花園に隠された宝物
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜5lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月08日〜06月13日
リプレイ公開日:2005年06月19日
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●オープニング
それは壁に貼られた一枚の依頼書から始まった。
「ん? 何だこりゃ」
それに冒険者達は眉をしかめながら、依頼書の内容を読み始めた。
―――――――――――――
私を探してごらんなさい
私は森に咲く白き乙女 春の訪れを謡うもの
枯れ葉の頃には赤い実りを捧げましょう
小鳥達のさえずりの中 私の足下に眠るは黄金(こがね)の恵み
見つけ出したら あなたのもの
教会の鐘が打ち鳴らされるころ 私はお城の闇に包まれる
私から真っすぐ丘を上れば 雄々しき船が望めるでしょう
芳しき香りに誘われ 私を探してごらんなさい
私は森に実る甘い乙女
―――――――――――――
「‥‥宝探しってところか?」
「たぶん‥‥」
「だが、これだけじゃ何処から探していいのかすら分からないな」
あれこれと相談し合う冒険者達に、ギルド員がさりげなく声を掛けてきた。
「どうです? そのなぞなぞに挑戦してみる気はありませんか?」
「これだけじゃさっぱりですよ。何かヒントを教えてくださいよ」
「んー‥‥依頼人との約束がありますから、あまり詳しくは申せません‥‥そうですねぇ。依頼人はキャメロットの東に広い庭園をお持ちだそうですよ」
確かに、依頼書の最後に記されているサインはキャメロットの東にあるテトレー男爵夫人の名だ。
社交界に耳聡いものならば、彼女が最近園芸に凝っていることを聞いていることだろう。
人というのは自分の手元に物を隠すもの。
となれば、彼女が日頃手入れしている庭園辺りに隠してあるのだろうと推測出来る。
「でも個人の敷地には勝手に入れないんじゃないか?」
「ああ、そうだよな‥‥夫人に許可をもらうか、それとも何か理由を作るか‥‥」
「それならサロンに出てみては如何かな? 庭園のお披露目と称したサロンを開かれているそうだよ。庭園を見せてもらうついでに探索、というのなら問題はないだろうね」
通りかかった身なりの良い男性の発言に、冒険者達はなるほどと手を打つ。
「あの、でも‥‥俺達招待されそうにないんだけど‥‥」
「なに。私もこの詩が気になってね。君達の知恵を拝借したい。そのかわり、私はサロンへ君達を招待出来るよう取り計ろう‥‥悪い話ではないと思うぞ」
そう言って、彼はにやりと薄い笑みを浮かべるのだった。
●リプレイ本文
●探索開始
「本日はお招き頂き有り難うございます‥‥とても美しい庭園ですね」
着慣れない衣装のためか、少し緊張した面持ちでヒューイ・グランツ(ea9929)はそう告げた。
丁寧な挨拶に満足の笑みを浮かべ、夫人はゆっくりしていくようにとねぎらいの言葉を返す。
「あなた達は運が良いわ、丁度ラズベリーの実が美味しく実ったの。後で頂きましょう」
「はい、是非とも」
ふと、にぎやかな笑い声と歌がヒューイの耳に届いた。
彼女と同伴していたリューズ・ウォルフ(ea5382)と楽しげに話していたのはミオ・ストール(ea4327)だ。
茶を楽しみながら、詩の謎解きを互いに推理し合っている。
「やはり、詩の内容から察するに『私』はリンゴの樹木であると推測できますね」
「この時期に咲く白い花で、足元に何かが存在するという意味をくみ取れば‥‥樹木と考えるのが普通だね」
「リューズッ、ミオーッ! 何はなしてるのー?」
ティア・スペリオル(ea2733)がとてとてと駆け寄ってきたのに気付き、2人はさりげなく彼女のための場所を空けてやる。
その間にちょこんと座りこみ、ティアはひょいとお菓子を口に運ぶ。
「その様子ですと、何か面白い物を見つけられたようですね」
「うにゃっ。あの植木の向こうにお花畑があったよー。あとね、噴水の周りがキレイだよっ。森の中みたいになってるんだ」
「へぇ‥‥面白そうね。丁度庭を見て回ろうと思っていたところだし、行ってみよっか」
「ええ、そうしましょう」
●庭園散策
ザンガ・ダンガ(ea7228)が到着したころには、すでにサロンは始まっていた。
案内役の侍女につれられて庭へ訪れた彼を迎えたのは、芳しい花の香りと豊かな緑の景色だった。
「見事な庭園じゃな。自然の緑も素晴らしいが、人の手で整えられた緑も良いものじゃ‥‥」
色鮮やかな花畑を抜け、アーチ状の樹のトンネルをくぐると会場へと到着する。
のんびり夫人と会話をしていたシルヴィア・エインズワース(eb2479)が、ザンガに気付き、彼を手招いた。
「良い庭園じゃな。木々が生き生きとしておる」
「ありがとうございます、そう言って下さるとわたくしも嬉しいですわ」
にこりと微笑み、夫人は是非とも庭園内を散策していくようにと誘いかける。
「庭園の中でしたら、どうぞご自由にして頂いて構いませんわよ」
そう言って、夫人は含みのある笑顔を薄く浮かべる。
冒険者達の真の目的に気付いているのだろう。
もうすでに彼女との知恵比べは始まっているのだ。
「おや、来てたんですね。アーチの向こうは見て来られましたか? 見事なハーブ園になってますよ」
散策から戻ってきたヒューイの言葉に、ザンガも早速園内を見て回ることにした。
「他の者達も散歩に出掛けておるのか?」
「ここに居ないところを見ると、そのようですね。そういえば‥‥先程ティアさんが楽しそうに丘を上っていくのを見かけましたよ。面白い物でも見つけられたのでしょう」
「ふぅむ‥‥」
探検好きの彼のことだ。何か手がかりを見つけたのかもしれない。
「よし、我が輩もそこへ行くとしよう。案内してもらえるか?」
「ええ、構いませんよ。そうだ‥‥ご夫人。この園内にリンゴの樹はどの辺りに植えられておりますか?」
「‥‥一番見晴らしの良い丘の付近ですわ」
「‥‥有り難うございます」
「リンゴの樹がどうかしたのか?」
小首を傾げるザンガ。
説明しながら案内しますよ、とヒューイは苦笑いをしながらそう告げた。
●お宝探して掘りまくれっ
「掘って〜、掘って〜、う〜にゃうにゃ〜っと」
丘の上にぽつんと生えているリンゴの樹。
その根元をティアは鼻歌交じりに掘っていた。
傍らではミオが様子を眺めている。樹を傷つけないか、内心ちょっとドキドキしているが、彼女の心配も何処吹く風といった様子でティアは楽しげに掘り進めている。
「ふぅー‥‥ちょっとだけ、ひ〜と休みっ」
額の汗をぬぐい、ティアはちょこんとその場に腰を下ろす。
比較的涼しい気候のキャメロットだが、やはり日中ともなるとそこそこの暑さとなる。
自然豊かな庭園に流れる穏やかな風が、疲れた身体に心地よい爽快感を与えてくれる。
後は美味しいエールでも飲めれば、最高の時となるだろう。
「うーん、お宝はこの辺だと思うけど、ちょっとだけずれてるのかなぁ?」
「木々達もこの辺りの土をいじってる人がいたことに気付いているようですが‥‥さすがに詳しくは覚えていないようですね」
「この辺だけ土が軟らかいような気がしたから、ミオ達の考えは間違っちゃいないと思うよ。多分」
もう少し掘ったら一旦戻ろうと決め、ティアは再び穴掘り作業に取り掛かる。
しばらくして、ふとティアの手が止まった。
「‥‥何だろう、これ」
彼女が拾い上げたのは、分厚い布でくるまれた小さな箱だった。
中には砂の入った小瓶と‥‥2つの指輪が入れられている。
「お宝、かな?」
「‥‥まずはご夫人に報告した方が良さそうですわね」
指輪の内側をじっと眺め、ミオは静かに呟いた。
●詩に言葉を乗せて
好きなものの話題というのは、とかく尽きないものである。
話上手な上、草木のことにも知識のあるリューズとの会話は、夫人にとってこの上なく楽しい一時だったであろう。
季節の花のこと、各地の草木のこと‥‥伝説の中だけでしか存在しないような花のことも、夫人は興味深くリューズの話に魅入っていた。
「―‥‥その香りから、カモミールは大地のリンゴとも呼ばれているそうだよ」
「なるほど、面白いお話ね。言われてみれば、カモミールティーからもリンゴのような香りがしているような気がするわ」
「それでは、カモミールにちなんだ曲を‥‥」
リューズは持っていたリュートの弦を弾き、軽やかな曲を奏で始めた。
曲に合わせて、詩を紡ぎ上げる。
リューズの歌う優しい詩は庭園内に響き渡り、その場にいた人達の歩みを止めさせた。
ただ、冒険者達だけはその歌に聞き惚れる様子も無く、ただじっと詩を集中して聞いているようだった。
詩の中に織り交ぜられた力ある言葉にじっと耳を傾け、彼らは密やかに次の行動へと移り始めた。
●丘から望めるもの
丘に登ったヒューイは、まずぐるりと辺りを見回した。
「ふむ‥‥エチゴヤの煙りがあの辺りに立ち上っているとなると‥‥港はあの辺になりますね」
建物の影になって良く確認は出来ないが、僅かに帆船らしき姿を望むことが出来る。
「ここの辺りにある樹となると‥‥」
ぐるりと見回し、丘の頂上に近い樹を探す。あいにくとこの辺の樹木は殆どが花の季節を過ぎ、葉を茂らすのみであった。
持ち前の知識と勘で樹を特定させ、茂みを掻き分けて進んでいくと‥‥懸命に穴を掘るティアの姿を見つけることが出来た。
懸命に辺りを掘り返しているようだったが、不意にティアの手が止まる。
どうやら何かを見つけたようだ。
「宝の箱‥‥にしては随分と小さい物のようですね」
ふと、ヒューイの意識の中にリューズの声が聞こえてきた。
ティア達の動向への注意を逸らさず、流れてくる声にじっと耳を傾ける。
「‥‥なるほど。どうやらリューズさんの読みが当たったようですね」
音を立てないよう、静かにヒューイはその場を立ち去った。
●たからもの
日も暮れかけ、そろそろサロンも終わりに近づいてきた時のことだ。
庭の散策がてら辺りを探し回っていたシルヴィアを、ティアは元気な声で呼びかけた。
「うにゃっ! お宝見つけたよー!」
「‥‥何だと?」
だがティアの手にはそれらしき物は見当たらない。
一体どこにあるのか、と問うシルヴィアに、ティアはあっさりと依頼人である夫人に手渡したことを告げた。
「リューズがね、そうした方がいいっていったの。でも、これだけはもらっておいたよ!」
そう言って彼女が差し出したものは、小さな小壺だった。壺の蓋を取り、中を覗くと、星形の小さな砂が詰められているのが分かる。
「これはもらっても平気だって言ってたんだ。シルヴィアも欲しい?」
「いや‥‥それより、他の皆はどうした?」
「うにゃ? 夫人の所に戻ったよ?」
「そうか‥‥なら私達も戻るとしよう」
「はーい!」
とてとてと駆けて行くティア。その後ろをシルヴィアはゆったりとした足取りで追いかけた。
●仲直り
「これがその指輪ね」
「ふむ‥‥大した作りではないが良い石を使っているようじゃな」
婚約指輪、または愛する人へ贈る指輪には最適な代物だとザンガは言う。
「夫人に渡すのか?」
「ううん。もっとふさわしい人がいるのよ」
そう言ってリューズは1人の紳士の元へと駆けていった。
冒険者達をこのサロンに招待した彼である。
「はい、これ。探し物だよ」
驚きを隠せない様子で目を瞬かせている彼に、リューズはにこりと微笑みかける。
「指輪と一緒にスターサンドボトルが入っていたんだって‥‥彼女、きっと待ってるよ。行ってあげて」
箱ごと手渡された指輪をじっと見つめていた彼であったが、ゆっくりと顔をあげて穏やかに微笑んだ。
「‥‥感謝するよ」