【黙示録】巨人の山
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:たかおかとしや
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:11月27日〜12月03日
リプレイ公開日:2008年12月06日
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●オープニング
ゴォォオォォォォォォォォオォオオォォォォォォォォ―――――――――ッッッッ!!!
丘が、咆えた。
そうとしか思えない、それほどまでに大きな吼声。
鳥達が一斉に梢から飛び立ち、ギャアギャアと鳴きながら丘の上空に群れ集っていく。
咆え声は風となって森を揺らし、野山を駆け、麓の人里にまで到達した。
びりびりと震える戸板に、村の者達は仰天する。
雪崩か、はたまた地滑りでも起きたものか?
慌てて戸外へ転げ出た村人は、同様に出てきた他の者達と、一体何事かと互いに顔を見合わせた。
ややあって、目のいい村人の一人がそれに気が付く。
「お、おい!? あれ、お山だ、見てみろよ! 『テーブル石』の上!」
村人の指し示す先。
丘の中腹から、舞台のように大きく突き出た平たい巨石、テーブル石。丘に住まう巨人が、テーブル代わりに使うのだと語られているその巨石の上に、巨人がいた。
そう、それはまさしく巨大な人だった。
ジャイアントなどのデミヒューマンとは比べものにならぬ、本当の巨人。
「大人(たいじん)様だ‥‥」
村の誰かが呟く。
五メートル? 十メートル?
獣の皮をまとった木樵姿の巨人の頭の位置は、周囲の雪を被った木立よりも尚高い。
巨人は、その身の丈に見合った巨大な大斧を持ち、テーブル石の上で身構えている。その巨人の視線の先には褐色の肌をした、小さな人のような者達が居並んでいた。
小さな?
‥‥馬鹿な! 木立を見下ろす巨人の、腰に近いところにまで頭を届かせるそいつらが、小さいわけがない!
その者達は、大斧を構えた巨人を取り囲む。
「大人様が、戦っておられる‥‥」
それは、巨人同士の戦いであった。
巨斧を振るう大巨人に対して、棍棒のような物で挑む巨人達。倍以上の体格差に、一歩も引かぬ。
斧と棍棒が打ち合う度に、雷鳴の如き鋼鉄の轟きが里にまで響き、鳴り渡る。
どれほどの力で鋼を打ち付ければ、このような音が鳴るというのだろうか‥‥?
しかし、巨人達の戦いはそれ程長くは続かなかった。
村人達が恐れおののきながら見守る中で、大巨人がテーブル石の上から巨人達の一人を突き落とし、それを機に空いた包囲網を抜けて山の中へと消えていく。
その後を追い、他の巨人達も木々の中へと姿を消していった。
―――いや。
戦いはまだ続いているのだ。
昼も夜も、その次の日も。鋼同士を打ち合わせる高い響きが、山から消えない。
巨人の咆え猛る声も、また。
●
精霊の山。
迷いの丘。
大人の棲まう森。
その山に、特に定まった呼び名があるわけではない。
多少森が深いだけで、見た目はなんと言うことのない丘であり、小山である。
ただ遙かな過去から、そこは大地の精霊が棲まう場所として、人間達は元より、蛮族と称される森エルフ達からも信仰を集める土地であった。木霊が鳴き、邪なる者には決して足の踏み入れることの出来ぬ、大人(たいじん)と呼ばれる大地の巨人が治める精霊の山。
その山を、異変が襲っていた。
テーブル石の上で大人を襲ったところを目撃された件の巨人達をはじめ、大小のオーガ、ゴブリン達が山に入り込み、森の精霊達を殺して回っていると言う。中には黒い翼を背負ったデビルらしき者の姿を見たと言う者さえいた。
上空には巨大な禿鷲が舞い、禍々しい争乱の気配が森を覆う。
尊き精霊の山は、人外の闘争の場へとその姿を変えていた。
「‥‥無茶な願いだとは思うんだけど、それでも何とかお願いします。大人様を救ってくれませんか?」
山の麓の村人達が、キエフの冒険者を頼ったのはそれから数日後のことだった。
事情を尋ねる受付嬢の前で、村人達はつっかえつっかえ状況の説明をする。
「大人様は、あそこら一帯の森を差配なさってる、そりゃあ偉いお人です。本来なら、俺らみてぇな開拓民風情がお助けするなんて、考えるのも恐れ多いくらいの‥‥‥‥だけんど」
言い淀む男の言葉の先を、隣の者が続けた。
「‥‥木霊の悲鳴が、小さくなってきたんです。木霊は大人様の召使いだ。その声が、一晩経つ毎に小さく、少なくなっていってるんです。そして、代わりにオーガ達の騒ぎ声が、どんどん大きくなっていって‥‥」
村人達の顔には、焦りの色が見える。
「このままじゃ、大人様も、そして山自体も殺されちまう。何とかお助けしたいんだけど、でも俺達じゃ、山の麓の迷いの森さえ抜けられない。お願いします。何とか、大人様をお助け下さい。そして、山からあいつらを、オーガやデビル共を叩き出して下さい!」
『依頼内容:精霊の山に入り込んだ、侵入者達の排除。及び現地高位エレメントの保護』
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●精霊の山の説明
キエフから東へ、徒歩で二日程進んだ位置にある小山です。
標高は数百メートル程度。通常なら、麓の開拓村から四時間も歩けば問題なく山頂に辿り着くことが出来るでしょう。
ただし、現在は山の全域に「迷いの森」の魔法が掛けられており、あちこちで侵入者達と地のエレメント達との戦いが繰り広げられています。
山頂には大人を祀る小さな祠があります。
●侵入者達
敵は、大人と戦っているところを麓から目撃された巨人(?)達。そしてオーガ、ゴブリンなどのオーガ族が主力のようです。大人と互角に争う程の力を持つ者は多くないようですが、油断は出来ません。
また、黒い羽を持つデビルらしき姿も村人達によって目撃されています。他にも低級なデビルが山に潜んでいる可能性は高いでしょう。
●リプレイ本文
精霊に対するデビルの攻勢は本格化しているらしい―――ハロルド・ブックマン(ec3272)は出発の朝、そう自らの記録にしたためた。
不穏な情勢が続いていた。
冬の寒さが増すにつれて、デビルの報告例が各地で急増している。それに応じるように、天使や精霊と言った存在の活動も活発化しているようだった。人の目には見えぬ何かが、底知れぬ闇の奥で蠢いている。その『何か』がほんの少し身じろぎする度に、世は乱れ、地上に争乱が喚び込まれるのだ。
それは、巨人の統治するこの森深き山においても、例外ではない。
●
「精霊の山‥‥と呼ばれているようだが、随分鬱蒼としたものだな」
それまで黙々と歩を進めていたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が顔を上げ、周囲の風景を見渡す。
人よりも精霊の気配がより強い、精霊の棲まう山。
冒険者達一行は、その山の道なき道を登っているところであった。オーガ、そしておそらくはデビルらに襲われた精霊達を救う為に。
「聞いたところでは麓の人間達でも、この山に入るのは年に数日程の特別な日だけだと言う事です。『大人』とは、随分敬意を持たれている精霊のようですね。‥‥しかし、これは‥‥ふう、書物を住み家に置いてきて正解でした」
ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)が額の汗を拭う。
炎の指輪の魔力により寒さは感じない。その分、凹凸の多い地を歩く疲労が汗となって肌に噴き出してくる。こんな時は、いつにも増して胸の二つの大きな『重り』が疎ましい。
大きく張り出した大木の根をエイやと乗り越える彼女に手を貸しつつ、沖田光(ea0029)はヴィクトリアの言葉を継ぐ。
「大人とは、おそらくフィルボルグス、東洋では大太法師と呼ばれる高位のエレメントでしょう。如何にデビルといえども、本来はおいそれと手の出せる存在ではありません。‥‥何か大きな災厄の前触れでないといいのですが」
フィルボルグス。
それが『大人』の、精霊としての名である。ティアマットのような伝説上のエレメンタルビーストを除けば、最上位に近い、大地の力の顕現そのものと言ってもよい強力なアースエレメントである。デビルが如何にその魔力を誇ろうとも、簡単に喧嘩の売れる相手ではないはずだった。
喧嘩?
―――いや、これは既に戦争だ。
全域が迷いの森と化した山そのものを戦場とした、精霊とオーガ、そしてデビル達、人外の者どもの戦争。
「‥‥この森の樹を見ていると、どうにも感覚が狂うぜ。おい、サラサ、道は本当にこっちで合ってるのか?」
隊列の先頭の馬若飛(ec3237)が、直ぐ後ろのサラサ・フローライト(ea3026)を振り返る。
「問題ない」
馬の質問に、いつも通りの素っ気ない口調で答えるサラサ。
彼女の足取りに迷いはない。他の者には鬱蒼としているだけの樹海だが、サラサのエルフとしての目には、進むべき道筋がはっきりと見えているのであろう。
精霊達の掛けた迷いの森―――フォレストラビリンスの呪文に道を阻まれるのは、オーガだけではない。それは彼ら冒険者達も同じである。冒険者が精霊を助けに行くというのは、あくまで麓の開拓民達の依頼によるものだ。事情を知らぬ精霊達から見れば、余計な人間達が森に踏み行ってきた位にしか思わないだろう。
フォレストラビリンスの呪文が厄介なのは、自らが呪文の影響下にあるのかどうか全く自覚出来ないという点である。精霊達との共同戦線を張る事に成功するまでの間、冒険者達はレジストメンタルの遣い手でもあり、メンバーの中で最も森の中を進む術を心得ているサラサを、山を登るに当っての進路選択の基準に据えていた。
「急ごう。精霊の気配が強い。きっと近くに精霊がいるはず‥‥」
サラサがそういって足を進めようとした、その時。
ガコォ――――――ンッ!!
‥‥と。遠くから、鋼同士を打ち付ける硬質の響きが森の静寂を揺るがした。
「この音は?」
冒険者達は各々が耳をそばだてて、音の出所を探る。
二度、三度。
短い間隔で、音は続く。
「大人が、二本角の鬼と戦っているんだ‥‥」
音の正体を正確に知ったのは、サウンドワードを使ったサラサ一人。
大人の巨斧を、鬼が鋼の金棒で受け止めた。音の出所が、それだった。
●
「ほら、ディアルトあそこ! いた! サンワードの言った通り!」『通り☆』
眼下の山頂に近い一角で、激しくぶつかり合う二体の巨人。
山の上空を飛ぶペガサスの馬上で、シャリン・シャラン(eb3232)がディアルト・ヘレス(ea2181)の鎧をペチペチと叩いて注意を促す。
迷いの森を飛行でショートカット、大人と合流して共同戦線を張る事を提案する。
ディアルトとシャリン、そしてシャリンの妹分のフェアリー・フレアは、事前に決めた作戦に基づき、他のメンバーから離れて一足先に大人の元へと向かっていた。
その矢先の、鋼の響きである。
慌ててペガサスを急がせた二人の前には、巨人同士の闘争が待ち受けていた。
身長七メートルの大人と戦う、身長三メートルの鬼。
余程の膂力があるのであろう、圧倒的な体格差にも関わらず、鬼は大人の振るう巨斧を金棒で受け止めて、尚揺るがない。逆に、大小の傷を負った大人側こそ、鬼の振るう金棒によって追い立てられる有様であった。
「割って入ります。シャリン殿、しっかり掴まって!」
「え? って、わーっ?!」『キャー☆』
直滑降!
ペガサスは翼を畳み、地に激突するかのような急降下で、真っ直ぐに大人の元へと向かう。
今まさに、膝をついた大人の頭に金棒を振り降ろさんとしていた巨鬼。
その巨鬼目がけて、真っ白な一陣の矢が激突する!
破裂して広がる土煙と、激突音。
朦々たる土煙が収まった後に見えるのは、膝をついた大人、ペガサス。シャリンとフレア。
―――そして、白刃を抜いたディアルトと、その足下で赤黒い血を流し、倒れ伏した巨鬼の姿。
ディアルトは口を開く。
「どうやら間に合ったようですね。大人殿、お節介かもしれませんが、手伝いに来ました」
『お前達は人間‥‥‥‥いや、冒険者、という輩か? 何をしに来たのだ‥‥?』
当惑したような、低い声が大人の口から漏れる。
「あたい達は、麓の村の人たちに頼まれたのよ。貴方たち、山の精霊に手を貸してくれってね?」
『手伝い‥‥村の人間共が、そのような事を‥‥』
シャリンの言葉に大人はそう呟くと、改めてどっかりと胡座を組んで座り直した。
大人はシャリンに、そして眼下の、剣を携えたままのディアルトに目を向ける。
『先ずは礼を言おう。その剣、その腕。噂に聞く冒険者とやら、成る程、満更口だけの輩でもないようだ。
‥‥だが、判っておるのか? この山に入り、剣を持って戦うという事の意味が。事はオーガ共を斬って済む話ではない。こいつらの背後にはデビルがいる。そして背後には―――‥‥
いや、山の事は儂等が何とかしよう。さあ、お前達は山を下りよ。無駄に命を捨てる事はあるまい』
「知ってるよ?」
『む?』
ふわりふわりと宙を飛ぶシャリンの言葉に、大人は眉を寄せる。
「あたい達は、そのデビルと戦う為に来たんだもの。ね? だから、一緒にデビルをやっつけましょ☆」『ましょ☆』
フレアとくるくると踊りながら紡ぐ、シャリンの言葉。
大人はその言葉に目を見開き、ややあって、笑った。
笑った。
周囲の梢が揺らぐ程の、大爆笑だ。
『はっはっは! 成る程! これが冒険者か! 面白い、成る程、面白い。一緒に、と言ったな? 何か策でもあるというのか?』
大声で笑い続けながら問いかける大人に、ディアルトは予め決めていた計画を伝える。
即ち、テーブル石の上での、オーガ共との決戦を。
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「おお、ディアルト。そっちは上手くやってくれたみてーだな」
馬の声が、テーブル石の上に響く。
大人に派遣された木霊の案内によって、山を登っていた冒険者達がディアルト、シャリン、そして大人らと合流したのは、それから一時間後の事であった。一通り互いの情報を交換し合い、大人との挨拶を済ませる。
「しかし、ここで待っていて、敵がこちらに来るという確証はあるのものか? 迷いの森の呪法自体は、今も掛かっているのだろう?」
サラサが呈した疑問に、大人が答える。
『案ずるな、エルフの娘よ。オーガ、特に儂に対抗する力を持つオーグラ共は、空を飛ぶデビルの案内を受けている。狙いが儂である以上、ここに立ってさえいれば嫌でも襲ってこよう。それに草木共が言っておる。黒き皮翼に導かれし鬼共が、すぐにも正面の森から抜けてくるとな』
「黒き皮翼、か‥‥」
山腹の上空を、ひどく歪な鳥が飛んでいるのに、エルンストは気が付いた。
ブレスセンサーが、その鳥が呼吸をしていない事を彼に伝える。同時に、森の奥から向かってくる、数十の反応の事も。
「‥‥どうやら、ご到着のようだな」
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「なんと、ようやく観念したかと見れば、人間の助っ人か? 大人よ」
開口一番。黒い翼を持つ、長身の男である。
森を背に、断崖に突き出るように飛び出したテーブル石の根本に立ち、男は冒険者達と向き合った。男の背後には並みのオーグラよりも更に頭一つ大きい、巨鬼どもが三体並んでいる。そして、多数のオーガ、ゴブリン達。インプら、下級デビルの姿も見えた。
男は得意げに謳い、囀る。
「人間よ。逃げるなら今の内‥‥と言いたいところだが、大人から『あの事』を聞いたかも知れぬ以上、生かして帰すわけにはいかぬ。抵抗しても構わぬよ? 対大人用の、特別製のオーグラが三体。人など一息に踏み潰して‥‥」
ズドンッ!
「‥‥は?」
長身の男が、呆然と、傍らのオーグラの腹に生えた長槍を見やった。
腹を貫かれたオーグラは苦しげに呻き、ズシンと片膝をつく。
「たーこ、口上がなげーんだよ。ご託はいらねぇ。こっちも、てめぇら一匹たりとも、生きてこの山から降ろす気はねーからな」
レミエラの力により、投擲された長槍が、再び馬の手に戻る。
シューティングポイントアタックEX。まともに受けて、無事でいられるものはいない。
同時に、膨れあがる殺気。
それはオーガ達から、そして冒険者達からも。
戦いが始まった。
●
「この糞共が! 調子こいてんジャネーゾッッッ!!」
男が、デビルとしての本性を現す。炎をまとった、黒い巨大なインプといった風情だ。下卑た性格も露わに高く宙に飛び上がる。
「あれはネルガルです。空中のデビルは任せて下さい!」
沖田が明王の経典を読み上げる。明王の守護が身に宿ると同時に、沖田はファイヤーバードの術で炎をまとって宙に舞う。宙で対峙する、二羽の炎の鳥。
「‥‥と言う事は、目立つ相手はオーグラ三体って所か。ディアルト、大人の旦那。一人一体、割り当ては問題ないな?」
馬の言葉に、それぞれが頷く。
「問題ありません」
『いいだろう』
「‥‥アイス、ブリザード」
大人達の傍らでは、ハロルドの解き放った氷嵐が有象無象のオーガ共を襲っていた。
弱った者は片っ端から、エルンストのウィンドスラッシュと、ヴィクトリアのアイスコフィンによって無力化されていく。
「ふむ、流石に皆、ベテランだな」
「すごいわねー。ね、サラサ、あたい達はどうしよっか?」
サラサとシャリンの二人は、前線から離れたムーンフィールドの中で乱戦を避けている。強力な結界魔法だが、フィールドの内部からは、大抵の攻撃呪文も外へ通す事が出来ないのが欠点だ。
「何、この様子なら、私達が無理に出張る必要もあるまい。せいぜいこのくらいの援護で問題ないだろう」
ムーンフィールドを破壊しようと向かってきた一体オーガが、サラサのコンフュージョンに掛かるやいなや、テーブル石の端から崖下へと飛び降りる‥‥
●
「馬鹿ナ‥‥、大人共を滅ぼす為に拝領した、特別製のオーガ共ダゾ? それが、コンナ‥‥」
ネルガルが眼下の戦いを呆然と見下ろす。
勝敗は歴然だった。オーガ、ゴブリンらは元より、オーグラ達までもが既に二体、血溜まりの中に沈んでいる。
「魔の企みなど儚いものです。さあ、次は貴方の番ですよ」
炎の翼をまとった沖田が、ネルガルに飛来する。
勝ち目のない事を悟ったネルガルは、悲鳴を上げながら姿を消そうとする。だが、遅い。
「燃え尽きなさい!」
「ヒィィィ―――!」
炎の翼が、黒き皮翼を打ち砕く。
それは同時に、山における戦いの終結をも意味していた。
●
「‥‥‥‥」
ハロルドが、手元の記録に周囲の光景を熱心に書き取っていた。
ここは地の下。山の内部の、地下深い巨大洞窟の中である。壁や高い天井から突き出した水晶のようにも見える鉱石が、淡い光を放ち、洞窟の中を鈍く照らし出していた。
「住処に案内するって言うからどんな場所かと思えば‥‥。図体に見合った、でけぇ洞窟だぜ」
馬が天井を見上げて、感心したように呟く。
『冒険者よ、改めて礼を言おう』
巨石の上に座し、大人は冒険者達に向かって頭を下げる。
「それはいいのですが‥‥。大人、デビルによる精霊への攻撃が活発化している様なのですが、何か心当たりありませんか?」
ヴィクトリアの問いかけに、大人は首を横に振る。
『判らぬ。‥‥いや、他の者が狙われる理由は判らない、と言う事だがな』
「では、貴方が狙われる理由とは?」
続く問いに、大人は改めて八名の冒険者の顔を眺める。
大人は大きく息を吐いた。
『この刻この瞬間に、儂の前にお主達が現れた事は運命かも知れぬな。
聞くがよい! この山、この洞窟より続く更に地下深く。儂にもしかとは見通せぬ、暗い、暗い地の底で、デビル共が何らかの地下施設を建造しているのだ。それが何なのか、はっきりとは判らぬ。探索に放った木霊共も、ただの一人も帰っては来なかった』
大人の告げる言葉が、洞内に重く反響する。
『施設の巨大さ、警戒の厳重さから見ても、それがデビルらにとって重要な意味を持つ施設である事は明らかだろう。施設の存在を知った儂と、この山とが奴らに襲われた事自体、その証明のような物だ。
それが何であれ、デビルの企みを放置しておく訳にはいかぬ。だが、我ら精霊が支配する土地を遠く離れる事も出来ん―――
故に、お前達に頼みたい。デビル共が、地下深くで何をしているのか。その原因を探り、為ろう事なら、その企みを打ち砕かん事を‥‥』
大人は木霊達の手から、きらきらと光る石の塊を受け取り、冒険者達に手渡す。
ご丁寧に、フェアリーのフレアまでもがご相伴に与った。
『金の塊だ。冒険者なる輩に物を頼む時は、これが必要なのであろう? 頼む。儂の為、山の為とは言わぬ。全ての命の棲まう、この世界の為に。
‥‥どうしても嫌な予感がするのだ。地の奥底から吹き上がる風が、儂は恐ろしい』
暗い洞窟の中で、尚きらきらと輝く金塊を手に。
冒険者達の返答は決まっている。
―――そう、それは、勿論―――