子猫の里親探し
|
■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2005年06月26日
|
●オープニング
「こんちゃーっす。伝言持ってきましたー」
いつものように、冒険者ギルドへ訪れた彼は、ギルドの片隅に人が集まっているのに気がついた。
「ねえねえ、何してるの?」
ふわふわと飛んできたシフールの少年に、輪の中にいたひとりが返事をする。
「ほら、見てご覧。さっき裏手の通りで拾ってきたんだって」
「へー‥‥」
人だかりの中心にあったものは、小さなバスケットだった。
バスケットに詰められている布地の真ん中には、小さな子猫が数匹、仲良く寝ている。
生後1〜2ヶ月といったところだろうか。
何か夢でもみているのか、時折ちいさく鳴いたり、ぴくぴくと両足を震わせている。
「‥‥食べるの?」
「‥‥どこからそういう発想が来るんだ、お前は‥‥誰か育てられる人はいないかって、話してたところだよ」
「ふぅん‥‥でもさー、冒険者みたいにあちこち旅してる人は子供を育てるの大変だって聞くよ? 旅の最中は自分のご飯集めるだけでも精一杯じゃん」
お調子者のシフールとは思えない、珍しく冷静な発言に、一同は成程と感心する。
「そうだなぁ‥‥確かに、荷運びの馬の食料ですら大変な時もあるしなぁ」
それに、子供のうちは病気や怪我といった心配が多い。
今はまだ寝ている事が多いだろうが、少し動き出せるようになる頃は、特に目が離せなくなる。
「よし、街の人で誰か引き取ってもらえそうな人がいないか探してみよう。みんな、手伝ってもらえないか?」
●リプレイ本文
●お世話
「うわ、可愛い〜。ほら、あくびしてるよー」
「静かにしてあげて。今折角寝たところなんだから」
籠の中で昼寝中の子猫達を眺めて騒ぎ立てるアシュレー・ウォルサム(ea0244)に、フィアッセ・クリステラ(ea7174)は叱咤の声をあげる。
「それより里親探しの方は行かなくて良いの?」
「ああ、クレアが何かしてくれるみたいだから、それの報告待ちかな。無闇やたらに歩いて回っても仕方ないからね」
まだ何日か余裕もあるし、焦っては良い結果が得られない。
酒場や教会など、人が集まりそうな場所を時折見て回ってはいるし、何日かすれば候補者が見つかるだろう。
のんびりとそう答えながらアシュレーは子猫の背を優しく撫でてやる。
ころころと鳴き声をあげ、子猫は大きく伸びをひとつした。
「あ、伸びもするんだねー。こらこら、ケンカはよくないぞ〜?」
「アシュレー‥‥呑気にしてると、時はすぐ過ぎちゃうわよ?」
「大丈夫だって。ほら、早速来たようだよ」
一緒に里親探しを手伝っているクレア・クリストファ(ea0941)に連れられて、少年がひとりギルドへ訪れた。
辺りを物珍しそうに見回しながらも、彼は元気にこちらへ向かってきている。
「ねえ、ここで猫さんくれるって聞いたけど本当?」
「ああ本当だよ。その前に‥‥君に少し聞いておきたいことがあるんだ。いいかな?」
にこりと笑顔を見せながらアシュレーは優しく問いかけた。
●街での探索
キャメロットの街に軽やかな琴の音が響き渡る。
街ゆく人々はその足を止めて、カノン・レイウイング(ea6284)がつま弾き出す心地よい音楽に耳を傾けていた。
ふと、視線に気付きカノンはその手を止めた。
仲良く手を繋ぎ、カノンの前に姿を現したのは威吹神狩(ea0322)とアレス・バイブル(ea0323)の2人だ。
恥ずかしいのか、必死に離れようとする神狩の手をぎゅっと握りしめ、アレスはにこやかに告げた。
「お疲れさま。反応の方は如何ですか?」
「皆さん立ち止まってはくれるんだけれど、あまり興味ないみたい」
音楽に乗せて猫の里親候補にならないかと誘いかけてはいるものの、今のところ反応は薄いようだ。
たまたまそうなのかもしれない、まだ少し様子を見るべきだな、とアレスは残念そうな笑顔を浮かべる。
「里親探しは始まったばかりですし、ゆっくり探していきましょうか」
「‥‥あの‥‥アレス。ちょっとお願いが‥‥」
「どうかしましたか? 神狩さん」
「その‥‥手を‥‥」
「あ。ちょっと強く握りすぎましたか。離れては大変と思ってたのですが、この通りなら大丈夫ですね」
「そうじゃなくて‥‥手を繋がなくても、平気‥‥」
表情にこそ出していないものの、恥ずかしそうに神狩は呟く。
その気持ちを知ってか知らずか。
アレスはするりと腕に手を回して愛しげな笑顔を向ける。
「こっちの方が良いですね。さ、行きましょう」
「えっ‥‥ちょ‥‥‥」
仲良く立ち去る2人をぼんやりと眺め、ぽつりとカノンは呟いた。
「仲の良いお2人ね‥‥」
●小さないきもの
「子供は無邪気で可愛いわね。私もあの子を飼ってなければ‥‥候補にあがりたかったんだけれど」
胸に抱かれながら懸命に乳を飲む子猫の姿を見下ろし、クレアはそう言った。
「こんなに小さな身体なのに、一杯お乳を飲むんですね」
「この時期はかなりどん欲らしいよ。一杯飲んでどんどん成長してもらわないとね。ああ、そんな風に持っちゃだめだ。抱く側が不安がると、子猫もびっくりしてしまうよ」
緊張のあまり身体を強張らせる神狩の手から子猫を取り上げ、アシュレーはひざの上に乗せてやった。
指に巻き付けた布地を乳の入ったゴブレットに浸し、濡れたまま子猫の口元へ運んでやる。
身体を震わせていた子猫は乳の香りに気付くと、鼻をひくつかせて濡れた布地をくわえ込んだ。
「‥‥ごめん、なんだか‥‥壊しそうで‥‥怖い」
生まれてまだ間も無いため、まだしっかりと身体の造りが整っていない。
ともすれば握りつぶしてしまいそうな柔らかさとあまりの軽さに、神狩は臆病になっていたようだ。
「大丈夫ですよ。こうみえて赤子は強い生き物です。多少乱暴に扱う位で丁度良いんですよ」
「アレス。それはちょっと違う気がするよ」
クレアはびしりと手の甲でアレスの背を叩く。
冗談ですよ、と笑いながら答えるアレスだったが、神狩は困惑の表情を浮かべたままであった。
そんなやりとりをしていると、やはり目立つのか、通りがかりの冒険者達がのぞきこんでくる。
興味本位の彼らをあしらいながらも、里親探しに協力してもらえないか、問い尋ねていく。
「うーん‥‥そうだな。他の奴にも声をかけておくよ」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるよ」
「それにしても大変そうだな。あんなに小さいんだと、ずっと面倒をみておかないとだめなんじゃないか?」
「交代で見てるから大丈夫だよ‥‥それに、まだ母親からもらった耐性が残ってるようだ。自然というのは見事なものだね、自分ひとりでも生き抜けるよう、生まれた時から力をもらっている‥‥もっとも、それだけでは生きていけない世の中ではあるけれど」
小さな鳴き声をあげる子猫達を優しくなで、アシュレーはそう囁きながら目を細めた。
●飼い主選び
それから数日が経ち、子猫を引き取りたいと申し出る者達が何人か集まり始めていた。
希望者達にその意志を確認し、誰が飼い主にふさわしいかを冒険者達は討論する。
「さっきの男の子‥‥親が認めていないようね。ちょっと‥‥危ないと思う」
「そうですね、親に気に入られなければ、再び路頭に迷うはめになってしまいますこの子は外した方がよいですね‥‥あと、気になっていたんですが、このパン屋の娘さん。着飾って遊ばせるとかおっしゃってましたが、猫はそういうのを嫌うのではないでしょうか?」
「‥‥うーん。育て方にもよるぞ? まあ、あまり服を着せるなんていうのは聞いたことがないな」
お互いの知識と洞察力をより合わせて、候補者を絞り上げていく。
「よし、この人達でいいだろう。早速渡しに行こう」
「受け取りに来させた方がいいんじゃない?」
フィアッセの提案に全員が成程、と承諾する。
候補者の殆どがキャメロット内の住民だ。連れ回すよりは、取りに来てもらった方が安全だろう。
「あの‥‥子猫の様子が変なんですが‥‥」
カノンの言葉に全員がはっと息を飲む。
あわてて子猫の元へ駆け寄ると、その中の1匹が全身を震わせているのに気がついた。
「これは‥‥もしかして‥‥」
「アシュレー、分かるの?」
「多分なんとなくなんだけど、カノンさん、ぬるま湯と布を用意してもらえるかな。出来れば、布は柔らかいものを」
「は、はいっ‥‥!」
急いでカノンは服の切れ端とぬるま湯をはった桶を運んできた。
アシュレーは腹の張り具合を確認してから、ぬるま湯にひたした布で子猫の尻を突くようにふいてやる。
「多分、この子は排泄が上手く出来てなかったんだね。これでもう大丈夫」
「良かった‥‥死んじゃうかと思った‥‥」
「でもさ、こういうのって知ってないと分からないよね。里親さん達‥‥大丈夫かな」
急に不安になってきたのか、カノンは表情を曇らせた。
自分も猫を飼っているため、普段のしつけは分かるが、急な対応までは分からない。
中途半端な知識と愛情を振りまいては、逆に猫達を死に至らしめる恐れを招く。
せめてこの子達だけはそうなって欲しくない、そう祈りたい。
「その点は心配いりませんよ。皆で話し合ってふさわしい方を選んだではありませんか。きっと、この子達も幸せになれますよ」
あなたのところにいる猫のようにね、とアレスは穏やかな表情でカノンを見つめた。
「そうだね‥‥」
盛んにじゃれあう子猫達を眺め、カノンはふっと笑顔を浮かべた。
●猫のお名前
「そういえば、あなた方も猫を飼ってるんですよね」
子猫達を全員送り出した後、ふとカノンはアレスと神狩に告げた。
「ええ、とても可愛らしい子ですよ」
「名前なんていうんですか?」
「‥‥アレス。言わなくていいから‥‥ね‥‥」
「え。どうしてですか? 可愛い名前じゃないですか」
「‥‥いいから、言わないで‥‥それか‥‥名前変えて‥‥」
「どうかしたんですか?」
きょとんと小首を傾げるカノン。
「どうやらうちのもう1匹の天使が駄々をこねられてるようです」
「‥‥はあ」
よく分からずにいるカノンに、アレスは苦笑いで返事をするのだった。