森の番人討伐依頼

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月22日〜04月27日

リプレイ公開日:2005年05月01日

●オープニング

 キャメロット西部に広がる森を入ってしばらくした先に古い墓場がある。
 そこに、大きな木が生えているのをご存知だろうか?
 花咲き乱れる季節よりひと足先に花を咲かせ、暖かくなると共に、赤い果実を実らせる。
 とても食べられた味ではないため、放っておかれていたのだが‥‥最近、貴重な薬の材料になるというのが分かり、薬師達の注目を浴びていた。
 
 何時からだろうか。
 木に近づくと、奇妙な声を耳にするという噂が流れ始めた。
「この木に近づくな。災いが起こる」
 声の主はそう警告する。
 事実、警告を無視して木の実を採取していた者は、行方知れずとなり、数週間した後、哀れな姿で発見されていた。
 無論、冒険者ギルドへも、その謎に関しての調査の依頼が寄せられていた。
 幾人もの冒険者達が調査に出掛け、何とか無事に帰ってこられたのは約半数。
 犠牲となったものの殆どが、好奇心に誘われて木の実の採取を行い、帰る途中ではぐれてしまったのだという。
「今思えば‥‥一緒に帰れば、助かったのかもしれない」
 冒険者のひとりがそう言った。
「どういう意味?」
「魔法の力を感じたんだ。あの術は‥‥おそらく迷宮を作り出す魔法。彼にはそこから逃れる術はなかったから‥‥ただ、あの術だけでは彼が生きて戻れなかった理由にはならない。道に迷って混乱している隙をついて、何者かが襲いかかってきたのだろうな」
 遺体となって見つかった冒険者の後頭部には、強い打撲の跡が発見された。
 油断しているところに、鈍器のような固いもので、いきなり殴られたのだろう。
 不意打ちとはいえ、残酷すぎる。
「‥‥そういえば、あの辺りには古い木が多いんですよね」
 突然ぽつりと詩人の1人が言った。
 その言葉に首を傾げる一同へ、彼は古い詩のひとつを語る。
「長い年月が経つと、木は精霊となり命を宿します。彼らは森を守る番人となり、侵入者をことごとく排除せしめようとするのです」
「‥‥森の番人に襲われたってことか。少しおかしくないか? 今まで、あそこに行っても問題なかったんだろう?」
 そういえば、と。
 噂が経ちはじめる少し前に、薬師のひとりが子供を見かけたとの報告があった、とギルド員は告げる。
「墓参りに来ていたのだろう、と彼は言っていましたが‥‥独りで街外れまで出掛けるものでしょうか‥‥」
「もしかするとそれは、森の番人の子供かもしれません。若い木の実を守る精霊が森にはいる、という詩がございます」
「木の実を守る、か。薬師の連中、乱獲でもしでかしたのだろうか」
 自然の怒りはそうそう止められるものでもない。
 故に、感謝と恐れの意味を込めて、森にある恵みを必要以上に手に入れようとはしないのだが‥‥
「依頼人は‥‥危険な存在である彼らを始末するのが一番、とおっしゃっています。ですが‥‥本当にそれで良いのでしょうか」
 だが、可哀相というだけでは、依頼を断る理由にならない。
 ギルド員は薬師達の依頼通り、森の精霊討伐依頼を冒険者達に報せた。

●今回の参加者

 ea2261 龍深 冬十郎(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea9929 ヒューイ・グランツ(28歳・♀・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb1124 弧篤 雷翔(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●薬師の意見
「何の用だね」
 突然の訪問に眉根をひそめながら、薬師は冒険者達を見つめた。
「忙しいところ邪魔立てしてすまない。少し宜しいだろうか?」
 礼儀正しく一礼し、エスリン・マッカレル(ea9669)は静かに告げた。
 彼女の奥に控える龍深冬十郎(ea2261)とヒューイ・グランツ(ea9929)の姿を一瞥し、ひとつ息を吐き出す。
「お前達には森の魔物退治を頼んで居たはずだ。さっさと森に向かったらどうだ」
「そのことについて、ひとつ相談したいことがあって来た。悪いが時間を頂けないだろうか?」
「‥‥いいだろう。はいれ」
 いぶかしげな表情は崩さず、薬師は3人を家に招き入れた。

 室内はつんと強い匂いが充満しており、ぼんやりと煙にかかっているようだった。
「外は冷えただろう。飲むが良い」
 薬師が差し出したスープは匂いはひどいものの、口当たりは良く、飲むと心地よい温かさが身体に広がっていく。
「それで、相談したいことは何だ。まさか、依頼金の値上げを交渉に来た、というわけじゃないだろうな」
「そんなんじゃねぇ。あんた達の望みは精霊をぶっ倒すことだが‥‥その後、あの実を全部取り尽くす気なのか? それとも恒久的に手に入れたいのか?」
「患者がいる限り、薬を切らすわけにはいかない。答えは‥‥分かるだろう? 何やら誤解しているようだが、いきなり襲ってきたのは奴らの方だ。襲ってきた敵を排除するのは当然のことではないのか?」
 薬師は少し苛立った口調で言葉を返す。
 交渉の余地はあまりなさそうだな‥‥と、冬十郎はちらりと仲間の方をみやった。
 視線に気付いたエスリンが数歩前に歩み寄り、深刻な面持ちで告げる。
「恵みを求めすぎれば報いを受けるのは当然のことだ。そのことをお忘れではないか? 森を豊かにしているのは貴殿らが敵とみなす精霊達‥‥彼らを討伐すれば、恐らく森は荒れ果て、貴殿らが欲する木の実も取れなくなる恐れがある。一度失った物は二度と元には戻らない、それを覚悟召されるのだな」
 精霊達は森の番人であり、大地を育む存在と伝えられている。彼らを失えば、当然森はその秩序を失い、元の姿を取り戻すことはないだろう。
「ではどうしろというのだ! 伝説や物語ではあるまいし、奴らと話が出来るとでも思うのか? ばかばかしい、依頼を受けたのであれば、依頼通り遂行するというのが冒険者というものだろう」
「‥‥どうやらこれ以上は話しても無駄のようだな。分かった、ならば我らも最善の手を尽くそう」
 くるりと踵を返すエスリン。
 やりとりをじっとうかがっていたヒューイが去り際に告げた。
「あの‥‥その薬となる木の実なのですが、月にどれほど必要なのでしょう?」
「量か? そうだな、最近急に必要な量が増え出してきたな。籠2つ程、といったところだろうか」
 籠1つでなっている実の3分の1ほど収穫するのだという。
 殆ど取り尽くす、といっても過言ではないだろう。
「‥‥本当にそれほどの量が必要なのですか?」
「一粒から取れる量が少ないからな。もう少し効率の良い方法が見つかれば良いが‥‥現状はこれがぎりぎりなのだ」
「分かりました。有り難うございます」
 深く一礼し、ヒューイは先に退室した仲間達の後を追っていった。
 
●森の番人
「ふぇ〜‥‥何かおっかない所ッスねぇー」
 弧篤雷翔(eb1124)は周囲を見渡しながらそう呟いた。
「あまりきょろきょろしてると危ないよ」
 たしなめるようにレイエス・サーク(eb1811)は言う。
 誰もいない墓場はしんと静かで、時折遠くから鳥の鳴き声が聞こえる他は生きている物の気配が殆ど感じられない。
 ふと、レイエスが顔をあげる。
「気をつけて。何か来るよ‥‥」
 2人の目の前にあった樹から、幼い少女が姿を現した。
 一枚の布を織り上げただけの、実に簡素な衣装と、ぼさぼさの髪。見た目はかなり貧相な姿をしている。
 少女はじろりと2人を睨みつけ、子供とは思えぬ低い声色で話しかけてきた。
「主(ぬし)達は何者ぞ。何をしに参った」
「ええと、その樹の木の実をもらいたくて来たんだけど‥‥」
「愚かな‥‥まだこりておらぬと申すのか。この樹になる恵みは主達に過ぎたもの。これ以上渡すわけにはいかぬ」
「どうにかならないッスか? ちょこっとだけとかでもダメッスかね?」
「そう約束しておいて、根こそぎ採っていったのは主達の方ではないか。これ以上信用しろと言われても難しいぞ」
 やはり過度に採りすぎていたようだ。
 予測していた事態だったが、もはや聞く耳すらもたない姿勢に2人は互いの顔を見合わせた。
「とりあえず、やれるだけの話し合いはしておこう」
「そうッスね‥‥」
 誠意を示せば何とかなるだろうと、2人は交渉を改めて試みることにした。
 
 幸いだったのは、言葉が通じる相手だったことだろう。
 もし、会話での交渉が無理であれば、2人には到底なしえない仕事なのだから。
 もっとも雷翔もレイエスも話が上手というわけではない。

 結局和解出来ないまま、呆れて立ち去る娘を2人はただ見送るだけだった。
 
●番人に会いに
 次の日。
 薬師のところへ立ち寄った仲間と共に、再び森にある墓場へと向かっていった。
「ヒューイさん、こっちよ。そっちにいくと危ないわ」
 自他共に認める極度な方向音痴であるヒューイを、ステラ・デュナミス(eb2099)がさりげなくリードしていく。
 しばらく歩いていくと、突如、傍らにあった樹が枝をしならせて打ちつけてきた。
「もはや問答無用ということか!」
 言葉を吐き捨て、エスリンは弓矢を構える。
「‥‥そっちがその気ならやるしかないッスね」
 ひらりと攻撃を避けながら、雷翔は拳による牽制を与えていく。
 短刀を構えながらも、レイエスは辺りを見回していた。
 もしかしたら昨日見かけた少女がいるかもしれない。彼女はこの森を守っている存在のような口調であった。ならば、彼女との話し合いがもう一度出来れば‥‥この状況も打開出来るのではないだろうか。
「樹木が相手か‥‥こいつは分が悪そうだぜ」
「倒してしまうと、後々問題なのではないでしょうか‥‥?」
「こっちはそう思っていても、向こうはそう思っちゃくれてなさそうだぜ‥‥来るぞ!」
 太い枝が振り下ろされる。
 何とか交わし、絡んでくる枝を剣で切り裂いていく。
「汝、全てを凍結せし息吹、我が手に宿りて凍れる裁きを与えよ!」
 ステラの身体が淡く青色に輝き、掌が霧のようなものに包まれた。
 枝が振り下ろされた後の隙をついて、トン、と両手を幹に押し付ける。
 幹がきしむ嫌な音が鳴り響き、樹はその動きを鈍らせた。
「今のうちに奥へ急ぎましょ」
「しかし‥‥!」
「この魔物に私達の装備では分が悪いわ。怪我をしたくなければ先に進む方が良策よ」
 ステラの言葉にレイエスも同意する。
 樹木の動きに警戒しながら、一行は一気に森の奥へと駆け出した。

●最後の交渉
「また懲りずに参られたか。もう話すことなどない」
 冒険者達の姿をぐるりと見渡し、少女は呆れた口調で告げる。
「先日は仲間が無礼を致した。どうかお許し願いたい。私達にとってその木の実は貴重な品。必要としているのだ、ご理解願えないだろうか?」
「‥‥ふむ。番人の樹は倒さずに来たか。主達ならばまだ話せそうだな‥‥」
 ふわりと枝から舞い降り、少女は冒険者達の前に歩み寄る。
「私達は森との共存を願っております。決してあなたがたにこれ以上の危害を与えないことを誓いましょう」
 帽子を胸に抱き、ヒューイは静かに頭を下げる。
「‥‥これが最後の約束になるぞ」
 必ず実は全て採り尽くさず、有る程度残すこと。実の採取だけでなく、周辺の清掃維持も務めること。それらを約束し、ようやく少女は首を縦に振った。
「実を採り尽くした者達にも伝えるがいい。ここは我らの場所、わがままな振るまいは決して許さぬということを」
 ひらりと高く跳躍し、少女は瞬く間に木陰に消えていった。
 
 荒れ果てていた墓場を綺麗に清掃し、伸び放題の枝を切り落とす。
 木の根の邪魔となる石をどかしてやると、辺りは見違えるような明るさを取り戻した。
「少し手を入れるだけでも、随分きれいになるもんッスね」
「これなら、精霊も満足してくれるだろうな」
 ふと、樹がざわざわと音を鳴らして揺れた。
「なんだか嬉しそうッスね」
 風に揺られて優しく葉を鳴らすその姿は久しぶりの光に喜んでいるようだった。