御使いの天罰
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月04日〜08月09日
リプレイ公開日:2005年08月15日
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●オープニング
「知ってる‥‥? 教会の裏に出る‥‥あの話‥‥」
街の子供達から始まったこの噂は瞬く間に街の人々に伝わっていた。
噂は人に伝わる度に大きくなるもの。
最初は単に白い影のようなものが見えるだけ、と噂されていたのだが。
気付けば噂は根も葉もない内容へと変貌を遂げているのだった。
「ねえねえ、知ってる? 教会の裏で聖なる母の姿を見ることが出来るんだって!」
「嘘だぁ‥‥神様がそんな簡単にお姿を見せるわけないじゃない」
「でも鍛冶屋のおじさんから聞いたよ? ほら、最近‥‥貴族様が何かやってるって噂あるじゃない‥‥きっとそのことで見に来たんだよ」
街角で娘達が噂をしている丁度その時。近くを通りすがったクレリックは彼女らの話を聞き、その場に足を止めた。
「ふむ‥‥使えるやもしれんな」
それから数日後。
クレリックは冒険者ギルドへと訪れていた。
無論、その目的は冒険者を雇うこと。
だが彼の話を聞き、ギルド員は眉をひそめた。
「‥‥そんなことやって大丈夫なんですか?」
「聖なる母の広きお心ならば、多少の演技も許して下さることでしょう」
にこやかな笑顔を浮かべるクレリックに、ギルド員は渋々と依頼書に内容を記していった。
「教会の側でイタズラをする子供達をこらしめてほしい‥‥天罰とみせかけるために、聖なる母の御使いの者達の姿を扮して‥‥と。えーと、これだけですと冒険者達も混乱すると思いますし、もしよければ依頼を願う理由をお聞かせ頂けますか?」
「ええ、もちろん。構いませんとも」
そしてクレリックはゆっくりと語り出す。
それはまるでおとぎ話を子供に聞かせるような口調であった。
教会の傍に鳥を飼っている小屋があるのです。
一応鍵はかけてあるのですが、どなたでも私に言えば入れるようにしております。
何故鳥を飼っているか‥‥ですか? ええ、それはもちろん鳥の卵を頂くためです。
卵は貴重な食料ですからね。
ですが、最近困ったことに、近所の子供達がいたずらに鳥達をいじめて、卵を持ち去っていってしまっているようなので。
私がしかったところで、全く反省の色をみせません。
何とかして、彼らに悪い行いだということを教えてやり、反省させてやりたいのです。
街の噂で、何やら聖なる母の面影を教会の裏で見ることが出来るのだとか。
聖なる母その方がおられるというのは‥‥さすがの私も疑いたくなりますので、母の御使いとして少年達を導いて頂きたいのです。
えっ‥‥その噂を信じているか、ですか?
‥‥そうですね、もしそうならばとても嬉しいことです。
聖なる母が私達を見守って下さっているという証拠なのですから。
一通りの話を聞き終え、ギルド員は大きく息をはく。
最後の項目を書き終えた後、確認するかのように問いかけた。
「その御使いの姿か何か分かりますか? 形のないものは、変装が得意な者でも化けることは出来ませんよ」
「そうですね‥‥教会の壁にある絵のお姿がよろしいでしょう。いつも礼拝で見ているはずですから」
実際に衣装や変装で必要となる道具は自前で用意してもらいたいようだ。
さすがにそこまでは、教会にあるものでは対応出来ないのだろう。
「まあ、少し脅かす程度で良いかな‥‥ああ、決して彼らや鳥達を傷つけないようお願いできますか? 彼らも聖なる母の子供達。未来ある生なのですからね」
●リプレイ本文
●御使い降臨のための打ち合わせ
「ふーむ、なるほど‥‥これなら簡単に作れそうですね‥‥」
聖堂の壁に描かれた大きな肖像画を眺め、とれすいくす虎真(ea1322)は満足げに頷いた。
「どうです? 2〜3日で作れそうですか?」
傍らにいたノルン・カペル(ea9644)の問いかけに、とれいすいくすは「そうだね」と返事をする。
「時間も勿体ないですし、明日中には作ってしまいましょうか。材料さえ揃えばすぐ作れると思いますよ」
早速とばかりにとれいすいくすは材料調達へと向かう。
ひとり残ったノルンはじっと肖像画を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「大いなる父と聖なる母の御名において、私達の善行をどうぞお導き下さい‥‥」
その頃。子供達を脅かす役を引き受けることになったトール・ウッド(ea1919)と、その退治役である夜十字信人(ea3094)が演技の打ち合わせをしていた。
レジエル・グラープソン(ea2731)が調査した情報を元に、演技指導を受けながら互いのタイミングを確認する。
地味な作業ではあるが、手を抜くとすぐに化けの皮がはがれてしまう。
演技は一朝一夕で身に付くものではない。日にちもないことだし、とりあえず子供だまし程度ならなんとかなる‥‥だろう。
「んー。やはりここで啖呵(たんか)を切るのが良いでしょうか?」
「タン‥‥カ?」
「ああ、ケンカでの決め台詞ですよ。ジャパンの文化の花形みたいなものです」
そう言って信人は威勢の良い台詞をまくし立てた。言葉の意味は良く分からなかったが、端切れの良い言葉回しにトールは感心そうに頷く。
「騎士の宣誓みたいなモノか。なかなかに面白いものだな」
「問題はイギリス語でどういうか、良く分からないところなんですけどね」
「はは、確かにそうかもしれないな」
互いに言葉を理解出来ていたとしても、その言葉の裏にある文化までは理解出来る者は少ないだろう。
異文化に触れた時、ふと言葉の壁を感じる時がある。
「でも、まあ何とかなるでしょう」
「そうだな。それよりいい加減腹が減った。飯でも食べに戻るとするか」
「そうですね。また明日、打ち合わせするとしましょう」
●衣装の準備
「こんな感じでどうでしょうか?」
真っ白な衣装を身にまとったルーティ・フィルファニア(ea0340)はくるりと裾をひるがえさせた。
胸には十字のネックレス、薄い布地で目を覆うように巻いている。肖像画の右端にいた審判の御使いを真似ているのだと彼女は言った。
「なかなか似合ってますね。動き辛いところはありませんか?」
「大丈夫です。ちょっとだけ‥‥胸のあたりがきついので、緩めてもらえますか?」
苦笑いをしながら、ルーティはほんの少しだけ胸元の布を引っ張りあげる。
「私もこれだとぶかぶかだよー」
自作らしき天使の翼を背負ったティズ・ティン(ea7694)はだぶついた裾をたくしあげながら呟いた。
「まあ、いいや。自分でなおそっと」
いそいそと裁縫セットを片手に服を縫い始めるティズ。その手際は手慣れているだけあって、巧みだ。
「確か‥‥子供達はいつも礼拝の後に来るんだっけ。僕も礼拝に出るんで、彼らが来ているか礼拝中に確認しておくよ」
マクシミリアン・リーマス(eb0311)はちらりと外を眺めながら言った。
さすがに夜の聖堂は人気が無く静かだ。鳥達も眠りについているのか、辺りはしんと静まり返っている。
「礼拝は明後日だよな。それまでにやれるだけのことはやっておくか」
トールの言葉に頷きながら、レジエルはもう少しだけ辺りの調査を進めておくと告げた。
「‥‥少し気になることがありまして、そちらを少し調べておこうかと思います」
「ああ‥‥例の噂のことでしたっけ。この手の噂は調べるのが難しいですが‥‥」
「出来る限りの範囲で済ませておきますよ。それより、依頼を遂行する方が大切ですからね」
穏やかな表情を浮かべ、レジエルはそう言った。
●御使い降臨
礼拝当日。
厳かに礼拝が始まる中、冒険者達は鳥小屋前で最後の打ち合わせをしていた。
「子供達は礼拝の途中で出てくるでしょうね。この間の礼拝の時も、彼らはこっそりと抜け出してきていたようです」
レジエルは更に子供達の衣服や特徴の説明をする。
「成程な。それなら早いところ隠れていた方がいいだろう。長い説教に飽きる前に出てくるだろうからな」
トールがそう告げたのもつかの間のことだ。
聖堂の方から元気な子供達の声が聞こえてきた。
冒険者達は素早く近くの物陰に身を隠し、様子をうかがった。
子供達はからかい程度に戯れながら、鳥小屋へと向かってきた。子供の気配を感じ、暴れ出す鳥達の姿に一番背の高い子がにやにやと笑顔をもらす。
「みてみろよー。こいつら変な踊りをしてるぜー」
「あー、ほんとだー。生意気ー」
鳥小屋の戸に手をかけようとした瞬間。わざとらしい足音を立てて、トールが彼らの元へ歩み寄った。
「ほう‥‥こんなところに小生意気そうなガキがいるなぁ‥‥悪魔の生けにえにでもしてやろうか‥‥くっくっく‥‥」
「だっ、誰!?」
覆面と鎧で身を包んだ見知らぬ男に、子供達は警戒してひとりの子に寄り添い集まる。
恐らくリーダー格なのだろう、一番背の高い少年はぎっとトールを睨みつけ、近寄るなと叫び声をあげた。
「威勢がいいな少年。だが、それでは俺を退けることは出来んぞ」
じりじりと歩み寄るトール。
彼は手に持っていた刀を振り上げ、子供達に向かって振り下ろした。
キィン‥‥!
硬い金属音が響き渡る。
思わずつむっていた目を開くと‥‥少年の前に異国風の冒険者―信人―の姿があった。
「大丈夫か!」
「え‥‥う、うん‥‥。おじさんは‥‥」
「俺のことはどうでもいい。それより早く逃げろ‥‥こいつは何人も斬ってきた恐ろしい男だ!」
信人は剣を構え直し、トールに斬りかかった。
「父と母と祖父の仇(かたき)! 覚悟しろ!」
「ふん‥‥暗黒面がそれしきの技で倒せると思ったか!」
面の下でにやりと笑みをもらし、斬りかかる剣をあっさりとはじき飛ばすトール。
かなり大げさに信人はその場に崩れ、よろよろと立ち上がりながらトールを睨みつける。
「く‥‥くそっ‥‥」
「クックック‥‥お前はこのガキどもの後でゆっくりと調理してやる。さぁ、ガキども暗黒面の恐ろしさを知るがいい」
一番後ろに隠れていた少女が思わず泣き始めてしまった。
連鎖的に子供達の表情におびえの色が見え始め、リーダー各の子も不安げな表情を浮かべながら数歩後ろへ下がりはじめた。
「お待ちなさい」
凛とした声が響いた。
はっと聖堂の方へ目を向けると、白い衣装に身を包んだ男女が佇んでいた。
「なんだおまえ達は」
「邪悪なるものよ。聖なる御名において命じます。聖なる母に守られし子らに手出しをしてはなりません」
「そいつはおかしな話だ。こいつらは鳥の卵を盗みにきた、言わば暗黒面にふさわしいガキどもだ。おまえ達がどうこういう相手じゃないぞ」
「子らは等しく、大いなる父と聖なる母に守られし者。邪悪なる者よ、犯した罪を悔い改め果てなさい」
赤い瞳の女性が力ある言葉を低く呟きながら、ゆっくりとその手を仮面の男の方へ向ける。
黒い玉が打ち出され、彼は大きく後ろにはじき飛ばされた。
「ぐふっ‥‥! ば、バカな‥‥! これが聖母の力ということか‥‥!」
男は苦しそうに身もだえ、ぱたりとその場に倒れ込んだ。
呆然とする子供達に、背に翼をもった少女がふわりと近寄った。
「その鳥さんは、聖なる母の御使いだからいじめちゃだめだよ! でないと‥‥あのおじさんみたいになっちゃうんだからね!」
「ご、ごめんなさい‥‥」
「よしよし、良い子♪」
体格的にはむしろ少女の方が小さいため、この頭を撫でる姿は少しこっけいじみていたが、その風貌と威厳さに子供達の目はすっかり尊敬の眼差しへと変わっていた。
奥に控えていた目隠し姿の女性が静かに告げる。
「“真理を見据える瞳”には、俗世を映す目など必要では無いのです。この目が映すのは、人の真実の心。悪しき行いを重ねるほど、あなた方の心は濁っていく。私は視てきました。そして同時に、聖なる母の悲しみが伝わってきます。そして、救わなくては、と。そのために私達がここにいるのです。」
「分かったよ‥‥もうこいつらをいじめない。卵もとらない。そう約束する」
「‥‥あなた方に聖なる母の優しきお導きがあることを祈りましょう‥‥」
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「どうやらしっかりと反省したようですね」
あの日以来、子供達が鳥小屋を荒らすことはなくなった。
その報告をレジエルから聞きつけ、一同はほっと胸をなで下ろした。
「それにしても完全に台詞が棒読みでしたねぇ」
からからと笑いながらとれすいくすは言う。
「仕方ないだろ、役者じゃないんだしよ‥‥」
「でも、様になってましたよ。ちっちゃい子なんか泣いてましたからねぇ」
「私も御使い似合ってたでしょ?」
「ええ、可愛かったですよ」
「やっぱり私って御使い姿が良く似合うよねっ。でも‥‥お姫様とかなら素敵な騎士様と結ばれるし、そっちの方がいいかなぁ‥‥」
うっとりと妄想するティズ。
それを他所に、冒険者達は報告のためにギルドへ向かっていこうとしていた。
「さっさとしないと置いてくぞー」
「ああん、まってーっ」
大切な衣装をバックパックに詰め込み、ティズは仲間達の後を追った。