波間の海賊
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■ショートシナリオ
担当:高石英務
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月15日〜03月20日
リプレイ公開日:2005年03月24日
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●オープニング
「諸君! いま京都は大変な危機に陥っている! このことには家康公も心底、心を痛めておられるのだ‥‥いまこそ我らの志を無駄にはせず‥‥」
「ああ、あれですか‥‥何でも、京都へ向かう有意の者たちを集めているんだそうです」
冒険者ギルドの一室で熱弁を振るう一人の武士。それを見ながら、冒険者ギルドの係のものはつぶやいた。
「あのお侍様‥‥何でも、清河八郎、って方らしいんですけどね。どうやら、京都の危機に、神皇様をお助けに参ろうと、そういう話らしいですよ?」
後ろで続いている檄の声を背負いながら、係は興味を持った一同に声をかけると、資料を手にその続きをまくしたてる。
「先年、家康様が京都より戻られたのは、ただ江戸の町を妖狐に襲われた、という理由だけじゃないらしくてね。風の噂じゃ、京都でも妖怪どもが大きな顔をしてるらしいんだよねえ」
そんな話を聞いている最中、清河の熱弁は一通り終わったようだった。改めて自分が人を集めていることを語り、一礼して去る武士に向けて、ギルドのものは愛想の拍手を送ったりしている。
「あっと、話がずれてましたね‥‥京都のほうも不穏で、新撰組や京都守護だけじゃ手が回らないってことだそうですね。そこで、江戸から力の余っている浪人者や冒険者を集めて、京都の警備にあたらせたり、あっちでできたばかりのギルドの仕事を任せてみようという話になったそうなんですよ」
そこまで告げると、係ににこりと微笑んで、依頼の内容を指差した。
「‥‥一旗揚げようという気があるのなら、この話に一枚噛んで、ぜひ上洛してみてはいかがですかね?」
「へえ、京都に向かうっていうのはあんたたちかい。いや、たのもしい」
波間に揺られる船の上、ヒゲ面の船長はじろじろと一同を見ると、豪快に笑った。
「いやいや、別に悪気はねえよ。ただ船に乗ってるんじゃ、その腕もさびついちまうだろうからよ、仕事でもお願いできねえかと思ってな」
笑いを止めてすまなそうに目を細めると、船長は一同を手招きし、やや声を潜めて話を語りだす。
「実は、この先の川近くにだな、出るんだよ‥‥海賊が」
そういうと船長は体を持ち上げて、海原の先をじっと見つめる。
「しかもただの海賊じゃねえ、河童の海賊だ。数は片手で数えられるくれぇだから、それほど頻繁に襲われるわけじゃないが、相手は船もなしでスーッと、近づいてきやがるんだ。夜とか、飯の時間とか、そうやって隙を見つけて近寄ると、偉そうな奴に銛を見せて、品を渡せと脅迫しやがるんだ。厄介でしょうがねえよ。
そんなわけで、あんたらにそいつらを追っ払ってもらいたいんだ。頼めるかい?」
●リプレイ本文
快晴の空のもと、ゆっくりと江戸の港を船が離れる。
揺れる甲板の上、荷の整理を申し出た鳴神破邪斗(eb0641)の目に、港の端にてこちらを見つめる巫女様の弥生と、合掌し静かに礼をする天を先頭とした、見送りのものたちの姿が映った。
その耳に響くは別れの声とは別の声。
「みんなー、京都に行きたいかーっ!」
息を吸い、白翼寺涼哉(ea9502)は周りを見回し、大きく声を張り上げる。
「おー!」
「魑魅魍魎は、恐くないかーっ!」
「‥‥おー」
気っ風のいい男の声に同調し、ザレス・フレーム(eb1488)が勢いよく手を挙げれば、柱の影、おずおずしながら、周麗華(ea9947)も手を挙げてみる。
「何が何でも、河童海賊追っ払うぞ!」
「しかし」
一同の盛り上がりに一休みと、破邪斗は荷を下ろしながらつぶやいた。
「川岸とはいえ、河童の海賊とは初耳だな」
「‥‥江戸の周りは治安がいいからじゃないか?」
気合いを入れ終わったとばかりに汗を拭い、涼哉は煙管を取り出し手先で回した。
「奴らは別に妖怪じゃない、河童が海賊やっても、おかしくはないだろ」
「‥‥まあ、連中の好き勝手にされるのも迷惑だな。きっちりと灸を据えてやることにしよう」
生欠伸とともに娘の忠告を思い出した巽源十郎(ea7139)の声に、破邪斗は肩をすくめ、仕事に戻った。
「しかし、京都はどのようになっているのでしょうね」
甲板の上に座りながら、桂照院花笛(ea7049)は潮風に髪を数本なびかせて、この先向かう街への思いを皆に告げた。
「私の知らない所‥‥いろんなモノ、見てみたい、ナ‥‥」
言葉にじっと海を見つつ桐生純(ea8793)が返すと、にこりと笑みを浮かべて花笛は目を伏せる。
「この国の中心、神仏と神皇様がいらっしゃいますところ。華道家としても興味は尽きませんね」
「しかし、この国に来てから聞くのは、きな臭い話ばかりだがな」
船室の屋根、高いところから生気のない声でウィルマ・ハートマン(ea8545)がつぶやいた。その後ろでは何も起きない海原に、退屈そうに生欠伸を噛み殺す巽と、仕入れた胡瓜で罠を仕掛けようと趣向を凝らす哉生孤丈(eb1067)。
「モンスターがうろちょろしてるから、俺たち冒険者が呼ばれるってわけだ。まだまだ狩り場には事欠かんってことか」
「‥‥」
「だからこそ」
物思う花笛に向けて、日頃の修練と構える型と演舞を中断して、汗をにじませたまま日下部早姫(eb1496)は告げた。
「私たちが赴かねばならないのでしょう。清河様のお言葉の通り、神皇様や源徳様のためにお力を使うことこそが武門の本懐。そうでなくとも、衆生に救いの手を差し伸べ守らねばなりません」
「そうですわね‥‥」
その言葉とともに女二人は向き合うと、やや冷たい陽気の中、軽く微笑みあった。
夜は危険もあってか、常より速度を落とし、岸を見つつ船は進んでいた。
その海原の面に、白く泡立つ波が一つ、二つ。
「よし‥‥」
じろりと目だけを水面に、皿の下より声が響かせると、緑色のものが縄を取り出し、ひょうと投げた。そして数度引き、引っかかったことを確認すると、影は船壁を登り、灯りの影へと滑り込む。
「気ぃついとらんようやな」
登って来る仲間に大柄な河童はつぶやくと、灯りを避けて、慎重に進んだ。
「ン?」
最後尾の河童が通り過ぎる直前、脇に置かれたざると、その上の緑の物体に気がつく。河童はふんふんと鼻を鳴らして近づくと、前の仲間の様子を確かめながら、胡瓜を取り上げた。
「こんなところに胡瓜だなんて、ついとるなあ」
そうして音を立ててかじる河童の後ろに、何かを振り上げる人影一つ。
「ン?」
振り返った瞬間、峰打ちで振り下ろされた日本刀の重さに、河童が目から火花を飛ばしてよろめくと、その隙、孤丈は銛を蹴り飛ばして河童に切っ先を突きつける。
「命までは取るつもりはないねい‥‥おとなしくしなよ」
男は軽く肩を鳴らすと、固まる河童を見据えて縄を取り出しながら、上の方へと合図した。
「見つかった?」
船上に響く笛の音。その音に、河童たちは慌て始める。
「早いとこ荷か、偉そうな奴でも‥‥」
「かかったな、アホが!」
指示の檄を飛ばす河童の足元に、かけ声とともに一矢が突き立つ。
「じっくりかわいがってやる‥‥泣いたり笑ったり出来なくしてやるよ」
「と、始まったようだな」
高いところから狙って矢をつがえて放つウィルマの姿に、涼哉は船酔い治療の手を止めると、錫杖を構えて、花笛と下がった。
「皆様、下がってください、危ないですから!」
「ここは俺たちに任せな‥‥来るなら来やがれってんだ!」
声を上げて他の乗客を下がらせる花笛の周り、護衛するようにザレスは剣を抜き、ウィルマの矢が放たれる方向を見つめた。
囲まれると見てとったか、河童の一人が銛を構え、人質を取ろうと突っかかる。それにあわせるよう、オーラの魔力にて力を高めた周が走り込む。
「な、なんだおみゃあ、っはっ!?」
「‥‥沈め」
その勢いに目を眩ませた河童に、拳と裏拳、そして素早さを殺さぬままの蹴りが、流れるように叩き込まれると、蛙のような声を上げて河童は二三度転がった。
甲板を音を立てながら転がってくる仲間を蹴止めると、大柄な河童は嘴を鳴らして睨みつける。
「なにしとんだおみゃあら! 早く人質でもとらせんか!」
そうして親玉は銛をぐるぐると振り回しながら仲間を焚きつけると、積み荷の側へと駆け寄った。
その瞬間、布に包まれた包みが動くと、裏から手裏剣が投げつけられる。
「ぎゃわ!」
「おとなしく、して‥‥」
毛布に隠れ荷に潜んでいた桐生の、頬を掠める一撃に血を滴らせると、親玉は慌てふためいて、振り返りわめく。
「お、おみゃあら、さっさと人質でも‥‥」
「残念だがな」
「‥‥げ」
逃げる河童の目の前には、水を滴らせる海綿を右手に、左手に縄とそれで縛った河童どもを揃え、立ちふさがる破邪斗が一人。
「もう、お前だけだぞ」
「たあけ、そう簡単に捕まらすかよっ!」
「‥‥逃げねえってんなら卸すぞ!」
銛を構えて突進する河童を見て、巽が気合いの大声とともにその刃を振るう。振り払われた一閃は銛を寸分なく捕らえると、一気にへし折った。
「もう、得物もないだろうがよ」
「‥‥おめさん、どきゃあ!」
睨みつける男に向かい、河童は大きくその腕を伸ばし、帯を取ろうとする。
だがその瞬間、伸ばされた腕を逆に取り、日下部は勢いのまま甲板に向けて河童を叩きつけた。
「えぇいっ!」
「ぎゃわっ!?」
「‥‥これで、悪さをする気も失せたでしょう?」
目を回した河童には、それ以上冒険者の声は聞こえていないようだった。
河童の海賊たちの襲撃よりさらに幾日か。木曽川を上り、一時山間を陸路にて抜けた一行は、そのまま琵琶湖の水面を下っていた。
「結局、誓約書はならなかったか」
「まあ、しょうがないでしょう‥‥文字が書けないのですから」
襲った海賊河童たちを縛り上げ、二度とこのようなことを行わないとの誓約書を書かせようとしていた破邪斗であったが、庶民の例に漏れず、河童たちの読み書きはままならなかった。仕方なく地元の役人に捕らえた河童どもを突き出して、一行は京都への旅を続けている。
「‥‥貧しさゆえに、河賊となっていたようだが」
「河童膏も、秘伝ということでしたから」
「‥‥ま、あの様子じゃ期待する方じゃないよな」
下品な‥‥もとい教養のない河童たちの騒ぎ立て、がなり立てを思い出しながら、花笛と涼哉は外れた当てに静かに肩をすくめる。
「‥‥お、何か見えてきたぜ。あれが京都かよ?」
「まだ、早い‥‥よ」
河の関とも言うべき建物を見てザレスが身を乗り出すと、桐生は静かにそれを訂正した。だがそれには構わず、少年は大きく喜びを張り上げる。
「きっと、京都にも強い奴がいるんだろうなあ‥‥わくわくしてきたぜ」
「へ、さて、鬼が出るか蛇が出るか。精々、楽しませて貰おうじゃないか」
ザレスの希望にも似た叫びに、ウィルマも自らの想像を巡らせて、冷たく微笑んだ。
「‥‥京都、か‥‥どうなってるんだろうな」
「さあ。でも、とりあえずの旅の終わりだ。あとはそれぞれってこと。楽しみだねぃ‥‥おっといけねぇ」
「あとは、それぞれの思いのままに、目的のままに‥‥そうですわね?」
「だな」
周の物思いに孤丈が口調を直しながら答えると、日下部と巽は彼らを見つめて、静かにうなずいた。
そしてこれから起こることも知らず、船はゆっくりと、京の都へと向かっていった‥‥。