洞窟に眠る宝を求めて
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月12日〜05月17日
リプレイ公開日:2005年05月24日
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●オープニング
その洞に住みしは 永遠なる輝き
姿を見た者は直ちに魅せられ 虜(とりこ)となる
だが 油断めされるな 彼らの守護せしは闇に生きし者
輝きを求めし者よ 強き心をもって 闇に挑まれよ
キャメロットより西に広がる山岳地帯には、名も無い小さな村がいくつか点在する。
ある日、ひとりのシフールが伝えてきた話も、そんな小さな村に伝わる昔話だった。
「ねえねえ知ってる? この間さ、山あいのにある村にお届け物にいってきたんだけど、面白いこと聞いちゃった!」
「何? どうせろくでもないことなんでしょ」
「失礼だなー。お宝の話なんだけど‥‥聞きたくないっていうんなら、言わなくてもいいんだけど?」
シフールの少年は悪戯っぽい笑顔を見せる。
相方らしい、シフールの少女は頬を膨らませながら、反論した。
「もうっ! プクダのいじわるっ! もうスコーン焼いてあげないんだから!」
「ええっ‥‥! わ、わかったよ‥‥」
渋々と彼は少女に耳打ちするように話しはじめる。
まわりにいたシフール達も興味津々の様子で集まり出し、話題に耳を傾け始めた。
「その村の裏手には小さな洞窟があるんだ。もう随分前から人が寄らなくなって、いつしかゴブリンが住むようになったんだって。その洞窟の奥の方にね‥‥何と、赤く輝く宝石が眠ってるって話なんだ」
「なにそれ。あやしー‥‥」
一同は疑いのまなざしをプクダに向ける。
彼は眉根をよせて、怒りの声をあげた。
「なんだよ、本当の話だってば! この耳ではっきりと聞いたんだから!」
「でも、その聞いた話が本当だって保障はどこにもないんでしょ? 大体、洞窟に宝石が眠ってるだなんて、まさにおとぎ話じゃない」
「分かったよ。そんなにおいらが信じられないっていうんなら、その宝石を採ってきてやるよ! 後で欲しいっていってもあげないからねーっ」
ひらりと飛び上がるプクダ。
一目散に西の空へ飛び立とうとしたが、ふとその動きを停めて、くるりと反転すると、冒険者ギルドへと飛び込んでいった。
「‥‥あのー。護衛をお願いしたいんだけど‥‥」
「あら、配達の護衛?」
「ちっちっち。ロマンないねー、お姉さん。冒険者ギルドに護衛の依頼に来るなら、当然冒険が目的に決まってるじゃん!」
決めつけられても‥‥と心の中で呟きながら。ギルド員はとりあえず笑顔を崩さぬまま、手続きをすすめていく。
「はい、ここにサインをして‥‥移動の費用は各自負担で良いかしら?」
プクダはそっと懐に手を忍ばせ、手で中身を確認しつつ小さく頷く。
「お金‥‥あんまりないけど、平気?」
「そうね、無きにこしたことはないけど‥‥でも、依頼を引き受けたからには任務を果たせるよう努めるわ。だから、安心なさい」
そう言って、彼女は優しい微笑みを向けた。
事前調査を進めて行くうちに、ギルド員はあることに気がついた。
「この辺り‥‥昔は鉱山だったようね」
古い記録によれば、周辺に住むドワーフ達が生活の資金源にと、採掘を行っていたようだ。
だが、ゴブリン達が採掘場を乗っ取り、彼らは仕方なくその地を離れることとなった。
それからしばらくして山のふもとに人間の村が出来たが、ゴブリンの存在を知ってか、人は寄りつくことはなく、現在に至るらしい。
「ドワーフの採掘跡地、ね‥‥何か出てきそうではあるけど、無駄骨にもなりえなくもないわ」
ジーザス教の神の導きは果たして如何なるものなのか。
夢多きシフールの旅は始まった。
●リプレイ本文
●探索と襲撃
山岳部に細く広がる獣道を進んでいくと、大きな崖につきあたる。
崖の下腹部にぽっかりと穴が空いているが、入り口が板で塞がれているため、先に進むのは難しいようだ。
近年、そのためか、人の気配は殆どなく、辺りはしんと静まりかえっていた。
草木を踏みしめる、自分達の足音だけが妙に響く。
時折、遠くから獣の鳴き声が聞こえるものの、静かな森がただ広がっているだけだった。
「‥‥形跡は見られるが、いまのところ奴らはこの辺りにいるかんじじゃねぇな」
草むらに転がっていた骨を拾い上げ、国盗牙郎丸(eb1147)が言った。
鉱山の跡地となる洞窟の入り口の板は一部分だけはがされていた。
ここの住民達はここから出入りしているのだろう、足跡の数からしてそう多くは無いが、油断は禁物だ。
一行は慎重に歩みをすすめ、すき間から洞窟の中へと入っていった。
中は狭く、殆ど光が差し込まないため真っ暗だ。
ランタンの明かりを頼りに、殆ど手探り状態で中へ進んでいくと、やがて少し開けた場所に出た。
「休憩所でしょうか‥‥」
少し朽ちた椅子や机の姿に気付き、カシス・クライド(ea0601)がそう告げた。
もう長い間使っていない様子ではあったが、置かれている家具は頑丈な作りで出来ている。
「これ、ドワーフ達の机かな?」
レイエス・サーク(eb1811)の問いかけに、アルラウネ・ハルバード(ea5981)はそうじゃないかしら、と答える。
「ゴブリンがこんな机を用意するというのも妙な話だしね。それに、あんまり使ってないようよ。埃だらけだもの」
机に軽く指を走らせると、途端に白い埃が指先にまとわりつく。
砂と埃まみれの部屋をぐるりと見回す。
ほぼ放置状態の家具に混じって、どこからか集めてきたらしい壊れた武具やら、農耕具がやらが転がっている。
その中に、衣服の端切れらしきものを見つけ、アリス・ヒックマン(eb2266)は眉をしかめた。
「これは‥‥旅人のものでしょうか」
「う‥‥ん、どうだろう? それにしてはちょっとボロいかんじだし、どこからか拾ってきたものじゃないかな?」
「それならば良いのですが、被害にあわれた方の物でないのを祈ります‥‥」
布を胸に抱き、アリスは静かに祈りを捧げる。
「メイリアさん、ちょっとあの辺りを照らしてもらえますか?」
カシスに促されて、メイリア・インフェルノ(eb0276)はランタンを壁際に近づけた。
徐にカシスは壁や地面を調べ始める。
「何か気になるものでもありましたか?」
「ここに、ゴブリン達がいたのなら‥‥その形跡がみつからないかな、と思ったんですが‥‥」
彼らが拾ってきたらしい雑貨類は転がっているが、食事の跡は見当たらない。
確かに拠点として利用しているようだが、生活の場所としてはあまり活用されていないようだ。
「みんな。何かこっちにくるみたいだよ?」
レイエスが告げたのとほぼ同時だった。
洞窟の奥から小石が飛び出してきた。
あきらかに一行を狙って投げられた物だ。
明かりを壊されないよう、ランタンを持っている者達を後ろに控えさせ、彼らは剣を構えて奥をじっと睨みつける。
「‥‥向こうに何かいるようだけど‥‥暗くて良くわからないね?」
後方に控えていたレイエスが告げる。
「とりあえず、石を投げてきてくれたということは‥‥歓迎してはいないわね」
印を構えつつ、アルラウネは苦笑いを浮かべる。
自然光はここまでは殆ど届いてはこない。大分暗闇に目が慣れてきてはいるものの、洞窟の広さと大きな雑貨類の位置が把握出来ている程度だ。明かりを失えば、こちらの不利は明確だろう。
お互いに緊張の糸が張られる。
最初に動いたのは敵の方だった。
闇から飛び出してきたゴブリンをひらりとカシスはかわし、体勢が崩れた隙を狙って投げ飛ばした。
追い討ちをかけるように、牙郎丸の斧が振り下ろされる。
仲間がやられたと知り、ゴブリン達は奇怪な声をあげてたじろぎ始めた。
侵略者達をどうにかして追い払いたい、だが‥‥命は惜しい。地の利はこちらにあるし、人間は光を失えば途端に判断力が鈍るのを、彼らは本能で察知していた。
もっとも、それは一般人の話。冒険者はそれらに対しての心得もあるし、何より戦いのセンスがある。
冒険者達がじりじりと近づく度に、彼らは後方へと下がっていく。
やがて、1匹が逃げ出したと同時に、一斉に彼らは洞窟の奥へと逃げていった。
「ふう‥‥これでしばらくは大丈夫だろうな。探索を始めるか」
「追わなくてよろしいんですか?」
「下手に追いかけたら奴らの思うつぼだ。それに、ここへは宝探しに来たんだしな」
「それもそうですね」
「さてと、何かあるかしら?」
アルラウネは印を構え、壁に遮られた視界を魔力で広げさせた。
採掘場だけあって、ただの岩と鉄くずぐらいしか目ぼしいものは見当たらないが、良く探せば何か出てくるかもしれない。
「私達も探してみましょうか」
「そうですね」
後ろに下がっていたアリスとメイリアも一同の輪の中に入り、地面を中心に探し始める。
「んー‥‥この辺りはあまり無さそうだね‥‥」
「もっと奥に行った方がよさそうだな」
「さっきのゴブリン達が待ちかまえている恐れがあるわ。気をつけて」
「分かっとる。アリス、俺が殿を照らすから、前の奴らの明かりを手伝ってやってくれ」
「はい、了解です」
先頭にカシスが立ち、それに続くようにして、一行は洞窟の奥へと入っていった。
●ゴブリンの宝物
先へ進んで行くたびに洞窟は徐々に狭く、低くなっていた。
背の高い牙郎丸はかがまなければ先に進めなくなっていたし、むき出しの岩壁は歩くのを困難にさせた。
「これ以上言っても引き返すのが大変です。いったん戻りましょう」
「待って。何か‥‥床に落ちてるわ」
地面に転がっていたのは剣の柄だった。
よく見ると、壁の一部がくりぬかれており、その中に剣が無造作に放り込まれていた。
その殆どが折れていたり、ひびが入っていたりと、使い物にならない代物であったが、無傷のものもいくつか紛れている。
何か無いかと探していた牙郎丸は、ふと小さな粒が紛れているのに気付いた。
「ん? なんだこりゃ。石っころじゃねぇか」
小石を一つ手に取り、カシスはじっとそれを眺めて呟いた。
「これは‥‥多分、シフール達の飛び道具ですね。ゴブリン達が持ち帰ったものでしょうか?」
ここで争った形跡は見られない。
恐らく、どこからか奪い取って来たものをこの場所に集めていたのだろう。
コレクションにしているにしては、お粗末な状態ではあるが、彼らにしてみてはこれが精一杯なのかもしれない。
「まあ、土産にくらいはなるんじゃねえか?」
そう言って、牙郎丸は無傷の短剣をアリスに手渡した。
戸惑いながら受け取り、彼女はすっと彼らの後方を指差す。
「あの‥‥持ち主の方、怒っていらっしゃるようですけど‥‥」
振り向くと、怒りをあらわにしたゴブリンの姿があった。
威嚇の叫び声をあげ、両足をじたばたと踏みならしている。
「ほぉう。天下の大盗賊牙郎丸様にたてつこうとは良い度胸じゃねぇか。おい、そこのハゲ野郎、文句があるならかかってきなっ」
「牙郎丸さん、あまり焚きつけない方がよいと思いますよ‥‥」
苦笑いを浮かべるカシス。心配するな、と口元をゆがませ、牙郎丸は頭をぶつけないよう慎重に一同の前へ歩みでた。
壁一杯の高さもある牙郎丸に怖じ気づいたのだろうか。ゴブリンは先程の勢いも何処吹く風、びくりと身体を強張らせて警戒体制をとった。
「こういう場合ってさ、先に行った方がよいよね?」
にらみ合う2人を眺めながらレイエスが言う。
「そうね、下手すれば巻き込まれて怪我をするだけだわ」
これ以上奥に行っても特に大したものは無いだろう。
とりあえず、もう少し身動きの出来る場所まで戻ろうと、彼らは来た道を帰り始める。
「おいっ、おまえらっ!」
牙郎丸が視線をそらした隙をついて、ゴブリンは急に襲いかかってきた。
それを待っていたかのように、メイリアは一気に間合いを詰めると、渾身の力を込めて短剣を突き立てた。
身動きを止めるゴブリン。メイリアの追撃を受け、彼はくぐもった声をあげながらその場に崩れ落ちた。
「これで大丈夫ですね」
にこりと微笑むメイリア。
おっとりとした普段からはあまり想像出来ない一面に、怒らせない方が良いだろうな‥‥と牙郎丸は心の中で呟く。
「け、けっこうやるじゃねぇか」
「いいえ、武術は手習い程度ですもの、牙郎丸さんが隙をつくって頂いたお陰です」
「そ、そうか‥‥」
「それより、こんな狭いところでは大変でしょう。早く広い場所へ戻りましょう」
「そう、だな」
ふわりと踵を返し、先に行った仲間達を追うメイリア。
彼女からほんのりと漂う花の香りに、なんとなく照れる牙郎丸であった。
●洞窟で手に入れたもの
「結局‥‥ろくなものが無かったわね」
「まあ、採掘場の跡地ですから残っている方がおかしな話になりますしね」
手に入った目ぼしいものといえば、ゴブリンがコレクションにしていた短剣といったところだろうか。
期待はしていなかったが、宝石の欠けらすら見あたらなかったのには、さすがに残念な思いを隠せない。
「あれ? その石ころ持ってきたんだ?」
牙郎丸の手の中にある小さな石に気付き、レイエスは不思議そうに彼を見つけた。
「手ぶらで帰るのもつまらなかったからな。これでも土産話の種にはなるだろうよ」
それからしばらくして、ゴブリン達の集団が山道を降り、どこかへ逃げていくという報告がギルドに寄せられた。
ドワーフの採掘場は再び、静かな眠りについたのだった。