子犬を乗せて

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月17日〜07月22日

リプレイ公開日:2005年07月27日

●オープニング

「まいったなー‥‥オイラにこれは無理な相談だよ」
 自分の背の高さもある籠に手をかけ、シフールの少年は大きく息を吐いた。
 籠の中にいる子犬の大きさはシフールの少年より一回り小さい程度。
 ようやく乳離れをしたため、里親である商人のもとへ届けるのが依頼のようだ。
 とはいえ、これほど大きな荷物‥‥とてもではないが1人で運べるものではない。
「それを何とかお願い出来ないかの。おまえさんの仕事は早くて丁寧だと聞いておる。そやつもおまえさんを気に入っているようだし、安心してお願い出来るんだがな」
 籠の中にいる子犬が不思議そうに小首を傾げる。
 てっきり遊んでもらえるのかと思ったのに、どうやらその様子もないので、ちょっと淋しげな様子だ。
「大体、こんな大きな荷物を運ぶなんてオイラ達の仕事じゃないって分かるだろ? そんなに心配なら自分で届けにいったらいいじゃないか」
 少年の言葉に男はあわてて手を振り否定した。
「そ、それは無理だ。俺は店の仕事があるし、この街から外になんて出たことないんだ。恐ろしくて行けたもんじゃないよ。ああそうだ、護衛をつけてもいいぞ。そいつらに籠を運んでもらったらどうだ?」
 彼はどうしてもシフールに運んでもらいたいらしい。
 と、いうのも送り先の屋敷に子供が誕生日を迎えるらしく「妖精が運んできたプレゼント」として子犬を送りたいのだそうだ。
 昔から伝えられている童話のひとつに、森に住む妖精が、子供達を喜ばせるために贈り物をするというものがある、と吟遊詩人が語っているのを、少年はふと思い出した。
 その話になぞらえて‥‥と考えてのことなのかもしれない。もっとも、シフールを森の妖精に見立てるなど、まさしく子供だましな話ではある。
 どうしてもという男の説得を断りきれず、少年は渋々承諾した。
 ならば、せめて同行者は選ばせて欲しい、と少年は冒険者ギルドへと向かった。
 
「‥‥つまり俺達に荷物運びをしろ、というのか?」
 少年から説明を受け、冒険者達は不満の声をあげる。
 単なる荷運びなら、わざわざ安くない金を払って冒険者を雇う必要があることもないだろう、と言う者もいた。
「そりゃあオイラが運べるものだったら、わざわざ頼んだりしないよ。非力なシフールに子犬を運べっていうのかい? それに‥‥あながちあんた達にも悪い話じゃないんだな」
「‥‥どういう意味だ?」
「この荷を運ぶ途中の街道に、時々盗賊が現れるって噂があるんだ。そいつらを捕まえてやれば、あんたらの名もあがる。どうだい、協力してもらえるかい?」
「‥‥とりあえず荷の確認をさせてもらえるか? 話はそれからだ」

●今回の参加者

 ea2733 ティア・スペリオル(28歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 eb2200 トリスティア・リム・ライオネス(23歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2481 リラネージュ・ヴァルキュリア(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb2638 シャー・クレー(40歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2808 ヴェイル・フォルト(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●情けない襲撃者
 街道沿いに森を抜け、山あいを進んでいくと小さな小川に出る。
 近くに住むきこりですらその場所を知らないのか、小川の周辺は人の気配が全くと言っていいほど無い。
「ここなら安心して休めるんじゃない?」
 トリスティア・リム・ライオネス(eb2200)の提案に冒険者達は賛同し、この小川付近でしばしの休息をすることにした。
「よし、ちょっと散歩にいこうか」
 ヴェイル・フォルト(eb2808)は籠の中の子犬をそっと抱き上げる。
 毛布にくるまれうたた寝をしていた子犬はひとつ大きくあくびをして、ヴェイルを不思議そうに見つめた。
「あー、僕も一緒にいくーっ」
 野営の準備をしていたティア・スペリオル(ea2733)がヴェイルと子犬の後を追う。
「綺麗な水ですね‥‥少し汲んでいきましょうか」
 さらさらと流れる小川に、リラネージュ・ヴァルキュリア(eb2481)はそっと手を入れ水を汲み上げた。
 清涼な水を喉を冷たく潤してくれる。
「この辺りは‥‥随分と静かだ」
 アザート・イヲ・マズナ(eb2628)がぽつりとそう呟いた。
 そういえば、と冒険者達は辺りを見回す。人の気配がしないのはともかくとして、鳥の鳴き声もあまりしない。
「夕方だからじゃない? 鳥の声が聞こえないのは淋しいけど」
 気に病むことはないだろうとトリスティアは告げる。
「大丈夫ですよ、恐らく昼間の鳥は寝床につき、夜の虫達の目覚めがまだなだけなのでしょう。もう少しすればいつもの夜が訪れるはずです」
 空はだんだんと薄暗くなってきている。今夜はここで一休みしていくのがいいだろう。
 小川を背にしていれば、囲まれることはない。完全に安心出来るというわけではないが、山道で休むよりはずっとましだ。
「この調子なら明日の昼には到着できそうね。それより、お腹がすいたわ。何か作って頂戴」
「分かったじゃん。ちょっくら待ってるじゃん」
 いそいそとバックパックから剣を取り出すシャー・クレー(eb2638)をトリスティアは白い目でじろりと睨みつける。
「‥‥何やってるのよ」
「ご、ご飯といえば肉じゃん! 干し肉もわるくないけど、新鮮な肉が一番良いじゃん!」
「‥‥それを私に食べさせようっていうの?」
「お、お嬢が嫌というなら、やめておくじゃん‥‥」
 睨みつけられ、シャーはいじけたように肩をすくめる。
 程なくして散歩に出掛けていたヴェイルとティアが戻ってきた。
 だが、少し様子がおかしい。ヴェイルは胸に抱いていた子犬をそそくさと籠の中に戻し、ティアは厳しい表情で森を見つめている。
「どうかしました?」
「誰かに付けられているような感じがして‥‥もしかしたら例の盗賊達が近くに来ているのかもしれないな」
「‥‥なるほど。その予感、あながち外れていない‥‥ね!」
 イヲは足元にあった木の枝を拾い上げ、近くの木に投げつけた。
「ぎゃっ!」
「‥‥あたった‥‥」
「何感心してんのよ」
「いや、避けると思ったから‥‥」
 緊張感のない会話をしつつも、冒険者達は声のした方へ意識を集中させた。
 木陰から人相の悪そうな男が3人ほど姿を現した。そのうちの1人は目頭を押さえて、憎々しげに睨みつけてきている。
「貴様ぁ‥‥! 良くもやってくれたなっ!」
「‥‥あの程度の枝、避けて欲しかった‥‥」
「所詮は雑魚というものよ‥‥」
「き、貴様らっ! 俺達を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる!」
 逆上したのか、男達は一斉に冒険者達に襲いかかってきた。
「街道を荒らす賊徒よ、私達が退治して差し上げます!」
 敵の攻撃を避けつつ、リラネージュが刀で切り倒す。
 リラネージュの一撃に怯んだところに、猪突猛進に駆けてきたシャーが強烈な一打を浴びせた。
「お嬢! 危ないから下がっておくじゃん!」
「それじゃ、任せたわよ。頑張ってね」
「任せるじゃん!」
 意気揚々と男達に襲いかかるシャー。もはやどっちが襲撃者か分からない状態だ。
「僕も手伝うよっ!」
 ティアはひらりと木によじ登り、得意のスリングで男達に石を投げつけた。
 的確な射撃で投げられた石は男の額を打ち付けた。あまりの痛さに男は悲鳴をあげてその場にうずくまる。
「ちょっと、やりすぎたかなー‥‥」
「あの連中が弱いだけだろ」
「悪い奴らに容赦はしないじゃん、罰としてその服は俺がもらうじゃん!」
 うずくまっているのをいいことに、シャーはいそいそと男の衣服をはぎとっていく。
 とても敵わないと悟り、残りの2人は彼を置いて森の中へと逃げ帰っていった。
「ふぅ、あっさり終わったようね」
「ま、あれだけやられればな‥‥」
 哀れむような視線でヴェイルはひとつ息を吐き出す。
「それより食事にしましょう。今夜はゆっくりと過ごせそうですからね」
 焚火の前に座り、リラネージュはにこりと微笑んだ。
 
●前夜
 小川を越えてしばらくは特に大きな混乱もなく、一行は無事に進んでいくことができた。
 籠の中の子犬も、時折散歩に出させてもらっているためか疲れている様子もなく、元気にミルクを飲んでいる。
「可愛いですね。こうしている姿を見ると心が和みます」
 毛布につつまれ、懸命にミルクを飲む姿を眺めて、リラネージュは優しい笑顔を浮かべる。
「これだけ元気なら疲れもたまってないな。山道をずっと籠の中で過ごさせるのは少し不安だったが、下りは一気にいけそうだな」
 山道もほぼ半分を過ぎている。あとは少し急な坂を下り、目的地である館に向かうだけ。
「あーあ、終わったらお別れか。ちょっと淋しいな‥‥」
 籠の檻越しに子犬の頭を撫でてやりながらしょんぼりと言葉をもらしたティアの頭を、ヴェイルがなだめるように撫でてやる。
「あまり淋しそうにするとこいつも心配するぞ。それより、俺達にはまだやるべきことがあるんじゃないか?」
「そうね、最後の仕上げが待ってるわよ。森の妖精の‥‥手伝いするんでしょ?」
「う、うん。そうだねっ。よーし、今のうちに練習しておこっと」
 すくりと立ち上がり、ティアは自分の荷物を楽しげに漁り始める。
「‥‥楽しそうにしちゃって。別れる時、辛いだけなのに‥‥」
 僅かにトリスティアの表情が曇る。
「お、お嬢! お腹がいたいんじゃねーのか? それとも、足がいたいのか?」
「あ、ん、た、は‥‥今日の野営の準備でもしてなさいっ! 今日担当でしょーが!」
「わっわかったじゃん!」
 シャーはきびすを返して、わたわたと馬の背にあるテントを下ろし始める。
「まったく‥‥油断も隙もあったもんじゃないわ」
「お供の方が心配性ですと大変ですわね」
「心配性なんかじゃないわよ。あれは単にかまって欲しいだけ。私に惚れてるのは構わないけど、つきまとわれるのは勘弁して欲しいわ」
 口ではそう言うトリスティアであったが、そう嫌っている程でもないだろう。もし、本当に嫌いならば共に旅をするなど許しはしないのだから。
「それでは今夜の見張りは宜しくお願いいたしますね」
「分かったわ。ゆっくり休んで頂戴ね」
 軽く片目をつむり、楽しげにトリスティアはそう言った。

●妖精の贈り物
 コンコン‥‥
「はぁい。どなたですかー?」
 かちゃりと木の扉を開き、少女は元気な声をあげた。
「わぁ、もしかしてあなたたちは、もりのゆうしゃさま?」
「いや‥‥勇者じゃ‥‥」
 言いかけたイヲの口をティアがふさぐ。満面の笑みを浮かべながら、ティアはにこやかに少女に告げた。
「僕達は森の妖精を守る冒険者! 今日はね、とってもステキなプレゼントを持ってきたんだよ!」
 奥に控えていたヴェイルが前に歩みより、マントがかけられた籠を差し出した。
 籠の上にちょこんと座るシフールの姿に、少女は思わず眼を丸くさせた。
「わぁ‥‥ようせいさんだぁ。えほんのおはなしはほんとうだったんだーっ」
 掛け声とともに、少年はするりとマントをはがす。
 両目を瞬かせて籠の中の子犬を見つめる少女。ワン、と元気な鳴き声に思わずびくりと反応した。
「か‥‥かーわいいーっ。これリサにくれるの?」
「うん、そうだよ。大切にしてあげてね」
「わーい! ありがとうようせいさん!」
 早速子犬を籠から出してやり、大事そうに抱き上げた。
 子犬はぺろぺろと少女の顔をなめ、嬉しそうに大きく尾を振る。
「おや、早速‥‥遊んで欲しいようだぞ」
「よーし、それじゃリサといっしょにおさんぽにいこっ! ようせいさん、ぼうけんしゃのおにいちゃんおねえちゃんありがとう!」
 子犬を庭に放ち、後を追う少女。
 冒険者達は駆ける2人の姿を穏やかに見つめていた。