【黙示録?】遺跡の悪魔と怪しすぎる依頼人
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■ショートシナリオ
担当:たかおかとしや
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 48 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月05日〜03月10日
リプレイ公開日:2009年03月14日
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●オープニング
「‥‥ほ、本当に行くんですかい? 親分」
「お、俺、お腹痛くなってきたよぉ、兄貴」
「馬鹿野郎! いいか、俺達は客なんだ。依頼主だ。ちゃんと顔も隠してるし、びびるこたぁねぇ。堂々としてればいいんだよ、ほら、行くぞっ!!」
頭からフードを被った三人の男達が、おっかなびっくり、へっぴり腰でその建物の扉をくぐる。
建物の名前は『キエフ冒険者ギルド』。
時は二月の末。春の足音はまだまだ遠い、黙示録の終結となると、それがいつになるやら判らない。
そんな折の、ある日のこと。
●
「はあ。遺跡に住み着いたデビル退治、ですか?」
三人組の男達の依頼に、受付嬢は訝しげな視線を返す。
彼女の視線に、アダルベルトと名乗るリーダー格らしいチョビ髭の男は、反っくり返って咳払い。
「う、うぉっほん。その通りである! 高貴なる御先祖より受け継いだ我が遺跡に、先週、突如デビルが住み着き、まことに難儀しておるのだ!」
「そうそう、折角の俺らのアジトをあの野郎‥‥‥‥イテッ!」
横で相槌を打った巨漢の腹に、チョビ髭の男が思いっきり肘鉄を食らわせる。
「‥‥アジト?」
「いや、な、なんでもない! この使用人は実は最近になって雇い入れた者なのだが、時々訳の分からぬ事を言いおってな‥‥」
「使用人って、ひでぇや、兄貴‥‥‥‥アイッテッ!」
腹を押さえる巨漢の頭に、チョビ髭は更に平手をもう一発。
流石の巨漢も、それでようやく口をつぐむ。
「ええっと。‥‥そういうわけで旦那様は、是非こちらにデビル退治を依頼したいと仰ってまして。何卒、よろしくお願いします」
横から三人目の男が揉み手をしながらそう受付嬢に告げると、他の二人も、揃って受付嬢に愛想笑いを送ってくる。
―――怪しい。と言うか、キモイ。
それが、受付嬢の率直な感想である。
明らかに板に付いていない、小汚いおっさんの愛想笑いを三人分も目前に据えられても、正直、とても笑い返す気にはならなかった。
キエフから北に二日程の距離にあるという、街道から少し外れた山中の遺跡。そこに最近住み着いた、不思議な剣の格好をしたデビルを退治して欲しい。‥‥と、その依頼自体は、まあいい。このご時世、デビルが何処に現れようと不思議はない。
問題は依頼人達の方であった。
元貴族の大商人とその使用人と言う触れ込みの男達は、控えめに言っても何かを隠しているし、そもそもどう見ても、大商人どころか、揃ってまともな堅気にも見えない面構えである。先祖より受け継いだ、という話も眉唾だ。あの辺りは確か大分以前から、ロシア王国の直轄領ではなかったか?
疑いの眼差しを向ける受付嬢の表情に、何かしらのフォローを入れる必要性を感じたのだろう。
チョビ髭男は大仰にうぉっほんうぉっほん咳払いを繰り返しつつ、懐からすり切れた革袋を取り出した。
「何、心配はいらん。依頼料も、ホラ、こうやってきちんと前払いで払おうではないか!」
受付のカウンターの前に置かれた、それは小さな革袋。
断りを入れつつ内部をあらためた受付嬢は、その金額に驚いた。
少ない。
ギルド規定の依頼料金の、辛うじて最低水準を満たすかどうかと言った額である。時には無料の人助けさえ行う冒険者ギルドだ。額が不満だというわけではないが、仮にも大商人という触れ込みの人物が、自信ありげに提示する金額では有り得ない。
「あ、兄貴! それを出したら、今月分の団の食費が‥‥」
「うるせぇ、四の五の言うな! あの野郎がアジトに居座ってる限り、こっちはおまんまの食い上げだ。多少無理してでも、ここは出すもの出しとく必要があるんだよ!
巨漢が思わず上げた声に、チョビ髭の男は声を荒げて一括する。
‥‥何というか、あーあー、と言った気分で、受付嬢は男達の顔を見た。
デビル退治という依頼そのものに大きな問題はないようではあるが、これは引き受けていいモノだろうか?
実際に上司や、冒険者達の方に話を持っていった方がいいかもしれない。
「えー、ではあちらの部屋で、しばらくお待ち願えますか? 実務担当の者と相談をして参りますので‥‥」
受付嬢はそう言って、男達を部屋に案内する。
―――もし、中で何がどうなっても、大した被害の出ない。安い調度しか置いていない、その部屋に。
『依頼内容:(?)遺跡のデビル退治(?)』
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●遺跡
・キエフから北に、徒歩で二日の距離。街道から少し外れた山中に存在する
・極浅い、一種のダンジョン状の地下建造物。荒らされ尽くした『枯れ遺跡』として、存在は知られている
・罠や鍵の掛かった扉などの類は、現状は(おそらく)存在していない
●依頼人
・元貴族の大商人『アダルベルト』を名乗るチョビ髭のリーダーと、並外れた巨漢ともう一人の男。計三名
・三人とも、遺跡の前まで付いてくる予定
・現地の近くには、商人の『使用人』が、別にもう二十名程いるらしい。力仕事が入り用なら扱き使ってくれ、とのこと
●デビル
・空中をふわふわ浮かぶ、不思議な剣のような姿をしているらしい
・一度、依頼人は『使用人』達と共にデビルに戦いを挑んだそうだが、手も足も出ずに遺跡から叩き出されたとのこと
●リプレイ本文
フィニィ・フォルテン(ea9114)は、それを見てひっくり返った。
すてーん、と。
●
「‥‥だ、大丈夫ですか?! フィニィさん」
「え、ええ。大丈夫です。本当に、大丈夫なんですけど‥‥!」
心配そうに彼女を助け起こす受付嬢に愛想笑いを返しながら、フィニィは再びその、廊下に面した扉の小窓を覗き込む。小さな覗き窓の向こうでは、簡素な室内の中、二人の女性と三人の男がテーブルを挟んで何事かの打ち合わせをしているようだった。
女性二人には見覚えがある。時々ギルドでも見かける冒険者だ。
そして、男性達の方にも、フィニィははっきり見覚えがあった。以前、勝手に公共の橋を占拠して、橋を渡る旅人から通行料をせびっていた盗賊(?)団。フィニィが仲間と共にそんな彼らを壊滅させたのは、去年の夏の事である。しばらく噂を聞かないと思っていたら、一体、いつの間に復帰したのだろう?
「あの三人組、先祖の遺跡をデビルに盗られてしまった、元貴族の大商人という触れ込みなんですけど‥‥。何しろ人相が人相でしょう?」
受付嬢の言葉に、フィニィは大きく頷く。
大胆不敵。ゴロツキのお手本のような面を並べて、元貴族とは恐れ入る。
「‥‥彼らの言ってる事も不自然ですし、正式に依頼としてお引き受けする前に、一度冒険者の皆さんからお話を伺っておこうと思ったのですけど‥‥」
受付嬢は、そこで、ちらりとフィニィの顔を覗き込む。
‥‥彼女のその表情を見ただけでも、結論は出たも同然であった。
「概ね、事情は了解しました。あの方達は、以前街道で不当な通行料を取っていて捕まった人達です。ここに来た詳しい事情は聞いてみない事には判りませんが、あの様子だと、改心したという訳でもなさそうですね‥‥」
と。
どうやら、室内の方も一旦話が中断されるようだ。
覗き窓越しに、ガタガタと席を立つ二人の冒険者の姿を見て、フィニィは慌てて扉の前から身を離す。
余り頭の良くなさそうな面々ではあったが、自分達を壊滅させた冒険者の顔くらいは覚えている事だろう。さっさと捕まえるにしろ、一旦間を置くにしろ、今彼らに顔を見られるのは得策ではない。
「彼女達や私を含め、この依頼に関わる冒険者達全員で、一度作戦会議をする必要があるでしょうね‥‥。そちらのお部屋、借りても良ろしいですか?」
「はい、それはもう」
●
「‥‥うん、盗賊だね」
カグラ・シンヨウ(eb0744)の言葉に、エルマ・リジア(ea9311)も力強く首を縦に振る。
「盗賊でなければ、ゴロツキです!」
―――別室にて。
三人組に対する一応の面会を済ませた二人は、フィニィ、そして併せて依頼に携わる事になったソペリエ・メハイエ(ec5570)と共に、今回の依頼に関する作戦会議を行っていた。
依頼人の三人組が今も現役の盗賊団である事について、四名の冒険者達は速やかに同意を交わす。
例え以前の捕り物の当事者であるフィニィの証言がなくとも、また、対人鑑識などと言う大仰なスキルを持ち出すまでもない。ザルもザル。ちょっと水を向けてやっただけで、自分達の日頃の『事業』にまで得々と説明を始めてしまう有様だ。
「リーダーはあのチョビ髭さんで間違いないようですね。大男さんがその弟分。現地にいる二十名程の子分さんと合わせて全員で、先週までは当たり屋をやって生計を立てていらしたらしいです」
「当たり屋とは?」
エルマの口から出た聞き慣れない言葉に、ソペリエが質問。
答えはカグラの方から。
「通行の馬車に轢かれたフリしてぶつかって、因縁付けて治療費をせびりとる、だったかな。‥‥技術がないと本当に轢かれて痛いんだって。俺はその点名人だって、つるっ禿げさんが自慢してたよ」
「ははぁ、それはまた‥‥」
‥‥愚かというか、何というか。ソペリエも、思わず苦笑い。
「ただ、デビルが出た事は自体は嘘ではないようですね。アジトの遺跡に居たところ、突然宙を浮く剣状のデビル一体の襲撃を受け、反攻虚しく追い出された。困ってる。と言う点は、何度も繰り返し強調されてました」
エルマの言葉に、冒険者達は全員、難しい顔で黙り込んだ。
前科持ちの盗賊風情、幾ら困ったところで知ったこっちゃないワケだが、街道の近くにそのようなデビルが居座ったとすれば、これをそのまま放っておくというわけにも行かない。かと言って余り性急に事を進めてしまうと、デビルと盗賊団を同時に相手に回す事にもなりかねなかった。
盗賊団は捕まえる。
デビルは当然退治する。
ただし、対処は別々に。
ああでもないこうでもないと、作戦会議はしばらく続き―――
一時間後、エルマは再び三人組のところへと戻っていった。
「大変お待たせしました。ご依頼、お引き受けいたします♪」
●
「こう、突然我がアジ‥‥遺跡に襲いかかってきたデビルに対して、それがしは腰の剣をヤアと抜き放った。敵は強い! だがそれがしとて些か腕に覚えのある古強者よ。タァタァタァ! 十、二十と互いに剣を切り結び、飛び散る火花が暗い遺跡を明るく照らす!」
チョビ髭の芝居がかった立ち居振る舞いに、エルマとカグラからはお義理の拍手がペチペチと。
普通に聞けば「もういいよ」と言っているようにしか聞こえないその拍手も、チョビ髭的には称賛の雨あられと聞こえるらしく、身振り手振り、彼の回想シーンの再現は更に熱を帯びる。
と言う訳で。北へ向う、道中である。
相談の結果、三人には道案内をさせた上で、現地の子分達と合流後にまとめて捕まえた方が良いだろうと言う事になり、一行は件の遺跡へ向って、男三人、女四人のメンバーで街道を徒歩で進んでいるところであった。
盗賊達も捕まえるが、デビル達も退治する。その為には道中、当事者である彼らからデビルの様子を聞き出すのも重要な仕事である。
余り女性慣れしていない男達が、直ぐに舞い上がって話を誇張し出すのはウザ‥‥困った点ではあったが、デビルを何とかしたいという気持ち自体に嘘はないのだろう。遺跡の構造、デビルのおおよその位置について、男達の情報提供に淀みはない。
「あいつよぉ、ずっこいんだよ。幾らハンマーでぶん殴っても、痛いとも何とも言いやしねぇ。魔法以外は効かないって、後で兄貴に聞いたんだけど。ホント、ずっこいよなぁ」
「それはまた、ご愁傷様で‥‥」
禿げ巨漢の愚痴に、フィニィは割と適当な相槌を返す。
「だろう? ‥‥シャミィだっけ? あんた、いい人だな」
「シャリー、です」
禿げ巨漢の出した名前を、フィニィは訂正する。
勿論、偽名だ。冒険者一行の中で、唯一面の割れているフィニィだけは、今回偽名を使い、髪型や化粧の感じも多少いつもとは変えている。変装と言う程の物でもないのだが、男達には特に怪しむ様子も見られなかった。‥‥この分だと素顔のままでも問題はなかったかも知れない。
「あの、ところで、そろそろ目的地の近くなんですが、あそこの男達は何なのでしょう?」
先頭を馬で進むソペリエが、道の先に何やら見つけたらしく、背後の一行を振り返る。
直ぐに他の者達も気が付いた。
前方の道の両脇に二十人ばかり、ずらりと並ぶ男達。その揃いも揃ったゴロツキ面に、我知らず腰の魔剣を抜きかけるソペリエだが、そんな彼女をチョビ髭が鷹揚に、且つ偉そうに押し止める。
「いやいや、驚かしてすまないな。今日辺り帰ると言ってたもんだから、子ぶ‥‥使用人達が気を利かして出迎えてくれたのだろう。おおぃ、お前ら、今帰ったぞ!」
チョビ髭の言葉に、並んだゴロツキ達は一斉に胴間声を張り上げた。
『お帰りなさいやし、アダルベルトの親分!!』
‥‥もう、騙す気さえ、あるのかないのか。
ここまで来ると、いっそのこと清々しいくらい。
敬愛する、親分のお出迎え。その名も高きアダルベルト鮮血旅団、総勢二十二名の揃い踏み!
●
その日の晩。
英気を養い、明日のデビル退治の前の景気付けにと。そんな適当な理由で冒険者側から持ちかけられた宴会の提案は、至極簡単に、男達の熱烈な賛意の元に了承された。何を隠そう、アダルベルト鮮血旅団。女と酒と食い物を前に、遠慮するような者など一人もいない!
「お〜い、三つ編みのねーちゃん! こっちつまみ!」
「こっちは酒だ!」
「は〜ぁい」
大きな焚き火を囲んで車座に座った男達の間を、巫女服姿のカグラが酒とつまみを載せたお盆を両手に、くるくると巡る。
つまみと言っても何しろ人数が多いので、カグラの持参した新巻鮭一本だけではとうてい足りぬ。その為、殆どの男達は保存食を適当に盛り直しただけの物をつまんでいただけだが、特に不満はないらしい。その代わり、フィニィやカグラの持ち寄った発泡酒は、みるみる内にその残量を減らしていく。
「いやぁ、食料や酒樽も、逃げる時に遺跡の中に置きっぱなしでよ。酒を飲んだのも一週間ぶりだぜ」
「済まねぇなぁ。デビル退治をしてくれる冒険者に、こんな飯までたかっちまってよ。俺ら、冒険者って輩を、ちょっと勘違いしてたみたいだわ」
「‥‥あら、と言うと、以前にも冒険者と何か関係が?」
発泡酒をきこしめし、すっかり赤ら顔の男達。
フィニィはそんな彼らにお酌をしながら、さり気なく、その話に水を向ける。
「いやぁ、詳しくは言えねーんだけどよ。以前、俺ら冒険者にひどい目に会わされたのよ」
「そうそう、汚ねーよなぁ、あれは。騙し討ちだぜ?」
「騙し討ちですか。それはいけませんね! ‥‥ところで、皆さん、もう一杯」
男達の脇から、エルマがすかさず酒を注ぐ。
おいおい、もういいよ、飲み過ぎた。そんな事言わずに、もう一杯♪
‥‥そんな会話が車座の中、右から左から輪唱のように聞こえてくる。
どうやら、フィニィもエルマも上手くやっているらしい(残念ながら、遙かに上背の高いジャイアント族のソペリエだけは、男達からは余り受けがよろしくない)。給仕に走るカグラからすれば、その場の酒量の消費ペースは空恐ろしい程の勢いだ。
(セーラ様、ごめんなさい)
天手古舞いに走り回りながら、カグラは心中密かに、慈愛の女神に祈りを捧げる。今後のため、彼らの為にも今は彼らを騙します‥‥。
「ホント、悪い女もいたものですね♪ さあ、もう一杯召し上がれ」
「貴方たちを騙すなんて、なんて悪い奴らでしょう! ‥‥あ、そちら、コップが空いてますよ?」
カグラの内心の祈りを知ってか知らずか、フィニィとエルマのお酌捌きはいよいよ絶好調。
『以前、彼らを騙した性悪な女冒険者達』の話題が盛り上がる程に、自然自然と、男達の酒も限度を超える。自らは全く酒を飲まず、いつしか蛙を狙う蛇の視線で、執拗に酌を繰り返す彼女達の振る舞いにも、すっかり出来上がった男達は疑念の一つも抱かない。
「ああ、思い出すなぁ、去年のあの日の、あの晩を」
リーダー格のチョビ髭男が、フィニィのお酌を受けながら、酒精に濁った視線を宙に据える。
「あの日も、こんないい気分だった。音楽に踊り。隣にゃ美人、旨い酒。あの女達が、揃って冒険者だったなんて、まるで悪い冗談のようだぜ‥‥おや、シャリー、あんたどうしたんだ?」
チョビ髭が、ポニーテールを下ろしたフィニィに声を掛ける。
―――あれ? この女のこの髪型、いつか何処かで見たような‥‥?
思えば、それがアダルベルト鮮血旅団が罠を避ける事の出来た、最後のチャンスだったのかも知れない。
しかし、チョビ髭以下総勢二十二名。野生の勘に身を任すには、些か酒が過ぎたようだ。
部下達は皆、呑むだけ呑んで、半分方はとうの昔に高鼾。
その部下達の間を縫って、チョビ髭―――アダルベルトに、女達が近付いてくる。
銀髪の女も、お下げの巫女も、でかい女戦士も、手に手にロープを携えて‥‥
「ねえ、アダルベルトさん?」
髪を下ろし、化粧を拭ったシャリーが、ゆっくりとアダルベルトに振り返る。
にっこり笑顔で、手にはロープ。
周囲はいつの間にか、四人の女達にすっかり取り囲まれていた。
「あなたが去年見た女とやらは、こんな顔をしていたでしょうか‥‥?!」
フィニィのその言葉。その顔。
アダルベルトの脳裏に、刹那、甦ったその記憶!
彼が、またしても女性達の罠に引っ掛かったのを悟った時には、全てが全て、手遅れで―――
‥‥翌日、デビルを退治する為に地下の遺跡に潜る冒険者達を、ロープで縛られ、転がされたままの男達から沸き上がる、盛大なブーイングが見送った。
●
「ふはははは! どうやら、我を振るうに足る、多少はマシな輩がやってきたようだな?!」
食器や洗濯物の散らばる、微妙な生活感の漂う地下遺跡の奥。
元はアダルベルトの居室代わりだというその部屋で、デビルソードはその鋭い切っ先を冒険者達に向ける。剣そのものの姿をした異形のデビル。戦士を誘惑し、自らを用いて悲劇を起こさせることを好む悪魔の剣。
「質問があるのですが‥‥」
パーティーの先頭に立ち、油断なくデビルスレイヤーを向けながら、ソペリエを剣に声を掛ける。
「何故、あの盗賊達から、適当な戦士を見繕わなかったのですか? 中には、随分と剣の腕の立つ者もいたようですが‥‥?」
ソペリエの尤もな質問に対して、しかし、デビルは呵々と大笑い。
「ははは! 言うに事を欠いて、何を愚かな事を! それでは逆に聞くが、お主達が剣になったとして、あのようなアホ共に振るわれたいと思うか否か。さあどうだ?!」
「‥‥うん、振るわれたくはないよね」
「同意」
「同感」
正直に言葉を返す仲間達を背に、ソペリエは魔剣の柄を握り直す。
デビルに敵対する神の戦士。神聖騎士のソペリエと言えども、時には悪魔の言葉に一分の理を認めざるを得ない時もある。
デッドorライブによる防御の構えを取りつつ、ソペリエは大きく息を吐いた。
「デビルよ。今からあなたは滅せられる。それでも、最後に応えましょう‥‥同感です、と!」
その言葉を潮に、宙を飛び、冒険者達に躍り掛かる悪魔の剣。
迎え撃つ、ソペリエの魔剣と、幾状もの魔法の光撃。
両者の戦いは、激しく―――そして短い。
●
デビルとの死闘を終え、何とか全員無事に地下遺跡から戻った冒険者達。
彼女達を出迎えたのは、刃物で切られたと覚しき、地に散らばる無数のロープ。
「‥‥逃げられた、みたいだね」
カグラが、茫洋と呟いた。
遺跡に入る際にも、一人くらい、見張りを残しておくべきだったか?
昆虫程にも知恵の働かぬお馬鹿集団かと思っていたが、中々どうして、逃げ足だけは立派なものだ!
「取りあえず‥‥どうしましょうか?」
フィニィが困ったように仲間の方を振り返る。
とは言え、他の者にも、遙かに逃げ散った二十余名もの男達を、また捕まえ直す妙案などあろう筈もない。
しばしの沈黙の末に、誰かが言った。
まあ、依頼料は先払いで頂いてますからと、そう一言。