新商品開発〜イルカプティングを越えろ!〜

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜04月04日

リプレイ公開日:2005年04月01日

●オープニング

 ここはキャメロットの片隅にある小さな酒場。
 常連はそこそこいるが、殆ど知られておらず、いつも店には虚しい風が吹き抜けていた。
「はぁ‥‥どーやったら、人が集まってくれるもんかねぇ」
 目玉商品もこれといってなく、(たぶん)看板娘である女性はそろそろ「娘」から「おばさん」の仲間入りをする年頃だ。
 そもそもこの店は、大通りから随分と離れた場所にあるため、人目に付きづらい。
 客席はカウンターのみ。薄暗い店内は酒とカビの匂いがこびりついており、若者は少し立ち寄り難い店だ。
 今でも充分運営していくには困らないが‥‥このままの状態を放っておくのは店として問題だろう。
 どうすれば大通りにある酒場のように繁盛出来るか‥‥
 店主は悩みに悩んだ。
 悩みぬいた末、ピンとひとつの案を閃かせた。
「そうだ! 珍しい新商品を作ろう!」
 かの有名な酒場では、その日に誕生日を迎えた者に「特別な品」をプレゼントすると、評判だ。
 1日限りの珍しい料理を一目見ようと、店に集まる者も多いという。
「あっちが妙なプティングでいくのなら‥‥こっちは異国の味で勝負だ!」
 いくら諸外国との交易があったとしても、輸入品が庶民の台所に届くことは滅多にない。
 店で販売出来るようになれば、客足は増えることだろう。
「とはいえ、異国の味とはどんなものなんだろうか‥‥」

―――――――――――――

「と、いうわけで、看板料理となれる『超珍しい異国料理』作りの助っ人を頼みたいんだ」
「異国の、ですか‥‥珍しいのとなれば、やはりジャパンの郷土料理とかでしょうか」
「うーむ。どんな物があるんだ?」
「そうですね、生魚を使ったスシとかいう料理や、ミソスープなんか面白いかと思いますよ」
「スシ‥‥? ミソ‥‥? なんだそれは」
「さあ‥‥。私も口にした事が有りませんから‥‥」
 材料まではさすがに分からない、とギルド員は肩をすくめる。
 こればかりは経験者に聞くしかないだろう。
「冒険者はあちこちを旅している人が多いので、何もジャパンに限定しなくても、各国の珍しい料理の話が聞けると思いますよ」
「それは頼もしいな。ああそうだ、出来れば‥‥材料も用意出来るよう、狩りの腕の立つ者も紹介してもらえるか?」
「承知しました。試作期間は10日ですか‥‥結構時間をかけるんですね」
「時間はたっぷりあるからな。とことん追求して、何処に出しても恥じない絶品料理を仕上げたいんでね。よろしく頼むよ」
 勿論、試食品は作った本人達に食べさせるつもりだろう。
「‥‥何人が無事に戻ってこられるかな‥‥」
 依頼人に聞こえないよう、彼はぽつりと呟いた。

●今回の参加者

 ea0322 威吹 神狩(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0323 アレス・バイブル(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4683 カナ・デ・ハルミーヤ(17歳・♀・バード・シフール・イスパニア王国)
 ea5459 シータ・セノモト(36歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0050 滋藤 御門(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●最初にすべきことは
「小汚い店アルネー」
 操群雷(ea7553)は苦笑いを浮かべて店内を見回した。
 最低限の掃除は行き届いているものの、日があまり差し込まない店内はぼんやりと薄暗く、どことなくカビ臭い。
「まずは掃除からしたほうがよさそうだな」
「そうですね。綺麗な方が‥‥気持ちよく作業が出来ますからね」
 早速、エスリン・マッカレル(ea9669)と滋藤御門(eb0050)は店の隅に置かれていた掃除道具を手に、清掃を始める。
 掃除は得意というアレス・バイブル(ea0323)の指示のもと、2人は慣れないながらも丁寧に拭き掃除を進めていた。
「掃除は上から順にやっていくと良いですよ。埃が舞わないよう、そっと払い落として下さいね」
 壁やランプの周りには、煤けた埃がこびりついている。
 黒ずんだ壁を拭きとってやるだけでも一苦労だ。
「なんだか、一日がかりになりそうですね」
 1つ1つ丁寧にロウソク台を磨きながら御門が言う。
「ツベコベ言う暇あったら手を動かすヨロシ。ヤル事山ほど残ってるアルヨ」
 厨房から群雷の激が飛ばされる。シェフの期限を損ねては大変だ、と御門は拭き掃除に集中した。
 掃除する場所はここだけではない。室内は無論のこと、店の前や入り口の清掃も待っている。
 狭い店で良かったと、つくづく思わずにはいられない。
「アレス‥‥食材の調達に行きたいのだけど‥‥」
「ええ、そうですね。早いうちに行きましょうか」
 威吹神狩(ea0322)の言葉に、アレスは気さくに返事をする。
 2人の会話を聞いていたカナ・デ・ハルミーヤ(ea4683)が、ひらりと神狩の肩に舞い降りた。
「私も一緒に行ってやがりますよ。お財布は持ちやがりましたですか?」
「はい、ちゃんと預かっております」
 アレスの手には小さな革袋が握られていた。
 彼はそれを大事そうにしまうと、さりげなく神狩の手を握りしめる。
「行ってらっしゃい〜」
 早速出来た試作品のスープをすすりながら、リデト・ユリースト(ea5913)が手を振り見送った。
「アレスさん。野菜が少し足りないアルヨ、大目に買ってクルヨロシ」
「あ、はい。分かりました‥‥他に必要なものはありませんか?」
「今の所ソレダケネ。他ハ用意してあるから問題ナイアルヨ」
 ここに来る前に、いくつか材料の用意は済ませておいたらしい。
 小さな厨房に小麦の袋が積み上げられているのが見える。
「ネズミにかじられないよう、気をつけないとならないだろうな」
 暖かくなってきたこともあり、家ネズミ達の活動が活発化し始めている。
 先日も、近所にある農家の納屋の野菜が被害にあったと、報告がされていた。
「それには心配いらない。私と御門が見つけ次第、退治しているからな」
「簡単な罠でも張っておきましょうか? ずっと見張りをしておくわけにもいきませんからね」
「そうだな‥‥群雷殿、少々厨房を邪魔しても構わぬか?」
「大丈夫アルヨ。デモ、煮込みノ最中だから手早くスルヨロシ」
「何を煮てるんですか?」
「魚の骨アルヨ。弱火デ優しく煮れバ、良いダシが取れるアルネ」
 味は出来てからのお楽しみ、と群雷はにんまりと笑顔を向けた。
 
●市場にて
「うーん‥‥こっちには売ってやらないでやがりますか」
 大きくため息をつくカナ。
「何か探してたのですか?」
「イスパニアの家庭料理に使う材料でやがりますよ。ジャパーン風の果物なんて見つからないでやがります」
 それは確かに無謀な話だろう。
 市場に並ぶ品の殆どは、近郊の農家や牧場で作られたものばかりだ。
 特に、眠りの季節である冬は、恵みが少なく市場に並ぶ品も限られてくる。
 彼女の望むべき味を得るには、厳しい冬とは縁薄い、南の地方に赴くしかないだろう。
 あったとしても、それは他国からの輸入品であり、簡単に手に入る値段は付いていないからだ。
「‥‥アレン、一通り買ってきたわ」
 神狩から手渡された中身を確認し、アレンは大丈夫と小さく頷く。
「後はカナさんの材料ですが‥‥どうしますか?」
「もうちょっと探してみやがるです。あと、ついでに宣伝してまわりやがるので、先に帰って良いですよ」
 そう言ってカナは横笛を鳴らしつつ、市場の中へと飛んでいった。
 柔らかな笛の音に、人々の目がカナに集まり始めた。
「皆様方聞くでやがりますよ! 異国の料理人が作る、美味しい料理が食べられるお店を紹介してさしあげやがりますです!」
 人が集まってきたのを頃合いに、カナは小気味良い口調で語り出す。
 彼女の口上を聞きながら、アレンと神狩は仲間の待つ店へと戻っていった。
 
●美味しい料理の研究
 思考を重ねること数日。
 味見役のリデトはそろそろ魚のスープに飽きてき始めていた。
 最初は、なかなか味わえない異国の味と群雷の料理の腕前に舌鼓を打っていたが、さすがに連日となると辛いものがある。
 慣れてない味というのもあるだろう、薄味好みのイギリス人にとって、ジャパン料理は濃い印象がぬぐえない。
「今日ハ大分薄味ニしてみたアルヨ。これナラ満足出来ルアルネ」
 魚の具とエビを混ぜたスープに香草と麺を入れたものだ。
 ほのかに漂う潮の香りと香草の放つ香りが混ざり合い、食欲をそそり立たせる。
「麺料理は、この『箸』を使って食べるんですよ」
 そう言って御門は削り上げたばかりの木の枝を差し出した。
 木の枝はナイフで表面の皮を削り落とし、持ちやすく整えてある。
 ただ問題は、スープが入った器が人間サイズという所だろう。
 ほんの一口食べられればよいかな、とリデトは枝を麺に突き刺してかじりつく。
「‥‥うん、さっぱりして美味しいであるよ」
「フムフム、この位味加減アルネ。汁ノ味ハ如何アルカ?」
「んー‥‥もうちょっと魚臭さが無い方が良いと思うであるな」
「神狩さんも試食してみませんか? 美味しいですよ」
 さりげなく器を手に取り、アレスは神狩に差し出す。
「‥‥あなたが食べればいいじゃない‥‥」
「神狩さんにも食べてもらいたいのですよ。はい、あーん」
 ノリノリのアレスを止めるわけにもいかず、神狩は流されるままに料理を口に運んでもらった。
 ゆっくりと噛みしめ、その味を堪能する。
「‥‥かなりさっぱりとした味ね‥‥」
「食べ易さを重点ニ置いてミタアルヨ。材料も市場で仕入れられるし、作り方も簡単アルネ」
「それより、神狩殿。その手に持っているものは一体‥‥」
 エスリンに問いかけられ、神狩はさらりと言う。
「新メニューと一緒にそえる野菜の飾り切り‥‥ジャパンでは、見た目も華やかになるように、野菜をこうやって‥‥切って‥‥」
「か、神狩さん‥‥後は私がやりますよ」
 野菜へナイフを突き立てる神狩の姿に見ていられず、アレスは半ば無理やりに彼女からナイフを奪い取る。
「それで、これをどうするんですか?」
「‥‥確か花のつぼみのように切り込みをいれるの。そう、軽く円を描くように‥‥」
 神狩の言葉を聞きながら、アレスは丁寧に野菜をむき始める。
 アレスの手の中で野菜は素朴な花の形へと姿を変えていった。
「アレスもナカナカの腕前有アルネ。デモ、マダマダアルヨ」
「そうなんですか? 結構綺麗に切れてると思いますよ」
「シロウトからミレバそう見エル当然ネ。デモ、料理人トシテハ、アトもう一息アルヨ」
 その時。
 軽やかな笛の音が店の外から聞こえてきた。
 一同の動きが途端に慌ただしくなる。
「どうやら早速、客を連れてきてくれたようであるな」
「料理ハたっぷり作っテアルネ。何人来ても大丈夫アルヨ」
 自信たっぷりに群雷は言う。
 それぞれの期待を胸に秘め、扉はゆっくりと開かれていった。
 
●看板娘
「随分とにぎやかなようね‥‥」
 洗い物作業中、ふと店内のにぎやかな声に神狩は手を止めた。
「アレス殿が頑張っておられるからな、なかなかに良い接待だと群雷殿がおっしゃられてたぞ」
 エスリンも掃除の手を止めて、ふと厨房を挟んだ向こうへ視線を向けた。
 丁度柱の影になっているため、こちらから中の様子を伺うことは出来ない。それでも、聞こえてくる声からして、かなり好評のようだ。
「ちょっと中を見てくるか?」
「‥‥いえ、まだ仕事が残ってるわ。それが終わってからにしましょ」
 再び洗い物を再開させる神狩。
 キィと音を立てて扉が開かれ、愛らしい女中姿に身を包んだアレスが姿を現した。
「喉が渇いたでやがりますですよー。一息つかせてもらいやがるです」
 アレスに続いて奥へ戻ってきたカナは、そう言うなり水桶の水を手ですくい取った。
 ふと、神狩が呆然としているのに気付き、徐に両手を眼前で振る。
「どうしたでやがりますか?」
「えっ‥‥あ‥‥と‥‥。アレス、その衣装は一体‥‥」
「ああ、これですか? この方がお客様に好評でして。どうですか? 似合ってますか?」
「‥‥」
「恐ろしい程によくお似合いでやがりますよね? 男にしておくには勿体ないでやがりますよ」
「‥‥女性にするにしては、体格がずいぶんとよすぎるがな」
 きっぱりと言い放つエスリン。その視線は吹雪のように冷たかった。
「アレスさーん、『魚と香草のジャパーンスープ』出来ましたよー」
「はーい。やれやれ‥‥どうやら休みは頂けないようです」
 一口だけ水をすすり、アレスは再び店内へと向かっていった。
 軽やかな足取りで駆けていく彼を、呆然を見送る神狩。
 その肩に、エスリンはそっと手を乗せた。
 
●感謝をこめて
「おかげさまで客にもかなり好評だったよ。俺も色々勉強させてもらったしな、有り難うよ」
「材料と手順ハさっき言った通りアルヨ。分からなくなったら聞きニクルヨロシ」
 にこやかな会話を交わす店主と群雷。
 お互いの表情には、一仕事終えた充足感が満ちていた。
「‥‥少し残念なのは、有能なキレイ所を失うことだな‥‥当分は味で勝負しろ、ということか」
 店主は深くため息をつく。
「また機会があれば何時でもお店を手伝いますよ。心配はいりません」
 アレスはにこやかな表情を浮かべながら言った。
 その後ろで複雑な表情を見せながら神狩がじっとその様子を見つめている。
 その視線に気付き、アレスは「次回は普通の姿で接待させてもらいます」と言葉を付け加えた。
「次ハ客とシテ寄らせてもらうネ。それまで精々腕を磨クヨロシ」
「分かってるさ。こっちもあんたらが来るのを楽しみにしてるよ」
 
 おわり