【ウォールブレイク】炎魔襲来
|
■ショートシナリオ&プロモート
担当:たかおかとしや
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 67 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月13日〜07月17日
リプレイ公開日:2008年07月19日
|
●オープニング
『壁に異変有り』
そのニュースは、ジ・アース中の人々の間に速やかに知れ渡った。
―――いや。知れ渡ると言うほどの、何かやり取りがあったわけではない。
人々はただ、壁を見上げただけだった。
長大な壁からゆっくりと染み出す、暗い雲霞の如き異形の群れ。
悪意を隠そうともしないその魔物達の姿は、壁と同様に、ジ・アースのどこからでも見ることが出来た。
それは、森深き北の国、此処ロシアにおいても例外ではない。
●
キエフの冒険者ギルドは、戦場のような騒ぎの最中にあった。
壁から魔物が出現したという第一報が届いてからこっち、壁の魔物に襲われたという知らせと救援依頼が、ひっきりなしに飛び込んでくる。鉱物を扱う商人達や山師、壁の掘削に従事していた鉱夫達など、異変以前から壁に関わっていた者達の被害は特に深刻だった。壁に近い位置にあった開拓村の中にも、かなりの被害を出している村もある。既に多数の冒険者達が自主的に救援に向かっていたが、とにかく人手が足りないのだ。壁は長大で、魔物の被害の報告は、壁沿いの全ての地域から送られ来ているのだから―――
「た、助けてくれ! みんな燃やされちまう!」
火傷の後も痛々しい一人のドワーフが、身を投げ込むようにしてギルドの扉を開けたのはそんな時だった。
助けてくれと一声叫び、そのままギルドの床にがっくりと膝をつく。
ドワーフのあまりの血相に、受付嬢は慌ててカウンターから駆け寄った。
「落ち着いて下さい、今治療のできる術者を呼びますから。一体何があったんですか?」
「俺のことはいい。ここに来るまでに、魔物達にちょっと焦がされただけだ。‥‥だが、まだ仲間達が壁の近くにいるんだよ! このままじゃみんなあいつらに燃やされちまう。お願いだ、金ならあるんだ! 頼む、これで仲間を助けてやってくれ!!」
ドワーフは荒い息をつき、必死の面持ちで受付嬢に重い麻の袋を差し出した。
袋の口から覗く、宝石の放つ鈍い輝き。
冒険者に救援を求めるために、それだけは魔物達から庇い通したのだろう。受付嬢は、差し出された宝石の輝きよりも、火傷だらけのドワーフの手に握られた、その袋の、焦げ痕一つない白さに胸を突かれる。
受付嬢は、火傷だらけのドワーフの手から、ずっしりと重い麻袋を受け取った。
袋の中の宝石の一粒一粒が、ドワーフと、その仲間達の命の重さだった。
「安心して下さい。あなたのお仲間は、必ず冒険者達がみんな救って差し上げます。確かに、依頼は承りました」
『依頼内容:壁付近に取り残された、ドワーフ鉱夫達の救出』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●概要
ドワーフ達は、独自に壁の掘削にあたっていた鉱夫集団の一つです。
壁から鉱物を掘り出す作業をしていたところを、突然壁の周囲から湧き出した、火を使う魔物の集団から襲撃を受けました。ドワーフ達の人数は二十名程度。助けを呼びに出たドワーフが最後に知る限り、彼らは壁近くに建設していた簡易作業小屋数棟と、壁に掘った坑道内部の二カ所に分かれて立て籠もり、魔物達に抵抗をしているとのことです。
両者共にそう長くは保たない事は明白です。特に作業小屋に立て籠もった集団を救援するには、急ぐ必要があるでしょう。
●敵
数十匹のデビルの集団ではないか、と言うのがドワーフからの報告です。
魔物達は皆が炎を操り、中でも一匹、人型でありながら獣と蛇の首を併せ持つ、炎を自在に操る強力な魔物が集団を率いている姿が目撃されています。
●依頼内容、報酬など
依頼はドワーフ鉱夫達の集団を、無事に魔物の包囲から助け出し、安全な地域まで避難させること。
正規の依頼料とは別に、一人当り10〜20G相当の宝石、鉱物が成功報酬として提示されています(宝石の種類は壁から採れる鉱石の内から、ランダムに決まります。欲しい宝石の種類がある場合は、希望として承ります)。
●リプレイ本文
―――ぼうぼうと燃えて、がらがらと崩れ落ちた。
ドワーフ達は隣の小屋から声を枯らして呼ばわるが、応える者は誰もいない。
仲間が立て籠もっていたはずのその小屋からは、遂に一人も脱け出してはこなかった。
●
冒険者達が馬を飛ばして駆けつけた時、現場は既に魔物達の饗宴の場と化していた。
下級デビルらしき魔物達の、数棟の小屋を囲んでの馬鹿騒ぎ。小屋のどれもが炎上し、中の一棟が完全に倒壊しているの見て、オリガ・アルトゥール(eb5706)は事態に一刻の猶予もないことを知る。
「皆さん下がって! ブリザードを放ちます! ヘパイストス、ウルカヌス! ドワーフさん達と、小屋の状況の確認を!」
言うなり、オリガは詠唱に入る。
フレイムエリベイションを掛け、心気の強化。最大威力で吹雪を放つ詠唱の準備。
他のメンバーは、吹雪に巻き込まれぬようオリガの後方へ下がる。
「まずは氷の魔法で先制か。ばーっとやっちゃえ! オリガさん」
シュテルケ・フェストゥング(eb4341)の少年らしい軽口に、気負いはない。数十名を超える魔物達の集団に対し、冒険者一行わずか四名。されど、全員揃って百戦錬磨の強者だ。
「インプにグリムリン‥‥それにグザフォンまで。下級デビルだが、そこらでお目に掛る魔物ではない。油断できる相手ではなさそうだ」
ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)の声に、ディアルト・ヘレス(ea2181)はデビルスレイヤーを静かに抜いた。
破魔の十字剣の刀身に、曇りはない。
「敵が何者だろうと、私達のやるべき事に変わりはありません。オリガ殿、頼みます」
オリガは強く頷き、詠唱の声を高める。
冒険者達の目線の先で、二羽のスモール・ホルスが魔物達を蹴散らし、小屋の上空高くで羽ばたいた。
ホルス達の送る、攻撃の合図。
異変を察した魔物達の集団が、放たれる呪文に先制せんと、先頭に立つオリガに群がった。
その数、十か、二十か。爪を閃かせ、牙を剥き、小癪なハーフエルフを八つ裂きにすべく、ギラつく欲望のままに殺到する。
オリガの姿が魔物達に為す術もなく埋もれたと思われた、その瞬間。
「‥‥遅いですよ?」
魔力の結晶が、青い閃光となって爆裂した!
氷雪に束ねられた膨大な魔力が、白い渦となって魔物達を貫く。
凍り、ひび割れ、魔物達の体は雪と雹に砕かれる。
ドワーフ達の小屋も、炎も、全てが真っ白に塗り潰されていく。
●
轟く氷の嵐が収まった時、炎と、魔物達の大部分は消滅していた。
狼狽え、算を乱す魔物達の群れに、冒険者達は機を逃さず斬りかかる。
ペガサスに騎乗したディアルトが空中で十字剣を振る度に、魔物達は次々に地に落ちた。魔物達が散発的に放つブラックフレイムも、レジストデビルを唱え、耐炎の装備に身を固めたディアルトには通用しない。
地上でも、シュテルケを先頭に魔物達の掃討が進む。
剣と、剣から放たれる衝撃波を自在に操るシュテルケの前に、氷嵐に傷ついた魔物など物の数にもならなかった。
飛んで逃げようとする魔物はヴィクトルとオリガの魔法に撃たれる。与し易しと、格闘戦に不慣れな後衛陣を狙った魔物達は、魔法のダガーを咥えた忍犬さながらの狩猟犬と、二羽のスモールホルスによって認識の甘さを十二分に反省させられることになる。有無を言わさず、強制的に。
「ねえ、ヴィクトルさん! この場で一番偉い奴って、どいつだか判る?」
インプを切り裂き、シュテルケはヴィクトルに問いかけた。狙いは敵リーダーの撃破。
「判る、グザフォンだ! あそこ、手にふいごを持った小鬼がいるだろう」
ヴィクトルの返答は明快だ。言い様に放ったブラックホーリーの光が、小屋の後ろに隠れようとしていた魔物を打ち抜く。猿のような醜面のその魔物の手には、黒いふいごが握られていた。
「成る程、あいつか。よし、行ってくる!」
「シュテルケ殿、気をつけて!」
ヴィクトルの声を背に、シュテルケはグザフォンに向かって駆け出した。
並み居る木っ端悪魔どもを蹴散らし、シュテルケは一息にグザフォンを小屋の壁に追い詰める。
「な、く、くそ! 人間風情が! 燃えろ!」
罵倒と共に、グザフォンのふいごから放たれる火炎弾。闇雲に放たれた火炎弾が、シュテルケの肌を焼き、旅装束に焼け焦げの痕を残す。それでも少年剣士は走る速度を弛めない。
「こ、こいつ!!!」
グザフォンのふいごが再度炎を吐き、火炎弾が正面からシュテルケの体を捉えた。
少年の全身を覆う炎に、グザフォンは会心の手応えを感じ取る。
―――しかし、その思いも、シュテルケの魔剣が炎を断ち割るまでの刹那の事。
「熱いのは‥‥‥‥我慢だっ!!!」
その言葉に、愕然と目を見張るグザフォン。
シュテルケは、悪魔めがけて大上段から思いっきり剣を振り下ろし、そのまま一気に引き斬った!
「グギャァァアァァァァ――!」
瀕死の叫び声を上げつつ、辛うじて宙に逃亡するグザフォン。
シュテルケはその姿を、剣にすがりついたまま見送る。
「大丈夫ですか? シュテルケ殿」
リカバーポーション片手に走り寄るヴィクトル相手に、シュテルケは苦笑いでVサイン。
「‥‥本当はね、ちょっと熱かった‥‥‥‥」
●
「助けて貰ってありがてぇが、まだ仲間が坑道にいるんだ‥‥後生だ、なんとかそちらも、助けてやってくれねぇか‥‥?」
力なく頭を下げるドワーフ達。
シュテルケがグザフォンを打ち破った時点で、小屋の周囲での戦闘は終結していた。
小屋の中で何とか生き残ったドワーフ達に状況を聞き、坑道の場所の説明を受ける。今いる場所から、壁の位置はごく近い。ドワーフ達の一団は、その壁に掘った中でも、もっとも奥深い坑道に逃れているはずだという。
「皆、気づいたか? 話に聞いていた炎の魔物がここには居なかった事に‥‥」
「‥‥坑道の中にいる、と言う事でしょう。急がなければいけません」
ヴィクトルの懸念に、ディアルトも同意。
冒険者達は万が一の用心に、二羽のスモールホルスを始め、各々のペットをドワーフ達の護衛としてここに残す事にした。傷の深いドワーフ達の一部には、手早く薬を配り、回復魔法を掛けて回る。
‥‥ドワーフ達に回復薬を手渡しながら、ヴィクトルは思う。
彼には胸騒ぎがしていた。
ここで倒した魔物達は、確かにデビルだった。しかし、どこか違う。
冒険者としてはそう珍しくもないはずの、インプやグレムリンのような下級悪魔達の姿も、どこか記憶とは異なる姿をしていた。これは一体何を意味しているのか‥‥。
「みんな、行こう」
一時の思考は、ディアルトの声によって遮られる。
―――そうだ、考えるのは今すべき事ではない。
「……偉大なる父よ、危地へと向かう勇者に、祝福を‥‥」
●
壁の中。
天を貫いて尚頭頂の見えぬ巨大な壁。その壁に掘られた坑道は、『壁』という言葉から来るイメージよりも遙かに深い。
しかし、それ以上に坑道は熱く、息苦しかった。
坑道内のそこかしこが、熾火のように燻っている。炎の灯りで自前の松明を持つ必要がないのは助かるが、この火と熱が、この先に待ちかまえる者の正体を予感させる。
―――そして。その者は泰然と姿を現した。
坑道が小部屋のように膨らみ、その先が幾つかの支道に分かれる中継節。
男は貴族風の豪奢なマントを羽織り、実に楽しげに支道の先を眺めていた。
男は冒険者達を振り返る。
「上で騒いでいたのは貴様達か。何か用でもあるのか? ああ、ちょっと待ってくれ、今、召使い共にこの先に逃げたドワーフ達を追わせている途中なのだ。折角の鴉殿からのご招待、ゆっくり楽しませて貰わないとな?」
穏やかなで紳士的な、実に魅力的な声色だ。宮殿にでも上がれば、美丈夫としてさぞご婦人方から持て囃される事だろう。
しかし、冒険者達は知っていた。
もっとも警戒をしなければならない敵が、今、目の前にいる。
「やい! お前が元締めだろう! 上にいた奴らはみんなぶった切ってやったぞ!」
「そうです。外の魔物と炎は全て私達が消しました。残っているのは貴方だけです」
「ほう? 消した、だと? くく」
シュテルケとオリガの言葉に、男は笑う。
初めは小さな笑い声が、すぐに坑内いっぱいに広がった。
「あはははははははは! 消した? 火を? か細き人間どもが消しただと?」
大声で、心から、涙まで流して身を捩る。
男の笑いに合わせて、坑道に燻る炎が大きく燃え上がった。
踊る炎の光に照らされて、男のマントが奇妙に蠢いて見える。
「出来ん相談だよ! 火は消えぬ! 熱と力と、この私が居る限り!」
首が。
男の肩に、猫の首と、蛇の首が盛り上がった。爛々と瞳を輝かせ、獣が冒険者達を睨め上げる。
「‥‥貴方は、伝え聞くデビルの一人、ハボリュムですか?」
刃を向け、問うディアルト。
男は笑顔を浮かべて頭を振った。
「残念ながら、この世界の人間どもには、まだ名を呼ばれた事はないのだよ。壁の向こうでは、私はこう呼ばれているよ。『炎を振りまく者』と―――」
男が名乗る。その名前は、文字通り振りまかれる炎となって男の喉から噴き上がった。
咄嗟に盾を構え、あるいはホーリーフィールドを張って炎に耐える冒険者達。
同時に男の背後からは無数のグレムリン達が現れた。
戦いが、始まる。
●
ヴィクトルの防御結界を容易く打ち砕いた炎のブレスから、最初に立ち直ったのはディアルトだった。耐炎装備に身を固めたテンプルナイトは、デビルスレイヤーを振りかざして魔物に近接する。
「お前の炎は、私には効きませんよ」
「ほう! 竜の革鎧に、防炎の指輪か。結構、炎対策は万全だというわけだ! ただ、それで十分と考えているなら、随分と甘い考えだと言えような?」
男が嗤い、猫が嗤い、蛇が嗤う。
三重の嗤い声が不快に響く。
「‥‥耳障りですね。二、三本も首を落とせば、少しは静かになるでしょうか?」
「面白い! 人間よ、相手をしてやろう」
ディアルトと『炎を振りまく者』の一騎討ち。
他の冒険者達も応援に向かいたいところではあったが、坑道から湧くグレムリン達の対応に忙殺され、何より、両者の戦いはおいそれとは近寄れぬ激しいものであった。
炎をまとい、灼熱の火柱そのものと化して襲いかかる『炎を振りまく者』に対して、ディアルトの全身の魔法具が一丸となって炎に抵抗する。人も魔も、一時として立ち入られぬ炎熱の中で、『炎を振りまく者』と間近で相対できるのはディアルトだけだ。
「どうしました? 貴方の炎は、無辜のドワーフを追う役にしか立たぬのでしょうか?」
「‥‥いい気になるな、人間よ」
『炎を振りまく者』の火炎のブレスが、至近でディアルトを襲う。
が。
「効かないと、言ったはずです」
ディアルトの魔法具が、再度その効力を発揮する。満腔の自信を込めて放ったブレスは、ディアルトに軽い火傷を負わせただけだ。一瞬の隙を突き、ディアルトの剣が魔物の胸板を切り裂く。
「ぬぐっ!」
片膝をつく『炎を振りまく者』。何とか立ち上がったものの、形勢は不利だった。何か使える手駒はないか、近くに下僕達はいないか。人と、猫と、蛇の首が慌ただしげに周囲に視線を巡らす、が‥‥
‥‥気がつけば、周囲には配下達の姿が見当たらない。
いつのまにか、坑内にいるのは、自分以外では、四名の人間達だけ。
冒険者達が、魔物を囲む。
「悪魔よ、お前に勝ち目はありません。観念なさい」
オリガがヘルメスの杖を構える。
シュテルケも、ヴィクトルも、多数の浅手を負ってはいるものの、その闘志に陰りはない。如何に猛悪の炎魔といえども、単身で練達の冒険者である彼らに囲まれては、如何ともしようがないはずだ。
「あははははは! 成る程、これは大したものだよ! 鴉殿が我らを招待したのも頷ける!」
『炎を振りまく者』は、突然嗤い出した。
人と猫と蛇の、三重の耳障りな嗤い声が、冒険者達の耳朶を打つ。
「‥‥何を言おうと、逃げ場はありませんよ」
ディアルトは剣を構えたまま、些かの油断もしない。悪魔の言葉に耳を貸す事と、悪魔の策略に乗る事はイコールだから。
しかし、それでも、次に『炎を振りまく者』が取った行動は全くの想定外であった。
「人間よ、引き分けとしようじゃないか。私は退散することにするよ?」
笑みを浮かべて、ファイアーボムを放つ。
何処へ?
自らへ。自らの足下へ。
猛烈な熱と激しい爆風が狭い坑内を吹き荒れる!
「ははは! また会おう、勇敢だが、愚かな人間どもよ! 見知りおけ、我はカオス! 『炎を振りまく者』の尊称で讃えられし、カオスの魔物よ!」
狭い空間では、爆炎は普段に倍する威力を発揮する。
さしものの冒険者達も、これには身を保つだけで精一杯であった。爆風が衰え、何とか冒険者達が身を起こした時には、カオスの魔物の姿は何処にも存在しなかった。
‥‥余熱と、爆風の残響だけが後に残る。
●
幸い、坑道のドワーフ達には大きな被害は出ていなかった。ただし坑内は滅茶苦茶だ。魔物達が好き放題に暴れていったのだろう。壁の材質は、意外に脆い。加えられた熱と最後の爆発によって、坑道全体がいつ崩壊するかも判らぬ、不安定な状況となっていた。
「‥‥全部で七人死にました。しかし、どうか、心からお礼を言わせて下さい。貴方達が来てくれなかったら、儂ら全員、あと一時間も生きちゃおれんかったと思います」
ドワーフ達、鉱夫集団の頭領が頭を下げる。
「しかし、まあ、掘った坑道も、道具も小屋もこの通りの有様でして。‥‥しばらくは、キエフで傷の養生でもしたいと思います」
「それならば、私達が街まで送りましょう。何処にまだ魔物がいるかも判りませんし、馬も引いているので、怪我人や、多少の荷物も運べますから」
ディアルトの言葉に、冒険者達は揃って頷いた。
ドワーフの頭領は、再び、黙って頭を下げる。有り難かった。
冒険者一行は、丸一日がかりでドワーフ達をキエフへ護送した。道中魔物に襲われる事はなかったが、壁の周辺では、今も多くの冒険者達が壁を掘り、魔物達と戦いを繰り広げていると聞く。
「鴉とは‥‥カオスの魔物とは、一体何だったのでしょうね?」
「判らん。それを知るためには、おそらく、もう一度、あの壁に向かわねばならないようだな」
オリガの問いに、ヴィクトルが応える。
ディアルトも、シュテルケも無言だった。
冒険者達は、キエフの街の目の前で、もう一度壁を振り仰ぐ。
世界のどこからでも見れる、壁。
グレートウォール。
壁とは何か。この壁が崩壊した時、一体何が起こるのか。
様々な思いを胸に、キエフの門をくぐる。