出動! 幽霊屋敷探索隊
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月18日〜01月23日
リプレイ公開日:2005年01月25日
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●オープニング
「腐った卵の香りのする石と、油を混ぜて‥‥すましバターと蜂蜜を混ぜる‥‥そして、これを‥‥」
「うっ、何だこの匂い! 先生‥‥今度は一体何を作っておられるのですか!?」
扉を開けた途端、鼻をつんざくような匂いに襲われ、彼は悲痛な声を上げた。
大きな鍋に怪しげな薬草を放り込み、老いた錬金術師はにんまりと無気味な笑みを浮かべる。
「おお、ヴィンセント君ではないか。丁度よい所に来てくれた、ちょっとお使いを頼まれてくれないかね」
「‥‥先生の「ちょっと」は、何時でも「大変」なんですけど‥‥」
あからさまに嫌そうな態度をする弟子を程よく無視して、錬金術師は1枚の羊皮紙を手渡した。
そこには、ずんぐりと丸いキノコの絵と、くせの強い文字が記されていた。
ひきつった笑顔をさせつつ、ヴィンセントはじろりと師である老人をにらみ付けた。
「このキノコを探してこい‥‥というのですか?」
「ああ、そうじゃ。最後のしめにどうしても必要なのじゃよ」
「『古き我が屋敷の地下に眠る、芳醇な香りと燃えるような赤い色が特徴。程よい湿り気と寒気を好み、大抵は群れをなして生えている。石畳の上に生えるその姿は、生々しい鮮血のようである』‥‥古い屋敷って、まさか‥‥あの幽霊屋敷のことですか?」
「幽霊屋敷とは失礼な。ちょいと修理は必要だが、まだ人は住めるぞい」
「放棄してから40年以上経ってるんですよ。そろそろ床が軋みはじめてるんじゃないですか」
そう言って、ヴィンセントは近くの棚にあった小瓶をいくつか手に取った。
「お。おいっ。そいつをどうするつもりだね」
「これを売った金で人を雇うんです。無気味な屋敷の中を、独りで歩き回るのは辛いですからね」
彼はきっぱりと言い放つと、勢い良く飛び出していった。
先程の匂いが服にこびり付いてないか確認しつつ、そのまま彼は、まっすぐに冒険者ギルドのある道筋を向かっていく。
「全く、先生はいつもああなんだから‥‥たまにはこっちの都合も考えて欲しいよ」
とはいえ、手にした小瓶では大した額にはならないだろう。冒険者が雇えるかどうかは少し心もとない。
「まあ、いいや‥‥屋敷で何か見つけたら、彼らのものにするって事にすれば‥‥少しは興味を持ってくれるだろうな」
収集家でもあったため、妙なものが屋敷内のあちこちに飾られていたのをヴィンセントは記憶していた。もっとも、金目のものはすっかり盗られてしまい、残っているとすると、一般人にはガラクタとしか思えないものばかりだろう。
「冒険者は変わり者の集団だと聞くし、きっと大丈夫だろうな」
そう思いながら、ヴィンセントはギルドの入り口をくぐり抜けていった。
「館内のつくりはどの程度ご存じですか?」
ギルドの受付から不意に問われ、ヴィンセントは目を瞬かせる。
「情報はあるに越したことはありません。事前につくりが分かっているならば、対策も練りやすくなります」
「ああ、それもそうですね‥‥ええと‥‥」
もう十年以上も前になる記憶をたぐらせ、彼はぽつりぽつりと言いはじめた。
「地下に眠るってことだから、探すのは1階だけです‥‥よね。1階はサロン・リビング・執務室・キッチンだったかな‥‥あといくつか部屋があったような気がするけど、入り口が壊れてたりで入れなかった記憶があります。ただ、建物自体も古いようですからね。入れない場所は下手にいかない方が良いかな‥‥」
ヴィンセントの言葉を一字一句漏らさず、受付係は流暢(りゅうちょう)な文字を記していく。その様子に、彼は感嘆の声をもらした。
「‥‥すごい」
「『屋敷内は無闇に立ち入るべからず』‥‥と。後は現地で調査、ということでしょうか。それでは、ヴィンセントさん、報酬についてお願いします」
そう言い、受付係はにっこりと微笑んだ。
●リプレイ本文
●幽霊屋敷を眺めて
「いやはや‥‥確かにこれは、どうみても幽霊屋敷だね」
苦笑いを浮かべながらジャッド・カルスト(ea7623)は、眼前にそびえる屋敷を見上げた。
雨風にさらされた屋根と壁は色がはげ落ち、ツタがのび放題に絡み付いている。雪化粧でごまかされているものの、雑草に覆われた庭には枯れ木と苔むした彫像が無気味にたたずんでいた。
人が住まなくなると家は途端に荒れるという。
島国であるイギリスは特にそれが顕著で、山や海からの強い風が容赦なく家に吹き付けられ、あっという間にボロ屋へと変ぼうさせてしまう。
「人の気配は無いようだな。さっさと中を見て回るとしよう」
トール・ウッド(ea1919)は足早に玄関へと向かっていった。その後を追うようにマナウス・ドラッケン(ea0021)が歩いていく。
「ああ、待ってくださいー‥‥」
言うことを聞かず、なかなか中へ入ろうとしない馬の手綱を引っ張りながらヴィンセントが情けない声を上げた。
苦戦している彼の手に、さりげなく白い手が添えられる。
「そんなに強く引っ張ったら馬がびっくりしてしまうぞ」
そう言って、エスリン・マッカレル(ea9669)はわずかに笑みを浮かべて馬の背をなでてやる。
「このもの達は決しておびえさせてはだめだ。無理強いをさせたところで怪我をするのは自分の方だぞ?」
エスリンはすっと馬の口輪に手をかけた。すると、馬は素直にエスリンの後を追って進みはじめる。
「さ、ヴィンセントさんも急ぎましょう」
傍らにいた琴宮茜(ea2722)が彼に話しかけた。呆けながらも歩き始めるヴィンセント。茜は歩調を合わせながら、更に語りかける。
「えっと‥‥それで、先程の続きなんですけど‥‥」
「あ、ああ。キノコの生えてる場所、でしたっけ。ええと‥‥多分なんですけど‥‥」
懐からメモを取り出し、彼は考え込みながら話はじめた。
「おーい、先に入ってるぞー」
「あ、待ってくださーい。茜さん、急ぎましょう」
「はいっ」
雪を踏み締める音が、駆け足のたびに立てられる。
彼らの足音はわずかに響き、すぐに雪の空へと吸い込まれていった。
●執務室内にて
一行はそれぞれの部屋に別れて、探索をはじめた。
手前にある執務室に足を踏み入れたマナウスは、カビ臭い淀んだ空気に思わず顔をしかませた。
部屋は薄暗く、くたびれた窓の鎧戸からわずかにもれる光が唯一の光源だ。
レイピアの鞘で突きつつ、慎重に歩みを進めていく。地道な作業だが、安全面を考えるならば、この方法が最適だろう。
「書物はさすがに残っていない、か‥‥」
この時代、紙――羊皮紙は貴重品だ。あらかたのものは引っ越しの際に持っていっているだろし、残していったものはほぼ盗まれているはずだ。その証拠に、すでに何者かが侵入したらしい跡が部屋のあちこちに残されていた。
「奥にも部屋があるようだぞ」
と、トールが言う。部屋の奥にあった扉を蹴破り、彼は中へと入っていった。
「何かあるか?」
マナウスが数歩近付いた瞬間。
派手な音をたてて、何かが崩れ落ちる音が響き渡った。
「どうした!」
あわてて駆け寄ると、錆びた甲冑の山を前に佇むトールの姿があった。
「いきなり倒れてきやがった。どうやら繋ぎの紐が切れたようだな」
ひとつの甲冑像が倒れたと同時に、隣り合わせにあった甲冑像達も連鎖して次々と倒れてきたらしい。
暗闇で突然のことだったが、何とか紙一重で交わすことが出来たようだ。かすり傷ひとつない姿にマナウスはほっと安堵の息をもらす。
「手入れをしないと、こういうものはすぐ朽ちるな」
「確かに‥‥ん?」
マナウスは部屋の中程に置かれている箱を手に取った。中には金づちや砥石などが収まっている。
「なるほど。この甲冑は飾りではなく、手入れをするために置かれていたんだな」
「だが、今となってはただのガラクタだ。エチゴヤの親父でも喜ばんだろう」
鉄の固まりを見下ろしながら、トールはひとつ息を吐いた。
●お宝発見?
「ああっ! ちょっと何勝手に開けてるんですか!」
キッチンに入るなり、ジャッドは手当りしだいに扉を開け始めた。あわてて止めようとするヴィンセントを、彼は軽く指で小突く。
「地下の需要がある場所といったら、何よりキッチンだ。地下への入り口は恐らくここにあるだろうな。そのための探索をしているんだ、悪いことではなかろう?」
「‥‥ま、まあ‥‥そうなんですけど」
「ジャッド。こんなものを見つけたぞ」
調理台の扉を確認していたエスリンが布袋を差し出した。どことなく、ただならぬ臭いをほんのりと放つ袋に、ジャッドは思わず息を飲む。
「‥‥どこにあった?」
「あの台の奥だ」
さらりと告げるエスリン。
覚悟を決めて、ジャッドは恐る恐る袋を開けた。つんと強い臭いが一行の鼻に襲いかかった。
「な、なんだこりゃ!? ひどい匂いだな、食べられるのか?」
「あれ‥‥でも、食料は引っ越しする時に全部処分したはずですよ」
それに、この周辺は野生動物も多い。食料品などはとうの昔に、彼らに食べつくされていることだろう。
「大方、ここに忍び込んできた盗賊達が残していったものだろう。迷惑な話だな」
ふと、垂れ幕の奥に木の扉を見つけた。慎重に扉を開けると、下におりる階段が彼らの前に姿を現した。
「ふむ。まさに、推理通り」
「‥‥まだ、あると決まったわけではないぞ」
「さて、と‥‥地下倉庫か。酒のひとつでもあると良いのだがな」
心なしか楽しそうに、ジャッドは地下室へと向かっていく。
「ぼ、ぼくは茜さんの様子を見てきますね」
「ああ。こちらは私達に任せておけ」
手際良くランタンに灯をともし。エスリンは暗い地下への道へと足を踏み入れた。
●忘れられた遺品
サロンには殆ど物が置かれていなかった。もともと、ここはパーティや談話をするための場所。不用意に物は置かれていないのだろう。
「じゅうたんの裏あたりに、入り口があったりするのかしら‥‥」
古びたじゅうたんをめくりつつ、茜は床を重点的に確認していく。
ふと、視界の端で何かが瞬いた。壁際にあるソファの下をのぞくと、きれいなペンダントが転がっているのが見えた。わずかな光を反射させて美しく輝くペンダント。その輝きに、茜は思わず見とれてしまう。
「きれい‥‥」
このサロンに訪れた貴族が忘れていったものなのだろう。思わぬ収穫に喜びつつ、茜はそっとそれを懐におさめた。
●覚悟完了
その夜。
収穫状況を確認するために、リビングルームの暖炉の前に集まった。赤々と灯る暖炉の火は暖かさと安らぎを見るものに与える。
ホコリやカビが気になければ、まだここは住み心地よい場所と言えるだろう。
「キッチンの奥に、地下室の入り口があったよ。ただ‥‥残念なことを報告しなければならない」
「キノコ、生えていなかったんですか?」
ジャッドは静かに首を振り、小さな酒樽を皆に見えるように置いた。
「ここをみてくれ。栓が腐ってやがる‥‥残念ながら、旨い酒は望めなくなってしまった」
「あのー‥‥ジャッドさん、ぼく達はキノコを探しに来たんですけど‥‥」
「はっはっは。少し位の楽しみは必要だろう? 心配するな。目的の物なら見つけているさ」
すっとエスリンが袋を差し出した。中には、毒々しいまでに赤く染まった、丸いキノコが詰められていた。
「地下室の奥にひっそりと生えていた。これで間違いないか?」
「何だか恐い色です‥‥」
嫌悪の表情を浮かべる茜。話を聞いて、予想はしていたが、暖炉の光の中でみるそれはまさに鮮血の固まりであった。
メモとキノコを見比べて、ヴィンセントは多分これだろう、と言う。
「ところでトールはどうした?」
「何かいないか、偵察に行ったよ。まあ‥‥すぐに戻ってくるんじゃないか?」
人の足跡が屋敷内のあちこちにあったのを気にしているのだろう、とマナウスは言う。だが、捜索している間、人の気配はほとんど感じられなかった。すぐに戻ってくることだろう。
「それにしてもこのキノコ、どう見ても毒キノコ‥‥ですよね?」
首を傾げる茜。傘のうらにびっしりとはびこる紫色の胞子は、見ているだけで不快感を誘う。
「とりあえず食べる気にはなれないな‥‥」
「食べるといえば、先程のあれを食べてみるか? 火にあぶれば多少は違うだろう」
「持ってきたのか!?」
「獣狩りの餌に使えるだろうと思ってな」
そう言ってエスリンは強くしばりあげた革袋を取り出した。
ひもをほどいた途端、何とも言えない鼻をつく臭いが辺りに充満する。
「いや、無理無理! せめてその臭いをとってくれ!」
「これ港にある干物みたいですね。こんがり焼くと美味しいと思いますよ」
ジャパン出身である茜はこの手の臭いに慣れているようだ。
そういえばジャパンの食事には腐った(発酵させた)食材を使っていると、風の噂でささやかれている。文化が違えば、味覚も違うということなのだろうか。
「‥‥うわっ、何だこの臭い!」
戻ってくるなり、トールが非難の声を上げる。
「あ。おかえりなさーい。この干物を皆で頂こうかって、お話してたところなんです」
にっこりと微笑む茜。
引きつった笑顔を浮かべながら、トールはくるりと踵を返した。
「‥‥もう少し様子を見てくる」
「私もつきあおう」
「俺もいくぞ」
そそくさとエスリンとマナウスは彼の後を追う。
席を外すタイミングを逃したジャッドは、ひとつため息を吐いて、ヴィンセントの背を叩いた。
「とりあえず、覚悟を決めるか」
「‥‥決定事項なんですね‥‥」
短い沈黙の中。
パチン、と暖炉の中で薪が跳ね上がった。