つづる想いを言葉に記して

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月17日〜05月22日

リプレイ公開日:2005年05月28日

●オープニング

 ひとりの青年が冒険者ギルドに訪れた。
 少しくたびれたローブを身にまとい、つばの広い帽子を深く被っている見るからに怪しい風貌を漂わせている。
 落ち着かない様子で辺りを見回しながら、彼は囁くように話しかけてきた。
「もし‥‥ひとつお願いしたいことがあるんですが‥‥」
「何かご依頼ですか?」
「ええ、はい‥‥わたくし‥‥こうみえても詩人でありまして‥‥それで、少々冒険者のみなさまにお力を頂きたいと思いまして‥‥」
 どこか遠慮がちなくぐもった口調の彼は、なかなか本題に切り出そうとしない。
 辛抱強くギルド員は質問を続け、何とかして依頼の一通りの内容を聞き出すことが出来た。
「ええとお名前は‥‥ラーク、さんでよろしいですね? 冒険譚(ぼうけんたん)を書き残したいとのことですが‥‥冒険者から体験談を聞く、というものでよろしいのでしょうか」
「ええはい‥‥あの、出来ればですよ‥‥物語にして面白い内容でお願いしたいのです」
 さすがにそればかりは保障出来ない、とギルド員は肩をすくめた。
「全ての依頼はひとつの物語であり、聞く価値のあるものかと思われます。が、物語の受け取り方は人それぞれです‥‥ですので、こちらからは絶対の保障は致し兼ねます」
 ひとくちに冒険者といっても多種多様であり、彼らの数だけ冒険譚が存在しているといっても過言ではない。
 物語というのは、結局は聞く側の好み次第なのだ。
 どんなに面白そうな内容だとしても、その人の琴線に触れなければ、全くつまらないものになってしまうのだから。
「その冒険譚はどういった目的でお使いになられるつもりでしょうか? それが分かれば、お望みのものと出会いやすくなると思います」
「‥‥それは‥‥あの‥‥」
 視線をそらしつつ、彼は申し訳なさそうに言葉を続ける。
「ごひいきにしていただいている奥様が、新しい話をご所望でして‥‥わたくしめの話はつまらぬと飽きられてしまい、ほとほと困っておるのです。奥様は足が悪く、外にあまり出られぬため‥‥お話を聞くのが唯一の楽しみとされているのです‥‥」
「その方へお聞かせするお話を、ですか。どういった物がお好きかご存知ですか?」
「そうですね‥‥奥様は恋物語‥‥それも悲恋がどうもお好きのようです」
 冒険の中には数多くの出会いがある。
 色恋に繋がる出会いも無論あるだろう。
「分かりました。では冒険者を数人ほど紹介いたしますね」

●今回の参加者

 ea0504 フォン・クレイドル(34歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea4989 フレア・レミクリス(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5624 ユリア・フィーベル(30歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●不運な男の話
「ようこそ皆様いらっしゃいました。こんな雨の中の遠出はお疲れになられたことでしょう、まずはごゆるりとおくつろぎ下さい」
 一同が案内された先は小さな居間だった。
 暖炉と椅子が置かれただけの特に飾りのない簡素な部屋。暖炉で燃え盛る炎以外、部屋を照らすものはなく、薄暗い室内に浮かび上がる部屋は安堵と不安が入り交じったような錯覚を感じさせられた。
「‥‥それじゃ、まずはあたしから話そうかな」
 最初に切り出したのはフォン・クレイドル(ea0504)だった。
 両手足を伸ばし、すっかりとくつろいだ姿のまま、彼女は静かに語り始める。
「知り合いの話なんだけど、ちょっと前に森で遭難した女性を助ける依頼を引き受けたらしいんだ‥‥女好きの彼は喜んで助けにいたんだが、その助け出す女性ってのが厄介でね、とにかくわがままを言いたい放題。喉が渇いた、疲れた、休みたいとこと有ることに文句を言っていたんだそうだよ。まあ、美人は気位が高い奴が多いからな、そういう奴に当たっちまったってことさ」
 ここまでは良くある話だ。
 女性がどれほど美人だったのか、詩人は問いかけるも、フォンは「聞いた話だから姿までは分からない」と一蹴する。
「最初は文句にうんざりしていた彼も、森の中の道中でだんだんと仲良くなってきて、次第にその女性に心を寄せるようになったらしいんだ。依頼が終わった後、思い切って彼はその女性の家に遊びにいって、見事に散ってきたそうだよ」
「‥‥ふむ。詩では大抵そこで結ばれる物ですけどね‥‥」
 ぽつりとケンイチ・ヤマモト(ea0760)が呟く。
 そうそう世の中は都合よく出来てない、とフォンは苦笑いをしながら言葉を返した。
「快く迎えてもらったまでは良かったけどな。家に入った彼を迎えたのは、彼女の恋人だったそうだよ。もともと女運の悪い奴だったから、森の中だけでも仲良くなれたことを有り難く思うべきだね」
「その後、彼はどうなされたのですか?」
 ユリア・フィーベル(ea5624)が心配げに問いかける。
「ああ、今は‥‥ドレスタットへ行っているそうだよ。傷心の旅なのかどうかまでは‥‥本人のみぞ知るってことだろうけどね」
 女性運のない彼のことだ、おそらく海の向こうでも女性問題で日々悩んでいるのかもしれない。
 その辺りも含めて、面白おかしく書けば夫人も喜んでくれるだろう、と詩人はいそいそと暖炉の火を頼りにペンを走らせ始めた。

●愛する者達の業
「では、次は私ですね」
 そう言ってケンイチは竪琴をかき鳴らした。
 澄んだ琴の音色と共に紡がれる詩は優しい詩。緑豊かな地に育まれる新しい命と懐かしい再会を喜び祝福する。
 詩の中に織り交ぜられた優しい言葉に、聞いている者達の心が温かくなっていく。
 詩人もその手を休めて、じっと彼の詩に聞きほれていた。
「‥‥かくして2人は再会を誓い、彼女を乗せた馬車は村を離れていくのでした‥‥如何でしたでしょうか」
「良い話ですね」
 素直な感想をシン・バルナック(ea1450)は述べる。
「2人の幸せが永遠に続くことを祈りたいものです」
 どこか遠くを眺めるようにシンは目を細める。
「恐らくその願いはかなうことでしょう。2人の気持ちが消えうせない限り、誰も彼らを妨げることはありません」
 ケンイチの言葉にシンは一瞬だけ表情を曇らせた。
 それに気付いたエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が不思議そうに問いかける。
「どうしたの?」
「‥‥いえ、何でもありません。少し、うらやましかったので‥‥」
 そう言ってシンは静かに語り始めた。
 自分はかつて愛する者がいたが、不運にも失ってしまった。
 そして今も愛しい相手がいる‥‥だが彼女との間には大きな障害があり、世間で認められない恋なのだ、と。
「それでも私はかつての愛する者へ誓った言葉を糧に生きています。これが私の背負った業、忘れてはいけない過去なのですから」
「確かに、過去ってもんは忘れようとしてもいつまでも付いて回るものだが、それをいつまでも思うのは相手に失礼じゃないか?」
 フォンはじろりとシンを睨みつける。
 確かにもういない存在とはいえ、過去の女性関係を引きずっていては、不快に思うのが人間だ。
 シンが添い遂げる相手がどれほど出来た人間だとしても、いつかは大きな障害となりうるだろう。
「‥‥分かっています。だからこそ、忘れたくないのです。再び繰り返さぬように」
 静かだがはっきりとした口調でシンは言う。
 さすがにフォンもこれ以上は言葉が出ず、大きく息を吐いて再び座り込んだ。

●はじめての話
「ええと‥‥次は私がお話ししてもよろしいでしょうか」
 恋愛話でなくて、期待にこたえられないかもしれない、と言葉を添えて。
 フレア・レミクリス(ea4989)は話し始めた。
「私が初めて依頼をお受けした時のことをお話致します。その依頼は‥‥薬草を採ってくるというものでした。初めてなので失敗しては大変と、ちょっと緊張してましたが、一緒に手伝ってくださった方々のおかげで無事に任務を果たすことは出来たんです。でも、ずいぶんとご迷惑をおかけしたので、それ以来‥‥少し依頼をお休みしてたので、お手伝い頂いた方とはお会い出来ていません。噂では、この土地を離れて活躍されているそうなんです。だから、冒険を続けていればまた再びお会い出来そうな気はしています」
 出来ればまた会いたい、とフレアはわずかに微笑んだ。
 依頼中、助けてもらった礼を改めて言いたいし、失敗ばかりして迷惑をかけたことを謝りたいとも思っている。もし、相手が覚えていなくとも。
「誰でも最初は戸惑うものですし、失敗をするものです。それを繰り返さない心が大切なのだと思いますよ」
 優しくケンイチは言った。
 反省し、わびるのも人として大切だが、助けてもらった礼を告げた方が相手も嬉しいのではないか、と彼は言葉を続けた。
「そう、かもしれませんね‥‥今度会った時はお礼を言いたいと思います。色んなことをたくさん教えてもらい、今の私があるんですからね」
「ええ。きっとその御方もその方が喜ぶと思いますよ」

●兄妹という恋人達
「少し前ですが、お友達に紹介されて承った事件をお話しします」
 エヴァーグリーンは一息挟んだ後、ゆっくりと語り始めた。
 彼女の話してくれた内容は互いに思い合う兄妹の話だった。
 16歳という若さでこの世を去った妹。
 兄は毎日彼女の墓に花を捧げてその冥福を祈り、形見として妹が持っていた指輪を常にしていたのだという。
 腹違いの兄妹ということもあり、互いに恋仲だった2人は、死してなお共に居ようとし、ついに妹は霊となって兄に取り憑いた。
 彼女はその浄霊活動に携わり、全てではないが2人の想いに触れることとなった。
「‥‥戦っている時聞いてみたんです『お兄さんを助けてっていった人が、どうして今連れていこうとするの?』って。帰ってきた言葉は『帰りたい』でした。喜びも、悲しみも、嫉妬も‥‥何も知らなかった真っ白なあの時に、戻りたい‥‥そう言ってました」
 一度動き始めた馬車が簡単に止まらないように、走り始めた想いはどんどんつもり、いつしか想う気持ちが邪念となって形に変わっていったのだという。
「レイスとなった霊は負の感情が暴走し、善き方向に心を働かせるのは難しいと聞きます。私はそこまでの知識はありませんが、霊となった妹さんに会った時のあの悲しげな姿は忘れられないと想います」
 過去との決別を誓い、兄は妹に別れの言葉を告げる。
「そして、彼女は浄化されていきました。光の中で微笑んだあの笑顔は‥‥とても綺麗でした」
 その依頼から半年以上経つ今でも、エヴァーグリーンはあの時の笑顔を思い出せるのだという。
 全てを受け止め、自分と決別することで新しい道を進もうとする兄を観て、妹はどんな思いをしたのだろうか。
 少なくとも最期は邪念の気持ちなど無かったのだろうとエヴァーグリーンは言う。
「誰かを想う気持ちは時として、大きな力となることがあります。妹さんはたまたまそれが‥‥負の感情へといってしまったのでしょうね」
 じっと話を聞いていたシンがぽつりと呟いた。
「きっと、忘れて欲しくなかったんじゃないか? でも、最期の最期に開放されて、彼女も案外せいせいしてるかもしれんな」
「もう、フォンさんたらっ」
「冗談だよ。でも、それだけ‥‥愛されてたってことだろ。幸せものじゃないか」
 そう言って、フォンは薄く微笑みを返すのだった。
 
●種族の壁
 最後にユリアが話してくれた内容に、シンは驚きを隠せず言葉をもらした。
「その人の恋人は‥‥ハーフエルフ、だったんですか」
「はい」
 こくりと頷くユリア。
 その傍らにいたエヴァーグリーンがどうしたのか、とシンに問いかける。
「あ、いえ‥‥何でもありません。続きをどうぞ」
「‥‥その女性はノルマンの豪商の娘でした。当然、父親は忌みある血を持つ彼のことを快く思わず、2人を離れ離れにしようと追っ手を差し向けたそうです。彼はそれに抵抗せず‥‥大人しく捕まろうとしたのですが、彼女がそれを嫌がり‥‥差し向けられた刃から彼を守るように、彼女はその刃の犠牲者となったのです」
 その後、どうなったかは誰もが容易に想像出来るだろう。
 そう。狂化である。
 猛り狂うハーフエルフを止められるものはそうそうにいない。
 追っ手は全て殺され、彼自身も暴走した姿のまま、闇の中へと消えていったのだという。
「それから少しして、彼女の家は没落しました。当主である彼女の父親が謎の変死を遂げたのが原因だと聞いております」
「その犯人が誰なのか知るのは死体のみ。悲しい話、ですね‥‥」
 忌みある血が巻き起こした悲劇。
 世間では決して認められないからこそ燃える恋もあるが、その先に待っているのは大抵は悲しい結末だ。
「シンさん。これをお聞きして思うところがあるようにお見受け致しましたが‥‥聖なる母のご加護がありますよう、お祈り申し上げます」
「‥‥ありがとう」
 深くは追求せず、ただ祈りを捧げてくれるユリアに、シンは心から礼の言葉を告げた。
 
―――――――――――――

「有り難う‥‥皆さんの、おかげで素晴らしい詩ができそう、です‥‥」
 ただじっと彼らの言葉に耳を傾けているだけだったが、最後の別れ際にぽつりとラークは感謝の言葉を述べた。
「また‥‥話を聞かせて下さい‥‥今度は、こころ踊る冒険の話なんかを‥‥」
「はい。そのときは是非とも」
 
 そしてそれからしばらくの間。
 社交界の女性達の間でラークの詩が流行ったという。
 彼が語る物語は人々の心に様々な思いを与えたに違いない。