【ローガンとモニカ】二人からの依頼
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:たかおかとしや
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月19日〜08月23日
リプレイ公開日:2008年08月28日
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●オープニング
背の高い剣士風の男と、軽いローブを羽織ったハーフエルフの女。
二人の男女がギルドの入り口の扉を開けた時、受付嬢はすぐに気がついた。
懐かしい顔だ。
「あら、お久しぶり。ローガン、モニカ。二人とも、冒険者は辞めたんじゃなかったの?」
「やあ。あんたの顔を見るのも久しぶりだな。心配しなくても、これで随分真面目にやってるよ。今回は一つ、古巣にお願い事があって来たんだ」
手を振る受付嬢に、笑顔で男が片手で応える。
男の傍らで、女もにっこり笑って頭を下げた。
「あらあら、お二人の中も順調なようね。いいわ、どんな依頼? 話を聞かせて貰えるかしら」
●
ローガンとモニカは、共にキエフ出身の「元」冒険者だ。
危険を承知で遺跡に潜り、死と隣り合わせで剣を振るう活劇の日々も今は昔。
爽やか好男子のローガンと、可憐なモニカ。共に冒険者の美男美女同士は相思相愛、アレよという間に結婚して共にすっぱり堅気になったその当時は、勝ち組だ裏切り者だ抜け忍だと、ギルド中から贈られたやっかみだらけの祝福を一身に浴びたものだった。
「実はね、最近オーガ達が増えてきているみたいなんだ」
「‥‥と言うと、貴方たちの村で?」
「そう。ゴブリンの一体や二体なら、昔取った何とやら。俺とモニカでどうとでも追い払えるんだが、どうもそれだけでは済まない気配なんだよ。いい加減、ロートル二人の自警団じゃ限界があるしね?」
「それで、ローガンと二人、事態が悪くなる前に皆さんのお力を借りて、村の近くに潜むオーガ達を退治してしまおうと決めたんです」
ローガンの言葉の後を継いで、モニカが続ける。まさか打ち合わせをしてきたわけでもあるまいに、言葉を繋ぐタイミングまでぴったりだ。ロートルどころか、二人の仲の良さは新婚当時のままらしい。仲睦まじい二人の姿は、当時、やっかみだらけの祝福を贈った者の一人としては、全くどうにも目に毒だ。湧き上がる不埒な思いを無理矢理押し込めて、受付嬢は依頼書の書式を整えていく。
オーガの種族別の内訳、予想される数、危険性の度合い、生息場所と覚しき場所とその地図。
流石に元冒険者だけあって、二人の報告には淀みがない。依頼書を作る上での細かな質問にも、ローガンとモニカは交互に判りやすく答えてくれる。おかげで、いつもよりも随分と丁寧に書いたつもりだが、それでも依頼書が出来上がるまでに一時間とかからなかった。
「随分細かく調べてくれているのね。助かるわ、依頼を受けるみんなも喜ぶと思う」
「‥‥いや、本来は俺達だけで片付けるはずだった問題なんだしね。二年も前にギルドを抜けた俺達が、今更お金で依頼を頼みにくるってだけでも随分と図々しい話さ。この程度の下調べは当たり前だよ」
ローガンが笑う。
ああ、そうか。もう二年も前の話なんだと、受付嬢はこの時初めて気がついた。
―――二人は本当に当時のままだ。
依頼書を確認し、そのまま席を立とうとする二人に、受付嬢は慌てて声を掛ける。
「あら、もう帰るの? もう少しゆっくりしていけばいいのに‥‥」
「悪いね。村の様子が気になるし、何より、生まれたばかりの娘を、隣家の小母さんに預けたままなんだ。可愛いぞ! あの娘が家で泣いてるかと思うと、ここでとてもゆっくりなんてしてられなくて」
「本当にすいません。依頼の片がつけば、またローガンと二人でお礼に来ます。冒険者の皆さんには宜しく伝えておいて下さい。それでは‥‥」
二人は頭を下げ、腕を組んで外に向かう。
その、二人の軽い足取りまで当時のままだというのに。
「‥‥そっか、ローガンとモニカ、子供が出来たんだ。本当に二年も経ったんだね‥‥‥‥おめでとう‥‥!」
『依頼内容:オーガ退治』
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●依頼目標
・オーガ達を追い払うこと。出来る限り、退治してしまうことが望ましい
●二人の住む開拓村
・キエフから徒歩一日の距離にある、森に囲まれた小さな開拓村です
・依頼時に自警団と言っていますが、実際はローガンとモニカが二人で自主的に立ち上げただけのものです
●ローガンとモニカ
・二人はともに冒険全般、戦闘まで参加するつもりでいます
・ローガンは専門クラスのファイター、モニカは専門クラスの水のウィザードです。ともにレベル4〜5相当
・ローガンは+1相当の魔剣を持っています。身軽な軽戦士タイプ
・モニカはミストフィールド、ウォーターボム、レジストファイヤーの魔法を使えます
・何か作戦がある場合は、伝えて貰えれば基本的に二人はそれに従います。その他、協力は惜しみません
●オーガ達について
・開拓村から徒歩一時間ほどの地点にある、森の中の洞窟に潜んでいるそうです
・ゴブリン、ホブゴブリンが主体ですが、オーガの姿も目撃されています
・意外に、武装度は高いです。重鎧らしき物を着込んでいるオーガも目撃されています
・オーガ達は、日中は森の中全域に散って餌を集めているようです(たまに村の近くにまでやってきます)。夜は、洞窟の中にいる可能性が高いです
・洞窟は二、三小部屋があるだけで、ほぼ真っ直ぐの一本道です。小さな丘をトンネル上に貫いており、出入り口は両端に二つあります
●リプレイ本文
『ようこそ、ロジャンカ村へ!』
立てて程ない真新しい標識。板に刻まれた歓迎の文字が目についた。
ここはキエフから徒歩一日。
ドニエプル川から支流に入り、沼沢地の脇を抜けた森の近くにその村はある。
近年、ようやく開拓が本格化し、住民の多くがまだ居住して数年という若く、小さな開拓村。それ故に森に潜む怪物、オーガ達との抗争も絶えないその村の名前は、ロジャンカ村と言った。
「いや、来てくれてありがとう! 報酬の額も多くはないし、もしかしたら受けてくれないものかと内心諦めかけていたんだ。君がこのパーティーのリーダーかい?」
ここはロジャンカ村の、ローガン&モニカ夫妻の自宅である。
依頼を受け、村を訪れた冒険者達はここで夫妻の歓迎を受けた。ローガンが笑顔でヴィタリー・チャイカ(ec5023)に握手を求めると、しかし、ヴィタリーは慌ててぶんぶんと頭を振る。
「いやいや、リーダーなんてとんでもない! 俺なんかこのメンバーじゃ一番のペーペーだよ。そう言う挨拶は後ろの方から先にやってくれ!」
「え? と言うことは‥‥」
差し出したまま浮いた手を所在なさげに、ローガンがヴィタリーの背後を覗き見る。
「まあ、ボクらが来たからにはもう安心していいよ」
豪華なトルクを被った金髪の女性、楠木麻(ea8087)。
「そうそう。俺達、こう見えてもベテランなんだぜ?」
魔剣を携えた剣士、シュテルケ・フェストゥング(eb4341)。
「とりあえず、お腹減ったー!」
陸奥流の達人、奥羽晶(eb7699)。
そこに居並ぶ三名の冒険者たち。彼らは皆そうそうたる実力者揃いであり、特に楠木などは世界に冠たる練達の志士でもある。本来なら、今回のようなオーガ退治では勿体ない程の腕利きなのだ。
‥‥そのはずなのだが。
「こ、これは皆さん、改めまして! ローガンです。今回はどうぞ、宜しく‥‥!」
ローガンは慌てて、ヴィタリーの背後の三名と腰を屈めて握手を交わした。
―――見えなかったのである。
三人が、みんなちっこくて。
身長178センチのヴィタリーに比べ、他の三名は頭一つ、二つ低い。体重に至っては30キロ前後から40キロ。パラの奥羽が混じっていることを差し引いて考えても、随分と小柄な一団であった。
笑顔で握手をするローガンも、まるっきり子供に見える面々には不安を隠せない。
(‥‥しょうがない、いざとなったら、俺とモニカの二人で頑張るか)
そんな彼の覚悟完了な心情を知ってか知らずか、楠木はそうそう、とぽんと手を打ち、ローガンの顔を見上げて宣った。
「そうだ。驚かせちゃいけないしね。御主人には先に、ボクのペットの紹介もしておこう。伐折羅、真達羅! 御挨拶して!」
「ぺット?」
そんな、ローガンの疑念の言葉も終わらぬ内に―――
‥‥ズシンッ‥‥!
突風と低い地鳴り。
窓から入っていた陽の光がさっと陰る。
楠木の言葉に応えて、何かが家のすぐ外に舞い降りたのだ。
「きゃ‥‥! 見て、ローガン、外‥‥」
お客用に、お茶の準備をしていたモニカが、お盆を抱えたまま慌てて部屋に飛び込んでくる。
急いで家を飛び出したローガンは、家の前に立つその『ペット』達を目にした。
驚いた。
逞しいグリフォンと、巨大な翼を持つスモール・ホルスが、頭上から覗き込むようにして、表に出たローガンを見下ろしている。彼が現役時代でもおいそれとは出会せなかった代物だ。
「グリフォンの伐折羅に、スモール・ホルスの真達羅だ。宜しく頼むね、御主人!」
ローガンの背後から発せられた楠木の声に、一頭と一羽のペットは揃って頭を下げる。
「―――ああ、宜しく頼むよ、君達」
ローガンは冷や汗を垂らし、お盆を抱えたまま外に出てきたモニカも目を丸くする。村の住民達も、何事かと顔を出しては一様に驚きの表情を浮かべた。しばらく現役を離れていた間に、冒険者達の世界も大きく変わったらしい。まだまだやれると思っていたローガンも、時代が移り変わったことを痛感する。
どうやら二人の依頼は、どえらい相手が引き受けたことには間違いないようだった。
●
さて、深夜である。
実際にオーガ退治を行う時間については、冒険者達は相談の結果、オーガ達が巣に戻ると言う夜半以降を。その上で暗闇の障害のない明け方にと決めていた。オーガの巣は村からやや離れた位置にあるので、村を出る頃はまだ暗い。ローガン、モニカ夫妻を含む冒険者一行総勢六名は、ランタンの明かりを頼りに、深夜、静まりかえったロジャンカ村を出発する。
「うーん、腕が鳴るな♪」
奥羽は組み合わせた指をポキポキと鳴らす。武器無し防具無し。彼女はパラの、そして女性には珍しい、素手での技に秀でる陸奥流を修めた、バリバリの武闘派である。
「だよなー♪ 俺も結構冒険者やってて長いけど、ゴブリン退治とか、実は初めてなんだよ。初体験、頑張るぜ!」
隊列先頭の前衛組は、暗い夜道でも意気軒昂。道中の道に関しては、ローガンが熟知しているので迷う心配もない。昼寝の御陰で目も冴えて、なんだか、そのまま歌でも歌い出しそうな案配だ。
「そうだ、忘れてた」
と、歌の代わりに、シュテルケは横を歩くローガンに問いかける。
「ローガンさんって、スマッシュとかシュライクとか、がつーんといく技もってる? 俺、そういうのないから重装備な相手は苦手なんだ。もしもの時は、ローガンさん、期待していい?」
確かに、シュテルケは威力を増強させる剣技には疎い。
ローガンは胸を叩いて請け負う。
「スマッシュなら使えるよ。君ほどじゃないが、まあオーガ相手に引けを取るつもりはない。その辺りは期待してくれていいよ」
「重装備かぁ。俺も、その手の奴らにはスタンアタックが効かないからなぁ。まあ、その場合はえいや! とスープレックスで‥‥」
えいや、の辺りで奥羽はむんずとローガンの襟を鷲掴み。
倍以上の体重差のあるローガンの足が、それだけでもたたらを踏んだ。
「期待しているよ、晶さん。‥‥ところで、技を試すのはオーガに出会ってからにして欲しいんだが‥‥」
「なんだ、つまらない」
●
一方こちらは、後ろを歩く後衛組。
徒歩で進むヴィタリーにモニカ。その後を付いて歩く、グリフォンに騎乗した楠木。スモール・ホルスは森を歩くのも具合が悪いので、現在は上空を飛行中だ。
「いやぁ、可愛いですね、お嬢さんは。ティルラちゃんでしたっけ? あの子は将来きっと美人になりますよ!」
「うん、確かにね。きっとボクに似た、目の覚めるような金髪美人になるよ」
夜道、オーガの巣に向かう道中の会話にしては、これまた随分牧歌的な内容と言えよう。
ティルラとは、まだ一歳にもならない、ローガンとモニカの間に生まれた女の子である。
ヴィタリーなどは、彼女の小さな手に指を『にぎにぎ』されて以来すっかり骨抜きで、思わずティルラに北風のマントをプレゼントして、それを気に入ったらしい彼女がきゃっきゃと笑ってるのを見て、再び骨抜きにされるという、無限ループな体たらくっぷりを晒している。
「‥‥すいません、あのマント、ティルラがすっかり気に入っちゃったみたいで。あっという間に涎でべとべとにしちゃってて‥‥、結構お高いのでしょう?」
「いやあ、大したことありませんよ! ティルラちゃんが喜んで貰えれば、それで結構」
ランタンを手にしながら、ここに来た目的を若干見失っている様子のヴィタリー。
ちなみに、北風のマントは魔力を秘めて温かい、中々に結構な貴重品である。
「まったく、末恐ろしい子だね、ティルラちゃんは。将来は大変な男殺しになるな。ホント、ボクの子供の頃にそっくりだ」
ヴィタリーの様子に、グリフォンに跨りながら楠木は腕組みをしつつ深く頷く。
そんな楠木に、モニカは恐る恐る。
「‥‥あの、先ほどから勘違いされているようですが、楠木さん? ティルラは女の子ですよ?」
何かが砕ける効果音。
(―――楠木『女史』が気を落ち着かせるまで、しばらくお待ち下さい)
「‥‥そうだ、幼児体型が原因なんじゃないぞ。ロシア人には東洋人の区別がつかないせいなんだ。落ち着け、楠木麻。黄金聖志士はこれくらいで動揺したりはしない‥‥」
グリフォンの上で、ぎゅっと掌を握りしめる楠木に、モニカは困惑。
「あのヴィタリーさん? 私、何か良くないことを言ったでしょうか‥‥?」
「‥‥後で説明しますから、モニカさん、今は触れない方が‥‥」
●
とまあ、何だかんだで一時間程。
一行は、丁度東の空が白み始めてきた時分に、オーガ達の棲んでいるという洞窟に辿り着くことが出来た。
この後の作戦は大筋では簡単だ。目前に口を開けている、トンネル状の洞窟の一方の入り口から進入、内部のオーガ達を倒しながら先に進めば、出口に辿り着く頃にはオーガの大半はいなくなっているだろうという、判りやすい筋書きである。
「‥‥どうやら見張りが立っているな」
「中にも、まだ三匹いるみたいだ」
近くの森の中から一行は洞窟の周囲を確認する。
洞窟の入り口には、歩哨のつもりか、二匹のゴブリンが互いに何事かを話しながら突っ立っている。ヴィタリーのデティクトライフフォースにも、洞窟のすぐ内部に何匹かのゴブリンがいることが感じられた。
「どうしよう。俺が行こうか?」
剣を抜き、シュテルケが他のメンバーに問いかける。
「ふっふっふっ。相手が外にいるのなら、ここはボクに任せて欲しいな。レミエラパワーで、ボクの呪文の射程は10メートルの扇形だ。洞窟にも影響しないし、始まりの合図には丁度いいだろう」
「んじゃ、そう言うことで‥‥!」
シュテルケが頷き、皆も楠木の意見に同意する。
木陰で、楠木がグラビティーキャノンの詠唱を始める。同時に、楠木の前面に浮かぶ五つのレミエラ光点。体にフルに装着されたレミエラの輝きは、昇り始めた朝日にも負けぬ程の輝きを放つ。
歩哨に立っていたゴブリン達が、森の中で光る怪しい輝きを目に留めた瞬間、黒い魔力の帯が足下からゴブリン達を襲う。
「食らえゴブリン! グラビティーキャノンだ!!」
楠木の気合い一閃!
重力の変動がゴブリンの体を地に叩き伏せ、衝撃音とゴブリンの叫び声が、森と洞窟に木霊する。同時に、森から飛び出し、洞窟に向けて走り出す冒険者達。
「さ! 俺が一番槍だ! みんなついてこい!」
先頭を駆ける奥羽は、仲間の叫び声に驚いて洞窟から顔を出した別のゴブリンに、素早くスタンアタック。首筋を打たれたゴブリンは、まるで人形の様に膝から地面に崩れ落ちる。
「それじゃ、俺は二番槍!」
続いて洞窟に飛び込むシュテルケ。
勢いよく飛び込んできた二人に、内部から出てきたホブゴブリンが立ちはだかって剣を抜く。ミドルシールドを構えた、なかなか立派な体格をした敵である。小柄な奥羽とシュテルケに対して、その体重差は三倍近く。上から見下す態度だ。
しかし、勿論二人は恐れない。
『偉そうにするな!!』
声をハモらせ、二人の連撃。
哀れなホブゴブリンは、たった十秒で宙を舞う―――
●
冒険者達の進撃は、当初の勢いのままに洞窟内を蹂躙していった。
シュテルケ、奥羽、ローガンの三名が斬り込み、ヴィタリーとモニカが後方から呪文で援護する。
(シュテルケ「あれ? 楠木さんは?」 楠木「伐折羅達は洞窟の外だし、ボクの呪文は狭い場所には向いていないんだ。‥‥決してさぼってるわけじゃないぞ!」)
洞窟内部のゴブリン達の割合は、ホブゴブリンが三分に、ゴブリン七分。意外に装備がよいのが取り柄だが、そんなささやかな利点も、冒険者達の実力の前には霞んで見える。途中の部屋で冒険者達を待構えていた首領格のオーガの一匹が、手下ごとシュテルケのソードボンバーに吹き飛ばされた時点で、全体としての決着は着いたと言っていい。
『ゼッ、ゼッ! 何だ、あの人間共ハ!? あんなのが居るなんて聞いてねーゾ! 畜生!』
太い金棒を握った首領格のオーガが、洞窟の反対側の出口へ何とか逃げ延びようと息を切らす。
赤褐色の肉体をヘビーアーマーに包んだ腕自慢だが、自分と同じ装備をした副首領があっさりと冒険者達に敗北したのを見て、抵抗しようなどと言う気持ちは綺麗に吹き飛んだ。足手まといの部下を蹴散らし、追ってくる冒険者達とは反対側の出口へと一目散にひた走る。
『折角預かった部下も、拠点もこれで綺麗さっぱりおじゃんダ、畜生!! 覚えてろよ、チビ介共メ! 次に会った時がお前達の最期‥‥‥‥ウォッ?!』
‥‥残念ながらオーガには、そのひどく負け犬らしい遠吠えを、最後まで続ける事はできなかった。
洞内から、なんとか明るい屋外に足を踏み出した途端、待構えていたように、巨大な怪鳥と奇怪な魔獣が上空からオーガを狙って舞い降りる。二メートルを超すオーガといえども位負けをするような怪物達が、上空から容赦なく爪牙の雨を浴びせ掛けた。
ぶんぶんと滅茶苦茶滅法に金棒を振り回すが、当たらず、また当たってもまるでダメージを与えられた様子もない。流血するオーガの頭上で、怪鳥が、洞内に向けて鋭く一声鳴きかける。それに応えるかのように、軽い足音が洞窟から響いてくるのを耳にして、オーガは慄然と背後を振り返った。
「伐折羅、真達羅! 足止めご苦労さん! 最後の締めはボクに任せて!」
洞窟から走り出た楠木の声に、彼女のペットたちは素早く散開をする。
楠木の撃ち出したグラビティーキャノンの魔法が、オーガを大地に叩きのめす。その後を追うようにしてオーガに殺到する、ソニックブームにブラックホーリー、ウォーターボムの三連撃。
森と洞窟に響く断末魔。
―――この日、最後の戦闘はこうして終結したのであった。
●
無事にオーガ達を殆ど掃討し終え、村中からの歓待を受けた更に翌日。
冒険者達はローガン夫妻をはじめ、ロジャンカ村中からの見送りを受けつつ、キエフへ向かう帰路についた。
「あー、ヴィタリー、何かいい物貰ってる! 俺にも頂戴!」
歩きながらしげしげと指輪を見つめているヴィタリーの背中に、目敏いシュテルケがかじり付く。
「ダ、ダメだぞ! これはティルラちゃんに上げたマントの代わりにって、依頼とは別に貰ったんだから!」
必死に貰った指輪を庇うヴィタリーの様子を見ながら、楠木は腕組みをしつつ深く頷く。
「全く、一歳にもならない内から男をプレゼントで虜にするとは! ホント、どこまでも小さな頃のボクにそっくりだよ」
―――その言葉に、歩きながら保存食を囓っていた奥羽が顔を上げた。
「ん? 楠木は知らないのか? あの子、女の子だぞ? あんたに似てるわけ無いじゃないか」
再び、何かが砕ける音。