【盗賊退治】アダルベルト鮮血旅団!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:たかおかとしや
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 9 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月21日〜06月27日
リプレイ公開日:2008年06月28日
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●オープニング
「うぉっほん! 通行税は確かに徴収された。行ってよろしい!」
古い、木造の橋のたもとで。
鎧を着込んだ必要以上に偉そうな男が、必要以上に偉そうな身振りで旅の商人から銅貨を徴収している。男の背後で、にやにやと薄ら笑いを浮かべる数人のごろつき達。
悔しそうな旅商人が馬を引き、橋を渡り終えるのと同時に、男達は堪えきれずに爆笑した。
彼らの名前は『アダルベルト鮮血旅団』。
その名も天下に隠れなき、ただのごろつきである。それも、割と下の方の―――
「あ、兄貴! す、す、すげーや、あいつよぉ、騙されてよぉ、本当に通行税置いてったぜぇ?」
「あたぼうよ! おれっちのこの格好を見れば、何処の何方も徴税官と疑いもしねぇ! 盗賊も、これからの時代はココを使わねぇとな」
一際図抜けた巨漢から兄貴分呼ばわりされたのは、先ほど通行税とやらを徴収していた鎧の男。もしかして、この鎧姿は、彼的なイメージによる徴税官の姿であるらしい。
鎧の男は、自らの頭を親指で指し示して高笑い。
「さっきの商人、見たかお前ら? まるっきり、こっちを本物だと信じて疑いもしやがらねぇ! 商人ってのは意外と馬鹿なもんだなぁ?」
「兄貴の作戦が凄すぎるんだよ。そ、そりゃあ、あの商人も、ちょっと馬鹿かもしれないけどさぁ」
「かっかっ。違ぇねぇ! 全くいい商売を思いついたもんだぜ」
どっちが馬鹿だ! ‥‥と、誰かがいればツッコミを入れざるを得ない程の脳天気ぶりである。
下卑たごろつき達に、古い継ぎ接ぎの鎧を着た男と、2mを超す禿頭の大男。これで彼らを野党の類と思わない方がどうかしているが、本人達は知性派盗賊団のつもりなのだから恐れ入る。
「さぁお前ら、この調子でどんどん稼ぐぞ! いいか、見張りは怠るんじゃねぇぞ!」
鎧男の掛け声に、総勢十数人ほどのごろつき達は一斉に鬨の声を上げて散っていった。
―――その男達の様子を、近くの木立の陰からじっと見守っている先ほどの旅商人。
噛み締められた唇と、木肌に刻まれた五筋のひっかき傷。
男泣きに、悔し涙が滂沱と頬を伝う。
「お、おお、おお、覚えていろよぉ、ごろつきどもぉ! 誰が馬鹿だ! 誰が騙されるか! 穏便に金で済ましてやったら、好き勝手つけ上がりやがってぇぇぇ〜〜!!」
●
『ドニエプロ川の支流の小さな橋で、徴税官と名乗るごろつき達が、旅人から通行料を巻き上げている』
半泣きの旅商人がそう言って、キエフの冒険者ギルドに駆け込んできたのはその翌々日のことであった。
同様の被害の報告は、既にあちこちから上げられている。
激高し、悔し涙の止まらぬ依頼人をなだめすかし、受付嬢がなんとか依頼を文書の形に仕上げたのはさらにそれから数時間後のこと。彼女の手によって、涙の跡も生々しい、新たな依頼書が壁に掲示される。
『依頼内容:橋を違法占有する盗賊団退治(自称:アダルベルト鮮血旅団)』
●リプレイ本文
今日は随分といい天気だ。
最近はめっきり暖かくなり、河の水も随分温くなった。それはこの北の地にも夏が近づいてきているという、確かな証拠でもある。樹木の葉は青々と色づき、広大なステップに広がる緑の絨毯に限りはない。
そして、夏の訪れを歓迎するのは、なにも植物だけとは限らない。
暖かくなって色づき始めるモノと言えばなんだろう?
―――そう。ご存じ、我らが『アダルベルト鮮血旅団』!
●
「うぉっほん! 通行税は確かに徴収された。行ってよろしい!」
鎧男の口上も慣れたもの。毎日毎日同じ台詞を繰り返していれば、嫌でも流暢になるだろう。
恐るべき事に、『それっぽい鎧を着て、ふんぞり返って橋の通行料を要求すれば徴税官に見えるだろう』という、彼らの不敵千万な計略は、今のところ上手くいっているようであった。
「親分、アダルベルトの親分! 来ましたぜ、すっげー獲物が来ましたぜ!」
そんな平和な昼下がり。
街道を見張っていた筈の下っ端の一人が、橋の袂の鎧男の元へ、いやに慌てて戻ってくる。アダルベルトなる、不相応にカッコイイ名前で呼ばれた鎧男は、しかし、不機嫌な表情で下っ端を睨み付けた。
「馬鹿野郎! 仕事中はアダルベルト徴税官と呼べと言ってるだろうが! ‥‥で? 獲物がどうしたって? エチゴヤの荷馬車でも通りかかったか?」
「すいやせん、徴税官! それがですね、いやもう、すっげーんでさ! 女が! ボンッキュボンッ! でピチピチの女ばかりの四人組が向こうからやってくるんですよ。ほら、あすこ!」
「女だとぉ?」
下っ端が指し示す道の先。
鎧男は胡乱気な目つきで振り返り‥‥見た。見てしまった。ほんの数百メートル向こうを歩く、馬を引き、妖精を連れた女達の姿を。
男はいない。護衛もいない。
可愛い。美人だ。か弱そう。そしてなにより色っぽい!
「女?!」
「本当だ、四人いる! 美人だぞ!」
男ばかりの集団で、何しろ女日照りが長かった。今の今まで、三々五々にくだを巻いていたごろつき達が、女と聞くや目の色変えて立ち上がる。
「あ、兄貴ぃ。ホントだ、ホントに女達が来たぜ! ‥‥おれ、あの娘がいいなぁ‥‥」
「馬鹿! デカイ図体して、がっつくんじゃねぇ! しかしまあ、真面目に働いてればいいことがあるってなぁ本当だな。よし、野郎ども、仕事だ! 今回は期待していいぞ!」
「ぅおおー!」
アダルベルト鮮血旅団は幸運だ。
いや、幸運だった。今までは。彼女たちが来るまでは。
「‥‥おおーって、何を期待しているんだろうね、ごろつき君達は」
「おバカさんがいい気になるのも、今のうちだよね〜☆」『ね〜☆』
エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)はこっそり魔剣を背負い直し、シャリン・シャラン(eb3232)は羽を震わせ、ペットのフレアと声を合わせる。
「それでは皆さん、手筈通りと言うことで‥‥」
フィニィ・フォルテン(ea9114)のテレパシーが、全員の意思を統一させた。
互いの目が通じ合い、彼女たちは揃って頷く。
盗賊たちの待つ橋はもう目の前だ。
「それじゃあ、いきましょう。彼らの稼業も今日限りね」
気勢を上げるごろつきたちに、サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)はにっこり笑って片手を振った。
エキゾチックな微笑みの、裏に隠れた悪魔の笑顔。
アダルベルト鮮血旅団は幸運だった。
その幸運が潰えた事を、男達はまだ知らない。
●
彼女たち、冒険者一行四人娘の作戦はある意味単純。
女ばかりの旅芸人一座だと油断させ、通行料の代わりに芸を見せると宴席を用意。散々酔わせた上で一味を一網打尽。ボスはひっくくって依頼人に引き渡す。それだけといえばそれだけの、ある意味直球。
―――ただ投げた球が剛速球だ。
橋の袂で、色めきたって一行を出迎えたごろつき達を、先頭に立つサイーラの紫眼がねっとりと睨めあげる。
「‥‥あら皆さん、こんなところで一体なんの御用なのかしら?」
それだけで、男達の膝が震える。
素の美貌に加え、各種魔法具でブーストされたその魅力は、文字通りの魔性の粋。
応えようと前に出た鎧男の脳髄を、目にも綾な装身具の輝きが蠱惑する。
「お、あ、う‥‥うぉっほん! そ、それがしはアダルベルト徴税官である! 現在この橋で、通行税の徴収の任にあたっておる!」
「まあ、通行税? そんな、きっと料金はお高いのでしょう?」
しゃなり、と小首を傾げるサイーラの妖艶さといったら!
いや、それ程でもない‥‥と思わず言いかけた下っ端が、速やかに後ろで仲間達からの制裁を受ける。
「そ、そうだ! お高いのだ! ちょっとやそっとじゃ払えんぞ!」
なんとか虚勢を張る鎧男に、サイーラは一歩二歩と近づいた。
鎧男はたじたじだ。どうしよう、いい匂いがする!
「困ったわ。旅芸人も何かと物入りなのよね、今月は赤字だし‥‥。今回は、通行税の代わりに芸を披露するって事でお目溢し頂けないかしら‥‥?」
「げ、芸を披露? むむむ」
「そう、芸。うちの娘たちはみんな可愛いでしょう? 歌も上手いし、踊りだってちょっとしたモノよ。お役人さん達も、少しくらいお休みしてもバチは当たらないと思うわ‥‥?」
鎧男は、ごくりとつばを飲み込んだ。
勝敗は既に決している。
サイーラが交渉に努める背後で、三人娘はすでに傍観モードだ。
「‥‥うわぁ、サイーラさん凄いね‥‥。相手のボスなんか、もう棒立ちだよ?」
エリヴィラは感心するやら呆れるやら羨ましいやら。鎧男の、ティアマットに睨まれたジャイアントトードの如き有様に、ちょっぴり同情までしてしまう。
「本当ですね。流石、三惑のサイーラの名前は‥‥‥‥あ、今サイーラさん、高速詠唱でチャームまで‥‥」
「あー、こりゃもうだめだねぇ? おバカさんも、ご愁傷様☆」『さま☆』
三人の目には、辛うじてファイティングポーズをとっていた鎧男の精神を、駄目押しのチャームがキレイに打ち抜いた様がはっきり見えた。サイーラの猛撃に、鎧男の腰がすとんと垂直に崩れ落ちて‥‥勿論、精神の話。
「それでは、私たちは先に準備の方を済ませておきましょうか?」
言いながら、フィニィは妖精の竪琴を取り出し、軽く一鳴らし。
「だね。シャリンさんにフレアにリュミィ、衣装の方、合わせとこうか?」
「イエ〜イ、踊るぞぉ♪」『ぞ〜♪』『〜♪』
●
「それでは‥‥」
こほんと一つ、咳払い。
空いた草地に円く座った男達の中央で、フィニィは竪琴を爪弾いた。
初めは小さく静かな音が、次第に明るくアップテンポに。
広場を渡る陽気なリズムに、酒席は直ぐに盛り上がりを見せていく。
―――まぁ、そういうわけで。
サイーラの目論んだ酒席への誘いかけは、男達のこれ以上ないくらいの賛同の元、極めて順当に開催された。何しろ、アダルベルト鮮血旅団。上から下まで、みんな飲むのが大好きなのだ。酒を手にした美女の誘いを、断ることなどあり得ない。
橋の近くの草地に、急遽円陣に敷物を敷いただけの簡素な席だが、歌と踊りと音楽と、酌をしてくれるねーちゃんがいて男達に文句の出ようはずもない。鎧男、巨漢の弟分から、下っ端の末まで総勢14名。橋を通りたければ通るがいいと、見張り一人残さず、全員すっかり宴会に出席した。
「さ! いっくわよ〜♪ フレア? リュミィ? 準備はい〜い?」
『イエ〜♪』
シャリンの踊りが始まった。
バックダンサーにはフレアとリュミィ、二匹のペット妖精が華を添える。
全身を使って表現するは、踊りを踊る希望と喜び。シャリンの踊りは、民族舞踊をシフール向きに改良した特別製だ。サイズの不足は動きでカバー。天地を自在に飛び回るアクロバティックなその踊りも、同じく羽の生えたフレアとリュミィは苦にしない。
踊りに合わせて、フィニィの竪琴の音色も熱を帯びる。
小さな彼女たちの踊りは、まるで炎のような存在感を伴って男達を魅了した。何しろバックダンサーからして、本物の炎と太陽の精霊なのだ。
「いいぞぉー! シャリンちゃ―――ん!!」
「こっち向いてくれぇー!」
ドスのきいた歓声も、客層を考えればご愛敬。
シャリンは愛想良く手を振っては、広場の空間を縦横無尽に飛び回る。彼女の身に帯びた金輪銀輪の触れ合う音が響く度に、男達のテンションは天井知らずに舞い上がる。
「やっぱ踊るのって最高よね!」『ねー♪』
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「嬢ちゃん、こっちだこっち! 酒注いでくれ!」
「つまみも頼むわ!」
「坊主、こっちだこっち! もたもたすんな!」
フィニィの演奏と、シャリンの踊り。
辺地の野盗風情には勿体ない程の演し物に、男達の酒量も鰻登り。盛り上がるだけ盛り上がってくると、大変なのは給仕役。チャームの刺激が強すぎたか、鎧男はサイーラを独り占めして手放さない。となると、他の十数人の男達への給仕はエリヴィラ一人の大仕事となる。
元より家事の鉄人たるエリヴィラのこと、この程度のお給仕仕事は苦にならない‥‥が、嬢ちゃん呼ばわりはいいとして、坊主呼ばわりには閉口した。
「坊主って‥‥あたしも結婚してるんだけどなぁ‥‥」
サイーラは当然として、シャリンやフィニィにも早くもファンが付いている様子。一体私の何が悪いんだろう。いやいや、これでいいじゃないか、あたしは奥さんなのだ。しかもほやほやの新婚さんだ。
‥‥もしかして、そういうのと坊主呼ばわりとは、また別の話ではないだろうか‥‥?
複雑な乙女心が揺れてるような揺れてないような。
こっそり溜息を吐きつつ、体は大車輪で男達の注文を捌いていく。
宴もたけなわな、そんなおり。
「‥‥お、おねーさん、ちょっと話があるんだよ。いいかなぁ?」
巨漢の禿が、エリヴィラに声を掛けてきた。あまり酔ったようには見えない。男達の給仕を一手に引き受けていたエリヴィラは、この巨漢が一人、ほとんど酒を飲んでいないことに気がついていた。
「ん、どうしたの? お代わり欲しい?」
「いや、違うんだ。ちょ、ちょっと‥‥」
怪しい。
背中に下げた、愛用の魔剣の重みを確かめる。巨漢の方は武器こそ持っていないものの、盛り上がる筋肉は伊達ではない筈。荒事が得意ですよと、腹筋に彫り込んでるような面構えだ。
エリヴィラは、この男がボスの腹心らしき人物であったことを思い出す。
(‥‥もしかしたら、この男、意外に頭の方も回るのかも‥‥?)
何か余計なことに気がつくようであれば、さっさと酒席からご退場願う必要もあるだろう。
「うん、いいよ、どうしたの?」と。
エリヴィラは返事をして巨漢について行く。
広場に面した、木立の奥へ。
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宴の盛り上がりは最高潮。
竪琴の音色を響かせながら、フィニィは広場の中央から周囲を見渡した。
(首領さんは、サイーラさんのお酌でもうメロメロですね。手下の皆さんも、シャリンさんの踊りに首っ丈。あら? エリヴィラさんは何処にいるのかしら‥‥?)
いない。
嫌な予感がする。
演奏の手を止めず、フィニィはテレパシーでメンバーの確認をした。
(こちらはいつでも、作戦決行OKよ)
(楽し〜☆ 作戦? あたいはいつでもだいじょーぶ!)
サイーラとシャリンの二人は、即座に返信を返してくる。
エリヴィラは?
(エリヴィラさん? そちらはどんな状況ですか?)
(‥‥‥‥わ、ちょっと‥‥‥‥まって‥‥‥‥っ!)
フィニィの脳裏に、切羽詰まった様子のエリヴィラの思念が流れ込む。
もしかして?
(小さくて凸凹してない方が好みって‥‥いや好みなのはうれし‥‥や、そういう事じゃなくてね‥‥)
(あのね、あたし結婚してるから‥‥‥‥本当だってば!)
(ち、違う、違う、そじゃなくて、ほら、広場に戻らない? みんな待って‥‥)
(ちょ、ちょっと、ちちちちょっと待って‥‥‥‥)
切れ切れに伝わる思考。
どうやら、エリヴィラはどこかで別の人物と話をしている途中らしい。
一体何の話をしているのだろう?
テンパるエリヴィラの思考に引かれ、我知らず、フィニィの竪琴の音色にも力がこもる。
(エリヴィラさん?! 大丈夫ですか? 今すぐ助けに‥‥)
(‥‥わーわーわー、きゃーもー、わ゛ー!)
(ちょっ、まっ‥‥)
沈黙。
テレパシーに訪れた、一瞬の思考の空白。
次の瞬間、怒濤のような感情の奔流が空白を真っ赤に塗り潰す。
(―――っっっっそんなもの見せるなぁぁぁぁああぁぁ――――――!!!)
●
木立を突き破り、ズボンを下げた巨漢の男が広場のまっただ中に吹き飛んできた。
へし折れた立ち木の奥には、涙を浮かべ、肩で荒い息をついたエリヴィラが、鞘ごと魔剣を振り切っている様が見える。
スマッシュEX。
音楽が止まり、踊りも止まる。
突然の静寂に、まるで刻さえもが止まったかのよう。
「へ?」
一体何が起こったのか? 男達の酒に弛んだ頭には何も思い浮かばない。
一瞬の弛緩した空気を、フィニィのテレパシーが貫いた。
「皆さん、今です!」
言うなり、フィニィの放ったスリープが男達をばたばたと地に倒す。
「よし、いっけ〜☆」
同時に、シャリンの頭飾りのレミエラが一際明るく輝いて、増幅されたサンレーザーの光撃が鎧男を吹き飛ばし‥‥
‥‥戦いそのものは、至極短期間で終結した。
全く完全に不意を突かれたごろつき達は、ある者は眠り、ある者はレーザーに焼かれ。そしてある者は、エリヴィラのスマッシュによってぼっこぼこに殴られた。
夜。
男達が惨憺たる有様で目を覚ましたときには、女達はもういない。首領の、鎧男の姿さえ見えなかった。
「親分!? アダルベルト親分!?」
「兄貴ぃー! 何処行っちまったんだよぉぉ――――!!」
未だズボンを履かざるままに、巨漢の慟哭が闇夜を揺らす。
アダルベルト鮮血旅団は、こうして壊滅したのであった。
●
後のことは蛇足であろう。
焼け焦げ、ぐるぐる巻きに縛られたアダルベルトを見て、依頼人はひどく喜んだ。
キエフ付近の野盗、山賊達は魔性の女達の噂に肝を冷やし、それでも一度は騙されてみたいものだと、彼女たちの魅せた『芸』の素晴らしさについて語り合う。
そしてエリヴィラは、夫婦間の些細な秘密が増えてしまったことに、一人心を重くする。
―――忘れよう。そう、あたしは何も見なかった‥‥