善き力、悪しき力
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月06日〜03月11日
リプレイ公開日:2005年03月12日
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●オープニング
一日の業務も終えようとしていた時のことだ。
ふと、仲間のギルド員が渋い表情をさせて依頼書に目を通しているのに、彼は気付いた。
「どうした?」
「この書類なんだが‥‥」
彼の見せてきた依頼書をざっと流し読む。
内容は、冒険者ギルドの依頼の中では珍しくない、野盗討伐依頼だ。
強いていうならば、依頼人の項目に、複数の村長の名が連ねられていることだろうか。
共同で資金を出し合い、連名という形で依頼を行ったと推測される。
何をそんなに悩んでいたのか、と問い掛けると、彼は束にまとめた羊皮紙を手渡してきた。
「その依頼に関しての調査結果と、関連する報告書だ」
記された内容を読んでいくうちに、彼の表情がだんだん険しくなっていった。
「討伐相手は‥‥冒険者、か」
冒険者として生業をたてていた者が、犯罪に手を染め、そのまま野盗の一団に加わったらしい。
彼らの行動は、以前までは街道を通り抜ける商人達を時折襲う程度のものだった。
が、それだけでは飽き足らなくなったのか、近辺の村を襲うようになったのだ。
「情報によると、彼らはそうして集めた物を闇で売り飛ばし、ぜいたくな暮らしをしているそうだ」
討伐隊の心理や行動も心得ているため、野盗達は中々しっぽを見せることがなかった。
だが、先日、冒険者達が捕らえた悪党が彼らの仲間だと言うことが分かり、ようやく彼らのアジトの片鱗(へんりん)を突き止めることが出来たのだ。
「失敗は許されない依頼だな‥‥」
「ああ‥‥。何としても、これ以上の被害を出すわけにはいかないからな」
いくら戦力や住み処を把握出来ているとしても、地の利は相手方にある。
陣地に踏み込む作戦は、待ち伏せる作戦より危険な場合も多い。
幸いなのは、今回は相手の手のうちがしっかりと見えていることだろう。
まさに、事前調査と情報収集の賜物である。
「アジトで待機してるのは、頭首と見張り役2名か。うち1名づつが交代で入り口を見張っているだけで、あまり侵入者への警戒はしていないそうだ」
アジトの場所は森の奥深く。崖に出来た洞穴をそのまま利用しているらしい。
尋問にて、大体の場所を吐かせることは出来たが、正確な位置までは把握出来なかった。
そこから先は、日頃の経験と勘を生かして探すしかないだろう。
「討伐に関して、生死は問わず、か。奴らも仲間が捕まって必死だろうからな。降参してくる可能性は低いか‥‥」
「冒険者が元同業者の命を狙う、か。皮肉な話だな」
そういって、彼は苦笑いを薄く浮かべた。
●リプレイ本文
●目的地へ
とさり‥‥
樹から落ちる雪の音に、冒険者達は緊張を走らせた。
「‥‥大丈夫、人の気配はないみたいだ」
マレス・イースディン(eb1385)が静かに言う。ほっと安堵の息をもらしながら、彼らは再び歩みを始めた。
「結構、奥に来ちゃったわね‥‥」
崖沿いに視線を走らせていたアデライーラ・ウォレス(eb1404)はぽつりと呟いた。
自分達の位置を確認しようと空を見上げるも、瞳に映るのは覆い茂った樹の枝と岩肌ばかり。
森に知識のある者の指示が無ければ、あっという間に道に迷ってしまうことだろう。
「よそ見をしてルと危険だゾ」
ジライア・ザ・マインレイア(eb1376)が忠告したのと同時だった。
彼らの後方を歩いていたチハル・オーゾネ(ea9037)の眼前を、何かが掠め飛んだ。
呆然と思わず立ちすくむ彼女の手を取り、マレスはぐいっと彼女を列の中に引き戻す。
「‥‥痛っ」
「おいあんた、女性はもう少し優しく扱うものだぞ」
薪を抱えて戻ってきたランディ・バラッドネイル(ea9753)が、チハルの身体をそっと支える。
ばらける薪を拾いあげながら、チハルはそっとランディを見上げた。
「‥‥お優しいんですね」
「騎士として、美しいレディを守るのは当然のことだ」
当たり前のことをしたまで、と告げるランディ。少したどたどしい台詞も、どこか誠実感を感じさせられた。
ふと、チハルの顔を掠めた石ころを拾い上げ、一條小春(ea8728)がじっと石の様子を眺めていた。
「どうした?」
「いえ、毒なんかが付けられてないかと思いまして。ただの石ころのようです」
「注意を促すための石だろ。それより、小春こそ離れるなよ。他の奴らの指示が伝えられないからな」
そう、彼女の言葉を理解出来るのはランディとチハルだけ。
声が届かなければ、仲間との意思の疎通も満足に出来なくなる。
「こういう時、シフール達をうらやましく思いますね‥‥」
「まあ、あいつらもあいつらなりに大変らしいけど、な」
「あそこダ」
ジライアが指さした小高い丘の先に、小さな茂みがあった。
彼の話では、その向こうに洞くつの入り口が隠されているのだという。
「この周辺ハ積雪を考慮して、はっパを落とす樹が多いガ、あそこだけしっかりと茂っていル。アノ木は別の場所から持ってきたものダナ」
「なるほど、あれなら確かに気付かれないな」
人は自分の視点の上に有るものへの注意を怠る傾向がある。特に、木の根や雑草などといった、足下に注意を払う必要のある、獣道すらない森の中ならばなおさらだ。
「それでは作戦通り‥‥」
互いに顔を見合わせ、小さく頷き合う。
相手に悟られないよう、慎重に歩を進めながら、彼らは二手に分かれて行動を開始した。
●狂戦士
ふと、聞きなれない琴の音に気付き、見張りの男は周囲を見渡した。
「お疲れさまです。只今戻りました」
さりげなく現れたチハルが声を掛けてきた。男は不思議がる様子もなく「お疲れさま」と、彼女を迎え入れる。
「えーと‥‥新しく来た奴だっけか?」
男の問いにチハルはただ笑みを浮かべて返した。
異国の雰囲気をどことなく漂わせるその表情に、彼は一瞬心を奪われた。
「いやー、来てくれて助かったよ。丁度、今いるのはお頭と俺ともう1人だけでさ、今日はずっと見張りばっかで退屈してたとこなんだ。少し休憩したら、交代してもらっていいか?」
「ええ。それより、先程‥‥丘の下辺りで人影を見たのですが‥‥」
「何!? 本当か?」
奥へ行きかけていた男は、はっと振り返る。
チハルの奥に控えていたランディがすっと2人の間に入り込み、深い茂みの辺りを指差した。
「あの辺りで、何かがいるような気がしたな」
「どこだ?」
男は身を乗り出し、茂みをかき分ける。
まるで誘導するかのように、男を案内しながら、ランディはチハルに視線で合図をした。
「ううむ‥‥よく見えんな。あんたら、帰ってきたすぐで悪いが、見張っていてくれ。ちょっと見てく‥‥」
ぐらりと男の身体が揺れた。そのままぱたりと安らかな眠りへと誘われていった。
「おい、誰か来たのか?」
無造作にかけられていた幕の奥から小柄な男性が現れた。
見慣れない人間の姿に、彼は手近にあった斧を素早く握りしめる。
「貴様ら! どこから入ってきた!」
チハルは素早く印を結び、力ある言葉を唱え始めた。
彼女の身体が淡い銀の輝きに包み込まれる。それを合図に、マレスが茂みから跳び出してきた。
「でえええぇぇぇっ! 邪魔だーっ! どけーっ!」
「マレス、奥に親玉がいるはずよ。気をつけて!」
岩陰に控えていたアデライーラが、隙をついて男の右腕を握りしめる。
途端、彼の身体に青白い光が走り、彼は身をけいれんさせながら座り込んだ。
「き‥‥きさ、ま‥‥らっ!」
身体に走る痛みをこらえながらも、男は斧を振り上げる。
一瞬の間を置いて、彼の手首に矢が突き立てられた。
ラデライーラは少しだけ振り返り、弓を構える小春に、視線で感謝を意を告げる。
「『優しき夜を照らす光よ、ひとときの‥‥』って、‥‥ランディさん?」
チハルの呼びかけにも反応せず。
緩やかな動作で彼女の前に立ちふさがると、ランディは剣を一気に振り下ろした。
もう一歩下がるのが遅かったら、マレスやアデライーラも巻き込まれていただろう。
力強い振りから繰り出された真空波は地面を削り、男をえぐるように切り裂いた。
「あっぶねーな! おい、おまえどういう‥‥」
向けられた表情にマレスは思わず目を見開いた。
「‥‥来たぜ、親玉が‥‥」
楽しげな口調でランディは呟く。その瞳は赤く染め上がり、恍惚した笑みを口元に浮かべていた。
奥から現れた男は見るからに先程の男達と違った。
鍛えられた筋肉質な身体と刀傷が、彼の歴史を物語る。拳にはめられた金属が鈍い光をきらめかせた。
男はゆったりとした動作で身構え、野太い声で告げた。
「ずいぶんと威勢のいい奴らだな。その勇気だけは認めてやる‥‥」
言葉が終わるのを待たずして、ランディが地を蹴り上げる。
繰り出される連撃を躱し、男は何とか彼と間合いをとろうと試みる。
「助太刀します!」
「マテ、俺に任セろ。『Installation ... Motion conditions are limited to an enemys invasion.』」
ジライアは力ある言葉を放ちながら、2人の奥にある狭い通路を指差す。
その瞬間、通路の地面に見えない力が込められた。
「ヨシ、後は奥ヘ誘イこめ!」
「ランディ、離れて! 危ないわよ!」
だが、仲間達の声は彼に届いていなかった。
まるで楽しんでいるかのように、次々と剣を突き立てていく。
鋭い刃を持つ彼の武器は、引くたびに肉を引き裂き、赤い血潮で地を染め上げる。
「く‥‥ぅ」
男がよろめき、数歩下がる。
突如として炎が巻き上がり、男の身体を包み込んだ。無論、追い討ちをかけようと飛び込んだランディもその炎に上半身を飲み込まれる。
「ぐうっ‥‥!」
肌の焦げ付く嫌な匂いが辺りに充満する。意思の弱い者ならば、熱と匂いに気を失っていたことだろう。
「ランディさん!」
仲間が駆け寄るも、ランディはそれを振り払い、邪魔をするなと睨みつけた。
「今気分が良いんだ‥‥手出しをするなら、あんたらでも容赦はしない」
「‥‥」
深手を負いながらも立ち上がる男に、ランディは再び斬りかかる。
誰もそれを止める事は出来なかった‥‥
●戦いを終えて
「それなりに覚悟はしてたけど。ちょっと後味悪いわね‥‥」
主人を乗せた馬のたずなを引き、アデライーラはそう告げた。
戦いにおける興奮はしばらく止まる事はなく、結局最後はチハルの術で眠らせることになった。
証拠となる遺留品を提出すれば依頼は終わる。
だが、今回の出来事は‥‥忘れられないものとなるだろう。
あの戦い以来、小春とマレスの様子がどこかよそよそしい。
純粋で真っすぐな者ほど、ランディのような存在を受け止めるのには少し時間がかかるものだ。
「小春さん、そう暗い顔をさせないで。見送ってくれたお友達が悲しむわ」
「そう、ですね。でも‥‥」
待っている友への土産話にして良いものか、小春は悩まずにいられなかった。
「何言ってるかよく分からねぇけどよ。ま、悪い奴をやっつけたんだ。後は美味い物でも食って元気だせ!」
「おまえみたいに、気軽ナ奴ばかりじゃナイ。気安く言うナ」
冷ややかに見ながら、ジライアが呟く。
「俺はただなぁ‥‥」
「あ、あの‥‥ええと‥‥」
小春は助けを求めるようにチハルに視線で訴えた。
「気にしないで良いですよ。大したケンカじゃありません」
特に通訳する必要もない、とチハルはにっこりと微笑んだ。
森を抜けると、辺りは次第に春の色を漂わせる。
冷たい風の中に一瞬、若草の香りが混じっていたような気がした。
おわり