【アニマル】大小ネズミ退治

■ショートシナリオ&プロモート


担当:たかおかとしや

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2008年06月08日

●オープニング

 んぎぃ〜〜  ガッタンコ
 んぎぃ〜〜  ガッタンコ

 村の外れの小高い丘。
 森を背負ったこの丘のてっぺんに、ぽつりと風車小屋が建っている。
 板切れを大雑把に貼り付けただけの六枚羽根と、気の抜けた音がトレードマーク。
 いい加減おんぼろを通り越したロートルだが、それでも村の唯一の粉挽き風車として、長年村人達から大事に扱われてきた働き者だ。
 ――その風車小屋が問題だった。

 丘の麓から、回る風車を見上げる村人が二人。
 額を寄せ合って溜息をつく。
「どうする‥‥。このままじゃ誰も小屋に入れんぞ」
「全く、忌々しいネズミどもめ!」
「小さい奴だけならともかく、あんなデカいネズミまでいるとなると、ちょっと手が出んわい」
「まさか、ライ麦をそのままかじるわけにもいかんしな‥‥」

 丘の風車小屋にいつの間にか住み着いたネズミたち。
 小さなネズミから、1mを越す大きなジャイアントラットまで。一週間前、運の悪い村人がジャイアントラットの歯形だらけになって小屋から丘を転がり落ちたその日から、村人達の誰もが風車小屋に近寄ることさえ出来なくなっていた。
 粉が挽けなければパンも焼けない。
 製粉できないという、たったそれだけのことが小さな村には大打撃だ。

「‥‥そうだ! こう言うときこそ、専門家に頼めばいい!」
 いい事を思いついたと、村人の片方がぽんと手を叩く。
 隣の村人も顔を上げた。
「ほう、専門家? そんな便利な奴らがおるもんか?」
「いるいる。うってつけだ。こうしちゃおれん、ほら、早速キエフまで人をやろう」
「まあまあ、おちつけ。村長に聞いてからでも遅くはない‥‥
 ‥‥って、こら!待てってば!おーい!」



 気の早い村人が丘の麓を駆けだしてから、ちょうど二日後。
 キエフの冒険者ギルドの受付嬢は、掲示板に新たな依頼書を貼りだした。

 『依頼内容:大小のネズミ退治(含むジャイアント種)』

●今回の参加者

 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec4728 アナマリア・パッドラック(26歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

 んぎぃ〜〜  ガッタンコ
 んぎぃ〜〜  ガッタンコ

 丘を抜ける風が、おんぼろ風車をゆっくり回す。
 風車小屋が人の手を離れて早十日。挽く麦もないままに回り続ける、六枚の羽根。
 ―――キエフで依頼を受けた、翌日の正午過ぎ。
 冒険者達は丘の中腹から、回る風車を見上げていた。

「これか、ネズミに占領された風車小屋ってのは‥‥」
 ヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)が、風車小屋を見上げて呟く。
 風の音に、羽根の軋む鈍い音。
 近くで見ると、成る程。話通りのロートルだ。
「なんだ、随分おんぼろだな。しょうがない。これでは、ファイヤーボムを撃てば小屋ごと吹っ飛ぶぞ?」
 ヴィクトールの抱いた感想を、隣に立つクリスティン・バルツァー(eb7780)がより素直な形で表明する。
 腕組みをしたまま、ラビットバンドのうさ耳を風に揺らす彼女の姿は、特に理由はないが、偉そうだ。
「ダ、ダメですよ、吹き飛ばしちゃ‥‥! ちゃんと依頼書にも『風車は壊さないように』って‥‥」
 アナマリア・パッドラック(ec4728)が、クリスティンの物騒な物言いに慌ててクギを刺した。
「ああ、判っている。今回の私は援護役だ。男共にはその分、倍増しで働いて貰うとしよう」
「‥‥男共って‥‥」
 顔を見合わせる、ヴィタリー・チャイカ(ec5023)とヴィクトール。
 今回、男は彼ら二人だけだ。
「なあ、ヴィクトール。いつの間にそんな話になったんだ?」
「ヴィタリー。初陣のお前は知らんだろうが、冒険者ならこういう扱いには早めに慣れといた方がいいぞ」
「え゛、そうなんだ‥‥」
 初冒険早々、ちょっと、冒険者に対する夢が陰ったヴィタリーであった。




 一通り周囲の様子を確認した一行は、早速次の行動を開始する。
 まずは現状把握が最優先。こっそり風車小屋に近づいて、呪文と直接視認によって内部の様子を偵察しようという作戦だ。小屋に赴くのは作戦の提案者であるヴィクトールと、生命探査の術を使うヴィタリー二人の男性陣。女性陣の二人は、少し離れたところから男達の様子を見守っている。
「お二人とも、頑張ってください!」
「さあ、いくがよい」
 気のせいか、美女二人の声援が嬉しくない男性陣。
 ―――何はともあれ、ヴィタリーとヴィクトールの二人は、足音を忍ばせて風車小屋に近づいていく。

 小屋の壁際まで来たヴィタリーは、早速デティクトライフフォース。黒い光がヴィタリーを覆い、意識に周囲の生物を光点で表したマップが展開される。ヴィクトールはその間に、穴の空いた鎧戸から中をこっそり覗き見。
「ひーふーみーよー。デカイのが一階に三匹、二階に一匹、‥‥普通のネズミは数えきれねーな」
「こっちも見えた。いるいる、犬よりデカイ。小さいのも隅っこにチョロチョロしてるな」
 ヴィタリーの術の結果を、ヴィクトールが目で確認する。夜闇の指輪に増幅された視覚なら、内部の薄暗さもさして障害にはならない。目に映るのは、穀物貯蔵用の樽や壺が転がる狭い部屋。そのどれもがネズミ達のランチボックスと化しているようで、特に二階の臼で挽かれた穀物を受ける大きな樽には、ジャイアントラットが三匹、頭から潜り込んで中身を貪っていた。
 部屋の端には、二階へ続く狭い階段も見える。
「後は二階か‥‥。出来ればもう一匹の方の様子も確かめたいところだが‥‥」
 ヴィクトールは二階の窓を仰ぎ見る。
 鎧戸の位置はそれなりに高いが、幸い、凹凸の多い古ぼけた壁だ。手がかり、足がかりには事欠かない。多少の技術があれば、二階の窓に張り付くのはそう難しいことではなさそうだ。
「ヴィクトール、あの桶が台に使えるんじゃないか?」
 ヴィタリーの指の差す先には、小屋の備品らしい、古ぼけた木桶が転がっている。
「こりゃまたおあつらえ向きだな。‥‥いけそうだ」




「―――で、あの男共は何をやってるのだ?」
「多分、壁を登って、二階の窓から中を覗くつもりじゃないかと思いますけど‥‥」
 少し離れたところで見守る女性陣の前で、木桶を台代わりに、ヴィクトールが風車小屋の壁をよじ登っている。それほどの苦労もないようで、見る間にヴィクトールは二階の窓枠に手を掛けた。
「ふむ。それでは、こちらからも少し中の様子を見るとするか」
 クリスティンがインフラビジョンを発動させ、視界を赤外線視覚へ切り替える。
 視野を埋める、赤と青、それら中間色の色の洪水。壁越しでははっきりとした熱源の探知は難しいが、それでも体温の高いネズミの姿が、淡い、赤いうねりとなって小屋に蠢いているのが探知できた。
「ふむ?」
 視界を二階に向ける。
 回る、暗い青色の六枚羽根と、壁にぶら下がる赤い人型。
 その人型のすぐ上に、ぼんやりとした、犬ほどの赤い塊が見えた。
 窓枠向かう赤い人型に、その塊はゆっくりと近づいていき、そして――――――
「ヴィー! 上だ! 中から一匹狙っているぞ!」

 ヴィクトールが鎧戸の穴から中を覗いた瞬間。
 背後から響くクリスティンの警告と同時に、小屋の内部から顔を突き出した一匹のジャイアントラットがヴィクトールの顔面めがけて牙を突き立てる。
「チュギィィィ――ッ!!」
「うわぉっ! おい、待て待て、近いって、ちょっと待てったら!」
 ヴィクトールは慌てて頭を後ろに逸らし、牙を避ける。
 何せ、今覗いていた穴から、ジャイアントラットが逆に顔を出したのだから堪らない。牙を鳴らし、遮二無二穴から顔を突き出してくるジャイアントラットと、ヴィクトールは今にもキスせんばかりの体勢だ。
「ヂュウッ! チュウ、チュチュウゥゥゥ――――――!」
「ちゅうって、お前、近いって! 頼むからちゅうは止めてくれ!」
 必死に顔を背けるヴィクトールと、必死に『チュウ』と迫るジャイアントラット。見方によってはなかなかに愉快な情景だが、もちろん当人達はこれ以上ないくらい必死なのだ。
 人とネズミの攻防は、しかし、実際にはほんの数秒間のこと。

 ズリッ
「あ゛」

 暴れた拍子に、壁に掛けていたブーツの裏がずるりと滑る。
 刹那の浮遊感と、その後に続いた、思ったより柔らかい衝撃。
 心配そうに駆け寄ってくるアナマリアとクリスティンの姿が逆さまに見える。
 ヴィクトールは引っ繰り返った空を見上げながら、自分を落下地点で身体を張って受け止めてくれたヴィタリーに礼を言った。
「‥‥ありがとう、ヴィタリー。感謝するよ、本当に」
「なぁに、怪我がなければ何よりだ。‥‥ところで。悪いんだが、そろそろ上から降りてくれないか?」




 翌日。
 昨日のような失敗は犯さないと、冒険者一同、朝早くから起き出して準備を進めてきた。
 鎧戸の外には、簡単なくくり罠も仕掛けている。万が一の際に備えた、消火用の水も用意した。
 各自装備を調え、握る得物も勇ましい。
 事前の、ヴィタリーによるデティクトライフフォースの結果も、前日とそう大きな差は出ていない。
 小屋の様子も昨日と変わらず、気の抜けた風車の音も相変わらずだ。
 体調万全、意気軒昂!
 小屋を前にしての、最後の打ち合わせにも力が入る。

「みんな、小さいネズミは気にするな。ジャイアントラット四匹、こいつらを狙い撃ちにするぞ!」
「おー!」
 ヴィクトールの声に、三人の唱和が後を続く。
「おし、行くぞ!」
 掛け声と共に、ヴィクトールは風車小屋入り口の横木を外し、扉を全開。
 薄暗い空間に突然差し込んだ日光に、小屋の小ネズミたちはちゅうちゅうと逃げまどう。
 樽のそばで不意を突かれて戸惑う、ジャイアントラットが三匹。ヴィクトールは素早く両手のダーツ投擲。シューティングPAの狙い通り、一匹の喉元にダーツを突き立てる。
「ぴぎぃぃぃ!」
 叫び声を上げるジャイアントラットに、ヴィタリーのブラックホーリーの黒い光が突き刺さった。
「恨みはないが、パンと報酬と、俺の初陣の花道のために倒させて貰うぞ!」




 どたんっ! ばたんっ!

 騒音と埃と、派手な効果音の乱れ飛ぶ、絵に描いたような戦闘シーンが始まった。
 張り切る男性陣の背後では、小屋の入り口でアナマリアがランタンとホーリーフィールドの準備を行っている。片手間に、傍らの愛猫、ペットのクロさんとニャアニャア。何事かの交渉を行っているようだ。
 その彼女に、クリスティンが声を掛けた。
「どうした? アナマリアはいかんのか?」
「え、その、私はちょっと自信がないので、結界を作って皆さんの安全地帯の確保に努めようかと。ネズミ退治にはクロさんの方が向いてますし‥‥」
「いかん。そんな消極的なことではいかんぞ、アナマリア。せっかくの上背が泣こうというモノだ」
「‥‥こ、この場合、背の高さは無関係では‥‥」
 小声で反論するアナマリアの肩を、クリスティンが下から力強く握りしめる。
「あ、あの‥‥」
「アナマリア。女は気合いだ。エルフは根性だ。恋も戦いもそれは同じこと。
なに、心配せずともよい、私がそなたのガッツを大いに燃え上がらせてやろう。感謝するがよい」
 言うが早いか、クリスティンの唱えたフレイムエリベイションの赤い光が二人の身体を包み込み、熱い炎の力が、アナマリアの心に眠るガッツを引き起こす!
「ああああああ―――‥‥!」
 漲るパワー、溢れるガッツ。
 気のせいだろうか、握りしめた武器代わりの固いパンまでもが輝くように艶を増す!
「クリスティンさん! 私、なんだかやる気が出てきました! クロさん、さあ行きましょう!」
「にゃあ!」
 パンを振り振り、クロさんを従えて突撃を敢行するアナマリアを、クリスティンは満足げに見送った。
 ‥‥ちなみに、アナマリアがランタンをすっかり置き忘れているのは秘密だ。まあ多少暗いだけで、大した支障はないだろうし。




 元より、ジャイアントラットは多少大きいだけのネズミに過ぎない。
 ガッツに溢れる、やる気満々の冒険者達(+猫)にかかっては、多少数がいたところで勝負は目に見えていた。乱れ飛ぶダーツとブラックホーリーが、あっという間に一階にいた三匹のジャイアントラットを戦闘不能に追い込んでいく。
「ヴィタリー、アナマリア、後は任せていいか?」
 応諾の声を背中に受け、ヴィクトールは狭い階段を、単身二階へと駆け上がる。
 いた。
 待ちかまえていたのだろう、天井の梁から、最後のジャイアントラットが飛びかかる。
「ぢゅゅぅぅぅ――――!!」
「ネズ公が! これは昨日のお返しだ!」
 ジャイアントラットの攻撃をかわし、返す刀でダーツを二連撃!
 ヴィクトールの技量があれば、この距離でネズミ相手に外しっこない。
「ぴききぃぃぃっっ――!」
 片目を潰されたジャイアントラットの叫び声。
 痛みの故か、勝ち目無しと踏んだか。ジャイアントラットは即座に身を翻して、鎧戸の穴から小屋の外へと身を踊らせた。
「しまった! 逃げられたか!?」
 慌てて鎧戸に飛びつき、ヴィクトールはネズミの姿を目で追って―――
「―――案ずるな、ヴィー」
 刹那。

 ボッカ――――――ンッッッ!!!!
        「―――ちぅぅぅぅぅ〜〜‥‥〜〜〜‥‥‥‥‥‥」

 クリスティンの放ったファイヤーボムの火球が、丘を逃げるジャイアントラットを吹き飛ばす!
 放物線を描き、風車小屋を越えて吹き飛ばされるネズミの姿は、いっそ哀れなほどだった。
「こんな事もあろうかと、外で待ってた甲斐があったというものだ。やはり冒険者たるモノ、このくらい派手にいかんとな! 仇は取ったぞ、ヴィー!」
「‥‥クリス。いや、俺はそこまでやる予定はなかったんだが‥‥」




 それからの話は簡単だった。
 何せ、大音響に驚いた小ネズミたちは、我先に森へとみんな逃げていったから。
「流石私だ。今回の仕事も完璧だな。さぁ酒を呑むぞ、ヴィーたちも付き合え。呑めんとは言わさんぞ、私の酒だからな」
 クリスティンも上機嫌。依頼完遂の報告に村人達もひどく喜び、早速挽き立てのパン粉で作った、香ばしいパンが皆に振る舞われる。食べきれない分を往復分の保存食として提供されたことに、からっけつのヴィタリーは大いに喜んだ。
「みんな、俺は今回の冒険で、色々と冒険者にとって大切なことを教えて貰ったよ! ありがとう!」
「―――私は、ヴィタリーさんが何を学んでしまったのか、少し不安なんですけど‥‥」
「ま、なるようになるさ。こうして、男は一人前の冒険者に成長していくわけなんだよな」
 不安顔のアナマリアの隣で、ヴィクトールが訳知り顔で頷いた。

 風に乗って響く、おんぼろ風車の羽根の音。
 村人達の喜びの声。乾杯の響き。
 今夜は騒がしい。けれど、冒険者には似合いの、いい夜だった。