花嫁探し妨害工作員出動!?

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月13日〜03月18日

リプレイ公開日:2005年03月22日

●オープニング

 その日。2人の男女がギルドに訪れた。
 親子にしては年若い。姉弟にしては‥‥似ても似つかない風貌の2人だ。
 年上の女性の方は18歳、連れられている男の子は10歳といったところだろうか。
 仲良く手をつなぎ歩いてる姿は、どことなくほほ笑ましい光景である。
「すみません、依頼をお願いしたいのですが」
「はい、どういったご用件でしょうか」
「ええと‥‥あることに協力して欲しいんです」
 男の子を少し引き寄せ、彼女はゆっくりと話はじめた。
 
 彼らのいる村では村の娘が年頃になると、将来を誓う相手を決める祭りが行われるのだという。
 祭りの内容はいたってシンプル。
 花嫁衣装に着替えた娘は、村のどこかに隠れ、候補となる男性が娘を見つけ出す、というもの。
 日が暮れるまでに見つけ出した者は、花婿として選ばれ、将来を誓い合うことが出来る。
 2人の信頼と運命の導きを試す、昔ながらの風習である。
 
「‥‥今年は私の番になったんですが、私、まだ誰とも結婚したくないんです」
 そう言って、彼女は少し屈みこんで、傍らの男の子を抱きしめた。
 あまりにも自然な動作で、彼も彼女の背に手を回す。
 2人はそっとくちづけを交わした後、ゆるやかに語り始めた。
「私達は親こそ認めてないものの、お互いに将来を誓いあいました。でも、彼はまだ祭りに参加出来る年齢ではありません。参加出来るのは15歳以上の男性‥‥。まだ、早すぎるんです」
「日没までに見つからなければ、また次の番が来るまで儀式に参加出来なくなるんです。次は5年後、僕も参加出来ます。今回だけでいいんです。祭りの‥‥妨害をお願いしたいんです」
 その真剣なまなざしに、2人が本気であることは手に取るように分かった。
 村人達がこの事を知ったら、2人は村にいられなくなるだろう。
 覚悟のうえ、という真剣なまなざしに、ギルド員は「それでは‥‥」と必要事項を問い始めた。
 
 彼らの住む村は、森と山に囲まれた場所にあり、村人達は山羊の放牧で生活を営んでいた。
 この近辺では、山羊を多く持つ者ほど裕福とされており、村長であるラナの父は村一番の山羊の保有者でもあった。
 彼女と婚姻出来れば、無論その山羊は自分の物となる。
 そのため、彼女の財産を狙って、周囲の村からも候補者がきており、村人達も心の奥では今回の祭りを快く思っていないようだ。
 だが、伝統をこんな形で絶やすわけにもいかない。
 村にとっても苦渋の選択だったのだろう。
 
「‥‥その、候補として名乗り上げられる人物は、15歳以上の男性であれば誰でも良いんですか?」
「え、ええ‥‥古い風習ですから、特に規定しなかったそうです。去年も、隣村の男性が2人組みで参加していた、と聞きました」
「そうですか。と、なると‥‥候補側も他を蹴散らすために、人を使う可能性もある、というわけですね」
 とかく、財産を狙っての行為は汚い手口になることが多い。
 伝統の祭りが汚されないようにするためにも、今回の彼女の行動は勇気あることとしてたたえるべきなのかもしれない。
「分かりました。それでは何人か冒険者をご紹介致しますね」

●今回の参加者

 ea0018 オイル・ツァーン(26歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0263 神薙 理雄(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3548 カオル・ヴァールハイト(34歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0753 バーゼリオ・バレルスキー(29歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●前日にしておくこと
「村の祭りにしては結構な数だな」
 村の入り口に並ぶ馬達を眺めながらカオル・ヴァールハイト(ea3548)が言った。
 そもそも、たかが村の祭り程度でこれほど人が集まるのも不自然だ。
 だが、人が多いこと以外は、これといって特に不審な点は見当たらず、和やかに準備が進められている。
 祭りを進行する方としては、参加者が多い方が盛り上がるだろうし、まだ被害が報告されていないのだから、不審人物がいたとしても、問題にしていないのだろう。
「さて、と‥‥まずは見て回るとするか」
 到着するなり、オイル・ツァーン(ea0018)は村の巡回に出た。
 来る途中に大体の様子は伺っており、目ぼしい建物の検討はつけていたが、実際に見て回って確認した方が確実だ。偽装の手伝いをする神薙理雄(ea0263)とカオルも、オイルに同行した。
 村を歩いていたオイルは、ふと、妙な視線を感じていた。
 殺気とまではいかなくとも、敵対心のある視線だ。
 どうやら花婿候補の1人と勘違いされているらしい。
 勘違いも良いところだな、とオイルはあきれたように呟く。
「‥‥私はそんなに目立つのか?」
「単に珍しがっておられるのかと思いますよ。オイルさんは背が高いし、綺麗な髪の色をなさっておられますもの」
 にこやかに理雄は言う。すらりとした長身と落ち着いた物腰に、嫉妬でもしているというのだろうか。
 理雄の言う通り、単に異種族の自分を珍しく思っている、というのも考えられる。

 村の中央広場から少し入ったところに、小さな納屋があった。
 床に使い古したじゅうたんが敷かれている他は特に何も無い。
 近いうちに壊す予定の納屋らしく、何も置かずに放置していたらしい。
 じゅうたんをめくると、小さな地下倉庫が見つかった。
 野菜を長期保存しておくための場所なのだろう、むき出しの土壁には、しなびた葉が付着していた。
「これを少し掘れば充分だな」
 少し固めの土だが、数人がかりでやれば半日もかからずして掘ることが出来よう。
 あまり掘りすぎないよう、大きさを計るために、一度依頼人をここに呼ぶことにした。
「確かエスリン殿が先に向かっていたな‥‥迎えにいってやるか」
「私が行ってまいりますわ。皆様は準備を整えておいて下さい」
 実際の作業をするのは皆が寝静まった夜。
 日が沈むまでに、できる限りのことは済ませておきたい。
「そういえば花婿立候補の方は‥‥上手くいったのだろうか」
 途中で落ち合ったバーゼリオ・バレルスキー(eb0753)が、参加すると言っていた。
 定員に達してなければ無事参加出来ているだろう。
「彼にも一芝居手伝ってもらいたいからな。上手く行っていることを祈ろう」
 候補者の1人として騒ぎ立ててもらえれば、隠す側の負担も減る。
「待たせたな、掘る道具を借りてきたぞ」
 ミケーラ・クイン(ea5619)が両手に鍬(くわ)を抱えてやって来た。村長宅に立ち寄り、借りてきたらしい。
「それにしては遅かったな」
「なに、少し世間話をしていたんだ」
 ミケーラは楽しげににっこりと微笑んだ。

●衣装交換
 他の者より先に村長宅へ到着したエスリン・マッカレル(ea9669)は、早速ラナと衣装を交換した。
「時期に仲間が迎えに来る。その格好ならば、貴殿とは気付かれぬだろう」
 エスリンは長い髪を後ろに束ね、受け取った大きな花飾りを髪にさした。
 暗く始めたこの時間帯ならば、この程度の変装でもすぐにバレることはないだろう。
「私は出来る限りここにいよう。そうすれば、奴らの目も欺けるはずだ」
「こんなので大丈夫なんでしょうか‥‥」
 着慣れない旅装束に戸惑いながらも、ラナは少し嬉しそうにくるりと回った。
 よく似合っている、とエスリンは穏やかに告げる。
「『彼』の姿が見当たらないが、準備にでも出かけているのか?」
「はい、明日の準備の手伝いに行っています。あちこちに罠を仕掛けてくるんですって」
 村のあらゆる場所に罠をしかけるのが子供達の仕事らしい。
 参加出来ない腹いせに、とことん悪戯の限りを仕掛けてくるのだろう。
「‥‥頼もしいな」
 苦笑いをしながら、エスリンは窓辺のランプに明かりを灯した。
 薄暗かった室内に柔らかな光が広がっていく。
 窓辺から外を眺めていると、この辺りでは珍しい袴姿の女性が歩いてきているのが見えた。少し間を置いて、扉を叩く音が階下から聞こえてくる。
「それでは、行ってまいりますね」
「明日に備え、怪我をせぬよう、足下に気をつけろよ」
「転んだら、この靴と服のせいにしちゃいますからね」
 弁償して下さいよ、と冗談半分で言いながらラナは軽やかに部屋を出ていった。

●お祭り開始
 一夜明けた次の日。
 村中のあちこちからにぎやかな音楽と笑い声が聞こえていた。
 村の中央にある広場には、この日のためにと用意された料理と酒が並べられている。
 冒険者達も村人達の中に混じり、田舎料理を堪能していた。

 しばらくして、教会の鐘が突如鳴らされた。
「あ‥‥時間ですね」
 そう呟き、バーゼリオは手に持っていた焼き肉を口の中に放り込み、教会へと急ぐ。
 教会の前にはすでに何人もの男性が集まっており、皆意気揚々とした表情で佇んでいた。
 彼らの首から花嫁候補である証拠の、銀のコインが下げられている。
 到着したバーゼリオにも同じものが手渡され、彼はしげしげとコインを眺めた。
「そんなに古いものではなさそうですね‥‥」
「そりゃそうだ。あんたが今してるやつは、昨日急いで鍛冶屋のとっつぁんが作った奴だからな」
 得意げに彼の隣にいた男性が言った。
「それにしても、あんたみたいな優男じゃ相手にならなさそうだなぁ?」
「はは‥‥お手柔らかにお願いします」
 苦笑いを浮かべてバーゼリオは肩をすくめた。
「‥‥それでは、精一杯頑張って下さい。皆に慈悲深き母の加護のあらんことを‥‥」
 僧侶の祈りと共に白い旗が大きく振られる。いよいよ捜索の開始だ。
 合図と同時に方々へ散る候補者達。しばらくしないうちにあちこちから奇妙な叫び声が上がる。
「早速罠にかかったか。どれ、見に行くか」
 村人達はうっかりものの候補者を見ようと声のする方へ駆けて行く。
 それとは反対の方へと、バーゼリオは歩き始めた。
「あちら側は、自分が言わなくても脱落されそうですね」
 ‥‥さて、後何人ぐらいが自滅するかな。
 まだ日は昇ったばかり。せっかくだから祭りの雰囲気を充分楽しんでおこう。
 他の候補者にはどんな難癖をつけてやるかな、と考えながら。
 彼はゆっくりと歩を進めた。
 
●悪戯者へのおしおき
「‥‥まただな」
 向かいの家から聞こえる叫び声にカオルはぽつりと呟いた。子供達の罠の犠牲者がまた1人増えたようだ。
「で、これはどうしようか?」
 ぐるぐる巻きに縛り上げた男性にのしかかりながらミケーラが問いかける。「そのまま放っておけばよい」とカオルは一べつしただけでさらりと言い捨てた。
「おいっ、お前ら! 俺は花婿候補者だぞ! こんなことして良いと思ってるのか!?」
「悪戯しようとしてたのはあんたの方だろ? 数人手下を雇ってるなんて、汚いにも程があるぞ。他の奴ともども、しばらく反省してるんだな」
 更に文句を言おうとした彼に、ミケーラは彼の服を軽く裂いて、その布を使い、さるぐつわをはめさせる。
「ん、これでよし」
「そろそろ戻るぞ」
 まだ何か言っているような気がしたが、気にも留めずに、2人は広場の方へと向かっていった。

●失格者
 そろそろ日も暮れかけた頃。
 バーゼリオが集合場所へ戻ってくると、ぱらぱらと拍手が沸き起こった。
 集まっている一同の中にはエスリン、ミケーラ、カオルの姿もあった。
 バーゼリオは少し大げさに花嫁衣装の切れ端を掲げながら、一同の輪の中へ入っていく。
「残念ながら見つけられたのは、この布きれ1枚でした。これでは自分も失格ですね」
「でも、よくも最後まで罠にかからなかったな、兄ちゃん」
 せっかく笑い飛ばしてやろうと思ったのに、と村人の1人が言う。
「慈悲なる母の導きでしょうね」
 冗談とも本気とも取れるような口調で、バーゼリオは言葉を返す。

 しばらくして、少年に手を引かれながらラナがやってきた。
 少し泥に汚れていたが、それでもラナの羽織るドレスは純粋な白い輝きをみせていた。
「残念だったな、ラナ。どうやらお前さんを見つけられるだけの男はいなかったようだよ」
「そうみたいですね。でも、仕方ありません。次を楽しみにしています」
 ちらりとラナは冒険者達に視線を向け、わずかに笑顔を送る。
 その笑顔を横目に見つつ、バーゼリオは歌うような口調で、声を張り上げた。
「さあ、花嫁探しは失敗に終わってしまいましたが、祭りが終わったわけではありません。今日という日が終わるまで大いに飲み、食べ、そして歌おうではありませんか!」
 バーゼリオの言葉を合図に、再びにぎやかな音楽が鳴り始めた。
 誰ともなく互いに手を取り、広場の中心にあるかがり火の元へと歩いていく。
 音楽に合わせて、楽しく踊る村人達。
 ようやく一息つける、と冒険者達も安堵の表情を浮かべていた。
 
●一仕事終えて
「それにしても、一番の外れくじは‥‥もしかしてオイル殿ではなかったか?」
「どういう意味だ、それは‥‥」
 エールを飲みながら問いかけてきたエスリンを、オイルはじろりと横目で見た。
「ずっとラナ殿の付添いをしていたのだろう? せっかくの馳走も堪能してないではないか」
「遊びで来たわけではない。それに、食事は今出来てるから問題ないさ」
 向かいでラナと話しているバーゼリオと理雄の姿が見える。渡したい物があると言っていたな‥‥と、ふと思い出しつつ、和やかに会話する彼らを眺めていた。
「そういえば。これを預かっていた」
 と、オイルはエスリンに毛布を手渡した。
「お陰で寒い思いをせずにすんだ、助かったと言っていたぞ」
「そうか。それは何よりだ」
 夜も大分更けてきたが、まだまだ祭りは終わりそうになかった。
 燃えあがるかがり火に照らされ、彼らは一仕事終えた充足感を感じていた。