【結婚式】春めく二人と、そうでない者共

■ショートシナリオ


担当:たかおかとしや

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:3人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月31日〜04月06日

リプレイ公開日:2009年04月08日

●オープニング

「今度、私達結婚するんです♪」
 そんなまぶしい笑顔で言われたら、もう、こう返すしかないではないか。
「‥‥それは、おめでとうございます」




 その若い夫婦(いや、まだ結婚はしていないみたいだが)は、冒険者ギルドに着くなり、受付嬢に対してそう宣った。
 あまり事情の飲み込めないまま、適当なお愛想を返す受付嬢に対して、そのまま二人は幸せな寝言を垂れ流す。式場は何処にしよう、料理は何を出そう。式には誰を呼ぼうか、どれだけ呼ぼうか。結婚式の進行から、果ては二人の馴初め、恋に陥る過程まで。
 初めは大人しく聞いていた受付嬢も、意図の見えぬ惚気話に、だんだん向かっ腹が立ってきた。
 この二人は何しにここに来たのだろう?
 まさか、独身の私に対する当てつけではないかしら?
「‥‥あの、大変申し訳ありませんが、挙式についてのご相談なら、ここよりも教会に行って頂いた方が宜しいかと思いますが‥‥?!」
 多少語尾を強めに、受付嬢は強引に話の流れに斬り込んだ。
 冒険者ギルドは忙しく、受付である彼女もまた、忙しい。そう長々と、式後のパーティーには白パンと焼きケーキを幾つ出すか等という話に時間を取られるわけには行かないのだ。

 若い二人は、受付嬢のその言葉にハッとなった。
 ―――なった途端に、落ち込んだ。
 鬱陶しいくらいの幸せボイスが、一転、この世の終末を垣間見た預言者のような、哀切の響きにとって換わる。
「‥‥そうなんです。僕達、こちらに頼み事があって来たんです」
「私達の結婚をこころよく思わない相手が、式の妨害を計画しているという噂があって‥‥」
「相手は妨害の為に、どうやら近くのならず者まで雇ったそうで、このままでは、とても結婚式どころではありません!」
 なるほど。短気を起こして、二人を追い出す前にこの話が聞けて良かった。
 ここに至ってようやく受付嬢にも、二人が教会ではなく、冒険者ギルドに来たワケが飲み込める。

「えー、つまり、お二人の結婚式の警護をして欲しいと。そういうご要望ですね?」
「そうです!」
「式まで、あと幾日もありません。どうか、宜しくお願いします!」
 そう言って二人は、今度は結婚式を妨害しようとしているという、その不埒者についての話を語り始めた。
 彼女に横恋慕した、隣村の富農の家のどら息子。既に結婚を約束した彼がいると言っても耳を貸さず、彼女に頻繁に贈り物を送って寄越しては、感謝の言葉を強要する嫌な奴。どれだけ嫌な奴か、どれだけいやらしい奴か。贈り物のセンスの悪さから、果ては男の口が臭いところまで!

 呼吸を合わせ、交互にどら息子の欠点をあげつらう二人を前に、受付嬢は横を向いてこっそり溜息をつく。
 式後のパーティーの献立と、どら息子の欠点と、目の前の二人の仲がいいことについては、不必要なまでによく理解できた。
 本人達の為にも、そして世の中の為にも、こう言う二人はさっさと片付いていって貰うに限るというもの。
 受付嬢は手元の書類に、手早く、こう書き記す。


 『依頼内容:結婚式の警護。ただし、妨害勢力の乱入が予想される』

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●場所
 ・キエフから北に、徒歩で二日の距離にある農村
 ・結婚式は、その村にある教会で行われる予定

●依頼人の二人
 ・ポリス(婿)とミンナ(嫁)。二人は村の幼馴染み
 ・両家の親同士も知り合いで、今回の結婚は順当な祝福を受けている様子

●結婚式
 ・ジーザス教[黒]の宗派による、結婚式
 ・依頼開始四日目の、午前中から開催予定
 ・教会での結婚式の後は、そのまま教会の敷地内で、野外パーティーが行われる予定
 ・参列者は両家の親族、近くの家の者などを中心に四十〜五十人程

●教会
 ・教会の周囲は、正面と裏の二つの出入り口を除き、高さ一メートル程の石垣に覆われている
 ・パーティーなどの催しは、教会の前庭で行われる予定
 ・教会の裏手、石垣の外には、多少距離を離して村の墓地が併設されている

●隣村のどら息子
 ・川一本挟んだ隣村の、とある富農の次男
 ・普段からあまり素行はよくなく、村外のならず者と以前から交流があるという噂
 ・ここ数日、実家には寄りついていない
 ・見慣れぬ複数の男達と、村の外れで何やら話し合っている姿を目撃されている

●今回の参加者

 eb2011 東雲 魅憑(36歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

クリスティアン・クリスティン(eb5297)/ ジルベール・ダリエ(ec5609)/ ニノン・サジュマン(ec5845

●リプレイ本文

 村外れの、今では殆ど使われていない作業小屋。
 その小屋の裏手で、人目を忍ぶようにして数名の男達が怪しい相談に花を咲かせていた。
 皆一様に絵に描いたような悪党面である。内一人などは筋肉隆々、小屋の上からつるりとした禿頭が突き出る程の並外れた巨漢だった。
 何か楽しい事でもあるのだろうか? 時折、男達からドッと歓声が巻き起こる。

「本当にいいのかい? こんなに貰っちまって」
「何、構やしねぇ。どうせ親父の金なんだ。‥‥それより頼むぜ、上手い事行ったら後金もきちんと払うからよ」
「任せとけよ、コースチ。結婚式をぶち壊せばそれでいいんだろ?」
 男達は、コースチと呼ばれる男から受け取った数枚の金貨を陽にかざして見る。眩しい金貨の輝きに、男達の意気も上々だ。
「ああ。ついでに、あのポリスの野郎も適当にぶん殴っといてくれねぇか。その情けない有様を見たら、ミンナも奴と結婚なんてする気は失せるだろうからな」

「おし、任せとけ!」
 コースチの言葉に、禿げ巨漢がその逞しい胸をドカンと叩く。
「そう言う事なら俺達の右に出る奴らはちょっといねぇ。大船に乗った気でいてくれよな!」




「当日は色々とお騒がせするかとも思いますけど、どうか宜しくお願いしますわね」
 東雲魅憑(eb2011)がそう言って老司祭に頭を下げると、サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)、ヴィタリー・チャイカ(ec5023)ら二人も揃って頭を下げる。勿論、結婚の当事者であるところの依頼人、ポリスとミンナも一緒にぺこり。
「おお、話は聞きましたぞ。二人ともすっかり立派になって! お前達が鼻を垂らして村を走り回っていた頃が、全く夢のようじゃわい。‥‥じゃが、コースチのどら息子は、どうやらあまり成長をしとらんようじゃな」

 今回、依頼を引き受けた冒険者達三名。
 彼らは馬を駆り、キエフを出発したその翌日には依頼人達の住む北の村にまで無事に到着していた(ヴィタリーが道中の弁当をすっかり忘れて仲間の世話になった事くらいは、まあ「無事」の範疇に入れてもよいだろう)。
 問題の結婚式は既に明後日に迫っている。
 早速村の教会まで挨拶に赴いた冒険者達は、そこの老司祭に対して依頼人の事情を全て打ち明けた。ポリスとミンナ、そしてミンナに横恋慕して式の妨害を企むコースチのどら息子。さらには、どうやらコースチは近在のならず者まで雇い入れた事まで。

「そこで恐縮なんだが、俺を式の進行補助役として加えて貰えないだろうか? なるべく貴方や、依頼人の二人に近いところで護衛がしたい。これでもクレリックなので、式の方でも実際にお手伝いできると思うんだが」
「それはそれは。当日はかなり忙しくなるじゃろうから、手伝って頂けるのならこちらからお礼申し上げたいくらいですな。宜しくお願いしますよ」
 ヴィタリーの提案を、老司祭は愛想よく了承する。
 ならず者の話を聞いても、コースチのどら息子ぶりを嘆くばかりで、老司祭に特にこれと言って驚いた様子も見られない。さもありなんと言う事のようで、どうやらコースチの横恋慕ぶりは村中に知れ渡っている事柄らしい。

「ねぇ司祭様?」
 ヴィタリーの後を継いだ東雲が、しなり、としなを作って老司祭に声を掛ける。
「そのコースチちゃんの事だけど、何か知ってる事があれば教えて貰えないかしら」
「ああ、何でも知っとるとも! コースチも子供の頃は、よく裏の墓地にも遊びに来てたもんじゃった。聞かん坊な子供じゃったが、まだそのくせは治っとらんようじゃで」
「まあ流石司祭様、頼りになるわ☆ 詳しいお話、伺っても宜しいかしら?」
 また、しなり。
 東雲の服は、あちこちが開いてカットされてスリットの入った、その名もセクシーパラダイス。
 ロシアの春先には些か涼しすぎる格好ではあるが、俄然張り切りだした老司祭を見るに、着て来た甲斐はあったようで‥‥。




 どら息子さんたら、随分とまあご立派な性根の方ですのね!
 ‥‥と言うサシャの当初の感想は、老司祭と話し込む東雲と一旦別れた後、ヴィタリーと二人で訪れた先の隣村で更に強化された。何しろまずは穏便にと、友人を名乗って家を訪れた二人に対する、コースチの父親の第一声からしてこれである。

「友人? あいつの友人となると、野盗か山賊の類かね。数日前に家の金を持ち出したっきり、コースチの行方が判らんのだが、あんたら、息子にあったら伝えてくれ。もう二度とこの家の敷居は跨がせんぞと!」
 何でもコースチは、ミンナの結婚話を聞いた次の日には、家の金をくすねて出て行ったまま未だ帰っていないという。慌ててヴィタリーが実は冒険者なんですと身分を明かすと、今度は金を払うから息子を捕まえてくれと頼んでくる始末だ。一体幾ら持ち出されたのだと聞くと、50G。農民としてはそこそこ裕福な暮らしをしていると言っても、おいそれと許容の出来る金額ではない。

「全く、信じられませんわ! これは結婚されるお二人だけではなく、親御さんと、そして当のどら息子さん自身の為にも性根を叩き直して差し上げないと」
「本当に。‥‥しかし、話に聞いた村外れには居なかったな。一体今どこにいるものか‥‥」
 村の道をぷりぷりと頬を膨らまして歩くサシャの隣を、思案顔のヴィタリーが並んで歩く。
 さして広くない村である。先程のコースチの両親を筆頭に、どら息子殿の人となりを尋ねて村中を回った二人は、御陰でゲップが出る程の『どら』ぶりを味わった。

 曰く「コースチが横恋慕? またかね?」
 曰く「ならず者共と付き合うのは見過ごせんわなぁ。アダルベラト団? とか何とか言ってたっけ」
 曰く「我が儘で、人の話は聞かないし。取り柄と言えば金払いがいい事くらいだが、あいつはそれを笠に着て恩を着せてくるから‥‥」

 交友関係はそれなりに広いが、コースチに対する他人からの評価は最悪だ。
 根性と性根はひね曲がり、我が儘で思い込みは強いが腕っ節の方はからっきし。ミンナの結婚式を妨害すると息巻いて流石に周囲から諫められると、もうお前らには頼まねぇよ! と村を出て行ったのが数日前。
「‥‥で、頼った先が件のならず者達というわけですのね。‥‥アダラベラト? アダルベルト団、でしたかしら」
「そのアダル何某、という野盗なのか何なのか。とにかく以前から付き合いのあったそいつらに頼ったというのは、どうやら確からしい。五人くらいの見慣れぬ怪しい男達と一緒に、彼が村外れを歩いているのが目撃されている。男達の一人は、見上げる程の大男だという話だが‥‥」
 ヴィタリーは言葉を切る。
 コースチが目撃され場所へ実際に行ってはみたものの、残念ながらこれと言った手掛かりは発見できなかった。
 目撃した村人の話によると、その時コースチの隣にいた男は筋肉隆々、並外れた大男だという。そんな奴が結婚式に顔を出せば、確かに式を潰す事など造作もないに違いない。
 サシャが、傍らのヴィタリーを見上げる。
「一旦、帰って話をまとめましょう。式は明後日ですもの。忙しくなりますわ」




 その日、そして次の日はあっと言う間に過ぎ去った。
 出席者のリストを作り、ヴィタリーの友人の助言に従い、教会裏手側の出入り口を板で塞ぐ。加えて、老司祭よりも遙かに儀典に詳しい事が判ったヴィタリーは、いつのまにか式そのものの準備をすっかり任されて大忙しだ。東雲やサシャも、女手であると言うだけで当日の御馳走の準備に大いに扱き使われ、もしや自分達はこの為に呼ばれたのではと一度ならず疑いを抱いた程である。
 そして当日。
 式の準備は整った。
 野外に設置された食卓の上には、天板がしなる程の大量の料理が並べられ、それぞれに装った村人達が続々と教会に押し寄せる。何処から聞きつけたのか、バードや楽士連中までもが楽器片手にやってきた。
 青い空に、笛と竪琴の音が高らかに響き渡る。
 結婚式だ!

「はいはい、ナジェンダさんにドミニーカさん、と」
「スタニスラーフさんですわね。ご出席頂き、ありがとうございます!」
 入り口で行われる訪問客とリストとの照合は、識字者でないと出来ない作業である。いきおい東雲とサシャの二人に対する負担は大きくなり(ヴィタリーは式次第の確認で、今頃はもっと忙しい)、初めはちょっと裏の様子を確かめに行こうか、なんて思っていたものの、次々と押し寄せる客の多さにすぐにそんな余裕はなくなった。

「ふう、やれやれね。リスト外のお客も多いけど、この分じゃ村の人がみんなやって来るんじゃないかしら?」
「それだけ、ボリスさんとミンナさんのご結婚が祝福されているという事ですわ。‥‥ただ、警備を預かる者としては、多少不安も残るところですけど‥‥」
 ようやく手が空いてきたところで、東雲とサシャが顔を見合わせる。
 式の開始まではもうまもなくの筈だが、司祭やヴィタリー、新郎新婦らの姿はまだ見えない。
「東雲さん、今までのところで、何か怪しい方は見られました?」
「んー、余所者だって人は多少見たけど、流石に見上げる程の大男ってのはいないわねぇ‥‥?」
 言いながら、東雲は背後の様子を振り返る。
 百人近い老若男女が、教会の前庭でワイワイガヤガヤ。その人混みの何処にも、見上げるような大男など入り込んではいなかった。

「‥‥あれ? なんだここ。名前言わねぇと、中に入れねぇのか?」
「ああ、すいません。ご出席ありがとうござい‥‥」
 頭上から突然降ってきた声に、東雲は慌てて営業スマイルと共に振り返って‥‥
 ―――こいつだ。




 教会の入り口。そのすぐ外に置かれた受付用の机の前に、五人の男達が立っていた。
 野盗か山賊か、と言ったコースチの父親の評は、こうして実物を目の当たりにすると随分納得できる。目前の、二メートルを遙かに超す身長の禿頭の大男に至っては、最早冗談としか思えない。

「‥‥えーっと、皆様はコースチさんのお友達ですの?」
「コースチちゃんのお友達なら、特別扱いよ? うんとサービスしちゃうから☆」
「へ、サービス? えへへ、なんか悪いなぁ」
 二人の言葉に、男達は他愛なく相好を崩す。面が悪い分、根は素直であるらしい。‥‥面に比例して、頭の中身も悪いだけなのかも知れないが。
「まあ、お客さん。すごい筋肉ね♪ 逞しい人、私嫌いじゃないのよ?」
「さあ、後ろの皆様方も。料理やお酒も準備してありますわ。どうぞ、こちらへ」
 女性二人に手を引かれ、手もなく教会の裏手へ誘導されていく男達。もし後ろからその声が聞こえなければ、裏の墓地に連れて行かれるまで、男達は『サービス』の中身を疑う事さえなかったに違いない。

「お前達、何騙されてんだよ! そっちは墓地だ、教会の入り口はこっちだぞ!」と。
 後ろから響くその声に、男達は我に返る。
 声の出所は、背後からやって来たもう一人の男。話に聞いた容貌に一致する。
 間違いない、コースチのどら息子だ。
「アブねぇアブねぇ、危うく騙されるところだったぜ!」
 男達が東雲達から距離を取った。東雲が内心で舌打ちをする。ここはまだ教会の敷地のすぐ側だ。敷地を囲むたった一メートルしかない背の低い石垣では、とても足止めにはならないだろう。

「頼むぜ? 式が始まるのはもうすぐだ。今から式に乗り込めば、蜂の巣を突いたみてぇな大騒ぎになるぜ!」
「コースチさん、何故貴方はこのような無体な事をなさるのですか?!」
 サシャの言葉を、コースチは鼻で笑う。
「は、知れた事よ。ボリスの野郎が情けねぇ男だって事を、ミンナに教えてやるのさ!」
「随分勝手な言い草ねぇ? 仲間に頼んで式に乱入する男の方が、よっぽど情けないと思うんだけど?」
 東雲が鞭を男達に向けて構える。
 騒ぎを大きくはしたくないが、男達にこの石垣を越えさせるわけにはいかない。
「うるせぇ! ミンナもすぐに気が付くさ。結局、誰が一番ミンナを幸せに出来るのかをな!」

 叫び様、コースチが走り出した。
 釣られて、その他の男達も教会の敷地に向かって走り始める。
「あ、馬鹿!」
 慌てて東雲が男達の一人の足に鞭を飛ばすが、とてもではないがコースチや大男の方へは手が回らない。
 間に合わないか?!

 ―――いや、間に合った!
 空から降ってきた、赤と緑、金糸銀糸に包まれた花嫁衣装のミンナの姿!




「やっぱり、私ボリスとは結婚したくないの。お願い、コースチ、私を連れて逃げて!」
 白いヴェールもそのままに訴えかけるヴィ‥‥いやいや、勿論ミンナの悲痛な叫びに、コースチは感極まって涙を流す。
「だろう! そうだろう! ボリスみたいな貧乏農家の倅、俺の足下にも及ばねぇさ!」
「ええ、そうよ。私、貴方の愛にようやく気が付いたの!」
 突然、グッドタイミングで空から箒に乗って下りてきたヴィ‥‥ミンナの登場の不自然さにも、すっかり頭の茹で上がったコースチは気が付かない。事態の急展開に、大男ら助っ人達は何が何やら。一方の冒険者側女性陣は、笑いを堪えるのにもう必死!

「手遅れになる前に、お前が気が付いてくれて嬉しいぜ。そうだ、丁度いい! 折角の花嫁衣装で、ここは教会だ。俺達もここで愛の誓いを交わそうじゃないか!」
「え? 愛の誓いって‥‥」
 物凄く嫌な予感のするヴィ‥‥ミンナの前で、コースチは目を閉じ、ミンナを抱きしめて顔を近づける。
「さあ、ミンナ! ボリスの事なんか、俺のこの熱いキッスで忘れさせてやるさ!」
「え!? ちょっ‥‥ま、待ってってっ‥‥!」

(‥‥笑っちゃ駄目ですわ、東雲さん!)
(サシャちゃんこそ、笑い声が漏れてるわよ!)
 笑いを堪える女性陣の前で、ヴィ‥‥ミンナは何とか逃げ場はないモノかと周囲に視線を走らせる。
 ない。
 待て待て待て待て!
 目前に迫る、嫌さ爆発の熱いベーゼまであと三センチ!
「さあ、二人の愛を確かめようぜ!」
「い、や、だぁぁあぁぁぁ―――っ!!」
 ミンナの姿にミミクリーで化けていたヴィタリーの手から、ブラックホーリーの黒い光が迸る‥‥!




 ―――美しい鐘の音が教会の周囲に鳴り響く。
「心を入れ替えて誠実に生きて下さい。そうすれば、いつかきっと貴方の運命の人に出会えますわ」
 東雲のスリープでぐっすり眠った大男達の隣で、サシャからお説教を受けるコースチ。縛られたロープのせいか、呪文の跡が痛いのか、コースチはすっかりふて腐れて目前のサシャの顔を見ようともしない。

「あはは、可愛かった! 名演技だったわよ、ヴィタリー君♪」
 大いに笑いながらバシバシとヴィタリーの背中を叩きまくる東雲の横で、心なしか、ヴィタリーも不満そう。コースチをはじめ、男達が式に乱入する事は全く未然に防ぐ事が出来たのだ。一体何が不満なのだというのだろう?

 そんな彼らの元に、鐘の音と、人々の大きな歓声が聞こえてくる。
 無事に愛の誓いが交わされたと言う、それが何よりの証拠であった。