荷物を取りかえせ!
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月03日〜02月08日
リプレイ公開日:2005年02月08日
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●オープニング
「冒険者をお願いしたいの!」
ギルド内に飛び込んできたシフールは、係の女性に詰め寄り、そう叫んだ。
「それ‥‥は、いいけど。あなた宅配の仕事の最中、じゃなかったかしら。どうかしたの?」
「大ピンチなの! あやうく食べられちゃうところを、命からがら逃げてきたんだから!」
食べられる、という単語が少々気になったが。
とりあえず、受付係は詳細を聞くことにした。
ことの始まりは1通の手紙だった。
キャメロットに住む騎士のひとりが、田舎に残した両親へ、手紙と一緒にプレゼントをシフール便で送る手配をした。
配達担当となったシフール(名をチュペットを言う)は、早速配達先へ届けようとしたが‥‥
道中、突如現れた獣に荷物を奪われてしまったのだという。
「手紙は何とか奪われなかったんだけど‥‥シフール便の名にかけて、荷物を取り戻しに行かなくちゃならないの! つよーい戦士を集めてちょうだい!」
「えーと、獣の住処とか、持ち去られていった場所は分かってる‥‥?」
「ちっちっち。犯人は現場に戻るものなのヨ! 餌か何かでおびき寄せて、近付いたところを皆でえいやって飛びかかって、縄で捕まえちゃえばいいの。あたしってあったまい〜♪」
受付係は大きく息を吐き出した。恐らくその方法では、また奪われるだけだろう。
冒険者側で、もっと良い方法を提案してあげなくては‥‥と、さりげなく受付係は依頼書に追記した。
「それで、獣の種類は?」
「うーんと、ちょっと大きなオオカミさんだったよ。茂みからガバッて出てきて、あたしごと連れ去ろうとしたの。もしかして、あたしが可愛いから襲われちゃったのかなぁー。可愛いって罪ね‥‥」
「茂みから突如現れた‥‥と。場所はどこかしら。覚えているわよね?」
もちろん。と、差し出された地図の一点を彼女は指差した。
ケンブリッジに続く街道ぞいの、比較的キャメロットに近い場所だ。
この辺りは茂みはあるが、なだらかな丘陵地帯で、獣が住んでいるような森からは少し遠い。
この時期、彼らの餌は極端に少なくなる。
先程のシフールの言葉ではないが、一度狩りに成功したならば、味をしめて、人を襲うこともあるだろう。
彼らの行動範囲を考えても、近くにある茂みに、人に気付かれないよう潜んでいると推測される。
「ところで荷物の中身とか、もしかして知らないかしら?」
「んーとね。とっても暖かそうな毛糸の靴下だったよ」
「あら、食べ物じゃないのね。それなら何とかなりそう」
毛糸の靴下ならば、万が一でも獣に食べられるとは考えにくい。取りかえすことは出来そうだ。
うまく獣を捕まえるか、住処を見つければ取りかえすことは出来るだろう。
依頼書にサインをするシフールを眺めながら、彼女はそんなことを考えていた。
●リプレイ本文
●おとり作戦
キャメロットより伸びるこの街道は、もっぱらケンブリッジと行き交う馬車に利用されている。
そのためか、街道を行き来する馬車は多く、多くの荷を揺らせて駆け抜けていっていた。
「この分じゃ、オオカミ達が現れるのは、当分先に夜になりそうね‥‥」
過ぎ去っていく馬車を眺めながら、威吹神狩(ea0322)はひとつ息を吐いた。
一行が到着してから、ここを馬車が通るのはこれで3度目だ。
月道の開放日が近いためか、キャメロットへ向かう馬車が多い。その殆どが、たくさんの荷を載せた商人の馬車だ。
彼らの成功の是非は、如何にしたら新しい顧客を手に入れられるかにある。月に1度しか遭遇出来ない、貴重なチャンスを逃したくないのだろう。
「‥‥とりあえず早めの飯と、睡眠でも取っておこうかしら?」
神狩の呼びかけに、茂みの向こうからエスリン・マッカレル(ea9669)とロゼッタ・メイリー(eb0835)が顔を覗かせた。彼らのいた茂みの向こうに、式乃影螺(eb0834)の姿も見える。
「チュペット殿はこの時間に襲われたと聞いたのだが、やはり時間のズレはあるようだな」
「彼らは警戒心が強いですからね。騒がしいうちは警戒して出てこないでしょう」
ロゼッタはそう言って辺りを見回した。
雪に覆われた一面の銀世界。吐く息は全て白い煙となって、空に溶けていく。
暖かい時期ならば聞こえてくる鳥の歌声も全く聞こえず、辺りはしんと静まり返り、深い眠りについているかのようだった。
アレス・バイブル(ea0323)が小さな声で告げた。何か動くものを見つけたらしい。
「あそこの丘の向こうに、一瞬ですが、獣らしき姿が見えました」
「‥‥僕には見えないんですけど‥‥」
ハリス・クアトロ(ea5310)が言うのも無理は無い。比較的視力の良いアレスですら、わずかに見えただけなのだから。
「私が少しみてこよう。影螺殿には引き続き、おとり役として待機しておいてもらえるよう言付けておいて欲しい。なに、雪には慣れている。偵察など造作も無いことだ」
馬をよろしく頼む、と告げて、エスリンはひらりと雪の草原を駆けていった。
彼らの背後から盛大なくしゃみの声が聞こえた。
おとりのためとはいえ、独りで雪道をいつまでも歩かせるのも大変だろう。
体力温存も考え、彼らはひとり街道で佇んでいる影螺を呼んだ。
●襲撃
かさり‥‥
街道の側にある茂みが大きく揺れた。
一瞬にして、一同に緊張の糸が張られる。
茂みから雪が落ちる音と共に、オオカミがゆっくりと姿を現した。
彼らはうなり声をあげつつ、影螺を取り囲むように近づいてくる。
さりげなく、仲間が用意しておいた肉片を掲げ、影螺は静かに、待機している仲間達の射程範囲までオオカミを誘いだしていった。
一番手前にいたオオカミが大きく飛び跳ねた。その瞬間、神狩の手から手裏剣が投げつけられる。
額に手裏剣がささり、オオカミは悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
が、彼は素早く体を反転させると、怒りに満ちた眼でうなり声をあげた。
エスリンがうち放った矢とアレスの一撃がオオカミを迎え撃つ。
ためらいも無く繰り出される一撃は、一瞬にして、彼に大きな深手を与えた。降り下ろされる剣は容赦なく腹を引き裂いていき、雪に赤い花を咲かせていく。
「‥‥どうか、お許しを‥‥」
目の前で繰り広げられる光景に、ロゼッタは思わず目を背け、神に祈りを捧げる言葉をささやいた。
オォオーン‥‥
なんとか急所の一撃から免れ、生き残ったオオカミは悲しげな声を上げて、茂みへと逃げていく。
「皆さん、怪我はありませんか?」
仲間が集まってこないことを確認し、アレスは周囲を見渡しながら言った。
「まあ、なんとか、な」
もう一歩タイミングが遅かったら、結構やばかったかも、と影螺は苦笑いを浮かべる。
「おとり役だから仕方ないんだけどよ。同時に来られるのは勘弁願いたかったな。それより、早く追ったほうがいいんじゃないか?」
幸いにも雪は止んでいるため、すぐに血痕が消されることはないだろう。
だが、時が経てば追いかけるのが困難になるのは確かだ。
「奴らの逃げていった方‥‥私が先程偵察にいった方角と似ているな。だとすると‥‥」
「何か見つけたんですか?」
ハリスの問いに、エスリンは「ああ」と頷く。
「とにかく急ぐとしましょうか」
エスリンを先頭に、一行は狼の後を追った。
●オオカミの巣
雪の上に残された血の跡をたどっていくと、一行の前に背の高い茂みが現れた。
人の背より少し低い程度だろうか、確かにこれならば人目を隠す巣の場所に最適と言えよう。
「これは‥‥鳥の死骸‥‥。ここの中に巣があるのは間違いなさそうね」
雪と茂みの間に落ちていた鳥の片翼を見つけ、神狩はそう言った。
「気をつけて‥‥奥にまだ仲間がいるかもしれません」
先程の遠吠えは仲間に聞こえているはずだ。恐らく、攻め込んできた敵を迎え撃とうと身構えていることだろう。
ロゼッタが警戒していた通り、厚い茂みの向こう側ではオオカミが待機していた。
彼らはつがいなのだろう。ひとまわり小さなオオカミが、怪我をして動けない彼を守るよう立ちふさがり、冒険者達をにらみつけていた。
相手は獣。交渉の余地は無いだろう。剣を構える面々の後ろから、ハリスが声を上げた。
「‥‥あそこにあるの、手袋じゃないですか‥‥?」
オオカミ達のすぐ後ろに、まだ幼い子オオカミの姿があった。幼子達を暖かく包んでいるものは‥‥シフールが説明していた手袋の外見に良く似ている。
「‥‥そこで寝てる子には悪いが、そこにあるものを待ってる奴がいるんだ。返してもらおうか‥‥!」
影螺は、ワザと大きな音を鳴らすように手近の岩をナックルで打ち付けた。
金属と岩石が弾けあう鋭い音が鳴り響く。
派手な音に、オオカミ達が混乱した隙をついて、アレスが切り掛かった。
彼の後を追おうとする影螺のこぶしに、ふとハリスの手が触れる。途端、彼のこぶしを薄い炎が覆い包んだ。
「これぐらいしかお手伝い出来ませんが‥‥気をつけて‥‥」
「‥‥ありがとよ。式乃の名にかけて、いっちょやってやるぜ!」
影螺は強く地を蹴り、戦闘の中へ飛び込んでいく。
「さあ、今のうちに‥‥荷物を!」
弓矢をうち放ち、エスリンが叫ぶ。こくりと小さく頷き、軽い身のこなしで神狩は素早く手袋を奪い取った。
子供達が狙われたと勘違いしたのか、狼達は意識を神狩に向けた。
その一瞬の迷いを突き、エスリンの一撃がオオカミの腹に突き刺さった。
「‥‥許せ」
とさり、と倒れるオオカミに一言。静かに彼女は呟いた。
●戦いを終えて
「わぁい、ありがとうーっ! さっすが冒険者様ねーっ」
手袋を受け取り、チュペットは嬉しそうにくるくると彼らの周りを回った。
「早速届けにいってくるねー。じゃーねー!」
そう言うと、彼女はあっという間に北の空へと消えていった。
「‥‥オオカミの唾液で汚れていたようですけど、それは気になさらないのでしょうか‥‥」
「‥‥まあ、ある程度はふき取ったし、後の責任は彼女がするだろう」
チュペットが飛んでいった先をぼんやりと眺めながら、ロゼッタとエスリンは言う。
全くの無傷だということは相手が相手だけに難しい相談ではあったが、全く気にされないというのも複雑な思いである。
「どうかしましたか?」
帰り道からずっと暗い表情をさせていた神狩に、アレスは言葉をかけた。
「‥‥獣と人は‥‥共に生きてはいけないのかしら‥‥」
そう呟き、神狩はふっとアレスと視線を合わせた。
その視線を受け止め、笑顔を返してアレスは言う。
「あまり悩んではだめですよ、神狩さん。あなたは優しい人だ‥‥」
手袋を手に取ろうとした時、自分を見つめてきた子供達の表情と、戦いの中で倒れていくオオカミの姿に神狩は複雑な想いを消せないでいた。
「彼らにも、私達にも生きる権利はあり、互いに侵してはならない領域があります。今回は、その約束が‥‥少々違えてしまったのかもしれませんね」
どちらが悪いとも言えぬだろう。
生きて、種としての繁栄を望むならば、どうしても争いは免れない。
今回のようなことは、そんな数多い争いの中のたった一幕でしかないのだから。
「さあ、それより早く冷えた体を暖めなくては。報告を待ちわびているギルド員の方もおられることですしね」
「‥‥ええ」
仲間達に促され、神狩はこくりと頷いた。