精霊が住まう壺
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月27日〜03月03日
リプレイ公開日:2005年03月05日
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●オープニング
「ほぅ‥‥これが『ジャパン』の太鼓ですか。確かに珍しい形をしておりますなぁ‥‥ですが、ここの作りは少しばかりお粗末ではないですか?」
月道を通して送られてきた珍しい品々を前に、商人達は議論を交わしていた。
彼らの前にあるのは、どれも「ジャパン」からの輸入品。
こういった品々は裕福な好事家達に高く売れるため、その見定めは慎重に行わなくてはならない。
その中に1つ。
質素な丸い壺が混じっていることに気がついた。
「おお。これは‥‥」
壺に被されていた木の蓋をぱかりと開けると、一瞬だけ何かが潜んでいるのが見えた。
目と目があったその瞬間に、彼は蝶の羽根のようなものが、眼前で閃いたような気がした。
途端、目の前が暗転し、彼はその場に眠りこけてしまった。
「どうしました?」
突如、倒れるように眠りに落ちた仲間に気付き、男は眠っている彼の頬を軽く叩く。
すぐさま目を覚ますものの、いきなりの出来事に彼は呆然としていた。
「いま、そこの壺を開けたら‥‥中に蝶みたいなのが飛んでて、それを見た途端、急に眠くなってきて‥‥」
「なんだそりゃ。お前さん、白昼夢でもみたんですかい?」
まてよ、と男は言葉を止める。
そういえば噂に聞いたことがある。
時折だが、月道を開放させる際、エレメンタラーフェアリーがその力に引かれるのだという。
ジャパンからこちらに流れてくるとは思えない。
あるとすれば、こちらに到着し、点検を行っている最中に紛れ込んだのだろう。
「うーむ‥‥何らかの原因で迷い込んできた精霊が、中に住み着いてしまったのかもしれんですな」
身近な存在ではあるが、彼らの力は侮りがたいものがあり、とてもではないが一般人には手に負えない。
「こりゃ、お払い‥‥いやいや、精霊の退治をしてもらうしかないかなぁ‥‥」
再び封をされた壺を眺めて、商人達は深くため息をついた。
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「で。これが‥‥その『精霊が取り憑いた壺』というやつか」
見た目は飾りが全く無い、茶色くずんぐりと丸い壺だ。
大きさはシフールの全長より少し大きな程度だろうか、小柄なものなら、すっぽり中に入そうである。
この壺はジャパンでは「エチゼン焼きの壺」という名でそこそこ知られており、好事家には人気の品らしい。
そのため、手放すのはどうしても惜しい、と中の精霊だけを追い出す依頼を申し込んできたのだ。
「しかし‥‥こんな、どこにでもありそうな壺に金を払う奴がいるのか‥‥」
価値は分かっても、それを集める趣味がなければ、一生分からない問題なのだろう。
趣味というものはそういうものである。
●リプレイ本文
●頼もしい(?)冒険者達
「ここから持ち出しちゃ駄目なの?」
「当たり前です。もし、運んでる途中で壊したらどうするんですか‥‥弁償してもらえるんでしょうね?」
「そ‥‥それは‥‥」
弁償、という単語に神楽絢(ea8406)は言葉を濁らせた。
ここイギリスでは、ジャパンから贈られてきた輸入品は、どれも宝石と群を並べる高級品だ。
その理由は無論、月道経由での品というのがあるが、何より市場に出回ることが殆どないのが原因だろう。
商品が出回るや否や好事家達が買い占め、商品価値以上の価格に釣り上げさせていたのだ。
ただの冒険者である絢が、おいそれと支払える代金ではない。
「運べないなら、せめて保管しているこの部屋をお借りして良いかしら。だったら文句ないでしょ」
「そうですねぇ‥‥それじゃあ、他の商品達は納屋にしまっておきましょ。壊されたらかないませんからねぇ」
ちらり、と商人は後ろに控えていた国盗牙郎丸(eb1147)を見やる。
大きく息を吐き、牙郎丸は苦笑いをひとつ浮かべた。
「‥‥俺はそんなに信用ならねぇかよ」
「うん、まあ。そんな格好だとねー」
「なんだと、この坊主めが!」
牙郎丸はぐっと拳を握りしめる。イリヤ・ツィスカリーゼ(eb0603)は楽しそうにけらけらと笑いながら彼の攻撃から逃げ回った。
「こーら、2人とも。騒いだら余計に怒られちゃうよ?」
じゃれあう(?)2人の間に、チェルシー・ファリュウ(eb1155)はするりと間に入り込む。
ようやく大人しくなった背後の面々を呼び寄せ、絢は1人1人を商人に紹介していく。
「‥‥以上が、今回の依頼を務めさせて頂く一同よ」
「了解しました。では、明日また来て下さい。部屋の準備を整えておきますよ」
「あ‥‥その準備でなんだけど‥‥実は予算があまりなくて‥‥」
宴会を開こうにも持ち前の懐具合では少々辛いため、出来れば依頼主側で用意して欲しいと申し出た。
「趣味で発泡酒なんかを作っているんですが、やはり飲み慣れたお店の酒の方が、皆も美味しく飲めるしね」
「うんうん、そーだよねぇ。家にある液体の匂い、すごいって話だしねぇ」
「‥‥イリアさん。液体ってどういう意味?」
あくまで穏やかな微笑みを向ける絢。無邪気な笑顔でそれを受け、イリヤは素早く牙郎丸の背に回り込んだ。
「おっおい、面倒を俺に押し付けるな!」
「えー」
「『えー』じゃないっ!」
本当にこの連中に任せて良いものかどうか。
依頼人はちょっぴり不安を隠せないでいた。
●宴の始まり
「うーむ、少し買い込んでしまったな」
酒樽を背負いながら牙郎丸は告げた。
趣味で作っていることに興味をもった商人に、情報代として受け取った金は、あっというまに消えてしまった。
もっとも、情報といっても大した内容でないため、わずかな額しかもらえなかった。
樽いっぱい買えただけでもよしとするべきだろう。
「ま、全員ただで飲み食いが出来るんだ。飯の方は他のやつらが用意してくれているだろうから、そっちを期待するとしようか」
「美味しいものを食べて、楽しめて、なおかつ報酬までもらえるのは悪くないわね」
「美味いというが‥‥こちらの飯は、いまいち物足りんのが玉に瑕(きず)だな」
「そうね‥‥イギリスのはどうも薄味すぎる感じだわ」
絢も牙郎丸も生まれはジャパン。自国の文化に触れると、つい故郷の味が恋しくなる。
かといって、おいそれと口に出来る環境ではないのが辛いところだ。
ああ、悲しきかな。いち冒険者の懐と世の定め。
懐かしい故郷の話に花を咲かせながら、屋敷に到着した2人をイリヤが出迎える。
「今ね、チェルシーさんが焼いてきたパンを食べてた所なんだ」
2人の分、とそれぞれにはちみつをたっぷりと塗り込んだパンを手渡してきた。
固く焼いたパンのほくほくとした食感と、甘いはちみつの味が実に良く合う。
「ふむ‥‥少々焦げているが、それもまた悪くないな」
甘さの中に時折混じる苦味が、発泡酒に良く合う。
「いっちばーん、イリヤ・ツィスカリーゼうたいまーす!」
すくりと立ち上がり、イリヤは大きな声で歌い始めた。
音程はめちゃくちゃだが、全く聞けないという程ではない。‥‥不快なことには変わりないが。
「あるぅうひぃ〜、つぼのなっかぁっ♪ せいれいさぁんが、すみつっいたぁ〜♪」
『うるさいぞ、下手くそー』
ここぞとばかりにジャパン語で野次る牙郎丸。声援をうけ、イリヤは全身で感謝の気持ちを返した。
「‥‥絢さん、何笑ってるの?」
「いえ、何でもないわ」
そう言いながらも、絢は込み上げる笑いが止められず、小刻みに肩を震わせていた。
●お遊戯
宴もたけなわ。
そろそろ酒も料理も残り少なくなってきた時のことだ。
チェルシーはふと、壺から小さな頭が覗かせているのを見つけた。
「‥‥あれは‥‥」
遊びに夢中になっている仲間達の輪にそっと入り、視線で彼らを促す。
「あっ、何か出てきてるね‥‥」
「しっ。感づかれたら終わりよ。とりあえず遊びを続けましょ」
「それならば、俺がとっておきの遊びをするとしよう‥‥ここに丁度良いものが有る」
牙郎丸は差し出した木の板を何枚か床に並べた。
「何これ? どこに持ってたのよ」
「ちょっと奥にあったのを拝借してきた」
「それ犯罪‥‥」
「後で返せば問題ないだろっ。天下の大泥棒、牙郎丸様の目に止まれて、こいつも喜んでいることだろうよ」
「‥‥いいのかなぁー‥‥」
本当は単に持ってくるのを忘れて、札の持ち主に頼み込んで借りたとも今更言えず。
とりあえず牙郎丸は並べた木札をかき混ぜはじめた。
「こいつは『模様合わせげぇむ』ってやつだ。こいつの裏側には4種類の模様が描かれてる。めくって同じ模様なら、自分のもんになる。一番多く取れた奴が優勝という寸法だ」
「よぉし、それじゃ僕からいくねー」
早速イリヤは2枚の板をめくる。出てきたのは赤のハートと黒のスペード。色も形も全く違う。
「ちえ、間違えちゃった‥‥」
「それじゃ、次は私ね。えーと‥‥」
一瞬だけ、ちらりと後ろを確認しながらチェルシーは札に手を伸ばした。
わざと壺の位置から様子がわからないように、彼らは車座になって札を取り囲んだ。
案の定、彼らの様子が気になって仕方ないらしく、掛け声が上がるたびに壺の中にいる存在がこちらを覗いてくる。
「さーて、次は誰がやるんだ?」
牙郎丸の掛け声と共に、札にふわりと小さな妖精が降り立った。
思わず声をあげそうになるも、平静を装い、牙郎丸は精一杯穏やかな表情をみせる。
「いいぜ。そいつだな? もう片方は何にするんだ?」
その後、たっぷりと遊んで満足したエレメンタラーフェアリーを連れて、一同はキャメロット街の外門近くへと向かった。
「ばいばーい、またねー」
「まっすぐ家に帰りなさいよー」
空中でくるりと円を描いた後、エレメンタラーフェアリーはそのまま空へ溶けていった。
見送っていた彼らが、家路に戻ろうとしたその瞬間。
遠くに見える森で、何かが瞬いたような気がした。
おわり