば、その面では心配はなくなるだろう。
「‥‥あたしたちの腕を買ってくれた、ってところかしらね。秀康さまなら考えそうなところですけど」
「それでもいいのです。皆を、裏切ることにならなければ」
そうつぶやく女の胸には、いくつもの思いが去来していた。
「ここまでくれば、大丈夫よね‥‥」
場所は駿河を抜け、小田原に入ったところ。駿河の領内より駆け続けて幾日か。
食料もつき、獣をとるための罠も使い果たした。矢も、風魔忍軍との戦いの最中、すべて撃ち尽くす。一人では無謀な戦いを行いながらも、何とか逃げ延びることができたアイーダ・ノースフィールド(ea6264)は、奇跡的な状況に感謝しながら、その張った気を解いた。
本来は北条の耳目である風魔忍軍全てを打ち果たす気概での突入であった。しかしその最中に手に入れた情報により女は予定を変え、逃げることに徹していた。
頭領の風魔小太郎が現れなかったのも幸いか。彼奴はアイーダの目標・目的ではあったが、もし孤立無援の状況で出会っていたなら、多勢に無勢、命を落としていただろう。‥‥噂では三河から駿河のあたりでは、今、各勢力の忍びが多数暗躍しており、その対処への影響という。確かに、風魔小太郎は二人はいない。
「‥‥でもこの情報は、ぜひともみんなに伝えなければ、ね」
そうして女が手に入れたその情報とは、家康の遺体が富士の樹海にある、との内容であった。
神皇家の命に従い、関東の落着に奔走する少年は、源氏と源徳家の関係の清算のために、義経を訪ねていた。
「急なお話ではありますが、考えておきましょう」
義経はそう、訪ねてきた日向大輝(ea3597)に応えを返す。
確かに、今は北の鬼たちも動きを活発化させており、関東の乱が収まりつつあるといえども、予断を許さない大事な時期だ。そういう答えをもらえるだけでも、よしとするべきか。
「それと、凶賊の手配のことですが」
「それは承知した‥‥まあ、伊達からも源徳からも追われているのであれば、自棄にでもならない限りは現れないだろうが」
カイ・ローン(ea3054)の問いかけに那須与一はそう、返す。
先だっての停戦の合議の折、彼の名を騙る凶賊が関東一円に出没した。カイにはいったん疑念の目が向けられるものの、日向の伝えた手配の賊‥‥どうやら、京都でも狼藉を働いたのを少年は確認しているらしい‥‥の内容から、カイとの関連は薄いと判断されている。
今雷王剣にて神皇家の権威を持たされた日向の回文が功を奏したのか、今年に入ってからは、件の凶賊の姿は見かけられていない。
「それと、八溝霽月城への支援ですが」
「聞いていただけますか」
控えていたクーリア・デルファ(eb2244)は、与一が切りだした言葉に、にこりと人好きのする笑みを浮かべた。
「救護の手だけではなく、鬼の攻撃も考えられます。義勇の兵ですが、何名か向かわせましょう」
「ありがとうございます」
「しかし‥‥義経様も言っておられる通り、今は無理ですか」
「そう、かと思います」
希望の者たちの派遣が決まり、そして席を辞す女を見ながら、カイは肩をすくめたように言う。
源徳宗家の家督について話すべく、源徳秀康に江戸の年賀への参加をカイは促しに来ていた。だが北の鬼たちの動きが活発になる今、そう簡単に兵を動かすことはできないだろうということも理解できる。
それが故の今この時期の、伊達兵と源徳兵の捕虜交換だったとも考えられる。
鬼の討伐には伊達側とも連携すべし、とカイも主張していたが、だがそのための歩み寄りの方が先に必要だろう。
「それに、伊達だけではなく、新田、上杉の件もありますしね」
表を見れば、関東の乱には領土の問題が深く関わる。その意味では今は主兵を京におく武田も関わる。
噂では北関東では、伊達の謹慎を解かれたブレイズ・アドミラル(eb9090)と、その血縁であり新田家臣であるグレン・アドミラル(eb9112)、そして藤豊家の客将であるルメリア・アドミナル(ea8594)が中心となり、マグナ・アドミラル(ea4868)、ルーラス・エルミナス(ea0282)といった剛の者による守りをつけた、月道と下総の水運をも含んだ、北関東方面にあまねく広がる商路を開こうとしているという。
関東の戦乱で荒れた各々の領地の回復のため、物資の流入をよくする目的ではあるというのが建前であるが、少なくとも、遺恨を含む各家の敵対関係が解消しなければ、全ては思う通りには整理はされないと考えられた。今の情勢では整備ができるのは自領内のみ。敵対している宇都宮の秀康、同盟していたとはいえ領土の帰属問題で揺れる越後の上杉の手前までで、その拡大は止まってしまうだろう。
「‥‥すべてが、義の志や話し合いで決着がつくのだったら、ここまで世の中は乱れませんよ」
それは、数年もの間大国に翻弄された、与一の本心かもしれない。
日本の夜明けはすぐそこに見えて、まだ遠いのかもしれなかった。