木の実、届けます。
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:谷口舞
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月26日〜12月31日
リプレイ公開日:2005年01月05日
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●オープニング
「お呼びでしょうか?」
教会に響く若いクレリックの声に、老年のクレリックはゆっくりと顔を上げた。
「おお、よく来てくれました。さあ、こちらにどうぞ‥‥」
案内されるままに、若者は教会の奥へと入っていく。この教会の奥には納屋が備え付けられており、教会の雑務に使う道具などが納められていた。
見慣れた道具達が整然と並ぶ中、部屋の真ん中にあるテーブルに、鮮やかな文様の入った真新しい赤い箱が置いてあることに気付いた。箱の大きさはおおよそ人の頭位、箱の上部に記された聖なるシンボルに、若いクレリックは思わず帽子を取って軽く一礼した。
「これは一体‥‥?」
「どうぞ箱を開けて中を確認して下さい。鍵はかけてありませんから、簡単に開きますよ」
箱の中には小さな袋が敷き詰められていた。生成りの麻袋の口を赤いヒモで縛り上げただけの簡易なものだ。袋の中には木の実が詰まった小瓶が入れられていた。
「木の実ですか、可愛らしいですね」
「今年はそれを子供達に配ろうとおもいましてね、その役をお願いしたいのです」
この時代、木の実は子供達の貴重なおやつでもあり、大切な栄養源でもあった。街の中にも実がなる木はいくつかあるが、それらには手を伸ばさぬよう、親達は子に厳しくしつけていた。
小瓶1つ分程度ではあるが、いざ手に入れようと森を歩き回るのは結構大変だ。子供達には嬉しいプレゼントとなるだろう。
「聖夜祭のミサの後、街の子供達に配っていってあげてください。出来れば近辺の農村にいる子供達にも配って差し上げて下さい。もちろん、ひとりでは大変でしょうから、どなたかのご協力をお願いしても構いませんよ」
その際は必ず聖なるシンボルを身に付けてもらうように、と老年のクレリックは十字架のネックレスを数個手渡した。
「ご協力頂ける方に貸して差し上げなさい。ですが、ちゃんと返してもらうよう、お願いしますよ」
老人の言葉は「信頼のおける人物に協力してもらいなさい」という意味も含まれていた。そのことを充分承知して、彼は小さく頷いた。
ーーー
「とはいうものの‥‥この時期、みんな忙しいからな‥‥」
自分も聖夜祭の間は故郷の村に戻る予定だった。箱の中にある袋すべてを配り終えないことには帰ることもままならぬだろう。
「仕方がない、人手を雇うとしましょう」
彼は踵を返し、冒険者ギルドへと足を向けた。
慣れない雰囲気に戸惑いながら、彼はゆっくりと受付のもとへ歩み寄る。
「すみません、人手をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
「はい。それでは、お名前と依頼内容と報酬金額をお願いします」
「ええと、私はクリストファー・バーグマン。この先の教会で奉公をしている者です。依頼内容は‥‥この箱の中にあるものを子供達にお配りする手伝いをお願いしたいのです」
「子供達‥‥もしかして、貧民街の子もですか?」
「はい、もちろんです」
「と、なると‥‥配布の手伝いというより護衛の依頼になりますね。盗まれでもしたらやっかいです」
どのような街にも貧富の差はあり、完全な治安が保証されているわけではない。キャメロットのような騎士団が厳しい警備にあたっている街ならば、日々の生活においてそれほど不安は起こらない。だが、貧しい者達の多い場所では小さな犯罪など当たり前のように起きている。隣人が善人だとは限らない、そう心得ておかなければ生きていけられないのだ。
「そんな‥‥窃盗なんて‥‥子供達へのプレゼントを無理矢理奪う者がいるというのですか?」
「いるかもしれない、という可能性は否めませんよ、バーグマンさん。では、最後にここにサインをお願いします」
渡された羊皮紙には流麗な文字で護衛の依頼内容が記されていた。複雑な思いを抱えながら、若いクレリックはサインを記した。
●リプレイ本文
●1章 仕事はじめ
「それではよろしくお願いします」
ギルドから紹介を受けた冒険者達は計4人。一人ずつに丁寧に挨拶を交わし、クリストファーはペンダントを手渡していった。
「護衛役も首にかけておくのかな?」
ユウン・ワルプルギス(ea9420)はペンダントトップの飾りをクルクル回しながら問いかけた。勿論です、とクリストファーは即答する。
「そうでなければ教会から来た者として扱ってもらえませんよ。そのペンダントは見えるようにつけておいて下さいね」
「ま、戦いに不便を感じたら、胸ん中にでもしまっておけばええやろな。特に困るモンでもないやろ」
異国の宗教のシンボルを物見高く眺めつつ、周防凰牙(ea9435)が言う。それもそうか、とユウンは大人しく服の中にしまいかけていたペンダントを首に通す。
ティアナ・クレイン(ea8333)は教会から借りた麻袋の中へと、箱の中身を詰め替えていた。その行動に、問いかける鈴木久遠(ea9267)にティアナは笑顔を崩さずに返事をする。
「こうして、中身を入れ替えておくんです。万が一盗られそうになっても中身は守れますからね」
どちらかというと中身より箱の方が貴重なのでは‥‥という考えが頭をかすめたが、盗られなければその心配もないな、と久遠は声に出さずにいた。
「ルートですが、久遠さんの提案通りに進んでまいりたいと思います。1日目は、中央通りぞいに進んでいって、職人街と商店街を抜けていきます。翌日は、キャメロットを出て一番近くにある村を訪問して終了となります。それで‥‥よろしいでしょうか?」
「全部一度には回れないんやろか?」
「さすがにそこまでは無理でしょうね‥‥キャメロットは結構大きな都市ですし、一番近い村までも徒歩ですとそこそこかかりますから」
それならば仕方がない、と久遠は肩をすくめる。日中だけの活動をしているため、日の短い冬のイギリスでは移動も含めるとなると数日に渡るのは仕方ないだろう。
「それでは早速急いで配るとしましょう。そろそろ子供達が外に遊びに出てくるはずです」
辺りに漂っていた薄い朝もやが大分消えはじめていた。一行はそれぞれの荷物を抱えて、大通りへと向かっていった。
●2章 キャメロット街にて
聖夜祭を祝うように、街はいつも以上のにぎわいを見せていた。商店には果実や葉を使ったリースが飾られ、大道芸人や詩人達がこの日を祝う芸を披露している。街の人々は少しのおしゃれを楽しみ、一年の恵みに感謝すると共に、新しい年の訪れを楽しんでいた。
子供達も大人達につれられて祭りを楽しんでいた。彼らは箱を抱えているクリストファー達の姿を見つけると、喜びの声をあげて駆け寄ってきた。
「おかしちょーだい!」
「はい、どうぞ。神様からの贈り物をお受け取りください」
にこやかな笑顔でティアナは木の実のつまった袋を子供達に手渡していく。
「子供達、神の恵みを頂いた時はどう言うか覚えてますか?」
「えーっと‥‥『ありがとうございます!』」
「ちゃんと挨拶出来るなんて、えらい子達だね」
駆けていく後ろ姿を眺め、ユウンは穏やかな表情をさせた。
「この辺りは不審者もそうそう出ないから安心だな」
久遠はそう言って、ひとつ大きく伸びをした。さすがに始終周囲に気を配っていると、疲労がたまってしまう。この辺りはまだ治安も悪くない、いざという時のために気力と体力は温存させておくべきだろう。
「さて。配るのはこれ位にして、次へ参りましょうか」
袋の口を一旦閉めて、クリストファーが歩き出す。まだもらえるのかと、期待のまなざしでついてくる子供達を、ティアナは苦笑いを浮かべて彼らを諭す。
「ひとり1個だけしかあげられないの、もらった分だけで我慢してね」
「でも‥‥」
「誰だっておかしはいっぱい食べたいわ。でも、自分だけでひとりじめしちゃだめよ、皆で分け合わなくちゃいけないわ」
来年またもらいにいらっしゃいと告げ、ティアナは先にいく仲間達のもとへと急ぐのだった。
●3章 盗人は少年?
初日目は何事もなく、無事に予定地を巡回できた。
そして、その翌日。
最後の配布先である隣村についた時のことだった。
細い路地にさしかかろうとした一行の前に、物陰から小さな少年が飛び出してきた。彼は小柄な体格をいかして、冒険者達の隙間をするりと抜けると、凰牙が抱えていた箱をかすめ取っていった。
「待てっ!」
久遠は素早く腕を振り、見えない刃を影に向かってうち放った。刃が走り去る背中に直撃し、少年はバランスをくずして地面に勢い良く転がった。
「ひっとっ! って、大丈夫かな‥‥」
「あれぐらいでは死にはしない、多少なりとも怪我はしてそうだが、な」
「こらこら、勝手に他人のモン取ったらアカンで? いい加減離しぃな」
そう言いながら凰牙は少年の腕を箱から引きはがそうとする。だが、それでも少年は箱を離さないでいた。がっちりと腕をまわし、体を丸めて抱きかかる姿に、凰牙は小さく肩をすくめる。
その一瞬の隙をつき、彼は伸びてきた凰牙の手に噛み付くと、よろけながらも走り出した。
「ったぁ‥‥! こら! ええかげんにしんともっと痛いめみるで!」
丁度曲り角に差し掛かった瞬間のことだ。角を曲がろうと少年の動きが止まった一瞬に、突然箱が暴れはじめた。
「うわあぁあっ!」
突然意志を持ったかのように動く箱を、少年はなおも必死に押さえかかる。
「む。意外にがんばるね」
何とか引きはがそうと、ユウンは更に意識を集中させる。
だが、ぴょんぴょんと飛び跳ねる箱を、彼はほぼ意地とも言えるほどしっかりと握りしめて離さなかった。
「やれやれ‥‥仕方ない‥‥な」
ひとつ息を吐き出し、久遠は一気に少年に詰め寄った。久遠に気付き、少年はあわてて踵を返そうとする。だが、久遠はそれを許さず、首元を掴みあげると、そのまま一気に手元へ引き寄せた。これ以上暴れさせないように、とロープで足を縛り付けた。
「離せー! 離せってば!」
「その手に持ってる物を返せば、許してやっても構わないぞ?」
じろりとにらみ付ける久遠。彼は渋々と、駆け寄ってきた凰牙に箱を差し出した。
「大変‥‥怪我してますわ、大丈夫ですか?」
ティアナはそっと擦り傷のついた頬に布切れを当てた。一瞬、びくりと体を強張らせたが、彼は小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
「欲しい気持ちも分からなくはないけどな、他人のもん盗っていいっていう理由にはならんのやで‥‥ほら、今日はこれで我慢しとき」
そう言って、凰牙は木の実のはいった小袋を彼の掌に乗せてやった。
「そうだ。お友達連れてきなよ。全員で分け合えっこすれば、美味しく食べられるしね」
ユウンの言葉に少年は目を瞬かせた。
一行の様子を覗いていたのか、彼が呼ぶともなく、途端に物陰から子供達が駆け寄ってきた。
「こいつら‥‥全部仲間なのか?」
「はいはい、皆押さないで。全員の分はあるから、慌てなくても大丈夫よ」
苦笑いをほんのりとティアナは浮かべる。わらわらと集まってきた子供達をあやしながら、彼女は手早くひとりひとりに配っていった。
あっという間に袋の中身はなくなり、空になったのが解ったとたんに子供達は再び物陰へと散っていった。
「ま、終わったからよしとするかな」
始終あっけにとられて、一行の後ろでたたずんでいたクリストファーを横目で見ながら、ユウンは誰にいうともなく呟いた。
●最後のプレゼント
「どうも有難うございました。おかげで無事に役目を果たすことが出来ました」
教会前まで共をしてもらった後、クリストファーは一同に礼を述べた。
「はい、袋とペンダント‥‥お返し致します」
「ああ、そうでした。これがなくては私は僧侶様に怒られます。袋の方も役に立てて良かったです」
「あんまり意味なかった感じだったけどね」
「‥‥確かにそうやな」
「どうかされましたか?」
きょとんと首を傾げるクリストファーに、ユウンと凰牙は何でもないと肩をすくめる。
「っと。忘れていました‥‥ユウンさん、これをどうぞ」
クリストファーは懐の中に忍ばせていた小袋をユウンに手渡した。先程子供達に配っていたものと同じ袋だ。恐らく彼女のために、1つだけ残しておいたのだろう。
「優しき心の娘、ユウンに神のお導きがあらんことを‥‥」
「ありがとう‥‥って、これって僕が子供っていう意味だよね。なんかプライドが傷つけられちゃうな‥‥」
「いいじゃない。せっかくですもの、頂いておきましょう」
ティアナに言われ、ユウンはそっと自分のバックパックの中へしまいこんだ。
「さあ、聖夜祭はまだ終わってないんだ。一杯楽しんでいこうぜ」
にぎやかな音楽がどこからともなく聞こえてくる。
そう、まだ聖夜祭は終わってないのだ。残り少ない喜びの時を楽しもうと、冒険者達は音楽のする方へと足を向けていった。
おわり