【雪達磨】雪だるまと五匹の仔猫
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■ショートシナリオ
担当:たかおかとしや
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月14日〜12月17日
リプレイ公開日:2009年12月23日
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●オープニング
雪が降ってきた。
ちらほらと白い淡雪が、暗い空からしんしんと降り積もる。
寒い、寒い。
だけれども、それはひどく美しい、キエフの冬。
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スノーマンは道を歩いていた。
気ままに。ただなんとなく。
そこが山から遠く離れたキエフの郊外だと言うことも、彼(もしくは彼女?)にとっては別に問題ではなかった。この時期、自分のお仲間が人の街のあちこちに立ち並んでいることを、スノーマンは知っている。街に入ったことも初めてではない。
雪の中、郊外から市の外へと続く道を、跳ねるように進むスノーマン。
‥‥ふと。自分を呼ばわる声を聞いたような気がして、スノーマンは立ち止まった。
なんだろう? ぐるりんと、首を一週巡らして周囲に目をやる。
ぐりぐりの、スノーマンの黒い目ン玉に映るもの。
道。寂れた人の家。塀。雪に覆われた畑―――
あ。
ぴょんと一跳ね、スノーマンはそれに近づいた。
街路の塀の隅に立つ、それは小さな雪だるま。ぺこりと頭を下げて、スノーマンは佇む先輩にご挨拶。
さっきの声はあなたですか? 何かご用ですか?
スノーマンの丁寧な問いに、けれども先輩は答えない。哀しげに、自分の足下を見つめるばかり。つられて先輩の足下に目をやって、そこで初めてスノーマンは気がついた。
粗末な木箱の中で、みーみーと、か細い声を上げて鳴く数匹の仔猫。
白い毛皮を、雪で更に真っ白にして、仔猫たちは互いにくっつき合いながらふるえている。
スノーマンは、ふるえる仔猫たちと先輩の顔を見比べた。
先輩は、相変わらず哀しそうな顔。
みーみーみー。
―――ややあって、スノーマンは木箱を抱え上げ、また道を歩き出した。
今度は逆方向。
キエフ市街へと続く道を、なるべく木箱を揺らさないように、早足で。
●
キリリと引き結んだ、黒い眉、黒い口。
えらく真剣な(まあ、おそらくは)表情の雪だるまが、五匹の仔猫を抱えて受付嬢の前に立っていた。
ここはキエフ冒険者ギルド受付カウンター。
受付嬢も随分色んな依頼人を見てきたものだが、捨て猫を持ち込む雪だるまというのは、流石に今回が初めてだ。
『依頼内容:捨て猫の世話と、引き取り手の確保』
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●スノーマン
今回の依頼人であり、見かけはまんま、雪だるまです。
モンスター知識(精霊)が専門以上である場合、彼がスノーマンという雪のエレメントの一種であることが判ります。
人間の言うことはある程度理解しているようですが、会話をせず、基本的には知能も低いです。彼から詳しい事情を聞き出すには、多少の時間と根気が必要でしょう。
●仔猫たち
白猫三匹、黒ぶちが一匹、黒猫が一匹の計五匹です。
生まれてまだほんの数日しか経っておらず、屋外に放置されていた仔猫たちの体調は、現在危険な状態にあります。
また、仔猫たちの入っていた木箱には、粗末な毛布と一緒に、猫たちの名前らしき物が刻みつけられた木片が入っていました。それぞれゲルマン語で、「ベテロック(風)」「スニェーク(雪)」「ザイカ(兎)」「ラーストチカ(燕)」「ボロノイ(黒)」と読むことが出来ます。
●リプレイ本文
仔猫。
五匹の仔猫。
白くて黒くて、みーみー鳴いて、よちよちと歩く毛皮の塊。
時々転ぶ。ころん。
「うぬ‥‥5匹の仔猫の何という破壊力‥‥。可愛さのあまりキエフが全滅しそうじゃ‥‥!」
とはニノン・サジュマン(ec5845)の言葉であるが、当初、冒険者達にはその可愛さを愛でる暇も余裕も有りはしなかった。
眉と口を引き結んだスノーマンが、凍えてふるえた五匹の仔猫を持ち込んだその日。
たまたま居合わせた五人の冒険者達にとってその日は、夜通し続いた戦いの一日として、その後長く記憶に残ることとなる。
●
「とにかく保温だ。体温が下がったままでは、助かるものも助からん。済まんが、ここの暖炉を借りるぞ!」
サラサ・フローライト(ea3026)は受付にそう言い放ち、猫の入った木箱を暖炉の前へ。周囲の邪魔なイスやテーブルをドカドカと片付け始める。丁度その辺りに座っていた先客達が抗議の声を上げるが、彼女の火を噴くような双眸の一睨みに、揃って沈黙を余儀なくされた。
「ほらほら、そこ、だべりたいならスィリブローにでも行ってきなさい! こっちは仔にゃんこの一大事なんだからね☆」
それでも動きの鈍い先客達を、シャリン・シャラン(eb3232)が蹴飛ばし回って追い立てる。否応もない周囲の冒険者達の『協力』により、暖炉の前にはすぐに広々とした空間が空けられた。
みー みー
みー みー
騒ぎに気がついたのか、暖炉の暖かい光の中で、数匹の仔猫がモゾモゾと動き出す。
改めてみると本当に、赤ちゃん仔猫もいいところ。
目はどうやら開いているが、口元や手足の先端などはまだまだ淡いピンク色。手足に力はなく、何より人の手の平にすっぽりと収まるほどの大きさでしかない。
「うむ、生まれてまだ数日、精々生後一週間といったところだろう。ともあれ、今夜が峠だな。何とか元気になってくれるといいが‥‥おお、よしよし。ちょっと我慢するのだぞ‥‥」
ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)が仔猫たちをそっと掴み上げ、雪に濡れた木箱から新しく用意した木箱へと移し替える。
底に湯たんぽ、敷き藁に毛布。更にシムルのエンジュに、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)から借り出した白猫のワシリーサも動員。成猫二匹に仔猫たちを囲むような形で箱に入って貰えば、ぬくぬくあったか、保育ベッドの出来上がりという寸法だ。
「保温の方は当面これでよい。後はミルクを飲んでくれれば、ひとまず安心できるのだが‥‥」
勿論ミルクの準備も出来ている。
やや薄めた暖かい牛乳に、卵黄と蜂蜜を溶かして作った特製猫ミルク。あくまで緊急の代用品だが、それでもあるとないでは天地の差だ。
みーみーと、一番元気な白い一匹を抱きかかえ、ヴィクトルは清潔な布に含ませたミルクを与える。ちゅーちゅー元気に吸い付く白仔猫に目を細めながら、ヴィクトルは木箱の中の四匹にも注意の視線を怠らない。
―――エレェナが、傍らのサラサに小声で耳打ちした。
「黒猫が危ないよ、さっきから見ているが、あの子、殆ど身動き一つしていない」と。
●
その日の晩は、五人全員が付きっきりで世話をした。
生まれ落ちてよりこの方、ろくろく食べていなかったのだろう。暖かい毛布の中で次第に元気を回復させた仔猫たちは、寝て起きて、ひっきりなしにみーみー鳴いてはミルクのお代わりを要求する。
「ちょっと、ちょっと、猫ちゃん、そんなに飲んでも大丈夫なのかい?」
黒い背中に白い腹の仔猫(察するところ、ラーストチカ、燕と言うのはこの子の事だ)などは特に食欲旺盛だ。
一度吸い付いた布は絶対離そうとはせず、エレェナなどから見ると心配になる程大量のミルクを飲む。ヴィクトル曰く、今は好きに飲ませてやって良いと言うことなので、好きに飲ませているのだが‥‥体重ほどにも飲んでやしないかい? この子は。
エレェナの心配を余所に、ラーストチカは満足げ。彼をはじめ、白猫三匹の方も個体差はあれ、皆ミルクを飲んでくれた。
そろそろ時間は夜の零時をまたぐ頃。
今はすっかり満足し、エンジュとワシリーサの間でうにゃうにゃと眠りにつく仔猫達。その端で、真っ黒仔猫なボロノイも皆と同じように眠っている。
‥‥ボロノイだけは、まだ一口もミルクを飲んでいなかった。
「腹が減っていない筈はない。一体何が足りないのだ‥‥」
ヴィクトルの言葉に、仲間達は応えられない。
ミルクの配合や味、温度、口に含ませる布まで色々変えて試してみたものの、ボロノイだけはどうしてもミルクを受け入れようとはしないのだ。
「‥‥代用ミルクの限界やも知れぬな」
木箱の仔猫達を覗き込みながら、ニノンは呟く。
「ヴィクトル殿。ブラヴィノフ家のアルフレドとは、まだ連絡が取れておらんのか? アルフレドならば、乳の出る猫の一匹や二匹、紹介して貰えるじゃろうに‥‥」
「手紙は出した。だが返事はまだ‥‥」
頭を振るヴィクトル。
アルフレドとは、キエフの中心街に居を構える大商人、ブラヴィノフ家の飼い猫‥‥いや、飼いケット・シーのことである。
魔法の指輪の力によって猫語も人語も自由自在という彼は、ブラヴィノフ家の守護神であり、同時に中心街に住む多くの猫たちの尊敬を集めるボス猫でもあった。彼とその飼い主であるイヴァン少年とは、ブラヴィノフ家を襲った一連の騒動の中で、冒険者達‥‥中でも、シャリンやヴィクトルらとは一方ならぬ縁を持っている。彼ならば、きっと良い知恵を貸してくれる筈だ。
シャリンが羽を広げて立ち上がる。
「あたい、今からアルフレドの家に行ってくる!」
シフールの羽なら、ここからブラヴィノフ家まではほんの目と鼻の先。シャリンは木窓の留め金を開け、仲間の止める間もなく、一気に冬のキエフの空へと‥‥舞い上がらなかった。
シャリンが開けた木窓から、何か小柄な動物が彼女を押しのけて建物の中に飛び込んでくる!
どんっ!
「きゃんっ☆ ‥‥も〜、一体何なのよ〜!?」
飛び込んできたもの。それは猫だった。細身で、グレーがかった毛並みの美人猫。
にゃあ! と一鳴き。何故か機嫌は悪そうだ。
猫はイライラとギルドの中を見渡し、仔猫の入った木箱を見つけると、乱暴にワシリーサとエンジュを追い出して仔猫たちの隣に居を占めた。突然の闖入者に、二匹の猫はあっさり席を譲る。
「ちょっと、何者だ? ワシリーサ、お前も不甲斐ないよ、何さっさと場所を譲ってるんだい」
にゃあ、そんな事言われても‥‥と言いたげなワシリーサ。
とにかく余所者を、大切な仔猫ベッドに居座らせておくわけにはいかない。何となれば実力行使だと腕まくりするニノンを、傍らからヴィクトルが引き止める。
「どうやら、アルフレドからの助けが間に合ったようだ。彼女はサイファという、この辺一体のボス猫の一匹だよ。まさか彼女自身が乳母に来てくれるとは‥‥!」
「乳母じゃと?」
中途半端に腕まくりをした姿勢のまま、ニノンが木箱の中に目を落とす。
つられて、エレェナ他、四人の冒険者も木箱の中身を覗き込んだ。
‥‥これは如何なる魔法なのか?
冒険者達の目に映るのは、サイファの乳首に吸い付き、一生懸命に乳を飲む白黒五匹の仔猫達。
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翌日、冒険者ギルドには、イヴァン少年と傷だらけのアルフレドが姿を見せた。
なんでも、子を産んで日の浅い母猫のうち、すぐに連絡が付いたのはボス猫のサイファ一匹だけだったそうで。
アルフレド曰く「何で余所の子までと嫌がる彼女の『説得』には随分と苦労したが、その甲斐はあったようで何よりだ」と。
冒険者達は、彼と彼女に、スィリブローから取り寄せた大きな魚をプレゼントした。
●
「まずは一安心じゃな、雪達磨殿。‥‥さて、多少遅くなったが、あの子らについて、お主にも幾つか聞きたい事があるのじゃ」
忙しい夜が明けて、朝のキエフ。
暖かい建物の中を避け(なにせ昨夜、暖炉の前でスノーマンが危うく溶けかけたので)、ニノンとエレェナ、シャリンらの三名は、ギルドの軒先で雪達磨に問いかける。
三人は皆、テレパシーの使い手だ。意思の疎通に問題はない筈だが、スノーマンの思考は散漫で、単純で、ついでにえらく忘れっぽい。エレェナを中心に、根気よく言葉を継いで質問を重ねる。
どちらから来たの?
どれくらい歩いた?
傍には何かあったかな?
等々。
もしかしたら、仔猫の方に聞いた方が早かったかも‥‥三人がそう思い始めた頃に、ようやく大雑把な事情と、スノーマンが仔猫を拾った場所の見当が付いてきた。
「雪達磨が仔猫を見つけたのは、コロッセオから少し進んだ市壁の向こう側のようじゃな。わしが馬でひとっ走り、現地にまで行ってこよう。母猫や、元の飼い主の事について何か判るかもしれぬ」
「じゃあ、あたいはアルフレドのにゃんこネットワークから、母にゃんこのことを知ってるにゃんこがいないかどうか聞いてくるわね☆」
二人の言葉にエレェナは頷き、ボロンとリュートを掻き鳴らす。
「それなら、私はこれで里親捜しの方を進めるとするかね。ヴィクトルはまだ仔猫の方に付きっきりらしいけど、サラサも付き合ってくれるそうだし」
判ってるのか判ってないのか。
エレェナの言葉に相鎚を打ち、ぴょんぴょんと飛び跳ねるスノーマン。
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二日目の晩、冒険者ギルドの暖炉の前で、一行は揃って夕食を取っていた。
食事の席での話題はもっぱら猫のこと。
日中付きっきりで世話をしていたヴィクトルの報告によると、仔猫たちの体調はサイファの授乳を機に大きく改善に向かっているそうだ。サイファは通い乳母であるため、毎度必ず授乳出来ると言うわけではないが、難物のボロノイを含め、仔猫たちは代用ミルクの方も何とか受け入れてくれつつあるらしい。
サラサとエレェナらによる里親捜しの興行も順調であった。二人の楽奏が効いたのか、子供を中心に人だかりが出来るほどの大人気であったとか。既に数名の里親候補も見つかっており、明日、改めて当の仔猫を交えて面談をする予定だ。
「あたいの方も少し進展あったわよ☆ 昼にブラヴィノフさんちの猫集会に参加したんだけど、仔にゃんこが拾われたところの近くで、以前よく人間の子供と遊んでた雌にゃんこを見たって子が何匹かいるみたいなの。多分そのにゃんこが、仔にゃんこたちの母にゃんこだと思うんだけど‥‥。
そういえば、ニノンも母にゃんこの事を探していたのよね☆ ね、そっちはどうだったの?」
シャリンの言葉に、ニノンは口を開こうとして‥‥だが、上手く言葉が出てこない。首を捻り、また黙り込む。
「どうしたのだ? ニノン殿」とヴィクトル。
「いや、その母猫らしき猫と飼い主の子供の話は、わしの方でも聞き及んだのじゃが。‥‥そう。ちょっと、まだはっきりした事が判らなくての。明日にでも、もう一度仔猫達の拾われた場所へ行ってみるつもりじゃ。その後なら、皆にもう少しはっきりしたことを報告できるじゃろう」
普段から、どちらかと言うとはっきりとした物言いのニノンが、こう迄言葉を濁すのも珍しい。
それでも仲間達は特にそれ以上の追求はしなかった。
明日には話すというなら、明日に話してくれるのだろう。それに、上手く里親さえ見つかれば、母猫や、元の飼い主の事などは二の次でもあった。一度仔猫を捨てた元の飼い主を再び見つけ出しても、また苦い思いをするだけだろう。そんな考えだって、なくはない。
●
愛らしい五匹の仔猫の幻影。雪上に現れた、本物同然のファンタズム。
サラサのオカリナ、エレェナのリュート。
華やかなメロディに、可愛らしいシルフの声、ケット・シーの鳴き声が加わった。
通りに流れる音楽に、道行く人々が足を止める。
そこに和して響く、鈴の音のようなエレェナの歌。
冬の夜の小さな出会い♪
このお話の最後はまだ決まってはいないんだ
子猫は里親と出会えるだろうか
出会えたとしたら、それはどんな人?
さぁ、誰か♪
ハッピーエンドの立役者に
なってくれる人は居るだろうか―――
さて、三日目である。
皆の親身な世話が功を奏し、仔猫達は見違えるほどに元気になっていた!
体重も増え、狭い木箱の中を互いに踏みつけ合いながらヨチヨチと歩き、ころころと転ぶ。
既に白猫二匹と、ラーストチカの里親は決定していた。何れもサラサのケット・シー、アルフレドらの厳しい審査を乗り越えた選り抜きである。念のためもう一日様子を見た後で、明日にも新たな飼い主の元へと送られることになっていた。残りの二匹も、白猫の一匹はシャリンが、やや体調に不安のあるボロノイはヴィクトルが引き取ることで話はついている。
山場は全て乗り越えた。
そう思っていた一行を、外から帰ってきたニノンが呼び集める。
「この話をハッピーエンドで終わらせるために、最後に一つ皆にも来て貰いたいところがあるのじゃ。何、すぐ近所じゃし、そう手間も取らさぬ故」
●
キエフの市壁の外に続く、静かな郊外の道。
その隅の道ばたには、半ば崩れかけた小さな雪達磨がまだ残っていた。
冒険者一行にスノーマン、毛布でぐるぐる巻きにした木箱に入れて仔猫達まで連れ出したニノンは、訝しむ仲間達を背に、静かに雪達磨に頭を垂れ、祈りを捧げる。
仔猫達が鳴き出した。
「―――この雪達磨の下には、この子らの母猫が埋葬されておる。産後の肥立ちが思わしくなかったようじゃ。誰が埋めたかは、結局判らなかったがの」
皆がその言葉を受け止めるのに、少し、時間が掛かる。
「埋めたの元の飼い主の子供、ではないのか?」
サラサの問いに、ニノンは首を振る。
「飼い主‥‥と迄の関係ではなかったようじゃが、たまに餌をあげる様な子供は確かにいたらしい。ただ、その子は母猫が出産する十日も前に、ふらりと姿を消してそれっきり。元々家がないも同然の身の上だったそうじゃ。わしとしては雪を前に、他の旅人らについて暖かい南へ下ったと思いたい所じゃが‥‥」
家のない子供と、身重の野良猫。
キエフの冬は厳しい。
やがて子供は姿を消し、十日後には母猫も子供を産んで力尽きる。
雪の中に取り残された、五匹の無力な仔猫達‥‥
「母猫を埋めて、雪達磨を作り、五匹の仔猫達に名前を付けたのは、一体誰だったんだろうねぇ‥‥?」
「判らぬ。だが、エレェナ殿。この事を知った時、わしは一つだけ安心したのじゃよ」
ニノンは仔猫に目をやった。
「この仔らは捨てられたのではない。生きよと、皆が声を掛けたのじゃ。だからこそ、スノーマンが仔猫を拾い届けるという奇跡が起きたのじゃ、とな」
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仔猫達の幸せを誓い、皆がその小さな雪達磨に祈りを捧げる。
人間につられてぺこりと頭を下げたスノーマンは、その解け崩れた雪達磨の顔が、今は笑っている事に気がついた。
良かったですね、先輩。