氷中の乙女像を救え!

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月14日〜10月19日

リプレイ公開日:2004年10月20日

●オープニング

「さあさ、よってらっしゃい、みてらっしゃい!」
 朗々とした女性の声がキャメロットの街に響きわたる。
 冒険者ギルド前の広場に突如現れた大きな氷と、その元気かけ声に、人々は何が始まるのだろうと、興味深げに集まってきた。

 広場にある噴水の傍らに赤いじゅうたんが敷かれいた。
 その上に、女性の背丈より少し大きめの氷が置かれており、傍らには異国風の女性が立っていた。
 踊り子を意識させる、薄い布地を羽織った衣装は、自然と人々の注目を集めさせた。
「あんたがここで踊りでも見せてくれるのか?」
 観客の1人が女性に問いかける。
「ふふ‥‥それも悪くはないね。でも、熱い踊りを見せるのは、こいつに挑戦する冒険者達だよ」
 艶やかな口元をほころばせながら、女性は氷を指差した。
 よく見ると、氷の中には木で出来た粗末な女性像が入っている。
 術に覚えのあるものならば、その氷が魔法で産み出されたものだと一目で分かるだろう。
 術が不完全なのか、もうすでにちょっぴり溶けはじめているのは、ご愛嬌といったところだ。
 氷の傍らにいた女性は、集まってきた冒険者達の姿に満足しつつ、笑顔で周囲をぐるりと見渡す。
 懐に下げていた籠を手に取ると、周りによく見えるよう差し出しながら声を張り上げていった。
「この中で腕に自信のある奴はいないかい? 氷の中にある像が見事取り出されたら、賞金をあげるよ! 1人でも10人がかりでも全く構わないけどね、ひとりじめしたかったら1人でやるのがオススメかな。たーだーし、この氷に触れたり、中の像まで壊しちゃ駄目だからね。挑戦料は1回10C! 複数参加の時は皆で出し合って払っておくれ。受付はこの氷の中身がとられるか、氷が溶けきるかまでだよ、さあさ急いだ急いだ!」
 『賞金』という単語に反応したのか、輪の中にいた冒険者が1人、また1人と手を挙げて前に出てきた。

「で、賞金はどれぐらいの金になるんだ?」
 挑戦者の1人が何気なく女性に問いかけた。
「ふふん‥‥そういうことは中身を取り出してから‥‥と言いたいところだけどね。あんたは顔がいいから、ちょこっとだけ教えてあげる。この袋に入ってるコイン全部よ」
 そう言いながら、女性は豊満な胸の間にしまっておいた、少し大きめの革袋を取り出した。
 何のコインが入っているかまでは分からないが、少なくとも挑戦料の倍以上はあるだろう。
「これがあんたのものになるかはあんたの腕次第。がんばってね」
 女性は色っぽく片目をつむりながら、そうささやいた。

●今回の参加者

 ea0136 リッカ・セントラルドール(35歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1303 マルティナ・ジェルジンスク(21歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1925 シアン・フューレ(31歳・♂・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6115 雷 鱗麒(24歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea7415 ティール・ウッド(29歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 一番に名乗り出たのはティール・ウッド(ea7415)だった。
「持ち上げても、投げたりして壊さなければいいですよね?」
「動かすだけなら、まあいいわよ」
「それじゃ、ちょっとだけ‥‥」
 言うなり、ティールは氷を持ち上げようと両手に力を込めた。
「‥‥んっ‥‥!」
 ちょっと動いたような気がするが、自分より大きな物がそうそう動かせるはずもない。
 半分あきれ顔で見守るギャラリーに、ティールは瞳を潤ませながらじっと見つめて、周囲に無言のお願いをする。
「ええと‥‥どうしたいの?」
 傍らで様子を眺めていた女性は、優しく言葉をかけた。必死に持ち上げようとしながらティールは答える。
「この氷をっ‥‥! 噴水に入れたいんです‥‥!」
「それはさすがに、あなた1人じゃ無理よ。そうね‥‥誰か手伝ってあげられない?」
「俺が手伝ってやるよ!」
 群衆の中から現れたのは武道家らしい出で立ちのシフールだった。得意げに腕組みをしているが、なぜか周囲からは笑い声があがった。
 笑い声を歓声と受け止め、雷鱗麒(ea6115)は群衆に笑顔を振りまく。
 目をまたたかせ呆然としているティールの肩にとまり、鱗麒は得意げに言った。
「要はそいつを噴水の水で溶かすんだろう? 動かせないんだったら、かけてやればいいのさ」
「そっか、そうですよね!」
 早速、水を汲もうと噴水にコップを入れるティール。肌寒くなってきたこの季節のせいか、まだちょっと冷たいような気がしたけれど、多分気のせいだ。
 その様子をみていたリッカ・セントラルドール(ea0136)が片手を挙げながら声を張り上げた。
「はいはーいっ! そこのボウヤ達、お姉さんが手伝ってあげるわよぉ〜?」
 少し赤ら顔でおぼつかない足取りの彼女に、ティールと鱗麒は眉をひそめてささやきあった。
「なんか、酔っ払いが出てきたよ‥‥?」
「どうしよっか?」
 2人の話し合いも気にせず、リッカはご機嫌な様子で、舞台の中央へと歩み出る。
「その氷をあっためて溶かすんでしょぉ? あたしにまっかせなさーい!」
 リッカは懐に入れていた火打ち石とたいまつを取り出し、手早くたいまつに火をつけた。少し大げさに印を組みながら詠唱を始める。途端に、リッカの体は赤く輝く淡い光に包まれ、手に持っていた炎が勢いを増しはじめた。
「さあ、火の精霊達、頑張ってらっしゃい!」
 リッカのかけ声とともに、炎は一瞬にして氷を包むように大きく燃え上がった。
 大きな歓声がギャラリーからわき起こる。
「あちちちちっ! 俺も燃やすつもりかよー!」
 背中の羽根につきそうになった火の粉を振払い、鱗麒はあわてて氷の上から飛び降りた。
「あーら、ごめんね。今、ちゃんとさせるからね」
 リッカは優雅にたいまつを振り、眼前で印を結ぶ。
 炎はすこしづつ鎮火し、氷の半分を包むほどにまでおさまった。
「これって、中身燃えませんか?」
 少し心配そうにティールが問いかける。
「んー‥‥これだけ水があるし、多分大丈夫よぉ」
 カラカラと笑いながら、リッカは満足げな笑みを浮かべた。
 火に直接あぶられているせいか、氷は見る間にどんどん溶けはじめていく。
 その様子に、順番を待っているのだろう、挑戦者達より少し離れた場所にいたマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)とシアン・フューレ(ea1925)の表情に焦りの色が見え始めた。
「なあ、そこの2人も一緒にやろうぜ。何かいい案あるんだろ?」
 雷が誘いかけるように2人の前をひらひら飛ぶ。
 お互い顔を見合わせていたが、鱗麒の誘いを断る理由もない、とあっさりと彼らの解凍作業に参加することにした。
 早速とばかりに持ってきた鏡を地面に立てるマルティナ。小首を傾げる観客にマルティナは簡単な説明をはじめた。
「ええと、お日様の光って暖かいですよね。だから、こうやって反射させて集めると、もっと暖かくなるんじゃないかなって思ったんです」
 確かに鏡は光を反射する。だが、数枚程度の銅鏡が反射した光に、氷を溶かすまでの力があるのかは少し疑問だ。
「そんなんで暖かくなるのぉ?」
 自分の炎の方がよっぽど効果があるとばかりに、疑わしそうな視線を送るリッカ。
「大丈夫です‥‥たぶん!」
 マルティナを手伝うように、シアンは立てられた鏡の角度の微調整を行っていた。少しづつ角度を変えて、鏡の方向を一点に集中させていく。
「うわっ、まぶしいっ! もうちょっと下に向けらんない?」
「あ、ごめん」
 氷の上から水をかけていた鱗麒は、まぶしそうに目を覆った。たまたま鏡に映った炎の輝きが直接目に飛び込んできてしまったらしい。
「大丈夫?」
 炎で少し暖めたコップの水を手渡しながら、ティールは心配げに問いかけた。
「ああ‥‥もうちょっとで失速するところだったよ」
「そうしたら焼きシフールになっちゃうね」
「じょーだんっ、俺はそんなミスはしないぜっ!」
 胸を張りながら得意げに答える鱗麒。
 2人のやりとりを眺めていたリッカは何となく炎の勢いを強めさせた。炎の舌が鱗麒の足をなめまわす。
「っ! あちちちっ! な、なにするんだよー!」
「なんとなく、ねぇ‥‥」
 けたけたと笑うリッカ。
 そんなことをしている傍らで、マルティナとシアンは黙々と作業をしていた。
「こんなもんかな」
「そうですね。これぐらいですね」
 とりあえず鏡を並べてはみたものの、リッカの操る炎のおかげで、きちんと光が当たっているのかよく分からない。それでも、並べられたのが満足、とマルティナは大きく頷いた。
「こうやっていれば、日暮れ頃には溶けると思いますよ」
「あら、その前に終わるわよぉ」
 大きくあくびをしつつ。リッカはたいまつを一振りした。
 ぼっと音を立てて炎は大きく膨らみ、あっというまにかき消えた。どうやら術の効果が終わったようだ。
「まどろっこしいからボムでも一発お見舞いしてあげましょー!」
「いや、壊れるから! 無理無理!」
 印を結ぼうとするリッカ。慌てて3人のシフールがそれを制した。
「‥‥よしっ、抜けたよー!」
 見ると、ティールの手に氷の中にはいっていた木像が握られていた。
 一斉に周囲から歓声と拍手があがる。
「おめでとー! はい、賞金のお金1Gよ♪」
 差し出された布袋をちゃっかりと受け取ったのはリッカだった。彼女は中身を一目みて、不服そうに眉をひそめる。
「なぁに、これだけ? こんなじゃ、今日の酒代ぐらいにしかならないじゃなーい」
「そういわれても‥‥」
「あ、じゃああの木像もらってもいい? いくらかましに売れるわよねぇ」
 女性に腕を絡ませ、リッカはにんまりと微笑む。
「売れないんじゃないかしら‥‥私の手彫りだし」
「その賞金いただきっ!」
 隙だらけのリッカの手から袋を取り上げ、ティールは3人のシフールのもとへと駆け寄った。
「これでごちそうでも食べよう!」
「いいね。俺、こっちにきたばかりで、こっちの料理まだ食べてないんだ」
「私、荷物をとってきますね」
「これだけのお金があれば‥‥お腹いっぱい食べられそうだ」
「こらー! それはあたしの酒代よー!」
 荷物を載せていた馬に飛び乗り、酒場へと向かおうとする一行を、リッカはあわてて制した。
「面白かったぞー!」
「また派手なの見せてくれー!」
 群衆は彼らに声援を送りながら、チップを地面に放っていく。
「今日のところはありがと、またよろしくねぇ」
 氷はまだ少し溶けのこっていたが、しばらくすれば溶けてなくなるだろう。
 イベントが終わったと同時に、人々はまたいつもの仕事場へと戻っていった。

 この日、酒場ではこんな話題が広まっていた。
 炎の魔法を操る酔っ払いの女魔術師とその使いのシフールの大道芸人に巻き込まれた哀れなパラがいる、彼らの芸はとても見物であった、と。
 
 その真相を示す氷の塊はすっかり水となって消えてしまっていた。