【雪達磨】冬の訪れ
 |
■ショートシナリオ&プロモート
担当:たかおかとしや
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月16日〜11月20日
リプレイ公開日:2008年11月24日
|
●オープニング
寒い。
キエフの秋は短い。むしろ無い。
夏が終わり、収穫祭は慌ただしく過ぎ去っていく。
そして雪。
11月初旬、特に冷え込んだその日の朝。
キエフを真っ白な雪が覆っていた。
都市を、畑を、野を、森を。
天から舞い降りる白い雪が告げていた。
冬が来たと。
寒い寒い冬が、今年も北の大地にやってきたのだと―――
●
‥‥えーっと。
それは奇妙な光景だった。
青白い衣装のフェアリーが輪になって踊り、笑う。
氷の笛に氷の打楽器。キンコンキンと打ち鳴らされるリズムに、フェアリーは軽やかに空を舞って‥‥
まあ、それはいい。
しかし、その中央で、必死に雪達磨‥‥らしき物を作ろうとしている、小柄な雪達磨はなんなのだろう?
黒いぐりぐり目玉、黒い眉に黒い口。
雪達磨は四角い口をへの字に曲げ、四角い黒眉をしかめて、木の棒の先端の革手袋の腕で、必死に大きな雪達磨らしきものを作ろうとしている。雪山があるから、直そうとしている?
しかし、悲しいかな、雪達磨は絶望的に不器用だった。
どだい、雪達磨のその丸い体型で、手仕事などやろうというのが間違いである。苦心の末ようやく出来た体は、べったり潰れた雪まんじゅうにしか見えず、なんとか貼り付けた黒い目鼻も、まるでジャパン渡来の福笑いのような有様だった。てんでバラバラの目鼻は、不細工を通り過ぎて、もうだるまの顔だと判別することすら難しい。
流石の雪達磨も、出来上がったその‥‥えーっと、何物かも判別できない雪の塊を前に、自らの不器用さを思い知ったようだった。
落胆する雪達磨の横で、歌い騒いでいたフェアリー達は、あまりと言えばあまりの作品に、みんなクスクスと忍び笑い。
「かっこわるい」
「ぶっさいく!」
「冬はもう来ないかも?」
「キングスノーは今年は来ない!」
キャッキャと笑い合うフェアリー達を、怒った雪達磨が追いかけ回す。
眉を怒らせ、顔を真っ赤にして(雪達磨なのに!)ぴょんぴょんと跳びはねながら、フェアリーを追い回す。
しかし、悲しいかな、雪達磨は絶望的に鈍足だった。
どだい、雪達磨のその丸い体型で、空を飛ぶフェアリーを追いかける事自体が有り得ない―――
●
‥‥えーっと。
キエフ近郊の、山沿いにある村の外れ。雪に覆われた畑の上で。
ちょっとした用事を済ませた後、キエフに帰ろうとしていた冒険者達はその不可思議な光景に目を奪われる。
そもそも、雪達磨が雪達磨をつくってどうすんの?
そんなことを考えながら、その珍しい情景に見入っていた冒険者達。
その冒険者達の前に、フェアリーを追い回した挙げ句、へとへとに疲れた雪達磨が近寄ってきた。
雪達磨は冒険者達の前に立ち、自らの作品である雪のまんじゅうを指さしながら、何事かを訴える。
「見てないで作って、って。ゆきだるま」
一匹のフェアリーが雪達磨の訴えを通訳すると、他のフェアリーも冒険者達の側に近寄ってきた。
「ひとにたのむ?」
「いいんじゃない?」
「立派なのがいい」
「つまんない。ゆきだるまよりも、歌ってよ!」
「踊って! 踊ろう! 音楽で!」
口々に騒ぎ始めるフェアリー達を、雪達磨が手を振って追い散らし、困惑する冒険者達の顔を改めて下から見上げる。
キリリと引き結んだ、黒い眉、黒い口。
どうやら、彼は真剣らしい。
『依頼内容:雪達磨の制作』
●リプレイ本文
「へぇ? あなたは地の精霊?」
「この子、陽の精霊!」
「火の精霊って赤いんだ! 触っても熱くない?」
フロストフェアリー達が、冒険者達の連れていたエレメンタラーフェアリーの周囲を飛び回る。はじめはそんな相手側の勢いに圧倒されていたエレメンタラーフェアリー達だったが、仲良くなるのはあっという間。多彩なフェアリー達の色とりどりの手繋ぎの輪が、空中で元気にくるくる回る。
「‥‥雪達磨が動いてるっす。知らなかった、雪達磨って動くもんなんでやすねぇ‥‥」
以心伝助(ea4744)が、動く雪達磨を興味深げに見つめている。
一方の雪達磨は眉をしかめ、訝しげな表情でフィニィ・フォルテン(ea9114)の姿を首を傾げて注視していた。
つんつん。とかつついてみたり。
「あら、この子、この衣装を気に入ってくれたみたいですね♪」
嬉しそうに笑うフィニィ。
‥‥衣装というか、彼女が着ているのは『まるごとすのーまん』である。大きな丸を二つ重ね、色は白。手足を引っ込めれば、何処から見ても立派な雪達磨になれるという、かなり間違った方向に突っ走った逸品だ。
仲間?
でも変だ。
いやしかし。
自分と同じ姿のフィニィを前に真剣に思い悩む雪達磨の姿に、冒険者達はつい笑ってしまう。
七名、プラス四匹のフェアリー。一羽のペンギン、四頭の馬。
雪達磨の依頼を受け、雪達磨作りに乗り出した冒険者の全容がこれだった。
●
雪の精霊、スノーマンとフロストフェアリー。
それが彼らの正体である。
そう。ただの動く、怪しい雪達磨ではない。冬と雪を司る立派なエレメントなのだ。
他に用事があるからと、フィニィやアニェス・ジュイエ(eb9449)の友人らが先に帰るのを見届けると、スノーマンは残った七名の冒険者達に改めて頭を下げた。
頼まれた仕事は巨大雪達磨の制作。
この依頼主を逆さに振ってもお金が出てこなさそうな事は、見れば判る。つまりは無報酬の依頼なワケだが、冒険者達のやる気は十分だ。
「気分転換のフィールドワークにと思って外に出れば、これは面白い物に出会いましたね。大きい方が良いのでしょう? 私が設計をしましょう。固めた雪のブロックを積み重ねて‥‥‥‥転がして作る方法では、限界がありますから」
「あ、それ、よさそうだね! 力仕事は役に立たないかも知れないけど、スコップも手袋も用意してるし、あたしも協力して頑張るよ〜!」
ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)の提案に、ルゥン・レダ(ec4800)もスコップ片手に同意。
その二人の頭上では、シャリン・シャラン(eb3232)が彼女の妹分であるフェアリー、フレアと手を繋いで意気を上げる。
「あたいはフレアと一緒に小さい雪達磨でも作っとこうかしら? フレア、一緒に頑張ろうね☆」『がんばろ☆』
互いに会話しつつ、生き生きと働き出す女性陣を前に、数少ない男性陣の二人が、やれやれどっこいしょと各々のスコップを担ぎ直す。
「女五人に、男二人。仕事は巨大雪達磨の制作となると、力仕事はすっかりあっしらの負担ってワケっすね‥‥」
課せられた重荷(文字通り)に溜息をつく伝助。
ジルベール・ダリエ(ec5609)が、そんな忍者の姿にニヤニヤと。
「―――そないな事言うて、伝助さんのスコップ、随分やる気ですやん?」
「おや。ジルベールさんこそ、そのスコップ。実は滅茶苦茶やる気じゃないっすか?」
「あらま、判りますか?」
伝助の持ってきたスコップは、エチゴヤマークの特製スコップ。ジルベールの得物に至っては、金に輝く黄金シャベル、ゴルデンシャウフェルである。やる気がないと言えば、嘘になるだろう。この手の遊びは嫌いじゃない。
くっくっく。
男二人が、目と目でほくそ笑み合う。
こうして、スノーマンの依頼は無事に受諾された。
期間は四日。
雪達磨の一つ二つを作るには、十分な時間であろう。
●
転がして作るのではなく、踏み固めた雪をブロック状に切り出し、それを積み重ねる事によって巨大な雪達磨を構築する。それが、冒険者達の基本方針である。
「‥‥それはいいけど‥‥寒っ! 月道が開いてたから遊びに来たけど、ロシアって寒いのねぇ」
「ホント、流石キエフやな。一足早く冬が来てるわ」
フロストフェアリー達や、冒険者達の中でも炎の指輪―――魔法の耐寒アイテムだ―――を持っている者達は雪の中を薄着で平然と歩いているのだが、そうでない者にとってはとにかく寒い。
アニェスはコートの襟元をきつく合わせ、雪像作りの場所からやや離れたところで焚き火の準備。まずすべき事は防寒対策の充実だ。今日はちょっと暖かいね、等という雪の精霊達の言葉をうっかり真に受けると大変な目に会ってしまう。
「火の準備、テントの準備、温かい食事の用意。‥‥他に何か必要な準備はあったかしらね?」
「雪の踏み固めに、ブロックの切り置き。後は‥‥」
アニェスの言葉に、ジルベールは頭を捻る。
本格的な雪像制作は、ヴィクトリアの設計が終わるまでは始めにくい。
「―――普通の雪達磨でも作って。そや、フェアリーやらスノーマンやらもさそて、皆で雪合戦でもせーへんか?」
「あ、それ、あたい賛成♪」『賛成☆』
ジルベールの素敵に前向きな意見に、シャリンとフレアが諸手を挙げて賛意を送る。
‥‥ちなみに、この初日の雪合戦は、シャリン率いるフェアリー軍団の大量の雪玉に、ジルベール、伝助らが雪に埋もれたところで勝負がついた。
●
さて翌日。二日目である。
初日、冒険者達も、ただ雪合戦のみに興じていたわけではない。
既に雪原には、踏み固められ、格子状の切れ目も入り、後は取り上げるのを待つばかりという雪のブロックがずらりと並んでいた。ヴィクトリアの設計も無事に終わり、作業手順も全員に通達済。
いよいよ本格的な雪像制作の開始である。
「それでは、ブロックの切り出しと積み重ねを始めましょう。積み上げる際の基本的なイメージは、大小のお椀を伏せて、縦に積み重ねたような形になります。ブロックを重ねた後の接着と補強は、私がアイスコフィンで行いましょう。力仕事になりますので、男性陣は宜しくお願いしますね」
ヴィクトリアの指示が飛ぶ。
雪のブロックをただ積み上げるだけでは、人の手の届く高さまでが限界だ。そこで、まず胴体部分を丸く丘状に形作り、そこを足場として、更にその上に小さめの丘を盛りつけていく。そうやって二重の小山となった達磨の原型を、頭と胴体となるよう、上から順に丸く削って整形していけば、最後は立派な巨大雪達磨が完成するという寸法だ。
「大本のアイデアはアニェス君から頂いた物ですが。この方法でなら、四メートル級の雪達磨が作れるはずです」
「わ、すごい!」
ヴィクトリアの見通しに、ルゥンが感心する。
実際四メートルとなると、かなりの大きさである。間違いなく、家より大きい。
「さあ、皆。頑張るわよ! 頑張った人には、あたしからおやつにケーキとクッキーを進呈するわ! 完成した暁には、とっておきのお酒で宴会よ!」
『おおー!』
右手にケーキ、左手にどぶろくの徳利。
アニェスの檄に、一同は気合いを入れてそれぞれの作業に取りかかる。
●
踏み固めて切り出して、積み重ねて盛り上げる。
踏み固めて切り出して、積み重ねて盛り上げる。
‥‥二日目が終わり、果てが知れぬとも思われた積み上げ作業も、三日目の午前中には、なんとか原型となる二つ重ねの小山を作り上げるところまで作業を進ませる事が出来た。牛馬の如く扱き使われた‥‥‥‥正確には、彼らの連れていたペットの馬達よりも余程扱き使われた男性陣は、力仕事の山場を終えたところでばったりと雪の中に倒れ伏す。
「あらあら、そんなところで倒れてちゃ、ご褒美のケーキが貰えないわよ?」
「他のみんなからも、桜まんじゅうの差し入れだよ〜♪」
アニェスとルゥンが、雪の中で倒れたままの伝助とジルベールの元に、おやつセットを持ってくる。
おいしそうなケーキとクッキー、見るからに甘そうなまんじゅうに、男共はズゥンビの如くむくりと復活。焚き火のそばでおやつを平らげ、ようやく一息。
「ふ〜、生き返ったで、ほんま」
「流石に重労働でやすね〜」
ジルベールと伝助が、先程まで二人で作業をしていた場所に視線を向ける。
中央にはどかんとそびえる、大きな山。
周囲にはスノーマンの友達のように、大小の雪達磨が雁首を揃えている。ボロ布のスカーフに、帽子代わりの壊れた桶。作業の合間に、手の空いた者が暇々にこしらえた作品の数々である。
♪ころころ ころころ ゆきだまが
ころがるたびに ひとまわり
おっきくなるよ だんだんと♪
雪達磨達の居並ぶ前を、一際大きな雪達磨が楽しげに歌いながら、せっせと雪玉を転がしているのが見える。
素晴らしい美声の持ち主であるところから見るに、それは雪達磨ではなく『まるごとすのーまん』着用のフィニィのようだった。どうやら、彼女はまだまだ『お仲間』の数を増やすつもりらしい。
肝心の本家スノーマンの方はと言うと、盛り上げられた小山の上で一人、ざくざくと外観の荒削りを始めているところだった。
(‥‥そういえば、なんであの雪だるまは、巨大雪だるまを作ろうとしてるんでやしょうね?)
随分熱心に作業に当るスノーマンの様子に、伝助の脳裏に素朴な疑問が湧いてくるが、直ぐにまあいいかと思い直す。完成すれば判るだろうし、何より―――
―――まあ、悪巧みの出来る顔じゃないっすからね、スノーマンさんは。
●
「一番、シャリン! 踊ります☆」『踊ります☆』
すっかり仲良くなったフロストフェアリー達をバックダンサーに、シャリンとフレアが淡雪をイメージした創作ダンスを披露する。傍らで歌うは、当然フィニィ。
焚き火の明かりが仄かに照らす、雪のぱらつく冬の夜。
数人の冒険者仲間だけに披露するには、勿体ない程のコンサート。
四日目の夜。
待望の完成パーティーである。
完成パーティーをやっていると言う事は、つまり出来たのだ。
そう、巨大雪達磨が完成したのだ!
でかい!
どん!
全長四メートル超。内部はアイスコフィンで固めているので、全体の重量が十トンを越える事は確実だ。
直径三メートル近い胴体に、載せられた頭は直径一メートル半。目と口には木炭を埋め込み、継ぎ接ぎマントに、枝の口ひげ。何処に出しても恥ずかしくない、特大の雪達磨である。
「みんな、お料理持ってきたよ。ジルベールさんから分けて貰った、お魚料理がいっぱい♪」
ルゥンが大皿に載せた魚料理を運んでくる。魚料理だけではない、アニェス持参の真っ赤なハムも華を添えている。
飲み物は各自が提供した蔵出しだ。「菩提泉」「桜火」と言ったジャパンの名酒から、高級ワイン「プランタン」 まで何でもござれ。焚き火の側では、美味い酒にすっかり良い気分になったアニェスとジルベールが、二人で巨大雪達磨の品評を始めていた。
「目鼻の取り付けはスノーマンにやって貰ったけど、こうしてみると、随分愛嬌ある顔してるわね?」
「そうそう。しかもなんや、エライ偉そうなところが、逆にとぼけてて面白いわ‥‥‥‥おや?」
そのジルベールが品評の途中で、訝しげに目を擦り始める。
「‥‥桜花ってな、エライ強い酒なんやな。雪達磨が今一瞬、動いて見えたで―――」
ジルベールが目を擦った、その瞬間。
激しい地響きがその場を襲う!
ずずん!
「わ、何事? 地震?」
得体の知れぬ振動に、ルゥンを初め、冒険者達は手に手に飲食物を抱えてその場から立ち上がった。
シャリンとフィニィも歌と踊りを中止する。
しかし、緊張する冒険者達を余所に、フロストフェアリー達が互いにクスクスと笑いあう。
「あら、ようやくお目覚めみたいね?」
「立派な体!」
「キングスノーのお目覚めだ♪」
「キングスノー?」
フェアリー達の言葉に、シャリンが疑問を差し挟む間もあらばこそ。
動いた!
動き出した!
皆で作った、身長四メートル、体重十トンの巨大雪達磨が大きく欠伸をした!
『ふわああぁぁぁああぁぁぁ‥‥‥‥ん。こりゃまた、随分と立派に作り直して貰った物じゃな』
「しゃべった?」
動いた、喋った、延びをした上、欠伸まで。
巨大雪達磨の頭には、いつの間に、誰が載せたのだろう。燦然と金色に輝く、立派な王冠までもが被せられていた。王様と言うことなのだろうか。こうなると、ボロのマントや葉枝の口ひげまでもが、何やら不思議な気品さえ醸し出して見えるから不思議なものだ。
欠伸をした巨大雪達磨は、ドシンドシンと跳ね歩き、焚き火の側で唖然としている冒険者達に近付いてくる。
『いや、小生意気なデビル共に不覚を取って、冬を前にあのまま融けて消え去るとこじゃった。事の経緯はこのスノーマンから聞いてますぞ、随分お手を煩わせたようで。ありがとうございますじゃ』
巨大雪達磨が頭を下げる。傍らの、依頼人であるスノーマンも併せて頭を下げた。
丸を積み重ねただけの頭でどうしてお辞儀が出来るのか? 精霊の力はまこと不可思議である。
『デビル共は、多分まだその辺をウロいているはずじゃ。皆さん方も、せいぜい気をつけた方がよい。どうも、奴らは何かを企んでおるようじゃでな』
デビルって何のこと? 色々と聞きたい事、疑問な点が山程脳から溢れ出す。
溢れすぎて、危うく耳からポロポロと零れる程の有様であるが、何はともあれ、聞かなければ!
「すみませーん、あなたは、何処のどなた様ですかー?」
冒険者達が今一番聞きたい事を、フィニィが巨大雪達磨に対して質問をしてくれた。
既にスノーマン、フロストフェアリーらを引き連れて立ち去ろうとしていた巨大雪達磨が、フィニィの質問に首だけぐる〜りと回して振り返る。
『わしか? わしの名前はエンペラースノー。この礼は、いつか必ず返しますぞ、人間達よ!』
「じゃあね!」
「ばいばーい」
「また今度、みんなで踊りましょ♪」
手を振り、巨大雪達磨の後を追うフロストフェアリー達。
ずしん! と一つ、巨大雪達磨が大きく飛び跳ねる。
冒険者達の体がぴょこんと跳ねる。
ずしん!
ずしん‥‥!
●
‥‥えーっと。
それは冬の訪れ。
聞いた通りの、冬の足音。
寒い冬が今年もキエフにやってきた事を示す、はた迷惑な程の地響きさえ伴った重低音。
いつのまにか、冒険者達が作った大小の雪達磨までもがその姿を消していた。雪達磨に踏み潰されたか、それとも彼らがお土産代わりに持ち帰ったのか。はたまた―――
山へと向かう冬の地響きを遠くに聞きながら、アニェスは名酒「菩提泉」を口に含む。
口当たりの良い、まろやかな酒の味が舌の上に広がった。
そして一言。
「‥‥ロシアの雪達磨って、凄いわね。毎年こうなんだ?」
勿論、キエフ在住の冒険者達全員が、激しく首を横に振った事は言うまでもない。