お誕生ぱーてぃ
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月20日
リプレイ公開日:2005年02月21日
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●オープニング
「困ったわねぇ‥‥」
押し花が施された高級そうな羊皮紙のカードを手に、ギルド員の女性が呟いた。
どうしたのかと問い掛けると、彼女は村のお祝いに呼ばれているのだと答えた。
「領主様のお誕生日らしくてね、頑張って働いている村の皆を招待して、お祝いをするそうなんだけど‥‥私、結婚してから田舎に戻ってないし、この仕事もあるから、行くのもどうかなぁって‥‥」
「今、なんてった!?」
若い冒険者の1人が声を荒げて言った。
「‥‥仕事もあるから、行くのもどうかなぁって‥‥」
「いや、そうじゃなくて! 結婚してたのか!?」
「‥‥ええ。去年の秋に」
しかも新婚かよ‥‥
彼は大げさによろめきながら、がっくりとその場に倒れ込む。
小首を傾げる彼女を涙目で見つめていたが、諦めにも似た笑みをもらして、彼は手に持っていた箱を握りつぶした。
「ああ、そうだ。良かったら代わりに行ってもらえない? 代役ってことで。領主様と両親の方へは、私から連絡しておくわ」
「‥‥残念だが、俺はそんな気分にはなれない‥‥」
「そう‥‥それじゃあ仕方ないわね。誰か代わりに行ってもらえないかしら‥‥せっかくのパーティだし、人が多い方が領主様も喜ぶものね」
早速、彼女は近くにいた冒険者達に呼びかけようとした。
ふと、未だ倒れ込んでいる彼を見て、不思議そうに声をかけた。
「ところで。その手に持っているの、何?」
「‥‥はかなく散った、俺の淡い夢さ‥‥」
―――――――――――――
「ダリア村領主プリンストンの誕生日パーティ参加の代行、か。冒険者達は芸達者な者が多いからな、歓迎されるだろう」
報告書を受け取った上司はそう言って微笑んだ。
冒険者の中には、芸人として生計を立てているものもいる。
芸のひとつでも披露すれば、領主も歓迎してくれるだろう。
「でも、誕生日に領土内の村人を招待ってのも、太っ腹な話ですね」
「案外と貴族達を呼んでのパーティの方が、金がかかって大変なこともあるぞ?」
意味あり気に上司はにやりと口をゆがませた。
そんなもんなんですかね、とギルド員は首をかしげる。
「しかし問題は、服装だな。まあ‥‥村人達も正装なんてものは持ってないだろうし、清潔な格好で、獲物を持ち込まなければ大丈夫か‥‥」
「何か土産は持っていく必要あるんですかね」
「そうだな‥‥あれば喜ぶだろうが、無理して持っていく必要はない。祝いの言葉だけでもありがたいと思うものだ」
物より態度で示したほうが嬉しい時もある。
今回の場合、貧乏な村人達を招待している地点で、手土産は期待していないと判断してよいだろう。
「ただ‥‥くれぐれも、騒ぎすぎないよう注意してもらわないとな。妙な噂を出されてしまっては、こちらも困る」
苦笑いをしながら、彼はそう言った。
●リプレイ本文
●料理は錬金術
「鳥肉をハーブで包み、木の実とエールと隠し味に山羊の乳を入れる‥‥と」
煮えたぎった鍋の中にクラム・イルト(ea5147)は次々と食材を放り込む。
一見、美味しそうなシチューに見えた。
だが、気のせいだろうか‥‥ぐつぐつと煮込まれるスープの中に、根菜類や肉に混じって、石のようなものや、木の枝のようなものも見える。
お世辞にも、あまり美味しい代物ができ上がるとは到底思えない。
「‥‥うん、良い色だ」
コポリ‥‥。
艶やかなレンガ色をした、やや粘り気のある液体を、クラムは深い大皿へ丁寧に盛りつけていく。
ホクホクとした野菜に、柔らかく煮込まれた鳥肉。
見た目は結構美味しそうだ。
‥‥食欲をそそる香りに混じって漂ってくる、奇妙な臭みは一体何なのだろう‥‥
「‥‥さて、皆の顔が見物だな」
クラムは薄笑いをそっと浮かべた。
●花で飾ろう
村は朝からにぎわいでいた。
村人達は自分なりに精一杯めかし込み、陽気に唄を歌いながら丘の上に向かっていく。
彼らの手には野の草が握られていた。
素朴でありながらも、美しさを秘めた自然の花は、贈り物に最適だろう。
彼らと同行していたセラフィーナ・クラウディオス(eb0901)も、道中摘んできた花を大事そうに抱えていた。
「こんな花でも良かったかしら‥‥」
見た目も地味な花より、河原の綺麗な石の方が良かったかな、と少々不安ではあった。
だが、村人の多くも同じように花を持っていることに気付き、彼女はほっと安堵の息をもらす。
丘の上にある領主の家は、いつもは閉まっている門が大きく開け放たれ、全ての人を歓迎していた。
村人達はその門に、持ってきた花を飾り始める。
門にはキャンパスのような大きな麻布がかけられており、荒い縫い目のすき間に差し込むようにして飾るのだ。
セラフィーナもそれに習い、持ってきた花達を1本づつ、丁寧にさしていった。
●祝福の歌
「んじゃ、そろそろ始めるかな」
ざわついてきた会場を見渡し、レイジュ・カザミ(ea0448)は席を立った。
雑談でにぎわうテーブルをすり抜け、一番奥のテーブル、すなわち領主とその家族達の席へと向かっていった。
席の近くにはすでにマナ・クレメンテ(ea4290)とリーラル・ラーン(ea9412)の姿があり、マナが捕まえてきた鳥の歌声を伴奏がわりに、リーラルが唄を披露していた。
少したどたどしかったが、聞く分には不快感はなく、どこか心が暖かくなっていくような歌だった。
花が踊る 風が唄(うた)う
命の喜びを 命の喜びを
命の息吹生まれいずる春
喜びの唄をここに歌わん
幸せの春をここに歌わん
喜びの声を聞け
繰り返し紡ぎ出される歌声に合わせて、レイジュはテーブルに置いてあった空の器を、ワザと当てるように舞わせ始める。
ぶつかり合う木材から出される、柔らかくも軽快な音が、歌に乗りリズムを生み出していく。
誰ということなく手拍子が鳴りだした。拍手が大きくなるにつれ、レイジュはより高く器を空へ放り上げる。
歌が終わると同時に、盛大な拍手がわき起こった。
呆気に取られている2人に、レイジュはにやりと微笑みかけた。
「ほら、客が待ってるぜ」
歌い手に送られる拍手に、リーラルは深くお辞儀をした。
その様子を眺めながら、マナは傍らにいたレイジュを横目で見ながら言う。
「その曲芸、なかなか上手じゃない。でも、空中に投げた器がふらついていたわよ。もう少し緩急をつけて投げるといいわ」
「‥‥見破られてか。投げることに関しては、マナさんにはかなわないからなぁ」
「でも、おかげで皆も喜んだし、この子の気まぐれも気にしなくて良くなったわ。ありがとう」
特に教え込んでいた訳ではなかったので、鳥が鳴きやむのか心配ではあった。さすがに、歌だけで披露するには、リーラルの歌はまだ未熟だ。
「そういえば、リオンさんは?」
「ああ‥‥さっきまで一緒にいたんだけど、気付いたら席にいなかったよ」
「そう。面白い話をしてもらおうと思ってたのに‥‥」
ここへ来るまでの間、リオン・ラーディナス(ea1458)とリーラルが話していた会話を耳にしていた彼女は、残念そうにため息をついた。
ボケとボケが炸裂する会話の内容を思い出し、レイジュはなんとなく「もうちょっと酒が回ってからの方がいいんじゃないか‥‥」と思ったが、それは口にしないことにした。
「すぐに戻ってくるよ。どうせ、美人なおねーさんに、挨拶にでも行ったのだと思うよ」
苦笑いをしながら、レイジュは言った。
●恋せよ「をとめ」(?)
「はあ‥‥。連敗記録、そろそろ2桁いっちゃったかな‥‥」
とぼとぼと重い足取りで歩くリオン。その手には任務を果たせなかった小さな花が握られていた。
だが、多少の失敗にめげる彼ではない。次なる目的の星を早速見つけると、彼はさっそうと彼女の元へ駆け寄った。
「こんなところで会えるとは至極光栄。空も明るくて空気も澄んでいるし、ここなら、キャメロットみたいに顔を近づけなくても、お顔を拝見出来るからね」
リオンの台詞に一瞬首を傾げる女性。
しまった、と。リオンはあわてて言葉を繋げた。
「い、いやぁ‥‥雪が綺麗だよね、キミの心を映しているかのようにまぶしいよ!」
「あのー‥‥待ち合わせがありますんで、もう行きますね」
「あ‥‥はい」
あっさりと立ち去る女性の後ろ姿を見送りながら、リオンはがっくりとその場に座り込む。
厨房から出てきたクラムを連れたセラフィーナがその姿に気付き、そっと肩を叩いた。
「どうかしたの?」
リオンは素早く身を翻し、がっしりとセラフィーナの両手を握りしめた。
「ありがとうお嬢さん、キミの言葉はこの寒さも溶かしてくれるほどだよ!」
次の瞬間、リオンは背中に強い殺気を感じた。慌てて背後を見渡すが、それらしき気配はもう無い。
「い、いまのは‥‥一体」
「この手、離してもらえる?」
「ああ、ごめんごめん」
さりげなく服の裾を手で払うセラフィーナ。
ばつが悪そうにしゃがみ込んだままでいるリオンの後ろから、男性の声が聞こえてきた。
「おーい、お2人さん、こっちこっち」
手を振り呼ぶのは給仕を担当している村人だ。
彼に呼ばれたクラムとセラフィーナは、軽い足取りで向かっていった。
「あ、そうだ」
ぴたりと足を止め、クラムは少し振り返りながら楽しげに言う。
「これから俺の手料理を皆に披露するから、無くならないうちに席に戻っていったほうがいいぞ?」
せいぜい味を楽しみに、とクラムは静かに微笑んだ。
●恐怖の選択
「ああ、来た来た。領主様がお呼びだぜ」
席に戻ろうとしたリオンを引っ張り、レイジュは奥の席へと急いでいった。
「リオンさんの面白い話を聞きたいそうだよ。客を待たせちゃ、せっかくのネタも気が抜けちゃうぜ?」
「そんなに期待されてたなんて、照れるなぁ」
さて、どんな話をしようかな。リオンはあれこれと思考を巡らせる。
「いや、まあ‥‥ふつーの話でいいと思うよ」
「じゃあ、俺の冒険話についてだなっ。そうだなぁ、あの華麗なまでに葱を操る漢(おとこ)達の話を‥‥」
「それはやめろ、絶対するなっ」
レイジュは鋭い眼光でリオンを睨みつける。
「何でだよ、双方とも白熱した良い戦いだったのに‥‥」
「あんなの話したら、また変な噂が流れるだろうが! こういう小さい村は噂があっという間に広がるんだぞ!」
仕方がないなぁ、とリオンは肩をすくませる。
「丁度いいところに来たな」
2人を出迎えたクラムがスプーンをそれぞれに手渡す。
「後はおまえ達だけだ。さあ、好きな方を選べ」
テーブルの上に2つの皿が置かれていた。どちらも見た限りでは、同じシチューのようだ。
「じゃあ、俺はこっちかな」
「残った方が僕のだね。んー‥‥良い香りだ」
ふと、レイジュはクラムだけが皿を手に取っていないことに気がついた。
自分は食べないのか、という問いに、クラムはそっけなく「まあな」と答える。
「先程、料理をたらふく頂いたんだ、さすがにもう入らん。それに、自分の料理など何時でも食べられるしな」
「それもそうだね。じゃ、遠慮なく」
「それでは、いただくとしましょ」
「いっただっきま〜っす!」
彼らはたっぷりとシチューをすくい、一斉に口の中へ流し込んだ。
「ん、美味しい。悪くない味ね」
「じっくり煮込まれて、柔らかくなってるのがいいわね」
マナとセラフィーナは、瞳を閉じて、じっくりとシチューの味を堪能する。ちょっとまじりこんだお焦げも、味のアクセントになっていて悪くない。
ふと、リオン、レイジュ、リーラルの手が止まっていることにマナは気付いた。
「‥‥どうしたの?」
手を伸ばそうとした途端、リーラルがその場にぱたりと倒れ込む。
「ちょっ‥‥! リーラルさん!?」
「ク、ラ、ム、さん‥‥この料理は一体‥‥」
「今日のために仕上げた、特製の『オークもびっくりシチューもどきスープ』だ。ああ、ちなみにマナ達が食べたやつは、一緒に作っておいた普通のシチューのようだな」
「ああっ! 領主様も倒れてる! だ、だれか回復剤を!」
「まずい料理に、回復剤って効くのか‥‥?」
「いや、解毒剤の方だろう」
地味に冷静な会話を交わすリオンとレイジュ。
手早く、マナは手近にあったフォークを向かい合う2人の間に投げつけた。
空を切り裂くように飛ぶフォークは、わずかに彼らの前髪を揺らし、足下の地面にざくりと突き刺さる。
「しゃべってないで、さっさと薬草でも何でもいいからもらってきて!」
「は、はーい!」
2人はあわてて駆け出す。
必死に介抱する姿を眺めながら、クラムはぽつりと呟いた。
「さすがに‥‥魚の干物とベリーの組み合わせはまずかったかな‥‥」
その後、村に恐怖の料理人が降臨したという噂が広まったのは言うまでも無い話であった。
キャメロットにそれが広まったのは、それから数週間経ってのことである。