逃げ出した魔物を追え!

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月21日〜02月26日

リプレイ公開日:2005年02月28日

●オープニング

 そもそもの発端はフリーウィルの課外授業で起きた事故だった。
「みんな、避けろ!」
 教師の叫び声と共に、洞窟内に激しい爆発音が響き渡った。方々から悲鳴や罵声が沸き起こる。
 何が起こったのか分からずにいる生徒達の間を、ゴブリンがすり抜けるように駆けて行った。
「ったく‥‥だから魔法を使うのはやめろと言ったんだ‥‥。おい、お前達! 逃げてったゴブリンを捕まえてこい!」
 事故の犯人である生徒達を、教師はじろりと睨みつける。彼らは我先にと、あわててゴブリン達を追いかけた。
「誰も怪我は無いようだな‥‥。いいか、お前ら。今みたいに、狭い空間内で爆発の魔法を発動させると、大爆発を起こして自分にも被害が及ぶんだ。肝に銘じておけよ」
 良いところを見せようとした行為がかえって仇になる良い例だ、と彼は言葉を続けた。
 しかし、授業の後に待っている始末書のことを思うと頭が痛い‥‥生徒達が原因とはいえ、未然に防げなかった教師にも責任はあるのだ。
 さて、どうするべきか。
 こういった予想外の状況での判断力が、教師としての手腕を問われる。
「せんせー。なんか、捕まえられないみたいですよー」
「おいおい‥‥勘弁してくれよ‥‥」
 彼はがっくり肩を下ろし、大きく息を吐き出した。
 いくら勉強中の学生とはいえ、たかがゴブリン数匹もまともに相手に出来ないのでは話にならない。
「‥‥いや、まてよ。これは良い機会かもな」
 ケンブリッジに迷い込んだ敵を掃討する。
 模擬戦闘としては悪くないかもしれない。
「とりあえず、あいつらを近くの空き家に引き寄せておいて‥‥」
 教師達の力量をもってすれば、敵を捕まえることは造作も無い。
 だが、あくまで生徒がしでかしたことは、生徒に処理させるほうがよいだろう。
 とは言え、彼らだけではいささか心もとない。
 授業の時間を割いてまで彼らに協力出来るほど、教師も暇ではない。
「‥‥仕方ない。冒険者達に話を持ちかけてみるか‥‥」
 そう言って彼は、自分の懐をそっと見つめた。

●今回の参加者

 ea0745 ソウジ・クガヤマ(32歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea7174 フィアッセ・クリステラ(32歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7745 だすてりあす 嘉月(47歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea8803 イリア・ルゥ(33歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●相談
「魔物達の詳細を‥‥?」
「ああ、確認のために聞いておきたいんだ」
 ソウジ・クガヤマ(ea0745)の言葉に、依頼人である教師はそういえば詳細を伝えてなかったかな、と首を傾げた。
「相手はゴブリン3体。ゴブリンの中でも小型の方だ。現場は‥‥行けばわかるよ。一応、奴らが逃げ出さないよう、入り口に細工をしかけてるが、あんたらなら簡単に処理できるぜ」
「‥‥それと。敵は生け捕りでないと駄目か? 確かに血と死体はむやみに見せるものじゃないが‥‥冒険者には綺麗な仕事ばかりじゃない。もっと辛辣に受け止めさせるべきなんじゃないか」
「‥‥それはそうなんだが」
 コンコン、と扉が叩かれた。返事を返すと、イリア・ルゥ(ea8803)が部屋に入ってきた。
「先生、少し相談なんですが‥‥生徒達を連れていって構いませんか?」
「え、ええ。でも荷物になるだけですよ」
「自分達でしでかした事だもの。全部任せきり、というのはよくないわよ」
 それもそうだな、と教師は肩をすくめる。
「それじゃあ、皆さんに最後まで同行するよう伝えておくよ。門の前で合流させる形でよいですか?」
「構いません。許可ありがとうございます」
 イリアが一礼し部屋を出ていったのを確認し、教師はゆっくりと告げた。
「生死の件だが‥‥冒険者学校の生徒といっても、紳士淑女のお子さんが多いんだ。下手に刺激したら、パトロンがいなくなっちまう。分かってくれる、よな」
 どうやら学校側も色々大変なようだ。
「‥‥分かった。だが、危険だと判断した場合、遠慮なく斬らせてもらう。それで良いか?」
「ああ。構わん」
 そう短く答え、彼はこくりと頷いた。

●突入前にすること
「全く‥‥まだ冒険者の卵とはいえ、情けない連中だな」
 苦笑いを浮かべながら、だすてりあす嘉月(ea7745)は生徒達を肩越しに見つめた。
 どこか落ち着かない様子でいる彼らの姿に、連れてきて良かったものか、少々不安を感じずにはいられなかった。
 担当教師に代わってイリアが彼らの先導役となり、戦闘の手伝いをさせるそうだ。
 だが、生徒達は正直なところ、単なる荷物になる恐れの方が大きい。
 一応、戦闘訓練を受けてはいるようだが、どの程度使えるかどうか‥‥。
 街道を少し外れて、依頼人の説明をもとに歩いていくと、一件の小屋にたどり着いた。
 平屋建ての少し背の高い建物だ。入り口らしき扉がある他は、小さな採光用の窓が、壁の高い場所にいくつかある程度。
 それのどれもが鎧戸を下ろされており、入り口に至ってはツタが巻き付けられていた。
 なるほど。これならばゴブリン達も、おいそれと逃げ出すことは出来ない。
「さて。こういう時はどうすれば良いかしら?」
 イリアはにこりと生徒達に言う。
 お互いに顔を見合わせるだけの生徒達。
 その様子を眺めていた、フィアッセ・クリステラ(ea7174)がさらりと言った。
「中に何人いるか確認して、入り口の障害を外せばいいんじゃないかな? 不意打ちに備えて、万全の準備をしてからだけどね」
 言いながら、フィアッセはちらりとマクシミリアン・リーマス(eb0311)視線を送る。
 はっと気付き、マクシミリアンは静かに胸の十字架に手を添えた。
「‥‥偉大なる力強き父よ、我に万能なる瞳を授けたまえ‥‥」
 マクシミリアンの身体が黒に染まる淡い光に包まれる。そのまま彼は両目を閉じ、精神を集中させた。
 光が収まり一呼吸おいてから、マクシミリアンははっきりとした口調で言った。
「僕より少し小さな生き物が3体。反対側の壁に近い方にいます」
「それならば奇襲はされないね。あとはあの障害を外す方法だけど‥‥斬っちゃえばいいのかな?」
「担当教師からは『ある程度の事はしても構わない』と伺っている。必要ならば仕方ないだろう」
 ソウジの言葉にだすてりあすが動いた。
「ぬぅうん!」
 渾身の力を込め、一気に刀を振り下ろす。
 編み目のように固く張り巡らされていた、ツタの封印があっという間に解かれた。
 見事な剣技に生徒達から拍手と歓声が上がる。だが、騒いではいけない、とイリアは生徒達を厳しくしかりつける。
「観光で来たのじゃないわよ。遊びの延長の気持ちなら帰りなさい」
「え、でも先生が‥‥」
「怒られたくないのなら、先輩達の姿をしっかり見て学んでおくことね。それとも、一番手で突入したい?」
 イリアの言葉に、彼らは顔をうつむかせた。
「‥‥話はすんだか」
「ええ。では、まいりましょう」
「我が輩が先頭に参る。マクシミリアン殿、明かりを頼む」
 扉の向こうは薄闇に包まれていた。マクシミリアンはランタンを片手に、先を行く、だすてりあの後を追う。
 その後を続こうとした生徒達を制し、ソウジは忠告するように言った。
「何を見ても叫ぶなよ。人の悲鳴が、一番奴らを興奮させるからな」
 その言葉が何を意味するのか。新米冒険者の生徒達は言葉の意味が分からず、反射的に頷くだけであった。

●強襲!
 鎧戸がしっかりと下ろされた室内はどんよりと暗く、濁ったかびくさい空気と埃が辺りに充満していた。
 小屋の中はがらんどうで、部屋の区切りがなく、本当にただの倉庫のようだった。
 薄暗い闇の向こうで、何かがうごめいている。明かりをかざすと、うごめいていた彼らは一斉に光の元へ駆け寄ってきた。
「伏せて!」
 素早く下げたマクシミリアンの頭上を弓矢がかすめていく。
「もう1つ!」
 フィアッセは素早く矢をうち放つ。放たれた矢はゴブリン達の足に突き刺さり、彼らの動きを止めさせた。
「ここから先は行かせぬ!」
 どっかりと両足を踏みしめ、だすてりあは力任せに飛びかかってきたゴブリンを受け止め、はじき飛ばした。
「‥‥さすがにそれは俺に出来ない芸当だな‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、ぽつりとソウジは言う。彼が真似しようものなら、逆に弾き飛ばされるのがオチだろう。
 自分に適切な行動をすべき、とソウジはゴブリンの顔めがけてダーツをうち放つ。
「顔なら回収も楽だしな。節約を考えるのも、冒険者にとっては大切なことだぞ」
 特に長旅などでは食料品や必要な消耗品を多く携帯する必要がある。
 無駄にそれらを使っていては、いざという時に自分の身を危険にさらしかねない。
 冒険者の仕事は常に危険と隣り合わせだ。ちょっとした油断が、身の破滅を呼ぶ。
「影よ。戒めの鎖となりて、彼の者を地に繋ぎ止めよ!」
 凛としたイリアの声が響き渡る。
 だすてりあにはじき飛ばされたゴブリンの動きが、途端にぴたりと止まった。
 地面に吸い付いたように固まった下半身を、どうにかして動かそうと必死にもがき始める。
「さ、今のうちにロープで捕まえなさい」
「これを使うといい」
 だすてりあは生徒達に手持ちのロープを放り投げる。
 全員で取り囲むようにゴブリンを押さえつけ、まとめてぐるりと1つに縛り上げた。
「‥‥っと。その縛り方じゃすぐに解けるぞ。こういうのはコツがあるんだ」
 結び目を少しほどき、ソウジは狩りの時に使う特殊な結び方で、再度結び直した。
「こうすれば、動けば動くほど締まっていくんだ。覚えておくといい」
「はいっ」
 今はおとなしくしている彼らだが、イリアの魔法が解ければすぐに暴れ始めるだろう。
 そうなった場合、生徒達の結び方ではあっという間にほどかれてしまうに違いない。
「冒険者って何でも出来るんですね、すごいです」
 感激をあらわに、感想の言葉を述べる生徒達。
 そんなことはない、とフィアッセが横から言葉を添えた。
「完璧に何でもこなせるなんて人はいないよ。この人達が強いのは、自分が出来ること、得意なことを頑張って、お互い協力してるからだよ。ね、先生」
「そうですわね。冒険者にとって一番大切なものは、仲間と協力する心、ですわ」
 独りでやれることなどたかがしれている。
 お互いの力を補い合えば、困難にみえるものでも容易にこなすことが出来るのだ。
 そのことを身をもって体験出来たことは、新米冒険者にとって良い刺激であっただろう。
「さて、と。報告にもどるか」
 ゴブリンの目頭に刺さっていたダーツを抜き取り、さらりとソウジが言った。