【ジャパン大戦】戦禍の一息〜節会〜<陰>
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■イベントシナリオ
担当:高石英務
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 15 C
参加人数:37人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月07日〜01月07日
リプレイ公開日:2010年01月19日
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●オープニング
神聖暦1004年末。長くに続いた関東の乱が、一端の終わりを見せようとしていた。
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一つ、
源徳宗家に対する朝敵指定の解除。これに伴い、源徳宗家は神皇親征に関わる出兵、あるいは物資・資金の供出を行うこと。
一つ、
源徳宗家本領である三河・遠江の所領安堵。その他の所領、ならびに戦にて発生した所領主の混乱は、和議ののち、神皇家の裁定を仰ぎながら確たるものとする。
一つ、
江戸の源徳宗家への返還。正式な明け渡しは約定の最後の取り決めの際、改めて決めることとする。
一つ、
鎌倉の中立化。此度の戦乱に伴い生じた陣営の、どちらにも関わりの無い地として、改めての承認を神皇より得る。その後、これならびにこの後の和議に関しての調整を行う賽の交渉の場の一つとする。
以上を持って、伊達家と源徳宗家の間での和議とする。
なお和議の締結は年明けてのち、白馬節会の翌日、一月八日をもって、最後の結びを取り交わすこととする。
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こうして、伊達家と源徳宗家の間で和議が結ばれようとしていた。
混乱の残る北武蔵やその他関東の領主たちも、様子を見つつ、しかしてこれに乗るべきかとの思案を残していた。
もちろんこれは二家だけの問題であり、関東の乱に関わった平織・藤豊・武田・上杉・新田……その他の各家が全てを認めるものではなかった。
だがしかし、何はともあれ、乱が収まるための第一歩は進められたのである。
「のう、三成」
「は」
「そちは、刀に長じておるか? よい刀、とは何と存ずる?」
京の都のある場所で、藤豊秀吉は静かに石田三成に尋ねた。
しかし刀を問う秀吉の前にあるのは茶器。その違いに、一瞬三成は困惑する。
何かの問答だろうか。主の突然の問いかけに、三成は困惑から戻って、答えを返す。
「切れること、でございましょうか。戦場で幾人斬ろうとも、切れ味の落ちぬ刀」
「おぬしらしいのう」
からからと笑いながら、秀吉は立てた茶をそっと、三成の方へと差し出した。
「いただきまする」
「いくら切れても、切れすぎる刀は問題よのう」
「はあ」
のどに茶を流し込んだその時の秀吉の言葉。茶のこともあり、三成は生返事を返すしかなかった。
「よい刀とは、切れるときを間違えぬ刀じゃ。あるときは鋼を両断し、あるときは大根さえも切れぬようなのう……」
そのつぶやきの間に三成は茶を干し、返杯すると、その時の秀吉の笑みに、凄絶なものを感じる。
「武田も関東に向かっておる由、上杉も動いておる。伊達の小僧もこしゃくに動きよるのう……時というものをよくわかっておるな」
秀吉は次の瞬間には、いつもの表情、いつもの笑みに戻っていた。
「ひとまず、西のほうは順調に戦が進んでおるとのことじゃ。神皇様もいったん、落ち着かれるのがよかろう。年賀の会くらいは、邪気払いの儀礼もある、何とか迎えたきものじゃな‥‥そう、盛大にのう」
ところは京都、比叡山延暦寺。
「武田源氏にとって、京こそ‥‥守護すべき唯一の都。信繁は‥‥まだか?」
目の前では床に伏せる武田信玄。信玄はひそかに上洛した後、関東の収まりを勘付いて、配下のものに命じ重臣も呼び寄せていた。
「晴信、何を寝ておるのか。お主の務めを果たすのです」
「‥‥十二神将か」
信繁はまもなく来よう。そう聞いてなお思案を巡らせる信玄を光が取り囲み、仏神の姿をとりなす。現れた仏神‥‥西洋で言えば天使に見えるそのものたちはそうして、仏敵であるイザナミと尾張の魔王の討伐を動けぬ信玄に命じていた。
それに苦しい息の下で、信玄は静かに答える。
「我が病身の身では、岐阜の魔王は、今は討てぬ。お主らには宿敵だろうが諦めろ」
「人と同じにするな。我らは決して諦めん」
しかして彼らは一度は姿を消した。だがその姿をそばに来た者たちも感じ取り、あるいは見ていたことから、それが信玄今際の際の幻ではないことは明白だった。
岐阜城の天守閣において、虎長は静かに城下を睥睨していた。
「静か、であるな」
「は」
主の低い声に、側に控える小姓はただ頭を垂れて、受け応えるのみ。それに虎長は鼻を鳴らすと、憎憎しげに口端を歪める。
「されど、静か過ぎるのはよくはなし。浮かれすぎるのもな‥‥聞けば、東も西も、祭り騒ぎが終わるとか」
「‥‥? さよう‥‥と、聞いておりまする」
虎長の言う祭りとは、西のイザナミたち黄泉の者たちの戦と、東の関東の乱である。
イザナミとの戦いは一時大宰府が陥落するという事態になったものの、伝えでは神皇軍が盛り返し、敵を押し返したと聞く。関東では伊達と源徳が和睦を結び、乱の終わりを迎えるかという光明を思いながら年を越そうとしていた。
「‥‥祝いを」
「は?」
突然の主の言葉に間抜けな声で小姓は返すと、返ってきた主の刺すような冷たい瞳に、反射、平伏する。
「も、申し訳ございません!」
「祝いの宴を開かねばのう。このように平和が来るのであれば、それはめでたい‥‥関東でも、京でも年賀の宴は行われるであろう」
だがその言葉は温かみ、笑みはなく、冷たい響きのするもの。小姓は相手が気性の激しい虎長が故に、生きた心地がしない。
「ではそれらをも越える年賀の宴を、この岐阜城で行うのだ。‥‥天下に、最もすばらしき宴は何かとわかるようにな」
そして感情なく呵呵大笑して去る主を見送り、小姓は気持ちを落ち着けるのが精一杯だった、
それはともかくとして、年賀である。
和議の約定が正式に取り交わされる一月八日の前日、七日は、白馬の節会となる。
宮中ではこの日、白馬を見ることで年中の邪気をはらう儀礼と宴が催されるゆえ、それにあやかって邪気を払いし後の、約定の締結が吉であろうとの日取りであった。
もちろん宮中では、西の戦いに向けての戦勝祈願も含め、この日に例年のとおり、邪気払いの儀礼が行われる。その取り仕切りはもちろん、派手好きの関白秀吉であり、京に上洛している諸将も参加するようにとの下知が回っているようだった。
そして突然というべきか、岐阜の城でも沈黙を保つ平織虎長がやはり年賀の宴を催すとの話が持ち上がっていた。こちらについては意図や目的はまったく読めず、自分の存在を示したいのだ、いや世間が収まることを祝いたいのだ、といった噂から、厳しいものでは参加しなかったものを敵とみなすための探りだという声もある。
江戸でも和議にかこつけての年賀の宴が催され、裏では関東を収めるべく陰謀が渦巻くであろうというのが、巷に昇る口さがない噂である。
年賀の宴に隠れしは、人の野望か策謀か。はたまた真に心安からんための、幸福を祝うものなのだろうか……。
●勢力状況
・藤豊
親征準備を中心とする。関東への影響力低下?
・平織
尾張にて調査が入っている? 虎長が岐阜城で宴を開催。
・武田
武田軍中核、京都到着。叡山にて信玄と何者かが接触?
・上杉
親征準備。
●リプレイ本文
京の都に雪が降る中、かなり前から寂しくなった新撰組の屯所で、月詠葵(ea0020)をはじめとする京都の残留組は、ともあれと、新年会にいそしんでいた。
「家康様はやはり、亡くなられたそうですね」
「ああ」
月見にはならぬ雪見酒を楽しむように短く答え、斉藤一は杯を干すと、月詠はすぐに次を注いだ。
近藤たちが京を出奔してから、まだ半年。そのときについて行った者たちもいれば、伊東の御陵衛士に移ったもの、混乱にまぎれて羽織を脱いだものなど、様々にいる。さすがに隊長格ではその影響はないが、誠とは、士道とは何かを強く持ち、自問できるほどの強さあるものでなければ、やっていられるものではない。
「何か、変わるとよいのですが」
家康の死にともない、源徳家に関わるものは皆、その立場や状況をひっくり返されたようになっている。遠征と朝敵の指定に伴い、京都に残った者たちは、狼ではなく犬よと蔑まれた。そして士道に基づき馳せ参じいったんは小田原を与えられた近藤たちも、その例外ではないはずだ。
「さて、どうなるだろうな‥‥局長たちとまた、やっていければいいんだが、な」
「‥‥今年こそ、よい風向きになると、いいですよね」
その男の声には、しんしんと降る雪だけが応えているようだった。
「ゆくゆくは、秀吉公を吉原にご案内できればと欲を張り、足を地に付ける事を怠りました。申し訳ございませぬ」
そう、粛々と頭を下げたのはアラン・ハリファックス(ea4295)。関東で起こしたいくつかの失策のことを、今まさに主に詫びていた。
その一つ一つは賢策であったかもしれぬが、だが小さな読み違い、行き違いが積もった結果、最後の最後でその代償を払わされた、というところだろうか。
「まあ、気に病むな。お主の気持ちはわかっとる」
にこりと笑いながら、目の前でブラン製の茶器を眺める藤豊秀吉はこともなげに返す。
「切れる刀を持てば振りたいという欲が出てしまうのは、人間仕方ない。反省もしておるようじゃしな‥‥これからも励めよ?」
「は‥‥そして、さっそくですが」
一息つき、アランは石田三成に促して奏上の書を秀吉に渡す。
「今の時勢からすれば、こちらからも和睦の提案の機、と考えます」
「して、秀忠を先ずの領主に、か」
「御意。関東にわざわざ火種を残すには及びませぬ」
「そのことですが」
三成と年賀の会についての打ち合わせから、そのまま同席していたベアータ・レジーネス(eb1422)が口を挟む。
「岐阜‥‥平織虎長の方に、不穏な動きがある、とのことです」
「ほう‥‥主上にお目通りをと市様がいらっしゃっておったが、そういうわけかのう?」
秀吉の笑みにベアータは頭を下げるだけで諾と推測を返す。
「なるほどな‥‥面白いことになってきそうじゃ。ひとまずは、源徳の者たちとの和睦、進めておこうかのう」
その秀吉の言葉に、側に控えていた三成は一礼をし、席を辞した。
「これで、物資の方は全部、かな‥‥」
「そうなるようだな」
多くの物資を携え、外国より戻ったばかりのリンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)は、京都で待っていた明王院浄炎(eb2373)と言葉を交わした。
義捐の活動が始まってよりはや二月になろうとしている。各所で問題は持ち上がっていたものの、その活動は少しずつだが進んでいた。
救援物資については、外国で個人的に買い集める形で集めてきていた。
ただ、食料というものは湧いて出てくるわけではない。なじみの相手であっても金貨100枚を超えるような大口の内容であれば、一度にそろえることも難しく、また市井にも影響が出るゆえ、値を上げざる得ないことも伝わってきている。
「これで、一息つければよいのですが」
明王院月与(eb3600)は各地から届く協力の報せを見つめながら、そうつぶやいた。
丹後へは浄炎が文を出したが、再建の最中ゆえか、今はまだ返事は貰っていない。もちろん、力となってくれるはずだった。
越後へは先日祖母の国乃木めい(ec0669)が交渉の許可を上杉謙信にもらい、姉のチサト・ミョウオウイン(eb3601)とともに赴いて交渉している。
「ただ、相手は海千山千の商人だからな。油断は、できない」
義よりは利で動くのが商人というもの。それゆえに仁愛という耳心地よい言葉を使うには気をつけねばならぬ。
それは困窮した時には助けとなるが、のど元過ぎれば熱さ忘れるように恩を忘れ、あるいは仁愛に偽して恩を売る所業に走らないとの、確証はない。
リンデンバウムの疑念は、ここ数カ月に体験したものから来ており、簡単に晴れるわけではない。
「でも‥‥信じたいよ。人の心はなおさら、ね」
月与はそうであっても、変わらぬ芯の強さで答える。
個人であっても、自分たちを支援してくれるものがいる‥‥そういうつながりがあるだけで、心は晴れていた。
「‥‥調子はどうかしら」
「なんだ‥‥驚かせないでください」
すわ、虎長の手のものか。突然掛けられた声に、神木秋緒(ea9150)は驚嘆すると、振り返ったその先にある女の顔を見て、落ち着いた息を吐いた。
「あらごめん。そちらは、どうだったかしら?」
尾張にある由緒正しき神社、熱田神宮よりやや離れた茶屋。人通りが少なくなる時刻を見計らってか、梔子陽炎(eb5431)は秋緒の横に腰を下ろして、調査の結果を聞く。
「第六天魔王の封印については、詳しくは‥‥ただ第六天魔王は分割して封ぜられたとのこと。今は真なる力を復活させているわけではなく、強力な仏か神の力でもあれば、封ずることができるかもしれません」
「こちらは、かなり物騒な雰囲気だったねえ」
秋緒の言葉の裏、運ばれてきた茶をすすりながら、女は仲間に頼まれた岐阜城下の調査結果に思いを巡らしそうつぶやく。
「ちょっと時間がなかったから誰、との確証はないけど、何名かは虎長のいいなりのようだねえ。‥‥それが自分の意志なのか、人質を取られているのかは、わからないけれど」
それが真実であれば、人質の可能性を考えて、岐阜城下の武家屋敷の調査は進めなければならない。
「それで、肝心の虎長公は?」
「年賀の宴を開くと宣言の後、城にこもりきりのよう。何を企んでいるのやら‥‥」
「しかし、勝手なものですね」
「と、言うと?」
京の都にて、義捐の志に賛同し動いていた医療局の面々。彼らが集っていた庵にて、時節柄まもなく必要となる七草を用意しながらの将門夕凪(eb3581)の言葉に、局長たる白翼寺涼哉(ea9502)は問い返す。
「この国で戦をするだけしておいて‥‥困っている人がいるのに、まだ争いを続けたり、それらの人々を気にもかけず宴を行ったりしています」
「治めるのでしたら、もっと早くしてほしかったですね」
ともに作業するメイ・ホン(ec1027)の言葉につと、その選別の手を止め、女はふすまの向こう、雪がうっすらと積もった町を見る。
京の都は一時に比べれば、確かに落ち着いた。だが見えないところでは戦の火の手、その傷跡は治まっていない。
「結局は‥‥本当に偉い人を頼っても、仕方がないんですね」
「それは、皮肉か?」
「‥‥そんなつもりでは」
涼哉は既知である大塔宮護良親王を訪ね、義捐に関わる協力について、意見を上申しようとしていた。
見た目いわゆる、偉きものに頼る所業。その手前であれば、ちょっとした冗談もあろう。
「‥‥少なくとも、治まりがつかなくなるよりはましだな。遅くはあっても動くほうが。恩義と矜持があればこそ、だがね」
その思いとともに席を立つ男を見送り、将門はただ、作業を続けていた。
そうして年明け日がたち、白馬節会の年賀の会である。
年賀であり、戦勝祈願も兼ねるとのこと、御所に集った者たちは多かった。その人数が混乱を呼ぶほど多しと見た関白秀吉は、かつて自らが開いた茶会にて狼藉を図ろうとした輩がいたことを持ち出し、宴に直接、参加するものを制限する。
故に、声望あろうとも特に紹介や後ろ盾の確認できないマイユ・リジス・セディン(eb5500)やリーリン・リッシュ(ec5146)‥‥関門海峡での戦の功労者が認められるならば、御所には冒険者があふれかえる事となる‥‥は、神皇や公家たちが集う宴の本宴には入ることができず、意見をただ伝えるだけにとどまっていた。
里美の遠征軍の指導役である松桐 沢之丞(ec6241)でさえも、宴の儀礼の中の、形だけの礼をのみ行う時しか与えられていない。
そんな宴の最中。御所の奥では平織市が、それの供をする水上銀(eb7679)とミリート・アーティア(ea6226)とともに神皇と謁見していた。
「平織家も大変じゃのう。秀吉もご心中お察しいたしますぞ」
「お気遣い、痛み入ります」
市が頭を下げる中、そこには関白として秀吉も同席していた。西国の戦において勝利を収めたあと、征夷大将軍より話があるといえば、神皇も会わざるを得ないが、しかして平織家には疑惑がある。
「虎長公との停戦は、すべてはこのジャパンのためです」
ミリートはそんな場の空気にかしこまり、言葉を告げると、市は表情には出さないものの、心が揺れているのが見て取れた。
「九州が落ちれば月道の先にあるノルマン、引いては他国に影響があります。それへの私たちの進言をもって、市様は決断なされました」
そして親征が成功しつつある今この時において、改めてこの国に仇成す戦国の魔王を打ち取るべく、平織家は平和のために動く、と告げて、奏上を結ぶ。
「すべては、平和のためだった、と言うのですか」
その姿に似つかわしい凛とした声で、安祥神皇は問いかけると、女三人、一様に諾とうなずく。
「本来であれば、その正体を暴く証を立てるべきでありました。ですが時は我らに味方せず、ゆえにあのような、急なる仕儀と相成りました」
「‥‥そちたちの忠節、この安祥、重く受け止めています」
そう返じた声には、やはり重い響きがあった。
「越後の上杉公よりも、第六天魔王なる悪鬼の存在、真なりとの報せを受けています。‥‥だが、よいのか?」
「と、申しますと」
やや優しい、心配するような響きを持った神皇の声に、市はその次の言葉を理解しながらも問い返した。
「虎長公と戦うということは、新たな乱を呼ぶことになる。黄泉の魔物イザナミは出雲に跋扈し、朕らの親征は終わってはおりません。それに‥‥諸侯会議も火種の一つとなるでしょう」
「然り、主上のおっしゃる通りじゃぞ。朝廷の宣旨があったとしても、誰もが義で動くわけではないしのう。それに結局は看板が変わっただけじゃと、不満も出るかもしれん」
銀はかねてよりの提案の案件として、神皇親政に至る前段階としての、諸侯会議を提案していた。その合議の長に平織市を推していたが、虎長との和睦により結果として、諸侯の疑念が増幅されたと見る向きもある。
それをふまえてか、銀は今、石田三成を通じて秀吉の協力を取り付けていた。それ自体は必要なものであるとはいえ、結果、名前が変わるだけでこれまでの政とは変わらないのではないか、という秀吉の茶番な自問自答のような疑問も孕んでいる。
その疑問を押さえ込む方法が力しかないとなれば‥‥諸侯会議を推進するための美名の戦い、新たなる乱は必然となる。
「‥‥このままでもイザナミを倒した後に乱が生まれます。その前に、手を打ちたいのです」
「よいでしょう。虎長公、いやさ第六天魔王討伐に関わる平織家の新たな決断。そして諸侯会議への意気。戦の時なれどこの安祥、重く受け止めます」
長きの沈黙ののち、安祥神皇は秀吉と目くばせすると、臣たちの言葉をありがたしと受け取った。
「なんでそうなるねん」
「まあ、話はついたのですから‥‥」
京・大阪の商人との会合の後、将門雅(eb1645)を十野間空(eb2456)はなだめていた。
そんな彼女の憤りが示すように、改めての会合は芳しく進まなかった。
「うちの店、本店はこちらに属してるはずやけど? それに、うちは神皇さまの御用達やあらへんよ」
「だからですがな‥‥御用達でもあらへんのに、大きな顔されてもらっては困りますよって」
「そや」
将門の言葉を聞き、一人の商人が出したのは一冊の帳面。それには、ここ数カ月の米の相場が載っている。
「将門屋はん、あんたが平織はんの御用商人として動きはるのはわかります。お得意さんは大切や」
「ですが、お得意には糧秣回して、秀吉はんや伊達はんには回さんちゅうのは、何のおつもりや?」
「そちらはんが卸す米は秀吉はんとこには回らん。結果、相場が上がったゆうて、あんたらが嘆いとる秀吉はんとこの厳しい取り立てにつながっとるんやで」
「その辺をご理解せず、儲けを義のために、とは‥‥」
全てが真実でもなく、すべてが将門屋のせいでもない。
だが食料は戦の関係で、西も足りぬは東も足りぬというのが現状であり、物資の供給や買い付けの偏りが、積もり積もって窮状に拍車をかけつつあるのは事実である。実際、義捐を掲げて大量に物資を買い集めたことにより、外国でも食糧の相場が上がり始めているとの噂も囁かれ始めていた。
噂は噂と憶測を呼ぶ。おりしも平織市が魔物と噂される虎長と協力した時節、平織家の一挙手一投足を気にし、警戒する風向きが大きくなっているためだった。
さらに言えば、義捐の助けはまず第一は民に向けられるが、そもそも発端、親征の糧秣問題の解決は個々の領主、商人に任されたもので、統一的に誰か一人の商人、一人の個人に、糧秣問題を解決するよう話が来たわけではない。平織家に収めればそれでよし、というわけではないのだ。
義のために儲けを供出しようにも、そのための流れが、そう提唱するものによって遮られていると見られても仕方はない。
「余裕も何もない‥‥だから、錦の御旗で商売なさるんは、ゆうてるんですわ」
「本業、おろそかにできませんしなあ‥‥?」
「それは、失礼しました。でしたら、急場をしのぐ間、限定的でも協力いただければ」
空の謝罪を含ませた言葉にも、やはり剣呑な空気は変わらない。流れを変えるべく、ガラフ・グゥー(ec4061)はさらに言葉を続ける。
「しかしおかしいのう。藤豊の官僚から話がいっておるはずだが?」
ガラフの言う書状とその連絡は京に回ってきていたが、しかし商人たちが問題とするのはそこではない。
本業をおろそかにしない範囲で、というのであれば、西国への糧秣をそろえることこそが今彼らの本業であり、糧秣を必要としているのは平織ではなく藤豊。どこかに肩入れをしているように見えるという点では、藤豊に近しい商人や冒険者も、平織御用達の将門屋も変わらない。
結局、商いの範囲で、ということで協力の話は一応取り付けたものの、大規模な助けは見込めなかった。
「幽霊の正体見たり、枯れ尾花‥‥というでしょう」
久駕狂征(eb1891)、任谷修兵(eb2751)、志波月弥一郎(eb2946)、鬼切七十郎(eb3773)。彼ら憂国の士の提言に、安部晴明はさらりと返す。
年賀の宴の合間にて、時間を作り話を聞いてくれたにしては、けんもほろろ。だがそうだろう。政治二カラム話は原則、陰陽寮の管轄ではない。そのうえ、新田義貞が偽者との話そのものが眉唾に聞こえる。
一同は江戸で冒険者ギルドに収められた報告書の内容を元に、その説を訴えていた。しかし報告書というものは真偽贋作とは関係なく脚色があること、また件の報告書において義貞は、自分の目が行き届かなかったことを詫びていると晴明には思われた。
部下の行動を知らぬことは支配者としては落ち度であるが、それだけで、偽者であるとの証拠にはなりえなかった。鎌倉や小田原のような小さな国でも、改めて任命された領主の目の届かぬところで、兵たちが民に無法を働くことや、人同士での認識の違いによる命令の齟齬など幾度もあった。冒険者のみならず下の臣が、己が独断を仕える領主に伝えぬことなど、源徳、藤豊、伊達、新田‥‥それこそ東西を問わずよくある。
故にその程度‥‥というには酷だが、その程度である。
「疑わしいと思えば、みなそう見える。‥‥ご忠告ですが、確たる証拠がないのに騒がれるのは、身の危険を呼びますよ」
「では村正の件は? 魔王とつるんでもお咎めなしかい?」
鬼切はつい先だっての噂‥‥伊達の陰陽師の一人が魔王であリ、その人物が献上したという妖刀について切り出した。話によれば、確かにその人物は魔王であると、本人が認めているという話。
「その事実があったがゆえ、伊達家からの神皇家への神剣ご献上は成されなかったと思われますが」
続けてしかし、と晴明は前置きする。
「家臣の一人が悪魔であるというだけで、家そのものに厳罰は下せますまい。今の話程度では知らぬ存ぜぬ、柳に風とかわされましょうな」
そしてそろそろ時刻と席を立ちながら、苦い顔をする一同に最後、晴明は告げた。
「かように疑心を煽り、奥州、いや日ノ本そのものに火種を巻くことこそ、悪魔の狙いかもしれませんな‥‥」
「南信濃の件につきましては、切にお詫びいたします」
比叡山延暦寺の一室。その中で床に伏せる武田信玄を前に、オリバー・マクラーン(ea0130)は頭を下げていた。
琉瑞香(ec3981)と名乗る僧の持ってきた怪しい赤い石は、本当に効果のあるものであったのだろうか、横になっている信玄の顔色はやや良くなったかのように思えた。それゆえにかなった此度の謁見である。
だがいくら奇跡の結晶といえども、信玄の身を蝕む死病を一朝一夕に追い払うには力及ばず、瑞香の処方は続いている。
「彼の件は、元をたどれば依頼された私の読み違い。処分はいかようにも‥‥死罪とされてもかまいません」
「‥‥よい、気にするな」
「御屋形様、ご無理はなさらず」
男の謝罪に応じ、信玄は咳き込みながらも土方伊織(ea8108)に支えられ、体を起こす。
「病といえど寝たままで謝罪を受けるほど、この信玄増長してはおらん。そして‥‥あえて罪は今問うべきではないと存ずる‥‥」
そう答えて、数度咳き込む。
確かにあのときに比べ情勢は変わった。信玄に下された仏の御言葉を達するのであれば、南信濃の問題は今解決すべきことではない。それにこう申し出てきているのであれば、いざとなれば、とも考えられる。
「しかし、本当にご自愛ください。今後のことを思えば、なんとしても年賀の席にお姿をお見せできるよう、体を整えませんと」
「左様でございます」
咳き込む信玄を慮りながらの土方の提言に、オリバーも同意する。
「天下の名門、副将軍格として、朝廷での次代の発言力を高めるべきかと。体制が変わろうとも、変わらずとも、です」
確かに、各地での戦火が収まりを見せ、様々な枠組みが変化の兆しを見せるこの時節を逃すことはできない。くわえて、体制という人世のことのみならず、信玄には主上に話すべきことがある。
だが魔法による施術により病状の回復は見られるものの、自由に起き上がり動くことができるほどの回復を、信玄は見せてはいなかった。
「‥‥お姿を、お見せくださいませんか」
最後の手段と影武者を立てることも検討する中、学問の都についての協力を頼みに来た天城烈閃(ea0629)が、ふと、奥に鎮座する古木造りの本尊に一言、声をかける。
「‥‥私を呼ぶとは、いかなる用向きか」
返事とともに本尊から染み出すよう、現れたのは高貴なる白き姿を持ちし者。いわゆる、十二神将と呼ばれる仏である。
姿を現した仏に対し、男は大きな銛と赤き弓を取り出した。一瞬騒然となるも、天城は信玄はもとより仏を害する意思はなきことを告げ、口上を述べる。
「こちらはイギリスの神スカアハより、こちらはエジプトの神ネイトより。彼らに力を託された証。それに誓い、第六天は信玄公に代わり、私が討ちましょう」
突然ともいえる天城の宣言に一同はややも騒然とするも、それを聞く十二神将は冷静であった。
「世界の端の精霊のことは詳しくは知らぬ‥‥。だが、汝にその覚悟があるというのであれば、その誓いと言、受けるとしよう」
宴の賑やかな奥で、静かに一人の男が礼をする。
「源義経が家臣、陸堂明士郎啓郷と申します。主の名代で参上仕りました。宜しくお見知りおきの程を」
「緊張せずともよい。楽にしてくれ‥‥他の、皆もです」
安祥神皇はかしこまる陸堂明士郎(eb0712)にそう声かけると、座を見渡した。
その場は二人のみではなく、表向きは会議。用ありとしてその場に集うは、今は九州にある五条の宮の臣、鳳令明(eb3759)の紹介にて末席にあるメイユ・ブリッド(eb5422)。武田信玄の後ろには病上がりゆえか心配そうな表情を覗かせる馬廻りの土方伊織と、供としてついてきた天城烈閃。さらには上杉謙信が静かに座り、ゼルス・ウィンディ(ea1661)は彼に付き従うように座っていた。
藤豊秀吉は今この席には列席してはいないが、逆に姿を現さぬところ、この会合の内容・目的については耳に入っているだろう。
「そういえば‥‥主上に置かれましては、親政をお考えとの噂、耳にしております」
「その通りです」
迷うことなくの少年王の返答に、一同は言葉は出さずもざわめきたつ。
「そのお考え‥‥まさに私見ではありますが、喜ばしいことと存じます」
神皇親政については那須与一より、多額の寄進とともに懸案が提示されていた。「神権集約論」の一部と巷で称されるこの懸案、中には今この時代から考えれば絵空事と思われるような内容もあり、その全てを行うことは難しいだろう。だがその思想は安祥神皇が抱く思いと方向を同じくするという。
「ですが、お気をつけを」
そう、メイユは緊張しながら言葉を紡ぐ。
「西国の戦禍、今回の親征につながる元は、神皇家の動き‥‥裏切りゆえ、と私は耳にいたしました。ですから、倒すべき相手であっても、正すところは正していく政を」
西国の友の言葉を代弁し、そして女は続けて、家康の遺体の返還を嘆願した。
「残念だが、それは難しいことだ‥‥今ここに至ってはな」
謙信が嘆願に対し、神皇の気持ちを代弁して答える。
遺体を持つ伊達、北条はともにそれを渡す気はなく、市井の口さがない噂ではすでに焼き払われたとの報もある。それに、理由は如何にせよ、これまで争ってきた人物をただ再び甦らせるのでは、各諸侯が納得はすまい。
かつてのイザナミの事例と同じく、民が安寧に暮らすために家康一人の命で済めば安い‥‥それが、政というもの。
「東の守りが薄いというのであれば、市様が第六天魔王を討ち、朝廷の剣となることを決められた。故に解決しよう。西の戦は、私が毘沙門天の名において治めよう」
「‥‥お気をつけになったほうがよろしいと存じます」
本来は別にて話したかったが、並み居るものたちに確認を取る必要もあろう。陸堂はそうして、声を落として謙信に忠する。
「那須の伊舎那天、播磨の羅刹天。神仏とされるものが西洋にて言われる、人心惑わす悪魔でありました。さすれば十二神将や毘沙門天もかくもいわんや‥‥所詮、天使も悪魔も、己が目的のために人を操る点では、同類と存じます」
「聞いたような風に話すものだ」
守護神毘沙門天のことを持ち出された謙信に、一瞬動揺が走る。だがその気持ちが行動に移されるより早く、陸堂の忠告に突然声が投げかけられた。
しかしてその場を見れば、光り輝く仏が立ち、一同を睥睨していた。
「なぜ、ここに?」
「私が、お連れしたのだ」
そう告げるは信玄公。その瞳はまるで別人のようで、死病に侵されていたとの噂は嘘のように見える。
「第六天魔王を討てとの言葉、まさに神仏よりの告げ。さらに叡山での所業、彼の魔王が真に悪にして民人に仇なす存在であることは、明白。朝廷と主上にその言を伝えるべく、お取次ぎいたしました」
そう告げる信玄の言葉は‥‥それは畏敬からか、声にかすかな震えが混ざっていたせいであろうか‥‥どこか絵空事のようにその場のものには聞こえていた。
その様子を気にした風もなく、十二神将は厳かに口を開く。
「本来であれば、青の騎士‥‥シープに選ばれた戦士が、世界を害するもの、魔王の祖となる者を討ち果たしていたはずだった」
沖田総司を指すと思われる仏の言葉に、ゼルスとメイユは謙信を見るも、ゼルスの魔法を用いてもいまだわからぬ沖田の行方につながるような反応は、男はおくびにも出した風はない。
「だがこの地における魔王は、人の情により討ち果たされず。シープが今この地にあらずば、今この時、災禍を防ぐは統べるものの役目。それが、天の詔である」
「‥‥しかと御仏の言葉、承りました」
厳かな仏の言に、まるで計ったかのように同意する安祥神皇。
その姿は、人の世の先触れとしての決意なのだろうか。
「ねえ」
「なんだ」
「ジャパン風の宴会って、こんな感じなの?」
岐阜城の中庭にて、シオン・アークライト(eb0882)は居心地悪そうに、隣のクロウ・ブラックフェザー(ea2562)に尋ねかける。
「‥‥違う、と思うな」
その宴は粛々と静かに進行していた。料理は豪勢で味もよく、さすがは元は京都守護と感じさせる。庭の中央には能の舞台が設けられ、静かな宴のなか朗々と、その声を響かせていた。
だが宴にはつきものである喜ばしき声はない。
列席する家臣たちは物言わず、また挨拶伺いに来た諸侯の使いも、張り詰める空気に息を潜めている。
「‥‥どうやら、人質がいるらしいな」
宴の前に合った師匠からの連絡と、そして城内と家臣たちの様子に、クロウはあたりをつけ、そのまとめた内容を思い返す。
城内の状況は、抑えともいえる当主平織市のいない時節、市の名で和を成した事実もあり、不満を唱えるものはいなかった。だが主が魔の存在であるという噂とそれに伴う叡山焼き討ちのような非道の所業、そして突然虎長が使い出したレミエラを作り出すという人知を越える魔道の技に、不安を積もらせていない者はいない。
いつ、崩れるやも知れぬ。それが怒りの反抗か、恐怖の破滅かは、神のみぞ知る。
「あけましておめでとう‥‥だったっけかね?」
そんな沈黙を破ったのはネフィリム・フィルス(eb3503)である。女はざっくばらんに虎長の前に出ると、西洋風ではあるが典雅に礼をする。
「お主か。高遠のほうはどうか?」
「‥‥無事、変わりなく」
重々しく虎長が尋ねると、女は静かに答え、そして虎長より杯を受けた。
「さて虎長様‥‥辛気臭い宴はよくないね。一つ、あたしが誰かと腕比べでも披露しようかい?」
「それには、及ばん」
返答にネフィリムは肩をすくめ、返杯の後、虎長の前を辞すると、もともと自らに決められた席に戻る。
その戻るまでの間に、虎長はゆっくりと、時の流れが遅れるかのように酒を喉に流し込んでいた。
「‥‥余興は用意しておる。面白い、余興を、な」
「余興?」
クロウの疑念に虎長はゆっくりと立ち上がると、飲干した杯を叩きつける。乾いた割れ音が響くにあわせ、その場を睥睨した男の大音声が高らかに響き渡った。
「今こそ、天下布武のとき! 信義失いし乱れた乱世を一度崩し、そして全てを組み直す戦を始めるときなのだ」
その叫び声とともに、外からは突然、声が上がった。その声の元を見やればどこに潜んでいたのだろうか‥‥武装した兵卒たちが戦支度を整え、意気を上げているところだった。
「こいつぁ、どういうつもりさね」
「今、言ったままの通りだが?」
ネフィリムの凄みにも虎長‥‥いや、第六天魔王は解せず、獰猛な笑みを浮かべる。
「民のためにと、いつも囀る者たちがいる。同じく、義のため、理想のため、忠義を尽くすため‥‥まこと、この世にあるは数多くの正義と理想」
月明かりの元、庭の向こう、城の前に焚かれるは篝火。その明かりのせいではなく、虎長の体が妖しき光に包まれる。
「人によりて変わる正義は脆く、虹のように繰る繰る変わる夢、幻。その上に浮かぶ泡沫の平和という美名に、正しき道は曲げられる。‥‥ただ愚かなる民の一時の安らぎのために」
「愚かな民だなんて、そんなことはないわ‥‥!」
シオンはそう叫ぶものの、虎長より発せられる気に、瞬きの間とはいえ、気圧される。その気配に恐慌を成したか、同席していた侍が、腰を抜かしながら宴の席より逃げ出していくのが見えた。
「そんなうわべだけの平和など、お前たちもいらぬだろう! 全てのものを平らげ、紛いごとを潰し尽くす。全てを砕き、しかして千年の平和を築く。それこそが、この虎長の天下布武!」
「悪魔のくせに平和だと‥‥世迷い事かよ!」
クロウは叫ぶ。ここで戦うは多勢に無勢、得策ではないと判断し、警戒しつつ退路を探した。
だが虎長とその軍勢は、今この場で凶事に及ぶことはなかった。なにかに魅入られたように、あるいは何かを奪われたように、宴と同じく粛々と佇み下知を待ち、逃げ出すものを止めるようなことはない。
「さて、お前たちも去るがいい。このようなところで戦うつもりはない」
「‥‥なん、だと?」
思っても見なかった虎長の答えに一瞬、一同は面食らう。
「ここでお前たちを倒したとて、何の得もないわ。それよりは報せに走るがよい。市に、朝廷に、諸侯に、民たちに! 儂の軍を止められるというのであれば、止めてみよ、とな! 明日の日の出が、我が天下布武の開始の合図よ!」
「やな話だねえ。でも‥‥見逃してくれるって言うなら、ありがたくもらっとくよ!」
呵呵大笑する虎長の様子、そして佇む軍勢を尻目にネフィリムが叫び、一同はそれにしたがって城を出た。
「京都のほうは私が‥‥早く知らせないと!」
「俺も行く」
「こちらも、兵を整えないとねえ」
一度面識のある武田と伊達の諸将に申し送る内容を伝えながら、シオンとクロウは京都に、ネフィリムは高遠の城に向けて馬を走らせた。